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  • 貸付金

貸付けに当たって十分な審査及び確認が行われないまま、事業の実態がない者に資金が貸し付けられていたもの


(355) 貸付けに当たって十分な審査及び確認が行われないまま、事業の実態がない者に資金が貸し付けられていたもの

科目 貸出金
部局等 株式会社商工組合中央金庫上野支店
貸付けの根拠 株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号)
貸付金の種類 運転資金
貸付けの内容 通信サービスへの加入を促進する事業を行うための事務所関連経費、広告宣伝・販売促進費等の支払に必要な資金の貸付け
貸付先 通信サービスへの加入を促進する事業を行うとする会社
貸付年月 平成22年9月(期間7年)
貸付金額 25,000,000円(平成22年度)
不当貸付金額 25,000,000円(平成22年度)

1 貸付金の概要

 株式会社商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)は、株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号)に基づき、中小企業者等を対象として、事業資金を貸し付けている。
 商工中金は、貸出規程(平成20年10月1日商工中金制定)及びこれを受けて定めた審査の手順書等(以下、これらを合わせて「貸出規程等」という。)により、貸付けに当たっては、借入申込者の事業内容、資金の使途、償還計画、資産状態等について審査すること、特に新規の取引先に対する貸付けに当たっては、取引先に関する実態確認を行って経営者の信用性、事業のビジネスモデルの妥当性、事業活動の状況等を確認するとともに、資金の使途及びそれに応じた償還財源等の確認を行うこととなっている。そして、担当者等による確認結果については、支店長を始めとする上司が確認し、原則として支店長が貸付けの可否を判断することとなっている。
 商工中金上野支店は、平成22年9月に、データ通信サービスへの加入を促進する事業(以下「新規事業」という。)を行うとする会社(以下「借受者」という。)に対して、新規事業を開始するに当たっての事務所関連経費、広告宣伝・販売促進のためのダイレクトメール発送費等の先行費用に充てるための運転資金として、25,000,000円(年利率2.1%、貸付期間7年)を貸し付けていた。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、合規性等の観点から、本件貸付けに当たっての審査及び確認が適切に行われていたかなどに着眼して、同支店及び商工中金本店において、貸付けに係る関係書類により会計実地検査を行った。

(2) 検査の結果

 本件貸付けは、貸付け後、22年10月から23年5月までは約定に従って返済が行われたが、6月に短期の延滞が発生し、7月以降は返済が行われなくなった。その後、借受者とは連絡が取れない状態となり、同支店は、同年12月に借受者に対して元金の残額22,300,000円全額の繰上償還等の請求を行ったが、借受者からは全く返済が行われない状況となっていた。
 そこで、本件貸付けに当たって行われた審査及び確認について検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

ア 経営者の信用性の確認

 借受者は、借入申込みに際して、新規事業とは別に従来行っているとする事業(以下「既存事業」という。)のための資金についても貸付けを打診したが、同支店とのやり取りの後に打診を撤回していた。これは、既に他の金融機関から貸付けを受けていた事実を隠匿して虚偽の資料を提出するなどして二重に貸付けを受けようとしたものであり、経営者の信用を疑わせる事態であると認められるのに、同支店は、この事態を経営者の信用を著しく低下させるものではないとしていた。

イ 事業の実態確認及び償還財源の確認

(ア) 借受者は、新規事業はデータ通信サービスを提供している他の事業者(以下「委託者」という。)から委託を受けて当該サービスへの加入を促進する事業であると説明しており、新規事業は借受者と委託者との間の業務委託契約の締結を前提とするものであった。このように特定の取引先に対する売上げが償還財源となる場合には、貸出規程等において当該取引に係る契約書等を確認することとされている。しかし、借受者から契約書は提出されておらず、契約書が提出できないことについて特段の事情があるとは認められないにもかかわらず、同支店は、契約の締結について貸付けの後に確認することとして、貸付けを行う時点では新規事業に係る契約書等を確認していなかった。

(イ) 借受者からは委託料収入の算定の基になる加入獲得件数の見込みや貸付・返済期間である7年間にわたり委託契約が継続する見通しを確認するために必要と考えられる資料が提出されていなかった。しかし、同支店は、これらについて十分に検討することなく7年間で返済が見込めるとしていた。

(ウ) 償還財源の判断に当たって、同支店は、既存事業による収入も考慮すれば償還が見込めるとしており、借受者からは既存事業に係る仕入等先の事業者(以下「仕入等先」という。)との取引に係る領収書、契約書等であるとする書類が提出されていた。しかし、これらは1回の支払で数千万円に及ぶ額を現金で授受することになっていたり、記載された仕入等先の住所が実際と異なっていたりするなど多くの不審な点があったにもかかわらず、同支店は、これらの点について特段確認することなく、既存事業の収入を考慮すれば償還が見込めるとしていた。
 また、同支店は、貸付けに当たって十分に確認できなかった事項等について、貸付けを行った後に確認するとしていたが、これらについては、次のように、貸付け後も確認が十分に行われないままであった。
 すなわち、同支店は、前記のとおり、新規事業の前提となる借受者と委託者との間の業務委託契約について貸付け後に確認することとしており、22年10月に借受者から新規事業の契約書であるとする書類の提出を受けていた。しかし、これは、受託者として借受者とは異なる事業者の名称が記載されているなど借受者との真正な契約書とは認められないものであり、同支店は、この点について借受者に指摘していたが、その約4か月後の23年2月に借受者から契約書であるとする書類の提出を再度受けるまで、契約締結の事実及び内容の確認を行っていなかった。また、同支店は、新規事業を行うとされていた事務所を訪問して事業の実態把握を試みた際、事務所が所在しているとされていた建物に借受者の表札がないなど、事務所が実在して稼働している事実が確認できなかったのに、その後は事務所の状況について確認しないまま、前記のとおり借受者と連絡が取れない事態に至っていた。
 さらに、同支店は、資金の使途についても、貸付け後に資金の払出しの状況を確認することとしていたが、借受者が貸付日から10日間以内に、事業計画書において当初1か月間に必要とされていた額を大幅に上回る資金を払い出していたにもかかわらず、その大部分について、使途を確認できていなかった。
 そして、今回、本院が委託者及び仕入等先に確認したところ、借受者と委託者及び仕入等先との間では、いずれも前記のような契約は存在せず、借受者が提出した契約書等は虚偽のものであって、新規事業、既存事業の双方とも借受者の説明のような事業の実態はなかったと認められた。
 したがって、本件貸付金25,000,000円は、同支店において貸出規程等に沿った十分な審査及び確認を行わないまま、事業の実態がない者に貸し付けられていたものであり、不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、同支店において、貸出規程等に沿った審査及び確認を実施する重要性について認識が十分でなかったこと、内部牽制が十分機能していなかったことなど、審査及び確認が適切に行われなかったことによると認められる。