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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

第1特別会計改革の実施状況等について


第1 特別会計改革の実施状況等について

要請を受諾した年月日 平成23年2月15日
検査の対象 内閣府、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省
検査の内容 特別会計改革の実施状況等に関する検査要請事項
報告を行った年月日 平成24年1月19日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

 会計検査院は、平成23年2月14日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月15日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
  (一)   検査の対象
        内閣府、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省
  (二)   検査の内容
        特別会計改革の実施状況等に関する次の各事項
      〔1〕   特別会計の廃止、統合等及び事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況
      〔2〕   特定財源等の見直し等の状況
      〔3〕   財政健全化に向けた剰余金、積立金等の活用等の状況
      〔4〕   国の財政状況の透明化の実施状況

(2) 特別会計改革の概要

 政府は、12年12月に閣議決定された行政改革大綱に基づいて、様々な分野の行政改革を進めてきた。この中で、15年2月の国会における特別会計の現状についての質疑を契機として、同年3月から財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会等で特別会計の在り方について様々な検討が行われ、特別会計の見直し策が取りまとめられた。そして、これらを基に17年12月に閣議決定された「行政改革の重要方針」において、特別会計改革が、総人件費改革、国の資産・債務改革等に並ぶ重要課題として位置付けられるとともに、特別会計改革を含む各改革の着実な実施を図るために、基本的な改革方針及び推進方策等を盛り込んだ「行政改革推進法案(仮称)」を18年の通常国会に提出することとされた。その後、18年3月に「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成18年法律第47号。以下「行政改革推進法」という。)として国会に提出され、同年6月に成立した。
 行政改革推進法第19条第1項において、〔1〕特別会計の廃止及び統合、〔2〕一般会計と異なる取扱いの整理、〔3〕企業会計の慣行を参考とした資産及び負債の開示その他の特別会計に係る情報の開示のため、同法施行後1年以内を目途に法制上の措置等を講ずることとされた。これを受けて、同法に定められた内容を実行に移すため、19年3月に特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)が成立し、同年4月に施行されている。

(3) これまでの会計検査の実施状況

 本院は、毎年、一般会計及び特別会計の会計経理等の状況について検査を実施しており、その検査結果を毎年度の検査報告に掲記するなどしている。このうち、17年度以降の検査報告に掲記した特別会計の会計経理等についての検査結果の主なものは次のとおりである。

検査報告 件名
平成17年度決算検査報告

国会からの検査要請事項に関する報告
・「特別会計の状況に関する会計検査の結果について」

平成19年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
・「エネルギー対策特別会計エネルギー需給勘定において、過年度の不用額の発生要因を十分に見極め、歳出予算の見積りを行う際に反映させるなどして剰余金を減少させるよう意見を表示したもの」
平成20年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
・「建設国債の発行により調達されて、一般会計から特別会計に繰り入れられた資金に係る剰余金等の使途等について、建設国債の発行に対して法律上設けられている制限を形がい化することなどがないようにするための方策を検討するよう意見を表示したもの」
平成21年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
・「特別会計への一般会計からの繰入れについて、国が実際に支払うべき国庫負担額を繰入金の額とすることなどにより繰入れを適正化するよう是正改善の処置を求め、不用になる額が確定しているのにこれを翌年度の財源とするため繰入予算額全額を繰り入れることを行わないようにするための方策を検討したり、繰入れの対象となる経費に係る歳出予算の執行の見込みや不用の見込みを繰入額に確実に反映させたりすることにより、繰入れを適切かつ効率的なものとするよう意見を表示し、及び改善の処置を要求したもの
・「特別会計への一般会計からの繰入れについて、繰入超過額を減額して繰り入れることとするよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに繰入れの対象となる利子の支払に実際に必要となる額のみを繰り入れることにより繰入れを適切かつ効率的なものとするよう改善の処置を要求したもの

・「特別会計への一般会計からの繰入れについて、歳出予算の不用の見込みを繰入額に確実に反映させることにより、繰入れを適切かつ効率的なものとするよう改善の処置を要求したもの
特定検査対象に関する検査状況
・「一般会計からの繰入金を歳入としている特別会計における当該繰入金の繰入れ及び繰入れの対象となるべき経費に係る歳出予算の執行の管理等について
平成22年度決算検査報告 意見を表示し又は処置を要求した事項
・「特定国有財産整備特別会計の貸借対照表に計上されている資産のうち剰余となっている不動産を一般会計へ無償で所属替等するとともに、今後剰余となる不動産が生じた場合も同様に一般会計へ無償で所属替等することにより、国有財産の有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの
・「エネルギー対策特別会計の周辺地域整備資金について、当面の間は資金残高の規模を縮減させるとともに、今後需要額の算定が必要となる場合には積立目標額の規模を見直すなどして、当面需要が見込まれない資金を滞留させないような方策を検討するよう意見を表示したもの

 上記のうち、18年10月に会計検査院長から参議院議長に報告した「特別会計の状況に関する会計検査の結果について 」(以下「18年報告」という。)は、17年6月に参議院から検査要請を受け、その検査結果を報告したもので、平成17年度決算検査報告に国会からの検査要請事項に関する報告として検査結果の概要を掲記している。

(4) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

ア 検査の観点及び着眼点

 本院は、特別会計改革の実施状況等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性の観点から、次の着眼点により検査を実施した。

(ア) 特別会計の廃止、統合等及び事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況

 特別会計の廃止、統合等は、行政改革推進法等に基づき着実に実施されているか、特別会計の事務・事業の合理化・効率化に向けた取組の結果、各特別会計の財政状況がどのように変化しているか。

(イ) 特定財源等の見直し等の状況

 特別会計改革に伴い特定財源等はどのように見直されているか、特定財源等の見直しが、各特別会計の財政状況にどのような影響を与えているか。

(ウ) 財政健全化に向けた剰余金、積立金等の活用等の状況

 剰余金、積立金等や土地等の資産は財政健全化に向けて活用されているか、多額な剰余金が恒常的に生ずる仕組みとなっている特別会計はないか、特別会計に設置されている積立金等の規模は妥当なものとなっているか、特別会計の剰余金、積立金等の資産を更に有効に活用することはできないか。

(エ) 国の財政状況の透明化の実施状況

 予算書、決算書等の国会提出書類等における特別会計の財務情報の開示はどのように改善されているか、また、18年報告において、財政状況の透明性の確保が必ずしも十分に図られていないと報告したが、その後に特別会計の制度や財政状況等の情報が分かりやすく提供されるようになっているか。

イ 検査の対象及び方法

 本院は、特別会計を所管する内閣府等10府省を対象として検査した。検査に当たっては、在庁して予算決算に係る関係書類等の分析を行ったほか、上記の10府省から調書を徴するとともに、233人日を要して10府省の内部部局等に対する会計実地検査を実施した。

2 検査の結果

(1) 特別会計の廃止、統合等及び事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況

ア 特別会計の廃止、統合等

 特別会計の廃止、統合等については、行政改革推進法に見直しの期限が明記された特別会計に係る廃止、統合等の全てが特会法に盛り込まれ、特会法成立前にあった各特別会計の根拠法が廃止されることとなった。そして、特会法は、19年度の予算から適用することとされたため、20年度以降に廃止、統合等が行われる特別会計については、廃止、統合等が行われるまでの間は暫定的に設置されることとなった。特別会計の廃止、統合等を態様ごとに分類すると、〔1〕他の特別会計と統合されたもの(財政融資資金特別会計等16特別会計)、〔2〕一般会計と統合されたもの(登記特別会計等3特別会計)、〔3〕独立行政法人へ移行されたもの(国立高度専門医療センター特別会計)となっており、交付税及び譲与税配付金特別会計等11特別会計は、特別会計の廃止、統合等が行われていない。
 上記のとおり、見直しの期限が明記された特別会計に係る廃止、統合等が全て行政改革推進法の規定どおりに行われ、18年度に設置されていた31特別会計は、23年度には17特別会計になり、勘定数は、18年度の62勘定が、23年度には51勘定となっている(以下、勘定数を表すに当たっては、便宜上、勘定区分のない特別会計についても1勘定として数えることとする。)。

イ 特別会計の事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況

 行政改革推進法では、特別会計改革は、特別会計の廃止及び統合並びにその経理の明確化を図るとともに、特別会計において経理されている事務・事業の合理化・効率化を図ることにより行われるものとされているが、毎年度の予算執行の内容が異なるなどのため、そうした取組による縮減の効果を実施された取組ごとに区分して把握することは困難である。しかし、その取組の効果は、実質的には各特別会計の毎年度の支出済歳出額に現れてくることから、特別会計の事務・事業を実施する際に、財政支出が最終的にどのような性質の経費を対象として支出されているのかという点を示すことができ、かつ、全特別会計を網羅的に、横断的に分析したり、一般会計の同じ区分の経費の推移と比較したりすることができる使途別分類によって分析を行った。

(ア) 人件費

 17年度から22年度までの人件費の支出済歳出額の推移をみると、特別会計の合計額は、年度によって増減はあるが、22年度は4108億円となっており、17年度の6510億円と比べて2402億円(36.8%)減少している。特別会計と一般会計とを合わせた国全体の合計額では、年度によって増減はあるが、22年度は、17年度と比べて3997億円(8.4%)減少している。
 17年度から22年度までの人件費の状況をみると、総人件費改革による予算定員の減少や人事院勧告を踏まえた一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)の改正による減少もあるが、業務の一部が一般会計に移行することなどに伴い予算定員が振り替えられていたり、特別会計業務の見直しに伴って新たに設立した法人に人員が移っていたり、直営で行っていた事務・事業が委託により行われるようになったりしたことが特別会計全体の人件費を減少させた主な要因である。

(イ) 旅費

 17年度から22年度までの旅費の支出済歳出額の推移をみると、特別会計の合計額は、17年度以降年々減少し、22年度は74億円となっており、17年度の133億円と比べて59億円(44.2%)減少している。特別会計と一般会計とを合わせた国全体の合計額は、年度によって増減はあるが、特別会計、一般会計ともに減少していることから、22年度は、17年度に比べて165億円(14.4%)減少している。
 17年度から22年度までの旅費の状況をみると、年金特別会計、食料安定供給特別会計等で、業務の一部が国以外の法人や一般会計に移行したことに伴い業務量・定員が減少したことが特別会計全体の旅費を減少させた大きな要因となっている。また、予算定員の減少率を上回る旅費の減少率となっている特別会計もあり、出張を必要不可欠なものに極力限定したり、出張を行う際に割引制度の積極的な利用に努めたりするという取組の効果が出ているものもある。

(ウ) 物件費

 17年度から22年度までの物件費の支出済歳出額の推移をみると、特別会計の合計額は、年度によって増減はあるが、22年度は7994億円となっており、17年度の1兆1377億円と比べて3383億円(29.7%)減少している。特別会計と一般会計とを合わせた国全体の合計額は、特別会計による支出済歳出額の大幅な減少の影響により、22年度は、17年度に比べて2268億円(5.8%)減少している。
 17年度から22年度までの物件費の状況をみると、国債整理基金特別会計で行政改革推進法に基づく事務費節減の取組により国債事務取扱手数料を縮減したこと及び年金特別会計で業務が日本年金機構に移行したことに伴い庁費等が大幅に減少したことが特別会計全体の物件費を減少させた大きな要因となっている。そして、各特別会計に共通的に設置されている庁費についてみると、予算科目の見直しが行われた一部の特別会計を除いておおむね減少しており、この減少には、競争的な入札の積極的な導入や調達を必要不可欠なものに極力限定するなどの取組によるものも含まれている。

(エ) 施設費

 17年度から22年度までの施設費の支出済歳出額の推移をみると、特別会計の合計額は、17年度以降、3兆円台で推移しており、22年度の3兆0027億円は、17年度の3兆7191億円と比べて7164億円(19.2%)減少している。特別会計と一般会計とを合わせた国全体の合計額は、年度によって増減はあるが、22年度は、17年度と比べて8758億円(18.2%)減少している。
 17年度から22年度までの施設費の状況をみると、特別会計全体の施設費の大部分を占める社会資本整備事業特別会計で当初予算額の抑制の取組が行われていたり経済対策等のための補正予算が編成されていたりしていることが特別会計全体の施設費の変動に大きく影響している。そして、地震防災機能を発揮するための庁舎等の整備を行う特定国有財産整備特別会計や地球温暖化対応の事業を拡大した国有林野事業特別会計で施設費が増加しているが、いわゆる構造改革の下で公共投資予算を縮小していること及び国営土地改良事業が一般会計へ移行したことが、特別会計全体の施設費を減少させた主な要因となっている。

(オ) 補助費・委託費

 17年度から22年度までの補助費・委託費の支出済歳出額の推移をみると、特別会計の合計額は、24兆円から31兆円の間で推移しており、22年度の31兆3376億円は、17年度の29兆7866億円と比べて1兆5510億円(5.2%)増加している。特別会計と一般会計とを合わせた国全体の合計額は、年度によって増減はあるが、22年度は、17年度と比べて7兆1637億円(12.8%)増加している。
 17年度から22年度までの補助費・委託費の状況をみると、地方交付税交付金や社会保障給付費等、義務的に支出される要素が強いことから事務・事業の見直しによる経費の削減になじみにくい補助金、交付金等が計上されている交付税及び譲与税配付金、年金両特別会計を除くと、社会資本整備事業特別会計で道路特定財源の見直しやいわゆる構造改革による公共事業の減少等に伴い補助金が大幅に削減されるなどしていて、多くの特別会計で支出済歳出額は減少している。一方、国有林野事業特別会計で一般会計に業務が移行したり、社会資本整備事業特別会計で地方道路整備臨時交付金が廃止されたことに伴って一般会計に地域活力基盤創造交付金が設けられたりしていることについては、特別会計の歳出の削減という点では効果がみられるが、業務の移行等に伴い一般会計の財政支出を増加させることになっている。

(カ) その他

 17年度から22年度までのその他の経費(以下「その他経費」という。)の支出済歳出額の推移をみると、特別会計の合計額は、年度によって増減はあるが、22年度は217兆4135億円となっており、17年度の240兆0088億円と比べて22兆5953億円(9.4%)減少している。特別会計と一般会計とを合わせた国全体の合計額は、特別会計による支出済歳出額の減少の影響により、22年度は、17年度と比べて22兆4895億円(9.2%)減少している。
 17年度から22年度までのその他経費の状況をみると、年金、労働保険両特別会計の保険給付費や基礎年金給付費等の社会保障給付そのものに係る経費が多く含まれているなど、特別会計改革の進捗に伴う経費節減状況を把握するための分析対象としてはなじみにくいものである。

(キ)特別会計の統合による事務・事業の合理化・効率化の状況

 特別会計改革に基づき統合した特別会計のうち、業務が一般会計や新たに設置された法人等に移行しておらず、継年的な比較を行うことが可能である財政投融資、エネルギー対策、社会資本整備事業及び自動車安全各特別会計の17年度から22年度までの支出済歳出額の推移をみると、次のような状況となっていた。

〔1〕 財政投融資特別会計の22年度の支出済歳出額は7180億円となっており、17年度の4兆2235億円と比べて3兆5054億円と大幅に(82.9%)減少している。これは、主に、財政投融資改革による預託金残高の減少に伴う預託金利子の支払の大幅な減少によるものであり、人件費、旅費及び物件費のうちの庁費の特別会計の運営に必要な管理的経費(以下、これらの経費を「管理事務経費」という。)は、おおむね減少している。

〔2〕 エネルギー対策特別会計の22年度の支出済歳出額は8595億円となっており、17年度の9573億円と比べて977億円(10.2%)減少している。これは、主に、17年度の石油ガス国家備蓄基地の完成に伴い石油ガス国家備蓄基地建設に係る委託費が減少したことや独立行政法人に対する財政支出を抑制したことなどによるものである。また、管理事務経費はおおむね減少しているが、人件費については、特別会計の定員を一般会計に振り替えたことが主な要因となっている。

〔3〕 社会資本整備事業特別会計の22年度の支出済歳出額は3兆7880億円となっており、17年度の5兆8820億円と比べて2兆0940億円(35.6%)減少している。これは、主に、公共事業関係の予算が削減されてきていることのほか、21年度から地方道路整備臨時交付金が廃止されたことによるものである。また、管理事務経費は、人件費及び旅費は減少しているが、物件費のうちの庁費は増加している。これは、施設費に含まれていた庁費的な経費を庁費に組み替えたことなどによるものであるが、これらの組み替えられた経費の額が把握できないなどのため、経費節減の状況について把握することができない。

〔4〕 自動車安全特別会計の22年度の支出済歳出額は571億円となっており、17年度の2639億円と比べて2068億円(78.3%)減少している。これは、主に、保険料等充当交付金の交付が終了したこと、政府再保険制度の廃止に伴い再保険金の支払が減少したことによるものである。また、管理事務経費は、おおむね減少している。

(2) 特定財源等の見直し等の状況

 特定財源等の問題点については、行政改革の重要方針で、道路特定財源の見直し、空港整備の進捗状況を踏まえた将来的な航空機燃料税の一般財源化の検討、電源開発促進税が特別会計に直入される構造についての見直しの各方針が示された。

ア 電源開発促進税が特別会計に直入される構造についての見直し

 電源開発促進税の税収については、昭和49年度から平成18年度までは、電源開発促進対策特別会計の歳出の動向にかかわらず、全額を直接同特別会計の歳入に組み入れていたが、同特別会計に多額の剰余金が発生するなどしていたため、前記行政改革の重要方針において、一般会計から必要額を特別会計に繰り入れる仕組みとすることにより、原子力発電施設の立地・更新等が進展することなどにより財政需要が生ずるまでの間、財政資金の効率的な活用を図るものとするなどの見直しの方針が示された。そして、行政改革推進法により、19年度以降、電源開発促進税の税収を一般会計の歳入に組み入れた上で、電源開発促進税法(昭和49年法律第79号)第1条に規定する措置に要する費用の財源に充てるため、毎会計年度、統合された特別会計に必要な金額を繰り入れることとされた。
 エネルギー対策特別会計電源開発促進勘定の収納済歳入額から支出済歳出額を差し引いた剰余金の額の推移をみると、電源開発促進税が直入されていた18年度以前に比べて19年度以降は減少しており、また、予算の執行状況の調査を行い不用率の高い事業は予算を削減するなどの取組が行われているが、依然として多額に上っている状況である。これは、特会法第91条の規定により、予算の定めるところにより一般会計から繰り入れることとされていることから、年度途中の予算執行の過程において支出見込額が予算額を下回り不用額の発生が見込まれる場合でも、そのような歳出予算の執行状況にかかわらず毎年度予算額と同額を繰り入れていることが、その一因となっている。
 また、石油石炭税については、前記行政改革の重要方針では特に言及されていないが、上記のとおり、電源開発促進勘定で、特定財源等が特別会計に直入される構造が見直されたのに、剰余金が多額に上っている状況が見受けられたことから、制度発足当時から特定財源等を一般会計から繰り入れることとされていた同特別会計のエネルギー需給勘定についても検査したところ、上記と同様、剰余金の額が多額に上っている状況である。

イ 道路特定財源の見直し

 道路特定財源制度については、前記行政改革の重要方針で示された方針に基づき、国の財政状況の悪化をもたらさないよう十分に配慮しつつ、道路特定財源制度に係る税の収入額の使途の在り方について、納税者の理解を得られるよう見直しを行うこととされた。これらを受けて、20年5月に、道路特定財源制度は同年の税制抜本改革時に廃止し、21年度から一般財源化するとした道路特定財源等に関する基本方針が閣議決定された。これにより、道路特定財源については、21年度に一般財源化されて、使途の制限は一切なくなり、制度上は道路特定財源とされた揮発油税等の歳入が道路整備に充てられるという義務付けがなくなった。

ウ 将来的な航空機燃料税の一般財源化の検討

 航空機燃料税の繰入れについては、前記行政改革の重要方針で特別会計の歳出・借入金の抑制の努力を講じつつ、引き続き空港整備に投入していくものとするが、将来的には、空港整備の進捗状況を踏まえ、原則として一般財源化を検討するものとするなどの見直しの方針が示され、行政改革推進法では、「空港の整備に係る歳出及び借入金を抑制するよう努めつつ、これを実施するものとし、将来において、空港の整備の進捗状況を踏まえ、その廃止について検討するものとする」こととされた。
 これについては、空港運営の民間への経営委託・民営化についての具体的な手法等の検討が行われている状況であり、航空機燃料税の将来的な在り方について具体的な方向性は示されていない。

(3) 財政健全化に向けた剰余金、積立金等の活用等の状況

ア 剰余金、積立金等の活用状況

 行政改革推進法第17条第2項では、特別会計改革に当たっては、18年度から22年度までの間において、特別会計における資産及び負債並びに剰余金及び積立金の縮減その他の措置により、財政健全化に総額20兆円程度の寄与をすることを目標とすることとされている。そして、この目標に対して、5年間で特別会計の剰余金11兆0362億円、積立金35兆4175億円、計46兆4538億円を一般会計等に繰り入れている。

イ 剰余金の状況

(ア) 特別会計全体の剰余金の推移

 特別会計における剰余金の17年度から22年度までの発生状況をみると、その合計額は17年度の50兆9574億円から20年度の28兆5413億円へと減少傾向であったが、21年度は1兆2917億円増加して29兆8330億円、22年度は12兆0778億円増加して41兆9109億円となっている。このうち、国債整理基金特別会計の剰余金が全体のおおむね6割から7割を占めているため、同特別会計の剰余金の変動が特別会計全体の剰余金の変動に大きく影響している。同特別会計の剰余金を除いた額の推移をみると、17年度の16兆4514億円から21年度の9兆1025億円へと減少傾向であったが、22年度は2兆0778億円増加して11兆1803億円となっている。
 また、特別会計の勘定ごとの剰余金の推移をみると、17年度から22年度まで連続して剰余金が500億円以上かつ剰余金の収納済歳入額に対する割合が30%以上となっている特別会計は、地震再保険特別会計、外国為替資金特別会計及び特許特別会計となっている。このように剰余金が恒常的に生ずる仕組みは、次のとおりである。

〔1〕 地震再保険特別会計では、再保険料収入の増減及び保険事故の発生に伴う再保険金の支払額の増減により、各年度の剰余金の額は変動することになる。17年度以降、保険契約の増加により再保険料収入が増加している一方、保険事故の発生に伴う再保険金の支払が皆無であったことから、剰余金は増加している。

〔2〕 外国為替資金特別会計では、外貨証券等による外国為替資金の運用収入が、外国為替資金証券の発行割引料等の各種費用の支払を上回ったため、剰余金が発生している。19年度までは、外国(運用先)における金利上昇と円安による運用収入の増加等により剰余金は増加しているが、20年度以降は、外国(運用先)における金利低下と円高による運用収入の減少等により剰余金は減少している。

〔3〕 特許特別会計では、特許審査で、審査請求から審査着手までの審査順番待ち期間が生じているため、審査請求の際に納付された審査請求料が審査着手までの間、剰余金となっている。

(イ) 一般会計からの繰入れを財源とする特別会計における剰余金の状況

 一般会計から繰り入れた額を財源とする特別会計では、一般会計からの繰入額の財源に一般税収や建設国債又は特例国債による財源が充てられていることなどを踏まえると、可能な限り一般会計からの繰入れを抑制して、剰余金を縮減する取組を行うことが必要である。本院は、22年10月に、厚生労働大臣農林水産大臣 及び国土交通大臣 に対して、特別会計における歳出予算の執行過程で把握された不用見込額を一般会計からの繰入額に確実に反映させ、繰入れを抑制することにより、繰入れを適切かつ効率的なものとするよう、会計検査院法第36条の規定により意見を表示するなどした。そして、22年度は、一般会計から繰り入れた額を財源とする14特別会計32勘定で、不用見込額8361億円を一般会計からの繰入額に反映させ、繰入れを抑制しており、同額の剰余金を縮減させている。
 一方、エネルギー対策特別会計は、特定財源を全額一般会計に計上した上で、同特別会計における燃料安定供給対策、電源立地対策等に要する費用の財源を一般会計から繰り入れているが、特会法の規定では予算の定めるところにより繰り入れることとされていることから、予算執行の過程において不用見込額を把握した場合でも一般会計からの繰入額に反映させることができず、不用見込額の財源を含めて予算額の全額を一般会計から繰り入れていることが、剰余金が多額となる一因になっている。

(ウ) 剰余金の処理

 21年度の特別会計全体の剰余金29兆8330億円のうち翌年度(22年度)の歳入に繰り入れられた26兆4797億円は、翌年度の歳入において前年度剰余金受入等として受け入れられた上で、当該特別会計の歳出の財源等として活用されることとなる。そして、特別会計の中には、剰余金の一部を翌年度ではなく、翌々年度に予算計上することにより、同年度の一般会計からの繰入れを抑制しているものもあるが、この場合、剰余金が翌々年度まで活用されないこととなる。

ウ 積立金等の状況

 特会法等により特別会計に設置されている積立金等は、17年度から22年度までの間で34資金あり、現在又は将来の事業の財源に充て、又は決算上の不足に備えることなどを目的として設置されている。この34資金のうち、外国為替資金証券の発行収入を財源とする外国為替資金及び他の積立金等からの預託金等を財源とする財政融資資金を除く32資金の22年度末の残高の合計は172兆3291億円となっており、最も多額となっているのは年金特別会計厚生年金勘定の積立金で113兆1621億円、次いで外国為替資金特別会計の積立金で20兆5585億円となっている。

エ 積立金等の規模

 特別会計の財政状況を明らかにするためには、これらの積立金等について、その状況等を明らかにし説明責任を果たすことが重要である。これらの積立金等の保有すべき規模、水準等は、地震再保険特別会計の積立金等6資金では具体的に示されている。一方、それ以外の積立金等では、保険事業の一部の特別会計においてソルベンシー・マージン比率(注) を試算して公表するなどの取組が行われているが、積立金等の保有すべき規模、水準等が具体的に示されてはいない。このように、特会法により定められている各積立金等の目的を果たすために必要な規模、水準等が示されていないものがあるため、特別会計の積立金等の有効活用を図る上での財政統制が機能しにくい状況となっている。

 ソルベンシー・マージン比率  民間保険会社が、大規模災害による保険金支払の急激な増加、運用環境の悪化等通常の予測を超えるリスクに対して、どの程度自己資本、準備金等の支払余力を有するかを示す際に用いられる経営健全性の指標

オ 国有財産の売却状況等

 特別会計に所属する普通財産の管理及び処分については、各特別会計を所管する各省各庁の長が行うこととされており、各府省は、従来、廃止及び統合によって使用しなくなった庁舎や宿舎に係る土地等の売却等に取り組んでいる。
 特別会計に所属する普通財産の土地の売却状況についてみると、18年度から22年度までの間の売却実績は3708億円となっているが、19年度をピークに減少傾向にある。そして、入札状況についてみると、入札を実施しても落札に至らない割合が増加している。また、特別会計に所属する政府保有株式の売却実績は、20年10月に政府保有株式の市中売却を一時凍結したこともあり、19、20両年度の計1166億円となっている。
 財務省は、各府省が所管する国有財産について、適正な管理及び有効活用の促進を図るとともに、不要又は余剰となる財産の処分を促進するなどのため、国有財産法(昭和23年法律第73号)に基づく監査を実施したり、国有財産の有効活用に向けた取組を実施したりしている。このうち、財務省が実施した行政財産(土地)の使用状況実態監査では、一部の土地について未利用のまま用途廃止等の処理が行われていなかったり、非効率な利用のまま財産の集約化による余剰部分の有効活用が図られていなかったりなどしている状況が、各省各庁所管普通財産実態監査では、一部の土地について売却等の処分が行われていない状況が、それぞれ見受けられている。

(4) 国の財政状況の透明化の実施状況

ア 国会提出書類、財務書類、各府省のホームページ等

 国の財政状況については、国会提出書類、財務書類、各府省のホームページ等により、国の財務等に関する各種の情報について公表する事項を増やしたり、予算と決算が対応する形で情報を公表したりすることなどで、その透明性の向上が図られてきている。

イ 特別会計における情報の開示の状況

 特別会計の財政状況を明らかにする上で重要であると考えられる情報が開示されていない状況が、次のとおり見受けられた。

(ア) 国会提出書類等における表示情報等の状況については、年金特別会計基礎年金勘定の積立金に係る運用収入の累積額が定期的に公表されていない状況となっている。

(イ) 各特別会計における繰入未収金等に関する情報の開示については、一般会計が特会法等に基づき特定国有財産整備特別会計等5特別会計8勘定に対して将来的に繰入れの義務等を負っている状況についての情報が開示されていない状況となっている。

(ウ) 各特別会計における一般会計からの繰入れに関する情報の開示については、農業共済再保険特別会計における一般会計からの過大な繰入額の累計額等の状況についての情報が開示されていない状況となっている。
 また、18年報告において透明性の面からの課題として記述した事項については、歳入歳出決定計算書に20年度から事項別内訳が記載されるなどした一方、現在でも、多くの積立金等でその保有すべき規模、基準等が具体的に示されていない、積立金等との間の資金の受払いなどを含めた国の内部の資金の動きの全体が分かるものが示されていないなどの状況となっている。

3 検査の結果に対する所見

 特別会計を所管している府省は、特別会計改革の実施に際して、行政改革推進法等の趣旨に沿い、国の事務・事業の見直し、剰余金、積立金等の活用等に取り組んだり、18年報告における本院の検査結果を踏まえたりするなどして、特別会計の透明性の向上や決算の結果等の予算への反映等にも取り組んでいる。
 しかし、今回の検査で、特別会計改革の実施状況等に関して更なる改善が求められる事態や今後の推移について留意しなければならない状況が見受けられた。
 したがって、国の厳しい財政の現状に鑑み、各特別会計の今後の事務・事業の実施に当たっては、特別会計を所管している内閣府等10府省において、今回の本院の検査結果を踏まえ、次の点に留意して現在取り組んでいる特別会計の改革を着実に実施するとともに、更なる見直しを進め、改革をより実効のあるものにしていくことが重要である。

(1) 特別会計の廃止、統合等及び事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等の状況

ア 事務・事業における経費縮減に向けた取組については、現在取り組んでいる各特別会計の事務・事業の合理化、効率化に向けた取組を進めるとともに、特別会計の効率化を図るための様々な取組における意見を反映するなどして更なる事務・事業の合理化・効率化に向けた取組等を引き続き実施する必要がある。

イ 一般会計や国以外の法人に業務が移行したものについては、単に特別会計の業務が移行しただけでは、事務・事業の見直しの効果が特別会計の規模の縮小ということにとどまってしまうため、移行後の業務がより効率的に実施されているかという点について検証する必要がある。

(2) 特定財源等の見直し等の状況

ア エネルギー対策特別会計電源開発促進勘定及びエネルギー需給勘定への一般会計からの繰入れについては、特会法の規定により、予算の定めるところにより一般会計から繰り入れることとされているため、年度途中において不用額の発生が見込まれる場合でも歳出予算の執行状況を踏まえた一般会計からの繰入れの減額を行えないことが剰余金が多額となる一因になっていることを踏まえて、剰余金の減少のための取組について検討する必要がある。

イ 航空機燃料税については、前記行政改革の重要方針で、将来的には、空港整備の進捗状況を踏まえ、原則として一般財源化を検討するものとするなどの見直しの方針が示され、行政改革推進法により、将来において、空港の整備の進捗状況を踏まえ、社会資本整備事業特別会計の空港整備勘定への繰入れの廃止について検討するものとすることとされていることから、今後、その具体的な方向性の検討を進める必要がある。

(3) 財政健全化に向けた剰余金、積立金等の活用等の状況

ア 一般会計からの繰入れを財源とする特別会計については、財政資金の一層の効率的な活用を促進するため、引き続き一般会計からの繰入れを可能な限り抑制するなどして剰余金を縮減したり、翌々年度に活用される剰余金を翌年度の一般会計からの繰入額に反映させるなどして可能な限り翌年度に活用するための方策を検討したりする必要がある。
 また、特別会計の中には受益と負担の関係が明確となっているものがあること、保険事業特別会計のように剰余金が将来の歳出の財源として想定されているものがあることなどに留意した上で、国の財政状況が厳しい現状に鑑み、剰余金のうち可能な部分については一般会計に繰り入れるなどして、財政資金をより効果的に活用する取組を更に進めていく必要がある。

イ 特会法により定められている各積立金等の目的を果たすために必要な規模、保有すべき水準等が示されていないものがある。このため、積立金等の残高が適正な水準であるかどうかを判断できないなど、積立金等の有効活用を図る上での財政統制が機能しにくい状況となっているので、特別会計の積立金等の適正な規模、水準等を具体的に示すことを検討する必要がある。

ウ 特別会計を所管する各府省は、特別会計に所属する普通財産の土地について、引き続き売却等に努めるとともに、入札を実施しても落札されず売却できない土地等については、土地売却のノウハウを有する財務省への処分等事務の委任を積極的に活用したり、管理処分方式の多様化へ向けて検討したりすることが必要である。また、行政財産の土地について、未利用となっているものの用途廃止等を遅滞なく行うとともに、非効率な利用等となっているものの集約化を進め、余剰部分の有効活用を図るなどの必要がある。

(4) 国の財政状況の透明化の実施状況

ア 年金特別会計基礎年金勘定の積立金に係る運用収入の累積額が定期的に公表されていない。しかし、これは将来基礎年金の給付に充てられることとなるため、この累積額についての定期的な情報の開示を検討する必要がある。

 また、一般会計が特定国有財産整備特別会計等5特別会計8勘定に対して、特会法等に基づき、将来的に繰入れの義務等を負っているものがあるが、繰入れの時期及び金額が法令等に明記されていないことなどから、国会提出書類及び特別会計財務書類には記載されていない。しかし、将来これらの繰入れを行う際には、その財源として、一部を除いて租税収入等一般会計の歳入を充てる必要があると考えられることから、前記行政改革の重要方針にあるように、一般会計及び特別会計を通じて一覧性・総覧性を持った形で国の財政状況を説明し十分な説明責任を果たすためにも、このような状況についての情報の開示を検討する必要がある。
 さらに、農業共済再保険特別会計の各勘定への一般会計からの繰入れの状況については、農業勘定で一般会計からの繰入れを抑制することで、同特別会計全体としての一般会計からの過大な繰入額の累計額を縮小することとしているが、家畜、果樹、園芸施設各勘定では依然としてこの累計額は残ることとなるので、上記と同様、国の財政状況を説明し十分な説明責任を果たすためにも、このような累計額の状況についての情報の開示を検討する必要がある。

イ 18年報告において透明性の面からの課題として記述した事項のうち、現在でも関連する情報についての情報提供が行われていない事項については、国民に対して分かりやすい情報提供に努め、財政の透明性を高める必要がある。

 本院としては、上記の各項を含む特別会計全体の見直しに関する進展を注視するとともに、特別会計における改革の実施状況等について、今後とも多角的な観点から検査を実施していくこととする。