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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

公共建築物における耐震化対策等について


第6 公共建築物における耐震化対策等について

要請を受諾した年月日 平成23年12月8日
検査の対象 内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国会、裁判所、会計検査院
検査の内容 公共建築物における耐震化対策等についての検査要請事項
報告を行った年月日 平成24年10月17日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

 会計検査院は、平成23年12月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、 会計検査及びその結果の報告を求める事項
  (一) 検査の対象
     内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国会、裁判所、会計検査院
  (二) 検査の内容
     公共建築物(官庁施設、教育施設、医療施設等)における耐震化対策等に関する次の各事項
   
〔1〕  耐震診断の状況
〔2〕  耐震改修の状況
〔3〕  東日本大震災に伴う被災等の状況

(2) 公共建築物における耐震化対策等の概要

ア 地震防災対策の概要

 我が国の防災関係の基本法として、国土及び国民を災害から保護することなどを目的として、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)が制定されている。そして、東海地震等の特定の大規模地震に対して大規模地震対策特別措置法(昭和53年法律第73号)等の法律が複数制定されている。また、建築物の耐震化対策として、7年1月の阪神・淡路大震災を契機に建築物の地震に対する安全性の向上を図ることなどを目的として「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(平成7年法律第123号。以下「耐震促進法」という。)等が制定されている。
 災対法によると、「内閣総理大臣の指定する指定行政機関及び指定地方行政機関は、その責務が十分に果たされることとなるように、相互に協力しなければならない」と規定されている。
 大規模地震対策特別措置法においては、地震防災に関する対策を強化する必要がある地域を地震防災対策強化地域(以下「強化地域」という。)として指定し、中央防災会議が強化地域に係る地震防災基本計画を作成することとされている。
 また、東南海・南海地震を対象に制定された「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(平成14年法律第92号)においては、東南海・南海地震防災対策推進地域(以下「推進地域(I)」という。)として指定し、中央防災会議が推進地域(I)に係る地震防災対策推進基本計画を作成することとされている。また、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震を対象に制定された「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(平成16年法律第27号)においても、同様に、当該地震の地震防災対策推進地域(以下「推進地域(II)」という。)を指定し、中央防災会議が推進地域(II)に係る地震防災対策推進基本計画を作成することとされている。
 耐震促進法においては、建築基準法(昭和25年法律第201号)等に適合しないなどの建築物で、一定規模以上で多数の者が利用する建築物(以下「特定建築物」という。)の所有者は、当該特定建築物について耐震診断を行い、必要に応じて、耐震改修を行うよう努めなければならないとされている。また、国土交通大臣(13年1月5日以前は建設大臣)は、耐震促進法に基づき、18年1月に、「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進に関する基本的な方針」(国土交通省告示第184号。以下「基本方針」という。)を策定している。

イ 耐震化対策等の概要

 中央防災会議が作成する防災に関する基本的な計画である防災基本計画によると、国及び地方公共団体は、防災拠点となる公共施設の耐震化について、数値目標を設定するなど、計画的かつ効果的な実施に努めることとされている。
 また、中央防災会議が17年9月に災対法に基づき決定した首都直下地震対策大綱によると、首都中枢機関は、災害発生時の機能継続性を確保するための計画として事業継続計画を策定することとされ、これを受けて、内閣府は、中央省庁業務継続ガイドラインを作成し、各府省は、このガイドラインを基に業務継続計画を策定している。

ウ 東日本大震災に伴う被災の概要

 23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、我が国における観測史上最大の規模であるマグニチュード9.0、最大震度7を記録し、震源域は岩手県沖から茨城県沖までの南北約500km、東西約200kmの広範囲に及び、東日本の太平洋側を中心に広い範囲で震度5強以上が観測され、この地震により、大津波が発生し、東北地方及び関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。内閣府は、23年6月に東日本大震災(23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)の被害額を約16兆9000億円と公表している。

(3) 検査における検査の観点、着眼点、対象及び方法

 本院は、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、公共建築物に係る耐震診断が計画的かつ適切に実施されているか、耐震改修が施設の重要度、緊急度等を考慮して計画的、効率的に実施されているか、改修が実施された施設について所要の耐震性能が確保されているか、東日本大震災に伴う公共建築物の被災等の状況は耐震改修の有無によりどのようになっているか、公共建築物の被災により災害応急活動に影響があった要因はどのようなものかなどに着眼して、検査の対象である16府省等(注1) (地方出先機関を含む。)、5国立大学法人(注2) 及び5独立行政法人(注3) について会計実地検査を行った。

(注1)
 16府省等  内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国会、裁判所、会計検査院
(注2)
 5国立大学法人  国立大学法人北海道大学、国立大学法人東北大学、国立大学法人東京大学、国立大学法人京都大学、国立大学法人九州大学
(注3)
 5独立行政法人  独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人放射線医学総合研究所、独立行政法人建築研究所、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人日本原子力研究開発機構

2 検査の結果

(1) 耐震診断の状況

ア 建築物の耐震に係る取組

(ア) 耐震化の目標等

 国土交通大臣は、18年1月に策定した基本方針において、建築物の耐震診断及び耐震改修の目標として、住宅及び多数の者が利用する建築物については、昭和56年に改正された建築基準法に基づく耐震性を保持する建築物の割合(以下「耐震化率(新耐震水準)」という。)を平成27年までに現状の75%(棟数ベース)から少なくとも9割にすることとしている。

(イ) 耐震化に関する公表及び耐震化の目標

 基本方針に基づき、計画的かつ重点的な耐震化の促進に関する取組の一環として、国が耐震性に係るリストを作成して公表しているものとしては、国土交通省官庁営繕部による同部が整備等を所掌している合同庁舎等の官庁施設の耐震診断結果等や最高裁判所による裁判所施設の耐震診断結果等がある。しかし、これらの公表の対象となった建築物は、府省等の建築物の約17%にすぎない。このほか、厚生労働省は、国立病院機構を含む全国の病院の耐震化率等を、文部科学省は、国立大学法人等の建築物の耐震化の状況をそれぞれ公表している。

イ 耐震設計及び耐震診断基準等

 国土交通省は、8年10月に、「国家機関の建築物及びその附帯施設の位置、規模及び構造に関する基準」(平成6年建設省告示第2379号。以下「位置規模構造基準」という。)に基づき、府省等の建築物の必要な耐震性能の確保を図ることを目的として、「官庁施設の総合耐震計画基準」(以下「計画基準」という。)を制定した。その後、14年度に、計画基準は、各府省等が耐震設計を実施する際の統一基準となった。
 また、国土交通省は、8年10月に、位置規模構造基準等に基づき、「官庁施設の総合耐震診断・改修基準」(以下「診断改修基準」という。)を制定した。そして、各府省等は、診断改修基準等に基づき、耐震診断及び耐震改修を実施している。
 このほか文部科学省は、計画基準に定める構造体の耐震安全性の確保等について、建築構造設計に関する標準的な手法を示すことにより、文教施設として必要とする性能の確保を図るための指針を作成しており、国立大学法人等が対象となっている。

ウ 官庁施設の耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 官庁施設の耐震診断の実施率(以下「診断率」という。)についてみると、構造体(壁、柱等)は棟数で45.4%、建築非構造部材(天井材、外壁、建具等)は棟数で24.1%、建築設備(電力供給設備、空気調和設備等)は棟数で23.6%となっている。そして、府省等別の診断率をみると、昭和56年改正の建築基準法により導入された新耐震設計手法導入以前に建築されるなどした建築物を多く保有する法務省及び防衛省の診断率が低くなっている。
 また、耐震診断の結果、耐震改修等が必要な建築物の割合についてみると、構造体、建築非構造部材及び建築設備でいずれも6割以上となっている。なお、借受官庁施設240棟のうち、新耐震設計手法に基づいていない建築物が計21棟、耐震安全性について不明である借受官庁施設が計18棟、それぞれ見受けられた。

(イ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、構造体、建築非構造部材及び建築設備のいずれも耐震診断の実施に必要な予算の要求を見送っているなど予算化されていないためとしているものが最も多い。

エ 教育施設の耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 教育施設の診断率についてみると、構造体は棟数で79.0%となっている。建築非構造部材及び建築設備は、それぞれ棟数で14.2%、13.7%と構造体と比べると相当程度低くなっている。

(イ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、構造体においては、診断の必要性がないと判断したためとしているものが最も多く、建築非構造部材及び建築設備においては、その他を除くと予算化されていないためとしているものが最も多い。

オ 医療施設の耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 医療施設の診断率についてみると、構造体は棟数で32.8%となっている。建築非構造部材は棟数で2.5%であり、構造体と比べて相当程度低くなっている。この傾向は建築設備においても同様である。そして、医療施設のうち災害拠点病院の診断率は、構造体においては医療施設全体に比べて高くなっているものの、建築非構造部材及び建築設備は、医療施設全体と同様に相当程度低くなっている。

(イ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、構造体においては、移転、建替え又は廃止の予定があるためとしているものが最も多く、建築非構造部材及び建築設備においては、診断の必要性がないと判断したためとしているものが最も多い。

カ 独立行政法人の建築物における耐震診断の実施状況

(ア) 耐震診断の実施状況

 独立行政法人の建築物の診断率についてみると、構造体は棟数で27.2%であり、特定建築物規模相当の建築物においては62.5%となっている。建築非構造部材及び建築設備は、棟数でそれぞれ6.8%、3.7%と構造体と比べても更に低くなっている。

(イ) 耐震診断を実施していない理由

 耐震診断を実施していない理由は、構造体においては、倉庫等の用途として使用しているためとしているものが最も多く、建築非構造部材及び建築設備においては、診断の必要性がないと判断したためとしているものが最も多い。

キ 官庁施設、教育施設、医療施設等の耐震診断の実施状況

 施設別に構造体の診断率をみると、官庁施設は棟数で45.4%、教育施設は棟数で79.0%、医療施設は棟数で32.8%、独立行政法人の建築物は棟数で27.2%となっていて、教育施設の診断率が官庁施設、医療施設等と比べると高い水準となっている。また、医療施設のうち災害拠点病院の構造体の診断率は、医療施設全体より高くなっている。
 強化地域等別における診断率は、いずれの施設においても、強化地域及び推進地域(I)においては全体と比べて高くなっているが、推進地域(II)においては必ずしもそのような傾向は見受けられない。

(2) 耐震改修の状況

ア 耐震改修の実施状況

(ア) 官庁施設の耐震改修の実施状況

a 耐震改修工事の実施状況

 官庁施設の構造体の耐震改修率(耐震診断により耐震改修等が必要とされた建築物に対する耐震改修工事が実施されていた建築物の割合)は、棟数で45.6%となっている。また、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修率は、棟数で27.8%及び23.6%となっている。

b 耐震改修工事を実施していない理由等

 耐震改修工事を実施していない理由は、構造体では、移転、建替え又は廃止予定があるためとしているものが最も多く、建築非構造部材及び建築設備では、耐震改修工事に必要な予算の要求を見送っているなど予算化されていないためとしているものが最も多い。
 国の庁舎等の使用調整等に関する特別措置法(昭和32年法律第115号。以下「庁舎法」という。)第4条に基づき財務大臣が定める庁舎等使用調整計画についてみると、同計画の実施により、建築基準法に基づく耐震性能が確保されていない官庁施設に入居している官署を計画基準に基づく耐震性能が確保されている別の既存官庁施設に移転させ、当該耐震性能が確保されていない官庁施設を廃止することで、耐震改修工事を実施することなく官庁施設の耐震化が図られる事例が見受けられた。
 また、合同庁舎の整備についてみると、官庁施設の耐震化を図る手段の一つとなる庁舎法第5条に基づく特定国有財産整備計画による合同庁舎の整備事業等のうち、国の出先機関改革の状況等を踏まえて整備を検討する必要があるものとして整備が見送られている合同庁舎に入居予定となっている官署が現在入居している官庁施設において、耐震化が図られていない事例が見受けられた。一方、建替え等の計画を取りやめて、既存官庁施設を耐震改修工事により耐震化し、災害時の機能確保を図る対応を執ることとしている事例も見受けられた。

c 耐震化の状況

 官庁施設の耐震化率(新耐震水準)は、特定建築物規模相当の建築物についてみると、棟数で61.0%となっており、基本方針において目標としている9割とは29ポイントの開きがあるが、構造体の耐震化率(新耐震水準)は、棟数で80.1%となっており、基本方針における目標(9割)まであと10ポイントとなっている。

(イ) 教育施設の耐震改修の実施状況

a 耐震改修工事の実施状況

 教育施設の構造体の耐震改修率は、棟数で63.7%となっており、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修率は、79.6%及び89.0%となっている。

b 耐震改修工事を実施していない理由

 耐震改修工事を実施していない理由は、構造体では、平成24年度以降に改修工事を予定しているためとしているものが最も多くなっており、建築非構造部材及び建築設備では、予算要求を見送っているなど予算化されていないためとしているものが最も多い。

c 耐震化の状況

 教育施設の耐震化率(新耐震水準)は、特定建築物規模相当の建築物についてみると、棟数で57.0%となっており、基本方針における目標(9割)とは33ポイントの開きがある。

(ウ) 医療施設の耐震改修の実施状況

a 耐震改修工事の実施状況

 医療施設の構造体の耐震改修率は、棟数で51.4%となっており、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修率は、棟数で63.6%及び66.7%となっている。また、災害拠点病院の構造体の耐震改修率は、棟数で52.8%となっており、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修率は共に100%となっている。

b 耐震改修工事を実施していない理由

 耐震改修工事を実施していない理由は、構造体では、移転、建替え又は廃止予定があるためとするものが最も多く、施設の構造上や執務環境上の要因から改修が困難と判断したためとするものが次に多くなっており、騒音等の問題から入院患者を受け入れたままの状態での耐震改修工事が困難であることなど、医療施設特有の事情によるものである。

c 耐震化の状況

 医療施設の耐震化率(新耐震水準)は、特定建築物規模相当の建築物についてみると、棟数で61.5%となっており、基本方針における目標(9割)とは28ポイントの開きがある。また、災害拠点病院の構造体の耐震化率(新耐震水準)は、棟数で80.3%となっており、26年度末までに81.2%とする災害拠点病院等の耐震化目標とほぼ同水準となっている。

(エ) 独立行政法人の建築物における耐震改修の実施状況

a 耐震改修工事の実施状況

 独立行政法人の建築物の構造体の耐震改修率は、棟数で59.7%となっている。また、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修率は、棟数で14.0%及び6.3%となっていて、進捗の遅れが見受けられる。

b 耐震改修工事を実施していない理由

 耐震改修工事を実施していない理由は、構造体では、予算要求を見送っているなど予算化されていないためとしているものが最も多くなっているが、建築非構造部材及び建築設備では、改修の必要性がないと判断したためとしているものが大半を占めており、建築非構造部材及び建築設備の耐震改修工事を実施する必要性についての認識そのものが十分でないものが多く見受けられる。

c 耐震化の状況

 独立行政法人の建築物の耐震化率(新耐震水準)は、特定建築物規模相当の建築物についてみると、棟数で55.2%となっており、基本方針における目標(9割)とは35ポイントの開きがある。

(オ) 官庁施設、教育施設、医療施設等の耐震化の状況

 特定建築物規模相当の建築物における施設別の構造体の耐震化率(新耐震水準)を棟数でみると、官庁施設は80.1%、教育施設は88.8%、医療施設は81.7%、独立行政法人の建築物は74.9%となっており、教育施設は、官庁施設、医療施設及び独立行政法人の建築物に比べて耐震化率が高くなっている。また、これを強化地域等の別にみると、全般的に強化地域等の方が全体よりやや高い傾向が見受けられるものの、地域による大きな差異は見受けられない。
 また、官庁施設の耐震化の進捗状況について、基本方針策定前の状況(平成16年度決算検査報告地震災害時に防災拠点となる官庁施設の耐震化対策が重点的、効率的に実施されていない事態について 」において検査した時点の耐震化率)と基本方針策定後の状況(23年12月末時点の耐震化率)を比較すると、23年末の官庁施設における構造体、建築非構造部材及び建築設備の全てを対象とした計画基準に基づく耐震性能を確保している建築物の割合(以下「耐震化率(官庁水準)」という。)は、同報告時点より全体で17ポイント上昇しており、特に強化地域のI類の官庁施設では56ポイントと大幅に上昇している。また、耐震化率(官庁水準)の上昇幅は、I類の官庁施設で27ポイント、II類の官庁施設で14ポイントとI類の官庁施設の方が上昇幅が大きく、II類の官庁施設よりI類の官庁施設の耐震化が優先して実施されてきたことがうかがえる。

イ 業務継続の点からみた建築物の耐震化の状況

(ア) 業務継続計画の概要

 業務継続計画は、大規模災害等の発生により、非常時優先業務を特定するとともに、業務継続のために必要な措置を定め、業務立ち上げ時間の短縮や業務レベルの向上に資することにより、適切な業務執行を行うことを目的とした計画であり、各府省等は、本府省のほか、地方支分部局等についても、被害が最も甚大となる地震を対象として業務継続計画を作成することとされている。

(イ) 府省等の状況

 指定行政機関等を中心に抽出した185機関を対象に業務継続計画の策定状況をみると、指定行政機関の策定率は100%であるが、指定地方行政機関の策定率は76%となっている。
 また、構造体について建築基準法に基づく耐震性能が確保されていない官庁施設に入居している指定行政機関等において、業務継続計画で入居庁舎が被災した場合の代替施設を定めていないなど、業務継続の点から、庁舎の現状を踏まえた検討が必要な機関が見受けられた。
 次に、指定行政機関等における災害時の通信体制の状況をみると、災害時優先電話の設置率は、指定行政機関では100%となっているが、指定地方行政機関では厚生労働省の一部機関で設置されておらず、95%となっている。また、その他の災害時通信手段の確保率は、指定行政機関では96%となっているが、指定地方行政機関では厚生労働省の全ての機関で確保されていないなどのため84%となっている。

(ウ) 電力設備の状況

 商用電源の受電系統が二重化されている施設の割合は、官庁施設で35%、医療施設で43%となっているが、災害拠点病院に限定してみると69%となっている。
 また、業務継続用の自家発電設備が設置されている施設の割合は、官庁施設で85%、医療施設で98%、災害拠点病院では100%となっている。
 各施設における自家発電設備の連続運転可能時間は、72時間超の施設が最も多く、官庁施設の約6割、医療施設の約5割を占める一方で、24時間以下の施設も見受けられる。
 そして、業務継続用の自家発電設備が設置されていても、業務継続の点で必要な連続運転可能時間を満たしておらず、燃料備蓄量を増やすなどの地震減災対策が必要な官庁施設や医療施設が多数見受けられた。

(3) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 内閣府による被害額の推計

 内閣府は、23年6月に、東日本大震災における、国有、民間施設等を含む全ての建築物等のストックの被害額を約16兆9000億円とする推計を行っている。

イ 官庁施設、教育施設、医療施設等の被災状況及び所在都道府県別の被災状況

(ア) 官庁施設の建築物の被災状況

 被害の主な要因が地震又は液状化である建築物の被災状況についてみると、構造体に係る耐震安全性の評価が低い建築物及び耐震診断未実施の建築物が多数を占める状況となっていた。また、建築非構造部材及び建築設備については、耐震安全性の評価が低い建築物又は耐震診断未実施の建築物が損傷又は一部損傷したものの割合が高くなっていた。

(イ) 教育施設の被災状況

 被害の主な要因が地震である建築物の被災状況は、構造体に係る耐震安全性の評価が高い建築物でも全半壊しているものもあった。これらについては、建築物が立地する地盤の特性によるとの調査結果が報告されている。

(ウ) 医療施設及び独立行政法人の建築物の被災状況

 被害の主な要因が地震である建築物の被災状況は、構造体に係る耐震安全性の評価が低い建築物及び耐震診断未実施の建築物が多数を占める状況となっていた。

(エ) 都道府県別の被災状況

 被災した官庁施設、教育施設、医療施設等の建築物の合計は、19都道県で3,179棟となっていて、このうち地震を主な原因とするものは、宮城県、宮城県、東京都の順に、また、津波を主な原因とするものは、宮城県、岩手県、福島県の順にそれぞれ多くなっていた。

ウ 災害応急対策への対応状況

 建築物が被災したことにより、災害応急活動に影響があった建築物は238棟であり、影響した要因で主なものは、ライフライン、建具、建築設備(自家発電設備を除く。)のほか、自家発電設備、天井材等であった。

3 検査の結果に対する所見

 公共建築物の耐震化対策については、各府省等、独立行政法人及び国立大学法人等が従前から実施しているが、厳しい財政状況の下、限られた予算の中で実施するには、事業を計画的かつ効率的に実施することが不可欠である。
 今回、公共建築物の耐震化対策等の状況について検査したところ、建築非構造部材及び建築設備の診断率は、官庁施設、教育施設、医療施設等のいずれの施設においても、構造体の診断率より低く、特に医療施設の診断率が低くなっていた。また、いずれの施設においても、建築非構造部材等より構造体の耐震化が図られているが、構造体、建築非構造部材及び建築設備の全てを対象とした耐震化率は、官庁施設の特定建築物規模相当の建築物で約6割にとどまっているなど、27年までに耐震化率を9割にするという基本方針の目標を達成するためには、いずれの施設においてもより一層耐震化を推進する必要がある。さらに、ソフト面からの地震減災対策として位置付けられている業務継続計画について、所在地域の実情に合わせた被害想定等に基づいて策定されていないなどの事態が見受けられた。
 このように耐震化が必ずしも十分に実施されていないなどの事態は、防災拠点となる官庁施設の建築物等が、地震発生時に被災して、当該施設に入居する指定行政機関及び指定地方行政機関が実施する災害対策の指揮、情報伝達等の災害応急対策活動等に影響を及ぼすことになるなどのおそれがある。
 したがって、各府省等、独立行政法人及び国立大学法人等は、公共建築物の耐震化対策の実施に当たり、以下の点に留意することなどにより、建築物の重要度、耐震化対策の緊急度等を総合的に勘案して、必要な耐震診断を実施し、耐震診断の結果、耐震改修等が必要な場合には、既存官庁施設の有効活用等も含めて多角的に検討するなどして、耐震化対策を計画的かつ効率的に実施していくことが重要である。

(1) 耐震診断の状況

ア 耐震化に関する公表

 官庁施設の耐震化に関する公表は、国土交通省官庁営繕部及び最高裁判所が公表しているが、各府省等の建築物に関する公表の割合が低いことから、各府省等は、耐震化に関する公表について検討し、積極的に公表するよう努める。

イ 官庁施設の耐震診断の実施状況

 官庁施設の構造体の耐震診断は、特定の省を除いて診断率が高く、特定建築物規模相当の建築物における診断率は高いものであった。今後は、耐震診断が未実施となっている建築物については施設の重要度、強化地域等の地域性を考慮して、計画的に必要な耐震診断を実施する。

ウ 教育施設の耐震診断の実施状況

 教育施設の構造体の耐震診断は、比較的診断率が高く、今後も必要なものについては耐震診断を実施する。
 教育施設の建築非構造部材及び建築設備の耐震診断は、構造体に比べて診断率が低いことから、耐震診断の必要性を十分に認識し、施設の重要度、強化地域等の地域性も考慮して、計画的に必要な耐震診断を実施する。

エ 医療施設の耐震診断の実施状況

 医療施設の構造体の耐震診断は、官庁施設や教育施設と比べても診断率が低く、建築非構造部材や建築設備は更に低いことから、今後も施設の重要度、強化地域等の地域性を考慮して、計画的に必要な耐震診断を実施する。また、災害拠点病院は、特にその重要性を十分に考慮して計画的に必要な耐震診断を実施する。

オ 独立行政法人の建築物における耐震診断の実施状況

 独立行政法人の建築物における特定建築物規模相当の建築物でも構造体の診断率は約6割であり、建築非構造部材及び建築設備の診断率は更に低いことから、耐震診断の必要性を十分に認識し、施設の重要度、強化地域等の地域性を考慮して、計画的に必要な耐震診断を実施する。

(2) 耐震改修の状況

ア 耐震改修の実施状況

(ア) 官庁施設の耐震改修の実施状況

a 官庁施設における耐震化率は、特定建築物規模相当の建築物では棟数で約6割となっていることから、現状の耐震化率を踏まえ、建築物の重要度、耐震化対策の緊急度等を総合的に勘案して、計画的に必要な耐震化対策を実施する。特に、地震防災に関する対策を強化する必要がある地域等においてより重要度の高い施設は、引き続き必要な耐震化対策を実施する。

b 庁舎法に基づく庁舎等使用調整計画は、その実施によって、所要の耐震性能が確保されていない官庁施設に入居する官署を、耐震性能が確保されている別の官庁施設に移転させ、当該官庁施設を廃止することで、耐震改修工事を実施することなく官庁施設の耐震化を図ることが可能となることから、既存官庁施設の有効活用の点からも官庁施設の耐震化対策における効果的な手段として活用を検討する。

c 官庁施設の耐震化を図るための手段の一つとなる地震防災機能を発揮するために必要な合同庁舎等の整備が一部見送られており、当該合同庁舎に入居予定となっている指定地方行政機関等が現在入居している官庁施設において、耐震化が図られていない状況となっていることから、官庁施設の耐震化を図るため、状況に応じて耐震改修工事により既存の官庁施設の耐震化を図るなどの方法を検討する。

(イ) 教育施設の耐震改修の実施状況

 教育施設における耐震化率は、特定建築物規模相当の建築物では棟数で6割以下となっていることから、現状の耐震化率を踏まえ、建築物の重要度、耐震化対策の緊急度等を総合的に勘案して、計画的に必要な耐震化対策を実施する。

(ウ) 医療施設の耐震改修の実施状況

 医療施設における耐震化率は、特定建築物規模相当の建築物では棟数で約6割となっていることから、現状の耐震化率を踏まえ、建築物の重要度、耐震化対策の緊急度等を総合的に勘案して、計画的に必要な耐震化対策を実施する。また、大規模地震等の災害時に重要な役割を果たす災害拠点病院の耐震化率は、医療施設全体に比べ高くなっているが、その重要性を考慮し、計画的に必要な耐震化対策を実施する。

(エ) 独立行政法人の建築物における耐震改修の実施状況

 独立行政法人の建築物における耐震化率は、特定建築物規模相当の建築物では棟数で6割以下となっており、官庁施設、教育施設及び医療施設と比較しても低くなっていることから、現状の耐震化率を踏まえ、建築物の重要度、耐震化対策の緊急度等を総合的に勘案して、計画的に必要な耐震化対策を実施する。

イ 業務継続の点からみた建築物の耐震化の状況

(ア) 府省等の状況

a 業務継続計画を策定していない機関は、地震は全国どこででも起こり得るものであることから、大規模な地震により当該機関が被災し機能が低下した場合においても適切に業務執行が行えるよう早急に業務継続計画を策定する。

b 業務継続計画を策定している指定地方行政機関においても、実効性のある業務継続体制の確保を図る上で、所在地域等の実情に合わせた被害想定等に基づき、個別に業務継続計画を策定する。

c 構造体について建築基準法に基づく耐震性能が確保されていない官庁施設に入居している場合には、庁舎が使用できなくなる状況も想定し、非常時優先業務を実施するための代替施設を業務継続計画に定めたり、業務継続計画において入居庁舎の現状を踏まえた被害を想定したりするなどして、業務継続の点から地震減災対策の検討を行う。

d 指定行政機関及び指定地方行政機関は、災害時の業務継続性を確保するため、中央防災無線及び災害時優先電話のほか、衛星電話、衛星携帯電話等の災害時通信手段を十分に確保する。

(イ) 電力設備の状況

a 業務継続性確保のため、指定行政機関又は指定地方行政機関が入居している官庁施設、災害拠点病院に指定されている医療施設等は、商用電源の受電系統の二重化を図ったり、業務継続用の自家発電設備を設置したりするなどして、災害応急活動等に影響が出ないように業務継続の点からの電源対策を実施する

b 災害発生時における商用電源の復旧までに要する想定時間を業務継続計画に定め、業務継続用の自家発電設備の連続運転可能時間がこれを満たすような燃料備蓄量を確保するなどの地震減災対策を実施する。

(3) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 官庁施設、教育施設、医療施設等の被災状況

 各施設の建築物の構造体における被災状況については、建築物が全半壊又は構造体が損傷した建築物は、耐震安全性の評価が低い又は耐震診断未実施の建築物が多数を占めていた。また、官庁施設の建築非構造部材及び建築設備における被災状況については、耐震安全性の評価が低い又は耐震診断未実施の建築物において、建築非構造部材等の損傷又は一部損傷の割合が高くなっていた。
 このように、耐震安全性の評価が低い建築物は、大地震動時に損傷等する危険性が高く、耐震化対策の緊急度が高いことなどから、これらの状況を総合的に勘案して、必要な耐震化対策を実施する。
 そして、教育施設、医療施設等では、建築非構造部材及び建築設備について、耐震診断未実施のものが多く、診断率が相当程度低くなっていることから、リスク管理の点からも耐震診断未実施の建築物は、計画的に必要な耐震診断を実施する。

イ 災害応急対策への対応状況

 災害応急活動に影響した要因で主なものは、ライフライン、建具、建築設備の順に多く、業務継続を図る点からも構造体に加え、建築非構造部材及び建築設備について耐震化対策を実施したり、代替手段の確保を検討したりするなどの対策を実施する。

 本院としては、今後、検査の実施を予定している地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物の耐震診断の状況、耐震改修の状況及び東日本大震災に伴う被災等の状況について引き続き検査を実施して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。