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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

東日本大震災に対処するために改正された金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況及び資本増強措置に係る公的資金の返済状況並びに預金保険機構の財務状況について


第1 東日本大震災に対処するために改正された金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況及び資本増強措置に係る公的資金の返済状況並びに預金保険機構の財務状況について

検査対象 内閣府(金融庁)、預金保険機構、株式会社整理回収機構(平成11年3月以前は株式会社整理回収銀行)
会計名 一般会計
事業の根拠 預金保険法(昭和46年法律第34号)、金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第5号)、金融機能の早期健全化のための特別措置に関する法律(平成10年法律第143号)、金融機能の強化のための特別措置に関する法律(平成16年法律第128号)一般会計予算(平成9年度〜23年度)
事業の概要 金融機能の早期健全化、金融機能の強化等のために金融機関が発行する優先株式等の引受け等を実施する資本増強措置
金融機能早期健全化法、金融機能強化法等に基づく資本増強措置の実施額  12兆9129億円 (平成9年度〜23年度)
上記のうち平成23年に改正された金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施額 1765億円 (平成23年度)
公的資金の残高 2兆1233億円 (平成23年度末)
金融機能早期健全化勘定の利益剰余金の額 1兆5606億円 (平成23年度末)

1 検査の背景

(1) 資本増強措置の概要

 我が国では、いわゆるバブル経済の崩壊後に、金融機関の破綻が相次いで発生する状況となり、金融の機能に対する内外の信頼は大きく低下し、信用秩序の維持と国民経済の円滑な運営に重大な支障が生ずることが懸念される事態となった。国は、金融システムの信頼を回復し、その安定を図るために、預金保険法(昭和46年法律第34号)、金融機能の安定化のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第5号。以下「金融機能安定化法」という。)、金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第132号。以下「金融機能再生法」という。)、金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律(平成10年法律第143号。以下「金融機能早期健全化法」という。)、金融機関等の組織再編成の促進に関する特別措置法(平成14年法律第190号。以下「組織再編法」という。)、金融機能の強化のための特別措置に関する法律(平成16年法律第128号。以下「金融機能強化法」という。)等に基づく各種の施策を実施して、これまでに多額の公的資金を投入してきたところである。
 そして、これらの施策のうち、国は、破綻はしていないが過少資本の状況に陥るなどした金融機関(持株会社を含む。以下同じ。)に対する施策として、預金保険法、金融機能安定化法、金融機能早期健全化法、組織再編法及び金融機能強化法に基づき、平成10年3月以降、預金保険機構及び株式会社整理回収機構(11年3月以前は株式会社整理回収銀行。以下「整理回収機構」という。)を通じて、金融機関が発行する優先株式等の引受け等の措置(以下「資本増強措置」という。)を実施してきた(以下、公的資金による資本増強措置が実施された金融機関を「資本増強行」という。)。
 上記のうち、預金保険法以外の法律に基づく資本増強措置は、いずれも時限的な措置であり、金融機能強化法に基づくものを除き、その申込期間を終了している。また、預金保険法に基づく資本増強措置は、金融システムに対するセーフティ・ネットとして、危機的な事態に対応するための恒久措置として定められたものであるが、15年6月に株式会社りそな銀行(以下、本文中の金融機関の名称の表記において「株式会社」の表記は省略した。)に対して資本増強措置が実施された以降、実績はない。
 資本増強措置に係る業務については、預金保険機構が自ら又は整理回収機構に委託して実施しており、これに必要な資金は、預金保険機構が、政府保証を受けた金融機関等からの借入れ又は債券の発行によって調達して、整理回収機構に業務を委託している場合はこれを整理回収機構に貸し付けている。そして、国は、毎年度の予算において、前記の各法律の規定に基づく政府保証限度額を設定している。

(2) 金融機能強化法に基づく資本増強措置

ア 金融機能強化法に基づく資本増強措置の概要
 国は、金融機関をめぐる情勢の変化に対応して金融機関の金融機能の強化を図るため、金融機関の資本の増強等に関する特別の措置を講ずることにより、金融機関の業務の健全かつ効率的な運営及び地域における経済の活性化を期することなどを目的として、16年6月に金融機能強化法を制定した。そして、預金保険機構は、この法律に基づき、20年3月末までの時限的な措置として、整理回収機構に委託して資本増強措置を実施することとした。
 その後、20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショック以降の厳しい経済情勢の変化に対応して、国は、20年12月に金融機能強化法を改正し、資本増強措置の申込期限を24年3月末まで延長するとともに、傘下の協同組織金融機関を含めて全体として金融機能を提供している中央機関(信金中央金庫、全国信用協同組合連合会等)に対し、金融機能の発揮の促進を目的として、あらかじめ国が資本増強措置を実施することを可能とする枠組みを設けるなどした。
 また、これと併せて、国は、十分な政府保証枠を確保するために、21年1月に成立した20年度一般会計第2次補正予算において、金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施のための政府保証限度額を当初設定していた2兆円から12兆円に増額した。
 金融機能強化法に基づく資本増強措置の枠組みは、図1 のとおりである。

図1 金融機能強化法に基づく資本増強措置の枠組み

図1金融機能強化法に基づく資本増強措置の枠組み

イ 東日本大震災に対処するための金融機能強化法の改正
 23年3月に発生した東日本大震災により、金融機関への様々な影響が懸念される中で、被災地域における面的な金融機能を維持・強化するとともに、預金者に安心感を与える万全の枠組みを設けることが重要となった。
 そこで、国は、信用を供与している者の財務の状況が東日本大震災の影響を受けて相当程度悪化したことなどにより、主として業務を行っている地域における円滑な信用供与を実施するために自己資本の充実を図ることが必要となった金融機関(以下「震災特例金融機関」という。)の経営基盤の充実を図るなどのため、23年6月に金融機能強化法を改正し(以下、改正後の金融機能強化法を「23年改正金融機能強化法」という。)、資本増強措置の申込期限を29年3月末まで延長するとともに、震災特例金融機関について、後述のとおり、国の資本参加の要件を緩和するなどの措置を講じた(3(2)ア(ア) 参照)。
 なお、その際に、金融機能強化法の改正に伴う政府保証限度額の変更はなかった。

(3) 資本増強措置の実施状況

 これまでに預金保険機構及び整理回収機構を通じて実施されてきた資本増強措置の実施状況は、その根拠法別に示すと表1 のとおりであり、24年3月末までに57金融機関に対して合計で12兆9129億円の資本増強措置が実施されている。これらのうち、18年11月以降に実施された資本増強措置は、全て金融機能強化法に基づく措置となっている。

表1 資本増強措置の実施状況(平成24年3月末現在)

(単位:億円)

根拠法
(資本増強措置の申込期間)
資本増強額 金融機関数 注(1) 資本増強時期 資本増強の方法 23年度末における預金保険機構の勘定名
金融機能安定化法
(平成10年2月〜同年10月)
18,156 21 10年3月 預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 金融再生勘定 注(2)
金融機能早期健全化法
(10年10月〜14年3月)
86,053 32 11年3月
〜14年3月
預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 金融機能早期健全化勘定
預金保険法
(恒久措置13年4月〜)
19,600 1 15年6月 預金保険機構が実施 危機対応勘定
組織再編法
(15年4月〜16年7月)
60 1 15年9月 預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 金融機能強化勘定 注(3)
金融機能強化法
(16年8月〜29年3月)
5,260 23 18年11月
〜24年3月
預金保険機構が整理回収機構に委託して実施 金融機能強化勘定
  うち23年6月改正後 1,765 10 23年9月
〜24年3月
   
129,129 57
注(1)  資本増強実施時の金融機関数を表記している。なお、複数の根拠法に基づいて資本増強措置を受けている金融機関があるなどのため、各欄の金融機関数を合計しても計欄とは一致しない。
注(2)  当初は、金融機能安定化法に基づいて設置された金融危機管理勘定において経理していたが、金融機能安定化法の廃止に伴い、当該資産及び負債は、金融機能再生法に基づいて設置された金融再生勘定に引き継がれた。
注(3)  当初は、組織再編法に基づいて設置された金融機関等経営基盤強化勘定において経理されていたが、組織再編法に基づく資本増強措置が金融機能強化法に引き継がれたことに伴い、当該資産及び負債は、金融機能強化法に基づいて設置された金融機能強化勘定に引き継がれた。

 預金保険機構は、上記の資本増強措置に係る業務をそれぞれの根拠法に基づいて設置された勘定において区分経理しており、23年度末におけるそれぞれの勘定は、表1 に示したとおりである。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 本院は、これまでに、平成19年度決算検査報告において、資本増強措置の実施状況及び公的資金の返済状況等並びに預金保険機構の財務の状況 について、平成20年度決算検査報告において、公的資金の返済が終了していない金融機関(以下「公的資金未返済行」という。)を含む金融機関の財務の状況等 について、それぞれ掲記してきたところである。このうち、平成19年度決算検査報告においては、預金保険機構は、資本増強行の経営の健全性の維持や市場への悪影響の回避を前提としつつ、引き続き資本増強措置に係る業務を適切に実施していく必要があると認められることなどを記述している。また、平成20年度決算検査報告においては、金融庁は、昨今の金融情勢に留意しつつ、公的資金が完済されるよう、引き続き公的資金未返済行に対する監督を適切に実施する必要があることなどを記述している。
 そこで、本院は、24年次の検査において、東日本大震災の発生により金融機能強化法が改正されるなど、金融機関を取り巻く状況の変化を踏まえて、平成20年度決算検査報告以降の状況の推移に着目し、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。

ア 東日本大震災の前後で金融機関の財務にどのような変化が見られるか。被災地域に所在する金融機関の財務状況はどのように変化しているか。

イ 23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況等はどのようになっているか。

ウ 資本増強措置により取得した優先株式等の処分は国民負担の最小化や納税者の利益を勘案して、処分方針に沿って適切に実施されているか。また、公的資金未返済行に係る公的資金の返済見通しはどのようになっているか。

エ 資本増強措置の実施及び公的資金の返済状況は預金保険機構の財務にどのような影響を与えているか。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき預金保険機構等から本院に提出された財務諸表等について書面検査を行うとともに、金融庁、預金保険機構、整理回収機構等において会計実地検査を行い、金融機関の財務の状況、23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況、公的資金の返済状況等に関する各種資料等により検査した。

3 検査の状況

(1) 東日本大震災の前後における金融機関の財務の状況

 23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況をみると、24年3月末までに、岩手県等5県に所在する10金融機関(注1) が震災特例金融機関として資本増強措置の申込みを行い、計1765億円の公的資金が投入されている。
 そこで、東日本大震災の前後で金融機関の財務状況がどのように変化したかをみるため、20年3月期から24年3月期までの決算の状況について、主要行等(都市銀行、信託銀行等)、地域銀行(地方銀行、第二地方銀行及び埼玉りそな銀行)及び協同組織金融機関(信用金庫及び信用組合)の業態別に分析した。
 この際、前記の震災特例金融機関10金融機関が所在する岩手県等5県に本店を有し、当該地域を主な営業基盤としている金融機関(震災特例金融機関を含む。以下、これを「5県所在金融機関」という。)12地域銀行及び40協同組織金融機関計52金融機関(24年3月末現在)を抽出して、それらの損益等の集計を行った。
 最初に、業務純益(注2) 及び当期純損益の推移をみると、表2 のとおりである。

(注1)
 10金融機関  (岩手県)宮古信用金庫、(宮城県)仙台銀行、七十七銀行、気仙沼信用金庫、石巻信用金庫、(福島県)相双信用組合、いわき信用組合、あぶくま信用金庫、(茨城県)筑波銀行、(栃木県)那須信用組合
(注2)
 業務純益  金融機関本来の業務により得られる利益であり、具体的には、資金運用収支、役務取引等収支及びその他業務収支から一般貸倒引当金繰入額及び経費等を差し引いて算出される。

表2 業務純益及び当期純損益の推移(平成20年3月期〜24年3月期)
(単位:億円)

区分 平成20年3月期 21年3月期 22年3月期 23年3月期 24年3月期
  対前期の増減(▲)   同左   同左   同左
主要行等 業務純益 31,617 23,894 ▲7,723 30,480 6,585 31,251 770 32,375 1,123
当期純損益 14,526 ▲16,069 ▲30,595 11,594 27,663 18,504 6,910 17,485 ▲1,018
地域銀行全体 業務純益 17,760 10,676 ▲7,084 17,379 6,703 18,042 662 17,805 ▲236
当期純損益 6,401 ▲4,138 ▲10,539 6,437 10,575 6,527 90 7,272 744
  5県所在金融機関 業務純益 1,667 870 ▲797 1,741 870 1,658 ▲82 1,536 ▲121
当期純損益 1,013 ▲4 ▲1,018 858 863 ▲7 ▲865 609 616
協同組織金融機関全体 業務純益 5,442 3,945 ▲1,497 6,112 2,167 6,878 766 6,378 ▲500
当期純損益 887 ▲2,453 ▲3,341 1,676 4,130 2,085 409 1,254 ▲830
  5県所在金融機関 業務純益 241 246 4 321 75 341 20 195 ▲145
当期純損益 ▲195 ▲271 ▲75 15 287 ▲18 ▲34 ▲392 ▲374
注(1)  ▲は損失を示す。
注(2)  地域銀行の平成21年3月期当期純損益は、預金保険機構から足利銀行に対して実施された金銭贈与2565億円を除いて集計している。
注(3)  平成24年3月末現在の金融機関数は、それぞれ「主要行等」11金融機関、「地域銀行全体」107金融機関、「協同組織金融機関全体」429金融機関である。

 主要行等、地域銀行全体及び協同組織金融機関全体についてみると、21年3月期は、いわゆるリーマン・ショック後の景気の後退等により、多額の不良債権処分損及び株式等関係損失が生じて当期純損益はマイナスとなったが、22年3月期以降、毎年度当期純利益を計上している状況である。一方、5県所在金融機関については、地域銀行、協同組織金融機関共に、当期純損益が22年3月期から23年3月期にかけて利益から損失に転じ、24年3月期は、地域銀行は再び利益に転じたものの、協同組織金融機関は損失が更に拡大している。
 そこで、5県所在金融機関を更に各県別に分けて、22年3月期から24年3月期までの不良債権処分損の推移をみると、表3 のとおり、地域銀行は、栃木県を除く4県において、23年3月期が前年同期より増加しているが、24年3月期は5県とも減少している。また、協同組織金融機関は、宮城、福島、栃木各県において、23年3月期が前年同期より増加しており、24年3月期は全ての県で増加している。

表3 不良債権処分損の推移(平成22年3月期〜24年3月期)
(単位:億円)

区分 地域銀行 協同組織金融機関
平成22年
3月期
23年
3月期
24年
3月期
22年
3月期
23年
3月期
24年
3月期
全体 7,166 6,134
(▲1,031)
2,910
(▲3,223)
3,576 2,851
(▲725)
3,054
(203)
  うち5県所在金融機関 533 1,339
(806)
378
(▲960)
272 238
(▲33)
506
(267)
  うち岩手県 81 207(126) 10
(▲197)
19 14
(▲4)
30
(15)
うち宮城県 15 604
(589)
134
(▲470)
20 46
(25)
67
(20)
うち福島県 69 156
(86)
8
(▲147)
43 47
(4)
246
(198)
うち茨城県 223 250
(26)
112
(▲138)
170 95
(▲74)
114
(18)
うち栃木県 143 120
(▲22)
113
(▲7)
19 34
(14)
48
(13)
注(1)  不良債権処分損は、貸倒引当金繰入額、貸出金償却等の金額を合算したものである。
注(2)  下段の( )書きは、対前期比の増減額である。
注(3)  地域銀行の5県所在金融機関数は、それぞれ岩手県3金融機関、宮城県2金融機関、福島県3金融機関、茨城県2金融機関、栃木県2金融機関である。
注(4)  協同組織金融機関の5県所在金融機関数は、それぞれ岩手県8金融機関、宮城県9金融機関、福島県12金融機関、茨城県3金融機関、栃木県8金融機関である。

 次に、自己資本比率(単体ベース。以下同じ。)の推移をみると、表4 のとおり、20年3月期以降、各業態共に上昇傾向で推移している。また、23年3月期に当期純損失を計上していた5県所在金融機関について22年3月期と東日本大震災直後の23年3月期を比較すると、地域銀行は0.2ポイント低下し、協同組織金融機関は横ばいとなっている。そして、24年3月期においては、地域銀行は0.5ポイント、協同組織金融機関は2.1ポイント上昇している。24年3月期については、5県所在金融機関のうちの震災特例金融機関に対し金融機能強化法に基づく計1765億円の資本増強措置が実施されていることに留意する必要がある。

表4 自己資本比率の推移(平成20年3月期〜24年3月期)
(単位:%)

区分 平成20年3月期 21年3月期 22年3月期 23年3月期 24年3月期
  対前期の増減(▲)   同左   同左   同左
主要行等 12.2 12.4 0.2 15.8 3.4 17.3 1.5 17.9 0.6
地域銀行全体 10.3 10.5 0.2 11.3 0.8 11.6 0.3 11.9 0.3
  5県所在金融機関 7.4 10.4 3.0 10.7 0.3 10.5 ▲0.2 11.0 0.5
協同組織金融機関全体 11.5 11.5 0.0 12.1 0.6 12.4 0.3 12.6 0.2
  5県所在金融機関 9.9 10.4 0.5 10.8 0.4 10.8 0.0 12.9 2.1
注(1)  自己資本比率は、資産の各項目にそれぞれの資産のリスクに応じた掛目(リスク・ウエイト)を乗じて得られた額の合計(リスク・アセット)に対する資本金等の比率である。
注(2)  業態ごとに各金融機関のリスク・アセット及び資本金等をそれぞれ合計して自己資本比率を算出している。

 以上のとおり、東日本大震災の発生直後の23年3月期の損益は、金融機関全体では顕著な変化は見られないが、5県所在金融機関では当期純損益が損失に転じていて、東日本大震災の影響が現れていると思料される。また、自己資本比率は、金融機関全体では20年3月期以降毎期上昇傾向にあるが、5県所在金融機関では、当期純損失が生じている影響もあり、23年3月期において低下するなどしたものの、24年3月期は上昇に転じていて、22年3月期の自己資本比率を上回っている。

(2) 23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置

ア 23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況等

(ア) 改正点の概要
 前記のとおり、国は、23年に金融機能強化法を改正し、震災特例金融機関について、国の資本参加の要件を緩和するなどの措置を講じたが、その主な改正点は以下のとおりである。
 〔1〕 資本増強措置の申込みをする際に提出することとされている経営強化計画において、収益性・効率性等の向上に関する数値目標や従前の経営体制の見直し等の記載を求めない。
 〔2〕 国の資本参加コスト(配当率等)を平時に求められる水準よりも引き下げる。
 〔3〕 震災特例金融機関のうち信用金庫、信用組合等の協同組織金融機関について、将来、参加資本の償還の見通しが立たない場合には、預金保険機構の資金を活用して資本整理(国の資本参加を受けた協同組織金融機関の損失の填補に充てるために当該協同組織金融機関が発行した優先出資に係る権利の全部又は一部を消滅させることをいう。以下同じ。)を行う。
 上記の〔3〕 については、震災特例金融機関のうち東日本大震災によりその経営基盤が著しい影響を受け、財務の状況を確実に見通すことが困難となったと認められる協同組織金融機関(以下「特定震災特例協同組織金融機関」という。)について適用することとされている。
(イ) 資本増強措置の実施状況
 18年11月以降に実施された資本増強措置は、前記表1 のとおり、全て金融機能強化法に基づく措置となっているが、これらの実施状況を年度別等に示すと、表5 のとおり、22年度においては資本増強措置がなかったものの、23年度に再び資本増強措置が実施されている。

表5 金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況(平成18年度〜23年度)
(単位:億円)

平成18年度 19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
20年12月改正前 金額
(金融機関数)
405
(2)

(—)
405
(2)
20年12月改正後 金額
(金融機関数)
1,210
(3)
1,880
(8)

(—)
1,765
(10)
4,855
(21)
  うち震災特例金融機関(23年6月改正) 金額
(金融機関数)
1,765
(10)
1,765
(10)
金額
(金融機関数)
405
(2)

(—)
1,210
(3)
1,880
(8)

(—)
1,765
(10)
5,260
(23)

 23年度に実施された資本増強措置は、いずれも震災特例金融機関に対して実施されたものであり、表6 のとおり、24年3月末までに10金融機関に対して計1765億円実施されている。そして、その内訳をみると、協同組織金融機関7金融機関(4信用金庫及び3信用組合)のうち那須信用組合を除く6金融機関が特定震災特例協同組織金融機関に該当していて、これらに対する資本増強額は計861億円となっている。

表6 震災特例金融機関に対する資本増強措置の実施状況(平成24年3月末現在)
(単位:億円)

金融機関名 所在県 実施年月 資本増強措置の態様 資本増強額
仙台銀行 宮城県 平成23年9月 優先株式 300
筑波銀行 茨城県 23年9月 優先株式 350
七十七銀行 宮城県 23年12月 劣後ローン 200
全国信用協同組合連合会(那須信用組合) 栃木県 24年3月 信託受益権(優先出資) 54(70)
  全国信用協同組合連合会(相双信用組合) 福島県 24年1月 信託受益権(優先出資) 139(160)
全国信用協同組合連合会(いわき信用組合) 福島県 24年1月 信託受益権(優先出資) 175(200)
信金中央金庫(宮古信用金庫) 岩手県 24年2月 信託受益権(優先出資) 85(100)
信金中央金庫(気仙沼信用金庫) 宮城県 24年2月 信託受益権(優先出資) 130(150)
信金中央金庫(石巻信用金庫) 宮城県 24年2月 信託受益権(優先出資) 157(180)
信金中央金庫(あぶくま信用金庫) 福島県 24年2月 信託受益権(優先出資) 175(200)
特定震災特例協同組織金融機関 計 861
1,765
注(1)  金融機関名の( )書きは、優先出資を発行した金融機関の名称である。これらの金融機関に対する国の資本増強措置は、優先出資に係る信託受益権の一部を当該優先出資を引き受けた全国信用協同組合連合会及び信金中央金庫から買い取る方法により行われている。
注(2)  資本増強額の( )書きは、全国信用協同組合連合会及び信金中央金庫が引き受けた優先出資の発 額である。
注(3)  優先株式は、一般に議決権はないが剰余金の配当及び残余財産の分配について優先的内容を有する株式である。
注(4)  劣後ローンは、元利金の支払について劣後的内容を有する特約が付された金銭消費貸借である。
注(5)  信託受益権は、信託財産の管理及び運用の結果として元本の償還(信託財産の返還)、収益の交付等を受ける権利である。

 なお、24年9月に、新たに東北銀行(100億円)及びきらやか銀行(300億円)に対する資本増強措置の実施が決定され、同月に東北銀行の優先株式100億円の引受けが行われている。また、このほかに、同月末現在で、2金融機関が資本増強措置の活用の検討に着手する旨を公表している。
イ 震災特例金融機関の財務の状況
 震災特例金融機関について、資本増強措置の実施前後における財務状況の変化をみると、以下のような状況であった。
 22年3月期から24年3月期までの各震災特例金融機関に係る損益の推移をみると、表7 のとおり、当期純損益についてみると、22年3月期は、筑波銀行を除く全ての震災特例金融機関において当期純利益を計上していたが、東日本大震災の発生直後の23年3月期は、7金融機関が当期純損失を計上しており、筑波銀行を除く2金融機関も、22年3月期に比べて当期純利益の額が減少している。また、24年3月期は、筑波銀行及び七十七銀行の不良債権処分損が減少し、当期純利益を計上しているが、その他の8金融機関は不良債権処分損が更に増加し、当期純損失も拡大している。

表7 震災特例金融機関の損益の推移(平成22年3月期〜24年3月期)
(単位:百万円)

金融機関名 業務純益 当期純損益 不良債権処分損
平成22年3月期 23年3月期 24年3月期 22年3月期 23年3月期 24年3月期 22年3月期 23年3月期 24年3月期
仙台銀行 2,786 249 ▲533 993 ▲6,829 ▲9,504 789 3,467 4,636
筑波銀行 注(3) 4,173 8,446 5,285 ▲1,777 2,510 2,368 2,298 1,107 924
七十七銀行 21,032 23,318 24,392 11,668 ▲30,634 10,597 726 56,985 8,765
那須信用組合 319 217 ▲396 76 ▲373 ▲3,279 216 541 2,560
特定震災特例協同組織金融機関 相双信用組合 236 143 ▲85 115 17 ▲7,951 90 77 7,839
いわき信用組合 930 840 3 184 ▲317 ▲9,857 639 1,118 9,535
宮古信用金庫 196 192 ▲4 157 ▲84 ▲1,130 92 236 1,415
気仙沼信用金庫 406 276 ▲89 109 ▲1,327 ▲2,138 185 825 2,481
石巻信用金庫 801 843 463 177 ▲713 ▲1,249 327 455 1,758
あぶくま信用金庫 485 598 473 253 157 ▲5,655 192 200 5,496
注(1)  本表は、各金融機関が公表している資料等に基づいて作成したものである。
注(2)  業務純益及び当期純損益の▲は損失を表す。
注(3)  筑波銀行は、平成22年3月1日に関東つくば銀行と茨城銀行が合併して設立された銀行であり、22年3月期の計数については、関東つくば銀行の11か月分の計数と筑波銀行の1か月分の計数を合算した計数を記載している。

 また、22年3月期から24年3月期までの自己資本比率の推移をみると、表8 のとおり、資本増強措置を受ける前の決算期(仙台銀行及び筑波銀行は23年3月期、その他の震災特例金融機関は23年9月期)は、5.5%から14.7%となっており、いずれも国内に営業拠点を有する金融機関に求められている基準値の4%を上回っている。そして、資本増強措置の実施直後の決算期における自己資本比率は、いずれも直前の決算期より上昇しているが、特に、特定震災特例協同組織金融機関の中には、36.5%から54.4%と資本増強措置の実施前と比較して大幅に上昇しているものが見受けられる。この理由について、金融庁は、各特定震災特例協同組織金融機関が、潜在的な信用リスクが将来的に顕在化したとしても十分な額の自己資本を確保できるようにするという金融機能強化法の考え方に基づいて資本増強額を決定したことなどによるとしている。

表8 震災特例金融機関の自己資本比率の推移(平成22年3月期〜24年3月期)
(単位:%)

金融機関名 自己資本比率
平成22年3月期 23年3月期 23年9月期 24年3月期
仙台銀行 8.8 7.0 14.2 12.0
筑波銀行 7.6 8.1 12.0 10.9
七十七銀行 13.0 11.4 11.3 12.3
那須信用組合 6.3 5.5 5.5 18.3
特定震災特例協同組織金融機関 相双信用組合 14.5 13.8 12.0 54.4
いわき信用組合 7.4 7.2 7.1 18.2
宮古信用金庫 7.4 7.0 6.6 39.8
気仙沼信用金庫 12.7 9.8 8.4 37.0
石巻信用金庫 11.6 10.9 9.3 36.5
あぶくま信用金庫 15.3 15.5 14.7 42.4
注(1)  本表は、各金融機関が公表している資料等に基づいて作成したものである。
注(2)  太枠は、資本増強措置の実施直後の決算期を示す。

ウ 震災特例金融機関に係る経営強化計画
 金融機関が金融機能強化法に基づく資本増強措置の申込みをする場合には、当該金融機関は、以下の事項等を記載した経営強化計画を金融庁等に提出しなければならないとされている。
 〔1〕 収益性及び業務の効率の向上の程度その他の経営強化計画の終期において達成されるべきものとして掲げる経営の改善の目標やこれを達成するための方策
 〔2〕 従前の経営体制の見直しその他の責任ある経営体制の確立に関する事項
 〔3〕 中小規模の事業者に対する信用供与の円滑化その他の当該金融機関が主として業務を行っている地域における経済の活性化に資する方策

 金融機能強化法に基づく資本増強措置を受けた各金融機関は、経営強化計画の履行状況について半期ごとに金融庁等に報告することとされている。そして、当該報告を受けた金融庁等は、引き受けた優先株式等の処分等が完了するまでの間、履行状況のフォローアップを行い、履行状況に照らして必要があると認めるときは、その履行を確保するため、監督上必要な措置を命ずることができることとされている。
 上記のフォローアップに当たっては、金融庁は、前記〔1〕の事項に掲げられた収益性等に係る指標の目標値等と当該計画の履行状況報告書において記載された実績値とを比較し、実績値が目標値等の一定以下に下回るなどした場合には、当該金融機関に対してその理由及び改善策について報告を求め、さらに、必要に応じて当該改善策の実行を求めるよう業務改善命令の発動を検討することとしている。
 一方、23年改正金融機能強化法により、震災特例金融機関については、被災地の金融機関が国の資本参加の申請を行いやすくするように、前記〔1〕の事項については収益の見通しのみ記載を求め、〔2〕の事項については記載を要しないこととするなどとされている。
 そして、震災特例金融機関における経営強化計画の履行状況のフォローアップに当たっては、具体的な数値目標の達成状況により検証するのではなく、経営強化計画に掲げられた各種施策の実施状況が実績計数を含め具体的に記載されているかを検証することとされた。
 したがって、金融庁において、履行状況のフォローアップを行うに当たっては、上記施策の実施状況に係る評価の目安となる指標やその達成されるべき水準が設定されていないことを踏まえ、今後、履行状況を検証するに当たっての客観性の確保に努めることが重要になると認められる。

(3) 公的資金の返済状況及び公的資金未返済行に係る返済の見通し

ア 公的資金の返済状況
 預金保険機構は、17年10月に「資本増強のために引受け等を行った優先株式等の処分に係る当面の対応について」を公表し、資本増強行から優先株式等の処分の申出があった場合における考え方を示している。具体的には、〔1〕経営の健全性を損なわないこと、〔2〕国民負担を回避すること、〔3〕金融システムの安定性を損なわないことの三つの判断基準に照らして、特段の問題が認められなければ処分を行うこととしている。そして、優先株式等の処分の際には取得価格以上の適正な価格で処分を行うこととしている。
 資本増強措置の実施額及び公的資金の返済額等について、資本増強措置が開始された9年度から23年度までの推移をみると、図2 のとおり、57金融機関に対して実施した資本増強措置の実施額は、23年度末までの累計で12兆9129億円となっている。このうち、23年度末までにその約8割に相当する10兆7895億円が資本増強行からの申出による優先株式等の処分等により返済され、優先株式等の処分価額が取得価額を上回ったことなどにより、1兆4760億円の処分益が生じている。

図2 資本増強措置の実施額及び公的資金の返済額等の推移(平成9年度〜23年度)

図2資本増強措置の実施額及び公的資金の返済額等の推移(平成9年度〜23年度)

注(1)  「公的資金の返済額累計」は簿価ベースである。
注(2)  平成17年12月に解散したあしぎんフィナンシャルグループの優先株式1050億円に係る27億円の残余財産の分配の処理については、簿価である1050億円を公的資金の返済額累計に、毀損した優先株式に係る1022億円を損失の計上として処分益累計にそれぞれ含めている。

 また、20年度以降の返済状況をみると、表9 のとおり、優先株式及び普通株式の処分に当たっては、いずれも処分益が生じている状況である。

表9 公的資金の返済状況(平成20年度〜23年度)
(単位:億円)

年度等
区分
平成20年度 21年度 22年度 23年度
返済額 処分価額 処分益 返済額 処分価額 処分益 返済額 処分価額 処分益 返済額 返済額 処分価額 処分益
金融機能早期健全化法 4,082 4,864 782 599 699 99 730 733 3 5,412 6,297 884
  りそなホールディングス 2,202 2,254 51 2,202 2,254 51
  優先株式 1,752 1,804 51 1,752 1,804 51
劣後ローン 450 450 450 450
三井住友トラスト・ホールディングス 優先株式 1,629 2,309 680 1,629 2,309 680
ほくほくフィナンシャルグループ 優先株式 250 301 50 599 699 99 850 1,000 149
西日本シティ銀行 優先株式 350 351 1 350 351 1
東日本銀行 優先株式 200 200 0 200 200 0
岐阜銀行 優先株式 120 121 1 120 121 1
琉球銀行 優先株式 60 60 0 60 60 0
預金保険法 320 999 679 12,135 13,076 941 12,455 14,076 1,621
  りそなホールディングス 320 999 679 12,135 13,076 941 12,455 14,076 1,621
  普通株式 320 999 679 320 999 679
優先株式 0 0 0 12,135 13,076 941 12,135 13,076 941
組織再編法 60 60 60 60
  関東つくば銀行 劣後ローン 60 60 60 60
合計 4,462 5,924 1,462 599 699 99 12,865 13,810 944 17,927 20,433 2,506

 次に、23年度末現在の公的資金残高2兆1233億円の内訳等を資本増強措置の根拠法別に示すと、表10 のとおりであり、組織再編法に係る公的資金の返済は終了している。

表10 公的資金残高に係る根拠法別の内訳等(平成23年度末現在)
(単位:億円、%)

根拠法 金融機関数(資本増強時) 公的資金の返済額 返済額累計 資本増強額 公的資金残高 返済割合 公的資金未返済行数
平成19年度以前 20 21 22 23
金融機能安定化法
21
16,256
-
-
-
-
16,256
18,156
1,900
89.5
2
金融機能早期健全化法
32
73,684
4,082
599
730
-
79,096
86,053
6,956
91.9
5
預金保険法
1
27
320
-
12,135
-
12,438
19,600
7,116
63.6
1
組織再編法
1
-
60
-
-
-
60
60
-
100
-
金融機能強化法
23
-
-
-
-
-
-
5,620
5,620
-
23
57
89,967
4,462
599
12,865
-
107,895
129,129
21,233
83.5
28
注(1)  金融機関数及び公的資金未返済行数は、複数の根拠法に基づいて資本増強措置を受けているなどの金融機関があるため、各欄の金融機関数を合計しても計欄とは一致しない。
注(2)  公的資金の返済額、資本増強額及び公的資金残高は資本増強時の簿価ベースである。
注(3)  平成17年12月に解散したあしぎんフィナンシャルグループの優先株式1050億円に係る27億円の残余財産の分配の処理については、簿価である1050億円を公的資金の返済額累計に含めている。

イ 公的資金未返済行に係る公的資金の返済見通し
 前記のとおり、預金保険機構は、優先株式等の処分の際には取得価格以上の適正な価格で処分を行うこととしている。
 そこで、24年3月末現在の公的資金未返済行28金融機関のうち18金融機関(資本増強措置の実施後間もない震災特例金融機関10金融機関を除く。以下同じ。)に係る公的資金の返済見通しはどのような状況となっているか分析を行った。この際、これまでの優先株式等(劣後ローン等を除く。)の処分方法をみると、表11 のとおり、主として資本増強行への優先株式の売却、優先株式を普通株式に引き換えた上での市場を介しての資本増強行への売却等の方法により行われていた。

表11 優先株式等(劣後ローン等を除く。)の処分方法別公的資金返済額累計(平成23年度末現在)

(単位:億円、%)

処分の相手方
処分方法
公的資金返済額累計
構成比
資本増強行 優先株式のまま売却
53,249
68.0
優先株式を普通株式に引き換えた上での市場を介しての売却
12,619
16.1
普通株式の市場を介しての売却
27
0.0
資本増強行以外 優先株式のまま売却
6,057
7.7
優先株式を普通株式に引き換えた上での市場売却
6,026
7.6
普通株式のまま市場売却
320
0.4
78,299
100
(注)
 構成比は、小数点第2位以下を切り捨てているため、各項目を合計しても100にならない。

 上記を踏まえて、公的資金未返済行が公的資金を返済する際にその原資となり得る剰余金の蓄積状況と、優先株式を普通株式に引き換えた上での市場を介しての売却等による処分の可能性(普通株式で保有しているものを含む。以下同じ。)をみることとした。

(ア)公的資金の返済原資となり得る剰余金の蓄積状況
 公的資金未返済行の公的資金の返済原資となり得る剰余金の蓄積状況について20年3月期から24年3月期までの推移を示すと、表12 のとおりである。

表12 公的資金未返済行に係る剰余金の推移(平成20年3月期〜24年3月期)
(単位:億円)

金融機関名 資本増強 剰余金 公的資金残高
(24年3月末現在)
年月 根拠法 注(1) 平成20年3月期 21年3月期 22年3月期 23年3月期 24年3月期
新生銀行 10.3
12.3
安定化法
早健法
3,073 1,434 957 1,069 1,176 2,500 注(7)
あおぞら銀行 10.3
12.10
安定化法
早健法
3,371 823 873 1,153 1,543 2,152 注(7)
りそなホールディングス 11.3
13.4
15.6
早健法
早健法
預保法
11,659
(23,375)
12,560
(20,852)
13,345
(20,852)
8,340 10,288 8,716
三井住友トラスト・ホールディングス 11.3 早健法 4,290
(3,632)
3,312 3,740 3,946 8,401 2,003
千葉興業銀行 12.9 早健法 306 202 240 299 359 600
紀陽ホールディングス 18.11 強化法 303 294 362 408 457 315 注(8)
豊和銀行 18.12 強化法 12 13 17 21 31 90
北洋銀行 21.3 強化法 △562 306 412 639 1,000
福邦銀行 21.3 強化法 36 2 17 23 60
南日本銀行 21.3 強化法 △83 10 16 35 150
みちのく銀行 21.9 強化法 41 52 59 200
きらやか銀行 21.9 強化法 47 52 60 200
第三銀行 21.9 強化法 30 50 57 300
山梨県民信用組合 21.9 強化法 △224 △2 △65 450
東和銀行 21.12 強化法 38 91 153 350
高知銀行 21.12 強化法 55 76 100 150
フィデアホールディングス(北都銀行) 22.3 強化法 11 16 27 100
宮崎太陽銀行 22.3 強化法 7 19 30 130
注(1)  表中においては、金融機能安定化法は「安定化法」、金融機能早期健全化法は「早健法」、預金保険法は「預保法」、金融機能強化法は「強化法」と表記している。
注(2)  剰余金は、利益剰余金から利益準備金を除いたものである。
注(3)  りそなホールディングス及び紀陽ホールディングスの剰余金は、ホールディングス本体と傘下の銀行子会社の剰余金を合算したものである。
注(4)  三井住友トラスト・ホールディングスの剰余金は、平成23年3月期までについては、合併前の中央三井トラスト・ホールディングスと傘下の銀行子会社の剰余金を合算したものであり、24年3月期については、合併後の三井住友トラスト・ホールディングスと傘下の銀行子会社の剰余金を合算したものである。
注(5)  フィデアホールディングス(北都銀行)の剰余金は、北都銀行のみの剰余金である。
注(6)  平成20年4月以降、公的資金の一部返済を行ったため、各期末の公的資金残高が、24年3月末現在の金額と異なる金融機関については、返済前の残高を下段( )書きで表記している。
注(7)  新生銀行及びあおぞら銀行については、簿価による残高とは別に、両銀行に投入された公的資金の返済に関する考え方として、両銀行が保有していた株式の売却益を両銀行の自己資本に充当した金額と金融機能早期健全化法に基づいて取得した優先株式に係る資本増強額とを合わせた金額におおむね相当する額を確保する趣旨で確保目標額が設定されており、平成24年3月末現在において、新生銀行については3493億円、あおぞら銀行については2223億円の確保目標額が設定されている。
注(8)  紀陽ホールディングスは、平成24年9月に154億円を返済しており、同月末現在の公的資金残高は161億円である。
注(9)  太字の計数は、剰余金の額が各期末の公的資金残高を上回っているものを示す。

 24年3月期における剰余金の状況をみると、剰余金の額が公的資金残高を上回っている金融機関は3金融機関であり、それ以外の15金融機関においては、公的資金の返済原資となり得る剰余金の額が公的資金残高を下回っている状況である。
 剰余金の額が公的資金残高を上回っている3金融機関のうち、りそなホールディングスは、22年11月に、公的資金の一部返済に係る計画を公表しており、紀陽ホールディングスは、24年9月に、公的資金の一部を返済している。残る三井住友トラスト・ホールディングスの状況については、次項の(イ)において後述する。

(イ) 優先株式を普通株式に引き換えた上での市場を介しての処分の可能性
 公的資金未返済行に係る普通株式及び優先株式のうち、普通株式については、仮にこれを市場において処分するとした場合に、時価相当額(普通株式数に株価を乗じた額)が公的資金残高を超えていれば、返済に伴う国民負担が生ずることなく処分が可能となる。
 そこで、24年3月末現在で保有している普通株式及び普通株式の取得請求権(優先株式と引換えに普通株式を取得できる株主の権利)の行使が24年3月末現在で可能となっている優先株式を対象として、これらに係る12金融機関について、24年3月末現在の公的資金残高に対する時価相当額の割合をみると、表13 のとおりである。この際、優先株式については、仮に普通株式の取得請求権を行使した場合の取得株式数(公的資金残高を取得請求価額で除して算出した株式数)を算出して、これにより時価相当額を算出した。また、分析の対象とした優先株式については、金融機能安定化法に係るあおぞら銀行の優先株式を除いて、取得請求価額に下限価額が設定されており、所定の時期の平均株価(以下「平均株価」という。)により算出される取得請求価額が下限価額を下回る場合は、当該下限価額に基づいて普通株式の取得株式数を算出することとされていることから、下限価額に対する平均株価の割合についても算出した。

表13 普通株式及び普通株式の取得請求権の行使が平成24年3月末現在で可能となっている優先株式の公的資金残高に対する時価相当額の割合等(24年3月末現在)
種類 金融機関名 公的資金残高(億円) 根拠法 注(1) 公的資金残高に対する時価相当額の割合 下限価額に対する平均株価の割合 一斉取得日 注(4)
普通株式 新生銀行 1,200 早健法 14.5% (平成19年8月1日)
1,300 安定化法 (20年4月1日)
三井住友トラスト・ホールディングス (旧中央信託銀行分) 1,500 早健法 66.0% (21年8月1日)
(旧三井信託銀行分) 503 (21年8月1日)
りそなホールディングス 2,616 預保法 73.2%
優先株式 あおぞら銀行 1,552 早健法 50.0% 41.7% 24年10月3日 注(5)
600 安定化法 30年4月1日 注(5)
千葉興業銀行 600 早健法 47.7% 43.1% 26年3月31日
優先株式 りそなホールディングス (旧あさひ銀行分) 1,000 早健法 11.7% 11.3% 26年12月1日
(旧近畿大阪銀行分) 600 早健法 25.3% 22.9% 27年4月1日
  4,500 預保法 92.9% 266.2% — 注(6)
紀陽ホールディングス 315 強化法 97.3% 211.7% 28年10月1日
豊和銀行 90 強化法 135.2% 105.4% 32年4月2日以降取締役会が定める日
福邦銀行 60 強化法 99.9% 158.9% 36年4月1日
きらやか銀行 200 強化法 93.4% 221.8% 36年10月1日
東和銀行 350 強化法 106.6% 214.2% 36年12月29日
高知銀行 150 強化法 97.0% 196.0% 36年12月29日
宮崎太陽銀行 130 強化法 99.9% 185.8% 37年4月1日
注(1)  表中においては、金融機能安定化法は「安定化法」、金融機能早期健全化法は「早健法」、預金保険法は「預保法」、金融機能強化法は「強化法」と表記している。
注(2)  新生銀行及びあおぞら銀行の公的資金残高に対する時価相当額の割合は、公的資金残高を確保目標額(新生銀行については3493億円、あおぞら銀行については2223億円)に置き換えて算出している。
注(3)  福邦銀行は、平成24年3月末現在において普通株式を公開していないため、優先株式の引受条件に従い、直近の有価証券報告書等における1株当たりの純資産額に基づいて割合を算出している。
注(4)  一斉取得日は、株主が取得請求期間の満了日までに優先株式を普通株式に引き換える権利を行使しなかった場合に、株式の発行会社が当該優先株式を取得して、株主はこれに代えて普通株式を取得することになる期日である。表中の普通株式のうち、当初優先株式として引き受けたものが普通株式に引き換えられたものについては、一斉取得日を( )書きで表記している。
注(5)  あおぞら銀行は、平成24年9月に、金融機能早期健全化法及び金融機能安定化法に係る優先株式の一斉取得日をいずれも34年6月30日に変更するとともに、預金保険機構との間で2276億円の公的資金の返済に係る契約を締結している。
注(6)  預金保険法で資本増強されたりそなホールディングスの優先株式には一斉取得日が設定されていない。
注(7)  本表は、株式の種類別、金融機関別に一斉取得日の早い株式から順に記載している。

 普通株式で保有している3金融機関の公的資金残高に対する時価相当額の割合をみると、いずれも100%を下回っており、最も低いもので14.5%となっているなど、今後株価が相当程度回復しない限り、市場における処分による公的資金の返済の見通しが立てにくい状況となっている。
 優先株式で保有している10金融機関の公的資金残高に対する時価相当額の割合をみると、このうち7金融機関の金融機能強化法に基づく優先株式については、135.2%となっている1金融機関を除き、93.4%から106.6%とおおむね100%に近い割合となっている。これらの割合が100%となっていないのは、普通株式の取得請求価額が取得時期とした24年3月末の時点より前に算出されることから、当該算出時期から取得時期までの間に株価が変動すれば、これに伴って時価相当額が増減するためである。
 一方、上記以外の3金融機関の優先株式のうち金融機能早期健全化法に基づく優先株式の公的資金残高に対する時価相当額の割合は、11.7%から50.0%と100%を大 きく下回っている。これらの優先株式については、下限価額に対する平均株価の割合が11.3%から43.1%と100%を下回っているため、取得請求権の行使により取得する普通株式数は、平均株価よりも金額の高い下限価額で算出されることとなる。この結果、公的資金残高を下限価額で除して算出される普通株式数が平均株価で除して算出される普通株式数よりも少なくなり、この少なくなった株式数に応じた評価損が取得時に生ずることになる。
 このため、平均株価が下限価額を下回っている上記3金融機関の優先株式については、仮に、今後も株価が下限価額以上に回復しないまま一斉取得日(表13注(4) 参照)を迎えて普通株式へ引き換えられた場合には、取得時に生じた評価損を回収できる水準まで株価が上昇しない限り、市場における処分による公的資金の返済の見通しは立てにくい状況となる。
 また、普通株式の発行会社が金銭を対価として特定の株主から自己の株式を取得する場合には、会社法(平成17年法律第86号)に基づく株主総会の特別決議(注3) が必要とされており、優先株式が普通株式に引き換えられた後において、公的資金未返済行が剰余金を原資として株価を上回る価額で自己の普通株式を取得することは、他の株主との間で不公平が生じ、同法で定める株主平等の原則に反するおそれがあることなどから、株主総会の特別決議を経た上で自己の普通株式を取得することによる公的資金の返済の見通しが立てにくいと思料される。
 そして、三井住友トラスト・ホールディングスの普通株式については、21年8月の一斉取得日に優先株式が普通株式へ引き換えられているが、当時の平均株価が下限価額を下回っていたため、取得した普通株式の株式数は下限価額に基づいて算出されており、その後も株価が下限価額を下回る状況で推移している。このため、24年3月期において剰余金の額が公的資金残高を上回っているものの、公的資金の返済の見通しが立てにくい状況となっていると思料される。
 このように、平均株価が下限価額を下回っている前記3金融機関の優先株式については、株価が下限価額以上に回復しないまま一斉取得日までに公的資金の返済が行われず、普通株式に引き換えられた場合は、公的資金未返済行における剰余金の蓄積状況にかかわらず、公的資金の返済の見通しが立てにくい状況に陥ることも考えられる。
 したがって、金融庁においては、今後の金融情勢に留意しつつ、公的資金が確実に返済されるよう、引き続き公的資金未返済行に対する監督を適切に実施する必要があると認められる。

 特別決議  議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議

(4) 資本増強措置に係る業務を経理している預金保険機構の各勘定の財務状況等

ア 預金保険機構の各勘定の損益構造等
 資本増強措置に係る業務を経理している預金保険機構の各勘定について、19年度から23年度までの利益剰余金等の推移をみると、表14 のとおりとなっている(各勘定の設置の根拠法については表1 を参照)。

表14 預金保険機構の各勘定の利益剰余金等の推移(平成19年度末〜23年度末)
(単位:億円)

勘定名 平成19年度末 20年度末 21年度末 22年度末 23年度末
〔1〕危機対応勘定 267 1,058 1,282 2,464 2,566
〔2〕金融再生勘定 △3,236 △3,091 △2,997 △2,878 △2,737
〔3〕金融機能早期健全化勘定 14,611 14,802 15,294 15,513 15,606
〔4〕金融機能強化勘定 5 6 10 10 49
(注)
 △は欠損金を示す。

 23年度末においては、危機対応勘定で2566億円、金融機能早期健全化勘定で1兆5606億円と多額の利益剰余金が計上されている一方で、金融再生勘定では2737億円の欠損金が計上されている。これを踏まえて、上記の各勘定について、それらの損益構造等の状況についてみると、以下のとおりである。

(ア) 危機対応勘定
 危機対応勘定に係る23年度の資産及び負債等並びに損益の状況は、表15 のとおりである。

表15 危機対応勘定の資産及び負債等並びに損益の状況

〔1〕 資産及び負債等の状況(平成23年度末)

(単位:百万円、%)

資産の部 負債及び純資産の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(流動資産) 256 0.0 (流動負債) 455,310 99.9
うち有価証券 249 0.0 うち短期借入金 455,200 99.9
(固定資産) 711,696 99.9 (固定負債)    
うち取得株式等 711,696 99.9 退職給与引当金 0 0.0
      (負債合計) 455,310 100
      (剰余金)    
      利益剰余金 256,642 100
      (純資産合計) 256,642 100
資産合計 711,952 100 負債・純資産合計 711,952

〔2〕 損益の状況(平成23年度)

(単位:百万円、%)

費用の部 収益の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(経常費用) 1,415 12.2 (経常収益) 11,577 100
うち事業外費用 1,400 12.0 うち取得株式等配当金 11,340 97.9
  うち借入金利息 115 0.9      
  うち機構債利息 1,280 11.0      
(当期利益金) 10,161 87.7      
合計 11,577 100 負債・純資産合計 11,577 100

 同勘定の資産に計上されている株式は、預金保険法に基づく資本増強措置により、15年6月にりそな銀行から取得したものである。
 そして、同勘定では、23年度末で2566億円の利益剰余金が計上されている。これは、取得した株式の配当金の利回りが借入金利息及び機構債利息の利回りを上回っていることに加えて、りそなホールディングスからの公的資金の返済に伴う株式の処分益が、23年度までの累計で1704億円生じたことによる。
 同勘定における優先株式等の引受け等に係る業務は、政府保証を受けた借入金等により実施されてきたが、同勘定に損失が生じた場合等においては、金融庁長官及び財務大臣が、当該業務の実施に要した費用に充てるため、金融機関に負担金を預金保険機構に対して納付させることなどができることとされている。
 同勘定は恒久措置を経理するために設けられた勘定であり、勘定の廃止に際しての利益剰余金の処理に係る規定は定められていない。したがって、現在保有している株式の処分による公的資金の返済が終了し、その間に新たな業務が生じていない場合には、当該利益剰余金に見合う資産は、将来の預金保険法に基づく危機的な事態に対応するための措置に備えて保有し続けることとなる。

(イ) 金融再生勘定
 金融再生勘定に係る23年度の資産及び負債等並びに損益の状況は、表16 のとおりである。

表16 金融再生勘定の資産及び負債等並びに損益の状況

〔1〕資産及び負債等の状況(平成23年度末)

(単位:百万円、%)

資産の部 負債及び純資産の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(流動資産) 3,996 0.2 (流動負債) 811,413 43.5
うち有価証券 1,668 0.1 うち預金保険機構債(1年内償還) 600,000 32.2
(固定資産) 1,583,877 99.7 (固定負債) 1,050,231 56.4
うち資産買取事業資産 1,579,166 99.4 うち預金保険機構債 1,050,000 56.4
  うち信託株式 1,562,044 98.3 (負債合計) 1,861,644 100
      (欠損金) △273,770 100
      (純資産合計) △273,770 100
資産合計 1,587,874 100 負債・純資産合計 1,587,874

〔2〕損益の状況(平成23年度)

(単位:百万円、%)

費用の部 収益の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(経常費用) 43,294 75.4 (経常収益) 57,393 100
うち資産買取事業費 7,451 12.9 うち資産買取事業収入 18,586 32.3
うち貸倒引当金繰入 25,705 44.7 うち特定協定銀行納付金収入 5,993 10.4
うち機構債利息 9,051 15.7 うち貸倒引当金戻入 32,758 57.0
(当期利益金) 14,099 24.5      
合計 57,393 100 合計 57,393 100

 同勘定では、金融機能安定化法に基づいて取得した新生銀行及びあおぞら銀行の株式を保有している。上記株式の処分に当たっては、平成22年度決算検査報告において記述したとおり、当該株式等に係る確保目標額(表12注(7) 参照)を確保することとされている。
 同勘定では、23年度末で2737億円の欠損金が計上されているが、このうち金融機能安定化法に基づく資本増強措置に係る経理を行っていた金融危機管理勘定から引き継いだ業務の損益は、14億円の利益となっている。また、金融再生勘定は、特別公 的管理銀行から取得した株式を保有しており、当該株式については、近年の株式市場の低迷により7831億円の含み損が生じている。
 金融機能再生法には、勘定の廃止時において、剰余金がある場合には国庫に納付する規定がある一方、欠損金がある場合の欠損金の処理についての規定はない。なお、国会において、同勘定の廃止時に欠損が生じている場合には適切な予算措置が講じられる旨の政府の答弁(注4) がなされている。

 政府の答弁  平成12年4月14日衆議院大蔵委員会及び同月28日参議院金融問題及び経済活性化に関する特別委員会における、金融再生勘定の廃止時に欠損が生じている場合の処理に関する大蔵政務次官の答弁

(ウ) 金融機能早期健全化勘定
 金融機能早期健全化勘定に係る23年度の資産及び負債等並びに損益の状況は、表17 のとおりである。

表17  金融機能早期健全化勘定の資産及び負債等並びに損益の状況

〔1〕 資産及び負債等の状況(平成23年度末)

(単位:百万円、%)

費用の部 負債及び純資産の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(流動資産) 965,203 61.8 (流動負債)    
うち有価証券 964,445 61.7 未払金 1 20.8
(固定資産) 595,408 38.1 (固定負債)    
うち投資その他の資産     退職給与引当金 4 79.1
  協定銀行貸付金 595,406 38.1 (負債合計) 5 100
      (剰余金)    
      利益剰余金 1,560,607 100
      (純資産合計) 1,560,607 100
資産合計 1,560,612 100 負債・純資産合計 1,560,612

〔2〕 損益の状況(平成23年度)

(単位:百万円、%)

費用の部 収益の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(経常費用) 4,614 33.3 (経常収益) 13,842 100
うち事業外費用 4,557 32.9 協定銀行納付金収入 6,031 43.5
  うち機構債利息 2,079 15.0 協定銀行貸付金利息収入 2,138 15.4
  うち有価証券償還損 2,476 17.8 事業外収益 5,672 40.9
(特別損失)          
固定資産除却損 0 0.0      
(当期利益金) 9,228 66.6      
合計 13,842 100 合計 13,842 100

 金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置は、預金保険機構が整理回収機構に委託して実施しており、同勘定では、整理回収機構の業務の実施に伴う貸付け、損失の補填及び利益納付金の受入れ等に係る経理を行っている。そして、優先株式等の処分等によって整理回収機構に利益が生じたときは、整理回収機構は、次年度に利益納付金として預金保険機構に納付して、反対に損失が生じたときは、預金保険機構が同勘定から整理回収機構に対して次年度に損失の補填をすることとされている。また、金融機能早期健全化法には、勘定の廃止時において、剰余金がある場合には国庫に納付する規定がある一方、欠損金がある場合の欠損金の処理についての規定はない。
 本院は、平成19年度決算検査報告 において、同勘定に19年度末で1兆4611億円の利益剰余金が計上されている状況について記述したところであるが、利益剰余金は、その後も毎年度増加を続け、23年度末では994億円増の1兆5606億円となっている。これは、主として、整理回収機構からの納付金収入が23年度までの累計で1兆5292億円生じたことなどによる。そして、同勘定の資産をみると、国債等の有価証券が9644億円計上されているが、そのほとんどが余裕金として運用されている状況となっている。また、金融機能早期健全化法に基づく優先株式等の公的資金残高は6956億円であり、整理回収機構に対する貸付金5954億円と1002億円の開差が生じているが、これは過去に整理回収機構が優先株式等の評価損を計上した際に預金保険機構がその損失補填等を行っていることなどによるものである。このため残りの公的資金が返済されれば、この差額に相当する金額が利益として整理回収機構から納付されることとなる。

(エ) 金融機能強化勘定金融機能強化勘定に係る23年度の資産及び負債等並びに損益の状況は、表18 のとおりである。

表18  金融機能強化勘定の資産及び負債等並びに損益の状況

〔1〕 資産及び負債等の状況(平成23年度末)

(単位:百万円、%)

資産の部 負債及び純資産の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(流動資産) 491 0.0 (流動負債) 521,713 99.9
うち有価証券 339 0.0 うち短期借入金 241,600 46.3
(固定資産) 526,200 99.9 うち預金保険機構債(1年内償還) 280,000 53.6
うち投資その他の資産     (固定負債)    
  協定銀行貸付金 526,200 99.9 退職給与引当金 5 0.0
      (負債合計) 521,719 100
      (剰余金)    
      利益剰余金 4,972 100
      (純資産合計) 4,972 100
資産合計 526,691 100 負債・純資産合計 526,691

〔2〕 損益の状況(平成23年度)

(単位:百万円、%)

費用の部 収益の部
科目 金額 構成比 科目 金額 構成比
(経常費用) 642 13.9 (経常収益) 4,607 100
うち事業外費用 555 12.0 うち協定銀行納付金収入 3,968 86.1
  うち機構債利息 146 3.1 うち協定銀行貸付金利息収入 638 13.8
  うち機構債利息 407 8.8      
(当期利益金) 3,964 86.0      
合計 4,607 100 合計 4,607 100

 金融機能強化法に基づく資本増強措置は、預金保険機構が整理回収機構に委託して実施しており、同勘定では、整理回収機構の業務の実施に伴う貸付け、損失の補填及び利益納付金の受入れ等に係る経理を行っている。そして、優先株式等の処分等によって整理回収機構に利益又は損失が生じた場合の取扱い、同勘定の廃止時における剰余金の国庫納付に係る規定等については金融機能早期健全化法等と同様である。
 同勘定では、23年度末で49億円の利益剰余金が計上されているが、これは、主として整理回収機構から受け入れた納付金収入によるものである。
 金融機能強化法に基づく資本増強措置により、委託先である整理回収機構が取得した優先株式等の24年3月末現在の残高は5260億円(23金融機関)となっており、このうち震災特例金融機関に係る優先株式等の残高は1765億円(10金融機関)となっている。
 また、特定震災特例協同組織金融機関については、国と協同組織金融機関の中央機関が共同して資本参加を行った後に、当該協同組織金融機関の財務状況が悪化し、参加資本の償還が困難となる場合には、事業再構築とともに参加資本の整理を行うことができることとされている。そして、この資本整理に伴い同勘定に損失が生じた場合には、当該損失の額の範囲内において、預金保険機構の一般勘定及び金融機能早期健全化勘定から金融機能強化勘定に繰り入れることができることとされている。

イ 金融機能早期健全化勘定で保有している資金の活用
 本院は、平成19年度決算検査報告において、金融機能早期健全化法に基づく資本増強措置は14年3月をもって終了しており、今後、金融機能早期健全化勘定において多額の資金需要が生ずる可能性は高くないものと思料され、金融庁及び預金保険機構は、同勘定で保有している資金について、今後の状況に応じて適切に対処していくことが望まれる旨を記述している。
 23年改正金融機能強化法では、前記のとおり、特定震災特例協同組織金融機関の資本整理に伴い金融機能強化勘定に損失が生じた場合には、当該損失の額のうちペイオフコスト(注5) を超える額の範囲内において、金融機能早期健全化勘定から金融機能強化勘定に繰り入れることができることとされ、金融機能早期健全化勘定で保有している資金の一部を金融機能強化勘定の損失処理のために活用できることとなった。
 上記の繰入れについては、金融機能早期健全化法に基づく業務とみなすこととされたことから、金融機能早期健全化法に基づく公的資金の返済が完了した後も、上記の繰入れが生ずることがなくなるまで、勘定の廃止がされないこととなった。そして、特定震災特例協同組織金融機関が参加資本の整理を行うかどうかの判断は、資本増強後10年を経過するまでに行うこととされており、やむを得ないと認められる事情がある場合には、更にその期間を延長することができることとされている。このため、現在、金融機能早期健全化勘定において保有している有価証券等は、全ての特定震災特例協同組織金融機関が参加資本の整理を行うかどうかの判断を行うまで同勘定でそのまま保有し続けることとなり、しかもその額は金融機能早期健全化法に基づく公的資金の返済等に伴って増加することとなると思料される。
 23年度末現在の特定震災特例協同組織金融機関に対する資本増強額は861億円であり、仮にこの全額を資本整理に伴う損失補填のために確保しておく財源の規模(以下「損失補填の財源規模」という。)と考えても、これと23年度末の有価証券の残高9644億円とは8783億円の開差が生じている。
 その一方で、国は、現下の厳しい財政状況の下で、東日本大震災及び欧州債務危機を巡る世界的な金融経済危機に対して、機動的・弾力的な政策的対応が求められている。このため、国は、予算の策定に当たり、不要不急な事務事業の徹底的な見直しをするなどして確保した財源を用いて必要性や効果のより高い政策に重点配分するといった、省庁を超えた大胆な予算の組替えを行うこととするなどしている。
 上記のような状況に鑑みると、金融機能早期健全化勘定の利益剰余金については、今後発生し得る損失補填の財源規模を踏まえて金融機能早期健全化法に基づく業務に使用する見込みがない資金(以下「余裕資金」という。)の額を合理的に見積もることが可能であれば、預金保険機構を通じて国に納付させたり、同機構において今後発生し得る国庫負担に充当したりするなど、国の財政に寄与する観点から、その有効活用を図る方策を検討する必要があると認められる。
 これについて、金融庁は、金融機能強化法の申込期限(29年3月末)内にある現時点で余裕資金の額を合理的に見積もることは困難であるとしている。また、欧州債務危機が依然として世界経済に大きな影響を及ぼしている経済環境下においては、我が国の預金保険制度の頑強性や信認を保持する上で預金保険機構の財務の健全性が重要なものとなっており、同機構の金融再生勘定において、前記ア(イ)のとおり、多額の欠損金等が生じていることを勘案すると、同機構全体の財務の健全性を維持するために、金融機能早期健全化勘定の利益剰余金を保有することは必要であるとしている。
 しかし、金融再生勘定の欠損金については、預金保険機構はその縮小に向けて業務を遂行している過程であり、また、金融機能早期健全化勘定の資金は金融機能早期健全化法に基づく業務以外の用途には使用できないこととされている。
 したがって、金融庁及び預金保険機構においては、今後の経済環境の変化等を踏まえつつ、余裕資金の見積りが可能と判断された場合は、国の財政に寄与する観点から、速やかにその有効活用を図る方策を検討する必要があると認められる。
 その際、預金保険機構の財務の健全性を維持するために、余裕資金を金融機能早期健全化法に基づく業務以外の用途に有効活用することとする場合には、財政規律の確保を目的として各勘定を区分経理することとしている法律の趣旨を踏まえて、その必要性、根拠、規模等を十分に検討する必要がある。

 ペイオフコスト  金融機関が破綻した場合、預金者1人当たりの保険金の支払限度額は、無利息等の要件を満たす決済用預金を除き元本1000万円までとその利息等とされ、これを基に計算した保険金の支払を行うときに要すると見込まれる費用。この費用については、預金保険に関する業務を経理している預金保険機構の一般勘定が負担することとされている。

4 本院の所見

(1) 東日本大震災の前後における金融機関の財務の状況

 東日本大震災の発生直後の23年3月期の損益は、金融機関全体では顕著な変化は見られないが、5県所在金融機関では当期純損益が損失に転じていて、東日本大震災の影響が現れていると思料される。また、自己資本比率は、金融機関全体では20年3月期以降毎 期上昇傾向にあるが、5県所在金融機関では、当期純損失が生じている影響もあり、23年3月期において低下するなどしたものの、24年3月期は上昇に転じていて、22年3月期の自己資本比率を上回っている。

(2) 23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置

 23年改正金融機能強化法に基づく資本増強措置は、24年3月末までに震災特例金融機関10金融機関に対して計1765億円実施されている。このうち、4信用金庫及び2信用組合の計6金融機関が特定震災特例協同組織金融機関に該当していて、これらに対する資本増強額は861億円となっている。
 震災特例金融機関については、その経営強化計画の履行状況のフォローアップに当たっては、具体的な数値目標の達成状況により検証するのではなく、経営強化計画に掲げられた各種施策の実施状況が実績計数を含め具体的に記載されているかを検証することとされた。
 したがって、金融庁において、履行状況のフォローアップを行うに当たっては、上記施策の実施状況に係る評価の目安となる指標やその達成されるべき水準が設定されていないことを踏まえ、今後、履行状況を検証するに当たっての客観性の確保に努めることが重要になると認められる。

(3) 公的資金の返済状況及び公的資金未返済行に係る返済の見通し

 金融機能早期健全化法等の各根拠法に基づく資本増強措置に投入された公的資金12兆9129億円の返済状況をみると、23年度末現在では、その約8割に相当する10兆7895億円が返済されていて、未返済となっている公的資金残高は2兆1233億円となっている。
 公的資金未返済行12金融機関の普通株式及び優先株式について、24年3月末現在の状況をみると、普通株式で保有している3金融機関の公的資金残高に対する時価相当額の割合は、いずれも100%を下回っており、市場における処分による公的資金の返済の見通しが立てにくい状況となっている。
 また、優先株式で保有している10金融機関の優先株式のうち、3金融機関の金融機能早期健全化法に基づく優先株式については、下限価額に対する平均株価の割合が100%を下回っており、仮に、今後も株価が下限価額以上に回復しないまま一斉取得日を迎えて普通株式へ引き換えられた場合には、取得時に評価損が生ずるため、当該評価損を回収できる水準まで株価が上昇しない限り、公的資金未返済行における剰余金の蓄積状況にかかわらず、公的資金の返済の見通しが立てにくい状況に陥ることも考えられる。
 したがって、金融庁においては、今後の金融情勢に留意しつつ、公的資金が確実に返済されるよう、引き続き公的資金未返済行に対する監督を適切に実施する必要があると認められる。

(4) 資本増強措置に係る業務を経理している預金保険機構の各勘定の財務状況等

 資本増強措置に係る業務を経理している預金保険機構の各勘定の財務状況をみると、23年度末においては、危機対応勘定で2566億円、金融機能早期健全化勘定で1兆5606億円と多額の利益剰余金が計上されている一方で、金融再生勘定では2737億円の欠損金が計上されている。
 上記の金融機能早期健全化勘定の利益剰余金については、金融庁及び預金保険機構において、今後の経済環境の変化等を踏まえつつ、余裕資金の見積りが可能と判断された場合は、国の財政に寄与する観点から、速やかにその有効活用を図る方策を検討する必要があると認められる。
 その際、預金保険機構の財務の健全性を維持するために、余裕資金を金融機能早期健全化法に基づく業務以外の用途に有効活用することとする場合には、財政規律の確保を目的として各勘定を区分経理することとしている法律の趣旨を踏まえて、その必要性、根拠、規模等を十分に検討する必要がある。

 本院としては、今後の金融機関を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、東日本大震災に対処するために改正された金融機能強化法に基づく資本増強措置の実施状況、資本増強措置に係る公的資金の返済状況、資本増強措置に係る業務を経理している預金保険機構の各勘定の財務状況等について今後も引き続き検査していくこととする。