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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年4月

牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

 牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等に関し、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、個別の事業の実施状況や第1次報告 の取りまとめに際して検査を実施していない団体が保有している基金の状況等について、事業の実施及び経理は事業目的等に沿って適切かつ効率的・効果的に行われているか、基金の規模や必要性等の見直しは事業の進捗状況や社会経済情勢の変化に応じて適時適切に実施されているかなどの点に着眼して検査を実施した。
 検査の結果の概要は、次のとおりである。

(1) 制度の概要及び施策の実施状況等

ア 制度の概要

 牛肉の輸入自由化による影響が懸念される中で、国内肉用牛生産の存立を確保するために肉用子牛特措法が昭和63年に制定された。肉用子牛特措法により、平成2年度に補給金制度が創設され、牛肉等関税の収入は、特定財源として肉用子牛等対策費の財源に充てられて、農林水産省が実施する国所管基金の造成を含む国庫補助事業等に使用されるほか、その大半が牛関交付金等として機構に交付されている。機構は、畜産勘定及び肉用子牛勘定を設けて畜産業振興事業補助、肉用子牛生産者補給金業務等を行っている(参照 )。

イ 施策の実施状況等

(ア) 肉用子牛等対策に係る事業費の推移等

 農林水産省における肉用子牛等対策費の3年度から22年度までの合計は、農林水産省が自ら実施するもの3797億円、農林水産省から機構に交付されるもの1兆7746億円、計2兆1544億円と多額に上っており、農林水産省から機構に交付されるものが82.3%を占めている。3年度から22年度までの肉用子牛等対策に係る事業費を「生産・経営対策」、「飼料対策」、「環境対策」、「流通・消費対策」及び「衛生・BSE対策」の区分別にみると、農林水産省の事業では、飼料対策に要した経費が1082億円と最も多く、機構の事業では、生産・経営対策に要した経費が1兆1739億円と最も多くなっている(参照 )。

(イ) 肉用子牛等対策の実施状況

a 生産・経営対策

 農林水産省及び機構は、肉用子牛生産者補給金を始めとする生産・経営対策を実施しており、その事業費は3年度から22年度までに農林水産省で599億円、機構で1兆1739億円となっていて、肉用子牛等対策の中心的な施策となっている。
 牛肉の輸入自由化が決定された昭和63年から平成22年までの牛の飼養頭数は、5年の502万頭をピークに22年の437万頭へと減少傾向にあるが、国内肉用牛の飼養頭数は、265万頭から297万頭までの間で安定的に推移している。同期間の繁殖経営及び肥育経営の飼養規模をみると、繁殖経営、肥育経営共に、零細農家が減少するとともに大規模経営が増加していることから、戸当たり飼養頭数は増加傾向にあるが、小規模経営が多い繁殖経営は、22年においても飼養頭数9頭以下の飼養戸数が全体の74.3%を占め、飼養頭数の平均は10.7頭となっている。国内肉用牛の生産費の推移をみると、繁殖経営における子牛の生産費の主なものは飼料費と労働費であり、21年度はそれぞれ生産費の約3分の1を占めている。また、肥育経営における生産費の主なものは素畜費と飼料費であり、飼料費は配合飼料価格の高騰により19、20両年度は大幅に増加している(参照 )。

(a) 肉用子牛に係る生産・経営対策

 補給金制度は、牛肉の輸入自由化により影響を受ける肉用子牛生産者に対して、肉用子牛の市場価格から算出される平均売買価格があらかじめ定められた一定の基準である保証基準価格又は合理化目標価格を下回った場合に、その価格差を補填するものとして、肉用子牛特措法に基づき2年度から実施されており、肉用子牛等対策の中心的な役割を果たす制度と位置付けられている。
 平均売買価格は、省令規格(省令で定められた種別及び各種別に対応する体重の範囲の規格)に適合する肉用子牛の指定市場における売買価格の四半期ごとの平均額である。保証基準価格は、肉用子牛の再生産を確保することを旨として農林水産大臣が毎年度定めるものである。また、合理化目標価格は、肉用子牛生産の合理化によりその実現を図ることが必要な肉用子牛の生産費を基準として農林水産大臣が定める政策目標価格である(参照 )。
 肉用子牛の主な品種の状況をみると、黒毛和種の補給金制度における契約率(指定協会との契約により補給金制度の個体登録台帳に登録された肉用子牛の頭数を牛個体識別全国データベースに記録されている子牛の頭数で除したもの)は79.2%となっている。そして、保証基準価格と合理化目標価格を安定的に一致させるという政策の目標は達成されていないが、平均売買価格が保証基準価格を上回る水準で安定的に推移していることから、再生産は確保されていると考えられる。
 乳用種の契約率は98.3%となっている。補給金制度発足以来、飼養規模の拡大等による生産性の向上を反映するなどして、保証基準価格は順次引き下げられている。しかし、合理化目標価格とは依然としてかい離があり、保証基準価格を合理化目標価格に安定的に一致させるという目標を直ちに達成することは困難な状況となっている。
 交雑種の契約率は81.7%となっている。交雑種が独立した品種とされた12年度以降、飼養規模の拡大が進んでいるものの、保証基準価格の引下げには至っておらず、保証基準価格と合理化目標価格を安定的に一致させるという目標は達成できていないが、平均売買価格が保証基準価格を上回る水準で推移していることから、育成経営における再生産は確保されていると考えられる。ただし、交雑種は、酪農経営の副産物として生産されるものであり、生乳等ひいては乳用牛の需要の動向に左右されるため、交雑種に係る畜産経営において飼養頭数を安定的に維持することには一定の限界がある(参照 )。
 平均売買価格は、肉用子牛生産者補給金の交付の要否や単価を決定する重要な要素であるため、省令規格がどのように設定されているか検査した。農林水産省は、省令規格の体重の範囲について、その見直しについての条件及び方法について何ら定めていないことから、元年の省令制定以降20年以上の間、その検証や見直しを実施しておらず、一度も改正していなかった。
 そこで、市場データ(20年から22年までの3年分)により、肉用子牛の体重分布がどのようになっているか、また、体重が増加した場合に肉用子牛の売買価格が上昇しているかについて分析するなどの方法により検査を行ったところ、全ての種別で省令規格と試算規格(会計検査院が試算した肉用子牛の各種別に対応する平均的な体重の範囲)の体重の範囲は、その上限値又は下限値において、10kg以上の差がある状況となっており、体重が増加すると売買価格も増加する傾向が見受けられた。
 そして、省令規格を見直すこととした場合、試算平均売買価格(試算規格に適合するものの売買価格の四半期ごとの平均額)と平均売買価格の差額は、保証基準価格等と平均売買価格の差額により算定される肉用子牛生産者補給金の単価に影響を与えると認められた。実際に定められた保証基準価格等を試算規格に対応する保証基準価格等と仮定して、試算規格に対応する試算平均売買価格により、20年度から22年度までの肉用子牛生産者補給金の額を試算したところ、その他の肉専用種、乳用種及び交雑種については試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を計40億2321万円(機構の補助金等相当額38億3786万円)下回る結果となった。また、褐毛和種及びその他の肉専用種については試算額が交付されていた肉用子牛生産者補給金を計6042万円(同5271万円)上回る結果となった。
 上記の事態に関して、会計検査院は、補給金制度における指定肉用子牛の体重の規格について、家畜市場で取引されている肉用子牛の体重の実態を反映した省令規格により肉用子牛生産者補給金等の額が算定されるよう、既存の家畜市場取引データを活用することなどによる省令規格の見直しの方法等を直ちに検討し、省令規格の改正を速やかに実施したり、今後の省令規格の見直しに当たっての条件や見直しの方法等を確立するとともに、必要な家畜市場取引の売買データを収集、蓄積等する体制を確立したりするよう24年4月12日に農林水産大臣に対して、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した(経営支援事業においても平均売買価格を用いることから、改善の処置を要求するに当たっては、同事業も対象としている。)(参照 )。
 拡大奨励事業は、振興基金協会を事業主体として、昭和52年度から平成21年度まで実施されており、子牛生産の拡大意欲の向上を図るため、肉専用種の繁殖雌牛の頭数を拡大又は維持した肉用子牛生産者であって補給金制度に加入している者に対して、当該四半期の平均売買価格が発動基準価格を下回る場合に補給金制度における契約子牛の頭数に応じて子牛奨励金を交付する事業である。発動基準価格が補給金制度における保証基準価格を上回っていることから、肉用子牛生産者補給金の交付がない四半期でも子牛奨励金が交付されている。また、子牛奨励金の交付を受けるには補給金制度に加入していることが条件とされていることから、経営規模を拡大又は維持している肉用子牛生産者にとっては、実質的に補給金制度の発動条件を緩和した事業となっていた(参照 )。
 資質向上事業は、配合飼料価格の高騰等を受け、繁殖経営の収益性の改善を図るため、振興基金協会を事業主体として、20、21両年度に緊急対策として実施されており、肉用子牛の資質向上に取り組んだ黒毛和種の肉用子牛生産者であって補給金制度に加入している者に対して、肉用子牛の販売価格に応じて資質向上支援交付金を交付するものである。交付対象基準価格は40万円又は出荷した当該都道府県の当該月における黒毛和種の平均取引価格のいずれか低い額であり、資質向上支援交付金は、平均売買価格ではなく肉用子牛ごとの販売価格が交付対象基準価格を下回る場合に交付されることとなっている。このため、補給金制度及び拡大奨励事業の発動の有無とは関係なく資質向上支援交付金の交付が行われ、また、資質向上支援交付金の交付を受けるには補給金制度に加入していることが条件とされていることから、肉用子牛の資質向上に取り組んでいる肉用子牛生産者にとっては、実質的に補給金制度及び拡大奨励事業の発動条件を更に緩和した事業となっていた。
 このような状況を踏まえ、効果が発現しているかについて検査したところ、農林水産省及び機構は、実施要綱等において、この事業により出生した子牛に対する育種価等による資質の確認や売買価格の調査等を行うこととしていないため、資質の向上に伴う収益性の改善があったかどうかについては、効果の発現状況を客観的に検証することができなかった(参照 )。
 経営支援事業は、上記の拡大奨励事業及び資質向上事業の仕組み及びその要件が複雑で分かりにくいことから、両事業を統合して補給金制度を補完する簡素な仕組みに見直したものであるとされ、指定協会を事業主体として、22年度から実施されている事業である。この事業は、繁殖経営の所得を確保し肉用牛繁殖経営基盤の安定に資するため、補給金制度に加入している肉用子牛生産者に対して、平均売買価格が発動基準価格を下回った場合に、経営支援交付金を交付するものである。発動基準価格が補給金制度における保証基準価格を上回っていることから、補給金制度の発動がない四半期でも経営支援交付金が交付されることがあるほか、前記の拡大奨励事業及び資質向上事業で要件とされていた取組を実施しない肉用子牛生産者にも交付されることとなる。また、緊急対策として実施された資質向上事業では要件に該当する牛に対して資質向上支援交付金が交付されていたが、経営支援事業では肉用子牛生産者補給金の交付対象となる全頭に交付されるなど、実質的に肉用子牛生産者補給金に経営支援交付金を単に上乗せするだけの事業となっている。
 そして、経営支援交付金の単価は、発動基準価格と平均売買価格の差額により算定されることから、前記のとおり、省令規格を家畜市場取引の実態を反映したものに見直した場合の試算平均売買価格等により、22年度の経営支援交付金の額を試算したところ、黒毛和種については試算額が交付されていた経営支援交付金を8億1250万円(機構の補助金相当額同額)下回り、褐毛和種については試算額が交付されていた経営支援交付金を1248万円(機構の補助金相当額同額)上回る結果となった(参照 )。
 補給金制度を補完する肉用子牛等対策として機構の畜産業振興事業により実施される経営支援事業は、補給金制度における保証基準価格を上回る発動基準価格を設定していて、肉用子牛生産者にとっては、実質的に肉用子牛生産者補給金に経営支援交付金が単に上乗せされるだけの事業となっている。そして、補給金制度と経営支援事業の目的が異なるとしても、肉用子牛生産者の保証基準価格内で再生産を可能とするための合理化努力を前提とする補給金制度に対して、補給金制度を補完する経営支援事業がその合理化努力を阻害するおそれもあることから、このような事業が恒常的なものとならないよう慎重に制度設計を行う必要があると考えられる。
 また、補給金制度は、肉用子牛特措法により定められた肉用子牛等対策の主たる事業であり、肉用子牛の再生産を確保することを目的として、肉用子牛の生産条件や需給事情等を考慮した制度設計がなされているとされている。このため、肉用子牛生産者の合理化努力を前提としても保証基準価格と生産コストが大幅にかい離しており、そのかい離が長期に及んでいて再生産が確保できないとするのであれば、機構の畜産業振興事業としては、び縫的な補填ではなく、かい離額の縮小のための努力をより促すような事業を行うことが必要であると考えられる(参照 )。
 繁殖雌牛の維持・増頭や優良繁殖雌牛への更新を目的として実施されている補助事業は、事業数が多く交付要件が多岐にわたり複雑であるとともに、事業主体も事業ごとに異なっている。各事業の実施要綱等では、導入した繁殖雌牛を重複して他の事業の対象とすることの禁止や譲渡代金の滞納者に対する新規貸付けの禁止等が定められていることから、これらの実施状況について会計実地検査を行ったところ、事業主体が異なっており、事業主体相互間の連絡が十分でなかったことなどから、家畜導入特別事業における譲渡代金の滞納者に対して肉用牛繁殖基盤強化総合対策事業等の奨励金を交付していた事態が2県で見受けられた。(参照 )。

(b) 肥育牛に係る生産・経営対策

 マルキン事業は、肉用牛肥育の効率的かつ安定的な経営等を図るなどのため、牛の枝肉価格が低落したり、素畜費、飼料費等の生産費が増加したりした場合に肥育牛の生産者に補填金を交付するものとして13年度から実施されている。16年度から21年度までの補填金の交付実績をみると、16年度から18年度までは最も多い18年度においても3億円となっているが、19年度以降増加し、20、21両年度はそれぞれ253億円、331億円と多額の補填金が交付されている。
 補完マルキン事業は、配合飼料価格の高騰等により、物財費すら賄えない状況にあったことから、緊急的・時限的な措置として肥育牛の生産者に補填金を交付するものであり、20、21両年度に実施されている。その交付実績は、20年度から22年度までに438億円となっている。
 マルキン事業と緊急対策として実施された補完マルキン事業を生産・経営対策として肥育牛1頭当たりの生産費に着目してみると、両事業の補填対象が重複していると考えられることから、マルキン事業の補填金算定の対象と補完マルキン事業の補填金算定の対象とをより綿密に比較検討してその仕組みを設計する必要があったと認められる(参照 )。
 ステップアップ事業は、20、21両年度に、配合飼料価格安定制度における追加補填の停止に伴う生産コストの増加等により肥育経営の収益性が悪化していることから、肥育経営の安定等を図るため肥育牛の生産者が生産性の向上等の取組を行う場合に奨励金(1頭当たり最大17,000円)を交付するものである。本事業の実施において、奨励金の交付額と取組に要した費用に大きな開差が生じている事態が多数見受けられたが、農林水産省及び機構は本事業の取組実施後の効果の確認を事業主体に実施させることとしていないため、取組に対するその後の効果の発現状況が確認できず、生産性の向上等の施策として有効なものであったかどうか客観的に検証できない状況となっていた。また、ステップアップ事業を経営対策の面からみるため、本事業の奨励金単価とマルキン事業、補完マルキン事業の補填金単価とを合算すると、肥育牛1頭当たりの収入額等がマルキン事業において算定している当該四半期の肥育牛1頭当たりの平均推定生産費総額を超える状況となっていた(参照 )。
 新マルキン事業は、前記のマルキン事業及び補完マルキン事業を統合して、22年度から実施されている。本事業の実施において、素畜費の算定に売買頭数が考慮されておらず、子牛1頭当たりの素畜費が正確に算定できていない事態は適切ではないことから、本事業の素畜費の算定方法を見直すことが必要と認められる(参照 )。

(c) 畜産農家に係る生産・経営対策

 機構は、負債の償還に支障を来している畜産農家に対して、地域の指導機関による経営改善のための指導と併せて、低利資金の融資による既往負債の借換措置を講ずることにより、負債の償還圧力を軽減し、自力再生を図るなどのため、利子補給事業、畜産特別資金融通円滑化事業、畜産特別資金融通円滑化特別事業、経営改善指導事業等の畜産特別資金融通事業を実施している。
 畜産特別資金融通事業の事業費は、昭和57年度から平成22年度までに計845億円と多額に上っているが、畜産特別資金融通事業全体の事業効果は、畜産物価格や飼料価格の変動により影響を受ける側面もあることから農林水産省及び機構では定量的な評価指標を設定していないため、定量的な評価は行われていない。そこで、農業信用保証保険制度に基づく信用基金の保証保険事業の対象となっている資金に係る13年度から22年度までの保険事故率をみると、農業近代化資金は1.2%から1.6%までの間で推移しているが、畜産特別資金は9.6%から32.2%までの間で推移していて、他の資金より高い状況となっている。また、畜産特別資金融通円滑化事業における昭和57年度から平成22年度までの保証債務全体の状況をみると、償還率は80.3%、事故率は13.0%となっている(参照 )。

b 飼料対策

 農林水産省及び機構は、国産飼料の一層の生産及び利用の着実な拡大により飼料自給率の向上を図り、力強い畜産経営を確立するなどのため、各種の飼料対策に係る事業を実施しており、その使途は飼料増産対策、価格安定対策及び備蓄対策に分類することができる。多額の財政資金を長期にわたり投入しているものの、飼料作物の収穫量が減少傾向にあることなどから、飼料自給率の目標を達成できない状態が恒常化しており、22年度は目標の35%に対して実績は25%となっていて、目標と実績に開差が生じている。
 飼料増産対策において、耕畜連携水田活用対策事業等のうち水田飼料作物の作付面積を基準に助成金を交付する事業は、水田飼料作物の生産振興に寄与するものの、同じ作付面積であれば、収穫量は異なっても同額の助成金となることから、助成金が水田飼料作物の増産により飼料自給率を向上させるという事業目的に沿ったものとなっているのか引き続き検討する必要がある。また、耕種農家と畜産農家の連携を推進するためには、少なくとも畜産農家による収穫された水田飼料作物の取得を事業主体が確認する必要があると考えられる(参照 )。
 価格安定対策において、積立金への拠出なしに異常補填金を受領する補助金受給者に対しても飼料自給率向上のためのインセンティブがより働くようにして飼料自給率の目標達成に寄与する仕組みを検討したり、通常補填制度を異常補填制度等からの支援なしに運営できるよう見直すことにより異常補填制度への財政支出を縮減したりする必要がある(参照 )。
 備蓄対策において、備蓄制度の発足時から備蓄穀物の購入費用の財源を全額借入金としていて、35年以上を経過した現在までに備蓄量の削減等の場合を除くと借入金の元本返済をしておらず、利払費の合計が304億円と既に借入金の元本107億円(22年度末現在)を上回っており、財政支出を縮減するための措置を検討する必要がある(参照 )。

c 環境対策

 バイオマス利活用フロンティア整備事業等は、畜産農家の家畜排せつ物から良質な堆肥を生産して土地に還元するための堆肥化施設等を整備する市町村、農業協同組合等の事業主体に対して農林水産省が補助金を交付するものである。事業主体は、実施要綱等において、事業の実施に当たり、家畜排せつ物の搬入や堆肥の生産の年間計画量等を定めた事業計画を作成して、都道府県知事の承認を受けることとされており、堆肥化施設を整備した後は事業計画に従って適正に管理運営するとともに、運用開始後5年間、毎年度における利用状況等を内容とする事業の実施状況を都道府県知事に報告することとされている。また、都道府県知事は、事業の適正な推進が図られるよう、事業主体に対して適正な管理運営を指導するとともに、事業の目標に対して達成が立ち遅れていると思われる場合には、早期達成に向けた必要な措置を講ずることなどとされている。
 バイオマス利活用フロンティア整備事業等により整備された堆肥化施設のうち9県の19施設の利用状況等について会計実地検査を行った。その結果、農業協同組合等が施設運営主体となっている堆肥センターにおいて、事業参加予定農家からの家畜排せつ物の搬入や堆肥の生産が計画どおりに行われていないため施設の利用率が50%未満と著しく低くなっていて、事業の効果が十分発現していないと認められる施設が、2県で2施設見受けられた(参照 )。

d 流通・消費対策

 家畜の主な流通経路は、生体流通と食肉流通に大別され、食肉処理施設は、食肉流通における拠点施設となっている。食肉処理施設について、施設数の推移をみると、3年度の389施設から15年度の208施設へと181施設減少して16年度以降はほぼ横ばいとなっており、と畜頭数の推移をみると、3年の2130万頭から21年の1821万頭へと309万頭減少している。また、22年7月に定められた酪肉近代化方針では、牛肉の流通の合理化に関して、食肉処理施設の稼働率が60%台前半で推移しており、その向上が課題となっているとした上で、引き続き再編整備を継続することとされている。
 22年度に稼働している食肉処理施設のうち、農林水産省又は機構から補助金等の交付を受けて施設の整備等を実施するなどした88施設を対象に稼働状況を調査したところ、13年度から22年度までの稼働率は62.1%から66.0%までの間で推移していて、22年度において24施設(27.2%)が50%未満と著しく低調となっている。また、88施設のうち部分肉処理加工施設を併設している施設である食肉センターで、13年度から22年度までの各年度における稼働率が80%未満となっている施設の割合は、75.7%から87.3%までの間の高い割合で大きな変動もなく推移している。そして、施設ごとにみると、特定の食肉センターが継続的に稼働率80%未満となっている状況である。さらに、近年、新たに整備された施設において、と畜頭数が計画した頭数に達していないなどのため、当初計画した事業効果が十分発現していないと認められる施設が1施設見受けられた(参照 )。

e 衛生・BSE対策

 食肉の処理・加工の際に発生する畜産副産物は、飼肥料用の肉骨粉等に加工処理され有効に活用されてきたが、13年9月のBSEの発生に伴い、同年10月に牛への誤用・流用を防止する観点から、牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等の飼肥料等の原料としての利用が禁止された。このため、取引が困難となった肉骨粉等の適正な処分を推進するために肉骨粉適正処分対策事業が実施されている。
 豚及び家きん由来の肉骨粉等については、その安全性が確認されたため、牛由来原料の混入防止対策が図られていることなどの製造基準の適合確認が行われたものに限って飼肥料等の原料として利用することが可能となった。また、食用油脂の製造工程から発生する牛由来の肉粉は、食用油脂以外の混入防止対策が図られていることなどの製造基準の適合確認が行われたものに限ってペットフードの原料として利用することが可能となった。
 しかし、製造基準の適合確認が行われていないことから肉骨粉適正処分対策事業の対象となった牛、豚、家きん等由来の肉骨粉等原料は、利用されることなく焼却されている。そこで、88食肉処理施設及び肉骨粉を製造している40化製場等について、22年度末における製造ラインの設置状況を調査したところ、地域の事情等によるとは考えられるものの、46食肉処理施設及び9化製場等において畜種(牛又は豚)ごとの製造ラインが設置されていなかった。そして、8道県において、肉骨粉適正処分対策事業の実施状況について会計実地検査を行ったところ、焼却に要する経費のうち輸送費の算定が過大となっていて適切を欠いている事態が1県で見受けられ、平成22年度決算検査報告に不当事項「肉骨粉適正処分対策事業補助金が過大に交付されていたもの」を掲記した(参照 )。

(2) 機構、機構の補助金交付先等に造成されている資金等の状況

ア 地方基金の状況

(ア) 地方基金の資金保有額等の状況

 国所管基金の2基金と機構所管基金の9基金、計11基金については、それぞれ農林水産省又は機構の補助金等を財源として各都道府県を単位とした地方畜産団体に22年度末において519地方基金が設置造成されている。これらのうち、一部の基金について被災4県に係るものなどを除いた480地方基金の内訳をみると、国所管基金の2基金に係る地方基金数は168地方基金(22年度末資金保有額計19億円(国庫補助金相当額6億円))、機構所管基金の9基金に係る地方基金数は312地方基金(22年度末資金保有額計734億円(機構からの補助金等相当額517億円))となっている(参照 )。

(イ) 基金保有倍率

 11基金のうち、基金保有倍率(直近の資金保有額を直近3年間の平均事業実績額で除して得た数値)が算定できない5基金を除いた6基金について、22年度末の基金保有倍率をみると、10倍以上のものは6基金に係る158地方基金、このうち、100倍以上のものは3基金に係る71地方基金となっている。
 また、直近の3年間において事業実績額がないため基金保有倍率が算定できないものは、168地方基金となっている(参照 )。

イ 地方基金に関する個別の事態

(ア) 基金事業の実施や基金管理状況等報告書の作成に問題があったもの

a 耕畜連携水田活用資金

 耕畜連携水田活用対策事業は、19年度から21年度まで実施された事業で、水田における飼料作物の生産を推進するため、都道府県水田農業推進協議会が農林水産省から補助金の交付を受けて基金(耕畜連携水田活用資金)を造成し、農業協同組合等が行う生産振興助成事業及び取組面積助成事業の2事業の取組に対して助成金を交付するものである。
 上記2事業の資金の管理については、実施要綱等において、都道府県水田農業推進協議会は、補助金の交付を受けて造成した基金に生産振興助成事業勘定及び取組面積助成事業勘定を設けて、他の事業に係る経理と区分して整理するとされている。資金の流用については、生産振興助成事業勘定から取組面積助成事業勘定への流用を行ってはならないとされている。また、資金の繰越しについては、年度の終了時に資金に余剰が生じた場合は、勘定ごとに翌年度に繰り越すとされている。
 検査したところ、11府県の水田農業推進協議会等において、生産振興助成事業を行うとして生産振興助成事業勘定で管理していた資金を、事業を実施しなかったなどのため次期繰越金として処理した後、農林水産省と協議した上で、翌年度に当該繰越金を取組面積助成事業勘定の支出に充てている事態が見受けられた。このうち2県の水田農業推進協議会等は、翌年度に再び生産振興助成事業を行うこととして農林水産省から補助金の交付を受けていたが、このような取扱いは、翌年度への繰越しが容易であるという基金事業の利点がいかされていないと考えられる(参照 )。

b 家畜導入特別事業

 家畜導入特別事業は、昭和50年度から平成22年度まで実施された事業で、肉用牛資源の維持・拡大等を図るため、市町村が事業主体となり、農林水産省及び都道府県の補助金等により造成した基金を原資として肉用繁殖雌牛を購入し、導入対象者に対して一定期間(5年間又は3年間)貸し付け、貸付期間の終了時に導入対象者に譲渡するものである。
 検査したところ、譲渡代金の滞納者が、22年度末において15県の96市町村で1,089人(滞納金額は計5億9260万円)において見受けられたり、譲渡代金の滞納金額を農林水産省及び県に報告することなく不納欠損として処理していて基金の債権管理が適切を欠いている事態が1県の1村(不納欠損額は171万円)において見受けられたり、譲渡代金の滞納者に対する新規貸付けを禁止している他の事業で貸付けを行っていたりする事態が2県の2市町において見受けられたりした。また、鹿児島県下の31市町村は、家畜導入特別事業が終了した18年3月31日以降においても新規に繁殖雌牛の貸付けを実施しており、同日以降新規の貸付けは実施していないものの事業が継続中であるとしている7市町村と合わせて38市町村は、国庫補助金相当額を国庫に納付すべき18年度以降も納付していない状況であり、会計検査院は、今後も国庫への納付状況等について注視していくこととする(参照 )。

c 拡大基金

 県基金協会は、実施要綱等において、拡大基金を他の基金の部分と区別して管理するものとされており、毎年度、当該年度の管理状況等を取りまとめた基金管理状況等報告書を提出するものとされている。検査したところ、検査したいずれの県基金協会においても、保証に付している借入金の件数、金額等の集計誤りが見受けられ、21年度までの基金管理状況等報告書が正確に作成されていなかった(参照 )。

d 都道府県事業基金

 酪農ヘルパー事業円滑化対策事業は、2年度から実施されている事業で、酪農後継者等の円滑な就農と酪農経営の安定的発展を図るため、酪農業協同組合等において、全国協会を通じた機構及び都道府県からの補助金等の交付を受けて基金を造成し、利用組合の育成・定着や熟練した酪農ヘルパーの確保・育成等を推進する事業を実施するものである。

(a) 補助事業の実施及び経理が不当と認められるもの

 平成22年度決算検査報告に不当事項「酪農ヘルパー事業円滑化対策事業の実施に当たり、補助金により造成した基金が過大に使用されていたもの」を掲記した(参照 )。

(b) 実践研修補助金の交付の効果が十分に発現していないもの

 18年度から22年度までに実践研修補助金の交付対象となった者(23年3月1日時点で実践研修期間を継続している者を除く。)395人のうち、23年4月1日時点で207人(これに係る実践研修補助金交付額1億3103万円)が退職しており、このうち74人(これに係る実践研修補助金交付額3842万円)は実践研修期間終了後90日に満たない間に退職していた。このような状況は、酪農ヘルパーの育成等を推進するための実践研修補助金の交付の効果が十分に発現していないと認められる(参照 )。

(イ) 基金の運用益により事業を実施しているため、近年の低金利の状況下において、基金事業として実施する必然性が乏しい状況になっていたもの平成22年度決算検査報告に意見を表示し又は処置を要求した事項「公益法人に補助金を交付して設置造成させている運用型の基金が保有する資金について有効活用を図るよう改善の処置を要求したもの」を掲記した(参照 )。

ウ 基金の見直し、基本的事項の公表等

(ア) 基金に関する基準

 18年8月に、国からの補助金等の交付により造成した基金を保有する基金法人が基金により実施している事業に関して、所管府省が補助金交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準として、「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」が閣議決定された。国基金基準は、基金法人が保有している基金のうち、当該基金法人において2か年度以上にわたり特定の事業を実施していくための基金を対象としている。
 一方、機構は、国基金基準の策定等を踏まえて、19年3月に、機構からの補助金の交付により造成した基金の管理に関する指導の基準として、「畜産業振興事業の実施のために独立行政法人農畜産業振興機構からの補助金の交付により造成した基金の管理に関する基準」を定めた。その後、機構は、20年12月に同基準を改正し、その対象を畜産業振興事業の事業実施主体等が機構からの補助金を財源として保有している基金であって、2か年度以上にわたり畜産業振興事業を実施していくための基金とした。
 これらの基準においては、基金の見直しや基本的事項の公表等について規定されている(参照 )。

(イ) 基準に基づく基金の見直しの状況

 21年10月から23年6月までに、機構所管基金の7基金に係る282地方基金(139地方畜産団体)について機構基金基準に基づく21年度の見直しの結果が機構及び地方畜産団体において公表されている。そして、この見直しにより都道府県事業基金に係る46地方基金のうち44地方基金から22年度に計24億2065万円が機構に返還されている(参照 )。

(ウ) 基準に基づく基金の見直しにおける問題点

a 基金の保有割合の算出

 「基金の保有割合(基金事業に要する費用に対する保有基金額等の割合)」は、合理的な事業見通し又は実績を用いて算出することとされている。しかし、各地方畜産団体が保有割合の算出に用いた数値に基づき、その算出過程を検証したところ、都道府県事業基金(42地方基金)及び地域肉用牛肥育経営安定基金(47地方基金)は、保有割合の算出が必ずしも合理的なものとなっていないと認められた。
 21年度の見直しにおいて保有割合の算出が合理的なものとなっていないと認められた上記の2基金について、直近5年間の平均事業実績額に基づくなどして21年度当初の資金保有額等のうち基金事業に要する費用を超える額等を試算すると、その合計額は2基金で78億円(補助金等相当額47億円)となる。

b 見直しの対象とならなかったもの

 国所管基金である耕畜連携水田活用資金に係る41地方基金及び家畜導入特別事業に係る234地方基金は、これらを保有している団体がそれぞれ都道府県水田農業推進協議会及び市町村であり基金法人ではないことから、国基金基準に基づく見直しの対象とならなかった。
 機構所管基金のうち、肉用子牛生産者積立金に係る47地方基金は、当該基金
 事業が畜産業振興事業ではないことから、機構基金基準に基づく見直しの対象とならなかった(参照 )。

(エ) 基準に基づく基本的事項の公表の状況

 団体は基金の基本的事項を基金造成後速やかに、また、既に設置されている基金については初回の見直しに併せて公表することとされている。
 国所管基金である耕畜連携水田活用資金に係る41地方基金、家畜導入特別事業に係る234地方基金を保有する計275地方畜産団体は、これらの基金が国基金基準に基づく見直しの対象となっていないことから、国基金基準に基づく公表を行っていない。機構所管基金のうち、肉用子牛生産者積立金に係る47地方基金を保有する47地方畜産団体は、同基金が機構基金基準に基づく見直しの対象となっていないことから、機構基金基準に基づく公表を行っていない。また、加工原料乳生産者積立金に係る10地方基金を保有する10地方畜産団体は、事業の制度上、社団法人中央酪農会議が保有する全国基金である加工原料乳生産者経営安定基金と合算して機構基金基準に基づく見直しを実施しており、基金を造成している地方畜産団体ごとには機構基金基準に基づく基本的事項の公表を行っていなかった(参照 )。

エ 第1次報告に検査の結果を記述した資金及び基金の状況

 第1次報告に検査の結果を記述した機構に造成されている調整資金及び畜産業振興資金の期末資金保有額は、21、22両年度末で大きな増減はない。
 また、第1次報告に検査の結果を記述した60基金の22年度末の状況は、21、22両年度に実施された基金の廃止及び統合により16基金が継続しており、このうち4基金が23年度中に廃止されたことから、23年度末に継続している基金は12基金(貸付金の回収のために継続している4基金を含む。)となっている。そして、上記の60基金のうち、農林水産大臣及び機構理事長に対して、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した16基金については、農林水産省及び機構は、会計検査院の指摘の趣旨に沿い、改善の処置を執っていた(参照 )。

2 所見

 牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策は、肉用子牛特措法に基づき、肉用子牛生産の安定その他食肉に係る畜産の健全な発達を図ることなどを目的として、多額の貴重な財政資金を投じて実施されている。
 会計検査院は、今回、基金の状況に関して前回に引き続き検査を実施するほか、個別の事業の実施状況について特に重点的に検査を実施した。その結果、飼料穀物価格や為替レートの大きな変動、BSEや口蹄疫等の家畜伝染病の発生等の外的要因が畜産物の生産量、価格等に大きな影響を与えていることもあるが、肉用子牛等対策に係る各事業の効果が集約されて現れることとなる補給金制度において、生産コストの低減等により保証基準価格が合理化目標価格まで下がれば肉用子牛等対策の目的を達成することになるのに、保証基準価格と合理化目標価格のかい離は制度開始当初と比較していずれの品種においても広がっていた。また、飼料自給率は、食料・農業・農村基本計画における目標に達しておらず、目標と実績に開差が生じていた。そして、検査を実施した各事業において、適切とは認められなかったり、効率的・効果的になっていなかったりする事態が見受けられた。
 したがって、農林水産省及び機構は、次のような点に留意して、適切と認められないなどの事態を改善するとともに、これを今後の肉用子牛等対策の企画、立案、実施等にいかしていくよう努める必要がある。

(1) 施策の実施状況について

ア 生産・経営対策について

(ア) 補給金制度の実施に当たっては、肉用子牛生産者補給金の交付の要否や単価を決定する重要な要素である平均売買価格の算定根拠となる省令規格が、元年の省令制定以降20年以上の間、その検証や見直しが実施されておらず、一度も改正されていないことから、省令規格が家畜市場における取引の実態を反映したものとなるよう見直しなどを行う。

(イ) 補給金制度を補完する事業の実施に当たっては、補給金制度の上乗せ事業として、保証基準価格内で再生産を可能とするための合理化努力を阻害するおそれもあることから、このような事業が恒常的なものとならないよう慎重に制度設計を行うとともに、肉用子牛生産者の合理化努力を前提としても再生産が確保できないとするのであれば、び縫的な補填ではなく、努力をより促すような事業を行う。

(ウ) 配合飼料価格安定制度における追加補填の停止に伴い、緊急対策として実施された資質向上事業及びステップアップ事業において、事業の効果が発現しているか客観的に検証できないことから、今後、同種の事業の実施に当たっては、事業評価を行うなど個々の事業の効果の発現について客観的に検証できるような制度

(エ) 肥育牛に係るマルキン事業の補填金算定の対象と補完マルキン事業の補填金算定の対象はより綿密に比較検討しその仕組みを設計する必要があったと認められることから、今後、同種の事業の実施に当たっては留意するとともに、実施要綱の策定に当たっては、表現を明確にする。

(オ) 肥育牛に係る新マルキン事業の補填金の算定に当たっては、素畜費の算定が実態を正確に反映していなかったことから、今後、適宜算定方法の見直しなどを行う。

(カ) 畜産特別資金融通事業の事業効果を高めるためには、今まで以上に借受者の自力再生へ向けた様々な取組に関して地域の指導機関が連携を深めるとともに借受者個々の実情に即したきめ細やかな指導を行うことなどに留意して経営改善指導事業を実施する。

イ 飼料対策について、補助事業を実施する際は、事業目的に沿って飼料作物を増産しているか、耕種農家と畜産農家が実際に連携しているかなどに着目した助成の仕組みを検討して、補助金受給者が政策目標達成へのインセンティブを意識できる環境を整備することなどにより、飼料自給率の向上に努める。そして、飼料増産対策による飼料自給率の向上により、価格安定対策や備蓄対策のような輸入飼料に係る財政支出を縮減するとともに、外的要因の影響が少ない安定的な飼料の供給体制を確立する。

ウ 環境対策について、都道府県知事に対して、施設の利用率が低い堆肥化施設についての事業主体に対する必要な措置を十分講ずるよう指導する。

エ 流通・消費対策について、食肉処理施設の稼働率を向上させるため、施設の再編整備を継続していくとともに、食肉処理施設における販売力の強化等の対策に取り組む。

オ 衛生・BSE対策について、肉骨粉適正処分対策事業の効率的実施という面から、また、畜産副産物の有効活用という面からも、肉骨粉等原料を飼肥料等の原料となる肉骨粉等として有効に活用するための方策を引き続き幅広く検討する。また、補助金の交付額の算定に留意して、補助事業を適切に実施する。

(2) 資金等の状況について

ア 地方基金について、基金を造成して事業を実施する場合は、基金保有倍率等に留意して、財政資金が効率的・効果的に使用されるよう努める。

イ 地方基金に関する個別の事態について、基金を造成して事業を実施する場合には、十分な調査、確認及び指導を行うなど、実施要綱等の趣旨に沿って事業を適切に実施する。また、補助金等相当額を国又は機構に返還させた上で必要に応じて年度ごとに補助金等を交付することにより事業を実施するなどの可能性も含めて、事業の在り方について幅広く検討する。

ウ 基金の見直し及び基本的事項の公表について、〔1〕 各地方畜産団体に基準等で基金の保有割合の算出方法をより具体的に示したり、〔2〕 各地方畜産団体に基金の保有割合のより具体的かつ詳細な算出根拠を見直しの結果とともに公表させたり、〔3〕 見直しの結果について十分な確認を行ったり、〔4〕 見直しの結果が基金の返還等にどのように反映されたかといった状況を定期的に公表したりなどして、国民に適時適切な情報提供を行うとともに、基金の見直し及び基本的事項の公表が基金事業の適切かつ効率的・効果的な実施に資するものとする。

 また、会計検査院は、第1次報告の検査の結果に対する所見 において、肉用子牛等対策の成果が、生産者等だけでなく、消費者にも国産牛肉の価格水準の低下を通じた便益をもたらすものとなるように、引き続き肉用牛の生産コストの低減を図っていく必要があると記述している。そして、生産コストの低減には、生産者等の合理化努力と、関連する事業について適切な評価を行った上で実施する政策による誘導の双方が不可欠であると考えられる。したがって、農林水産省及び機構は、個々の事業において生産コストの低減に効果があるか検証できるようにした上で、生産者等の合理化努力を阻害することがないか、補助金受給者が政策目標達成へのインセンティブを強く意識できる環境が整備されているかに特に留意して、今後の牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策をより効率的・効果的に実施する必要がある。

 以上のとおり報告する。
 会計検査院としては、今後とも、牛肉等関税を財源とする肉用子牛等対策の施策等が適切かつ効率的・効果的に実施されているかについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。