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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

 会計検査院は、平成23年12月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

 年金積立金管理運用独立行政法人等

(二)検査の内容

 年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等に関する次の各事項

 〔1〕 年金積立金の管理運用に係る業務の状況

 〔2〕 契約方式等の状況

 〔3〕 委託先機関における運用実績の状況

2 公的年金制度の概要

 我が国における公的年金制度の沿革は、図表1 のとおりであり、昭和15年に船員保険法(昭和14年法律第73号)が施行されて、船員を対象にした「船員保険」が発足している。そして、船員以外の一般被用者については、17年の労働者年金保険法の施行により、工場、事業場等に勤務する男子労働者を対象にした「労働者年金保険」が発足し、次いで19年の旧厚生年金保険法の施行により、上記の男子労働者以外の男子労働者や女子労働者にも対象が拡大されて「厚生年金保険」と改称された。その後、29年に現行の厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)が施行され、36年に国民年金法(昭和34年法律第141号)が全面施行されて、自営業者等を対象とする「国民年金」が発足した。

図表1 主な公的年金制度の沿革

図表1主な公的年金制度の沿革

(注)
 法律名に付記した年月は、当該法律の施行年月である。

 我が国の公的年金制度においては、民間の被用者を対象とする厚生年金保険、公務員等を対象とする複数の共済年金及び自営業者等を対象とする国民年金のそれぞれが分立していた。
 このように分立した制度体系では、就業構造・産業構造の変化によって、財政基盤が不安定になり長期的安定が図られず、また、制度により給付や負担に不公平が生じやすいなどの問題点があった。このため、図表2 のとおり、60年の公的年金制度の改革により、61年4月から、国民年金を全国民共通の基礎年金として支給して、厚生年金保険や共済年金を報酬比例の年金を支給する「基礎年金の上乗せ」として位置付け、いわゆる二階建ての年金制度として再編成した基礎年金制度が導入された。

図表2 現在の公的年金制度

図表2現在の公的年金制度

3 年金積立金の概要

(1) 運用の目的

 我が国の現行の公的年金制度は、現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるという世代間扶養の考え方(賦課方式)を基本として運営されている。このため、年金給付を行うために必要な資金をあらかじめ全て積み立てておくという考え方は採られていない。
 しかし、厚生労働省(平成13年1月5日以前は厚生省)は、我が国においては、現役世代の保険料のみで年金給付を賄うこととすると、保険料負担の急激な増加又は給付水準の急激な低下が避けられないことから、一定の金額を年金積立金として保有し、その運用収入を年金給付の財源の一部として活用することとしている。
 年金積立金の運用の概要は、図表3 のとおりである。

図表3 年金積立金の運用の概要

図表3年金積立金の運用の概要

(2) 年金積立金の推移

 年金積立金は、図表4 のとおり、昭和50年度末の14兆2090億円から平成17年度末の150兆0231億円まではほぼ一貫して増加していたが、18年度末以降は減少しており、22年度末は121兆8926億円となっている。その要因として、21年度以降は、年金特別会計への償還額が新規寄託金等の額を上回っていることなどがあり、その超過額は、21年度3兆9467億円、22年度6兆1983億円となっている。

図表4 年金積立金の推移

図表4年金積立金の推移

(注)
 平成13年度以降は、年金特別会計で管理する年金積立金に、年金積立金管理運用独立行政法人(17年度までは旧年金資金運用基金)において管理する年金積立金を加えた時価ベースの額である。

4 年金積立金等の運用主体の変遷

 年金積立金は、12年度までは、その全額を旧大蔵省資金運用部(以下「旧資金運用部」という。)に預託することが義務付けられており、旧年金福祉事業団(以下「旧事業団」という。)は、旧資金運用部から資金を借り入れ、厚生年金保険及び国民年金の被保険者等の福祉の増進に必要な事業を行っていた。そして、13年4月以降、年金積立金は、厚生労働大臣から直接、旧年金資金運用基金(以下「旧基金」という。)に寄託され、自主運用されることとなり、18年4月に旧基金が解散してからは、年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund。以下「GPIF」という。)が運用を行っている。

(1) 旧事業団の概要

ア 設立の目的

 旧事業団は、年金福祉事業団法(昭和36年法律第180号)に基づき、年金積立金の一部を活用して、厚生年金保険及び国民年金の被保険者等の福祉の増進に必要な施設の設置又は整備を促進するための貸付けを行うことなどを目的として、昭和36年11月25日に設立された。

イ 旧事業団の事業の内容

 旧事業団は、旧資金運用部から資金を借り入れたり、旧厚生保険特別会計、旧船員保険特別会計及び旧国民年金特別会計から政府出資金及び政府交付金の交付を受けたりして、次の事業の運営を行っていた。

(ア) 貸付事業

 旧事業団は、厚生年金保険、船員保険及び国民年金(以下「厚生年金保険等」という。)の被保険者等の福祉の増進を目的として、〔1〕 厚生年金保険等の被保険者に対し、住宅の建設又は購入に要する資金を貸し付ける被保険者住宅資金貸付、〔2〕 厚生年金保険の適用事業所の事業主等に対し、被保険者等の福祉を増進するために必要な分譲住宅、療養施設、厚生福祉施設等の設置又は整備に要する資金を貸し付ける福祉施設設置整備資金貸付等の事業を行っていた。

(イ) 施設事業

 旧事業団は、厚生年金保険及び国民年金の受給権者が生きがいのある老後生活を送るための場を提供するとともに、これらの年金制度の被保険者等の余暇利用に資することを目的として、大規模年金保養基地(通称グリーンピア)を全国11基地13か所に設置していた。

(ウ) 資金運用事業

 旧事業団は、61年度から平成12年度まで、預託金利と同率で旧資金運用部から資金を借り入れ、これを市場で運用することにより借入金利を上回る有利な運用を図ることを目的として、資金運用事業を実施していた。

a 資金運用事業の内容

 資金運用事業には、次の2事業があった。

〔1〕 年金福祉事業団法に基づき、旧事業団の貸付事業等を将来にわたって安定的に実施する資金を確保するための資金確保事業(昭和61年度に運用開始)

〔2〕 「年金財政基盤強化のための年金福祉事業団の業務の特例及び国庫納付金の納付に関する法律」(昭和62年法律第59号)に基づき、運用収益を国庫に納付することにより、厚生年金保険及び国民年金の年金給付財源の強化を図るための年金財源強化事業(62年度に運用開始)

b 資金運用事業の市場における運用方法

 市場における運用は、次の三つの方法により行われていた。

〔1〕 信託銀行との単独運用指定金銭信託契約の締結による方法

〔2〕 生命保険会社との生命保険契約等により運用を委託する契約の締結による方法

〔3〕 旧事業団自らが、投資顧問会社の助言を得ながら安全性の高い債券等に限定して行う自家運用による方法

c 資金運用事業の原資等

 資金運用事業の原資は、全額旧資金運用部からの借入金であったが、元金の償還については、資金確保事業では、5年間据置き後に5年間の元金均等償還で半年賦払いすること、年金財源強化事業では、7年間据置き後に一括償還することをそれぞれ原則としていた。また、利払いについては、両事業とも、借入日時点の財投金利を償還完了時まで適用する長期固定金利で、年2回払いすることとなっていた。

d 資金運用事業の費用等

 資金運用事業の費用には、旧資金運用部に対する借入利息、自家運用に係る投資顧問会社の助言に対する手数料等の運用諸費及びその他これら運用事業に係る旧事業団の人件費等の一般管理費があった。そして、信託銀行及び生命保険会社の運用収入から、運用に伴う手数料等の諸経費を控除した金額が、旧事業団の運用収益となっていた。また、借入利息、運用諸費については、運用収入をもって充て、それが不足したときは運用元金を取り崩して支払い、一般管理費については、旧厚生保険特別会計及び旧国民年金特別会計から交付される政府交付金により賄われていた。

(2) 旧基金の概要

ア 旧事業団の解散

 旧事業団は、「特殊法人等の整理合理化について」(平成9年6月閣議決定)により、年金資金の運用の新たな在り方についての結論を得て、廃止されることとなった。そして、平成12年3月に公布された年金改革関連三法(注1) 及び同年5月に公布された「資金運用部資金法等の一部を改正する法律」(平成12年法律第99号)に基づき、旧事業団は、13年4月1日に、年金積立金を自主運用するために新たに設立された旧基金に業務を承継し、同日に解散した。

 年金改革関連三法  「国民年金法等の一部を改正する法律」(平成12年法律第18号。以下「平成12年改正法」という。)、年金資金運用基金法(平成12年法律第19号)及び「年金福祉事業団の解散及び業務の承継等に関する法律」(平成12年法律第20号)

イ 旧基金の設立

 旧基金は、年金資金運用基金法に基づき、厚生労働大臣から寄託された年金資金を、厚生労働大臣が定める「運用の基本方針」に沿って適切に管理運用するとともに、その収益を国庫に納付することにより、厚生年金保険事業及び国民年金事業の運営の安定に資することを目的として、年金積立金の管理運用を実施する機関として、13年4月1日に設立された。

ウ 旧基金の事業の内容

(ア) 旧事業団から承継した貸付事業

 旧基金は、旧事業団の既往債権の管理回収を行うほか、被保険者住宅資金貸付及び福祉施設設置整備資金貸付のうち分譲住宅に係る貸付けについて、引き続き政府交付金の交付を受けて17年1月末まで新規貸付けを行っていた。
 なお、福祉施設設置整備資金貸付のうち病院等の療養施設及び老人ホームに係る貸付けなどについては、旧事業団の解散に伴い、13年4月から旧社会福祉・医療事業団において実施することとされ、福祉施設設置整備資金貸付のうち厚生福祉施設に係る貸付けについては廃止された。

(イ) 旧事業団から承継した施設事業

 旧基金は、旧事業団の解散の際に大規模年金保養基地を承継し、17年12月に全ての基地の地方公共団体等への譲渡が完了するまでの間、管理・運営を行っていた。

(ウ) 旧事業団から承継した資金運用事業

 旧基金は、旧事業団の資金運用事業の運用資金を承継して、承継資金運用業務として、同資金の管理運用を行うとともに、旧資金運用部に対する借入金の償還を確実かつ円滑に行うこととなった。
 また、年金積立金については、13年4月からは、旧基金が、管理運用業務として厚生労働大臣から年金積立金の寄託を受けて運用を行い、その収益を国庫に納付することとなった。

(エ) 旧基金の解散

 年金積立金の運用組織については、特殊法人等整理合理化計画(平成13年12月閣議決定)に基づき、専門性を徹底し責任の明確化を図る観点から、制度改革が行われることとなった。そして、年金積立金の管理運用については、年金積立金管理運用独立行政法人法(平成16年法律第105号。以下「GPIF法」という。)に基づき、18年4月1日に設立されたGPIFが行うこととなり、旧基金は同日に解散した。

(3) 独立行政法人福祉医療機構における承継債権の管理回収業務の概要

 独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人福祉医療機構法(平成14年法律第166号)に基づき、福祉施設設置整備資金貸付、年金住宅資金貸付等に係る債権の管理回収業務を行っている。これらの貸付けは、旧基金(13年3月以前は旧事業団)が旧資金運用部(13年4月以降は財政融資資金)からの長期借入金を財源として年金被保険者等が住宅を取得する際に必要な資金等を貸し付けていたもので、機構は、18年4月1日の旧基金の解散に伴い、貸付けに係る債権を旧基金から承継している(以下、旧基金から承継した貸付けに係る債権を「承継債権」という。)。
 そして、承継に当たっては、GPIF法の附則により、旧基金の解散の時までに旧資金運用部からの長期借入金を繰上償還することとされ、繰上償還に要する資金は、政府が旧厚生保険特別会計等から出資等することとされた。
 前記の貸付けは、いずれも機構の承継時までに新規の貸付けを終了していて、機構は、債権の管理回収に係る業務のみを実施している。そして、機構は、この業務に係る経理を他の経理と区分するため、承継債権管理回収勘定(以下「回収勘定」という。)を設けて経理している。
 機構は、独立行政法人福祉医療機構法等により、毎事業年度、当該事業年度内に回収した承継債権の元本の金額を翌事業年度の7月10日までに年金特別会計に納付することとされている。そして、この際に、回収勘定の損益計算において生じた利益について独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)による整理を行った結果、積立金がある場合には、当該積立金に相当する金額を加えた金額を翌事業年度の7月10日までに年金特別会計に納付することとされている。

(4) GPIFの概要

ア GPIFの設立

 GPIFは、GPIF法に基づき、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理及び運用を行うとともに、その収益を国庫に納付することにより、厚生年金保険事業及び国民年金事業の運営の安定に資するために、年金積立金の管理運用を実施する機関として、18年4月1日に設立された。

イ 年金積立金の運用の仕組み

 財政投融資制度の抜本的な改革により、年金積立金の運用については、13年4月以降、厚生労働大臣から、直接、運用主体に寄託され、運用主体において管理・運用される仕組みとなっている。
 厚生労働大臣は、通則法に基づき、GPIFが達成すべき業務運営に関する目標(以下「中期目標」という。)を定め、GPIFは、中期目標を達成するための計画(以下「中期計画」という。)を作成している。そして、GPIFが行った業務実績に関する評価は、厚生労働省に設置されている外部有識者から構成される独立行政法人評価委員会が行うこととなっている。
 GPIFは、中期計画において、年金積立金の運用に関して〔1〕 運用の基本方針、〔2〕 長期的な観点からの資産構成割合(以下「基本ポートフォリオ」という。)、〔3〕 運用に関して遵守すべき事項等を定め、専ら被保険者のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に管理運用業務を行うこととしている。
 また、GPIFには、経済・金融に関して高い識見を有する者等のうちから厚生労働大臣が任命した委員で構成される運用委員会が設置されており、運用委員会は、中期計画等を審議するとともに、運用状況等の管理運用業務の実施状況を監視している。

ウ 年金積立金の運用方法

(ア) 市場運用

 厚生労働大臣から寄託された年金積立金については、GPIFが中期計画に従って管理・運用する仕組みとなっており、GPIFは、中期計画の中で策定した基本ポートフォリオに基づき、国内債券を中心としつつ国内外の株式等を一定程度組み入れた分散投資を行っている。
 GPIFは、年金積立金を市場で運用する際は、民間の運用機関を活用しており、これらの運用機関を通じて、運用対象資産(国内債券、国内株式、外国債券、外国株式及び短期資産)ごとに資産構成割合が一定の範囲内に収まるよう管理している。

(イ) 財投債の引受け

 旧資金運用部は、郵便貯金や年金積立金の預託により調達した資金を特殊法人等に貸し付けていた。しかし、財政投融資制度の抜本的な改革の結果、特殊法人等は、必要な資金を自ら財投機関債を発行して市場から調達することとなり、財投機関債の発行が困難な特殊法人等については、財政融資資金特別会計が国債の一種である財投債を発行して、市場から調達した資金をこれらの特殊法人等に貸し付ける仕組みとなった。そして、この財投債の一部については、経過的に、GPIFに寄託された年金積立金で引き受けることが、平成12年改正法の附則に定められた。このため、GPIF(17年度までは旧基金)は、厚生労働大臣から寄託された年金積立金により、19年度まで財投債の引受けを行うこととされた。
 なお、寄託された年金積立金のうち財投債引受分は、GPIFにおいて、市場運用分と区分して管理されている。

(ウ) 旧基金から承継した資産の運用

 GPIFは、旧基金が旧事業団から承継した資金運用事業に係る資産を、その原資である旧資金運用部からの借入金の返済義務とともに旧基金から承継し、この資産について、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の市場運用分と合わせて22年度まで運用していた。

5 年金特別会計の概要

(1) 年金特別会計の勘定

 年金特別会計は、19年度に厚生保険特別会計と国民年金特別会計とを統合して設置された特別会計である。
 年金特別会計は、国民年金法による国民年金事業、厚生年金保険法による厚生年金保険事業等に関する政府の経理を明確にすることを目的として設置され、基礎年金勘定、国民年金勘定、厚生年金勘定、福祉年金勘定、健康勘定、子どものための金銭の給付勘定及び業務勘定の七つの勘定に区分されている。
 このうち基礎年金勘定、国民年金勘定及び厚生年金勘定の経理は、次のとおりとなっている。

〔1〕 基礎年金勘定

 基礎年金勘定は、基礎年金事業の収支(業務勘定に係るものを除く。)を経理するもので、国民年金勘定及び厚生年金勘定からの受入金並びに共済組合からの拠出金を主な財源として、基礎年金給付費等の支出を行う。

〔2〕 国民年金勘定

 国民年金勘定は、国民年金事業の収支(業務勘定に係るものを除く。)を経理するもので、保険料、運用収入及び国庫負担金を主な財源として、国民年金給付費等の支出を行う。

〔3〕 厚生年金勘定

 厚生年金勘定は、厚生年金保険事業(厚生年金基金及び企業年金連合会が行う事業を除く。)の保険収支(業務勘定に係るものを除く。)を経理するもので、事業主等から徴収する保険料、運用収入及び国庫負担金を主な財源として、保険給付費等の支出を行う。

 「特別会計に関する法律」(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)により、年金特別会計の各勘定において、毎会計年度の歳入、歳出の決算上、剰余金を生じた場合には、当該剰余金のうち、年金給付等の財源に充てるために必要な額を積立金として積み立てることとされている。そして、この積立金は、国民年金法及び厚生年金保険法により、厚生労働大臣がGPIFに寄託して運用することとされている。
 また、特会法によると、各特別会計において、支払上、現金に余裕がある場合には、これを財政融資資金に預託することができることとされている。

(2) 財政融資資金への預託

 年金特別会計が設置される以前の旧厚生保険特別会計及び旧国民年金特別会計の年金積立金については、12年度までは、その全額を旧資金運用部に預託することが義務付けられており、預託金利子が両特別会計に支払われていた。しかし、財政投融資制度の抜本的な改革により、13年4月以降、年金積立金は、厚生労働大臣から直接旧基金に寄託され、自主運用される仕組みとなった。このため、12年度末時点で約147兆円あった年金積立金は、13年度から20年度までの間に、毎年度、20兆円程度ずつ旧資金運用部を承継した財政融資資金から償還されることとなった。そして、13年度から20年度までの間は、未償還の年金積立金については、財政融資資金に引き続き預託されて、財政融資資金から、年金積立金預託時の預託金利に基づき利子が支払われていた。また、償還された年金積立金については、13年度に設立された旧基金に寄託され、旧基金から、その運用による収益が国庫納付されていた。

(3) 年金給付等の資金繰り上必要な資金等

 旧厚生保険特別会計、旧国民年金特別会計及びこれらを統合した年金特別会計の年金積立金は、18年4月1日以降、GPIFに寄託して運用されている。
 また、年金特別会計においては、保険料収入等の収納時期と年金給付費等の支払時期との時間的なずれによって一時的に資金が不足したり、GPIFに寄託するまでの間、現金に余裕が生じたりするなどのため、GPIFに寄託している年金積立金とは別に、同特別会計において管理する年金積立金がある。この年金積立金は、財政融資資金に預託して運用されるなどしている。

(4) 年金特別会計と年金積立金との関係

 GPIFが年金特別会計から寄託されて管理している年金積立金の額は、22年度末において、〔1〕 旧事業団から旧基金を経由して承継した負債等2兆9907億円、〔2〕 厚生労働大臣からの寄託分(財投債引受分を除く。)101兆1083億円、〔3〕 財投債引受分18兆1882億円の計116兆3058億円である。一方、年金特別会計が管理している年金積立金の額は、22年度末において5兆5868億円である。GPIFで管理している年金積立金の額と年金特別会計で管理している年金積立金の額とを合計すると、年金積立金全体の資産額は、22年度末において121兆8926億円となる(図表5 参照)。

図表5  年金積立金の額の概要

(平成22年度末現在)

(平成22年度末現在)

注(1)  市場運用には投資の判断等を民間の運用機関に一任する委託運用と、GPIFが自ら投資等の判断を行う自家運用とがある。
注(2)  GPIFが管理している年金積立金116兆3058億円は、厚生労働大臣からの寄託金と積立金(利益剰余金)の合計額であるため、自家運用資産と委託運用資産の合計額とは一致しない。

6 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 会計検査院は、年金積立金の管理運用に係る契約の状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、それぞれ次の着眼点により検査を実施した。

ア 年金積立金の管理運用に係る業務の状況

(ア) 資金運用の状況は、年金収支の見通しなどを的確に反映した適切なものとなっているか。

(イ) 資金運用事業等の状況の説明は、被保険者等に対して平易かつ明確に行われているか。

(ウ) 中期目標及び中期計画の内容は、適切なものとなっているか。

(エ) 組織体制及び役職員の任命等の状況は、年金の管理運用業務の内容からみて適切なものとなっているか。

(オ) 意思決定、監査体制等のガバナンスの仕組みは、適切なものとなっているか。また、これらの透明性は、十分確保されているか。

イ 契約方式等の状況

(ア) 年金積立金の運用を委託する民間の運用機関等の選定、評価及び解約等の過程において、競争性、公平性、透明性等は、十分確保されているか。

(イ) 株主議決権の行使は、適切に行われる体制となっているか。

(ウ) 業務運営に係る契約は、経済的なものとなっているか。

ウ 委託先機関における運用実績の状況

(ア) 運用実績は、運用目標に見合ったものとなっているか。

(イ) 委託運用は、自家運用を十分に活用するなどした上で経済的に行われているか。

(2) 検査の対象及び方法

 会計検査院は、厚生労働本省及びGPIFにおいて、年金積立金の管理運用に係る契約を対象として、年金積立金の管理運用方針、管理運用に係る業務委託契約書等の関係書類を、機構において、承継債権の管理回収業務を対象として、金銭消費貸借契約証書等の関係書類をそれぞれ確認するなどして会計実地検査を行った。
 また、GPIFと同様の業務を行っている国家公務員共済組合連合会において、年金積立金の管理運用に係る業務を対象として、業務の実態を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、企業年金連合会、地方公務員共済組合連合会及び全国市町村職員共済組合連合会の担当者から年金の管理運用の実態を聴取するなどの方法で調査した。
 さらに、年金積立金の運用状況等の実態を把握するため、GPIFから年金積立金の管理を委託されている4信託銀行(注2) (以下、年金積立金の管理を行う信託銀行等を「資産管理機関」という。)と、年金積立金の運用を委託されている28運用機関(以下、年金積立金の運用を委託されている運用機関を「運用受託機関」という。)のうち22年度末の運用資産額の時価総額が1兆円を超えていた13運用受託機関(注3) の計17法人において、当該法人が受託している年金積立金の管理運用に係る契約を対象として、運用手法、運用体制等の実態を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、年金積立金の運用方法等に係る調査研究の委託先である6会社等(注4) において、これらの委託契約を対象として、業務日誌、総勘定元帳等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
 そして、年金積立金の運用状況等について、在庁してその内容の分析を行った。
 なお、本件についての上記の会計実地検査等に要した人日数は、151人日である。

(注2)
 4信託銀行  資産管理サービス信託銀行株式会社、日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社、ステート・ストリート信託銀行株式会社、日本マスタートラスト信託銀行株式会社
(注3)
 13運用受託機関  旧住友信託銀行株式会社(平成24年4月1日以降は三井住友信託銀行株式会社)、DIAMアセットマネジメント株式会社、旧中央三井アセット信託銀行株式会社(24年4月1日以降は三井住友信託銀行株式会社)、東京海上アセットマネジメント投信株式会社、日興アセットマネジメント株式会社、野村アセットマネジメント株式会社、みずほ信託銀行株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社、明治安田アセットマネジメント株式会社、ブラックロック・ジャパン株式会社、株式会社りそな銀行、ノーザン・トラスト・グローバル・インベストメンツ株式会社、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社
(注4)
 6会社等  みずほ総合研究所株式会社、ラッセル・インベストメント株式会社、株式会社三井住友トラスト基礎研究所、タワーズワトソン株式会社、マーサージャパン株式会社、旧財団法人年金シニアプラン総合研究機構(平成24年4月1日以降は公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)