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  • 平成24年10月

年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等に関する会計検査の結果について


2 契約方式等の状況

(1) 運用受託機関及び資産管理機関の選定、管理、評価及び解約

ア 運用受託機関及び資産管理機関の選定

 GPIFは、国から寄託された年金積立金の運用について、ファンド(投資家から資金を集めて運用する投資基金)ごとに、運用受託機関に投資の判断等を一任する委託契約等により行っており、23年度末現在で28運用受託機関と76ファンドの契約を締結している。また、GPIFは、年金積立金の管理について、国内債券等の資産区分ごとに、資産管理機関への特定運用信託契約により行っており、23年度末現在で4資産管理機関と契約を締結している。
 GPIFの業務方法書によると、運用受託機関又は資産管理機関の選定については、特別の事情がある場合を除き、運用受託機関又は資産管理機関が満たすべき要件を定めて公募を実施することとされ、あらかじめ定める運用又は資産管理の手法、実績、体制等に関する評価事項及び応募者から提案された手数料の水準に基づく総合評価の結果により行うこととされている。
 GPIFの管理運用方針によると、運用受託機関については、原則として3年ごとに見直しを行うこととされており、その際には、上記の手続による選定が行われることとなっている。そこで、GPIFが設立された18年度から23年度までの間の運用受託機関の見直しの実施状況を示すと、図表2-1 のとおりであり、これによると、運用受託機関の見直しが3年ごとに行われていないものが多かった。これらの中には、国内株式のパッシブ運用のように、18年度以降運用受託機関の見直しが全く行われていないものもあった。

図表2-1 平成18年度から23年度までの間の運用受託機関の見直しの実施状況
区分 平成
18年度
19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
国内債券 パッシブ運用
アクティブ運用
国内株式 パッシブ運用
アクティブ運用
外国債券 パッシブ運用
アクティブ運用
外国株式 パッシブ運用
アクティブ運用
注(1)  パッシブ運用は、市場の動きを表す指標を構成する全ての銘柄又は代表的な銘柄群を保有することにより、市場の動きと同程度の運用実績を目指す運用のことである。
注(2)  アクティブ運用は、業績予想、株価動向、市場見通しなどを踏まえた運用を行って、市場の動きを上回る運用実績を目指す運用のことである。
注(3)  「○」は見直しを行ったもの、「-」は見直しを行っていないもの、「△」は見直しに着手しているが運用受託機関の選定が終了していないものを表す。

 そして、運用受託機関の見直しが3年ごとに行われていないものが多いことについて、GPIFは、第1期の中期目標期間については、安定的に収益を獲得しているパッシブ運用の運用受託機関よりも、アクティブ運用の運用受託機関の見直しを優先的に行うことにしていたこと、また、第1期の中期目標期間の最終年度である21年度は、翌年度からの第2期の中期目標期間において基本ポートフォリオが見直される可能性があったことから、運用受託機関の見直しを行わなかったことによると説明している。
 また、GPIFは、第2期の中期目標期間となる22年度以降は、第1期の中期目標期間においてあまり行ってこなかったパッシブ運用の運用受託機関の見直しも行うことにしており、23年度には国内債券に係るパッシブ運用の運用受託機関の見直しに着手していて、24年度には見直しを実施する予定であると説明している。
 運用受託機関の見直しは、新たな運用受託機関を選定して、評価等が劣る運用受託機関と入れ替えることにより、運用の効率性を向上・維持させる極めて重要な機会である。したがって、GPIFにおいては、運用受託機関の構成が最適なものとなるよう、今後とも適時に運用受託機関の見直しを行うことが重要である。
 さらに、GPIFの管理運用方針によると、資産管理機関については、満たすべき要件を満たさなくなったり、毎年度行う総合評価の結果、契約の継続が困難と判定されたりした場合には、契約を解約することとなっており、この場合には、新たな資産管理機関の選定を行うことになっている。しかし、GPIFが設立された18年度以降、満たすべき要件を満たさなくなったり、毎年度行う総合評価の結果、契約の継続が困難と判定されたりした資産管理機関がなかったため、新たな資産管理機関の選定は行われていない。

イ 運用受託機関の選定における審査過程

 前記2(1)ア のとおり、GPIFが行う運用受託機関の選定は、運用の手法、実績、体制等に関する評価事項及び応募者から提案された手数料の水準に基づく総合評価の結果により行うものとされている。この総合評価における応募者の提案に対する審査の主な過程は、次のとおりである(図表2-2 参照)。

〔1〕 第一次審査
 応募者の提出書類に基づき、応募資格要件に対する評価を実施して、第二次審査(ヒアリング評価)の対象とする者を選定する。

〔2〕 第二次審査(ヒアリング評価)
 第二次審査(ヒアリング評価)の対象となった者から、投資方針、運用プロセス、組織・人材、コンプライアンス、事務処理体制、株主議決権行使の取組(株式の場合のみ)について聴取して、手数料を除く総合評価を実施し、さらに、運用受託機関の構成を勘案して、第三次審査の対象とする者を選定する。

〔3〕 第三次審査(現地ヒアリング評価)
 第三次審査の対象となった者の事務所に赴いて、第二次審査において提案者から聴取した内容について実地に確認するとともに、提案された投資方針や運用プロセスが投資判断を行う者の間に共有され理解されているかなどを検証して、その後の選定委員会評価の参考となる現地調査後評価点を採点する。

〔4〕 第三次審査(選定委員会評価)
 〔3〕 で実施した現地ヒアリング評価の結果を踏まえ、手数料を含む総合評価を実施し、契約締結候補者を選定する。

 各段階の審査は、第一次審査、第二次審査(ヒアリング評価)及び第三次審査(現地ヒアリング評価)を運用部の担当職員が行っており、第三次審査(選定委員会評価)を理事、審議役、運用部長等から構成される選定委員会が行っている。
 また、第2期の中期目標及び中期計画において、22年度以降に実施する選定については、各審査の段階で運用委員会の審議を経ることとなったことに伴い、選定委員会は廃止され、第三次審査(選定委員会評価)は行われなくなっている(図表2-3 参照)。

図表2-2 平成22年度より前の運用受託機関等の審査の過程

図表2-2平成22年度より前の運用受託機関等の審査の過程

図表2-3 平成22年度以降の運用受託機関等の審査の過程

図表2-3平成22年度以降の運用受託機関等の審査の過程

 GPIFにおける上記の審査の過程について検査したところ、22年度より前の選定では、第二次審査(ヒアリング評価)、第三次審査(現地ヒアリング評価)及び第三次審査(選定委員会評価)において、その審査結果書等に総合評価点は記載されていたものの、投資方針、運用プロセス、組織・人材等の評価事項ごとの評価点が記載されていないものが多数見受けられるなど、選定の過程の妥当性を事後的に検証することが困難となっている事態が見受けられた。

<事例>
 平成19年度に行われた運用受託機関の見直しにおいて、第三次審査(現地ヒアリング評価)の総合評価点及び第三次審査(選定委員会評価)の総合評価点は、審査結果書に記載されていたものの、それぞれの審査における評価事項ごとの評価点が記載されていなかった。
 特に、上記の見直しのうち一部の審査については、第二次審査(ヒアリング評価)を通過した提案者が全て既存の運用受託機関であったことから現地ヒアリング評価を行わないことにしていたが、第三次審査(選定委員会評価)において第二次審査(ヒアリング評価)の総合評価点を大きく上回った提案者が2者あった。この理由について、GPIFは、第三次審査(選定委員会評価)においては、それまでの審査とは異なり、手数料を含んだ総合評価を実施しているためであると説明しているが、この説明を裏付ける資料はないとのことであった。

 このような事態が見受けられたことについて、GPIFは、審査の各段階で運用委員会の審議を経ることとされた22年度以降の運用受託機関等の選定の際には、運用委員会の審議に資するため、それぞれの審査における評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出することにより改善していると説明している。
 運用受託機関等の選定は、管理運用業務の根幹を成すものであり、その選定の過程において恣意的な判断が介入することがないよう公正、中立な選定手続を行うことが重要であるが、その選定の過程において恣意的な判断が介入していたのではないかとの疑念が生じないよう、事後的な検証を容易にして透明性を確保することも重要である。
 GPIFは、前記のとおり、22年度以降は評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出しており、現在では選定の過程の妥当性を事後的に検証することが可能になっているとしている。しかし、この取組が開始された22年度より前は、透明性が十分に確保されていなかったと認められることから、今後ともこの取組を徹底して、運用受託機関の選定の過程の妥当性を事後的に容易に検証できるようにすることが重要である。

ウ 運用受託機関の管理及び評価

 GPIFの管理運用方針によると、GPIFは、運用受託機関に対して定期的に資金の管理及び運用状況に関する報告を求め、又は随時必要な資料の提出を求めるとともに、定期及び随時に各運用受託機関と会合を行い、これらの報告等を基に各運用受託機関に対して必要な指示を行うこととされている。
 管理運用方針に基づき、GPIFは、毎月1回、運用実績及びリスクの状況について運用受託機関に報告を求め、運用ガイドラインの遵守状況を確認するとともに、定期会合等において説明を受けるなどの方法により運用受託機関の管理を行っている。
 また、GPIFは、毎年度、各運用受託機関の投資方針、運用プロセス、組織・人材等の運用能力及び運用実績を総合的に評価することとしている。そして、この総合評価の結果を踏まえて、評価が一定水準に達しない運用受託機関については、資金配分の停止、資産の一部回収又は契約の解約を行うこととしている。18年度から23年度までの間の総合評価の結果に基づく資金配分の停止、資産の一部回収及び契約の解約の状況を示すと、図表2-4 のとおりである。

図表2-4 平成18年度から23年度までの間の総合評価の結果に基づく資金配分の停止、資産の一部回収及び契約の解約の状況

(単位:件)

区分 平成
18年度
19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
資産配分の停止 15 18 14 20 15 7
資産の一部回収 0 0 0 0 15 7
契約の解約 0 0 0 1 0 0
(注)
 平成22年度の資金配分の停止15件と資産の一部回収15件及び23年度の資金配分の停止7件と資産の一部回収7件は、それぞれ重複している。

 総合評価の結果に基づく運用受託機関に対する措置は、21年度までは「資金配分の停止」が主となっていたが、22年度以降は「資金配分の停止」に加えて「資産の一部回収」も同時に行われている。この理由について、GPIFは、21年度以降は本格的に寄託金を年金特別会計に償還するようになり、新規の寄託金の受入額が減少したことから、従来の資金配分の停止の措置に加えて、総合評価の結果が一定水準に満たない運用受託機関から資産の一部回収を行い、その資産を総合評価が一定水準以上である運用受託機関に配分する措置を講ずることなどが効率的な運用を図る上で効果的であると判断したためとしている。

エ 資産管理機関の管理及び評価

 GPIFの管理運用方針によると、GPIFは、資産管理機関に対して定期的に資金の管理状況に関する報告を求め、又は随時必要な資料の提出を求めるとともに、定期及び随時に各資産管理機関と会合を行い、これらの報告等を基に各資産管理機関に対して必要な指示を行うこととされている。
 管理運用方針に基づき、GPIFは、資産管理に係るデータの提出を資産管理機関に求め、資産管理ガイドラインの遵守状況を確認するとともに、現地調査を含む定期会合等において説明を受けるなどの方法により資産管理機関の管理を行っている。
 また、GPIFは、毎年度、各資産管理機関の組織・人材、業務体制、監査等の管理能力を総合的に評価することとしている。そして、この総合評価の結果を踏まえて、契約の継続が困難であると判定された資産管理機関については、契約の解約を行うこととしている。なお、資産管理機関については、GPIFが設立された18年度以降、総合評価等の結果、契約の継続が困難であると判定された資産管理機関はなかった。

オ 運用受託機関との契約の解約

 GPIFの管理運用方針によると、GPIFは、次のいずれかの事由に該当する場合には、運用受託機関との契約を解約する(〔1〕 、〔3〕 、〔4〕 及び〔5〕 の場合)又は解約することができる(〔2〕 、〔6〕 及び〔7〕 の場合)とされている。

〔1〕 選定の際に定めた運用受託機関が満たすべき要件を満たさなくなった場合
〔2〕 毎年実施している運用受託機関の総合評価において、評価が著しく低い場合
〔3〕 原則として3年ごとに行っている運用受託機関の見直しにおいて、同じ運用スタイルを採る新たな運用受託機関と比較して運用能力が低いなどと判断した場合
〔4〕 運用体制の変更等により運用能力に問題が生じた場合
〔5〕 GPIFが示した運用ガイドラインに違反したなどの場合(軽微なものを除く。)
〔6〕 管理及び運用上必要がある場合
〔7〕 運用受託機関の合併等の場合

 GPIFは、上記の事由に該当したとして、18年度から23年度までの間に計29件の投資一任契約を解約していた。この内訳を年度別、事由別に示すと、図表2-5 のとおりである。

図表2-5 平成18年度から23年までの間に解約した投資一任契約の年度別、事由内訳

(単位:件)

年度
事由
平成
18
19 20 21 22 23
〔1〕 満たすべき要件を満たさない - - - - - - -
〔2〕 総合評価が著しく低い - - - 1 - - 1
〔3〕 運用受託機関の見直し - 2 12 1 3 - 18
〔4〕 運用体制の変更等により運用能力に問題を生じた 2 1 - - 2 1 6
〔5〕 運用ガイドライン違反など - - - - - - -
〔6〕 管理及び運用上の必要 - - - - - - -
〔7〕 運用受託機関の合併等 - 3 - 1 - - 4
2 6 12 3 5 1 29

 解約の事由として最も多かったのは、「〔3〕 運用受託機関の見直し」であり、「〔4〕 運用体制の変更等により運用能力に問題を生じた」、「〔7〕 運用受託機関の合併等」が続いている。一方、「〔2〕 総合評価が著しく低い」ことによる解約は、運用体制等に問題が生じた場合は毎年の総合評価の結果を待たずに解約することが多いことから6年間で1件となっており、「〔5〕 運用ガイドライン違反等」による解約についても、違反等が軽微なものであったことから、解約にまで至ったものはなかった。

(2) 運用受託機関及び資産管理機関に支払う手数料の算定方法と支払実績

 GPIFは、運用受託機関及び資産管理機関に支払う手数料について、当該機関に係る毎月末の委託額残高にその残高に応じて決定される手数料率を乗じて算定することとしている。そして、この手数料率は、委託額残高が大きくなるに従い徐々に低くなるように、階段状に設定されている。
 GPIFは、手数料の算定の基礎となる手数料率について、効率的かつ合理的な水準を実現するよう、運用受託機関の見直しの際に引下げを図ったり、資産管理機関を資産区分ごとに集約したりするなどして、手数料の低減に努めているとしている。
 そこで、運用受託機関及び資産管理機関に支払った手数料について、年金積立金の自主運用が開始された13年度から23年度までの推移をみると、図表2-6 のとおり、手数料額は委託額残高の変動により増減しているものの、手数料率は、13年度の0.11%から23年度の0.02%まで徐々に低下していた。

図表2-6  運用受託機関及び資産管理機関に支払った手数料額等の推移
平成13年度 14年度 15年度 16年度 17年度 18年度
平均残高(兆円) 26.3 30.9 40.7 50.4 59.2 107.7
手数料額(億円) 293 176 183 223 264 309
手数料率(%) 0.11 0.06 0.04 0.04 0.04 0.03
19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
平均残高(兆円) 120.2 119.6 123.9 118.1 112.0
手数料額(億円) 343 288 258 246 231
手数料率(%) 0.03 0.02 0.02 0.02 0.02

年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等に関する会計検査の結果についての図1

注(1)  手数料率は、平均残高に対する手数料額の割合である。
注(2)  平成14年度に手数料率が大きく減少しているのは、同年度に手数料率の低いパッシブ運用の割合を46.9%から67.4%に高めたことなどによる。

(3) 株主議決権

ア 株主議決権の行使

 株主議決権は、株主総会に提示された議案に対して賛成、反対等の意見を表明する権利であり、これを行使することにより株主は、会社の意思決定に直接関与することができる。
 アクティブ運用を行っている場合、株主は、投資先企業の企業価値の長期的な増大が見込めない場合や経営方針等に不満があるときには、その株式の売却を検討することになる。しかし、資産規模が巨額であれば株式の売却に係る手数料負担が増大し、株式の売却が相場の下落を引き起こして損失を被る可能性もある。また、パッシブ運用を行っている場合、原則としてベンチマーク(株価指数や債券インデックス等の市場の動きを表す指標。国内株式の場合は、代表的な指標として東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価がある。)を構成する全ての銘柄又は代表的な銘柄群を保有し続けることが前提となる運用方法であるため、その株式がベンチマークを構成する銘柄等となっていれば、株主がその株式を売却することは難しい。
 そこで、株式を保有したまま、株主議決権の行使により投資先企業の意思決定に関与し、経営の効率化を促すなどして企業価値を高めさせることが重要となる。
 上記のように、株主議決権の行使は、株主が投資先企業の経営に関与する重要な手段であり、実質的な株主であるGPIFは、被保険者等から年金積立金の管理運用を負託された受託者の責務として、株主議決権の行使を適切に行う必要がある。
 一方、公的機関であるGPIFが自らの判断と責任において株主議決権を行使することは、国が民間企業の経営に過度に介入することになるのではとの懸念を生じさせるおそれがある。
 そこで、厚生労働大臣が指示した中期目標では、GPIFの株主議決権の行使について、民間企業の経営に対して影響を及ぼさないよう配慮するとともに、企業経営等に与える影響を考慮しつつ、長期的な株主等の利益の最大化を目指す観点から、株主議決権の行使等の適切な対応を行うこととされている。そして、中期目標を踏まえてGPIFが作成した中期計画では、GPIFは、企業経営に直接影響を与えることになるのではとの懸念を生じさせないよう、株主議決権の行使は直接行わず、運用を委託した運用受託機関の判断に委ねるとし、また、運用受託機関への委託に際し、コーポレートガバナンスの重要性を認識し、議決権行使の目的が長期的な株主利益の最大化を目指すものであることを示すとともに、運用受託機関における議決権行使の方針や行使状況等について報告を求めることとしている。
 GPIFにおける株主議決権の行使の仕組みを示すと、図表2-7 のとおりである。

図表2-7 GPIFにおける株主議決権の行使の仕組み

図表2-7GPIFにおける株主議決権の行使の仕組み

イ 国内株式に係る株主議決権の行使の状況

 19年度から23年度までの間(各年度4月から6月まで)の国内株式に係る株主議決権の行使の状況を示すと、図表2-8 のとおりである。

図表2-8 19年度から23年度までの間(各年度4月から6月まで)の国内株式に係る株主議決権の行使の状況
区分 平成19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
国内株式に係る総議決件数 行使
件数
164,754件
(99.97%)
137,746件
(99.93%)
178,936件
(99.93%)
154,124件
(99.93%)
167,963件
(99.93%)
不行使
件数
43件
(0.03%)
95件
(0.07%)
132件
(0.07%)
109件
(0.07%)
120件
(0.07%)
(注)
 各欄の( )内の数字は、総議決件数に占める行使件数又は不行使件数の割合である。

 国内株式に係る株主議決権については、総議決件数に占める不行使件数の割合が各年度とも0.1%未満となっていて、おおむね全議案について株主議決権が行使されていた。
 一方、株主議決権の不行使議案について、不行使となった理由をみると、株主議決権の行使指図をする運用受託機関と行使される企業との間に役員の兼職があったり、資本的に密接な関係があったりなどしているため、実質的な株主であるGPIFの利益ではなく当該企業の利益に沿った株主議決権の行使判断を行うのではないかとGPIFから懸念されるおそれがあったことから、運用受託機関が株主議決権の行使判断を行わなかったことが多く挙げられている。
 しかし、運用受託機関の中には、あらかじめ顧客の利益に沿った株主議決権の行使方針及び行使基準を定めて、これに基づいて株主議決権の行使判断を行うことを徹底していたり、株主議決権の行使判断を行う組織の独立性を高めていたりするなど、顧客に上記のような懸念を生じさせない体制を整備して、運用受託機関自身と役員の兼職があったり、資本的に密接な関係があったりなどする企業に対しても株主議決権の行使判断を行っている運用受託機関が見受けられた。
 したがって、GPIFにおいては、運用受託機関が株主議決権を不行使とした議案について、運用受託機関が株主議決権の行使体制を整備することなどにより株主議決権の行使が可能となり、これによりGPIFの利益が確保できると思料される場合には、当該運用受託機関に株主議決権の行使体制の整備を働きかけることが重要である。
 23年度(4月から6月まで)の国内株式に係る株主議決権の行使(行使総件数167,963件)の状況を示すと、図表2-9 のとおりである。

図表2-9 平成23年度(4月から6月まで)の国内株式に係る株主議決権の行使の状況
(単位:件)

議案内容等 会社提案 株主提案
行使
総件数
反対
投票数
反対率 行使
総件数
反対
投票数
反対率
取締役の選任 116,765 14,356 12.3% 427 426 99.8%
監査役の選任 25,936 4,363 16.8% 0 0 -
会計監査人の選任 268 0 0.0% 0 0 -
役員報酬 862 42 4.9% 0 0 -
役員賞与 2,578 122 4.7% 13 10 76.9%
退任役員の退職慰労金の贈呈 2,976 1,530 51.4% 0 0 -
ストックオプションの付与 1,407 327 23.2% 0 0 -
剰余金の配当 10,436 459 4.4% 27 27 100.0%
自己株式取得 59 1 1.7% 0 0 -
合併・営業譲渡・譲受、会社分割等 217 2 0.9% 0 0 -
定款変更に関する議案 2,999 89 3.0% 1,281 1,251 97.7%
ライツプラン(事前警告型) 1,491 771 51.7% 0 0 -
ライツプラン(信託型) 7 6 85.7% 0 0 -
その他の議案 168 6 3.6% 46 46 100.0%
166,169 22,074 13.3% 1,794 1,760 98.1%
注(1)  反対率は、行使総件数に占める反対投票数の割合をいう。
注(2)  「ストックオプションの付与」は、取締役や従業員等に対して、一定期間内にあらかじめ定められた価額で会社の株式を取得することのできる権利を付与することをいう。取締役や従業員は、将来取得した株式を売却することにより、株価上昇分の報酬を得ることができるという一種の報酬制度である。
注(3)  「ライツプラン」は、買収防衛策の一つであり、買収者だけが行使できないという差別的行使条件を付した新株予約権を全株主に無償で割り当てて、買収者以外の全株主に時価を大幅に下回る価格で株式を取得させ、買収者の持株割合を低下させるものである。ライツプランには事前警告型と信託型があり、事前警告型は、買収者登場時に講ずる買収防衛策について平時のうちに開示して事前警告を行い、買収者登場後に新株予約権を発行するものをいい、信託型は、平時のうちに新株予約権を信託銀行の信託勘定に対して発行し、買収者登場時に信託銀行から株主に対して新株予約権を交付するものをいう。

 会社提案の議案について反対率が高かったのは、「ライツプラン(信託型)」議案、「ライツプラン(事前警告型)」議案、「退任役員の退職慰労金の贈呈」議案、「ストックオプションの付与」議案等となっている。そして、これらの議案に反対した理由としては、ライツプランについては、企業価値又は株主価値の確保に疑義があったことなど、退任役員の退職慰労金の贈呈議案については、社外取締役又は社外監査役への贈呈を含む議案であったことなど、ストックオプションの付与については、社外取締役及び社外監査役への付与であったことなどが挙げられている。
 また、株主提案の議案に対する株主議決権の行使の状況をみると、反対率が非常に高くなっていた。これは、株主全体の利益に資するための議案や、長期的な株主価値の向上を図るための議案が少なかったことによるものと考えられるが、役員報酬等の個別開示に関する定款変更等の議案に対しては、賛成したものも見受けられた。

ウ 外国株式に係る株主議決権の行使の状況

 19年度から23年度までの間(各年度4月から6月まで)の外国株式に係る株主議決権の行使の状況を示すと、図表2-10 のとおりである。

図表2-10 19年度から23年度までの間(各年度4月から6月まで)の外国株式に係る株主議決権の行使の状況
区 分 平成19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
外国株式に係る総議決件数 行使
件数
98,667件
(84.60%)
105,030件
(88.14%)
115,670件
(90.24%)
110,957件
(92.26%)
118,687件
(95.09%)
不行使
件数
17,958件
(15.40%)
14,130件
(11.86%)
12,509件
(9.76%)
9,310件
(7.74%)
6,123件
(4.91%)
(注)
 各欄の( )内の数字は、総議決件数に占める行使件数又は不行使件数の割合である。

 外国株式に係る株主議決権については、総議決件数に占める不行使件数の割合が国内株式よりも高くなっていたが、これは、外国株式の場合は、シェア・ブロッキング制度(注8) 等の株主議決権行使に対する規制を設けている国があることが影響していると思料される。シェア・ブロッキング制度は、近年廃止する国が増えてきているため、株主議決権の不行使件数の割合も年々減少しており、19年度に15.40%であった不行使件数の割合は、23年度には4.91%まで低下している。

 シェア・ブロッキング制度  株主総会が終了するまでの一定期間、議決権を行使する株主の株式売買が凍結される制度

 23年度(4月から6月まで)の外国株式に係る株主議決権の行使(行使総件数118,687件)の状況を示すと、図表2-11 のとおりである。

図表2-11 平成23年度(4月から6月まで)の外国株式に係る株主議決権の行使の状況
(単位:件)

議案内容等 会社提案 株主提案
行使
総件数
反対
投票数
反対率 行使
総件数
反対
投票数
反対率
取締役の選任 58,156 2,221 3.8% 423 166 39.2%
監査役の選任 1,741 65 3.7% 0 0 -
会計監査人の選任 6,421 83 1.3% 0 0 -
役員報酬 12,384 1,575 12.7% 223 187 83.9%
役員賞与 340 7 2.1% 2 1 50.0%
退任役員の退職慰労金の贈呈 124 69 55.6% 36 25 69.4%
ストックオプションの付与 3,299 248 7.5% 72 63 87.5%
剰余金の配当 3,229 9 0.3% 28 28 100.0%
自己株式取得 2,698 180 6.7% 7 7 100.0%
合併・営業譲渡・譲受、会社分割等 5,631 543 9.6% 15 13 86.7%
定款変更に関する議案 3,169 126 4.0% 522 245 46.9%
ライツプラン(事前警告型) 230 76 33.0% 22 12 54.5%
財務諸表・法定報告書の承認 4,087 20 0.5% 1 0 0.0%
その他の議案 12,657 865 6.8% 3,170 2,288 72.2%
114,166 6,087 5.3% 4,521 3,035 67.1%
(注)
 反対率は、行使総件数に占める反対投票数の割合をいう。

 会社提案の議案について反対率が高かったのは、「退任役員の退職慰労金の贈呈」議案、「ライツプラン(事前警告型)」議案及び「役員報酬」議案である。また、国内株式と比較して役員報酬議案の提案数が多くなっているが、これは、米国でドッド・フランク法(注9) が成立し、上場企業に対して、23年1月以降に開催される株主総会において、セイ・オン・ペイ議案(注10) 及びセイ・オン・フリークエンシー議案(注11) の提案が義務付けられたことが影響していると思料される。

(注9)
 ドッド・フランク法  平成22年7月に成立した米国の金融規制法。金融機関の規制監督の強化、金融機関の破綻処理法制の整備、上場会社の規律の強化等を内容としている。
(注10)
 セイ・オン・ペイ議案  役員報酬について、株主から賛否の意思表示をする拘束力のない諮問型投票議案
(注11)
 セイ・オン・フリークエンシー議案  セイ・オン・ペイ議案の提案の頻度を1年、2年、3年等の中から選択する議案

 また、株主提案の議案については、国内株式と同様に反対率が非常に高くなっている。

エ 外国株式における議決権行使を制限する制度の廃止に対する対応

 前記2(3)ウ のとおり、外国株式の運用を行っている運用受託機関の中には、購入した株式が上場されている国に、シェア・ブロッキング制度等により株主議決権の行使を規制している国があることから、当該国内における株主議決権の行使を行っていない運用受託機関がある。
 このシェア・ブロッキング制度は、近年廃止する国が増えており、GPIFは、各運用受託機関に対して、同制度を廃止した国の株式に係る株主議決権の行使を求めている。しかし、運用受託機関の中には、資産管理機関から参考情報として提供される報告書に記載されているシェア・ブロッキング制度の廃止等に関する情報を十分に活用していなかったり、同制度の廃止により実効的に株主議決権の行使が可能になったのかについて確認に時間を要していたりして、同制度が廃止された後に株主議決権を行使するのが遅れている運用受託機関があり、株主議決権の行使により経営の効率化を促すなどして企業価値を高めさせる機会を逸している事態が見受けられた。
 GPIFは、このような運用受託機関に対して、毎年1回運用受託機関等を集めて行う説明会等の際に個別に指導を行って改善を促しているとしているが、依然として、制度廃止後に株主議決権を行使することが遅れている運用受託機関が散見されている。
 ついては、GPIFは、運用受託機関に対して、資産管理機関から提供される情報を十分に活用すること及びシェア・ブロッキング制度が廃止された際には速やかに株主議決権を行使するよう努めることについて指導管理を徹底することが重要である。

(4) 業務運営に係る契約の状況

ア GPIFが行う業務の財源

 独立行政法人の業務運営の財源の措置については、通則法により、政府は、予算の範囲内において、独立行政法人に対して、その業務運営の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができるとされており、国は独立行政法人に対して、必要に応じて業務運営の財源に充てるための資金として運営費交付金を交付している。
 しかし、GPIFは、国から運営費交付金の交付を受けておらず、業務運営の財源は自己収入を充てることになっている。そして、GPIFの自己収入は、そのほとんどが資産運用益であることから、GPIFが行っている管理運用業務及びこれに附帯する業務運営の財源は、国から寄託された年金積立金の運用により賄われている。
 なお、GPIFを含む独立行政法人は、通則法により、中期計画において、「予算、収支計画及び資金計画」等の事項を定めることとされており、この中期計画を主務大臣が認可するときには、財務大臣と協議しなければならないとされていて、これらにより独立行政法人の財政運営に対する国の統制が行われる仕組みとなっている。

イ 独立行政法人における随意契約の適正化

 独立行政法人に対しては、18年3月に各府省を通じて随意契約の基準の策定、随意契約の公表について要請がなされ、また、19年2月に各府省を通じて随意契約の適正化及び事後評価が改めて要請されている。そして、独立行政法人整理合理化計画により、各独立行政法人は随意契約の見直し計画を策定し、これを着実に実行することにより、競争性のない随意契約の比率を国並みに引き下げることとされている。

ウ 企画競争に係る予定価格の算定

 独立行政法人整理合理化計画を受けて、GPIFは、随意契約の見直し計画を策定し、これに基づき、業務運営に係る契約について競争性のない随意契約から競争性のある契約方式への見直しを進めている。GPIFにおける随意契約の見直しの状況は、図表2-12 のとおりである。

図表2-12 GPIFにおける随意契約の見直しの状況
区分 平成18年度 20年度 21年度 22年度
件数 割合 件数 割合 件数 割合 件数 割合
競争入札等 2件 2.7% 15件 29.4% 7件 28.0% 16件 26.2%
企画競争・公募 6件 8.0% 31件 60.8% 13件 52.0% 39件 63.9%
競争性のある契約(小計) 8件 10.7% 46件 90.2% 20件 80.0% 55件 90.2%
競争性のない随意契約 67件 89.3% 5件 9.8% 5件 20.0% 6件 9.8%
75件 100.0% 51件 100.0% 25件 100.0% 61件 100.0%
(注)
 随意契約の見直し計画のフォローアップは、平成20年度から行われているため、見直し状況については、20年度から22年度までの3年間の実績を記載している。また、18年度の実績は、20年度以降の見直し状況と比較するための参考として記載している。

 競争性のない随意契約の契約数全体に占める割合は、18年度には89.3%であったが、22年度には9.8%になっている。そして、22年度において競争性のない随意契約となった6件の契約について、その随意契約の理由をみると、事務所の賃貸借契約等であったり、知的財産権により契約者が1者に限定されるものであったり、通則法により厚生労働大臣が選任する会計監査人との契約であったりしていて、いずれの契約も随意契約によらざるを得ないものであったと認められる。
 一方、競争性のある契約についてみると、22年度において、競争入札等の契約数全体に占める割合が26.2%であったのに対し、企画競争・公募の割合は63.9%となっていて、企画競争・公募の件数が多数を占めていた。
 このうち企画競争については、応募した企画の内容が優れていた者と契約を締結するものであり、必ずしも契約価格が契約者の選定の評価項目となっていないことから、契約価格の適正性を確保するためには、契約価格の基準となる予定価格を適切に算定することが重要となる。
 そこで、GPIFが企画競争により契約者を選定した委託調査研究契約に係る予定価格の算定について検査したところ、予定価格の算定の参考とするため徴取した参考見積りについて、それが市場の価格等を反映した妥当なものであるかを十分に検証することなく予定価格の算定に使用していて、予定価格の適正性に疑義があるものが一部見受けられた。

<事例>
 平成21年度における委託調査研究契約に係る予定価格の算定に当たり、算定の参考とするため2者から徴取した参考見積りの労務費単価及び作業人日数に、総価に換算すると最大で5倍以上の開差があった。
 しかし、GPIFは、複数者から更に見積りを徴取するなどして提示された労務費単価及び作業人日数が妥当なものであるのかについて検証することなく、これらの平均値を採用するなどして予定価格を算定していた。

また、予定価格を算定する際に用いた参考見積りなどの根拠資料が保存されていない事態が一部見受けられ、これらの契約については、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証することが困難な状況となっていた。
 したがって、GPIFにおいては、予定価格を算定する際に用いた根拠資料を保存して、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証できるようにすることが必要である。