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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

年金積立金(厚生年金及び国民年金)の管理運用に係る契約の状況等に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

 年金積立金の管理運用に係る契約の状況等に関し、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、年金積立金の管理運用に係る業務の状況、契約方式等の状況及び委託先機関における運用実績の状況について、資金運用の状況は年金収支の見通しなどを的確に反映した適切なものとなっているか、意思決定、監査体制等のガバナンスの仕組みは適切なものとなっているか、また、これらの透明性は、十分確保されているか、運用受託機関等の選定、評価及び解約等の過程において競争性、公平性、透明性等は、十分に確保されているか、株主議決権の行使は、適切に行われる体制となっているか、運用実績は運用目標に見合ったものとなっているか、委託運用は、自家運用を十分に活用するなどした上で経済的に行われているかなどの点に着眼して検査を実施した。
 検査の結果の概要は、次のとおりである。

(1) 年金積立金の管理運用に係る業務の状況

ア 年金特別会計の基礎年金勘定における積立金と剰余金

 基礎年金勘定には、昭和61年4月の基礎年金制度創設時から、7246億円の積立金が基礎年金給付に充てられず、積み立てられたままとなっていた。また、当該積立金、共済組合から概算で受け入れた拠出金等を翌々年度に精算するまでの預り金等から生じた運用益について、同様に基礎年金給付に充てられておらず、基礎年金勘定に生じた剰余金を積立金に積み立てるための根拠規定がないことから、この剰余金は、平成22年度末で、1兆0731億円に累増している。
 なお、24年8月に、被用者年金一元化法が成立した。そして、25年4月から、基礎年金勘定に生ずる剰余金を積立金とすることができることとなったため、今後、剰余金の累増は解消されるものと思料される(参照 )。

イ 年金特別会計の国民年金勘定及び厚生年金勘定における余裕金

 国民年金勘定及び厚生年金勘定には、保険料等は毎月納付される一方、年金給付は偶数月で行われるため、この間に余裕金が発生する。また、近年は、積立金を取り崩して年金給付に要する費用を確保しており、必要額を超えて積立金を取り崩した場合には余裕金が発生する。厚生労働省は、この余裕金を、財政融資資金に預託して運用しているが、これを除いても、両勘定に多額の余裕金が発生していた(参照 )。

ウ 資金運用事業及び承継資金運用業務の総括

 資金運用事業等の実績は、旧資金運用部からの長期借入金を全て償還した22年度末で2兆9907億円の損失となっており、GPIFは、この損失を、GPIF法等に基づき運用収益を原資とする利益剰余金、すなわち年金積立金を減額して処理している。
 多額の損失が発生したのは、経済情勢の変化に伴い高い金利で調達した資金を低い利回りで運用する結果となり、借入金利息額以上の運用収益を確保することができなかったことによるが、損失が一定規模に達した場合にはその拡大を防ぐために事業自体を中止するなどの仕組みがあれば損失の増大を抑制できたと思料された。
 また、厚生労働省及びGPIFは、GPIFのホームページ等において、承継勘定の累積利差損の推移や承継勘定の負債等を総合勘定に帰属させることなどは公表しているが、このような事態となった理由や損失を年金積立金で処理することとなったことについての被保険者等に対する平易かつ明確な説明は十分行われていないと思料される(参照 )。

エ 機構における承継債権の管理回収実績

 承継債権の残高は、22年度末において1兆7355億円となっており、その財源は被保険者からの保険料等であり、かつ、納付金として回収された元本等は将来の年金給付の財源となるものである。
 18年度から22年度までの間の納付金等の累計額は2兆5402億円、回収元本額は1兆9934億円、積立金に相当する金額は4759億円であり、一方、担保物件の処理が終了し、かつ、債務者及び保証人が破産して免責決定がなされたため債権を回収する見込みがなくなるなどして貸倒償却したものは累計で27億円となっていた(参照 )。

オ 運用目標等と基本ポートフォリオ

 第2期の中期目標においては、21年の財政検証等の経済前提、運用利回りなどの数値目標は示されていない。そして、今後年金制度の抜本的な見直しを予定していることなどから、暫定的に安全、効率的かつ確実を旨とした基本ポートフォリオを定め、これに基づき管理を行い、その際は、市場に急激な影響を与えないようにすることとされている。
 このため、GPIFは、第2期の中期計画において、第1期の基本ポートフォリオを暫定的に利用することとしているが、年金制度の在り方については、社会保障と税の一体改革として引き続き検討を行うこととされていることから、この暫定期間は、既に2年以上に及んでいる。また、暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実かなどについては、中期目標期間中に定期的に検証されることにはなっていなかった(参照 )。

カ 役員等の任命

 100兆円を超える巨額の年金積立金を運用する機関であるGPIFの理事長等の人選に当たっては、公正な任命が行われるよう、また、その任命における意思決定等については被保険者等が理事長等の適性を十分確認できるよう、可能な限り透明性が確保される必要があるが、任命後において大まかな経歴しか公表されていなかった(参照 )。

キ 他の団体の役員との兼職

 GPIFの役員の他の団体役員との兼職の状況について検査したところ、理事が、営利を目的とする団体ではないが、契約の相手先となっていた団体の非常勤理事を兼職していた事態が見受けられた(参照 )。

ク 厚生労働省とGPIFの関係

 GPIFは、国民年金法、厚生年金保険法等により、専ら被保険者の利益のために年金積立金を運用することとされており、投資等に係る意思決定等について独立性を保つ必要があるが、前記のとおり、厚生労働大臣による理事長等の任命については、透明性を確保するための取組が必ずしも十分ではない状況となっている。
 また、理事長の意思決定には、基本ポートフォリオのように、厚生労働大臣が指示する運用目標等により実質的に内容の大枠が決まると思料されるものがあるが、このときの意思決定については、両者で十分な意思疎通が図られる必要があり、責任の所在が曖昧にならないよう留意することが重要であると思料される(参照 )。

ケ 運用委員会

 運用委員会は、慎重かつ透明な意思決定過程を確保する意味で重要な機関であるが、制度上の権限等をみると、運用委員会の意見等には理事長等を拘束する権限はなく、関与した意思決定に対する責任も明確にされていない。
 また、運用委員会の委員は全て非常勤であり、市場の急激な変動に対して適時の意見等を示したり、GPIFからの報告書のみに依存せずに原資料等により運用状況を監視したりすることは難しいと思料される(参照 )。

コ 随意契約に関する情報の公表状況

 厚生労働省は、運用・管理業務契約は支出原因契約に該当しないとする考え方が、19年10月に、総務省から示されたため、GPIFに対して、運用・管理業務契約を随意契約の見直し計画の対象外とするよう通知していた。
 その後、厚生労働省は、運用・管理業務契約が支出原因契約に該当するのかについて改めて総務省に確認したところ支出原因契約に整理し得るとの回答を得たことから、23年10月、GPIFに対して運用・管理業務契約が支出原因契約に該当するとの事務連絡を発した。これを受けて、GPIFは、運用・管理業務契約を随意契約の見直し計画の対象とすることについて検討を行うとともに、今後新たに締結する運用・管理業務契約について、契約件名、随意契約によることとした根拠等の情報を公表することとした。
 本院は、業務の透明性をより一層確保するため、運用・管理業務契約について、上記の情報に加え、これまで締結した契約に係る情報並びに予定価格を設定していない旨及びその理由を公表するよう厚生労働省及びGPIFに対して検討を促したところ、GPIFはこれらの情報を公表することとした(参照 )。

(2) 契約方式等の状況

ア 運用受託機関及び資産管理機関の選定、管理、評価並びに解約

(ア) 運用受託機関及び資産管理機関の選定

 GPIFの管理運用方針によると、運用受託機関については、原則として3年ごとに見直しを行うこととされており、その際には、新たな運用受託機関の選定が行われることとなっている。しかし、運用受託機関の見直しの実施状況をみると、見直しが3年ごとに行われていないものが多かった。これらの中には、18年度以降見直しが全く行われていないものもあった(参照 )。

(イ) 運用受託機関の選定における審査過程

 運用受託機関を選定する際の審査過程において、審査結果書等に総合評価点は記載されていたものの、投資方針、運用プロセス、組織・人材等の評価事項ごとの評価点数が記載されていないものが多数見受けられるなど、選定の過程の妥当性を事後的に検証することが困難となっている事態が見受けられた。
 GPIFは、22年度以降は評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出しており、現在では選定の過程の妥当性を事後的に検証することが可能になっているとしている(参照 )。

イ 株主議決権

 GPIFは、外国株式の運用を行っている運用受託機関に対して、シェア・ブロッキング制度を廃止した国の株式に係る株主議決権の行使を求めている。しかし、運用受託機関の中には、資産管理機関から参考情報として提供される報告書に記載されているシェア・ブロッキング制度の廃止等に関する情報を十分に活用していなかったり、同制度の廃止により実効的に株主議決権の行使が可能になったのかの確認に時間を要したりして、同制度が廃止された後に株主議決権を行使するのが遅れている運用受託機関があり、株主議決権の行使により経営の効率化を促すなどして企業価値を高めさせる機会を逸している事態が見受けられた(参照 )。

ウ 業務運営に係る契約の状況

 GPIFが企画競争により契約者を選定して締結した委託調査研究契約に係る予定価格の算定について検査したところ、予定価格の算定の参考とするために徴取した参考見積りについて、それが市場の価格等を反映した妥当なものであるのかを十分に検証することなく予定価格の算定に使用していて、予定価格の適正性に疑義があるものが一部見受けられた。
 また、予定価格を算定する際に用いた参考見積りなどの根拠資料が保存されていない事態が一部見受けられ、これらの契約については、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証することが困難となっている(参照 )。

(3) 委託先機関における運用実績の状況

ア 自主運用開始以降の運用実績の状況等

(ア) 収益額の状況について

 年金積立金は、13年度以降自主運用されており、23年度末までの累積収益額(運用手数料等控除前)は、13兆9986億円となっており、この間の運用手数料等を控除すると、運用上の累積収益額は11兆1047億円となっている(参照 )。

(イ) 中期目標期間における運用利回りの状況等

 公的年金では、名目賃金上昇率を上回る実質的な運用利回りが確保される限り年金財政は影響を受けないとされている。GPIF発足後の18年度から23年度までの6年間の実質的な運用利回りの平均は0.72%となっており、財政計算上の前提における実質的な運用利回りの平均である0.00%を上回っていた。また、GPIFは、同期間における全ての資産区分の超過収益率の状況について、おおむねベンチマーク並みであったとしていた(参照 )。

イ 運用受託機関別運用実績等

(ア) 近年における運用スタイルの傾向

 市場運用分におけるパッシブ運用の比率は、13年度において50%程度であったが、厚生労働大臣が旧基金に対して定めた運用の基本方針及びGPIFに対して定めた中期目標において、パッシブ運用を中心とするとされたことから、15年度に75%を超え、20年度以降は80%を超えて推移している(参照 )。

(イ) 近年の各資産区分における各運用スタイルの運用実績の傾向

 市場運用分の各資産区分における超過収益率について、パッシブ運用とアクティブ運用を比較すると、GPIF発足後の18年度から23年度までの6年間の平均では、アクティブ運用がパッシブ運用を上回る結果となったのは、外国債券のみとなっており、第2期の中期目標期間開始以降の22、23両年度の2年間の平均では、全ての資産区分においてアクティブ運用がパッシブ運用を上回る運用実績となっていた。
 なお、13年度から23年度までの11年間の市場運用分についてみると、国内債券はアクティブ運用とパッシブ運用の超過収益率がおおむね同程度となっており、国内株式及び外国株式はアクティブ運用がパッシブ運用を下回る結果となっていて、アクティブ運用がパッシブ運用を上回る結果となっているのは、外国債券のみとなっていた(参照 )。

(ウ) 各運用受託機関のアクティブ運用の運用実績

 23年度末時点で3期以上アクティブ運用の運用実績がある48ファンドについて分析を行ったところ、23年度までの平均年率(最長5年)で超過収益率を確保していないファンドは22ファンドとなっていた。また、21年度から23年度までの3期全てにおいて超過収益率を確保していないファンドが4ファンドあった(参照 )。

(エ) 各運用受託機関のパッシブ運用の運用実績

 GPIFは、パッシブ運用のリスク管理指標を実績トラッキングエラーとし、これを運用ガイドラインに定める管理目標値の範囲内にすることなどを運用目標として示している。会計実地検査を行った28ファンドのうち、運用実績が22年度からの外国債券3ファンド及び外国株式2ファンドを除いた23ファンドの実績トラッキングエラーについて、19年度から23年度までの5年間(平均年率)の状況をみると、21ファンドが管理目標値の範囲内に収まっていた。また、直近の21年度から23年度までの3年間(平均年率)の状況をみると、全ファンドが管理目標値の範囲内に収まっていた(参照 )。

ウ 寄託金償還等の状況

(ア) 寄託金償還等の方法

 GPIFは、厚生労働省の指示に基づき、21年度以降、厚生労働省から通知された額を年金特別会計に償還している。そして、GPIFは、この通知内容に基づく資金需要に対応するため、財投債の満期償還金及び利金をまず充当し、更に資金が不足する場合は、運用受託機関から資金を回収していた(参照 )。

(イ) 資金回収等の対象機関の選定

 GPIFは、資金回収の対象機関の選定について、総合評価の結果等を勘案して行っている。このため、アクティブ運用を行っているファンドにおいて、最長5年の超過収益率(平均年率)がマイナスの場合であっても、資金を回収していないファンドがあり、中には追加資金を配分しているファンドもあった。
 しかし、アクティブ運用は超過収益の獲得を目的としているものであることから、GPIFにおいては、超過収益率を確保していないファンドに追加資金の配分を行う場合等は、その妥当性に対する説明責任をより的確に果たすために、引き続き、その判断根拠となる総合評価のより一層の充実を図るとともに、その結果に基づき透明性の高いプロセスにより意思決定を行うことが重要であると思料される(参照 )。

(ウ) 短期資産ファンドの活用状況

 GPIFは、運用受託機関から回収した資金を年金特別会計に償還するまでの間、国庫短期証券、譲渡性預金等による短期資産運用を行っており、23年度末の短期資産の残高は4兆5486億円となっていた。短期資産の運用状況について、自家運用で運用しているBPI国債型ファンドと比較すると、BPI国債型ファンドの時間加重収益率が3.12%であるのに対して短期資産の時間加重収益率は0.10%となっていた。
 したがって、GPIFにおいては、短期資産ファンドは必要な流動性確保のためのファンドであることを踏まえて、資金回収の市場への影響を考慮するなどしつつ、引き続き、運用受託機関から回収する資金が短期資産に組み込まれる期間を可能な限り短くするよう努めることが重要であると思料される(参照 )。

エ 委託運用と自家運用に係る運用体制、割合、運用方針、収益率等

(ア) 運用受託機関の運用体制

 国内債券のパッシブ運用を行っている8ファンドの23年度末時点における運用体制等について検査したところ、個別の銘柄選定を行うファンドマネージャーが、GPIF以外から運用委託されたファンドにおいても、ファンドマネージャーを兼任していた。
 ただし、ファンドマネージャーのファンド間の兼任及び他業務の兼任は、運用ガイドライン等において禁止されているものではなく、GPIFの自家運用においても、複数のファンドのファンドマネージャーを兼任するなどしている。
 また、国内債券パッシブファンドの委託金額が増加した場合の影響について、運用受託機関に意見を聴取したところ、パッシブ運用を行うためのシステム面での変更は必要ないとのことであり、運用体制についても現状で足りるとの回答が多数であった(参照 )。

(イ) 国内債券パッシブファンドの手数料等

 パッシブ運用は、目標とするベンチマークが同じであれば、運用成績に差は生じないと言われており、実際、GPIFにおける自家運用も含んだパッシブ運用の運用成績をみると、委託運用及び自家運用において超過収益率等は、おおむね同程度となっており、大きな差は生じていなかった。
 そして、自家運用では運用体制等に変更が生じた際にのみ人件費等の増減が見込まれるのに対し、委託運用では、運用体制等に変更がなくても運用資産残高の増減に応じて運用委託手数料も増減するものとなっていた。
 したがって、自家運用及び委託運用において運用成績に大きな差が生じないパッシブ運用においては、自家運用の割合を大きくすることによって運用に要する費用の低減を図る方が経済的になると思料される。
 また、委託運用においても、運用受託機関を集約するなどして、1ファンド当たりの資産規模を大きくすると、規模の拡大による逓減効果によって運用委託手数料は低下すると思料される。
 しかし、運用受託機関を集約するなどして1ファンド当たりの資産規模を大きくすることについては、運用受託機関が債券の売買を行えなくなった場合にGPIFの運用管理に大きな支障が生ずるおそれがあるなどの懸念もあるとされている。
 なお、GPIFにおいては、自家運用についても運用受託機関の総合評価と同様の基準による評価を行っているところであるが、引き続き他の運用受託機関と同様の基準による評価を行い、効率的な自家運用の推進に努めることが重要であると思料される(参照 )。

2 所見

 公的年金制度は、国民全体の連帯による世代間扶養の仕組みによって終身にわたる確実な所得保障を行い、国民の老後等の生活設計の柱としての役割を果たすものである。そして、具体的には、高齢者に対する年金の支給に要する費用をそのときの現役世代の負担によって賄うという賦課方式を基本としつつ、年金積立金を保有しそれを運用することにより将来の受給世代について一定水準の年金額を確保するという財政方式の下で運営されている。
 しかし、我が国は、近年、少子高齢化が急速に進行しており、本格的な人口減少社会を迎えようとしている。そして、今後とも増加することが見込まれる年金給付の財源については、その確保に向けて様々な議論が行われているところである。
 したがって、年金積立金の管理運用については、年金積立金が国民から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の年金給付の貴重な財源となるものであることに特に留意し、専ら被保険者である国民の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うことにより、将来にわたって、公的年金制度の運営の安定に資することが、従来にも増して強く求められている。また、GPIFは、業務運営の財源に年金積立金の運用益等を充てていることから、その業務運営について規律の確保と透明性の向上がより強く求められるものとなっている。
 ついては、厚生労働省においては、次の各点に留意することとし、また、GPIFにおいては、(1)のア、イ及びエを除く各点にそれぞれ留意することとし、もって年金積立金の適切な管理運用に努める必要があると認められる。

(1) 年金積立金の管理運用に係る業務の状況

ア 年金特別会計の基礎年金勘定の積立金等については、長期間にわたって、それらの具体的な取扱いについて結論が出されていないことなどから、被用者年金一元化法の成立を契機として、速やかに今後の具体的な取扱いを検討し結論を出すなどして、年金給付に充てるなどの活用を図ること

イ 年金特別会計の国民年金勘定及び厚生年金勘定の積立金の取崩しに当たっては、多額の余裕金を保有し、長期資金として運用する機会を失うこととならないよう、年金収支の見通しを的確に把握して、積立金の取崩しを必要最小限の額にとどめ多額の余裕金を保有することのないように努めること

ウ 資金運用事業等の損失については、その負債を年金積立金で処理することとなったこと及びこのような事態となった理由について、被保険者等に対して平易かつ明確に説明を行うことについて検討するとともに、資金運用事業の実施に当たり損失の増大を抑制するための仕組みが作られていなかったことなどを重く受け止め、今後同様な事態が発生することのないように努めること

エ 機構の承継債権の財源は被保険者等からの保険料等であり、かつ、納付金として回収された元本等は将来の年金給付の財源となるものであることから、今後とも構が行う承継債権の回収状況等について適切に把握し管理すること

オ 暫定ポートフォリオが安全、効率的かつ確実かなどについて、中期目標期間中に定期的に検証することを検討するとともに、暫定の期間が既に2年以上に及んでいることから、暫定ポートフォリオのリターンとリスク等がどのような状況になるまでこれを利用するのかについて検討すること

カ 理事長、理事及び運用委員会の委員の任命に当たっては、被保険者等が理事長等の適性を十分確認できるよう、任命後において必要な経歴等を積極的に公表するなどしてより一層の透明性を確保するための取組を検討すること

キ GPIFの役員が契約相手先である団体の役員を兼職することは、被保険者等から、当該役員の職務の公正かつ中立な執行及び職務の信用の確保について疑念を抱かれるおそれがあることから、営利を目的としない団体であっても、GPIFの役員が利害関係のある団体の役員を兼職することを制限する内部規程を定めることについて検討すること

(2) 契約方式等の状況

ア 22年度以降に行っている評価事項ごとの評価点及び評価の理由を記載した審査結果書を作成して運用委員会に提出する取組を今後とも徹底して、運用受託機関の選定の過程の妥当性を事後的に容易に検証できるようにすること

イ 運用受託機関に対して、資産管理機関から提供される情報を十分に活用すること及びシェア・ブロッキング制度が廃止された際には速やかに株主議決権を行使するよう努めることについて指導管理を徹底すること

ウ 企画競争に係る予定価格の算定において参考見積りを徴取する場合は、当該見積りが市場の価格等を反映した妥当なものであるのかを十分に検証することにより、算定の合理性の一層の向上を図ること。また、予定価格を算定する際に用いた根拠資料を保存して、予定価格が適切に算定されていたのか事後的に検証できるようにすること

(3) 委託先機関における運用実績の状況

ア アクティブ運用については、市場を上回る運用実績を目指す手法であることから、直近3期全てにおいて超過収益率を確保していないファンド及び3期以上の平均において超過収益率(平均年率)を確保していないファンドについては、超過収益率が低迷していることについて、引き続き原因の分析に努めるとともに、総合評価を適切に行うことにより、継続の是非等について検討すること

イ 国内債券のパッシブ運用については、自家運用の割合を高めて経済的な運用を行うことについて、運用資産残高、自家運用に要する費用、運用受託機関に支払う手数料率の水準等を総合的に勘案して検討すること。また、その際に、運用受託機関に委託したり自家運用を行ったりする運用資産の規模が適切なものとなっているのかについて、1ファンド当たりの資産規模を大きくした場合の運用委託手数料の低減の可能性や運用資産の規模を大きくする際の懸念事項を考慮した上で、適時に検討すること

 以上のとおり報告する。
 会計検査院としては、今後とも、年金積立金の管理運用が適切に実施されているかなどについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。