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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果について


3 東日本大震災に伴う被災等の状況

(1) 公共土木施設等の被災状況

 国は、自然災害により被災した公共土木施設等を迅速かつ確実に復旧する必要があることから、速やかに適切な復旧方法と事業規模を確定し、予算措置を講ずる必要がある。そして、負担法等に基づき、災害復旧事業費の一部を負担することとなっており、その額を決定するため、地方公共団体から提出された資料、実地調査の結果等により、適正な災害復旧事業費等を決定している(以下、決定された災害復旧事業費等を「査定決定額」という。)。
 国土交通省及び農林水産省は、地方公共団体から提出された報告額を被害報告額として公表しているが、査定決定額が復旧に必要な事業費となる。
 そこで、会計検査院は、国土交通省及び農林水産省から提出を受けた査定決定額を被災額とみなして整理したところ、国土交通省及び農林水産省所管の公共土木施設等の事業種別の被災状況は、図表-被災1 のとおりとなっていた。

図表‐被災1  公共土木施設等の事業種別の被災状況
事業種別 直轄事業 補助事業 合計
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
河川事業 359 158,536 1,103 379,075 1,462 537,611
海岸事業 5 112,342 750 620,988 755 733,331
  河川分 2 91,784 226 199,041 228 290,826
港湾分 - - 139 84,789 139 84,789
農地分 1 14,557 132 45,354 133 59,912
漁港分 2 6,000 253 291,803 255 297,803
砂防事業 - - 40 1,379 40 1,379
道路整備事業 368 36,547 12,104 260,569 12,472 297,117
港湾整備事業 81 183,431 617 87,494 698 270,926
下水道事業 1,248 354,982 1,248 354,982
公園事業 2 604 447 13,333 449 13,937
治山事業 35 37,864 118 29,653 153 67,517
漁港整備事業 3 14,596 2,940 315,611 2,943 330,207
農業農村整備事業 10 51,768 4,752 67,129 4,762 118,898
集落排水事業 306 16,878 306 16,878
国土交通省所管計 812 470,904 15,924 1,380,665 16,736 1,851,569
農林水産省所管計 51 124,787 8,501 766,431 8,552 891,218
合計 863 595,691 24,425 2,147,096 25,288 2,742,787
   
注(1)  表中の被災箇所数及び被災額は、平成23年3月11日に発生した三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0、震度7。以下同じ。)、同月12日に発生した長野県北部を震源とする地震(6.7、6強)、同月15日に発生した静岡県東部を震源とする地震(6.4、6強)、4月7日に発生した宮城県沖を震源とする地震(7.2、6強)及び同月11日に発生した福島県浜通りを震源とする地震(7.0、6弱)により被災した公共土木施設等に対し実施した災害査定の箇所数及び査定決定額である(図表-被災2 においても同様)。
注(2)  福島県における原子力発電所事故に伴う警戒区域内の被災状況等は除いている。
注(3)  漁港整備事業の被災は、漁港施設及び漁業集落環境施設に係る被災状況を記載している。
注(4)  集落排水事業の被災は、主に集落排水事業の被災が占めている災害関連農村生活環境施設復旧事業の被災状況を記載している。

 直轄事業及び補助事業によって整備した公共土木施設等の被災額は、国土交通省所管分で1兆8515億余円(被災箇所数16,736か所)、農林水産省所管分で8912億余円(同8,552か所)、計2兆7427億余円(同25,288か所)に上っている。そして、河川、海岸、港湾整備、漁港整備各事業における被災額の合計が、全事業における被災額の68.3%を占めている。

(2) 会計実地検査を行った箇所の被災状況

 会計実地検査を行った4地方整備局等、3農政局及び3森林管理局並びに15都道府県のうち、公共土木施設等が被災していたのは、北海道開発局、関東地方整備局、東北農政局、東北森林管理局、北海道、青森県、東京都、神奈川県、静岡県の管内であり、これらの事業種別の被災状況は、図表-被災2 のとおりとなっている。
 そして、会計実地検査を行った箇所の公共土木施設等の被災箇所数及び被災額は、直轄事業で計267か所、計1439億余円、補助事業で計227か所、計150億余円に上っていたが、東日本大震災全体の被災箇所数及び被災額(図表-被災1 参照)に占める割合は、被災箇所数で直轄事業1.1%、補助事業0.9%、被災額で直轄事業5.2%、補助事業0.5%であった。

図表‐被災2  会計実施検査先別の公共土木施設等の被災状況
(直轄事業)
検査先 北海道開発局 関東地方整備局 東北農政局 東北森林管理局 合計
被災箇所数 被災額(百万円) 被災箇所数 被災額(百万円) 被災箇所数 被災額(百万円) 被災箇所数 被災額(百万円) 被災箇所数 被災額(百万円)
事業種別
河川事業
200
26,987
200
26,987
海岸事業
1
14,557
1
14,557
道路整備事業
14
2,793
14
2,793
港湾整備事業
3
938
12
11,568
15
12,507
公園事業
1
109
1
109
治山事業
26
35,266
26
35,266
漁港整備事業
1
11
1
11
農業農村整備事業
9
51,697
9
51,697
4
950
227
41,458
10
66,255
26
35,266
267
143,931

(補助事業)
 
検査先 北海道 青森県 東京都 神奈川県 静岡県 合計
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
被災
箇所数
被災額
(百万円)
事業種別
河川事業 6 133 6 133
海岸事業 6 38 17 879 2 46 25 964
砂防事業 1 15 1 15
道路整備事業 1 63 6 769 7 162 14 996
港湾整備事業 6 448 28 2,423 1 12 1 41 36 2,926
下水道事業 7 848 11 3,016 18 3,865
公園事業 1 0 8 114 9 115
治山事業 11 2,143 11 2,143
漁港整備事業 21 705 80 3,090 101 3,796
農業農村整備事業 5 62 5 62
集落排水事業 1 8 1 8
35 1,255 164 9,720 20 3,845 1 41 7 162 227 15,026
(注)
 神奈川県の港湾整備事業に係る被災は、全て川崎市管理の港湾施設の分である。

 また、直轄事業及び補助事業によって整備した公共土木施設等のうち、主な被災内容は、次のとおりとなっていた。

ア 直轄事業によって整備した公共土木施設等の被災状況

(ア) 関東地方整備局

 河川事業に関して、国が管理している利根川、江戸川、那珂川等において、地震動及び地震動に伴う液状化により、河川堤防が沈下したり、堤体に亀裂が生じたりするなどの被災があった。
 また、道路整備事業に関して、国が管理している国道4号、51号等において、地震動及び地震動に伴う液状化により、路面及び法面に亀裂が生じたり、落橋防止構造を備えた橋りょうであっても支承や伸縮装置に変形が生じたりするなどの被災があった。

(イ) 東北農政局

 農業農村整備事業に関して、宮城県に所在する農業用施設において、地震動及び津波波圧により、排水路の破壊及び損傷に加えて、排水機場及び防潮水門の機械及び電気設備が水没して機能不全になったり、地盤沈下により排水能力が低下したりするなどの被災があった。

(ウ) 東北森林管理局

 治山事業に関して、岩手県に所在する治山施設において、地震動により、アンカーや鋼管杭が損壊したり、堤体全面に亀裂が生じたりするなどの被災があった。

イ 補助事業によって整備した公共土木施設等の被災状況

(ア) 北海道

 港湾整備事業に関して、霧多布(きりたっぷ)港において、津波波圧により、護岸が倒壊したり、防波堤の被覆ブロックが飛散したり、津波漂流物により、航路及び泊地が埋そくしたりするなどの被災があった。
 なお、これらの被災のうち、被害規模が膨大なものについては、補助事業ではなく、北海道開発局が直轄事業により復旧することとしている。
 また、漁港整備事業に関して、津波波圧により、豊浦漁港において護岸が傾斜したり、鵡川(むかわ)漁港において防波堤が傾斜し中詰め材が流出したりするなどの被災があった。

(イ) 青森県

 港湾整備事業に関して、防災拠点港湾となっている八戸港において、既に完成していた耐震強化岸壁1バースについては被災を免れたものの、津波波圧により、防波堤や護岸のケーソンの一部が転倒したり、消波ブロックが飛散したり、津波漂流物により、泊地が埋そくしたりするなどの被災があった。
 また、漁港整備事業に関して、津波波圧により、八戸漁港において防波堤の堤体が流出、転倒又は散乱したり、基礎捨石が散乱したり、三沢漁港において護岸及び岸壁が倒壊したりするなどの被災があった。
 さらに、海岸事業に関して、百石(ももいし)海岸において津波波圧により、海岸堤防の裏法面が洗掘されたり、遠隔操作化されていた防潮水門の開閉装置が損壊したりするなどの被災があった。

(ウ) 東京都

 下水道事業に関して、下水道施設において、地震動に伴う液状化により、汚水管及び雨水管が広範囲にわたって破断するなどの被災があった。
 また、道路整備事業に関して、特別区道において、地震動に伴う液状化により、車道及び歩道が通行不能になる被災があった。

(3) 被災した公共土木施設等の地震・津波対策の実施状況

ア 耐震対策の実施状況

 耐震点検等を実施することとなっている公共土木施設等において、被災した施設の耐震点検、耐震対策工事等の実施状況についてみたところ、次のような事態が見受けられた。
 河川事業においては、地震動及び地震動に伴う液状化により、河川堤防が沈下したり、堤体に亀裂が生じたりするなどの被災があったが、被災した河川の中には、耐震対策工事が必要と診断されていた事例が見受けられた。

<事例-被災1> 河川事業において、耐震対策工事が必要と診断されていたのに工事が実施されていない河川堤防において沈下するなど大規模な被災が生じた事例
 A局は、B川右岸500mの区間について、H7河川耐震点検マニュアル等による耐震点検の結果、耐震対策工事が必要と診断していたが、その後工事を実施しておらず、200mの区間において、計画高水位以下まで河川堤防が沈下するなど大規模な被災が生じていた。

 一方、事例-被災1と近隣の河川において、耐震対策工事を実施していたことなどから、被災を免れた施設も見受けられた。

<参考事例-被災1> 河川事業において、耐震対策工事を実施していたことなどから被災しなかった事例
 関東地方整備局は、利根川左岸500mの区間について、H7河川耐震点検マニュアル等による耐震点検の結果、耐震対策工事が必要な区間と診断し、平成8、9両年度に、地盤改良工等を施工していたことなどから河川堤防には被災が生じていなかった。

 農業農村整備事業においては、ポンプ場、パイプライン及び水路に液状化による地盤沈下や管路の浮上、沈下等の被害が多数生じていたが、それらの中には改修工事の際に耐震対策工事等を実施していない事例が見受けられた。

<事例-被災2> 農業農村整備事業において、パイプライン等の耐震対策工事等を実施していない事例
 C局は、D県管内の7市町村にまたがる水田地帯のE地区において、昭和16年度から39年度までにダム、揚水機場、パイプライン等の新設工事を実施し、その後、老朽化した施設の改修工事等を平成4年度から22年度までに実施していた。このうちパイプラインについては、昭和52年に地震動に対する耐震設計や液状化対策を取り入れた設計基準が制定されており、平成16年の農業耐震手引等において、レベル2地震動に対する耐震設計と液状化対策に対する検討が導入されている。
 しかし、C局は、上記のパイプラインの改修工事等の際に、レベル2地震動に対する耐震対策や液状化対策を実施していなかった。そして、東日本大震災による長時間に及ぶ地震動により液状化が発生し、パイプライン5.9kmにおいて管路が浮上、沈下等したり、管路の継ぎ目が損傷等したりしていた。

イ 津波対策の実施状況

 河川、海岸、港湾整備、漁港整備各事業において、青森県が管理し、津波により被災した堤防等の被災前の堤防高等が把握できたものについて、その整備状況等についてみると、図表-被災3のとおりとなっていた。

図表-被災3 青森県において津波によって被災した堤防等の整備状況等
事業名 河川等名 施設名称 延長
(m)
整備年度 想定高潮高
(m)
被災前の堤防高
(m)
想定津波高
(m)
実際の津波高
(m)
被災状況
河川事業 五戸川 高潮堤防 1,350 平成15年度 6.0 6.5 8.4 護岸欠壊左右岸計655m
海岸事業 市川海岸 海岸堤防 1,396 昭和50年度〜 6.0 7.4 8.4 裏法面洗掘675m
百石海岸 海岸堤防 2,117 昭和62年度〜 6.0 6.6 10.8 裏法面洗掘1,036m
港湾整備事業 八戸港 河原木廃棄物埋立護岸 1,272 平成16年度 1.82 2.7 4.3 8.4 ケーソン転倒50m
八太郎D岸壁取付護岸 80 昭和42年度〜 1.82 4.2 6.9 8.4 護岸損壊34m
沼館1号護岸 308 昭和35年度 1.82 1.9 4.3 8.4 護岸損壊74m
白銀B岸壁 180 昭和45年度 1.82 2.2 6.0 8.4 上部工損壊12m
八太郎護岸 1,561 昭和58年度 1.82 4.7 6.9 8.4 護岸倒壊計357m
漁港整備事業 三沢漁港 中防波堤 181 昭和63年度 1.82 1.7 5.5 10.8 堤体転倒19m
八戸漁港 3号館鼻防波堤 171 昭和57〜60年度 1.82 1.7 4.8 8.4 堤体転倒126m
東護岸 100 平成6年度 1.82 1.9 4.8 8.4 水叩工洗掘85m
注(1)  「想定高潮高」等は、T.P.(東京湾平均海面)からの高さで表示している。
注(2)  「想定津波高」については、平成18年度に青森県において調査したものなどである。
注(3)  「実際の津波高」については、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波高を第2回青森県海岸津波対策検討会(平成24年3月17日)の資料を基に作成したものである。

 堤外地にある港湾及び漁港に整備された堤防等の堤防高は、想定高潮高等を基に設定されており、背後の人家等を保護する必要のある河川及び海岸に整備された堤防等の堤防高は、想定高潮高に加え、過去の津波被害から想定される津波高も考慮し設定されたものと思料される。
 また、青森県は、中央防災会議の「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」において検討された想定地震、想定津波高等を基に、18年度に改めて想定津波高等を検討した結果、全体的に現行の堤防高では、想定津波高に対してその高さが満足していないことが判明したことから、19年度から順次、既存の堤防等を嵩上げするなどの耐震対策工事を実施したり、市町村における津波ハザードマップの作成を支援したりするなど、施設整備及びソフト対策の両面から対策を講じていたところである。
 しかし、耐震対策工事が堤防等の一部において完了しておらず、また、今回の地震による津波高は想定外であったことから、大規模な被災を受けたものと思料される。
 なお、耐震対策工事が完了していた海岸において、津波による被害が軽減されたと思料される事例が見受けられた。

<参考事例-被災2> 海岸事業において、海岸堤防の地震・津波対策を行った効果があった事例
 青森県は、市川海岸において、昭和50年度から平成2年度までの間に、天端高T.P.(東京湾平均海面)6.0m、延長1,396mの堤防を整備するなどしていた。そして、中央防災会議の「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」において検討された想定地震、想定津波高等を基に、同県が18年度にシミュレーションした結果、想定津波高が全体的にT.P.6.0mから6.7m、液状化による堤防の沈下が0.8mから1.0mとなり、現行の堤防高では想定津波高に対して満足しないことから、既存の堤防の天端高を2.0m嵩上げするなどの耐震対策工事を19年度から順次実施していた。
 その後、23年3月11日に東北地方太平洋沖地震による津波が発生して、T.P.8.4m程度の津波となって押し寄せたため、市川海岸でも津波高が堤防高を越えて浸水したが、堤防延長1,396mのうち9割程度(1,254m)の耐震対策工事が完了しており、また、背後に奥行き100m程度の保安林が整備されていたことなどから、津波による浸水が低減され、被害が軽減されており、背後にある水産加工業者の工場はほとんど被害がない状況であった。
 堤内への浸水の状況については、耐震対策工事が完了した区間より未完了の区間の方が奥行き深く浸水しており、堤防の天端高を嵩上げした効果が認められた。堤防自体の被災については、津波が堤防を越流した際の裏法尻の部分の洗掘による被覆ブロック等の損壊が見受けられたが、地震による破壊や海面側の堤体そのものの破壊は見受けられず、耐震対策工事の効果が推定された。

(4) 総括

 会計実地検査を行った直轄事業及び補助事業によって整備した公共土木施設等の被災箇所数及び被災額は、(2) のとおり、計494か所、計1589億余円であり、東日本大震災全体の被災箇所数及び被災額に占める割合は、それぞれ2.0%、5.8%となっている。
 そして、耐震点検の結果、耐震対策工事を実施した公共土木施設等については、被害が軽減されていた事例や、耐震点検の結果、耐震対策工事が必要と診断されていたにもかかわらず、耐震対策工事を実施していなかった公共土木施設等については、被災していた事例が見受けられた。
 また、改めて想定津波高等を検討した結果、既存の堤防等を嵩上げするなどの耐震対策工事が完了していた海岸では、津波による被害が軽減されたと思料される事例が見受けられた。