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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

 会計検査院は、合規性、経済性等の観点から、過大請求の経緯について、過大請求はどのような経緯で行われていたのか、特にこれまで明らかになった過大請求事案に対する再発防止策等はどのようなものであったのか、防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約における過大請求の背景、事情等となるような課題等はないか、過大請求の方法、内容等の状況について、過大請求はどのように行われていたのか、特に工数の付替え等の方法はどのようなものか、過大請求の目的、動機及び背景はどのようなものか、防衛省等における監査等の実施状況について、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が実施している制度調査、原価監査等は適切に実施されていたのか、三菱電機、関係4社及び住友重機械等における内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等は有効に機能していたのかなどに着眼して検査した。
 検査したところ、防衛省及び宇宙機構においては、資料の信頼性確保に関する措置として関係資料の保存義務、虚偽資料に係る違約金の賦課等について契約相手方への周知が行われていたが、衛星センター、通信機構及び総務省においては、そのような措置が執られていなかった(参照 )。
 また、防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等としては、契約相手方が限定されるため随意契約で締結されることが多く、競争が働きにくい面がある一方、市場価格が形成されておらず、予定価格が原価計算方式で算定される場合が多いことなどから、予定価格の算定根拠等の透明性の確保が重要となる。
 また、現行の概算契約等は、契約相手方のコスト削減努力により工数等が低減した場合でも、契約代金等の減額確定によりその便益を全て発注者が享受することになっていることなどから、コスト削減へのインセンティブが働きにくいという問題もある。さらに、防衛省、宇宙機構、通信機構及び総務省は、三菱電機、MSS、プレシジョン又は三電特機と指名停止中の契約を締結しており、これらの契約金額は多額に上っていて、指名停止等の措置がペナルティとして十分機能していないと思料される(参照 )。
 そして、三菱電機及び関係4社は、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構又は総務省と締結した契約において、その契約金額に基づき損益管理等を行う指標として目標工数を設定して、実績工数が目標工数を下回った場合には、その下回った分に、実績工数が目標工数を上回った他の契約から実績工数の一部を付け替えるなどしていた。また、住友重機械等は、防衛省と締結した契約において、見積工数を目標工数として設定して、実績工数が目標工数を下回った場合には、その下回った分について、間接作業時間を当該契約の工数に振り替えたり、工数に振り替えるための間接作業時間が不足する際は架空工数を計上したりなどしていた(4か所参照1  2  3  4 )。
 制度調査については、衛星センター及び通信機構は、原価計算方式で予定価格を算定しているにもかかわらず実施していなかった。そして、防衛省及び宇宙機構が実施した制度調査は、会社と事前調整した範囲内で実施されるなど有効に機能するものとはなっておらず、事前通告なしの抜き打ち調査が実施されていないなどのため、帳簿類の調査のみでは発見が困難な一重帳簿による工数の付替え等には対応できない状況となっていた(参照 )。
 また、原価監査等については、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、実施していたものの、制度調査と同様に、有効に機能するものとはなっていないなど、一重帳簿による工数の付替え等には対応できない状況となっていた。そして、原価監査に関する要領等についてみると、陸上自衛隊の一部の部隊、航空自衛隊、衛星センター、通信機構及び総務省において、要領等が定められていなかったり、定められていても十分なものとはなっていなかったりしていた(参照 )。
 さらに、三菱電機等の内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等については、社内の不祥事事案の再発防止に重点を置いたものにとどまっていたことなどのため、過大請求の実態に気付くことができなかったなどとしている(参照 )。

2 所見

 防衛装備品や人工衛星等は、我が国の安全保障及び大規模災害等への危機管理等の面において大きな役割を担っており、防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約は、これらの役割を実効性あるものとするために重要であり、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省において引き続き実施されるものである。
 また、これらの契約は、前記のとおり、契約相手方が限定されるため随意契約で締結されることが多く、競争が働きにくい面がある一方、市場価格が形成されておらず、予定価格が原価計算方式で算定される場合が多いことなどから、予定価格の算定根拠等の透明性の確保が重要となっている。
 ついては、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、今回の過大請求事案に対する特別調査等を引き続き実施して、事態の全容の解明、過大請求額の算定、返還の請求等を行うとともに、防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する予算の執行のより一層の適正化を図るよう、次の点に留意する必要がある。

 ア 資料の信頼性確保に関する措置について

 防衛省及び宇宙機構においては、前記のとおり、資料の信頼性確保に関する措置として関係資料の保存義務、虚偽資料に係る違約金の賦課等について契約相手方への周知は行われていたものの、現に本件過大請求事案が発生したことなどを踏まえ、信頼性確保の措置のより一層の実効性の向上に努めること。また、衛星センター、通信機構及び総務省においては、関係資料の保存義務、虚偽資料に係る違約金の賦課等の資料の信頼性確保に関する措置について、より一層の体制の整備を図ること

 イ 防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等について

 防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する競争性、透明性等の確保やコスト削減へのインセンティブ、ペナルティの実効性等の課題等は、過大請求の発生リスクに影響を与えているとの認識に立って、関係機関等が連携して、引き続き調達制度等の在り方等について更なる検討を行うこと

 ウ 制度調査について

 (ア) 制度調査を実施する担当官が自ら調査項目等を選定して、直ちに作業員等への聴取を実施したり、適宜調査項目を変更したりするなどして、形式的な調査にならないよう留意し、契約相手方に対する牽(けん)制効果が十分に働くようにすること

 (イ) 作業現場に赴いて作業実態、工数計上の手続等を実地に確認するフロアチェックを行う場合には、管理職等のみに想定される範囲内の質問をするのではなく、実際の作業員等に想定外の質問も含む質問を行うようにするなど、フロアチェックの充実・強化を図ること

 (ウ) 衛星センター及び通信機構においては、制度調査を実施できるよう早急に体制の整備を図るとともに、その実施に当たっては、他の調達機関と連携を図るなどして、制度調査の充実・強化を図ること

 (エ) 一重帳簿による過大請求を発見したり抑止したりするため、必要に応じて事前通告なしの抜き打ち調査等を実施するとともに、その調査手法の開発や実施体制の整備を図ること

 エ 原価監査等について

 (ア) 契約相手方が示す事項に対する事実確認等にとどまることなく、様々な観点からの監査及び確認を行うなどして、形式的な監査にならないよう留意し、契約相手方に対する牽制効果が十分に働くようにすること

 (イ) 関係書類の照合等にとどまることなく、作業実態に関する質問を行うなどして事実の把握及び確認に努めること

 (ウ) 防衛省においては、地方調達に係る原価監査等の基準を統一的に整備したり、衛星センター、通信機構及び総務省においては、原価監査等の具体的方法、内容等を定めた要領等を整備したりするなど、体制の整備を図ること

 (エ) 一重帳簿による過大請求を発見したり抑止したりするため、制度調査と同様に、必要に応じて事前通告なしの抜き打ち監査等を実施するとともに、その監査手法の開発や実施体制の整備を図ること

 オ 内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等について

 契約相手方に対して制度調査、原価監査等を実施するなどの際は、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が講じた再発防止策等についての契約相手方に対する浸透度合を確認し、また、内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の状況について聴取等を行うなどして、契約相手方の原価計算システムの適正性、過大請求の発生リスク等について的確に判断するとともに、必要に応じて適切な指導を行うなどして過大請求の発生リスクの低減に努めること

 会計検査院としては、本報告書の取りまとめに際して、内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が今後行うこととしている損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況について検証等を終えるに至っていない部分があることなどから、これらを中心に引き続き検査して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。