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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

人事・給与等業務・システムについて、参加府省等との調整をより一層実施するなどして、安定的に運用できるよう引き続き改修に努めるとともに、参加府省等と十分情報共有を図り移行支援を実施するなどして、最適化効果が早期に発現するよう内閣総理大臣及び人事院総裁に対して意見を表示したもの


2 本院の検査結果

 (検査の観点、着眼点、対象及び方法)

 府省共通業務・システムの最適化計画は、既にその大半はシステム構築が完了しており、多くの府省等で運用されているが、人給システムは、当初の最適化計画が順次改定されており、参加府省等の運用開始が遅延していて、最適化効果の発現が大幅に遅延している。
 そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、最適化の実施に当たり、担当府省と参加府省等との間の調整は適切か、また、最適化を円滑に進捗させるための具体的課題を適切に解決しているかなどに着眼して検査を行った。
 検査に当たっては、人給システムの最適化に係る企画、設計・開発、改修等に係る経費(以下「開発経費」という。)及び機器の調達、保守・運用等に係る経費(以下「運用経費」という。)を対象として、15年度から23年度までの間の支出金額に関する調書を担当府省(人事院及び総務省)から徴するとともに、その履行状況等を把握するために、年間支出金額が30万円以上の契約について調書を徴した。また、20年度から23年度までの間の参加府省等における移行計画書の策定支援やデータ整備等の移行作業に係る経費(以下「移行経費」という。)を把握するために、年間支出金額が30万円以上の契約について調書を25府省等(注1) の本省及び外局等から徴するなどした。
 そして、担当府省を含む20府省等(注2) に対して会計実地検査を行うとともに、設計・開発、機器の調達等に係る契約の相手方3会社(注3) において会計実地検査を行い、契約の履行が適切なものとなっているかなどについて確認した。

(注1)
 25府省等  内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府本府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、衆議院、参議院、国立国会図書館、裁判所、会計検査院
(注2)
 20府省等  内閣官房、人事院、内閣府本府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、総務本省、法務本省、財務本省、国税庁、文部科学本省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業本省、国土交通本省、海上保安庁、環境本省、衆議院、国立国会図書館、会計検査院
(注3)
 3会社  伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、沖電気工業株式会社、富士通株式会社

 (検査の結果)

 検査したところ、人事院及び総務省における15年度から23年度までの間の人給システムの最適化に係る開発経費及び運用経費の支出金額は、計89億2734万余円となっていた。
 人給システムは、19年7月開催の人給連絡協議会において、参加府省等ごとにサーバ等の機器を調達して保守・運用等を行う「分散方式」から、機器の調達、保守・運用等を一元的に管理する「集中管理方式」へ変更され、人事院が運用主体となることとされた。そのため、20年度以降の設計・開発等は人事院が実施しており、その開発経費や運用経費は参加府省等が利用規模(参加府省等の定員等)に応じて毎年度負担している。また、人事院は、複数年の国庫債務負担行為に基づく今後の負担額を参加府省等に示している。
 しかし、人給システムは、23年度以降、運用段階に入っているが、2年度に開始した移行作業において、人事院が参加府省等のデータをシステムに登録したところ、データに不整合が発生するなどして、移行作業が大幅に遅延したため、多くの参加府省等の運用開始が遅延しており、最適化効果の発現が大幅に遅延している。
 そこで、最適化効果の発現に支障となっている要因を分析したところ、人事院における設計・開発段階、移行作業、プロジェクト管理支援業務、業務執行体制等について、次の(1)から(4)までのような事態が見受けられたほか、最適化計画における移行経費の計上について、(5)のような事態が見受けられた。

(1) 設計・開発段階

 システムの設計・開発段階では、一般的に、図のとおり、開発工程で単体テストから総合テストまでを設計・開発業者が実施し、受入テストを発注者が実施する。

図 システムの設計・開発段階における各種テスト

図システムの設計・開発段階における各種テスト

 しかし、人給システムの場合、20年10月から23年8月までの間の第1期から第3期までの設計・改修業務において、当初予定していたテスト期間に比べて、総合テストや受入テストが大幅に遅延した。例えば、第1期の設計・改修業務については、2年3月末までと予定していたテスト期間に対して、総合テストの完了が同年6月、受入テストの完了が同年7月となっていた。これは、受入テストの結果により発見された多くの問題に対して、人事院が、設計・改修業者に総合テストを再度実施させただけでなく、プロジェクト管理支援業者からのシステムの品質に係る分析結果を踏まえて、設計・改修業者に単体テストや結合テスト等の品質点検や再発防止に向けた対策を別途求めるなどしたために生じたものである。したがって、人給システムの設計・改修業者の品質管理は十分でなかった。
 また、システムの構築に当たっては、職員数が多い大規模な府省等のデータを登録した場合でも、システムの処理速度等の性能に係る障害が生じないよう、現在のデータ量や将来の職員数の増加を見込んだデータ量に基づき、性能要件を十分定義するとともに、それらを充足するように設計・開発を行い、その充足度を総合テスト等で検証することが求められる。
 しかし、人事院において、参加府省等が保有している現在のデータ量等の確認を十分行っていなかったこと、性能要件を定義する方法や性能の確認方法に関する知見が十分でなかったことなどから、性能要件が十分定義されていなかったり、性能要件に関する設計・改修業者と人事院との認識が一致していなかったりなどしたため、結果として参加府省等の実際のデータ量等が設計・開発に反映されておらず、また、総合テスト等においても十分検証されていなかった。
 このため、2年度に参加府省等のデータを人事院が人給システムに登録して、参加府省等がシステムを並行稼働させたところ、画面遷移に時間を要したり、バッチ処理に時間を要して処理が停止したりするなど性能に係る障害が多数発生した。
 人給システムは、上記の性能に係る障害以外にも数多くの障害が発生しており、人事院が作成しているアプリケーションの改修課題の「障害改修一覧」をみても、入力画面や帳票等に関する課題が、24年7月6日現在で計51件残されており、安定的なシステム運用が実現できていない。

(2) 移行作業

 人給システムは、前記のとおり、「集中管理方式」により運用されることになったことから、参加府省等は、人事院が設計・開発した人給システムに参画するために、独自システムを有する場合にはデータ抽出等により、また、独自システムがない場合にはデータ入力作業等により、システムに登録するデータを作成する必要がある。
 参加府省等は、2年7月以降、順次、人給システムへデータを登録するために、作成したデータを人事院に持ち込んでいる。そして、人事院は、移行作業に当たって、人給システムにデータを登録するための登録シートの作成やデータを登録するためのプログラム(以下「移行ツール」という。)の設計・開発を実施したが、移行ツールに係る要件定義に際して、参加府省等の独自システムにおける既存データの情報を十分把握していなかったため、参加府省等の登録データは基本的に品質が担保されているという前提で設計・開発を行っていた。このため、移行ツールのデータチェックが十分機能せず、人事データと給与データとの間や給与データ内での整合性が確保できない事態が多数発生した。
 このような事態に対して、人事院は、2年度に、急きょ、人給システムへ登録するデータの整合性のチェックを行うプログラムを開発したが、同プログラムでは、エラーの原因が示されず、整合性が確保できない箇所がエラーリストとして一括して出力されるのみであったことなどから、エラーリストを見ただけでは修正すべき内容が分かりにくくなっていた。
 また、移行作業の準備段階では、人事院から参加府省等に対する移行ツールや登録シートに関する説明が十分でなかったため、登録データの作成に当たって事前にデータの品質を確保する必要があることや、登録シートに必ず記載すべき情報の範囲等が十分伝えられていないなど、人事院と参加府省等との間で十分な情報共有が図られていなかった。
 さらに、人事院は、人給システムにデータを登録した後に整合性のチェックを実施した結果、各府省等とも総数で数万から数十万単位のデータの不整合によるエラーが発生していることについて、それぞれの参加府省等に連絡していたが、その際に、エラーの内容の詳細な解析結果の説明を行っていなかった。
 これらの移行作業の遅延等により、前記のとおり、多くの府省等は、人給システムをいまだに運用できていない。
 一方、人事院は、2年4月から26年6月までの間の国庫債務負担行為により、並行稼働又は本番稼働を開始した参加府省等のシステム利用責任者や業務担当者等の利用者を対象として、8時30分から19時までの間の電話等による問合せに対応するため、ヘルプデスク業務に係る契約を3億1452万余円で民間業者と締結していた。
 その際、人事院は、前記のような技術的問題が多数発生することをあらかじめ想定していなかったため、ヘルプデスクでは、システム操作の説明等に係る問合せには直接回答するが、データ等に起因する問合せには、人給システムの管理等を行う運用センター等に対応を要請し、運用センター等からの回答を受けて、後日参加府省等に回答することを想定していた。
 しかし、ヘルプデスクに寄せられた参加府省等からの問合せの多くがデータ等に起因するものであったことから、実際にヘルプデスクで対応できた件数は、全体の平均でも3分の1、最大の月でも半分程度であった。そして、運用センター等に対応を要請した回答の遅延等もあり、参加府省等が人事院に直接質問を寄せたことから、人事院では大量の質問に対する回答に忙殺されて、更なる移行作業の停滞を招くことになった。
 また、契約における想定業務量は、21年8月改定の最適化計画に基づき、2年度から24年度までの間に、全ての参加府省等が人給システムの運用を開始するとの前提となっており、全ての参加府省等が並行稼働又は本番稼働を開始した場合には、平常時で1日約450件の問合せがあるとしていたが、前記のとおり、参加府省等の運用開始が大幅に遅延したことなどから、実際の問合せ件数は、23年9月以降、1か月当たり数十件又は百数十件となっているなど想定業務量を大幅に下回っていた。

(3) プロジェクト管理支援業務

 人事院は、参加府省等のシステム移行の支援を行うなど、「集中管理方式」により業務が多角化したことなどから、プロジェクト全体の管理体制を整備する目的で、20年度、2年度及び23年度に、プロジェクト管理支援業務に係る契約を民間業者と締結していた。
 しかし、プロジェクト管理支援業務が、システムの設計・改修業務の契約期間内に終了してしまったため、システムの設計・改修業務に対する全体評価が実施できず、中間報告しか行われていないなど、プロジェクト管理支援業務の契約期間と設計・改修業務の契約期間が十分対応していなかった。
 これに対して、人事院は、20年度及び2年度のプロジェクト管理支援業務の契約期間内で完了しなかった管理支援業務について、2年度及び23年度のプロジェクト管理支援業務として実施しており、プロジェクト管理支援業務は、一般競争入札で実施されていたものの、それまでのプロジェクト管理支援業務で業務内容等を熟知している従来の管理支援業者が、入札において圧倒的に有利となっていた。

(4) 人事院における業務執行体制等

 人事院及び内閣官房は、前記のとおり、「集中管理方式」への変更に際して、参加府省等の実務担当者から広く意見を聴取しながら、システム開発等を進める必要があるとして、18年9月及び同年1月に、参加府省等の課長クラスによる人給連絡協議会及び人給連絡協議会の実務的な検討の会議として人・給システム実務担当者連絡会議(以下「全体WG」という。)を設置し、設計・開発や移行作業を進めている。
 全体WGは、システムの詳細機能や移行手順等の実務的な内容について、人事院と参加府省等の情報共有を強化するため、24年6月末までに25回開催している。しかし、全体WGでは、移行ツール及び登録シートについての説明並びに先行して移行作業を実施した府省等の進捗状況に係る情報の共有及び発生した課題に係る情報の共有が十分図られていなかった。

(5) 最適化計画における移行経費の計上

 データ作成等の移行作業のうちには、システムに関する高度な技術的知識等を要する作業や作業量が非常に多いものもあることから、多くの参加府省等は移行作業を請負契約により民間業者に実施させている。
 これらの移行作業に係る20年度から23年度までの間の請負契約は、22府省等(注4) において73件、契約金額計18億081万余円であった。
 このような移行経費について、業務・システムの最適化効果を投資対効果の観点から計測することは重要であり、また、移行経費は上記のとおり多額であることから、最適化の実施に係る投資額として適切に把握することが必要である。
 しかし、人事院は、参加府省等が保有しているシステムはそれぞれ独自システムであり、移行経費の算定が困難であること、また、人給システムに登録したデータの不整合を解消するために、移行ツールを改修し、これを用いた「新移行方式」を24年度に参加府省等に対して示すこととしており、これを踏まえた移行経費の把握が必要となることなどから、内閣官房等と協議の上、24年1月改定の最適化計画においても、移行経費を最適化の実施に係る投資額に含めていなかった。

 2府省等  内閣官房、内閣法制局、人事院、内閣府本府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、特許庁、国土交通省、海上保安庁、環境省、衆議院、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院

(改善を必要とする事態)

 人給システムは、これまで多額の国費が支出されているにもかかわらず、移行作業の遅延に伴い多くの参加府省等の運用開始が遅延しているだけでなく、参加府省等における運用が安定しておらず、最適化効果の発現が大幅に遅延している事態のほか、移行経費を最適化の実施に係る投資額として計上していない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、人事院において、次のことなどによると認められる。

ア 参加府省等における運用の安定について

(ア) 設計・開発に当たり参加府省等のデータ量等を十分確認していなかったこと
(イ) 設計・改修業務におけるテストの作業工程及び作業期間について十分検討していなかったこと
(ウ) プロジェクト管理支援業務の契約期間や業務内容等について十分検討していなかったこと

イ 移行作業における遅延について

 移行作業に伴うリスクや参加府省等の業務内容等について十分把握していなかったこと、また、移行作業に必要となるへルプデスク業務の業務内容や業務量を十分検討していなかったこと

ウ 最適化計画における移行経費の計上について

 移行経費の算定の前提となる参加府省等の移行作業の業務内容等の把握が十分でなかったこと