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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第11 農林水産省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1) 農地・水保全管理支払交付金事業の実施に当たり、農用地の保全管理の状況を適切に確認させることにより、遊休農地の発生を防止するための共同活動に係る交付金の交付が適正なものとなるよう是正改善の処置を求め、及び向上活動により取得した財産を市町村等に適時適切に譲渡させることにより財産の帰属及び管理責任が明確となるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農村地域資源等保全推進費 (平成22年度以前は、(項)農村振興費)
部局等
農林水産本省、6地方農政局
補助の根拠
予算補助
事業主体
共同活動支援交付金 42地域協議会
向上活動支援交付金
1,555活動組織
補助事業
農地・水保全管理支払交付金事業(平成22年度以前は、農地・水・環境保全向上対策交付金事業)
補助事業の概要
農地・水・環境の良好な保全とその質的向上を図ることを通じて地域の振興に資するため、地域ぐるみで農地、農業用用排水路等の日常の管理等を行う共同活動及び老朽化が進む農業用用排水路等の長寿命化のための補修・更新の工事等を行う向上活動に対して支援を行うもの
共同活動において保全管理が必ずしも適切に実施されていない共同活動農用地の面積
144,266a
上記に係る国庫交付金相当額(1)
1億3147万円(平成19年度〜23年度)
向上活動により取得した財産の帰属及び管理責任の明確化等が適切に実施されていない更新工事数
2,156更新工事
上記に係る国庫交付金相当額(2)
11億0334万円(平成23年度)
(1)及び(2)の計
12億3481万円(平成19年度〜23年度)

(上記(1)の事態については、前掲373ページの「農地・水保全管理支払交付金事業(共同活動支援交付金事業)の実施に当たり、交付対象とならない経費を含めていたり、事業の一部を実施していなかったりしていたもの」参照)

【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】 農地・水保全管理支払交付金事業の実施について

(平成25年10月31日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。

1 事業の概要

(1) 農地・水保全管理支払交付金の概要

貴省は、「農地・水・環境保全向上対策実施要綱」(平成19年18農振第1777号農林水産事務次官依命通知)等に基づき、農地・水・環境の良好な保全とその質的向上を図ることを通じて地域の振興に資するために、農地、農業用水等の保全管理を行う地域ぐるみの共同活動等を支援する農地・水・環境保全向上対策を平成19年度から国庫補助事業により実施している。

そして、23年度からは「農地・水保全管理支払交付金実施要綱」(平成23年22農振第2261号農林水産事務次官依命通知)等(以下、上記の農地・水・環境保全向上対策実施要綱等と合わせて「実施要綱等」という。)に基づき、これまでの共同活動に対する支援を行うとともに、老朽化が進む農業用用排水路(以下「水路」という。)等の長寿命化のための補修・更新の工事等を行う向上活動に対する支援を行う農地・水保全管理支払交付金事業を国庫補助事業により実施している(以下、共同活動及び向上活動に対する支援策を合わせて「本対策」という。)。

本対策は、農業者だけでなく非農業者も含めた地域住民等により主に集落単位で構成され、農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)に基づく農用地区域内に存する農用地において共同活動に取り組む組織(以下「共同活動組織」という。)に対して共同活動支援交付金を交付し、また、施設の長寿命化のための向上活動に取り組む活動組織(以下「向上活動組織」という。)に対して向上活動支援交付金を交付するものである。

そして、貴省は、共同活動支援交付金に係る事業の実施期間については19年度から23年度までを第1期、24年度から28年度までを第2期とし、向上活動支援交付金に係る事業の実施期間については23年度から28年度までとしており、共同活動支援交付金の第1期の支出済歳出額は1049億2630万余円、向上活動支援交付金の23年度支出済歳出額は47億3812万余円となっている。

(2) 共同活動支援交付金に係る事業の概要

共同活動支援交付金に係る事業は、都道府県、関係市町村、農業者団体、非営利団体等により構成された地域協議会を実施主体として、国及び地方公共団体が、この地域協議会を通じて共同活動組織に対して支援を行うものである。

貴省は、この支援のための資金をあらかじめ積み立てるために地域協議会に対して共同活動支援交付金を交付し、地域協議会は、国からの共同活動支援交付金に地方公共団体から交付を受けた国と同額の交付金を加えて共同活動組織に対して交付金を交付している。

共同活動支援交付金に係る事業の実施の流れは次のとおりである。

  • ① 共同活動組織の代表者と共同活動支援交付金の算定の対象となる農用地(以下「共同活動農用地」という。)が所在する市町村の長等との間で協定(以下「共同活動協定」という。)を締結する。この際、協定書には共同活動農用地と交付金の対象となる共同活動の内容を明記した活動計画を添付する。
  • ② 共同活動組織は、共同活動協定に基づき、共同活動農用地において遊休農地(注1)の発生を防止するための保全管理、農業用水等のための水路やため池の泥上げや草刈り、農道の砂利の補充や農道脇への花の植栽等を原則として5年間以上継続して実施する。
  • ③ 共同活動組織は、毎年度、共同活動協定に定められている事項の実施状況について実施状況報告書等により市町村に報告する。
  • ④ 市町村は、③を受けて実施状況を確認し、その結果を地域協議会に報告する。

また、共同活動組織に対する国の共同活動支援交付金の交付額は、共同活動協定に位置付けられている共同活動農用地の田、畑等の地目ごとの面積にそれぞれ所定の単価を乗じた金額の合計額とされている。

実施要綱等によれば、共同活動組織は、共同活動協定に位置付けた全ての共同活動農用地について、遊休農地等の発生状況を把握し、これらの遊休農地等の草刈りや害虫駆除等を適切に行い、耕作可能な状態に保全管理することとされている(以下、このように保全管理されている農用地を「耕作可能な保全管理農用地」という。)。そして、実施期間の最終年度である23年度末の共同活動協定期間終了時に遊休農地化している共同活動農用地があるなど、これらの活動が適切に実施されていないことが確認された場合は、共同活動組織は、交付された共同活動支援交付金のうち当該共同活動農用地部分に相当する交付金を共同活動協定締結年度に遡って地域協議会に返還することとされている。

そして、貴省によれば、耕作可能な保全管理農用地とは、人力、あるいは農業者が通常所有等している農業用機械で草刈り、耕起を行うことにより、直ちに耕作可能な状態に保全管理された共同活動農用地であるとしている。

注(1)
 遊休農地  現状で営農が行われておらず、かつ、耕作可能な状態に保全管理されていない農用地

(3) 向上活動支援交付金に係る事業の概要

向上活動支援交付金に係る事業は、水路等の長寿命化のための補修・更新の工事等を行う向上活動組織を実施主体として、国及び地方公共団体がこの向上活動組織に対して支援を行うものである。

向上活動支援交付金に係る事業の実施の流れは次のとおりである。

  • ① 向上活動組織の代表者と向上活動支援交付金の算定の対象となる農用地(以下「向上活動農用地」という。)が所在する市町村の長等との間で協定(以下「向上活動協定」という。)を締結する。この際、協定書には向上活動農用地と交付金の対象となる向上活動の内容を明記した活動計画を添付する。
  • ② 向上活動組織は、向上活動協定に基づき、向上活動農用地において、水路等を対象とした長寿命化のための補修・更新の工事等を行う。
  • ③ 向上活動組織は、毎年度、向上活動協定に定められている事項の実施状況について市町村に報告する。
  • ④ 市町村は、③を受けて実施状況を確認し、実施状況報告書等によりその結果を貴省に報告する。

また、向上活動組織に対する国の向上活動支援交付金の交付額は、向上活動協定に位置付けられている向上活動農用地の田、畑等の地目ごとの面積にそれぞれ所定の単価を乗じた金額の合計額とされており、地方公共団体は、これと同額の交付金を交付している。

実施要綱等によれば、向上活動組織は、向上活動により、市町村等が所有、管理する水路、農道、ため池等の財産に係る更新工事を実施した場合、工事により取得した財産を市町村等に無償で譲渡することとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、共同活動農用地に係る遊休農地の発生を防止するための保全管理が、共同活動組織において、共同活動協定等に基づき適切に実施されているか、また、向上活動組織が向上活動により取得した財産の市町村等への譲渡が適切に行われているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、貴省が19年度から23年度までの間に23道県(注2)に所在する42地域協議会に対して交付し、各地域協議会が639市町村(23年度末現在。以下同じ。)に所在する9,400共同活動組織に対して交付した共同活動支援交付金517億3425万余円、貴省が23年度に23道県の274市町村に所在する2,603向上活動組織に対して交付した向上活動支援交付金20億0179万余円、計537億3604万余円を対象として、上記の地域協議会等において、共同活動協定書、向上活動協定書、実施状況報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

注(2)
 23道県  北海道、青森、茨城、群馬、埼玉、神奈川、岐阜、静岡、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、大分各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 共同活動における共同活動農用地の保全管理について

本院が、共同活動支援交付金に係る実施状況報告書等の書類により、遊休農地の発生を防止するための保全管理の実施状況を検査したところ、共同活動農用地について遊休農地の発生が防止されていることを具体的に確認できる書類を添付することとしていないことなどから、実施期間の最終年度である23年度末に遊休農地の発生が防止されていたか具体的に確認できない状況になっていた。

一方、市町村及び農業委員会は、耕作放棄地全体調査要領(20年19農振第2125号農林水産省農村振興局長通知)に基づき、20年度から、現況が耕作放棄地となっている農地を対象に、荒廃状況等を把握するための耕作放棄地全体調査(以下「全体調査」という。)を毎年実施している。全体調査では、調査対象とした耕作放棄地を一筆ごとに、①人力・農業用機械で草刈り、耕起、抜根又は整地を行うことにより、直ちに耕作することが可能な土地、②区画整理等の基盤整備を実施して農業利用すべき土地及び③森林・原野化している土地に区分しており、②及び③に区分された耕作放棄地は遊休農地の定義に該当する。一方、①に区分された耕作放棄地(耕作可能とするために、草刈り、耕起、抜根又は整地が必要な土地)の中には、遊休農地の定義に該当するものもあるが、耕作可能な保全管理農用地(耕作可能とするために、草刈り又は耕起が必要な土地)に該当するものも含まれ、両者を区分することができない。

このため、全体調査における耕作放棄地と共同活動農用地における遊休農地は一致するものではないが、本院が、共同活動農用地について、23年度に実施した全体調査の結果と一筆ごとに照合するなどして確認したところ、耕作放棄地に区分されていた共同活動農用地が、23年度末に第1期の共同活動協定期間が終了した23道県の42協議会の1,928共同活動組織において、計17,179筆、計145,018a見受けられた。このように、耕作放棄地に区分された共同活動農用地が多数の共同活動組織で見受けられたことから、その中で耕作放棄地が大規模であった1共同活動組織の共同活動農用地277筆、5,462aについて、23年度末における保全管理の状況を本院が現地を確認するなどして調査したところ、このうち230筆、4,710aについては実際に遊休化していた。

したがって、1,928共同活動組織における共同活動農用地計17,132筆、計144,266a(これに係る19年度から23年度までの共同活動支援交付金計1億3147万余円(国庫交付金相当額同額))については、23年度末に遊休農地が相当数発生していたおそれがあり、遊休農地の発生を防止するための保全管理が必ずしも適切に実施されていたとは認められない。

(2) 向上活動における財産の管理について

向上活動における財産の譲渡の状況について検査したところ、23道県の237市町村に所在する1,588向上活動組織が23年度に市町村等の所有、管理する財産について実施した2,197更新工事、工事費計22億4431万余円(国庫交付金相当額11億2215万余円)のうち、1,555向上活動組織が実施した2,156更新工事、工事費計22億0668万余円(国庫交付金相当額11億0334万余円)により取得した財産は、23年度末から1年以上が経過した25年5月末現在においても市町村等に譲渡されていない状況となっていた。

また、上記の2,156更新工事により取得した財産を譲渡するために必要となる図面等の書類の整備状況についてみると、1,761更新工事、工事費計16億6123万余円(国庫交付金相当額8億3061万余円)において、更新工事により取得した財産の所在、構造、規模、数量等が明示された設計書、平面図、構造図等の図面等の書類を向上活動組織が請負業者から徴取していないなど、図面等の書類が十分に整備されていない状況となっていた。

向上活動組織が更新工事によって取得した財産が今後適切に管理されるためには、更新工事の対象となった水路、農道等を所有、管理する市町村等に早期に譲渡して、管理責任の所在を明確にし、市町村等の水路、農道等として管理することが必要である。また、図面等の書類は、更新工事実施時に整備されない場合、事後的に整備することは時間の経過とともにますます困難となっていくことが想定されることから、向上活動組織は、向上活動における財産の譲渡及び図面等の整備を適時適切に実施する必要があると認められる。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

以上のように、共同活動組織が共同活動において遊休農地の発生を防止するための保全管理を適切に実施しているか具体的に確認できず、実施期間の最終年度である23年度末において、共同活動農用地の中に遊休農地化している農用地が相当数発生しているおそれがある状況となっていた事態は適切でなく、是正改善を図る要があると認められる。また、向上活動組織が向上活動により取得した財産に関して市町村等への譲渡が進んでいないことから財産の帰属及び管理責任の所在が明確となっていない状況となっていたり、向上活動組織が更新工事によって取得した財産が今後市町村等において適切に管理されるために必要となる書類の整備が十分でなかったりしている事態は適切でなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、共同活動組織において、共同活動支援交付金に係る事業の適切な実施に対する認識が欠けていたことにもよるが、次のことなどによると認められる。

  • ア 地域協議会及び市町村において、共同活動農用地における遊休農地の発生を防止するための保全管理の適切な実施について確認が十分でなかったこと
  • イ 貴省において、地域協議会及び市町村に対して共同活動農用地の保全管理状況の確認方法について実施要綱等に具体的に示していなかったこと
  • ウ 貴省において、向上活動支援交付金により向上活動組織が取得した財産の引渡しが可能となった時点で速やかに市町村等に譲渡し、財産の帰属及び管理責任の所在を明確にするための向上活動組織に対する指導が十分でなかったこと。また、向上活動組織が財産譲渡のために必要となる図面等の書類を更新工事の際に整備し、できるだけ速やかに財産を譲渡するよう実施要綱等に具体的に示していなかったこと

3 本院が求める是正改善の処置及び表示する意見

貴省は、農業及び農村の基盤となる農用地・農業用水等の資源の保全と質的向上を図るとともに、農業が本来有する自然循環機能を維持し増進することが必要であることから、今後も引き続き本対策を実施していくこととしている。

ついては、貴省において、共同活動農用地における遊休農地の発生を防止するための保全管理や向上活動により取得された財産の帰属及び管理責任の明確化が適切に実施されるよう、次のア及びイのとおり是正改善の処置を求め並びにウのとおり意見を表示する。

  • ア 地域協議会及び市町村に対して、23年度末に遊休農地が発生していたおそれがある共同活動農用地について、保全管理が適切に行われていたか調査させた上で、保全管理が適切に行われず、実際に遊休化していたことが判明した農用地については、地域協議会に当該農用地に係る交付金の返還の措置を講じさせること
  • イ 共同活動組織が共同活動農用地において遊休農地発生防止のための保全管理を適切に実施しているか具体的に確認できるようその方法を定めるとともに、地域協議会及び市町村に対して指導すること
  • ウ 向上活動組織が財産譲渡のために必要となる図面等の書類を更新工事の際に整備し、工事終了後できるだけ速やかに財産を譲渡するなど、財産の帰属及び管理責任の所在を明確にすることについての取扱いを定めるとともに、向上活動組織に対して指導又は助言を行うこと