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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(4) 国産原材料サプライチェーン構築事業の実施に当たり、事業主体が事業実施計画を作成する際に、事業主体の構成員間での合意形成や生産物の需給に関する見通しの検討・予測等を十分に行わせることで適切な成果目標等を設定させ、これに基づいて採択することなどにより、事業が効果的に実施されるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省(項)国産農畜産物・食農連携強化対策費(平成22年度以前は、(項)国産農畜産物競争力強化対策費)
部局等
農林水産本省、6地方農政局、沖縄総合事務局
補助の根拠
予算補助
補助事業者(事業主体)
38任意団体
補助事業
国産原材料サプライチェーン構築事業
補助事業の概要
加工・業務用需要に対応した国産農畜産物の供給体制等の整備を行い、加工・業務用途における国産農畜産物のシェアを向上させることを目的として、中間事業者の育成支援、産地、中間事業者及び食品製造業者等の連携活動等の支援を行うもの
達成率が50%未満と低調となっていた事業主体に係る事業費
5億4182万余円(平成21年度〜23年度)
上記に対する国庫補助金
5億3630万円
【改善の処置を要求したものの全文】 国産原材料サプライチェーン構築事業の効果的な実施について

(平成25年10月31日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 国産原材料サプライチェーン構築事業の概要等

(1) 国産原材料サプライチェーン構築事業の概要

貴省は、平成21年度から、加工・業務用需要に対応した国産農畜産物の供給体制等の整備を行い、加工・業務用途における国産農畜産物のシェアを向上させることを目的として、中間事業者(注1)の育成支援、産地、中間事業者及び食品製造業者等の連携活動の支援並びに機械・施設の整備等に対する支援を行うため、生産者、中間事業者及び食品製造業者等を構成員とする国産原材料供給・利用協議会(以下「協議会」という。)等が事業主体となって行う国産原材料サプライチェーン構築事業(以下「サプライチェーン事業」という。)に対して、国産農畜産物・食農連携強化対策事業費補助金等(以下「国庫補助金」という。)を交付している。

サプライチェーン事業は、産地活性化総合対策事業実施要綱(平成23年22生産第10888号農林水産事務次官依命通知。以下「要綱」という。)等に基づき、野菜、果樹、麦類、豆類等を対象品目として、加工・業務用向けの新たなサプライチェーンの構築を推進するための地区推進事業(以下「推進事業」という。)、サプライチェーンの構築を推進する上で必要な機械・施設の整備を行う整備事業(以下「整備事業」という。)等を実施するもので、地方農政局(北海道にあっては貴省本省、沖縄県にあっては内閣府沖縄総合事務局。以下同じ。)は、協議会が実施する推進事業について、国庫補助金を定額で交付している(21年度から23年度までの事業費計14億5662万余円、国庫補助金計13億8497万余円)。また、推進事業を実施する協議会又はその構成員が実施する整備事業について、国庫補助金を定率で交付している(21年度から23年度までの事業費計124億2757万余円、国庫補助金計55億1842万余円)。

なお、貴省は、25年2月以降、推進事業に比べて事業費が多額となっている整備事業に対して、国庫補助金ではなく、都道府県を経由して農業・食品産業強化対策整備交付金を交付することとしたが、同交付金の都道府県ごとの配分額の決定に際しては、整備事業を実施予定の事業主体が推進事業を実施している協議会等であるかどうかを考慮することとしている。

注(1)
 中間事業者  加工・業務用原材料として農畜産物を生産者から購入して、食品製造業者等の需要に合わせた数量・品質・形態等での供給を行うなどの要件を具備した農業協同組合等の民間事業者

(2) 推進事業の概要

要綱等によると、推進事業は、協議会の構成員、学識経験者等で構成される検討会の開催、低コスト流通システムの実証等の取組を実施するものである。

協議会は、組織及び運営についての会則が策定されていること、事業実施及び会計手続を適正に行う体制を有していることなどが要件とされており、貴省が行う公募に対して、事業実施計画を作成して地方農政局に応募することとされている。そして、地方農政局は、推進事業として採択する事業を選定して、その事業実施計画を承認することとされている。

(3) 推進事業の成果目標

要綱等によると、協議会は、事業実施計画の作成に当たり、計画承認年度の3年後を目標年度(例えば、21年度が計画承認年度の場合、目標年度は24年度)として、目標年度に達成すべき成果目標を設定することとされている。その成果目標は、協議会や地域が抱える問題の明確化を図り、その課題解決のために設定するもので、対象品目における国産原材料の供給力の向上(以下「供給力向上」という。)又は国産原材料の供給連鎖による付加価値の向上(以下「付加価値向上」という。)のいずれかの項目を選択した上で設定することとされている。

上記のうち、供給力向上を選択した場合は、

  • ① 生産者、中間事業者及び食品製造業者等間の全ての取引段階(以下「協議会内取引段階」という。)において、(ア)協議会の生産者が生産した加工・業務用原材料、(イ)これを使用した製品等(以下、(ア)と(イ)を合わせて「協議会生産物」という。)の協議会内への出荷量をそれぞれ10%以上増加させること
  • ② 対象品目について、加工・業務用需要向けの取引に初めて取り組むなどの場合で、①による出荷量の目標値の設定が不可能な取引段階については、全出荷量のうち協議会内への出荷量の割合を5%以上とすること

とされており、それぞれ出荷量の増加量又は出荷量の割合が成果目標となる。また、付加価値向上を選択した場合は、

  • ① (ア)協議会内取引段階における協議会生産物の協議会内への販売金額、(イ)協議会生産物の食品製造業者等から協議会外への取引段階(以下、協議会内取引段階と合わせて「全取引段階」という。)における販売金額をそれぞれ5%以上増加させること
  • ② 対象品目について、加工・業務用需要向けの取引に初めて取り組むなどの場合で、①による販売金額の目標値の設定が不可能な取引段階については、(ア)全販売金額のうち協議会内への販売金額の割合、(イ)食品製造業者等の全販売額のうち協議会外への協議会生産物の販売金額の割合をそれぞれ3%以上とすること

とされており、それぞれ販売金額の増加額又は販売金額の割合が成果目標となる。

上記の各取引段階について、その概略を示すと図のとおりである。

図 協議会の各取引段階(概念図)

協議会の各取引段階

上記の成果目標の設定に当たっては、目標年度において、全ての構成員が、協議会内への出荷量又は販売金額を増加させること、及び協議会外への出荷量又は販売金額を含めた全出荷量又は全販売金額を増加させることを前提とすることとされている(以下、このような前提の下で、事業実施計画に記載された出荷量又は販売金額を「計画値」という。)。

そして、地方農政局が推進事業として採択する事業を選定するに当たっては、事業実施計画を評価して、評価が高いものを優先的に採択することとされており、その際、成果目標及び計画値(以下、これらを合わせて「成果目標等」という。)の数値が高いほど評価を高くすることとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、サプライチェーン事業について、事業実施計画の成果目標等が、適切に設定され、達成されているかなどに着眼して、63協議会が事業主体となって、24年度を目標年度とする事業実施計画に基づき、21年度から23年度までの間に実施した推進事業(事業費計10億2636万余円、国庫補助金計9億9228万余円)を対象として、貴省本省、7地方農政局(注2)及び55協議会において、事業実施計画書、対象品目の供給実績に関する関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、沖縄総合事務局及び8協議会から調書の提出を受けるなどして検査した。

注(2)
 7地方農政局  東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各地方農政局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

推進事業は、サプライチェーンの構築を推進するために実施されるものであることから、各取引段階における成果目標等が全て達成されることが重要である。そこで、目標年度である24年度において、協議会ごとに、各取引段階における成果目標等に対する実績の割合のうち、最も低くなっていた取引段階の割合(以下「達成率」という。)の状況を集計したところ、表のとおりとなっていた。

表 達成率の状況

達成率 協議会数 推進事業の事業費の計(円) 国庫補助金の計(円)
供給力向上を成果目標の項目とするもの 付加価値向上を成果目標の項目とするもの
100%以上 19 14 5 382,243,491 359,562,749
50%以上100%未満 6 4 2 102,294,848 96,416,515
0%を超え50%未満 22 20 2 300,659,933 295,485,368
0%以下 16 12 4 241,166,117 240,819,491
63 50 13 1,026,364,389 992,284,123
うち50%未満となっているもの 38 32 6 541,826,050 536,304,859

すなわち、各取引段階における成果目標等を全て達成していたのは19協議会であり、残りの44協議会は、いずれかの取引段階において成果目標等を達成していなかった。さらに、これらの44協議会のうち38協議会は、達成率が50%未満と低調となっており、この中には活動を中止したために協議会生産物の生産量が事業実施前より減少するなどして達成率が0%以下となっている協議会が16協議会あった。

そして、上記の38協議会が実施した推進事業(事業費計5億4182万余円、国庫補助金計5億3630万余円)について、達成率が低調となっていた要因について分析したところ、次のとおりとなっていた。

ア 事業実施計画を作成する際の構成員間の合意が十分でなかったもの

12協議会 事業費計1億4970万余円(国庫補助金計1億4882万余円)

12協議会においては、事業実施計画を作成する際に、成果目標等の設定の基礎とした各構成員間における協議会生産物の取引数量、取引価格等の取引条件が、構成員間の十分な合意に基づいて設定されていなかった。このため、生産者が、市場価格が高値となった際に協議会生産物を協議会内の中間事業者に供給しないで市場に出荷したり、事業開始後に構成員の一部が協議会から脱退したりなどしていて、協議会内への出荷量、販売金額等が増加せず、達成率が50%未満になっていた。

<事例1>

A協議会は、高級食材である藤三七の生葉及び粉末の商品化を図るために設立され、平成21年度に、藤三七を生産する農業者4名が生産者、青果株式会社1社が中間事業者、料理店等8者が食品製造業者等となり、国庫補助金170万余円の交付を受けて、藤三七に関する研修、販売促進企画の検討会の開催等を行った。

しかし、取引価格等の詳細については、中間事業者が同意しなかったことから、A協議会の構成員間において、事前に十分な合意がなされていなかった。そして、事業開始後にも合意ができなかったことなどから、主たる生産者と中間事業者がA協議会を脱退し、残った生産者では成果目標等の数量を生産することが困難であったことなどのため、A協議会は活動を中止しており、目標年度(24年度)において、協議会内の各取引段階で出荷した実績が全くなく、達成率は0%となっていた。

イ 需要及び供給の見通しについての検討・予測等が十分でなかったもの

26協議会 事業費計3億9211万余円(国庫補助金計3億8748万余円)

26協議会においては、成果目標等を設定する際に、食品製造業者等が、協議会外に出荷する協議会生産物に係る需要に関して、あらかじめ十分な市場調査や販売先の確保を行っていなかったり、生産者が、供給が可能な協議会生産物の品質、数量等に関して、あらかじめ十分な検討・予測等を行っていなかったりしていた。このため、食品製造業者等による協議会外に対する協議会生産物の販売が低調となっていたり、生産者による協議会生産物が、中間事業者や食品製造業者等が求めるような品質や数量となっておらず、目標とした出荷ができなかったりなどしていて、達成率が50%未満となっていた。

<事例2>

B協議会は、品質の高い茶葉を栽培して、その茶葉を粉末茶として菓子等の食品に容易に使用できる商品の製造、供給等を行うために設立され、平成21年度に、生産者団体1団体と有限会社1社の計2者が生産者となり、株式会社1社が中間事業者と食品製造業者等を兼ね、国庫補助金238万余円の交付を受けて、検討会の開催、材料の購入等を実施した。

しかし、B協議会は、食品加工用の粉末茶の需要が高まっていると判断して、類似商品の価格や売行き、消費者の嗜好等についての市場調査等を行わずに推進事業を実施していた。その結果、需要に見合った価格での生産ができなかったことなどから、目標年度(24年度)に、食品製造業者等から協議会外へ協議会生産物を販売した実績は全くなく、達成率は0%となっていた。

(改善を必要とする事態)

推進事業を実施した多数の協議会の事業実施計画において、構成員間の合意が十分でなかったことなどにより、達成することが困難な成果目標等が設定されるなどして、地方農政局がこれらの事業実施計画を承認して推進事業を採択するなどした結果、目標年度における達成率が低調となっている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、天候不順等の自然条件にもよるが、次のことなどによると認められる。

ア 協議会において、事業実施計画を作成する際に、
  • (ア) 事業に係る取引条件に関して、構成員間の十分な合意がなされていないこと
  • (イ) 協議会生産物の需要に関する十分な市場調査及び販売先の確保並びに協議会生産物の供給に関する十分な予測・検討等を行っていないこと

イ 地方農政局において、推進事業の採択に当たり、事業実施計画に記載された成果目標等が適切に設定されているかなどについての審査及び確認並びに協議会に対する指導が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、今後も、推進事業を実施する協議会に対して国庫補助金を交付するとしている。また、推進事業に比べて事業費が多額となっている整備事業に対して交付している農業・食品産業強化対策整備交付金の都道府県ごとの配分額の決定に際しては、整備事業を実施予定の事業主体が推進事業を実施している協議会等であるかどうかを考慮することとなっている。そして、推進事業の採択に当たっては、事業実施計画の評価を行うに際して、成果目標等の数値が高いほど評価を高くしていることから、協議会において成果目標等が適切に設定されることが重要である。

ついては、貴省において、適切に設定された成果目標等に基づいて採択することなどにより、サプライチェーン事業が効果的に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 協議会が、事業実施計画を作成する際に、
  • (ア) 成果目標等の前提となる協議会の構成員間における協議会生産物の取引条件に係る合意を十分に行うよう要綱等において定めること
  • (イ) 成果目標等の前提となる協議会生産物の販売先の確保等の需要及び品質、数量等に関する供給の見通しについて検討・予測等を十分に行うよう要綱等において定めること

イ 地方農政局が、上記の(ア)及び(イ)について、協議会に対して指導するとともに、事業実施計画について事前に十分に審査及び確認を行うよう指示すること