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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第13 国土交通省 |
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  • 補助事業 の実施及び経理が不当と認められるもの |
  • (2) 工事の設計が適切でなかったもの

落差工の設計が適切でなかったもの[石川県](404)


(1件 不当と認める国庫補助金 2,909,500円)

部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度 事業費
(国庫補助
対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
千円 千円 千円 千円
(404) 石川県 石川県 活力創出基盤整備総合交付金 22、23 85,911
(85,911)
47,251 5,290
(5,290)
2,909

この交付金事業は、石川県が、主要地方道内浦柳田線道路改良事業の一環として、鳳珠郡能登町字合鹿地内において、道路の盛土により失われる既存の河川の機能を維持することを目的として、河川を付け替えるため、ブロック積護岸、落差工等の築造等を実施したものである。

このうち落差工は、河床を安定させることなどを目的として、河川の延長計291.0mにおいて、計4基(幅2.0m、延長6.7m又は7.0m、落差高1.5m又は2.0m、水叩きの厚さ1.3m又は1.4m)を現場打ち鉄筋コンクリートにより築造するものである。

本件落差工の設計は、安定計算等の詳細な設計基準を定めた「建設省河川砂防技術基準(案)同解説」(社団法人日本河川協会編。以下「技術基準」という。)等に基づいて行われている。技術基準等によると、落差工は、自重、静水圧、揚圧力、地震時慣性力、土圧等を考慮して設計することとされている(参考図参照)。そして、滑動に対する安全率は、常時で1.5以上、地震時で1.2以上を確保することとされている。このうち揚圧力は、落差工の地中部に沿って流れる浸透水の流路の長さ(以下「浸透経路長」という。)などに基づいて計算することとされており、落差工の底面に遮水工を設置すれば浸透経路長が長くなることにより、減殺されることとされている。

同県は、本件落差工の設計に当たり、落差工に対して上流側から作用する静水圧(以下「上流側静水圧」という。)及び下流側から作用する静水圧(以下「下流側静水圧」という。)並びに遮水工を考慮した揚圧力を計算して安定計算を行えば、常時及び地震時の滑動に対する安全率が許容値をそれぞれ上回ることから、安全であるとしていた。

しかし、本件落差工の設計は、次のとおり適切でなかった。

ア 静水圧について

地震時における上流側静水圧及び下流側静水圧の計算において、上流側静水圧については落差高に水叩きの厚さを加えた値を、下流側静水圧については水叩きの厚さを、それぞれ2乗した値に、水の単位体積重量及び2分の1を乗じて計算することとされているのに、誤って、いずれも2乗していなかったため、地震時における上流側静水圧及び下流側静水圧が過小に計算されていた。

イ 揚圧力について

前記のとおり、揚圧力の計算においては遮水工が考慮されていたが、誤って、落差工の設計図面に遮水工を記載しておらず、この設計図面により施工していたため、遮水工は設置されていなかった。このため、実際の施工に基づき短くなった浸透経路長により常時及び地震時における揚圧力を計算すると、いずれも前記の安定計算における値を上回ることとなる。

そこで、本件落差工について、改めて安定計算を行ったところ、常時の滑動に対する安全率は、1.40又は1.41、地震時の滑動に対する安全率は、0.83又は0.84となり、許容値の1.5(常時)又は1.2(地震時)をそれぞれ下回っていて、いずれも安定計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、本件4基の落差工(これらの工事費相当額計5,290,000円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る交付金相当額2,909,500円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(参考図)

地震時に落差工に作用する静水圧及び揚圧力の概念図