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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第13 国土交通省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1) 既設橋りょうの耐震補強工事の設計について、橋脚の基礎部分に与える影響を考慮した工法選定を行うことなどにより、橋脚の基礎部分を含めて橋りょう全体としての耐震性能を確保できるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)社会資本総合整備事業費 等
社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定)(項)道路交通安全対策事業費 等
部局等
1地方整備局、4府県
事業及び補助の根拠
道路法(昭和27年法律第180号)等
事業主体
国道事務所1、府1、県2、市1、計5事業主体
既設橋りょうの耐震補強工事の概要
架設当時の基準を適用して設計された橋りょうについて、既往の地震による被害事例等を踏まえて、甚大な被災に結びつくおそれのある部材の損傷を軽減し、所要の耐震性能を確保するために、橋脚の補強対策や落橋防止対策等を講ずるもの
既設橋りょうの耐震補強工事を含む工事に係る契約額
直轄事業   20億8219万余円(平成23、24両年度)
補助事業等 23億4097万余円(国庫補助金等交付額10億0415万余円)(平成22年度〜24年度)
上記のうち基礎部分への影響が生ずる結果となる鉄筋コンクリート巻立てなどに係る直接工事費
直轄事業      3907万円
補助事業等   1億1562万円(国庫補助金等相当額5711万円)
【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】 既設橋りょうの耐震補強工事の設計について

(平成25年10月31日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1) 耐震補強工事の概要

貴省は、一般国道等において、地震による橋脚の倒壊や橋桁の落下等の被害を未然に防止するために、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う国庫補助事業等により、既設橋りょうの耐震補強工事を多数実施している。

既設橋りょうの耐震補強工事は、架設当時の基準を適用して設計された橋りょうについて、既往の地震による被害事例等を踏まえ、甚大な被災に結びつくおそれのある部材の損傷を軽減し、所要の耐震性能を確保するために、橋脚の補強対策や落橋防止対策等を講ずるものである。

(2) 耐震補強工事の設計

既設橋りょうの耐震補強工事の設計は、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に準拠して行われている。また、「既設道路橋の耐震補強に関する参考資料」(社団法人日本道路協会編。以下「参考資料」という。)等に設計計算例等が示されており、耐震補強工事の設計を行う上で参考とされている。

示方書では、橋りょうの耐震性能等に関して基本的な要求事項を明示しており、このうち設計において考慮すべき設計地震動については、橋りょうの供用期間中に発生する確率が高い地震動であるレベル1地震動と、橋りょうの供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度をもつ地震動であるレベル2地震動の2段階のレベルが示されている。

そして、橋りょうの耐震性能については、橋全体の挙動を踏まえ、橋りょうの重要度に応じて、レベル1地震動に対しては、地震によって橋りょうとしての健全性を損なわない性能を確保するように、レベル2地震動に対しては、地震による損傷が限定的なものにとどまり、橋りょうとしての機能の回復が速やかに行い得る性能又は地震による損傷が橋りょうとして致命的とならない性能を確保するように設計することとされている。

また、参考資料では、既設橋りょうの耐震補強設計における留意事項として、耐震補強工事の工法は、橋脚の耐震補強のみならず、基礎、支承や落橋防止システムと併せて検討し、橋りょう全体として耐震性能が確保されるように適切に選定するとの考え方が示されている。

(3) 耐震補強工事の工法等

既往の地震において橋りょうが被害を受けた事例としては、平成7年に兵庫県南部地震があり、鉄筋コンクリート製橋脚の損傷により、橋りょうの倒壊に至る甚大な被害が発生するなどした。このことから、救急・救援活動や緊急物資の輸送等の重要な役割を果たす緊急輸送道路等に架かる橋りょうについて、地震発生時の落橋等の甚大な被害につながる損傷を防止するため、橋桁と橋台・橋脚とを鋼製部材で連結するなどして橋桁の落下を防ぐ落橋防止システムを取り付けたり、支承構造を変更したり、橋脚の柱部分に炭素繊維シートの接着や、鉄筋コンクリートの巻立てを行ったりするなどの工法により所要の耐震性能を確保することを目的とした耐震補強工事が優先的に実施されている(参考図参照)。

そして、これらの耐震補強工事の設計に当たっては、設計時点における最新の示方書等に準拠して、一般に橋りょうを構成する主要な部材ごとに耐力の照査を実施しており、橋脚の柱部分については、レベル2地震動にまで対応する耐力を確保できるよう設計している。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

既設橋りょうの耐震補強工事は、新たな大規模の地震が想定される昨今の状況下において毎年度多数実施されている。そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、設計が適切に行われ、地震に対する安全性が確保されているかなどに着眼して検査を行った。

(検査の対象及び方法)

検査に当たっては、既設橋りょうの耐震補強工事のうち基礎杭を用いた橋脚の基礎部分により支持される橋脚の柱部分への鉄筋コンクリート巻立てなどを行う工事について、16事業主体(注1)が22年度から24年度までに実施した直轄事業13工事(契約金額計20億8219万余円)、国庫補助事業等39工事(同23億4097万余円、国庫補助金等交付額計10億0415万余円)、計52工事(同44億2316万余円、同10億0415万余円)を対象として、契約書、詳細設計書類等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

注(1)
 16事業主体  秋田河川、能代河川、岐阜、高山、和歌山河川各国道事務所、帯広開発建設部、京都、大阪両府、茨城、埼玉、石川、広島各県、さいたま、加須、金沢、京都各市

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

5事業主体(注2)が実施した直轄事業6工事(契約金額計12億5496万円)、国庫補助事業等12工事(同7億2373万余円、国庫補助金等交付額計3億4800万余円)、計18工事では、設計の基礎となる詳細設計書類等によると、橋脚の柱部分については、鉄筋コンクリート巻立てにより、レベル1地震動とレベル2地震動に対する耐力を確保していた(以下、当該耐震補強工事における橋脚の柱部分の鉄筋コンクリート巻立てを「鉄筋コンクリート巻立て」という。)。しかし、橋脚の基礎部分については、鉄筋コンクリート巻立てなどにより橋脚の自重が増加することによる影響(以下、この鉄筋コンクリート巻立てなどが橋脚の基礎部分に与える影響を「基礎部分への影響」という。)により、耐震補強工事の実施前に確保できていたレベル1地震動に対する耐力が耐震補強工事の実施後において確保できていない計算結果となっていたり、架設当時と耐震補強工事の設計時点との設計手法が異なることから耐震補強工事の実施前に既に不足していた耐力が更に不足する計算結果となっていたりしていた(基礎部分への影響が生ずる結果となる鉄筋コンクリート巻立てなどに係る直接工事費、直轄事業計3907万余円、国庫補助事業等計1億1562万余円、国庫補助金等相当額計5711万余円)。一例として、レベル1地震動に対する照査において、橋脚の基礎部分に用いた基礎杭の鉄筋に生ずる曲げ引張応力度をみると、8工事において許容値270N/を超えていて、274.29N/から562N/までとなる計算結果となっていた。

注(2)
 5事業主体  岐阜国道事務所、京都府、茨城、埼玉両県、金沢市

上記の5事業主体は、既設橋りょうの耐震補強工事の実施に当たり、基礎部分への影響を考慮した工法を選定していなかったり、橋脚の基礎部分の耐震補強の要否等について更に詳細に検討していなかったりしていた。

しかし、橋脚の基礎部分についても、橋りょうを構成する主要な部材の一つであることなどから、橋脚の柱部分だけでなく、橋りょう全体としての耐震性能を確保するための工法選定や、橋脚の基礎部分の耐震補強の要否等について検討することが重要であると認められる。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

前記のように、既設橋りょうの耐震補強工事の設計に当たり、基礎部分への影響を照査するなどして検討した上で橋りょう全体として耐震性能を確保できる工法を選定していなかったり、橋りょうの耐震性能が確保されないおそれがある場合に、橋脚の基礎部分の耐震補強の要否等について更に詳細に検討していなかったりしていて、橋りょう全体としての耐震性能が確保されているかどうか明確となっていない事態は適切ではなく、是正及び是正改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体において、既往の地震における被害事例等を踏まえて、既設橋りょうの耐震補強工事の実施について優先的に補強する構造や部材を認識していた一方で、基礎部分への影響を照査するなどして検討した上で橋りょう全体として耐震性能を確保できる工法を選定したり、橋りょうの耐震性能が確保されないおそれがある場合には、橋脚の基礎部分の耐震補強の要否等について更に詳細に検討したりするなどの耐震補強設計の考え方に対する理解が十分でなかったこと、また、貴省において、事業主体に対し、上記についての周知が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

我が国は地震災害が発生しやすい環境下にあり、新たな大規模の地震が想定される昨今の状況下において、国及び地方公共団体では、地震時の交通ネットワークの確保や道路利用者の安全を図るため、今後も引き続き既設橋りょうの耐震補強工事を実施することが見込まれることから、その基礎となる設計が適切に行われることが重要となる。

ついては、貴省において、前記の18工事に係る橋りょうについて更なる耐震補強の要否等の検討が今後適切に行われるよう、橋りょう全体としての耐震性能を確認するなどの是正の処置を要求するとともに、今後の既設橋りょうの耐震補強工事の設計が適切に行われるよう、基礎部分への影響を照査するなどして検討した上で橋りょう全体として耐震性能を確保できる工法を選定したり、橋りょうの耐震性能が確保されないおそれがある場合には、橋脚の基礎部分の耐震補強の要否等について更に詳細に検討したりするなどの耐震補強設計の考え方を国道事務所等に周知徹底し、また、地方公共団体に対しても助言するよう是正改善の処置を求める。

(参考図)

橋りょうの橋脚及び耐震補強工事の概念図