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  • 平成24年度|
  • 第3章 個別の検査結果
  • 第1節 省庁別の検査結果
  • 第13 国土交通省
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(8) 土砂災害情報相互通報システム整備事業の実施に当たり、住民からの情報提供に係る機能を具備させるよう採択基準の取扱いの見直しに向けた検討を行ったり、相互通報システムの活用を促進するための方策を適時適切に検討するよう都道府県に対して技術的助言を行ったりすることなどにより、事業の効果が十分発現するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)地域自主戦略推進費(項)社会資本総合整備事業費 等
社会資本整備事業特別会計(治水勘定)(平成19年度以前は、治水特別会計)(項)総合流域防災事業費 等
部局等
15府県
補助の根拠
砂防法(明治30年法律第29号)
地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)
急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)
補助事業者
(事業主体)
府1、県14、計15事業主体
土砂災害情報相互通報システム整備事業の概要
土砂災害による被害のおそれのある箇所に関する情報、雨量等の気象情報、土砂災害の前兆現象及び災害発生状況等の情報について、市町村を通じて行う住民と都道府県との情報交換を推進するための土砂災害情報相互通報システムを整備する事業
土砂災害情報相互通報システム整備事業に係る事業費
118億7812万余円(平成12年度〜24年度)
上記に対する国庫補助金等交付額
62億4168万余円
事業の効果が十分発現していない土砂災害情報相互通報システム整備事業に係る事業費
56億8869万円(平成12年度〜24年度)
上記に対する国庫補助金等交付額
29億6513万円
【改善の処置を要求したものの全文】

土砂災害情報相互通報システムの活用について

(平成25年10月18日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 土砂災害情報相互通報システムの概要

貴省は、砂防法(明治30年法律第29号)、地すべり等防止法(昭和33年法律第30号)及び急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)に基づき、住民と都道府県とが土砂災害による被害のおそれのある箇所(以下「土砂災害危険箇所」という。)に関する情報、雨量等の気象情報、土砂災害の前兆現象及び災害発生状況等の情報(以下、これらの情報を合わせて「土砂災害関連情報」という。)を相互に通報できるシステムによって土砂災害から人命を守るため、平成12年度から、土砂災害情報相互通報システムを整備する事業(以下、このシステムを「相互通報システム」といい、相互通報システムを整備する事業を「システム整備事業」という。)を実施している。

そして、貴省は、システム整備事業を実施するに当たり、土砂災害関連情報が、避難勧告等の発令等の判断基準の目安として有効であり、都道府県においては、相互通報システムの整備を推進するとともに、市町村が行う適時適切な避難勧告等の発令を支援すべきであるとして、都道府県に対して、「地域自主戦略交付金交付要綱」(平成23年国官会第2673号国土交通事務次官通知。以下「要綱」という。)等に基づき、システム整備事業の実施に要した費用の一部について補助金等を交付している。

上記のとおり、システム整備事業は、補助事業又は交付金事業として実施されており、その補助事業等採択基準は、要綱等によれば、次に該当するものとされている。

  • ① 住民の警戒避難体制の確立に資するための通報装置の設置等のうち市町村を通じて行う都道府県から住民への情報提供(以下「住民への情報提供」という。)に関するもの
  • ② 住民から市町村を通じて都道府県への土砂災害情報の提供(以下「住民からの情報提供」という。)に必要なシステムの整備

一方、貴省によれば、システム整備事業の最終的な事業実施目標は、前記のとおり、住民と都道府県とが相互に土砂災害関連情報を通報できるシステムによって土砂災害から人命を守ることではあるものの、まず住民に土砂災害関連情報を提供する体制を整備することが事業実施の第一段階であるとしている。このため、貴省は、システム整備事業の補助事業等採択に当たり、相互通報システムに住民への情報提供に係る機能及び住民からの情報提供に係る機能の双方(以下、住民への情報提供に係る機能及び住民からの情報提供に係る機能を合わせて「双方向機能」という。)を具備させることを要件とする採択基準の取扱いはしていない。

また、相互通報システムについては、「河川等に関する情報基盤総合整備全体計画の作成について」(平成17年国河砂第25号国土交通省砂防部砂防計画課長通知)に基づいて都道府県が作成する河川等情報基盤総合整備全体計画(以下「全体計画」という。)等により計画的に整備されることとなっている。これを受けて、都道府県は、災害時の警戒避難体制の確立等に資するため、優先度を考慮した相互通報システムの整備内容及びその事業費を全体計画に記載して、整備を行うこととなる。

そして、全体計画を作成する都道府県の中には、住民から提供された音声情報を保存したり、都道府県が把握する雨量等の気象情報を住民に提供したりするための電話応答装置等の相互通報システムを構成する機器(以下「システム機器」という。)を管内市町村にも設置しているものがある。この場合、都道府県が、当該市町村にシステム機器の管理を行わせるなどする際には、機器の所有者、貸与機器一覧、システム機器の管理・運用等に関する事項等を定めた協定(以下「管理協定」という。)を当該市町村と締結するのが一般的である。

2 本院の検査結果

(検査の観点及び着眼点)

前記のとおり、双方向機能を具備した相互通報システムによって土砂災害から人命を守ることがシステム整備事業の最終的な事業実施目標となっている。そこで、システム整備事業が創設されてから相当の期間が経過した状況を踏まえ、本院は、効率性、有効性等の観点から、相互通報システムが双方向機能を具備したものとなっているか、システム機器が使用され、相互通報システムが十分有効に活用されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象及び方法)

本院は、21府県(注1)が、12年度から24年度までの間に実施したシステム整備事業に係る事業費(注2)計118億7812万余円(国庫補助金等計62億4168万余円)を対象として、全体計画、システム機器の構成図等の設計図書、関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、システム機器を整備した実績のある15府県(注3)について、次のような事態が見受けられた。

(1) 住民からの情報提供が行われておらず、相互通報システムが十分有効に活用されていないもの

11府県(注4) 事業費計38億7190万余円 国庫補助金等計19億3454万余円

11府県は、前記のとおり、貴省が相互通報システムに双方向機能を具備させることを要件とする採択基準の取扱いとしていないことなどから、システム整備事業が創設されてから相当の期間が経過しているにもかかわらず、住民からの情報提供に係る機能を相互通報システムに具備させることとする全体計画を作成していなかったり、計画的に整備していなかったりしていて、相互通報システムが住民と府県との情報交換に十分有効に活用されていない事態が見受けられた。

上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

奈良県は、平成12年度から24年度までの間に、県及び土砂災害危険箇所を有する15市町村に相互通報システムを整備しており、関係書類が現存する19年度以降に係る事業費は1億8100万円(うち国庫補助金等9050万円)となっている。

同県が整備した相互通報システムは、ケーブルテレビ網等を通じて土砂災害関連情報を住民へ提供するものである。そして、同県は、20、21両年度に、土砂災害関連情報を迅速かつ確実に把握するために、携帯電話による住民からの情報提供のためのシステム構築を全体計画に位置付けていた。

しかし、同県は、住民への情報提供に係るシステム機器等の設置を最優先に行う必要があると判断したことなどから、携帯電話による住民からの情報提供のためのシステム構築を計画的に実施しておらず、25年度においても着手する予定はない状況となっていた。

イ 相互通報システムが双方向機能を具備しているものの、システム機器が住民からの情報提供のために使用されておらず、相互通報システムが十分有効に活用されていないもの

7県(注5)事業費計17億6872万余円 国庫補助金等計10億0655万余円

7県は、住民からの情報提供を受け付ける窓口となる連絡先を公表していなかったり、通話設備を使用するために必要となる収納箱の鍵を住民に貸与していなかったりしているなど、住民がシステム機器を直ちに使用できる体制をとっていないことから、システム機器が住民からの情報提供のために使用されていなかった。このため、7県が整備した相互通報システムが十分有効に活用されていない事態が見受けられた。

上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

沖縄県は、平成17年度から24年度までの間に、土砂災害危険箇所を有する33市町村のうち9市村において相互通報システムを整備しており、その事業費は11億8354万余円(うち国庫補助金等9億0607万余円)となっている。

相互通報システムは、親局と子局等から構成されており、親局の装置は9市村の各庁舎内に、子局の通話設備は電柱に取り付けられた鍵付きの収納箱内にそれぞれ設置されていて、住民が子局から親局に通話する場合は、収納箱を解錠して通話設備を使用するものである。

しかし、相互通報システムのうち24年3月までに供用開始した4市村の各システム(事業費5億3632万余円(うち国庫補助金等3億9153万余円))においては、それぞれ各市村において22年5月から24年9月までの間に5件から21件の土砂災害が発生しているにもかかわらず、当該通信設備の使用等について住民への周知が十分でなかったことなどから、相互通報システムを活用した住民からの情報提供が行われていない状況となっていた。

また、上記4市村のうちの1市に整備した相互通報システムにおいては、子局23局のうち20局分の鍵を市役所が管理していたことから、住民が土砂災害関連情報を同県に提供するために通話設備を使用することができない状況となっていた。

(2) 住民への情報提供が十分行われておらず、相互通報システムが十分有効に活用されていないもの

ア 相互通報システムが住民からの情報提供に係る機能を具備しておらず、十分有効に活用されていないもの

7県(注6)事業費計7億6716万余円 国庫補助金等計3億8240万余円

7県は、市町との間で管理協定を締結しておらず県におけるシステム機器の管理が適切に行われていなかったり、システム機器が故障しているにもかかわらず修理や更新を行わないなどシステム機器を住民への情報提供のために使用する体制をとっていなかったりしていたことなどから、システム機器が住民への情報提供のために十分使用されていなかった。

そして、7県は、相互通報システムの活用を促進するための検討を十分行っていなかったため、7県が整備した相互通報システムが十分有効に活用されていない事態が見受けられた。

上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

香川県は、平成12年度から20年度までの間に、県及び土砂災害危険箇所を有する管内全17市町(市町合併前は43市町)において、相互通報システム等を整備しており、その事業費は3億1400万円(うち国庫補助金1億5700万円)となっている。

上記のうち、同県が、12、13両年度に、県及び合併前の43市町に整備した相互通報システム(以下「旧システム」という。)は、ノートパソコン等の端末から構成されており、その整備に要した事業費は4000万円(うち国庫補助金2000万円)となっている。また、同県は、旧システムに加え、17年度にインターネット網を活用して管内各市町へ土砂災害関連情報を提供する相互通報システム(以下「新システム」という。)を整備しており、18年3月に作成した全体計画においては、これらの相互通報システムを併用することとして位置付けていた。

しかし、同県は、旧システムの整備に当たり、管理協定を全ての市町と取り交わすことなく、端末を市町に使用させていたため、端末の所有者や旧システムの運用に関する事項が明確になっていなかった。このため、17市町は、新システムが旧システムを代替しているものと誤って認識したことなどから、同県に旧システムの運用停止を申し入れ、同県は上記の全体計画を自ら作成したにもかかわらず、17市町と同様の誤った認識であったことから、その申入れを容認した。その結果、17市町は、旧システムの全てについて20年4月までの間に順次運用を停止している状況であった。

そして、(1)、(2)の事態の重複分を除くと、15府県において整備した相互通報システム(事業費計56億8869万余円(うち国庫補助金等計29億6513万余円))が十分有効に活用されていないと認められる。

(改善を必要とする事態)

以上のように、システム整備事業の実施に当たり、相互通報システムにおいて住民からの情報提供が行われていなかったり、住民への情報提供が十分行われていなかったりしていて、相互通報システムが十分有効に活用されておらず、システム整備事業の事業効果が十分発現されていない事態は適切とは認められず、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴省において、相互通報システムに双方向機能を具備させるための検討に時間を要し、システム整備事業が創設されてから相当の期間が経過しているにもかかわらず、補助事業等採択基準の取扱いの見直しを行っていなかったこと
  • イ 事業主体である府県において
  • (ア) 相互通報システムに双方向機能を具備させることの必要性についての理解が十分でなく、住民からの情報提供に係る機能を相互通報システムに具備させることとする全体計画を作成していなかったり、計画期間を考慮に入れて相互通報システムを計画的に整備していなかったりしていたこと
  • (イ) 相互通報システムが、住民と都道府県との情報交換を推進するための重要な手段であることについての理解が十分でなく、住民がシステム機器を直ちに使用できるような体制をとっていなかったり、システム機器の故障状況等の使用状況を把握していなかったり、システム機器に対する管理が適切に行われていなかったりしていて、相互通報システムの活用を促進するための方策を適時適切に検討していなかったこと

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、相互通報システムが土砂災害関連情報について住民と都道府県との情報交換を推進するための重要な手段であると位置付けていることから、貴省において、相互通報システムが十分有効に活用されることによりシステム整備事業の事業効果が十分発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア システム整備事業が創設されてから相当の期間が経過した状況を踏まえ、今後システム整備事業の事業採択を行うに当たっては、相互通報システムに双方向機能を具備させることとするよう、採択基準の取扱いの見直しに向けた検討を行うこと
  • イ 事業主体である都道府県に対して、次のような技術的助言を行うこと
  • (ア) 上記アの検討結果に基づき、相互通報システムに双方向機能を具備させることとする全体計画を作成するとともに、計画期間を考慮に入れながら全体計画に沿って相互通報システムを計画的に整備すること
  • (イ) 住民がシステム機器を直ちに使用できるような体制を整備するとともに、システム機器の使用状況等を把握したり、システム機器に対する管理を適切に行ったりして、相互通報システムの活用を促進するための方策を適時適切に検討すること
注(1)
21府県  京都府、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、富山、福井、三重、兵庫、奈良、島根、山口、徳島、香川、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県
注(2)
システム整備事業に係る事業費  関係書類が現存する事業実施年度に係る事業費を集計している。
注(3)
15府県  京都府、秋田、茨城、栃木、埼玉、三重、兵庫、奈良、島根、山口、香川、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県
注(4)
11府県  京都府、茨城、栃木、三重、兵庫、奈良、山口、香川、長崎、宮崎、鹿児島各県
注(5)
7県  秋田、栃木、埼玉、三重、兵庫、島根、沖縄各県
注(6)
7県  秋田、栃木、三重、兵庫、島根、香川、長崎各県