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  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第15 防衛省|意見を表示し又は処置を要求した事項

(5) 防衛省職員の米国派遣に当たり、会計事務及び旅行が適正に行われるための体制整備等を図るよう是正改善の処置を求め、及び現地の事務所を集約するなどして借上費用の低減を図るよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)防衛本省 (項)防衛本省共通費 (項)武器車両等整備費 (項)艦船整備費 (項)人材確保育成費 (項)研究開発費
部局等
内部部局、統合幕僚監部、陸上、海上、航空各自衛隊、情報本部、技術研究本部、装備施設本部
米国派遣職員の概要
防衛装備品等の調達先や米軍各機関との連絡調整及び訓練等の公務を目的として、米国に派遣される職員
資金前渡官吏に交付された前渡資金の額
17億4908万円(背景金額)(平成20年度〜24年度)
前渡資金により支払われた事務所の借上費用
1億2054万円(背景金額)(平成22年度〜24年度)
銀行口座の前渡資金を手元保管の現金として現金出納簿に登記していた前渡資金の額(1)
3億2627万円(平成20年度〜24年度)
手元保管金額の限度を超えて手元保管していた前渡資金の額(2)
1190万円(平成23、24両年度)
旅費により支弁しなければならない経費を前渡資金から支払っていた額(3)
3520万円(平成20年度〜24年度)
(1)、(2)及び(3)の計
3億7337万円
【是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求したものの全文】 米国に派遣された防衛省職員が行う前渡資金に係る会計事務等について

(平成25年10月31日付け 防衛大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により改善の処置を要求する。

1 前渡資金に係る会計事務等の概要

(1) 防衛省職員の米国派遣の概要

貴省は、防衛装備品等の調達先や米軍各機関との連絡調整及び訓練等の公務を目的として、内部部局、統合幕僚監部、陸上、海上、航空各自衛隊、情報本部、装備施設本部等の各機関の職員を、連絡官等として、毎年度多数米国に派遣している(以下、米国に派遣される貴省職員を「派遣職員」といい、派遣職員が所属している機関を「派遣機関」という。)。

(2) 前渡資金に係る会計事務の概要

各派遣機関の長は、会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、派遣先ごとに、派遣職員が1人の場合は当該派遣職員を、複数人の場合はそのうちの1人を、それぞれ資金前渡官吏(分任資金前渡官吏を含む。以下同じ。)として任命し、前渡資金を交付して、米国における公務に要する経費の支払を行わせている。

資金前渡官吏は、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等に基づき、出納官吏として、所定の様式の現金出納簿を備えて、現金の出納を登記しなければならないこととされている。また、資金前渡官吏に任命された派遣職員は、契約担当官として契約に関する事務を行っている。そして、契約をするときは、契約金額が一定の額(外国で契約するときは200万円)を超えない場合等を除いて契約書を作成しなければならないこととされていて、契約書の作成を省略することができる場合においても、特に軽微な契約を除いて請書等の書面を契約の相手から徴しなければならないこととされている。さらに、資金前渡官吏が常時手元に保管できる現金の額は、各派遣機関において定められるなどしており、陸上自衛隊の場合は、陸上自衛隊会計事務規則(昭和50年陸上自衛隊達第16—4号)により、60万円以内(日本銀行所在地以外に在勤する場合)とされている。

(3) 旅行命令に基づく旅行

派遣職員には、渡航費及び滞在費として、国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号。以下「旅費法」という。)に基づき、旅費が支給されるなどしている。

旅費法によれば、旅費の支給を受ける派遣職員の旅行は、旅行命令によって行われなければならないとされている。また、公務上の必要等により当初の旅行命令に従って旅行することができない場合には、あらかじめ又は旅行後できるだけ速やかに旅行命令の変更の申請を行わなければならないとされている。そして、当該申請に基づいて旅行命令が変更された場合は、変更後の旅行命令に基づく旅費が支給されることとなっている。

(4) 会計監査の実施

各派遣機関は、防衛省の会計監査に関する訓令(昭和33年防衛庁訓令第40号)に基づき、法令、訓令、予算及び会計の原則に準拠した処理が行われているかについて監査を実施することなどとされている。

(5) 派遣職員が公務を行うための現地事務所

派遣職員は、公務を行うための現地事務所(以下「事務所」という。)として、民間施設を借り上げたり、借り上げた自宅の一部を充てたり、米軍から施設の提供を受けたりしている。そして、事務所の借上費用については、表1のとおり、延べ85人の資金前渡官吏が、平成22年度から24年度までの間に計1億2054万余円(借り上げた自宅の一部を充てている場合については、当該自宅の借上費用を公用部分と私用部分の面積により案分して算定した額)を前渡資金から支払っている。

表1 派遣職員が公務を行う事務所の借上状況

(単位:人、千円)
区分 平成22年度 23年度 24年度 合計
人数 金額 人数 金額 人数 金額 人数 金額
民間施設を借り上げているもの 21 34,271 18 33,811 15 27,730 54 95,812
自宅の一部を充てているもの 9 6,224 9 7,134 13 11,370 31 24,730
借上費用を前渡資金から支払っているものの計 30 40,496 27 40,945 28 39,100 85 120,542
米軍施設の提供を受けているもの 29 29 33 91
合計 59 40,496 56 40,945 61 39,100 176 120,542
(注)
単位未満を切り捨てているため、各項目の合計と計欄は一致しないものがある。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点)

本院は、合規性、経済性等の観点から、資金前渡官吏に任命された派遣職員の前渡資金の管理、支払等は会計法令等に基づき適正に行われているか、旅行は旅費法に従って適正に行われているか、任命された資金前渡官吏に対する派遣機関の会計監査の状況はどのようになっているか、事務所の借上費用は経済的なものとなっているかなどに着眼して検査を行った。

(検査の対象及び方法)

検査に当たっては、20年度から24年度までの間に各派遣機関から任命された資金前渡官吏延べ505人に対して交付された前渡資金計17億4908万余円(表2参照)及びこれらの資金前渡官吏に任命された派遣職員に支給された旅費計12億9190万余円を対象として、米国内の現地に赴き、前渡資金の管理、支払等の状況、旅行の状況、事務所の借上状況等を聴取したり、現金出納簿等の関係書類を確認したりなどするとともに、派遣機関において、会計監査の状況等について説明を受けるなどして、会計実地検査を行った。

表2 平成20年度から24年度までに資金前渡官吏に交付された前渡資金の額

上段:人数、下段:金額(単位:人、千円)
派遣機関 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度
内部部局 5 4 4 4 4 21
9,088 5,772 5,374 5,717 4,803 30,756
統合幕僚監部 15 14 22 18 26 95
19,225 17,199 19,062 18,710 20,546 94,745
陸上自衛隊 16 15 20 18 16 85
71,575 67,034 70,717 65,619 63,193 338,142
海上自衛隊 14 13 15 13 17 72
84,960 88,778 78,538 73,572 71,291 397,141
航空自衛隊 27 27 24 26 27 131
141,965 118,150 96,687 92,866 81,799 531,468
情報本部 8 5 8 8 16 45
2,903 1,625 2,786 6,730 6,842 20,887
技術研究本部 9 6 8 5 7 35
54,692 8,879 42,625 9,882 12,792 128,873
装備施設本部 5 4 4 4 4 21
39,267 51,223 43,125 38,385 35,067 207,068
99 88 105 96 117 505
423,678 358,665 358,918 311,485 296,336 1,749,084
(注)
単位未満を切り捨てているため、各項目の合計と計欄は一致しないものがある。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 前渡資金の管理、支払等の状況について

ア 前渡資金に係る会計事務を適正に行っていないもの

前記のとおり、資金前渡官吏は、現金出納簿を備えて、現金の出納を登記しなければならないなどとされている。

しかし、陸上自衛隊から任命された資金前渡官吏40人は、このような会計法令等の規定を承知していなかったなどのため、このうち39人(20年度から24年度までの間に交付された前渡資金計3億2627万余円)は、交付された前渡資金を公金用の銀行口座において管理していて現金を引き出した事実がないのに、交付された前渡資金を全て手元保管の現金であることとして現金出納簿に登記していた。また、残りの1人(23、24両年度に交付された前渡資金計1190万余円)は、前渡資金が公金用の銀行口座に交付される都度、その日のうちに全額を引き出し、前記の資金前渡官吏が常時手元に保管できる金額の限度である60万円を超えて手元に現金を保管していた。

さらに、各派遣機関から任命された資金前渡官吏の中には、事務所費用等の支払のように年間の支払額が多額となるなど契約書の作成又は請書等の徴取が必要と認められる場合においても、これを行っていなかった事態が見受けられた。

このように、前渡資金に係る会計事務を適正に行っていなかった事態があったが、貴省は、こうした実態について、十分に把握していなかった。

なお、前記陸上自衛隊の資金前渡官吏40人は、いずれも派遣職員になるまでは会計事務に係る経歴を有していなかったにもかかわらず、陸上自衛隊では、前渡資金等の会計事務に関する研修を半日行ったのみで、当該派遣職員を資金前渡官吏に任命していた。

イ 旅費法に基づく旅行命令の変更を申請していないもの

陸上、海上両自衛隊から資金前渡官吏に任命された派遣職員19人については、いずれも米国内の特定の施設に派遣されることとして、旅費法に基づいてそれぞれ旅行命令が発令され、渡航費及び滞在費として旅費が支給されていた。しかし、これらの派遣職員19人は、公務の都合により、米国内の他の地域に移動したり、宿泊を伴う出張を行ったり、日本へ帰国したりするなどしていたにもかかわらず、旅費法の規定を承知していなかったなどのため、旅行命令の変更を申請していなかった。そして、本来は変更後の旅行命令に基づいて支給される旅費により支弁しなければならないこれらの旅行に要した経費計3520万余円を、前渡資金から支払っていた。

そして、貴省は、このような旅費法に従った旅行が行われていない実態及び本来は必要のない前渡資金からの支払が行われていた実態について、十分に把握していなかった。

ウ 会計監査が十分に機能していなかったもの

各派遣機関から任命された資金前渡官吏に対する会計監査の状況は、表3のとおり、書面監査を中心とするものであった。このようなことから、特に陸上、海上両自衛隊においては、上記ア及びイのような、資金前渡官吏に係る会計事務及び派遣職員の旅行の実態を把握していないなどの事態が見受けられ、結果として派遣機関の内部監査としての会計監査が十分に機能していなかった。

表3 資金前渡官吏に対する会計監査の実施状況

派遣機関 監査の実施状況
内部部局 実施していない
統合幕僚監部 書面
陸上自衛隊 書面
海上自衛隊 書面及び現地
航空自衛隊 書面及び現地
情報本部 書面
技術研究本部 書面
装備施設本部 書面及び現地

(2) 事務所の借り上げについて

前記のとおり、事務所として民間施設を借り上げたり、借り上げた自宅の一部を充てたりしている資金前渡官吏延べ85人の事務所の借上費用は、前渡資金から支払われている。

このうち、内部部局、陸上、海上、航空各自衛隊及び装備施設本部が多数の職員(24年度末現在計11人)を派遣しているバージニア州アーリントン周辺についてみると、派遣機関ごと及び資金前渡官吏ごとに、現地の民間施設を借り上げて、計7事務所(22年度から24年度までの間の借上費用計1856万余円)を設置していた。そして、これらの7事務所の設置場所についてみたところ、内部部局の派遣職員4人が勤務する事務所と、装備施設本部の派遣職員2人が勤務する事務所は、同一の建物内に設置されていた。また、他の5事務所のうち2事務所は車両により5分程度で、残りの3事務所についても車両により最大1時間程度で移動できる範囲内に設置されていた。しかし、資金前渡官吏は、これらの事務所について、前任者からの引継ぎにより、それぞれそのまま継続して借り上げていた。

また、装備施設本部は、東海岸ではニューヨーク及びワシントン(上記アーリントンの事務所)に、西海岸ではサンフランシスコ及びロサンゼルスに、それぞれ連絡調整と調達調査の公務区分ごとに1か所ずつ計4事務所(22年度から24年度までの間の借上費用計4780万余円)を設置していた。しかし、このように公務区分ごとに事務所を設置していることについて、その合理的な根拠や必要性は特に見受けられなかった。

このように、事務所の設置について、派遣機関や資金前渡官吏の間で具体的な検討、調整が行われたという事実は確認できなかった。そして、貴省は、派遣機関等ごとに事務所を設置している実態、経緯等について十分に把握しておらず、また、事務所を集約することや、地域ごとに統合することなど、その借上費用の低減等を図るための検討も行っていないと認められた。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

前記のとおり、資金前渡官吏が前渡資金に係る会計事務を適正に行っていなかったり、派遣職員が旅費法に基づく旅行命令の変更の申請を行っていなかったり、これらに関する内部監査としての会計監査が十分機能していなかったりしている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、事務所の借上費用の低減等を図るための検討が行われていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のようなことなどによると認められる。

  • ア 資金前渡官吏に任命された派遣職員の中には会計事務に係る経歴を有していない者も多数見受けられるのに、任命された資金前渡官吏の会計事務等の実態について十分把握しておらず、会計法令等に従った会計事務及び旅費法に従った旅行についての指導が十分でないこと、また、資金前渡官吏に係る内部監査としての会計監査が十分機能していないこと
  • イ 派遣機関等ごとに事務所を設置している実態、経緯等を十分に把握しておらず、事務所の集約化、統合化等による借上費用の低減等を図るための検討が行われていないこと

3 本院が求める是正改善の処置及び要求する改善の処置

貴省は、今後も米国に多数の職員を派遣することとしている。

ついては、貴省において、資金前渡官吏及び派遣職員が、会計法令等や旅費法に基づき適正に会計事務及び旅行を行えるよう、また、事務所の借上費用の節減に資するよう、次のとおり是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求する。

  • ア 各派遣機関から任命された資金前渡官吏の会計事務及び派遣職員の旅行について、横断的に調査を行うなどして十分にその実態を把握するとともに、内部監査の強化を始めとして、会計事務及び旅行に関する事態の改善のための方策を策定し、実施することとするなど、会計事務及び旅行が適正に行われるための体制の整備を図ること。

    また、会計事務に係る経歴を有する者を資金前渡官吏に任命することとしたり、資金前渡官吏等に対する会計法令等に従った会計事務及び旅費法に従った旅行についての指導等を十分に行ったりするなどして、資金前渡官吏に任命される派遣職員の会計事務職員等としての資質を十分に確保すること(会計検査院法第34条による是正改善の処置を求めるもの)

  • イ 事務所の借り上げの実態や派遣職員の派遣先における公務の遂行等に係る情報を一括して管理することとするとともに、事務所の在り方を検討して、その集約化、統合化、借上費用の低減等を図るための検討を行い、必要な見直しを行うこと(同法第36条による改善の処置を要求するもの)