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移転登記業務に係る委託契約について、公正性、透明性及び競争性を確保するよう、契約の対象をまとめて一般競争契約とする是正改善の処置を求めたもの


科目
業務諸費
部局等
株式会社日本政策金融公庫本店、152支店
契約の概要
株式会社日本政策金融公庫がその発足に当たり旧国民生活金融公庫等から承継した抵当権の移転登記の申請に係る業務を司法書士に委託して実施するもの
一般競争契約とすることなく随意契約としていた契約件数及び契約金額
44,343件 7億5600万円(平成23年4月〜24年12月)
【是正改善の処置を求めたものの全文】

移転登記業務に係る委託契約の契約方式について

(平成25年3月28日付け 株式会社日本政策金融公庫代表取締役総裁宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 移転登記業務の概要

(1) 貴公庫の発足に伴う抵当権の移転登記

貴公庫は、株式会社日本政策金融公庫法(平成19年法律第57号)に基づき、平成20年10月に旧国民生活金融公庫、旧農林漁業金融公庫、旧中小企業金融公庫等(以下、これらを「旧公庫等」という。)が統合して、国が承継する資産を除き、旧公庫等の一切の権利及び義務を承継して発足した。

旧公庫等及び貴公庫は、貸付業務を行うに当たって、必要と認めるときは、借受者等(以下「債務者」という。)から不動産その他適切な担保を徴することとしている。旧公庫等は、貸付債権の担保として多数の抵当権(根抵当権を含む。以下同じ。)を保有しており、当該抵当権について、不動産登記法(平成16年法律第123号)等に従い、登記を行っていた。そして、貴公庫は、上記の権利義務の承継の一部として、これらの抵当権も旧公庫等から承継したため、当該権利の移転について登記を行う必要が生じた(以下、貴公庫の発足に伴って必要となった抵当権の移転登記を単に「移転登記」という。)。20年10月時点における移転登記を必要とする件数は、貴公庫の推計によると約56万件と膨大になっている。

(2) 移転登記の実施方法

貴公庫においては、抵当権の設定の登記や、抵当権の内容の変更、債務完済時の抵当権の抹消等の登記(以下、変更、抹消等の登記を合わせて「抹消登記等」という。)については、貸付けの受益者である債務者が費用を負担して実施することとしているが、移転登記については、貴公庫側の事情によるものであることから、貴公庫が費用を負担して実施することとしている。

そして、貴公庫は、旧公庫等から承継した抵当権について抹消登記等を行う必要が生じた場合には、その前提として、移転登記を行い、登記名義人を貴公庫に変更しておく必要があることから、抹消登記等を行う必要が生じた抵当権について、抹消登記等を行う際に抹消登記等と移転登記とを一連の手続により行うこととしている。

貴公庫は、移転登記の件数が膨大であることなどから、移転登記の申請に係る業務のうち申請書類の作成・提出、法務局等からの登記完了証の受領・内容確認等の業務(以下「移転登記業務」という。)については、外部の司法書士(司法書士法人を含む。以下同じ。)と委託契約を締結して実施している。

(3) 貴公庫の契約制度

貴公庫が締結する契約については、貴公庫の契約規程(平成20年企管(管)第1号)等により、原則として、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないこととなっており、契約方式は一般競争契約とすることが原則とされている。そして、工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約でその予定価格が100万円を超えないものをする場合等に限り随意契約によることができることなどとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

移転登記業務については、委託費が毎年度多額に上っており、移転登記が必要と見込まれている約56万件のうち半数以上の処理が済んでいないことから、今後も多額の費用を必要とすることが見込まれる。

そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、移転登記業務に係る委託契約の事務が契約規程等に基づき適正に処理されているか、契約方式が公正性、透明性及び競争性を確保したものになっているかなどに着眼して、貴公庫の本店及び152支店が23年度及び24年度(24年12月まで。以下同じ。)に委託費を支払った移転登記業務に係る委託契約計44,343件(旧公庫等が直接貸付業務を行った債権に係るもの。23年度25,646件、契約金額計4億4476万余円(支払金額同額。以下同じ。)、24年度18,697件、契約金額計3億1123万余円、契約金額合計7億5600万余円)を対象として、本店及び新宿支店等5支店(注)において、委託費支払請求書、登記完了証等を確認したり、司法書士の選定方法等について担当者から説明を聴取したりするなどして会計実地検査を行ったほか、他の支店についても本店を通じて報告を求めるなどして検査した。

(注)
新宿支店等5支店  新宿、京都、東大阪、大阪西、鹿児島各支店

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

貴公庫は、移転登記を抹消登記等の際に行うに当たり、これらを一連の手続によらず別の手続により実施すると、一連の手続で行うよりも抹消登記等の完了が遅れてしまう場合等があり債務者の利便を損なうおそれがあるとして、移転登記業務についても、債務者が抹消登記等のために選定した司法書士と同一の司法書士に委託して抹消登記等と一連の手続により実施する必要があるとしている。また、このように同一の司法書士に委託することにより、別の司法書士に委託した場合に必要となる当該司法書士が法務局等に赴くための旅費等の費用が不要となるため、貴公庫にとって経済的に移転登記業務を実施することができるとしている。

このため、貴公庫は、移転登記業務について、個々の抵当権について抹消登記等の必要が生じた際にその都度債務者が選定した司法書士と同一の司法書士を相手方として移転登記業務に係る委託契約を締結する必要があるとしており、この場合、個々の契約の予定価格はいずれも100万円以下になることから、全体では年間3億円以上に及ぶ移転登記業務に係る前記の委託契約について、本店及び各支店が全て随意契約により締結していた。

しかし、抹消登記等に係る業務を行う司法書士とは別の司法書士に移転登記業務を委託した場合に手続の遅れにより債務者の利便を損なうおそれがあるとしていることについては、債務者において抵当権の対象となっている物件を他の債務の担保に供するなどのために緊急に抹消登記等を行う必要がある場合を除き、別の司法書士に委託したとしても、手続の遅れにより債務者の利便を損なうことはないと認められる。また、登記の申請については、近年、法務省が提供するオンライン申請システムによりインターネットを利用して電子申請(オンライン申請)が行えるようになっており、オンライン申請によるなどすれば、別の司法書士に委託した場合に必要となる法務局等に赴くための旅費等の費用は必要ないことになる。そして、移転登記業務は年間を通じて多数発生するものであるから、登記申請1件ごとの委託費の単価を設定するなどして、移転登記業務をまとめて通年の契約とすることなどが可能であり、契約の規模を考慮すればこの場合の予定価格は100万円を超えることが見込まれる。このため、緊急を要する場合を除けば、移転登記業務を抹消登記等の必要が生じた際にその都度債務者が選定した司法書士と同一の司法書士に委託する取扱いには、契約規程等に定められた随意契約によることができる場合に該当する合理的な理由があるとは認められない。

したがって、貴公庫は、契約の公正性、透明性及び競争性を確保するよう、移転登記業務をまとめて通年の契約とするなどして、その契約方式を一般競争契約とすべきであり、前記の委託契約23、24両年度計44,343件、契約金額計7億5600万余円について個々に随意契約により締結していたのは適切でないと認められる。

なお、契約の対象をまとめて一般競争契約とすることにより享受できる競争の利益等についてみると、司法書士に対する業務報酬は、かつては司法書士会により統一的な金額が定められていたが現在は自由化されており、貴公庫が支払った委託費(業務報酬)をみても、担保物件数が平均的な場合の登記申請1件当たりの委託費は、最も高かったものが最も低かったものの2倍以上の額になっているなど大きな開差があった。このため、これらをまとめて競争に付すこととすれば、規模の利益も含めて、相当の経済的効果が得られる可能性があると認められる。そして、貴公庫が本院の検査を踏まえて一般競争契約とする場合の予定価格の算定の参考とするために司法書士から徴した見積りを基にするなどして、まとめて一般競争契約とした場合に見込まれる委託費の額を試算すると、23、24両年度計3億余円となって、前記の契約金額計7億余円の半分以下となる。

現に、他の団体においては、その前身となる団体から承継した抵当権に関する権利の移転についての登記の申請に係る委託業務について、契約の対象をまとめた上で一般競争契約を導入しており、その結果、当該登記に要する費用は大幅に低減している。

(是正改善を必要とする事態)

上記のように、移転登記業務に係る委託契約について、契約の対象をまとめて一般競争契約とすることなく債務者が任意に選定した司法書士と同一の司法書士を相手方として個々に随意契約により締結している事態は、公正性、透明性及び競争性の確保の面から適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、移転登記業務に係る委託契約について、抹消登記等の際に移転登記を行う場合であっても契約相手方を必ずしも抹消登記等の委託の相手方と同一にする必要はなく、また、司法書士の業務報酬には司法書士によって相当の差異が存在しているなどの状況にもかかわらず、貴公庫において、契約の対象をまとめて一般競争契約とすることによる公正性、透明性及び競争性の確保についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

貴公庫は、契約を締結する場合は、原則として一般競争に付すことにより公正性、透明性及び競争性を確保することとしている。また、移転登記業務については、委託に係る費用が今後も多額に上ることが見込まれているため、より一層経済的に実施する必要があり、司法書士の業務報酬には司法書士によって相当の差異が存在することなどを踏まえると、競争の利益等を享受することにより経済的な契約とすることが可能かつ必要であると認められる。

ついては、貴公庫において、移転登記業務に係る委託契約について、公正性、透明性及び競争性を確保するよう、原則として、債務者が任意に選定した司法書士と同一の司法書士を相手方として個々に随意契約により契約するのではなく、契約の対象をまとめて一般競争契約とする是正改善の処置を求める。

【当局が講じた処置】

本院は、株式会社日本政策金融公庫本店において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。

検査の結果、株式会社日本政策金融公庫は、本院指摘の趣旨に沿い、25年度から、登記申請1件ごとの委託費の単価を設定した上で、各年度に実施される移転登記業務を一括した委託契約を一般競争契約により締結する処置を講じていた。