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  • 平成24年度 |
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等 |
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

第3 公共建築物における耐震化対策等の状況について


要請を受諾した年月日
平成23年12月8日
検査の対象
内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国会、裁判所、会計検査院
検査の内容
公共建築物における耐震化対策等についての検査要請事項
報告を行った年月日
平成25年10月9日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

会計検査院は、平成23年12月7日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月8日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、 会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象

内閣、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国会、裁判所、会計検査院

(二) 検査の内容

公共建築物(官庁施設、教育施設、医療施設等)における耐震化対策等に関する次の各事項

  • ① 耐震診断の状況
  • ② 耐震改修の状況
  • ③ 東日本大震災に伴う被災等の状況

本院は、上記の要請により24年次に実施した会計実地検査の結果について、24年10月17日、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「24年報告」という。)。

(2) 公共建築物における耐震化対策等の概要

ア 地震防災対策の概要

我が国の防災関係の基本法として、国土及び国民を災害から保護するため、防災計画の整備等を図ることなどを目的として、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)が制定されている。

災対法によると、中央防災会議は、我が国の防災に関する基本的な計画として防災基本計画を作成することとされている。また、都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、防災基本計画に基づき、当該都道府県及び市町村の地域に係る防災に関する地域防災計画を作成しなければならないなどとされている。そして、防災基本計画に基づき各指定行政機関が作成した防災業務計画には、所掌事務に関する地域防災計画の作成基準が定められている。

イ 建築物に係る耐震化対策の概要

我が国の建築物に関する基本法としては、建築基準法(昭和25年法律第201号)が制定されており、同法、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)等において、建築物の耐震設計のための基準(以下「耐震基準」という。)が示されている。

そして、建築物の耐震性を向上させるため昭和55年に建築基準法施行令が改正され、56年に施行されている。この改正以前の耐震基準(以下「旧耐震基準」という。)は中規模地震(震度5強程度)に対し建築物にほとんど損傷を生じさせないことを確認する設計手法であったのに対して、改正後の新たな耐震基準(以下「新耐震基準」という。)は、大規模地震(震度6強程度)に対し建築物に人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じさせないことを目標とする耐震設計手法となっている。

このほか、建築物の耐震化対策に関する法律として、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(平成7年法律第123号。以下「耐震促進法」という。)が制定されるなどしている。そして、国土交通大臣は、耐震促進法に基づき定めた「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」(平成18年国土交通省告示第184号。以下「基本方針」という。)において、住宅及び多数の者が利用する建築物(階数3以上かつ延床面積1,000㎡以上等の建築物)の耐震化率(注1)を平成27年までに少なくとも9割とすることなどを目標として設定した。

注(1)
耐震化率  対象となる建築物のうち新耐震基準に基づく耐震性能が確保されている建築物の割合を示すもので、一般的に次の式により算出される。

耐震化率

(3) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、24年報告において、地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物の耐震化対策等の状況について引き続き検査を実施し、取りまとめが出来次第報告することとするとした。

そこで、今回の検査においては、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物について、耐震診断や耐震改修が計画的かつ適切に実施されているか、耐震化対策が実施されていない場合にはその要因はどのようなものか、目標とした耐震化率の達成状況はどのようになっているか、避難所として利用が予定されている施設の状況はどのようになっているか、医療施設及び防災拠点となる施設における災害時の業務継続に必要な自家発電設備等は適切に設置されているか、東日本大震災に伴う被災等の状況はどのようになっているかなどに着眼して、教育施設、医療施設、地方公共団体の庁舎施設等を対象として検査を実施した。

そして、内閣府等6府省(注2)及び24都道府県(注3)において会計実地検査を行い、24都道府県及び20府県(注4)の計44都道府県(管内市町村計1,615市町村)から調書の提出を受けるなどして、24年12月31日現在における、各区域内に所在する公共建築物の耐震診断、耐震改修等の耐震化対策等の状況を分析した。また、岩手県、宮城県及び福島県(以下、これらを合わせて「東北3県」という。)における耐震化対策等の状況については、既存の関係資料等を徴するなどして分析を行った。なお、検査の結果の記述において、特に断りがない場合の分析結果は、東北3県を除く44都道府県、管内市町村等を対象にしたものである。

注(2)
内閣府等6府省  内閣府、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省
注(3)
24都道府県  東京都、北海道、大阪府、秋田、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、福井、静岡、愛知、三重、兵庫、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知、長崎、大分各県
注(4)
20府県  京都府、青森、山形、群馬、新潟、富山、石川、山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良、鳥取、島根、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各県

2 検査の結果

(1) 地域防災計画等の公表状況等

ア 地域防災計画の修正及び公表状況

地域防災計画の修正状況をみると、23年12月及び24年9月の防災基本計画の修正を受けるなどして34都道府県、15政令指定都市、306市及び168町村が24年に修正を行っている一方で、最終の修正から5年以上経過している地方公共団体も見受けられる。また、ウェブサイトを利用した地域防災計画の公表を行っていない町村が7割に上っている。

イ 地域防災計画等における避難所の状況

1,615市町村における避難所90,262か所のうち、耐震性能を確保している避難所は50,964か所(56.5%)となっており、また、1,615市町村のうち、避難所の運営に関するマニュアルを策定しているのは600市町村(37.2%)となっている。

ウ 耐震改修促進計画の策定状況、改定状況及び耐震化の目標の設定状況

管内全ての市町村が市町村耐震改修促進計画を策定している都道府県が25都道府県となっている一方で、策定率が50%を下回っている都道府県も見受けられる。また、都道府県耐震改修促進計画の策定後に一回も改定を行わず5年以上経過している都道府県が33都道府県見受けられる。さらに、耐震改修促進計画において、教育施設、医療施設、庁舎施設等の各施設ごとの耐震化率の目標を設定している地方公共団体は、半数に満たない状況となっている。

(2) 教育施設における耐震化対策等の状況

ア 教育施設における耐震化対策等の概要

文部科学省(13年1月5日以前は文部省。以下同じ。)は、公立の義務教育諸学校等施設の整備に関する施設整備基本方針(平成18年文部科学省告示第61号。以下「教育施設整備方針」という。)において、27年度までのできるだけ早い時期に公立の義務教育諸学校等施設の耐震化を完了することを目指す必要があるとしている。また、文部科学省は、8年に地方公共団体等に文教施設の耐震性能の向上の推進についての通知を発し、構造体の耐震性能について、既存の建築物を改修する際には、教育施設としての機能特性を考慮して、より安全なレベル(Is値(構造耐震指標を示す数値で、0.6以上の場合新耐震基準に基づく耐震性能が確保されている。)0.7以上。以下「教育施設水準」という。)とすることが適当であるなどとしている。

耐震化に関する地方公共団体の公表状況についてみると、旧耐震基準に基づく建築物を有している地方公共団体のうち、小中学校の建築物については全て、高等学校の建築物については85.2%の地方公共団体が耐震診断結果を公表している。

イ 教育施設の耐震診断の状況

教育施設の診断率についてみると、構造体は95.1%となっている。

構造体の耐震診断の結果についてみると、教育施設水準の耐震性能を確保していないと診断された建築物は59,561棟あり、このうち、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされているIs値0.3未満の建築物は13,768棟となっている。

ウ 教育施設の耐震改修の状況

教育施設の構造体の教育施設水準の耐震性能を確保している建築物の割合(以下「教育耐震化率」という。)は84.3%となっており、このうち、多数の者が利用する建築物の教育耐震化率は84.5%となっている。そして、構造体の耐震診断の結果、Is値が0.3未満と診断された建築物の耐震改修を行っている割合が高くなっている。また、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率は、それぞれ45.8%、46.1%となっている。さらに、教育施設の耐震化の際には、廃校となった道立高等学校の校舎等を市立中学校の校舎等として有効活用するなどの事例が見受けられた。

エ 教育施設における避難所の状況

教育施設において、地震等災害時の避難所として使用予定となっている建築物の構造体の教育耐震化率は85.5%となっており、また、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率はそれぞれ46.0%、46.4%となっている。また、避難所に指定されている教育施設において防災設備が整備されている割合は、備蓄倉庫39.4%、非常用通信設備57.4%、非常用自家発電設備28.8%、貯水槽40.0%となっている。

避難所に指定されている教育施設の3.0%に当たる863校は、学校防災マニュアル等(学校保健安全法(昭和33年法律第56号)に基づき作成が義務付けられている危険等発生時対処要領のうち、地震又は津波災害に関するもの)を作成していない。また、作成している27,937校のうち26.7%に当たる7,463校においては、作成する際、避難所の開設等について市町村の防災担当部局と事前調整を図っていない状況となっている。さらに、5.8%に当たる1,618校においては津波等ハザードマップの有無を把握しておらず、また、7.4%に当たる2,078校においては津波等ハザードマップの有無は把握しているものの、津波浸水域又は液状化の危険地域に該当するか把握していない状況となっている。

オ 東日本大震災に伴う被災等の状況

東北3県については、1,628校の教育施設の建築物が被災している。

44都道府県については、15都道県における教育施設の建築物7,041棟が被災しており、このうち被災の主な要因として地震動によるものが全体の98.5%を占めている。そして、被災の主な要因が地震動である建築物の構造体の被災状況は、東日本大震災の時点で既に教育施設水準の耐震性能を確保していた建築物についても被災しているが、そのほとんどが一部損傷(構造体の補修を必要とするが人命の安全確保が図られており、建築物が使用できる状況)までの比較的軽い被害となっていた。また、建築非構造部材及び建築設備の被災状況において、特に被害の大きかった屋内運動場等の天井材に着目すると、天井材に被害のあった建築物のうち、46.1%が耐震診断を実施していない建築物であり、51.0%が新耐震基準に基づく建築物となっている。

(3) 医療施設における耐震化対策等の状況

ア 医療施設における耐震化対策の概要等

厚生労働省は、医療施設の耐震化に対する財政支援を行ったり、病院の耐震改修状況を調査及び公表したりするなどして、医療施設の耐震化等の促進を図っている。また、同省は、東日本大震災での対応等を踏まえて、24年3月に災害拠点病院(災害時の拠点医療施設として都道府県が指定する病院)の指定要件を見直しているが、この指定要件は、厳格に適用する運用にはなっておらず、災害拠点病院の体制、施設設備等の整備目標として運用されている側面がある。

イ 医療施設の耐震診断の状況

医療施設の構造体の診断率は、分析対象全体で48.1%、災害拠点病院で64.8%、救命救急センター(重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる医療施設として都道府県が指定する病院)で69.6%となっていて、災害拠点病院及び救命救急センターの診断率は、全体の診断率より高くなっている。

構造体の耐震診断結果についてみると、耐震改修等が必要な建築物は1,035棟であり、耐震診断を実施した建築物の6割以上となっている。このうち、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値が0.3未満の建築物は312棟である。

ウ 医療施設の耐震改修の状況

医療施設の構造体の耐震化率は、分析対象全体で76.1%、多数の者が利用する建築物では77.2%となっている。また、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率は、分析対象全体でそれぞれ70.2%及び69.8%となっている。さらに、耐震改修工事や建替えを行っていないため、Is値が0.3未満のままとなっている建築物は268棟となっている。

このように、医療施設の耐震化が進まない要因は、医療機関だけでは解決が困難な課題を含め解決すべき課題が多いことなどによる。

エ 業務継続の観点からみた施設の状況

厚生労働省は、災害拠点病院の指定要件において、災害発生時の業務継続の観点から構造体の耐震安全性の割増し等を考慮したり、求めたりすることはしていないとしている。一方で、構造体の耐震安全性を1.25倍以上に割増ししたり、免震構造を採用したりするなど、大地震動後の病院機能の維持を目標として、災害時における救護活動の拠点として期待される役割を果たすことを目指した耐震化対策を実施している医療機関も見受けられる。

また、災害拠点病院の指定要件では、通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の燃料を確保しておくこととあり、災害拠点病院及び救命救急センターのうち、発電容量については6割弱が、燃料の確保量については約半数がこの要件を満たしている。しかし、指定要件には自家発電設備の冷却方式についての基準はなく、停電と断水が同時に発生すると、燃料が十分にあっても自家発電設備の冷却水不足により自家発電設備の運転ができなくなることが想定される医療機関も見受けられる。

給水設備についてみると、災害拠点病院及び救命救急センターにおける受水槽の容量は、1日当たりの平均使用水量の0.5日分以上1.5日分未満となっている医療機関が約7割を占めている。また、半数以上の医療機関が井戸施設を保有している。

通信体制等についてみると、災害拠点病院の87.0%が衛星電話等を有しており、95.4%が広域災害・救急医療情報システム(EMIS)に参加している。また、基幹災害拠点病院(原則、都道府県に1か所)の全て、地域災害拠点病院(原則、二次医療圏に1か所)の73.8%が災害派遣医療チーム(DMAT)を保有している。

津波浸水被害により病院機能の維持に影響があるとしている医療機関における津波被害への対策状況についてみると、津波による浸水被害対策として非常用発電設備等を上層階に設置するなどの対策を検討し、又は実施している医療機関が多数見受けられる。一方で、津波浸水被害対策の検討等に時間を要するなどして、耐震化が遅れている医療機関も見受けられる。

オ 東日本大震災に伴う被災等の状況

東北3県については、各県とも多数の医療施設が被災しており、全壊した医療施設は全て津波によるものとなっている。

44都道府県については、11都県の461棟において構造体、建築非構造部材又は建築設備のいずれかが被災しており、このうち454棟は地震動が主な被災要因となっている。東日本大震災により病院機能に影響が生じて入院患者を他の医療機関へ移送した医療機関は19病院となっている。移送理由は、大きく二つに分類され、建物の損傷を理由とするものと、ライフラインの途絶に伴う電力や水不足を理由とするものとなっている。そして、東日本大震災により停電した医療機関は238病院、断水した医療機関は105病院となっており、最大で7日間停電した医療機関や150日間断水した医療機関も見受けられる。

(4) 庁舎施設等における耐震化対策等の状況

ア 庁舎施設等の概要等

地方公共団体が所有する防災拠点となる建築物には、都道府県庁、市役所、町村役場等の庁舎施設、警察施設及び消防施設がある。

イ 庁舎施設等の耐震診断の状況

対象とした建築物全体の構造体の診断率は68.5%となっていて、これを施設別にみると庁舎施設で68.8%、警察施設で91.3%、消防施設で60.0%となっており、警察施設の診断率が最も高くなっている。

耐震診断の結果についてみると、耐震改修等が必要な建築物は2,317棟あり、耐震診断を実施した建築物の69.9%に上っている。このうち、Is値0.3未満の建築物は680棟となっている。

ウ 庁舎施設等の耐震改修の状況

対象とした建築物全体の構造体の耐震化率は70.4%となっていて、これを施設別にみると、庁舎施設で61.2%、警察施設で80.4%、消防施設で75.3%となっており、構造体の診断率と同様に警察施設が最も高くなっている。このうち、多数の者が利用する建築物については、それぞれ62.1%、81.9%、87.9%となっている。

構造体について耐震化対策が完了していない建築物は2,812棟あり、このうち1,497棟が庁舎施設の建築物である。また、Is値0.3未満の建築物は447棟あり、321棟が庁舎施設の建築物である。このように庁舎施設の耐震化対策の遅れが顕著なものとなっており、庁舎施設の構造体の耐震化が遅れている要因は、予算の制約があることなどによる。

エ 業務継続の観点からみた建築物の耐震化の状況

災害対策本部の設置場所の建築物の耐震性能を確保していない、又は災害対策本部の設置場所を特定していない地方公共団体であって、大規模な地震発災時にあっても非常時優先業務の適切な業務執行を行うことを目的とした業務継続計画を策定していない地方公共団体が899団体見受けられる。これらの地方公共団体においては、災害対策本部となる建築物が被災したり、災害対策本部の設置に時間を要したりする可能性が高い上に、非常時優先業務の執行に支障が生ずる可能性がより高い。

また、防災拠点となる庁舎施設等について、当該庁舎施設が耐震性能を確保していないにもかかわらず代替施設の設定をしていなかったり、通信手段の多重化が図られていなかったり、一般的に災害時における業務継続性確保のために必要であると考えられている自家発電設備の連続運転可能時間を72時間以上確保していなかったり、自家発電設備が想定される津波の浸水高さよりも低い位置に設置されていたりしている建築物が見受けられる。

オ 東日本大震災に伴う被災等の状況

東北3県については、各県及び各県管内の複数の市町村において、庁舎施設、警察施設、消防施設が多数被災している。

44都道府県については、構造体、建築非構造部材又は建築設備のいずれかが被災した建築物は15都道府県において625棟あり、このうち被災の主な要因が地震動によるものが616棟である。また、被災により災害応急活動に支障を生じた建築物は74棟あり、支障を生じた要因はライフラインの途絶によるものが最も多くなっている。

(5) 地方公共団体等の公共建築物における耐震化対策等の状況

地方公共団体等の公共建築物における耐震化対策等の状況を、教育施設、医療施設及び庁舎施設等の施設別にみると、構造体の診断率はそれぞれ95.1%、48.1%、68.5%となっている。また、構造体の耐震化率はそれぞれ84.3%、76.1%、70.4%となっている。診断率及び耐震化率とも教育施設が最も高くなっている。

3 検査の結果に対する所見

地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物については、災対法の定めるところにより、都道府県及び市町村が作成することとされている地域防災計画に基づくなどして従前から耐震化対策が実施されているところであるが、災害時に重要な役割を担うこととなる教育施設、医療施設及び庁舎施設等が含まれていることなどから、引き続き、耐震化対策を計画的かつ効率的に実施することが必要である。

今回、地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物の耐震化対策等の状況について検査したところ、教育施設、医療施設、庁舎施設等のいずれの施設においても、建築非構造部材等の耐震化率は構造体の耐震化率より低くなっていた。また、いずれの施設においても構造体の耐震化率は9割に達しておらず、27年までに耐震化率を9割にするという基本方針の目標を達成するなどのため耐震化を推進する必要がある。特に、医療施設及び庁舎施設等は、一層耐震化を進める必要がある。さらに、市町村耐震改修促進計画が策定されていない市町村が見受けられたり、学校防災マニュアル等の作成に当たり、避難所の運営について市町村防災担当部局との調整が図られていない学校が見受けられたり、災害時における業務継続の観点から自家発電設備の空冷化等の対策が必要な医療施設が見受けられたり、防災拠点となる建築物が耐震性能を確保していないにもかかわらず、その代替となる施設を確保していなかったりするなどの事態が見受けられた。

したがって、地域防災計画や耐震改修促進計画等の作成並びに教育施設、医療施設及び庁舎施設等を所掌する各府省等は、次の点に留意することなどにより、公共建築物における耐震化対策を計画的かつ効率的に実施していくこと、また、地震発災時における避難所の円滑な運営、病院機能の維持、災害応急業務に対応するための業務継続性の確保等のソフト面に関する対策についても積極的に進めていくことが重要である。

(1) 地域防災計画等の公表状況等

地域防災計画は、各都道府県又は各市町村の当該地域に係る災害対策の基本となるものであるから、内閣府及び消防庁において、次のアの事項に関して自ら実施し又は地方公共団体に助言するなどして、地域防災計画を当該地域の状況や防災対策等に関する調査研究の成果等を勘案するなどしたものとする必要がある。

また、耐震改修促進計画は、優先的に耐震化に着手すべき建築物の設定等、より地域固有の状況に配慮して計画することが望ましいとされていることから、国土交通省において、次のイの事項に関して地方公共団体に助言するなどして、地方公共団体が当該地域の耐震化対策を計画的に実施できるようにする必要がある。

ア 地方公共団体における防災対策

  • (ア) 内閣府及び消防庁において、地方公共団体が地域防災計画を修正するに当たっては、防災基本計画等の修正を受けて行う場合が多いことなどから、これらを修正した際は、地方公共団体が地域防災計画にこれらの修正を速やかに反映できるよう配慮する。
  • (イ) 地方公共団体において、
    • a 災対法や防災業務計画等に基づいて、地域防災計画で定めた防災に関する諸事項について、毎年及び随時これに検討を加えるとともに、地域防災計画を修正した際には、ウェブサイトを利用するなど広く住民に周知できるような方法でその要旨を公表するように努める。
    • b 地域防災計画で避難所に指定されている建築物については、耐震診断、耐震改修等を実施するよう努めるとともに、避難者の生活環境を考慮し、避難所生活において配慮すべき事項等を定めた避難所の運営に関するマニュアル等の策定に努める。

イ 耐震改修促進計画

  • (ア) 今後の公共建築物の耐震化に資するため、市町村耐震改修促進計画を策定していない市町村は、地域固有の状況等に配慮した計画の策定に努める。
  • (イ) 耐震改修促進計画の策定に当たっては、管内全体のほか、教育施設等の施設ごとについても耐震化等の目標を策定し、計画的に公共建築物の耐震化が図られるようにする。

(2) 教育施設における耐震化対策等の状況

教育施設については、文部科学省において、教育施設整備方針に掲げた目標等を達成させるよう、地方公共団体の財政事情等を踏まえつつ、次のアからウまでの事項に関して地方公共団体に助言するなどして、また、エの事項に関して自ら実施して、教育施設の耐震化を引き続き促進させる必要がある。

ア 教育施設の耐震診断の状況

構造体の耐震診断を実施していない建築物については必要な耐震診断を着実に実施し、その結果を速やかに公表する。

イ 教育施設の耐震改修の状況

  • (ア) 耐震性能が確保されていないと診断された建築物については、施設の重要度も考慮して、計画的に必要な耐震化対策を実施する。また、地震発生時の児童生徒等の安全確保、避難所としての機能発揮のためには、構造体だけではなく建築非構造部材及び建築設備の耐震化も重要であることから、建築非構造部材及び建築設備の耐震化対策も同様に計画的に実施する。
  • (イ) 耐震化の際には、学校の統廃合によって、廃校となった施設が有効活用できないか十分に検討する。

ウ 教育施設における避難所の状況

  • (ア) 避難所に指定されている教育施設において、地震発生時に避難所としての機能を支障なく発揮させるためには建築物の耐震化のみならず、防災設備の整備が必要であることから、地域の実情に合わせるなどして必要となる防災設備の整備を計画的に実施する。
  • (イ) 教育施設において、学校防災マニュアル等を作成していない場合は速やかに作成する。また、学校防災マニュアル等を作成していても避難所の開設等について市町村の防災担当部局と事前調整を図っていない場合は、速やかに調整を図るとともに、津波等ハザードマップ等を十分に把握し、津波等による浸水域に該当するなどしている場合、学校防災マニュアル等に具体的な避難方法等を定める。

エ 東日本大震災に伴う被災等の状況

建築物の構造体の耐震診断結果がIs値0.3未満となっている教育施設の耐震化について、地方公共団体が引き続き優先的に進められるようにする。

また、東日本大震災に伴う建築物の天井脱落等の被害を踏まえて建築基準法施行令が改正されたことなどにより、文部科学省が25年8月に策定した「学校施設における天井等落下防止対策のための手引」の周知徹底を地方公共団体に対して図り、天井材についての耐震化対策を旧耐震基準に基づく建築物だけではなく新耐震基準に基づく建築物についても推進させる。

(1) 医療施設における耐震化対策等の状況

医療施設については、既に財政支援等による耐震化対策が講じられているところであるが、厚生労働省において、次の事項について、国土交通省等の関係府省、地方公共団体等と連携するなどしてその実施に努め、更なる耐震化の促進を図る必要がある。

ア 医療施設の耐震診断の状況

耐震診断については、耐震改修状況の調査等の機会を利用するなどして、特に建替え等の予定もないのに耐震診断を実施していない医療機関に対し、耐震診断の実施に係る助言等を定期的に継続して実施する。

イ 医療施設の耐震改修の状況

  • (ア) 耐震改修については、耐震改修状況の調査等の機会を利用するなどして、特に早急な耐震化が望まれるIs値が0.3未満の患者利用建築物を有する医療機関に対し、早期に耐震化を図るよう助言等を定期的に継続して実施する。
  • (イ) 医療機関だけでは解決が困難な課題を含め解決すべき課題が多いことなどが、医療施設の耐震化が進まない要因の一つとなっていることから、関係府省、地方公共団体等と連携して、医療機関が耐震化対策を実施する場合の問題点の検討、課題解決に資する情報の提供等を行うなどして、医療機関が行う耐震化対策を促進するための支援策を充実させる。
  • (ウ) 業務継続の観点からみると、災害拠点病院の指定要件は、自家発電設備の冷却方式等についての基準がないなど、指定要件を満たしていても、災害拠点病院として災害時に期待される役割を十分に果たせないおそれがあるものとなっている。したがって、災害拠点病院の役割に鑑み、施設等の信頼性向上の点も含めた施設整備の具体的な指針となるべき整備指針等を策定するなどして、災害拠点病院として整備を求める施設等の水準を明確化する。また、指定要件の厳格な運用が図られるよう、災害拠点病院の指定の基準とすべき最低条件を整理するなどして、指定要件の位置付けとその運用方針を明確化する。

ウ 東日本大震災に伴う被災等の状況

東日本大震災により病院機能に影響が生じた理由は、建物の損傷、ライフラインの途絶に伴う電力の供給停止、水不足等となっていることを踏まえ、構造体に加えて建築非構造部材及び建築設備についても業務継続、病院機能の維持を図る観点からの耐震化対策を実施する。

(4) 庁舎施設等における耐震化対策等の状況

庁舎施設等については、地方公共団体が財政状況を勘案しつつ、地域防災計画、耐震改修促進計画等に基づき耐震化対策等を行っているものであることから、地方公共団体における業務継続体制の確立を支援している内閣府、防災業務計画において地域防災計画の作成の基準を定めている消防庁及び警察庁、基本方針を告示しその中で耐震改修促進計画の策定に関する事項等を定めている国土交通省、それぞれにおいて、次の事項に関して地方公共団体に助言するなどして、庁舎施設等の耐震化を更に促進する必要がある。

ア 庁舎施設等の耐震診断の状況

庁舎施設及び消防施設における構造体の診断率が6割程度となっていることなどから、各地方公共団体の財政事情や施設の重要度等を考慮しつつ、これら施設の耐震診断を計画的に実施する。

イ 庁舎施設等の耐震改修の状況

庁舎施設及び消防施設における構造体の診断率が6割程度となっていることなどから、各地方公共団体の財政事情や施設の重要度等を考慮しつつ、これら施設の耐震診断を計画的に実施する。

  • (ア) 庁舎施設の耐震化率が約6割、警察施設及び消防施設の耐震化率が約8割となっていることから、各地方公共団体の財政事情や施設の重要度等を考慮しつつ、耐震化対策を計画的に実施する。特に、庁舎施設については、災害時に被害情報収集や災害対策の指示を行うための重要な施設であるにもかかわらず、耐震化率が他の施設に比べて低くなっていることから、耐震改修促進計画に定めた目標の達成に留意して耐震化対策を着実に実施する。
  • (イ) 庁舎施設等の耐震化対策については、構造体の耐震化を優先している地方公共団体がほとんどであるが、防災拠点となる施設においては建築非構造部材や建築設備の耐震化も重要であることから、今後は、これらの耐震化対策の進捗を図る。
  • (ウ) 災害応急活動を支障なく実施等するためには、業務継続性の確保が重要であることから、防災拠点となる建築物については、業務継続計画の策定、代替施設の整備、通信手段の多様化、自家発電設備の設置による非常用電源の確保等に関し一層の進捗を図る。特に、自家発電設備の連続運転可能時間が24時間未満となっている建築物が多数見受けられたことなどから、内閣府等関係する各府省等において、防災上必要な最低水準を定めるなど一定の基準を示すことを検討する。

ウ 東日本大震災に伴う被災等の状況

庁舎施設等における東日本大震災に伴う被災等の状況について、建築非構造部材及び建築設備が被災したことにより、災害応急活動に支障が生じた事例もあることから、今後は、これらの耐震化対策の進捗を図る。

また、本院は、24年報告の検査の結果に対する所見において、各府省等、独立行政法人及び国立大学法人等は、公共建築物の耐震化対策の実施に当たり、建築物の重要度、耐震化対策の緊急度等を総合的に勘案して、必要な耐震診断を実施し、耐震診断の結果、改修等が必要な場合には、既存官庁施設の有効活用等も含めて多角的に検討するなどして、耐震化対策を計画的かつ効率的に実施していくことが重要であると記述しているところである。さらに、関係する各府省等は、今回の検査で対象とした地方公共団体等が所有するなどしている公共建築物の耐震化対策の促進について、本報告書で報告した各事項等を踏まえて、計画的かつ効率的に実施する必要がある。

本院としては、今後とも、公共建築物における耐震化対策等が適切に実施されているかについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。