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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成25年9月

三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する会計検査の結果について


第1  検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、平成24年9月3日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月4日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一) 検査の対象

内閣官房、総務省、防衛省、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構

(二) 検査の内容

三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する次の各事項

① 過大請求の経緯、方法、内容等の状況

② 防衛省等における監査等の実施状況

③ 損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況

2 24年次の会計検査の実施状況

会計検査院は、上記の要請により、三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)、その子会社である三菱スペース・ソフトウエア株式会社(以下「MSS」という。)、三菱プレシジョン株式会社(以下「プレシジョン」という。)、三菱電機特機システム株式会社(以下「三電特機」という。)及び関連会社である太洋無線株式会社(以下、「太洋無線株式会社」を「太洋無線」といい、これら4社を「関係4社」という。)並びに住友重機械工業株式会社(以下「住友重機械」という。)及びその子会社である住重特機サービス株式会社(以下、「住重特機サービス株式会社」を「住重特機」といい、両社を合わせて「住友重機械等」という。)による過大請求事案(以下「三菱電機株式会社等による過大請求事案」という。)に関し、内閣官房内閣情報調査室内閣衛星情報センター(以下「衛星センター」という。)、総務省、防衛省、独立行政法人情報通信研究機構(以下「通信機構」という。)、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下「宇宙機構」という。)等を対象として、24年次に会計検査を実施した。そして、前記の①過大請求の経緯、方法、内容等の状況、及び②防衛省等における監査等の実施状況についての会計検査の結果を、「三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する会計検査の結果について」の報告書として取りまとめ、24年10月25日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「24年報告」という。)。24年報告の検査の結果に対する所見は、次のとおりであり、会計検査院としては、内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が今後行うこととしている損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況に係る検証等を中心に引き続き検査を実施して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとした。

防衛装備品や人工衛星等は、我が国の安全保障及び大規模災害等への危機管理等の面において大きな役割を担っており、防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約は、これらの役割を実効性あるものとするために重要であり、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省において引き続き実施されるものである。

また、これらの契約は、前記のとおり、契約相手方が限定されるため随意契約で締結されることが多く、競争が働きにくい面がある一方、市場価格が形成されておらず、予定価格が原価計算方式で算定される場合が多いことなどから、予定価格の算定根拠等の透明性の確保が重要となっている。

ついては、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、今回の過大請求事案に対する特別調査等を引き続き実施して、事態の全容の解明、過大請求額の算定、返還の請求等を行うとともに、防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する予算の執行のより一層の適正化を図るよう、次の点に留意する必要がある。

ア 資料の信頼性確保に関する措置について

防衛省及び宇宙機構においては、前記のとおり、資料の信頼性確保に関する措置として関係資料の保存義務、虚偽資料に係る違約金の賦課等について契約相手方への周知は行われていたものの、現に本件過大請求事案が発生したことなどを踏まえ、信頼性確保の措置のより一層の実効性の向上に努めること。また、衛星センター、通信機構及び総務省においては、関係資料の保存義務、虚偽資料に係る違約金の賦課等の資料の信頼性確保に関する措置について、より一層の体制の整備を図ること

イ 防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等について

防衛装備品等の調達及び人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する競争性、透明性等の確保やコスト削減へのインセンティブ、ペナルティの実効性等の課題等は、過大請求の発生リスクに影響を与えているとの認識に立って、関係機関等が連携して、引き続き調達制度等の在り方等について更なる検討を行うこと

ウ 制度調査について

(ア) 制度調査を実施する担当官が自ら調査項目等を選定して、直ちに作業員等への聴取を実施したり、適宜調査項目を変更したりするなどして、形式的な調査にならないよう留意し、契約相手方に対する牽制効果が十分に働くようにするけんこと

(イ) 作業現場に赴いて作業実態、工数計上の手続等を実地に確認するフロアチェックを行う場合には、管理職等のみに想定される範囲内の質問をするのではなく、実際の作業員等に想定外の質問も含む質問を行うようにするなど、フロアチェックの充実・強化を図ること

(ウ) 衛星センター及び通信機構においては、制度調査を実施できるよう早急に体制の整備を図るとともに、その実施に当たっては、他の調達機関と連携を図るなどして、制度調査の充実・強化を図ること

(エ) 一重帳簿による過大請求を発見したり抑止したりするため、必要に応じて事前通告なしの抜き打ち調査等を実施するとともに、その調査手法の開発や実施体制の整備を図ること

エ 原価監査等について

(ア) 契約相手方が示す事項に対する事実確認等にとどまることなく、様々な観点からの監査及び確認を行うなどして、形式的な監査にならないよう留意し、契約相手方に対する牽制効果が十分に働くようにすること

(イ) 関係書類の照合等にとどまることなく、作業実態に関する質問を行うなどして事実の把握及び確認に努めること

(ウ) 防衛省においては、地方調達に係る原価監査等の基準を統一的に整備したり、衛星センター、通信機構及び総務省においては、原価監査等の具体的方法、内容等を定めた要領等を整備したりするなど、体制の整備を図ること

(エ) 一重帳簿による過大請求を発見したり抑止したりするため、制度調査と同様に、必要に応じて事前通告なしの抜き打ち監査等を実施するとともに、その監査手法の開発や実施体制の整備を図ること

オ 内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等について

契約相手方に対して制度調査、原価監査等を実施するなどの際は、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が講じた再発防止策等についての契約相手方に対する浸透度合を確認し、また、内部統制、各種の法令遵守等に係る施策等の状況について聴取等を行うなどして、契約相手方の原価計算システムの適正性、過大請求の発生リスク等について的確に判断するとともに、必要に応じて適切な指導を行うなどして過大請求の発生リスクの低減に努めること

また、会計検査院は、24年報告において取り上げた防衛省等における監査等の実施状況のうち、早急に改善策を講ずる必要があるものなどについては、予算の執行のより一層の適正化を図るよう、24年10月25日に、内閣総理大臣総務大臣防衛大臣独立行政法人情報通信研究機構理事長及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構理事長に対して、それぞれ会計検査院法第36条の規定により意見を表示した(以下、これらの意見表示を「会計検査院の意見表示」という。)。

3 25年次の検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

前記のとおり、会計検査院は、24年報告において、内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が今後行うこととしている損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況に係る検証等を中心に引き続き検査を実施して、検査の結果については、取りまとめが出来次第報告することとしている。

また、海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している巡視船艇に搭載する武器及び武器管制装置(以下「武器等」という。)の製造・定期整備に係る契約は、防衛省が住友重機械等及び三菱電機と契約している防衛装備品の製造、修理等と同じラインにおいて製造・定期整備が行われていることなどから、海上保安庁についても防衛省と同種の事態が生じていないか検査する必要がある。

さらに、株式会社島津製作所(以下「島津製作所」という。)は、25年1月25日に、防衛省と締結した契約に係る工数を過大に申告して過大請求を行っていたことを認めて公表しており、このことはマスコミにおいても報道されている。

そこで、会計検査院は、三菱電機株式会社等による過大請求事案に関し、前記の③内閣官房、総務省、防衛省、通信機構及び宇宙機構が行った損害賠償の請求、再発防止策の策定等の状況を中心として、合規性、経済性、有効性等の観点から検査を実施するとともに、これらと併せて海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している巡視船艇に搭載する武器等の製造・定期整備に係る契約並びに防衛省が島津製作所と締結している防衛装備品等の調達に関する契約についても、前記①、②及び③に準じて検査を実施した。

検査の着眼点については、以下のとおりである。

ア 損害賠償の請求の状況

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省における過大請求額(過払額)、違約金及び遅延損害金(延滞金)の算定方法は適切なものとなっているのか、過払額等は当該算定方法に基づいて適正に算定されているのか、また、過払額等の請求は適切に行われているのか。

イ 再発防止策の策定等の状況

防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、過大請求の発生原因等に対応した適切な再発防止策を策定しているのか、また、三菱電機、関係4社及び住友重機械等における内部統制、各種の法令遵守等の施策等は適切に改善されているのか。

ウ 海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している契約

予定価格の算定基礎となっている見積書は製造・定期整備の実態を反映した適切なものとなっているのか、特に見積工数と実績工数がかい離していないのか、また、かい離している場合、海上保安庁はどのような対応を執っていたのか。

エ 島津製作所による過大請求の経緯、方法、内容等の状況

過大請求はどのような経緯及び方法で行われていたのか、特に工数の水増し等はどのような方法で行われていたのか、また、過大請求の目的、動機及び背景はどのようなものか。

(2) 検査の対象及び方法

会計検査院は、24年報告において、防衛装備品等の調達については、防衛省が19年度から23年度までの間に三菱電機、関係4社及び住友重機械等と締結した防衛装備品等の調達に関する請負契約等を対象として、人工衛星等の研究、開発等については、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が三菱電機又は関係4社と締結した情報収集衛星の研究、開発等に係る委託契約等のうち、19年度から23年度までの間に履行の全部又は一部を完了した契約を対象として検査を行った。

今回は、24年報告において検査対象としたこれらの契約に加えて、防衛省等が過払額の算定対象とした契約のうち24年報告において検査対象となっていなかった18年度以前の契約及び24年1月以降に締結された指名停止中の契約(注1)を対象にするとともに、海上保安庁が19年度から24年度までの間に住友重機械等及び三菱電機と締結した巡視船艇に搭載する武器等の製造・定期整備に係る契約並びに防衛省が19年度から24年度までの間に島津製作所と締結した防衛装備品等の調達に関する請負契約等を対象として検査を行った。

検査に当たっては、防衛省内部部局、同省情報本部、同省装備施設本部、航空自衛隊第4補給処、宇宙機構筑波宇宙センター、衛星センター、通信機構本部、総務本省、海上保安庁本庁等において、過払額、違約金及び延滞金を算定した過払額算定シート等の関係書類を徴したり、再発防止策の内容等を確認したりするなどの方法により、会計実地検査を行った。さらに、三菱電機鎌倉製作所及び通信機製作所(以下、三菱電機鎌倉製作所を「鎌倉製作所」、同社通信機製作所を「通信機製作所」という。)、関係4社、住友重機械等、島津製作所等の各製造拠点に赴いて、過払額の算定対象となった契約等の一部を抽出して、過払額算定シート等の算定基礎となった関係資料や社内の調査資料を確認したり、関係者に説明を求めたり、製造現場を確認したりなどの方法により、会計実地検査を行った。これらの会計実地検査には、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構、総務省及び海上保安庁に対して125.6人日、三菱電機、関係4社、住友重機械等、島津製作所等に対して240.3人日、計365.9人日を要した。また、これらのほか、在庁して会計実地検査で収集した関係書類等の分析、検討等の検査を行った。

(注1)
指名停止中の契約  指名停止等の措置の期間中であっても、真にやむを得ない場合に該当するとして締結した契約