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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成25年9月

三菱電機株式会社等による過大請求事案に関する会計検査の結果について


第3 検査の結果に対する所見

1 検査の結果の概要

会計検査院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が行った損害賠償の請求の状況について、過払額、違約金及び延滞金の算定方法は適切なものとなっているのか、過払額等は当該算定方法に基づいて適正に算定されているのか、また、過払額等の請求は適切に行われているのか、防衛省等が行った再発防止策の策定等の状況について、過大請求の発生原因等に対応した適切な再発防止策を策定しているのか、また、三菱電機、関係4社及び住友重機械等における内部統制、各種の法令遵守等の施策等は適切に改善されているのかなどに着眼して検査した。さらに、海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結している契約について、予定価格の算定基礎となっている見積書は製造・定期整備の実態を反映した適切なものとなっているのか、特に見積工数と実績工数がかい離していないのか、また、かい離している場合、海上保安庁はどのような対応を執っていたのか、島津製作所による過大請求の経緯、方法、内容等の状況について、過大請求はどのような経緯及び方法で行われていたのか、特に工数の水増し等の方法はどのようなものか、また、過大請求の目的、動機及び背景はどのようなものかなどに着眼して検査した。

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

ア 防衛省、宇宙機構、衛星センター及び通信機構が行った損害賠償請求について、過払額の算定に誤りがあり、過払額が過小又は過大に算定されていた事態が7件見受けられたものの、これらを除いては、過払額、違約金、延滞金等の算定を検証した範囲では特に報告すべき事態は見受けられなかった。また、防衛省や宇宙機構等の調達機関の間で、三菱電機に対する過払額の算定方法、違約金の算定対象期間及び特別調査等に係る費用負担が区々となっていた(2007参照)。さらに、違約金の算定自体には誤りがなかったものの、防衛省が、三菱電機、MSS又は三電特機と契約を締結する際に、誤って、信頼性特約を付すべきであるのに付していなかったなどの事態が8件見受けられた(参照Y2007-1-2-a-i1 Y2007-1-2-i-a2 Y2007-1-2-i-u3)。

イ 防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が策定した再発防止策のうち、制度調査及び原価監査等については、24年報告の所見及び会計検査院の意見表示を踏まえ、それぞれ策定されていた。また、資料の信頼性確保に関する措置については、防衛省が違約金の額を過払額の同一額から4倍までの額、宇宙機構、衛星センター及び通信機構が過払額の2倍の額、総務省が過払額と同一額と定めていて、違約金の額が区々となっていた(Y2007-1-2-a-a参照)。さらに、契約相手方に対する関係資料等の保存義務について、防衛省以外の調達機関は保存期間を1年より長くしているが、防衛省は現行の1年で支障はないとして、保存期間の延長を検討していない(Y2007-1-2-a-a参照)。

ウ 人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等について、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、コスト削減へのインセンティブを働かせるため、企画競争が可能な人工衛星の研究、開発等については概算契約等から原則として確定契約に変更するなどとしているが、現段階においては、契約締結時に適切な予定価格を算定する方法、体制等は十分に確保されていない(Y2007-1-2-a-i参照)。

エ 海上保安庁が住友重機械等及び三菱電機と締結した契約について、見積工数と実績工数等が大幅にかい離しているにもかかわらず、確定契約により契約を締結していたり、製造等原価を確認するための調査を行うための条項を付していなかったり、実績に基づかない見積書の提出を受け続けていたりするなどしていた(Y2090参照)。

上記のほか、防衛装備品等の調達に関する契約について、25年1月以降、島津製作所や鶴見精機等による過大請求事案が発覚しており、防衛省はこれらの過大請求事案について、現在、特別調査を実施している(2090-NUM2-1-k参照

2 所見

我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、防衛省及び海上保安庁の任務の重要性は増大しており、また、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省が実施している情報収集衛星、通信衛星、気象衛星等の人工衛星等の研究、開発等は、安全保障及び大規模災害等への危機管理のみならず、我が国の科学技術の発展等にとっても重要なものとなっている。さらに、我が国の財政状況は、連年の公債発行により公債残高が増加の一途をたどっているなど、財政の健全化が大きな課題となっており、歳出の見直しなどに積極的に取り組むことが強く求められている。そして、このような状況の中で、防衛装備品等及び武器等の調達並びに人工衛星等の研究、開発等に関する契約について、その様々な特殊性を踏まえつつ、全体としてより一層の適正化を図ることは急務の課題となっている。

ついては、防衛省、宇宙機構、衛星センター及び通信機構は、前記の過払額が過小又は過大に算定されていた事態について三菱電機等と協議を行うなど、必要な処置を執るとともに、防衛省は、島津製作所、鶴見精機等による過大請求事案に対する特別調査を引き続き実施して、事態の全容の解明、過払額等の算定、返還の請求等を行うなどの必要がある。さらに、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構、総務省及び海上保安庁は、24年報告に掲記した指名停止等の措置のペナルティとしての実効性等の課題等を十分に考慮しつつ、防衛装備品等及び武器等の調達並びに人工衛星等の研究、開発等に関する契約に係る過大請求事案等について策定した再発防止策等を着実に実施し、その実施に当たっては、より一層の実効性の向上に資するよう、次の点に留意する必要がある。

ア 過払額の算定方法、違約金の算定対象期間及び特別調査等に係る費用負担

今回の過大請求事案については、防衛省等がそれぞれの判断に基づき対応した結果、過払額の算定方法、違約金の算定対象期間及び特別調査等に係る費用負担が区々となっている。しかし、これらの中には、特別調査等に係る費用負担のように、今後、防衛省等の間で共通の基準に沿って対応することが合理的であると思料されるものが一部見受けられる。したがって、防衛省等においては、今後同様な事態が生じた場合にはどのように対応することがより適切かについて、相互に連携をとりつつ検討すること

イ 信頼性特約等の特約条項の取扱い

防衛省が三菱電機、MSS及び三電特機と締結した防衛装備品等の調達に関する契約において、信頼性特約を付すべきであるのに誤って付していなかったなどのため、違約金を三菱電機等に請求できなかった事態については、現在履行中の契約のうち信頼性特約が付されていないなどの契約について、新信頼性特約を付すことができるよう契約相手方と協議するなど是正の処置を講ずることとすること。また、防衛省の各調達機関において、現在履行中の契約について信頼性特約又は新信頼性特約が適正に付されているか調査を行い、信頼性特約等が付されていないなどの事態が明らかになった場合は、上記と同様に、新信頼性特約を付すことができるよう契約相手方と協議するなどすること。さらに、防衛省の各調達機関において新信頼性特約の的確な履行を確保するために、新信頼性特約を付すことを定めた通達の趣旨及びその遵守の重要性を周知徹底したり、上司による決裁書類の確認を的確に行うため決裁書類の書式を見直したり、契約上適切でない事態が明らかになった場合の迅速かつ的確な対応を講ずるため、必要に応じて教育や指導を行うなどしたりして、会計経理に関する内部統制が十分機能するようにしたりなどすること

ウ 資料の信頼性確保に関する措置

(ア) 再発防止策として賦課することとした違約金の額(過払額に対する倍率)が、防衛省、宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省の間で区々となっていることについては、防衛省等を含めた同種契約を締結する各調達機関が統一的な違約金の額の設定の可能性について検討すること

(イ) 関係資料等の保存義務について、防衛省は保存期間を延長することの必要性について検討すること

エ 海上保安庁が締結する武器等の製造・定期整備に係る契約

海上保安庁は、住友重機械等及び三菱電機との契約を含む武器等の製造・定期整備契約について、製造等原価の実績等に基づいて契約代金の額を確定する契約方法に見直すとともに、製造等原価を確認するための調査の実施や虚偽の資料を提出又は提示した場合の違約金の賦課を定めた条項を付すなどして契約方法等の適正化を図ることまた、次の点については、中長期的観点から、引き続き検討を行っていく必要がある。

ア 人工衛星等の研究、開発等に関する契約に内在する課題等

宇宙機構、衛星センター、通信機構及び総務省は、コスト削減へのインセンティブを働かせるため、概算契約等を一律に確定契約に変更することについては、慎重に判断していく必要があることから、現在進めている概算契約等の確定契約化や、そのために必要とされる適切な予定価格の算定方法等の確保等について、可能な限り相互に連携を図りつつ、幅広い観点から十分に検討すること

イ 府省等間における連携の在り方等

今回の過大請求事案が防衛省等の複数府省等とそれぞれ契約を締結している特定企業で発生しているという状況を考慮して、防衛省等においてこのような同一特定企業と契約を締結している府省等間における連携の在り方等について検討すること

以上のとおり報告する。

会計検査院としては、今後とも、防衛省等における防衛装備品等及び武器等の調達並びに人工衛星等の研究、開発等が適正、適切に実施されているかなどについて、多角的な観点から引き続き検査していくこととする。