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  • 平成25年10月

公共建築物における耐震化対策等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

4 庁舎施設等における耐震化対策等の状況

(1) 庁舎施設等の概要等

庁舎施設等の概要及び指定行政機関が作成している防災業務計画における各建築物の位置付けは以下のとおりである。

ア 庁舎施設の概要

地方公共団体は、条例に基づくなどして、地方公共団体の中央機関が入居する建築物として本庁舎、一部の区域内の事務を分掌させるなどのための出先機関が入居する建築物として支庁舎等をそれぞれ設置している。本庁舎は、単独の建築物の場合は少なく、本館、別館、議会棟等の複数の建築物により構成されている場合が多くなっていて、それぞれの建築物の建築年次が異なっている庁舎や、単独の建築物であっても増築や改築を繰り返している庁舎が見受けられる。また、支庁舎等も複数の棟に分かれている場合がある。

災対法によると、都道府県知事は、都道府県の地域について災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合において、防災の推進を図るため必要があると認めるときは、都道府県地域防災計画の定めるところにより、都道府県災害対策本部を、災害地にあって災害対策本部の事務の一部を行う組織として都道府県現地災害対策本部をそれぞれ設置することができるとされている。同じく、市町村長は、市町村の地域について災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合において、防災の推進を図るため必要があると認めるときは、市町村地域防災計画の定めるところにより、市町村災害対策本部を設置することができるなどとされている。そして、検査を実施した地方公共団体においては、災害対策本部の設置場所として、専用のスペースではなく、通常は会議室等として使用しているスペースを指定している事例が多く見受けられた。

公共建築物全般に関する地域防災計画の作成の基準となるべき事項は、消防庁防 災業務計画に示されており、同計画によると、公共建築物の耐震改修促進につい て、防災拠点となる庁舎、消防本部等の耐震改修を促進するため、各施設の耐震診 断結果を基にした耐震性に係るリストを作成し、緊急性の高い施設を絞り込み、重 点化を図りながら着実に耐震性を確保するなどとされている。また、地震災害等の 迅速かつ的確な情報伝達を行うため、通信施設の耐震性の確保、通信ルートの多重 化、通信手段の多様化等地震災害の特性に対応した情報の収集・伝達体制の整備等について定めることとされている。

イ 警察施設の概要

警察法(昭和29年法律第162号)によると、都道府県警察は、当該都道府県の区域につき警察の責務に任ずるものとされ、都道府県警察に要する経費は、国庫が支弁すると規定している経費を除き、当該都道府県が支弁することとされている。そして、都警察の本部として警視庁を、道府県警察の本部として道府県警察本部を置き、また、都道府県の区域を分かち、各地域を管轄する警察署を置くなどとされており、これらの組織が入居する建築物の整備は、国庫が経費を支弁する警察学校、機動隊等の警察施設を除き、当該都道府県が実施することとされている。

そして、国家公安委員会・警察庁防災業務計画によると、地域防災計画の作成の基準となるべき事項として、都道府県警察は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、警備体制の種別等に応じて、都道府県警察本部、警察署等に災害警備本部、災害警備準備本部、災害警備連絡室等を設置するものとされている。また、防災拠点となる警察施設については、その重要度を考慮し、耐震性、耐火性等の強化に努めること、警察本部等の警察の中枢施設が損壊した場合に、特に指揮機能及び通信機能を確保するため、耐震性、耐火性等があり、かつ、液状化の起こりにくい地域に所在する建物を選択して、警察本部等の代替施設としての整備を図ることなどとされている。

ウ 消防施設の概要

消防組織法によると、市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任を有すること、市町村の消防は、条例に従い、市町村長がこれを管理すること、市町村の消防に要する費用は、当該市町村がこれを負担しなければならないこととされている。そして、市町村は消防事務を処理するため、消防本部、消防署等を設けなければならないとされており、これらの組織が入居する建築物の整備は当該市町村が実施することとされている。

消防庁防災業務計画によると、消防庁は、地方公共団体に対して消防庁舎等の安全性の点検等について助言等を行うなどとされている。また、地域防災計画の作成の基準となるべき事項として、消防庁舎の耐震化に関する事項について整備目標を定めること、非常用電源等に留意することなどとされている。

エ 構造耐震判定指標の割増し

上記のとおり、庁舎施設等の建築物については地方公共団体がそれぞれ整備して所有するなどしており、各施設の建築物の耐震化対策も当該建築物を所有する地方公共団体が実施することとなる。そして、多くの地方公共団体は、建築物の新築及び耐震診断の際に、「官庁施設の総合耐震診断基準」(一般財団法人建築保全センター)に準ずるなどして、建築物の防災上の重要度に応じて確保すべき耐震性能を、新耐震基準に基づき確保すべき耐震性能(Is値では0.6に相当)よりも割増ししている。

耐震診断に係る構造耐震判定指標の割増しについては、各地方公共団体の判断に基づき、防災拠点となる建築物は1.5倍(Is値では0.9)、避難所として指定する建築物は1.25倍(Is値では0.75)などとしている。そして、各地方公共団体が行う耐震診断において、防災拠点となる建築物等について、Is値が割増し後の構造耐震判定指標を下回った場合は耐震改修対象の建築物と位置付けるなどとしている。

オ 庁舎施設等の耐震化に係る調査

消防庁は、災害応急対策を円滑に実施するためには、防災拠点となる庁舎、消防署等の公共施設等の耐震化が非常に重要であるとして、13年度に地方公共団体が所有又は管理する公共施設等の耐震診断、耐震改修の実施状況等について調査を実施し、「防災拠点となる公共施設等の耐震化推進検討報告書」として取りまとめた。そして、17年度からは毎年度、その進捗状況を確認するため、「防災拠点となる公共施設等の耐震化推進状況調査」(以下「消防庁調査」という。)を実施し、調査結果を公表している。

消防庁は、非木造の階数2以上又は延床面積200㎡超の公共施設等の建築物のうち、庁舎施設については防災拠点となる建築物を、また、警察施設及び消防施設については全ての建築物をそれぞれ消防庁調査の対象としている。さらに、避難所となる教育施設等の建築物、地域防災計画に医療救護施設として位置付けられている医療施設の建築物等についても同様に、対象としている(以下、消防庁調査の対象としている建築物を「消防庁調査建築物」という。)。

カ 分析の対象とした庁舎施設等の概要

44都道府県及び管内の1,615市町村が24年12月31日現在において所有していた庁舎施設等の建築物合計9,493棟(うち防災拠点となる建築物7,819棟)を分析の対象とした。

消防庁は、非木造の階数2以上又は延床面積200㎡超の公共施設等の建築物のうち、庁舎施設については防災拠点となる建築物を、また、警察施設及び消防施設については全ての建築物をそれぞれ消防庁調査の対象としている。さらに、避難所となる教育施設等の建築物、地域防災計画に医療救護施設として位置付けられている医療施設の建築物等についても同様に、対象としている(以下、消防庁調査の対象としている建築物を「消防庁調査建築物」という。)。

対象とした施設別の棟数等については、図表4-1のとおりである。

図表4-1 施設別の棟数等

区分 対象建築物
旧耐震基準に基づく建築物 新耐震基準に
基づく建築物
うち昭和46年
以前に建設さ
れた建築物
(棟) (棟) (棟) (棟)
庁舎施設等の建築物 庁舎施設 3,855 2,217 1,227 1,638
(構成比) (100%) (57.5%) (31.8%) (42.5%)
うち防災拠点 2,181 1,231 664 950
(構成比) (100%) (56.4%) (30.4%) (43.6%)
警察施設(防災拠点) 1,502 699 272 803
(構成比) (100%) (46.5%) (18.1%) (53.5%)
消防施設(防災拠点) 4,136 1,923 484 2,213
(構成比) (100%) (46.5%) (11.7%) (53.5%)
9,493 4,839 1,983 4,654
(構成比) (100%) (51.0%) (20.9%) (49.0%)
うち防災拠点 7,819 3,853 1,420 3,966
(構成比) (100%) (49.3%) (18.2%) (50.7%)
うち多数の者
が利用する建
築物
庁舎施設 2,685 1,578 862 1,107
(構成比) (100%) (58.8%) (32.1%) (41.2%)
うち防災拠点 1,798 994 514 804
(構成比) (100%) (55.3%) (28.6%) (44.7%)
警察施設(防災拠点) 1,139 511 172 628
(構成比) (100%) (44.9%) (15.1%) (55.1%)
消防施設(防災拠点) 853 301 77 552
(構成比) (100%) (35.3%) (9.0%) (64.7%)
4,677 2,390 1,111 2,287
(構成比) (100%) (51.1%) (23.8%) (48.9%)
うち防災拠点 3,790 1,806 763 1,984
(構成比) (100%) (47.7%) (20.1%) (52.3%)

この内訳についてみると、庁舎施設については、都道府県及び市町村における本庁舎並びに都道府県及び政令指定都市における現地災害対策本部を設置する予定の支庁舎等、計3,855棟(うち災害対策本部及び現地災害対策本部を設置する予定の建築物(防災拠点)2,181棟)となっている。警察施設については、警視庁、道府県警察本部及び警察署の組織が入居する建築物(防災拠点)1,502棟となっている。消防施設については、消防本部、消防署等の組織が入居する建築物(防災拠点)4,136棟となっている。そして、上記の対象建築物のうち、旧耐震基準に基づく建築物は、庁舎施設が2,217棟、警察施設が699棟、消防施設が1,923棟、合計4,839棟となっている。また、昭和45年に改正され、46年に施行された建築基準法施行令に基づく耐震基準(55年の改正とは異なり大規模地震を対象とした改正ではないので、旧耐震基準として扱われている。)以前の耐震基準に基づく建築物は、庁舎施設が1,227棟、警察施設が272棟、消防施設が484棟、合計1,983棟となっている。

そして、上記の対象建築物のうち、基本方針において、耐震化率を平成27年までに少なくとも9割とするとされた多数の者が利用する建築物は、庁舎施設が2,685棟、警察施設が1,139棟、消防施設が853棟、合計4,677棟となっている。

また、東北3県については、24年11月に消防庁が公表した消防庁調査(23年度末時点)における消防庁調査建築物計11,538棟を分析の対象とした。

(2) 庁舎施設等の耐震診断の状況

庁舎施設等の建築物に対する各地方公共団体の耐震診断の実施状況について、構造体、建築非構造部材及び建築設備の診断率等について、庁舎施設、警察施設及び消防施設の別に分析を行った。

そして、上記の対象建築物のうち、基本方針において、耐震化率を平成27年までに少なくとも9割とするとされた多数の者が利用する建築物は、庁舎施設が2,685棟、警察施設が1,139棟、消防施設が853棟、合計4,677棟となっている。

また、東北3県については、24年11月に消防庁が公表した消防庁調査(23年度末時点)における消防庁調査建築物計11,538棟を分析の対象とした。

ア 施設別の診断率

施設別の診断率は、図表4-2のとおりである。

図表4-2 施設別の診断率

区分 対象建築物 診断率
(B)/(A)
耐震診断の対象となる建築物 (A)
(旧耐震基準に基づく建築物)
新耐震基準
に基づく建
築物
耐震診断実
施済
(B)
耐震診断未
実施
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%)


対象建築物 庁舎施設 3,855 2,217 1,525 692 1,638 68.8
警察施設 1,502 699 638 61 803 91.3
消防施設 4,136 1,923 1,153 770 2,213 60
9,493 4,839 3,316 1,523 4,654 68.5
うち多数の者が
利用する建築物
庁舎施設 2,685 1,578 1,231 347 1,107 78
警察施設 1,139 511 485 26 628 94.9
消防施設 853 301 246 55 552 81.7
4,677 2,390 1,962 428 2,287 82.1






対象建築物 庁舎施設 3,855 2,217 287 1,930 1,638 12.9
警察施設 1,502 699 68 631 803 9.7
消防施設 4,136 1,923 395 1,528 2,213 20.5
9,493 4,839 750 4,089 4,654 15.5
うち多数の者が
利用する建築物
庁舎施設 2,685 1,578 228 1,350 1,107 14.4
警察施設 1,139 511 51 460 628 10
消防施設 853 301 88 213 552 29.2
4,677 2,390 367 2,023 2,287 15.4



対象建築物 庁舎施設 3,855 2,217 238 1,979 1,638 10.7
警察施設 1,502 699 66 633 803 9.4
消防施設 4,136 1,923 230 1,693 2,213 12
9,493 4,839 534 4,305 4,654 11
うち多数の者が
利用する建築物
庁舎施設 2,685 1,578 196 1,382 1,107 12.4
警察施設 1,139 511 51 460 628 10
消防施設 853 301 51 250 552 16.9
4,677 2,390 298 2,092 2,287 12.5
(注)
本表における公的病院とは、日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、全国厚生農業協同組合連合会及び社会福祉法人北海道事業協会が開設する病院である。

対象とした建築物全体の構造体の診断率は68.5%となっている。また、対象とした建築物全体の建築非構造部材及び建築設備の診断率はそれぞれ15.5%及び11.0%となっている。

構造体の診断率を施設の別にみると、庁舎施設で68.8%、警察施設で91.3%、消防施設で60.0%となっていて、警察施設の診断率が最も高くなっている。

イ 構造体の耐震診断結果

構造体の耐震診断の結果は、図表4-3のとおりである。

図表4-3 構造体の耐震診断の結果

区分 耐震診断実施済の建築物 (A)
所要の耐震性能を確保していない建築物
(耐震改修等が必要)
所要の耐震性
能を確保して
いる建築物
(Is値0.6以上
等)
(B)=(C)+(D)
+(E)
Is値による耐震診断結果 診断結果が不
明等
(E)
Is値0.3未満
(C)
Is値0.3以上、
0.6未満
(D)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
庁舎施設等の
建築物
庁舎施設 1,525 1,237 422 738 77 288
警察施設 638 475 125 335 15 163
消防施設 1,153 605 133 376 96 548
3,316 2,317 680 1,449 188 999
  うち昭和46年以前に
建設された建築物
1,361 1,119 440 619 60 242

耐震診断を実施していた3,316棟の耐震診断の結果についてみると、新耐震基準に基づく耐震性能が確保されておらず耐震改修等が必要な建築物は2,317棟あり、耐震診断を実施した建築物の69.9%に上っている。

このうち、Is値を用いて構造体の耐震診断を実施していた建築物の診断結果についてみると、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値0.3未満の建築物は680棟、大規模地震で倒壊等の危険性があるとされるIs値0.3以上0.6未満の建築物は1,449棟となっている。そして、Is値0.3未満の建築物680棟の建築年次についてみると、昭和46年以前の建築物が440棟と6割以上を占めている。

このような状況となっている要因は、43年に発生した十勝沖地震を契機として45年に改正された耐震基準において、構造体の柱の鉄筋量を増加することとされたことなどにより、46年以降の建築物にIs値0.3未満の建築物の割合が少ない傾向となっていることにあると考えられる。

(3) 庁舎施設等の耐震改修の状況

地方公共団体は、基本方針に基づき、多数の者が利用する建築物を対象とするなどして、都道府県耐震改修促進計画、市町村耐震改修促進計画等において建築物の耐震化の目標を設定しており、目標とする年度を平成27年度、目標とする耐震化率を90%としている場合が多く見受けられる。また、耐震化対策の対象とする建築物については、多数の者が利用する建築物の規模に満たないため基本方針の目標の対象とはされていない建築物を含めている地方公共団体も多く見受けられる。

これらの各地方公共団体の状況を踏まえ、構造体、建築非構造部材及び建築設備の耐震化率、強化地域及び推進地域(Ⅰ)に所在する建築物の耐震化率、地方公共団体の規模による建築物の耐震化率等耐震化の達成状況について、庁舎施設、警察施設及び消防施設の別に分析を行った。

ア 施設別の耐震化の状況

施設別の耐震化率は、図表4-4のとおりである。

図表4-4 施設別の耐震化率

区分 対象建築物 (A)
所要の耐震性能を確保している建築物 耐震化率
(E)/(A)
新耐震基準に
基づき建設さ
れた建築物
(B)
耐震診断の結
果新耐震基準
に基づく耐震
性能を確保し
ていることが
確認された建
築物
(C)
耐震改修工事
により新耐震
基準に基づく
耐震性能を確
保した建築物
(D)

(E)=(B)+(C)+
(D)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%)


対象建築物 庁舎施設 3,855 1,638 288 432 2,358 61.2
警察施設 1,502 803 163 242 1,208 80.4
消防施設 4,136 2,213 548 354 3,115 75.3
9,493 4,654 999 1,028 6,681 70.4
うち多数の者が
利用する建築物
庁舎施設 2,685 1,107 189 371 1,667 62.1
警察施設 1,139 628 118 187 933 81.9
消防施設 853 552 66 132 750 87.9
4,677 2,287 373 690 3,350 71.6






対象建築物 庁舎施設 3,855 1,638 67 78 1,783 46.3
警察施設 1,502 803 20 26 849 56.5
消防施設 4,136 2,213 198 119 2,530 61.2
9,493 4,654 285 223 5,162 54.4
うち多数の者が
利用する建築物
庁舎施設 2,685 1,107 43 66 1,216 45.3
警察施設 1,139 628 14 20 662 58.1
消防施設 853 552 33 36 621 72.8
4,677 2,287 90 122 2,499 53.4



対象建築物 庁舎施設 3,855 1,638 46 64 1,748 45.3
警察施設 1,502 803 16 27 846 56.3
消防施設 4,136 2,213 104 55 2,372 57.4
9,493 4,654 166 146 4,966 52.3
うち多数の者が
利用する建築物
庁舎施設 2,685 1,107 28 59 1,194 44.5
警察施設 1,139 628 13 21 662 58.1
消防施設 853 552 15 21 588 68.9
4,677 2,287 56 101 2,444 52.3
(注)
都道府県別については別表4-2別表4-3及び別表4-4を参照

対象とした建築物全体の構造体の耐震化率は70.4%となっていて、このうち、多数の者が利用する建築物の耐震化率は71.6%と全体の耐震化率と差異は見受けられない。また、対象とした建築物全体の建築非構造部材及び建築設備の耐震化率はそれぞれ54.4%及び52.3%であり、構造体の耐震化率より20ポイント近く下回っている状況となっている。なお、建築非構造部材及び建築設備が新耐震基準に基づく耐震性能を確保している建築物のほとんどが、新耐震基準に基づいて建設された建築物である。

構造体の耐震化率を施設の別にみると、庁舎施設で61.2%、警察施設で80.4%、消防施設で75.3%となっていて、構造体の診断率と同様に警察施設が最も高くなっている。このうち、多数の者が利用する建築物についてみると、庁舎施設で62.1%、警察施設で81.9%、消防施設で87.9%となっていて、消防施設は全体の耐震化率に対して12.6ポイントも上回っている。そして、多数の者が利用する建築物に対する基本方針の目標である耐震化率9割に対しては、庁舎施設で27.9ポイント、警察施設で8.1ポイント、消防施設で2.1ポイントそれぞれ下回っている状況となっている。

警察施設の耐震化率が高くなっている要因は、国家公安委員会・警察庁防災業務計画に、その重要度を考慮し耐震性能等の強化に努めることとされていることなどにあると考えられる。また、消防施設のうち多数の者が利用する建築物の耐震化率が高くなっている要因は、多数の者が利用する建築物は、市町村の耐震改修促進計画に耐震化対策を執るべき優先度の高い建築物と位置付けられ耐震化対策に係る予算が配分されやすい環境にあることなどにあると考えられる。

また、消防庁調査建築物には教育施設や医療施設等の建築物も含まれているため44都道府県管内の庁舎施設等の建築物との単純な比較はできないが、東北3県の消防庁調査建築物の耐震化率(23年度末時点)をみると、77.6%(全国の消防庁調査建築物の耐震化率は79.3%)となっている。

イ 地域の分類及び地方公共団体の分類ごとの構造体の耐震化率

強化地域及び推進地域(Ⅰ)に指定された市町村に所在する庁舎施設等の建築物の構造体の耐震化率は、図表4-5のとおりである。

図表4-5 強化地域及び推進地域(I)に指定された市町村に所在する庁舎施設等の建築物の構造体の耐震化率

区分 対象建築物
(A)
左のうち新耐震基準に基づく
耐震性能を確保している建築物
(B)
耐震化率
(B) / (A)
うち強化
地域
うち推進
地域(Ⅰ)
うち強化
地域
うち推進
地域(Ⅰ)
うち強化
地域
うち推進
地域(Ⅰ)
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%)
庁舎施設等
の建築物
9,493 910 2,841 6,681 810 2,142 70.4 89 75.4
(注)
強化地域及び推進地域(Ⅰ)には重複して指定されている市町村があるため、両地域の建築物には重複して計上しているものがある。

強化地域及び推進地域(Ⅰ)に指定された市町村に所在する庁舎施設等の建築物の構造体の耐震化率は、強化地域で89.0%、推進地域(Ⅰ)で75.4%となっており、昭和54年から地域の指定を始めている強化地域の耐震化率が対象となる建築物全体や推進地域(Ⅰ)と比較して高くなっている。これは、教育施設と同様の傾向である。

強化地域における耐震化対策の取組の結果、耐震化率が高くなっている事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-庁舎1>

静岡県は、昭和51年に東海地震発生の切迫性が提唱されたことを契機に県政の重要施策として建築物の耐震化対策に取り組んでおり、54年2月に、新築の建築物に対する構造設計指針及び既設の建築物に対する耐震診断指針を独自に作成し県が所有する建築物の耐震基準としていて、これらの指針は新耐震基準の規定を先行的に取り入れた内容となっている。同年8月には県内全域が大震法に基づく強化地域に指定され、同法に基づき東海地震に対する建築物の安全性の確保に努めてきている。そして、平成16年4月に、「静岡県が所有する公共建築物の耐震性能に係るリスト」を、また、17年2月に、「静岡県が所有する公共建築物の耐震化計画」をそれぞれ公表し、同計画に基づき県が所有する公共建築物の耐震化を推進するとともに、同リスト及び同計画をそれぞれ毎年度更新している。

そして、同県内の市町も県の助言等に基づき同様の取組を行っており、この結果、同県及び管内の市町が所有する庁舎施設等の建築物の耐震化率(構造体)は95.0%と高くなっている。

また、地方公共団体を都道府県、政令指定都市及び政令指定都市を除く市町村に分類し、各分類に属する地方公共団体が所有する庁舎施設等の建築物の構造体の耐震化率をみると、図表4-6のとおりとなっている。

図表4-6 地方公共団体の分類ごとの構造体の耐震化率

区分 対象建築物
(A)
左のうち新耐震基準に基づく耐震性能
を確保している建築物
(B)
耐震化率
(B) / (A)
都道府県 政令指定
都市
左を除く
市町村
都道府県 政令指定
都市
左を除く
市町村
都道府県 政令指定
都市
左を除く
市町村
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%) (%)
庁舎施設等
の建築物
9,493 1,977 849 6,667 6,681 1,575 705 4,401 70.4 79.7 83 66

地方公共団体の分類ごとの構造体の耐震化率についてみると、都道府県で79.7%、政令指定都市で83.0%、政令指定都市を除く市町村で66.0%となっており、政令指定都市を除く市町村の耐震化率が低くなっていて、市町村の耐震化対策が遅れている状況となっている。

ウ 構造体の耐震化対策が完了していない建築物の状況

構造体の耐震診断の結果、新耐震基準に基づく耐震性能が確保されていないと診断された建築物及び耐震診断を実施していない建築物のうち、耐震改修等を実施しておらず耐震化対策が完了していない建築物の状況は、図表4-7のとおりである。

図表4-7 耐震化対策が完了していない建築物の状況

区分 対象建築物
(A) 新耐震基準に
基づく耐震性
能を確保して
いる建築物
(B)
所要の耐震性能を確保していない建築物
(耐震改修等が必要)
(C)=(A)-(B) Is値による耐震診断結果 耐震診断未実
Is値0.3未満 Is値0.3以上、
0.6未満等
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
庁舎施設等
の建築物
庁舎施設 3,855 2,358 1,497 321 492 684
警察施設 1,502 1,208 294 65 173 56
消防施設 4,136 3,115 1,021 61 194 766
9,493 6,681 2,812 447 859 1,506

構造体について耐震化対策が完了していない建築物は、全体で2,812棟となっており、このうち1,497棟は庁舎施設の建築物である。そして、耐震診断の結果、耐震改修等が必要とされた建築物であって耐震改修等を行っていないため大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値0.3未満の建築物が447棟見受けられ、このうち321棟は庁舎施設の建築物となっている。施設別にみた構造体の耐震化率も庁舎施設が61.2%と最も低い値となっており、庁舎施設の耐震化対策の遅れが顕著となっている。また、耐震診断を実施しておらず耐震性能が不明な建築物が1,506棟ある。

構造体の耐震診断の結果、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされるIs値0.3未満の建築物であるのに耐震改修を実施していない事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-庁舎1>

A府B市役所本庁舎(新館)は、昭和46年に建設され、B市地域防災計画において災害対策本部を設置する予定の建築物として位置付けられている。また、B市は、同庁舎を災害対策の指揮命令中枢機能施設とも位置付けており、耐震診断の際に用いる構造耐震判定指標の割増しについて、防災上重要な拠点に対して用いられることが多い1.5倍を採用し、構造耐震判定指標をIs値0.9としている。

そして、B市は、同庁舎が旧耐震基準に基づく建築物であることから耐震診断を実施したところ、同庁舎のIs値は構造耐震判定指標を大幅に下回る0.3未満となっていて、大規模地震で倒壊等の危険性が高いとされる建築物であると診断され、耐震性能が確保されていない状況となっている。

しかし、B市によると、現在のところ建替えを前提とした耐震化対策の検討は行っているものの、財政的な理由が障害となって具体的な計画はないとしている。

エ 耐震化対策が完了していない理由

庁舎施設等の建築物のうち旧耐震基準に基づく建築物について、耐震診断を実施していなかったり、耐震診断の結果、耐震性能が確保されておらず耐震改修等が必要とされたのに耐震改修等を実施していなかったりする理由は、図表4-8のとおりである。

図表4-8 耐震化対策が完了していない理由

(単位:百万円)
区分 耐震化対策が完了していない理由(複数回答)
既に予算化 されてお り、平成25 年度までに 実施予定で あるため 移転、建 替、廃止等 が決定して いるため 教育施設の 耐震化対策 を優先して いるため 構造体の耐 震化対策を 優先してい るため 予算の制約
があるため
耐震化対策 に係る計画 が途中で凍 結している ため 技術者が足 りない、業 務が多忙で あるなど、 業務上の制 約があるた め その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
構造体 庁舎施設 196 379 490 531 86 65 71
警察施設 54 115 10 89 3 5 11
消防施設 98 368 90 375 29 24 74
348 862 590 995 118 94 156
建築非構造部材 庁舎施設 78 340 458 762 582 41 62 78
警察施設 9 73 10 433 46 0 0 45
消防施設 56 350 115 595 428 25 32 91
143 763 583 1,790 1,056 66 94 214
建築設備 庁舎施設 84 349 454 764 573 37 57 78
警察施設 7 78 10 437 42 0 0 45
消防施設 53 347 120 626 425 24 31 110
144 774 584 1,827 1,040 61 88 233

構造体の耐震化対策が完了していない理由について施設の別にみると、庁舎施設については、「予算の制約があるため」が最も多く、次に「教育施設の耐震化対策を優先しているため」となっている。警察施設については、「移転、建替、廃止等が決定しているため」が最も多く、消防施設については、「予算の制約があるため」が最も多くなっている。

また、建築非構造部材及び建築設備の耐震化対策が完了していない理由については、庁舎、警察及び消防の各施設とも「構造体の耐震化対策を優先しているため」が最も多くなっており、地方公共団体が構造体に対する耐震化対策を優先している傾向が見受けられる。

オ 業務継続の観点からみた建築物の耐震化の状況

大規模な地震災害が発生した際、地方公共団体は災害応急活動及び災害からの復旧・復興活動の主体として重要な役割を担うことになり、庁舎施設等はこれらの活動の拠点として重要な施設であることから、前記のように、多くの地方公共団体が、庁舎施設等の建築物に対して確保すべき耐震性能の割増しを行っている。また、防災基本計画によると、地方公共団体は、発災後速やかに、職員の非常参集及び情報収集連絡体制の確立を行うとともに、災害対策本部を設置するなど必要な体制をとるものとされている。そこで、庁舎施設等の耐震性能の割増しの状況からみた耐震化率、災害対策本部を設置する予定の建築物の耐震性能等について分析を行った。

上記のほか、防災基本計画によると、国、地方公共団体等の防災関係機関は、災害発生時の応急対策等の実施や優先度の高い通常業務の継続のため、業務継続性の確保を図る必要があるとされている。そして、内閣府は、地方公共団体における発災時を想定した業務継続計画の策定促進に必要な検討を進め、平成22年4月に、業務継続体制に係る検討を支援することを目的として「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」(以下「業務継続の手引」という。)を策定し、地震発災時における業務継続体制を確立するよう地方公共団体に求めている。また、前記のように、指定行政機関の防災業務計画において、防災拠点となる庁舎施設等については、代替施設の整備、通信手段の多様化及び非常用電源に留意することなどが求められている。そこで、防災拠点となる庁舎施設等における業務継続体制の確立の状況、代替施設の整備の状況等についても分析を行った。

(ア) 構造体の耐震性能の割増しの状況からみた耐震化率

庁舎施設等の建築物における構造体の耐震性能の割増しの状況からみた耐震化率は、図表4-9のとおりである。

図表4-9 構造体の耐震性能の割増しの状況からみた耐震化率

区分 対象建築物 (A) 割増しによる耐震性能を確保している建
築物 (B)
割増しによる耐震化率(B)/(A)
割増し
1.5倍の
建築物
割増し
1.25倍
の建築
その他
の割増
しの建
築物
割増し
なしの
建築物
割増し
1.5倍の
建築物
割増し
1.25倍
の建築
その他
の割増
しの建
築物
割増し
なしの
建築物
割増し
1.5倍の
建築物
割増し
1.25倍
の建築
その他
の割増
しの建
築物
割増し
なしの
建築物
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (%) (%) (%) (%) (%)
庁舎施設 2,181 413 616 154 998 1,164 216 299 67 582 53.4 52.3 48.5 43.5 58.3
警察施設 1,502 601 576 31 294 835 340 270 16 209 55.6 56.6 46.9 51.6 71.1
消防施設 4,136 1,270 996 254 1,616 2,472 791 565 91 1,025 59.8 62.3 56.7 35.8 63.4
7,819 2,284 2,188 439 2,908 4,471 1,347 1,134 174 1,816 57.2 59 51.8 39.6 62.4

耐震性能の割増しの別にみた耐震化率は、1.5倍の建築物で59.0%、1.25倍の建築物で51.8%などとなっている。

(イ) 災害対策本部の設置場所の建築物の耐震性能等及び業務継続計画の策定状況等

災害対策本部の設置場所の建築物の新耐震基準に基づく耐震性能等は、図表4-10のとおりである。

図表4-10 災害対策本部の設置場所の建築物の耐震性能等

区分 地方公共団体数
災害対策本部の設
置場所を特定して
おり、当該建築物
の耐震性能を確保
している地方公共
団体
(A)+(B)
災害対策本部の設
置場所を特定して
いるものの、当該
建築物の耐震性能
を確保していない
地方公共団体
(A)
災害対策本部の設
置場所を特定して
いない地方公共団

(B)
(団体) (団体) (団体) (団体) (団体)
都道府県 44 35 9 2 7
市町村 1,615 665 950 405 545

44都道府県及び1,615市町村のうち、災害応急対策等を実施するための災害対策本部の設置場所を特定しており、当該建築物の耐震性能を確保している地方公共団体は、35都道府県及び665市町村となっている。そして、2都道府県及び405市町村においては、災害対策本部の設置場所を特定しているものの、当該建築物の耐震性能を確保しておらず、地震によってこれらの建築物が被災する可能性が高くなっている。7都道府県及び545市町村においては、地域防災計画等に、災害対策本部の設置場所を特定していなかったり、災害時に被災していない適当な施設に設置するなど漠然とした想定となっていたりなどしており、発災時に災害対策本部の設置が遅れる可能性が高くなっている。

また、業務継続の手引によると、「業務継続計画とは、ヒト、モノ、情報及びライフライン等利用できる資源に制約がある状況下において、応急業務及び継続性の高い通常業務(以下「非常時優先業務」という。)を特定するとともに、非常時優先業務の業務継続に必要な資源の確保・配分や、そのための手続きの簡素化、指揮命令系統の明確化等について必要な措置を講じることにより、大規模な地震発災時にあっても、適切な業務執行を行うことを目的とした計画である」とされている。

そして、地方公共団体における業務継続計画の策定状況及び災害対策本部の設置場所の建築物の耐震性能等との関連についてみると、図表4-11のとおりとなっている。

図表4-11 地方公共団体における業務継続計画の策定状況等

区分 地方公共団体数
業務継続計画の策定
状況
災害対策本部の設置場所を特
定しており、当該建築物の耐
震性能を確保している地方公
共団体
災害対策本部の設置場所を特
定しているものの当該建築物
の耐震性能を確保していない
又は災害対策本部の設置場所
を特定していない地方公共団
業務継続計画の策定
状況
業務継続計画の策定
状況
策定済み
(A)+(C)
未策定
(B)+(D)
策定済み
(A)
未策定
(B)
策定済み
(C)
未策定
(D)
(団体) (団体) (団体) (団体) (団体) (団体) (団体) (団体) (団体)
都道府県 44 27 17 35 23 12 9 4 5
市町村 1,615 129 1,486 665 73 592 950 56 894

業務継続計画の策定状況についてみると、策定済みの地方公共団体は、27都道府県及び129市町村にとどまっている状況である。

そして、災害応急対策等を実施することとなる災害対策本部の設置場所を特定しており、当該建築物の耐震性能を確保している35都道府県及び665市町村のうち23都道府県及び73市町村においては、地震発災時における業務継続性を確保するための業務継続計画についても策定している。

一方、災害対策本部の設置場所を特定しているものの、当該建築物の耐震性能を確保していなかったり、災害対策本部の設置場所を特定していなかったりしている9都道府県及び950市町村のうち5都道府県及び894市町村においては、業務継続計画についても策定していない状況である。これらの地方公共団体においては、災害対策本部となる建築物が被災したり、災害対策本部の設置に時間を要したりする可能性が高い上に、業務継続計画を策定していないため、非常時優先業務の執行に支障が生ずる可能性がより高くなっていると考えられる。

(ウ) 業務継続計画を策定していない理由等

業務継続計画を策定していない理由等については、図表4-12のとおりである。

図表4-12 業務継続計画を策定していない理由等

区分 業務継続計画を策定していない理由等
具体的な時期
を設定した上
で、策定に向
けた作業を
行っているた
具体的な時期
は設定してい
ないが、策定
に向けた作業
を行っている
ため
業務継続計画
を策定する必
要がないと判
断していたた
めであるが、
東日本大震災
を契機に、策
定の必要性を
認識し、検討
を始めたため
地域防災計画
の修正等の作
業を優先して
いるため
業務継続計画
を策定するノ
ウハウがない
ため
業務継続計画
を策定しなく
ても不都合は
なく、今後も
策定する予定
はないため
法令等で策定
が義務付けさ
れていないこ
とから、今後
も策定する予
定はないため
その他
(件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
都道府県 7 4 1 4 0 0 0 1
市町村 151 249 111 760 114 41 33 27
158 253 112 764 114 41 33 28

業務継続計画を策定していない理由等についてみると、「地域防災計画の修正等の作業を優先しているため」としている地方公共団体が大半を占めているほか、「業務継続計画を策定するノウハウがないため」とする地方公共団体も少なからずあり、多くの地方公共団体において、業務継続計画を策定するための人員や知見が不足していることが業務継続計画の策定率が低くなっている要因であると考えられる。

地震発災時における業務継続性を確保するため、業務継続計画を策定した地方公共団体の事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-庁舎2>

東京都新宿区は、地域防災計画において、災害対策本部を本庁舎(昭和41年建設)に設置する予定としているが、平成24年6月に同庁舎の耐震診断を実施したところ、Is値が構造耐震判定指標を大幅に下回る結果となったことから緊急対策として仮補強工事を実施し、また、27年11月を目途に恒久的な耐震化対策を完了する予定であるとしている。一方、同区は、震災時における業務継続性を確保するため、22年7月に「新宿区事業継続計画(地震編)」を策定しており、同計画において、災害対策本部の代替施設として、8年に建設された区立防災センターを指定するなどの取組を実施している。

また、地方公共団体は、大規模災害時には膨大な災害応急業務に対応するとともに、継続すべき通常業務にも対応しなければならないが、その一方で、庁舎の被害や職員の被災等の影響により行政機能が大幅に低下する事態が想定される。このような事態における業務継続性の確保に関する先進的な取組として、他の地方公共団体等から応援を受けた場合に、その応援を最大限に生かすための計画(以下「受援計画」という。)の策定を行った地方公共団体がある。

受援計画を策定した地方公共団体の事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-庁舎3>

兵庫県神戸市は、平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災では他から応援を受ける側として、また、23年3月に発生した東日本大震災では被災地を応援する側として得た経験と教訓を基に、大規模災害時に他の地方公共団体等からの応援を最大限に生かすことを目的として、「神戸市災害受援計画」を25年3月に策定している。同市は、応援を必要とする業務や受入れ体制等を明確にするため、同計画において、応援受入本部の設置や受援担当者の指定、応援者に求める経験・資格等の指定、民間に協力を求めることが可能な業務の選定等について定めている。

(エ) 代替施設の設定状況等

庁舎施設等のうち、防災拠点となる建築物に対する代替施設の設定状況等は、図表4-13のとおりである。

図表4-13 代替施設の設定状況等

区分 防災拠点となる建築物
代替施設の設定あり 代替施設の設定なし
代替施設が耐
震性能を確保
している
代替施設が耐
震性能を確保
していない
うち防災拠点
となる建築物
の耐震性能を
確保していな
うち防災拠点
となる建築物
の耐震性能を
確保していな
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
庁舎施設 2,181 1,023 862 161 78 1,158 325
都道府県 323 52 41 11 4 271 45
市町村 1,858 971 821 150 74 887 280
警察施設 1,502 657 380 277 51 845 154
警察本部 251 72 68 4 0 179 34
警察署 1,251 585 312 273 51 666 120
消防施設 4,136 216 188 28 11 3,920 969
消防本部 704 82 67 15 6 622 141
消防署等 3,432 134 121 13 5 3,298 828
7,819 1,896 1,430 466 140 5,923 1,448
(注)
都道府県別については別表4-5を参照

代替施設を設定していない建築物のうち耐震性能を確保していない建築物は、庁舎施設で325棟、警察施設で154棟、消防施設で969棟となっている。これらの建築物を所有する地方公共団体においては、当該建築物が被災するなどした場合には、災害応急活動等に支障が生ずる可能性が高くなっていると考えられる。

一方、代替施設の設定に当たり、警察施設及び消防施設については、その職務や機能上の制約が多いと考えられる。

(オ) 災害時優先電話の設置及び通信手段の多重化の状況

庁舎施設等の建築物のうち、防災拠点となる建築物における災害時優先電話(各電気通信事業者が提供している災害時等でも通信制限を受けず発信等を行うことができる電話のこと)の設置状況及び衛星携帯電話の配備等の通信手段の多重化の状況は、図表4-14のとおりである。

図表4-14 災害時優先電話の設置及び通信手段の多重化の状況

区分 防災拠点となる建築物
(A) 災害時優先電話を設置している建築物 通信手段の多重化を図っている建築物
(B) (B)/(A) (C) (C)/(A)
(棟) (棟) (%) (棟) (%)
庁舎施設 2,181 1,835 84.1 1,214 55.7
警察施設 1,502 1,225 81.6 920 61.3
消防施設 4,136 3,496 84.5 1,159 28
7,819 6,556 83.8 3,293 42.1

災害時優先電話の設置状況についてみると、庁舎施設で84.1%、警察施設で81.6%、消防施設で84.5%となっている。また、防災行政無線、警察無線、消防無線等の通常業務に使用する通信手段のほか、衛星電話等の非常用の通信手段を確保することにより通信手段の多重化を図っているものは、庁舎施設で55.7%、警察施設で61.3%、消防施設で28.0%となっていて、災害時優先電話の設置状況に比べて低く、その中でも消防施設の多重化の状況が著しく低くなっている。

(カ) 自家発電設備の設置状況

庁舎施設等のうち、防災拠点となる建築物における自家発電設備の設置状況(設置の有無、連続運転可能時間及び津波の浸水高さに対する設置高さ)は、図表4-15のとおりである。

図表4-15 自家発電設備の設置状況

区分 防災拠点となる建築物(A)
自家発電設備を設置している建築物(B)
自家発電設備の連続運転可能時間 津波の浸水想定
72時間以上
(C)
24時間以上72時間
未満
(D)
24時間未満
(E)
不明
(F)
自家発電設備が津
波の浸水想定区域
にない建築物
(G)
自家発電設備が津
波の浸水想定より
高い位置にある建
築物 (H)
自家発電設備が津
波の浸水想定より
低い位置にある建
築物 (I)
(B)/(A) (C)/(B) (D)/(B) (E)/(B) (F)/(B) (G)/(B) (H)/(B) (I)/(B)
(棟) (棟) (%) (棟) (%) (棟) (%) (棟) (%) (棟) (%) (棟) (%) (棟) (%) (棟) (%)
庁舎
施設
2,181 1,638 75.1 341 20.8 374 22.8 874 53.4 49 3 1,386 84.6 143 8.7 109 6.7
警察
施設
1,502 1,298 86.4 284 21.9 235 18.1 774 59.6 5 0.4 1,167 89.9 43 3.3 88 6.8
消防
施設
4,136 2,643 63.9 274 10.4 536 20.3 1,744 66 89 3.4 2,053 77.7 435 16.5 155 5.9
7,819 5,579 71.4 899 16.1 1,145 20.5 3,392 60.8 143 2.6 4,606 82.6 621 11.1 352 6.3
(注)
都道府県別については別表4-6を参照

自家発電設備の設置の有無についてみると、庁舎施設で75.1%、警察施設で86.4%、消防施設で63.9%となっている。一方、自家発電設備の連続運転時間についてみると、24時間未満のものが60.8%と最も多くなっており、一般的に災害時における業務継続性確保のために必要であると考えられる72時間以上のものは16.1%にとどまっている。

また、自家発電設備を設置している庁舎のうち想定される津波の浸水高さより低い位置に自家発電設備が設置されているものが、庁舎施設で6.7%(109棟)、警察施設で6.8%(88棟)、消防施設で5.9%(155棟)と少なからず見受けられる。

自家発電設備が津波の浸水高さより低い位置に設置されている事例を示すと次のとおりである。

<事例-庁舎2>

A県B市役所本庁舎(行政棟)は、平成4年に建設され、B市地域防災計画において災害対策本部を設置する予定の建築物として位置付けられている。しかし、同庁舎はA県が指定する津波浸水想定地域に建設されていて0.01m以上0.3m未満の浸水が想定されていることから、地下1階に設置されている自家発電設備は津波により浸水するおそれがある。このような状況について、B市は、地下への開口部である駐車場へのスロープ上部(地上部分)へ土のうを積み上げ、地下への浸水を防ぐなどの措置を執ることにより自家発電設備の機能は確保できるとしている。

(4) 東日本大震災に伴う被災等の状況

ア 東北3県の被災の状況

(ア) 庁舎施設の被災の状況

岩手県管内の状況は、岩手県が作成した資料によると、9市町村において庁舎施設に何らかの被害があり、このうち4市町において庁舎施設が全壊している。これら9市町村は沿岸部に位置している。

宮城県管内の状況は、宮城県が作成した資料によると、県が所有する施設については、地方合同庁舎2棟が内装の破損、汚損が甚大であるなどのことから解体されており、本庁舎等12棟に何らかの被害が生じている。市町村が所有する施設については、35市町村において何らかの被害が生じている。

福島県管内の状況は、福島県が作成した資料によると、県が所有する施設については、合同庁舎等2棟が使用中止となる被害が生じており、県庁舎等8棟に何らかの被害が生じている。市町村が所有する施設については5市町において庁舎が被災し、その全部又は一部が使用できなくなる被害が生じている。

(イ) 警察施設の被災の状況

平成24年度版警察白書(国家公安委員会・警察庁編)によると、宮城、福島両県の警察本部に被害が生じている。また、岩手県内の14警察署、宮城県内の24警察署、福島県内の20警察署、計58警察署に被害が生じている。

(ウ) 消防施設の被災の状況

消防庁が取りまとめた「東日本大震災による消防職員・消防本部等の被害状況」によると、岩手県内の18棟、宮城県内の76棟、福島県内の66棟、計160棟の消防施設が被災しており、この内訳についてみると、全壊が16棟、半壊が11棟、一部損傷が133棟となっている。

イ 44都道府県の被災等の状況

分析の対象とした庁舎施設等の建築物のうち、15都道府県(注10)における建築物625棟が東日本大震災により被災している。また、東日本大震災を原因として、24年12月31日までに取り壊されたり用途廃止されたりしたため、耐震化対策等の状況の分析の対象としなかった建築物(以下「廃止等建築物」という。)が5都県(注11)で28棟ある。これらの建築物の被災等の状況は、次のとおりである。

(ア) 被災等の概要

庁舎施設等の被災等の状況は、図表4-16のとおりである。

図表4-16 庁舎施設等の被災等の状況

区分 被災した建築物 左の建築物の復旧工事の状況 被害のあった都道府県
主な被災の要因 実施済 実施中 未着手
(廃止予定
を含む)
地震動 津波 液状化
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
庁舎
施設
319 316 1 2 227 12 80 東京都、大阪府、青森、秋田、山形、
茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈
川、山梨、長野、静岡各県
計14都府県
警察
施設
85 85 0 0 78 0 7
山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千
葉、神奈川各県
計7県
消防
施設
221 215 2 4 125 6 90
東京都、北海道、青森、山形、茨城、
栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川各県
計10都道県
625 616 3 6 430 18 177 東京都、北海道、大阪府、青森、秋
田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、
千葉、神奈川、山梨、長野、静岡各県
計15都道府県
(注)
都道府県別については別表5を参照

構造体、建築非構造部材又は建築設備のいずれかが被災した建築物は15都道府県において625棟あり、この内訳は庁舎施設で319棟、警察施設で85棟、消防施設で221棟となっている。これらの建築物が被災した主な要因を地震動、津波、液状化の別に分類すると、地震動によるものが616棟、津波によるものが3棟、液状化によるものが6棟であり、ほとんどが地震動によるものとなっている。また、これらの建築物の復旧等の状況については、復旧工事実施済みのものが430棟、実施中のものが18棟、未着手(廃止予定の場合を含む)のものが177棟となっている。

(イ) 構造体、建築非構造部材及び建築設備の被災の状況

庁舎施設等の建築物の構造体、建築非構造部材及び建築設備の被災の状況は、図表4-17のとおりである。

図表4-17 構造体、建築非構造部材及び建築設備の被災の状況

区分 被災した建築物
新耐震基準に基づく
耐震性能を確保して
いる建築物
新耐震基準に基づく
耐震性能を確保して
いない建築物
(棟) (棟) (棟)
構造体 130 61 69
うち損傷したもの 7 1 6
うち一部損傷したもの 123 60 63
建築非構造部材 外装材 195 92 103
建具 179 100 79
天井材 158 91 67
延べ計 532 283 249
建築設備 電力供給設備 18 10 8
照明設備 50 29 21
通信連絡設備 14 5 9
自家発電設備 14 8 6
延べ計 96 52 44
(注)
建築非構造部材及び建築設備の棟数は、重複しているものがある。

構造体が被災した建築物は130棟あり、これらの被災の状況は、全半壊した建築物はなく、損傷した建築物が7棟となっていて、これら7棟の建築物は、倒壊等の危険性があることなどから人命を考慮して使用を中止している。

構造体が被災した建築物のうち、新耐震基準に基づく耐震性能を確保している建築物は61棟、新耐震基準に基づく耐震性能を確保していない建築物は69棟となっている。

構造体が被災し、使用を中止した建築物の事例を示すと次のとおりである。

<事例-庁舎3>

A県B市役所本庁舎は、昭和47年に建設された地上6階地下1階の鉄筋コンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)の建築物であり、B市地域防災計画において災害対策本部を設置する予定の建築物として位置付けられている。B市は、同庁舎が旧耐震基準に基づく建築物であることから平成8年に耐震診断を実施したところ、Is値が構造耐震判定指標を大幅に下回る結果となったことから、耐震化対策を検討していた。

B市内における東北地方太平洋沖地震の震度は、6弱が観測されており、同庁舎は地震動により構造体に損傷が生じ、B市は、職員及び市民の安全確保のため同庁舎の使用を中止した。そして、B市は、国土交通省監修の震災建築物の被災度区分判定基準に基づき同庁舎の被災状況を診断した結果、同庁舎は耐震化対策がなされるまで使用禁止と判定された。25年2月の会計実地検査時点においては、仮設庁舎の整備、既存施設の活用、民間ビルの借り上げ等により本庁舎等の機能を7箇所に分散して事務を行っている状況であった。

なお、B市は、25年2月に、同庁舎を解体し現在地へ新庁舎を建設する方針を決定している。

建築非構造部材が被災した建築物は延べ532棟あり、このうち、新耐震基準に基づく耐震性能を確保している建築物は延べ283棟、新耐震基準に基づく耐震性能を確保していない建築物は延べ249棟となっている。

建築設備が被災した建築物は延べ96棟あり、このうち、新耐震基準に基づく耐震性能を確保している建築物は延べ52棟、新耐震基準に基づく耐震性能を確保していない建築物は延べ44棟となっている。

新耐震基準に基づく耐震性能を確保しているものの、建築非構造部材及び建築設備が被災した建築物の事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-庁舎4>

大阪府咲洲庁舎は、平成7年に新耐震基準に基づき建設された地上55階、地下3階の鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造)の建築物であり、同府の本庁機能の一部が入居している。同庁舎が所在する大阪市内においては東北地方太平洋沖地震で震度3が観測されているが、同庁舎は、長周期地震動(固有周期が長い超高層建物と共振する性質があるとされる揺れ)の影響とみられる大きな揺れに襲われ、内装材や防火戸等の一部で破損が見られたほか、エレベータロープの絡まりによるエレベータの停止や閉じ込め事象が発生した。梁、柱等の構造体については、超音波探傷検査等により調査を行った結果、損傷は認められなかった。

同府は、損傷があった内装材等について緊急補修工事を実施し、23年5月までに完了した。また、建物自体が倒壊・崩壊するおそれはないものの、長周期地震動の揺れを軽減し建築物内部の安全性を高めるため、25年度までにダンパー(制振部材)を設置するなどの改修工事を実施することとしている。

(ウ) 廃止等建築物の被災の状況

廃止等建築物の被災状況は、図表4-18のとおりである。

図表4-18 廃止等建築物の被災状況

区分 廃止等建築物 左の建築物の被災の状況 被害のあった都道府県
主な被災の要因 全半壊 損壊 一部損壊
地震動 津波 液状化 火災
(棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟) (棟)
庁舎施設等
の建築物
28 27 1 0 0 6 13 9 東京都、茨城、栃木、
埼玉、千葉各県
計5都県

廃止等建築物は5都県において28棟あり、このうち27棟の被災の主な要因は地震動によるものである。これらの被災の状況は、全半壊が6棟、損傷が13棟、一部損傷等が9棟となっている。

廃止等建築物の事例を示すと次のとおりである。

<事例-庁舎4>

A県B市役所本庁舎、第2庁舎及び第3庁舎は、それぞれ昭和33年、41年及び56年に建設された建築物であり、B市地域防災計画によると、いずれかの庁舎に災害対策本部を設置する予定としている。しかし、B市は、教育施設の耐震化対策を優先していたことから、平成23年3月時点において、旧耐震基準に基づく建築物である各庁舎の耐震診断を実施していなかった。

B市内における東北地方太平洋沖地震の震度は、6強が観測されており、各庁舎は地震動により被災した。B市は、各庁舎の危険度を調査した結果、立ち入ることが危険であるとの判定であり、その後、各庁舎とも使用不可と判断し解体した。25年2月の会計実地検査時点においては、プレハブ造の仮設庁舎4棟で事務を行っている状況であった。

なお、B市は、新庁舎の28年度の完成を目標とする基本構想を策定している。

<事例-庁舎5>

A県B市役所本庁舎は、昭和37年に建設された地上5階地下1階の鉄筋コンクリート造の建築物であり、B市地域防災計画において災害対策本部を設置する予定の建築物と位置付けられている。B市は、同庁舎が旧耐震基準に基づく建築物であることから平成17年度に耐震診断を行ったところ、構造耐震判定指標を大幅に下回る結果となっていて、大規模地震で倒壊等の危険性が高い建築物であると診断されたことから耐震化対策を検討していた。

B市内における東北地方太平洋沖地震の震度は、5弱が観測されており、同庁舎は地震動により構造体が損傷するなどの被害が生じた。B市は、地震の翌日である23年3月12日に同庁舎の危険度を調査した結果、立ち入る場合は十分注意が必要であるとの判定であったことから同庁舎内への立ち入りを禁止した。その後、同年10月に国土交通省監修の震災建築物の被災度区分判定基準に準じて同庁舎の被災状況を診断した結果、詳細調査を行い復旧の要否を検討するものと判定されたことなどから耐用年数、耐震改修工事費等について総合的な検討を行い、B市は、同庁舎の継続使用は不可と判断し24年度に同庁舎を解体した。25年5月の会計実地検査時点では、既存施設の活用等により本庁舎機能を分散して事務を行っている状況であった。

なお、B市は、会計実地検査時点において、新庁舎の建設に関する基本構想を策定し、27年度の完成を目標として整備手法等の検討を行っていた。

(エ) 災害応急活動への支障

庁舎施設等の建築物が被災したことにより、情報収集、他機関との連絡調整等の災害応急活動に支障があった建築物は、図表4-19のとおりである。

図表4-19 庁舎施設等の被災の災害応急対策への支障

区分 被災によ
り災害応
急活動に
支障を生
じた建築
被災により災害応急活動に支障を生じた要因(複数回答)
外装材の
損傷によ
るもの
建具の損
傷による
もの
天井材の
損傷によ
るもの
電力供給
設備の損
傷による
もの
照明設備
の損傷に
よるもの
通信連絡
設備の損
傷による
もの
自家発電
設備の損
傷による
もの
ライフラ
インの途
絶による
もの
その他
(棟) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件) (件)
庁舎施設等
の建築物
74 4 11 8 3 3 6 8 53 12

被災により災害応急活動に支障を生じた建築物は74棟となっていて、支障を生じた要因で最も多かったのはライフラインの途絶によるものの53件である。

庁舎施設等において、建築物が被災したことにより、災害応急活動に支障が生じた事例を示すと次のとおりである。

<事例-庁舎6>

A県B市役所本庁舎は、昭和38年に建設された地上3階の鉄筋コンクリート造の建築物であり、B市地域防災計画において災害対策本部を設置する予定の建築物として位置付けられている。しかし、B市は、教育施設の耐震化対策を優先していたことから、平成23年3月時点において、旧耐震基準に基づく建築物である本庁舎の耐震診断を実施していなかった。

B市内における東北地方太平洋沖地震の震度は、6強が観測されており、本庁舎は、地震動により、柱、梁等にひび割れが発生したり、階段が損傷して崩落のおそれがあったり、ほとんどの窓ガラスが破損、飛散したりなどしたため、B市は、本庁舎での業務は危険と判断して使用を中止し、災害対策本部を被災を受けなかった別の庁舎(新耐震基準に基づく建築物)に設置した。

B市によると、災害対策本部を設置することを予定していた本庁舎が被災したことにより、災害対策本部の設置及び災害応急活動の体制の確立に時間を要したとしている。また、情報通信機器を本庁舎に設置していたため、国及び県との情報交換並びに市民への情報伝達に支障が生じたとしている。

なお、B市は、25年5月の会計実地検査時点において、仮設庁舎の整備、既存施設の活用等により本庁舎機能を分散して事務を行っている状況であり、本庁舎を解体し29年度の完成を目標として改築することとする基本構想に基づき、整備手法等の検討を行っていた。

(注10)
15都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、山梨、長野、静岡各県
(注11)
5都県  東京都、茨城、栃木、埼玉、千葉各県