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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書 |
  • 平成25年10月 |
  • 公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果について

第2 検査の結果


1 地震・津波に対する耐震基準等の改定状況

(1) 耐震基準の改定状況等

地震発生に伴う公共土木施設等が受ける構造上の被害は、地震動、液状化及び津波が主な要因となっている。そして、公共土木施設等の耐震基準においては、これまで過去の震災等における被災状況等を踏まえた見直しが行われてきているところであり、これらの要因に対 して要求される耐震性能等を確保する照査方法等が定められ、地震動をレベル1地震動(注14)及びレベル2地震動(注15)の2段階とする規定、地盤の液状化の発生を判定する規定等が導入されるなど、必要に応じて改定が行われている。

東日本大震災においては、従来の想定を上回る公共土木施設等の被害が発生しており、これを踏まえて、各事業の施設の耐震基準の見直しが行われている。そして、その内容については24年報告により報告したところであり、多くの施設の耐震基準が改定されているが、中には、改定が予定されている耐震基準も見受けられた。

そこで、25年次は、24年報告以降の耐震基準の改定状況等についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(注14)
レベル1地震動  構造物の供用中に1、2度発生する確率を持つ地震動
(注15)
レベル2地震動  現在から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さを持つ地震動

ア 海岸事業

国土交通省、農林水産省及び水産庁(以下、これらを合わせて「海岸関係省庁」という。)は、「水門・陸閘等の効果的な管理運用検討委員会」の検討結果を踏まえて、水門・陸閘等を閉鎖するための設備、体制、運用等に関する必要事項をまとめた「津波・高潮対策における水門・陸閘等管理システムガイドライン」(平成18年国河海第6号等国土交通省河川局砂防部保全課海岸室長等連名通知)を25年4月に改訂し、閉鎖施設の閉鎖操作者の安全確保が最優先であることを明確化していた。また、国土交通省は、都道府県の津波浸水想定の設定に資するために、24年10月に津波浸水想定を設定するのに有効な手法である津波シミュレーションやその活用方法をまとめた「津波浸水想定の設定の手引き」を作成していた。

イ 道路整備事業

国土交通省が共通仕様書等において土工構造物の設計の基準となる図書として位置付けている道路土工要綱及び道路土工指針(社団法人日本道路協会編。以下、これらを合わせて「道路土工指針類」という。)は24年8月に改訂され、橋りょう取付け部及び構造物周辺部の軟弱地盤対策の検討並びに道路盛土部の盛土材の液状化対策についての規定が導入されており、同省は、改訂された道路土工指針類について、地方整備局等に周知していた。

ウ 港湾整備事業

国土交通省は、港湾施設に関する技術上の基準である「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(国土交通省港湾局監修。以下「港湾技術基準」という。)に対して付加的に考慮すべき点を取りまとめた「防波堤の耐津波設計ガイドライン(案)」を25年1月に作成し、防波堤について、天端高等の基本的な断面構造の設計に当たって設定する設計津波に対する耐津波設計、設計津波を超える津波に対する粘り強い構造等についての考え方を導入していた。

エ 農業農村整備事業

農林水産省は、食料・農業・農村政策審議会農業農村振興整備部会技術小委員会(以下「小委員会」という。)の審議等を踏まえて、国営土地改良事業の工事の設計及び施工の基準に関する訓令(昭和44年農林省訓令第26号)の適切な解釈に資するなどのために作成した頭首工(注16)、ポンプ場、ファームポンド(注17)、ため池等の施設ごとの土地改良事業計画設計基準等(以下「農業設計基準等」という。)を25年3月に一部改訂し、ため池の設計において、重要度の高いため池についてレベル2地震動に対する耐震性能の照査を行う規定を追加していた。そして、農林水産省は、引き続き見直しを行い、農業設計基準等の改訂を検討する予定としている。

(注16)
頭首工  河川から必要な農業用水を用水路に引き入れるための施設
(注17)
ファームポンド  かんがい用水を調整、配水するための農業用貯水施設

オ 集落排水事業

農林水産省は、大規模災害における農業集落排水施設のあり方に関する検討会の検討結果等を踏まえて、24年3月に作成した「農業集落排水施設震災対応の手引き(案)」を25年3月に改訂し、汚水処理施設の電気設備等の転倒防止等のための対策の実施や有効な液状化対策工法の施工の留意点を追加して、「農業集落排水施設震災対応の手引き」として、都道府県を通じて関係市町村等に配布していた。また、この内容を反映して、同年4月に農業集落における集落排水施設の設計の基準である農業集落排水施設設計指針(平成19年農業集落排水事業諸基準等作成全国検討委員会作成。以下「農業集落排水設計指針」という。)の改訂を行っていた。

これらのことから、河川、海岸、道路整備、港湾整備、下水道、公園、漁港整備、農業農村整備、集落排水各事業の施設の耐震基準等の25年7月末現在における見直し状況は、図表-基準1のとおりとなっていた。

図表-基準1 東日本大震災を踏まえた耐震基準等の見直しの状況(平成25年7月末現在)

事業名 見直しの状況
地震対策 津波対策
通知、改定等の主な内容 通知、改定等の状況 通知、改定等の主な内容 通知、改定等の状況
河川事業 ・堤体の液状化対策の導入 平成24年2月に河川構造物の耐震性能照査指針(素)・同解説を改訂している。 ・河川管理における津波の位置付け、津波外力の扱いを明確化 弊政23年月に通知を発している。
海岸事業 ・海岸堤防等が防護対象としている規模の津波を生じさせる地震により、津波到達前に機能を損なわない耐震対策の導入 平成23年12月に通知を発している。 ・設計津波高の設定方法の見直し
・設計津波高を越えた場合でも施設の効果が粘り強く発揮できる構造とする考え方の導入
平成23年7月、同年12月に通知を発している。
・津波浸水想定を改定するのに有効なシミュレーションやその活用方法を提示 平成24年10月に津波浸水想定の設定の手引を作成している。
・閉鎖施設の閉鎖操作者の安全確保が最優先であることの明確化 平成25年4月に通知を発している。
道路整備事業 ・橋りょうの設計におけるレベル2地震動及び液状化の判定方法の見直し 平成24年2月に道路橋示方書を改訂している。 ・橋りょうの設計において地域防災計画上の津波対策を考慮する規定の導入 平成24年2月に道路橋示方書を改訂している。
・土工構造物の設計において、橋りょう取付け部及び構造物周辺部の軟弱地盤対策の検討の導入並びに道路盛土部の盛土材の液状化対策の導入 平成24年8月に道路土工指針類が改定されている。
港湾整備事業 ・地震動の継続時間を考慮した液状化予測及び判定方法の見直し 平成24年8月に液状化予測及び判定方法について港湾技術基準の一部改定を行っている。 ・防波堤について、設計津波に対する対津波設計、設計津波を超える津波に対する粘り強い構造等についての考え方の導入 平成25年1月に防波堤の対津波設計ガイドラインを作成している。
下水道事業 ・埋め戻し部の液状化対策としての施工管理上の問題と解決策の検討、工法の技術的な理解を向上させれうためのマニュアル等の充実化が必要 下水道地震・津波対策の技術検討委員会の取りまとめを踏まえ、平成25年度末までに、下水道施設のj耐震対策指針と解説が改訂されることになっている。 ・終末処理場の施設及び設備の防水化、津波の荷重及び侵入方向を考慮した施設構造の採用等の対策が必要 下水道地震・津波対策技術検討委員会の取りまとめを踏まえ、平成25年度末までに下水道施設の耐震対策指針と解説が改訂されることになっている。
公園事業 ・地震により公園施設の機能を喪失するような被害が生じていないことから、見直しは行っていない。 ・避難地となる公園は、避難階段、避難タワーの設置、津波避難ビルの指定等と合わせた配置計画とすることが必要
・避難地となる公園の津波の到達する方向に留意した整備の実施
平成24年3月に東日本大地震からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針を公表している。
漁港整備事業 ・防災上重要な漁港等において、設計津波が到来する前に施設の機能が損なわれないようにするため、重要度の高い防波堤や岸壁について発生頻度の高い津波を生じさせる地震動を設計対象に導入 平成24年4月に通知を発している。 ・津波に対して粘り強い構造にするために、防波堤の堤体の活動及び店頭抑制対策や基礎部分の洗掘防止対策、岸壁の堤体の傾斜抑制対策や前面の洗掘防止対策の実施 平成24年4月に通知を発している。
農業農村整備事業 ・農業用パイプラインの長時間に及ぶ地震動による影響の検証 小委員会の審議等を踏まえ、農業設計基準等の改訂を検討する予定としている。 ・ポンプ場について電気設備等の盤上げや耐水化対策の効果の検証 小委員会の審議等を踏まえ、農業設計基準等の改訂を検討する予定としている。
・ため池の設計において、重要度の高いため池についてのレベル2地震動に対する耐震性能の照査を追加 平成25年3月に農業設計基準等の一部改訂を行っている。引き続き小委員会の審議等を踏まえ、農業設計基準等の改訂を検討する予定としている。
集落排水事業 ・管路の設計において、地区全体の地質条件を把握し、埋戻し材料等の液状化の可能性について検討し必要な対策の実施
・有効な液状化対策工法の例示
平成24年3月に農業集落排水施設震災対応の手引(案)を配布している。 ・汚水処理施設の電気設備の高位部への設置や機械設備の機器部材に防錆材質の採用を検討 平成24年3月に農業集落排水施設震災対応の手引き(案)を配布している。
・汚水処理施設の電気設備等の転倒防止等のための対策の実施
・有効な液状化対策工法の施工の留意点を追加
平成25年3月に農業集落排水施設震災対応の手引きを配布している。25年4月に農業集落排水設計指針の改訂を行っている。
(注)
24年報告以降に見直されたものについては太字としている。

(2) 耐震基準の規定の準用及び改定状況

各事業の施設の耐震基準の規定は、必ずしもそれぞれの耐震基準において独自に定められている規定だけでなく、関連する他の事業の耐震基準の規定 (以下「準用元規定」という。)をそれぞれの施設の耐震基準の体系に照らし合わせて、準用して定められている規定(以下「準用規定」という。)もある。そのため、準用元規定が改定された場合には、これに合わせて、それぞれの耐震基準の準用規定の改定の要否について検討する必要がある。

そこで、耐震基準の規定の準用及び東日本大震災を踏まえた準用元規定の改定状況について、地震対策及び津波対策に関する規定別にみると次のとおりとなっていた。

ア 地震対策

(ア) 地震動の算定

河川、下水道、農業農村整備各事業の主要な施設の耐震基準においては、レベル2地震動の算定方法についての規定は、道路整備事業の道路橋示方書(平成13年国都街第91号及び国道企第126号国土交通省都市・地域整備局長及び道路局長連名通知ほか)の規定を準用するなどしている。そして、道路橋示方書における当該規定は東日本大震災を踏まえるなどして24年2月に改定が行われていた。

(イ) 液状化判定等

a 河川、下水道、農業農村整備、集落排水各事業の主要な施設の耐震基準においては、液状化の可能性を判定する判定式についての規定は道路橋示方書の規定を準用するなどしている。そして、道路橋示方書における当該規定は東日本大震災を踏まえるなどして24年2月に改定が行われていた。

b 漁港整備事業の耐震強化岸壁等の重要度の高い施設の耐震基準においては、液状化の可能性を判定する判定式についての規定は港湾整備事業の港湾技術基準の規定を準用するなどしている。そして、港湾技術基準における当該規定は東日本大震災を踏まえるなどして24年8月に改定が行われていた。

c 海岸事業の海岸堤防に係る耐震基準においては、海岸堤防の液状化対策は、信頼性のある適切な手法を用いることとされ、河川事業の河川堤防の耐震基準等における液状化対策の規定を準用する場合がある。そして、河川構造物の耐震性能照査指針(案)・同解説(平成19年国河治第190号国土交通省河川局治水課長通知。以下「H19河川耐震照査指針」という。)における当該規定については、東日本大震災を踏まえるなどして、24年2月に、従来考慮することとされていなかった堤体の液状化について検討することとする規定の追加等の改定が行われていた。

イ 津波対策

海岸事業の海岸堤防等の耐震基準においては、設計津波について、東日本大震災を踏まえるなどして、数十年から百数十年に一度程度の頻度で到達すると想定される津波を考慮して設定するなどの規定の追加等の改定が23年7月に行われており、また、河川事業の河川堤防の耐震基準においても当該改定に基づくなどして、津波遡上範囲の河川堤防について同様の改定が23年9月に行われていた。

そして、海岸事業の海岸堤防等の耐震基準においては、設計津波を生じさせる地震動に対して耐震対策を行うとの規定が上記の見直しに併せて、23年12月に追加されていた。

(3) 耐震点検の要領等の作成状況

国土交通省及び農林水産省は、耐震基準とは別に、既存の施設の耐震性能を把握するための耐震点検の要領等を作成するなどしている。そして、東日本大震災を踏まえて、河川事業及び道路整備事業において、新たに耐震点検の要領等が作成されていた(図表-基準2参照)。

図表-基準2 耐震点検の要領等の作成状況

事業名 施設名 耐震点検の要領等 作成年月 要領等の内容
河川事業 河川堤防 レベル2地震動に対する河川堤防の耐震点検マニュアル 平成24年2月 盛土による河川堤防におけるレベル2地震動に対する耐震点検の実施方法
道路整備事業 橋りょう 道路橋の震災時緊急点検・応急調査の手引き(案) 平成24年2月 地震発生後の橋りょうの安全性を限られた時間内での効率的に評価するための緊急点検の実施方法