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  • 第2  検査の結果

3 東日本大震災に伴う被災等の状況


(1) 東日本大震災における災害復旧に対する国の対応

東日本大震災における甚大な被害の発生状況に鑑みて、国はできるだけ早期に災害復旧を実施するために、被災地の負担が軽減 するよう様々な方策を講じている。

ア 災害査定の事務の簡素化

公共土木施設等の災害査定については、被災地の早期の復旧に向けて、事務の簡素化が図られている。阪神・淡路大震災、新潟県中越地震等においても事務の簡素化が図られているが、東日本大震災における簡素化は初めて実施されているものや、対象範囲がより拡大されているものがあるなど、大幅なものとなっている。

そして、その主な内容は、①原則として実地で行うものとしている査定について、書面で行うことができる範囲を拡大したり、②設計書に添付する図面を簡素化したり、③総合単価(注23)により積算ができる範囲を拡大したり、④被災箇所の一箇所の捉え方について、工期や規模により分割したり、一定の区域の被災を一箇所としたりできることとなっている。

(注23)
総合単価使用頻度の高い種別について、標準的な断面、数量等を用いて単位当たり(m、m2等)の工事費をあらかじめ積算した単価

イ 災害復旧事業等に係る工事の国等による代行

被災した地方公共団体の中には、壊滅的な被災を受け、早急な復旧が求められているにもかかわらず、災害復旧事業等に係る工事を十分に実施できない地方公共団体もある。

このような状況の下で、一刻も早い災害復旧を実現して、被災地における住民生活の安全、安心の確保や社会経済活動の速やかな回復を図るために、「東日本大震災による被害を受けた公共土木施設の災害復旧事業等に係る工事の国等による代行に関する法律」(平成23年法律第33号。以下「代行法」という。)等が制定された。そして、代行法等によれば、国等が被災した地方公共団体に代わり工事を代行する場合の要件は、県等から要請があり、県等の実施体制その他の地域の実情を勘案して必要と認められる場合となっている。

(2) 公共土木施設等の事業種別の被災状況等

災害査定は前記の方法等により実施されるが、決定された災害復旧事業の事業費(以下「査定決定額」という。)が災害復旧事業における公共土木施設等の復旧に必要な事業費となることから、査定決定額を被災額とみなして整理したところ、国土交通省及び農林水産省所管の公共土木施設等の事業種別の被災状況は、図表-被災1のとおりとなっており、全体で被災箇所数2万5千余箇所、被災額2兆8002億余円となっていた。

図表-被災1公共土木施設等の事業種別の被災状況

事業種別 直轄事業 補助事業 合計
被災箇所数 被災額(百万円) 被災箇所数 被災額(百万円) 被災箇所数 被災額(百万円)
河川事業 359 158,536 1,156 389,740 1,515 548,276
海岸事業 2 91,784 379 305,493 381 397,278
河川分 2 91,784 240 220,704 242 312,489
港湾分 - - 139 84,789 139 84,789
砂防事業 - - 41 1,380 41 1,380
道路整備事業 368 36,547 12,348 264,808 12,716 301,355
港湾整備事業 81 183,431 617 87,494 698 270,926
下水道事業 1,274 358,347 1,274 358,347
公園事業 2 548 442 13,302 444 13,851
国土交通省所管計 812 470,849 16,257 1,420,567 17,069 1,891,416
海岸事業 3 20,557 401 350,320 404 370,878
農地分 1 14,557 148 58,517 149 73,075
漁港分 2 6,000 253 291,803 255 297,803
治山事業 35 37,864 121 30,662 156 68,526
漁港整備事業 3 14,596 2,953 319,359 2,956 333,956
農業農村整備事業 10 51,212 4,788 67,370 4,798 118,582
集落排水事業 306 16,878 306 16,878
農林水産省所管計 51 124,231 8,569 784,591 8,620 908,823
合計 863 595,080 24,826 2,205,159 25,689 2,800,239
注(1)
表中の被災箇所数及び被災額は、平成23年3月11日に発生した三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0、最大震度7。以下同じ。)、同月12日に発生した長野県北部を震源とする地震(6.7、6強)、同月15日に発生した静岡県東部を震源とする地震(6.4、6強)、4月7日に発生した宮城県沖を震源とする地震(7.2、6強)及び同月11日に発生した福島県浜通りを震源とする地震(7.0、6弱)により被災した公共土木施設等に対して実施した災害査定の箇所数及び査定決定額である(一部査定予定額を含む。)。
注(2)
福島県における原子力発電所事故に伴う警戒区域内の被災状況等は除いている。
注(3)
漁港整備事業の被災は、漁港施設及び漁業集落環境施設に係る被災状況を記載している。
注(4)
集落排水事業の被災は、主に集落排水事業の被災が占めている災害関連農村生活環境施設復旧事業の被災状況を記載している。
注(5)
福島県における原子力発電所事故に伴う警戒区域の一部解除に伴い災害査定が実施されたことなどにより、24年報告における被災箇所数及び被災額とは合計が異なっている。

そして、このうち代行法等に基づき、国が災害復旧事業等に係る工事を県等からの要請を受けて代行した事業(以下「直轄代行事業」という。)の実施状況は、図表-被災2のとおり、被災箇所数計15か所、被災額計1072億余円となっている。

図表-被災2直轄代行事業の実施状況

事業種別 被災箇所数 被災額(百万円) 要請元 代行事業主体
海岸事業 4 64,361
河川分 1 43,804 宮城県 東北地方整備局
農地分 1 14,557 宮城県 東北農政局
漁港分 2 6,000 宮城県、山元町 水産庁
港湾整備事業 4 2,462 岩手県 東北地方整備局
治山事業 4 6,157 宮城県 東北森林管理局
漁港整備事業 2 14,584 宮城県 水産庁
農業農村整備事業 1 19,670 宮城県 東北農政局
15 107,237

また、被災額等を事業主体別及び被災発生都道県別にみると、別表-被災のとおりとなっており、3地方整備局等(注24)、2農政局(注25)及び2森林管理局(注26)並びに17都道県(注27)において被災を受けている状況となっていた。

(注24)
3地方整備局等東北、関東両地方整備局、北海道開発局
(注25)
2農政局東北、関東両農政局
(注26)
2森林管理局東北、関東両森林管理局
(注27)
17都道県東京都、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、長野、静岡各県

(3) 各事業における被災状況及び復旧状況

3地方整備局等、2農政局及び2森林管理局並びに17都道県の被災状況について、 24年報告では、24年次に会計実地検査を行った北海道開発局、関東地方整備局、東北農政局、東北森林管理局、北海道、青森県、東京都、神奈川県及び静岡県における被災状況の一部を記述したところである。

そこで、25年次は、11事業における被災状況等を確認するために、主に24年次に検査を実施していない箇所において会計実地検査を行った。なお、東北3県については、既存の関係資料を徴するとともに、国土交通本省等から資料の提出を受けるなどして被災状況等を分析した。

検査に当たっては、災害予防対策に資するための施設については災害を防止することが重要であり、災害に対する応急復旧活動に資するための施設については災害時に利用されることが重要である ことから、震災時にこれらの施設が有効に機能したかを検査した。また、現在、各事業において災害復旧事業が実施されているところであるが、復旧状況についても検査した。

11事業における検査の結果について、事例を用いるなどして示すと次のとおりとなっている。

ア 河川事業

国土交通省、地方公共団体等は、河川法(昭和39年法律第167号)等に基づき、洪水等による災害発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全を図るために河川を総合的に管理し、公共の安全を保持することなどを目的として、河川堤防、護岸、水門、揚排水機場等の河川管理施設の築造等を行う河川事業を実施している。

そして、河川管理施設の耐震点検の実施に当たっては、阪神・淡路大震災を契機として、河川管理施設に要求される耐震性能の確保に関する取組が進められ、国土交通省は、7年にレベル1地震動相当の地震動に対する安全性照査のマニュアルとして、「河川堤防耐震点検マニュアル」(平成7年建設省河治発第8号建設省河川局治水課長通知)等(以下「H7河川耐震点検マニュアル」という。)を作成している。 そして、「土木構造物の耐震設計ガイドライン」(平成13年社団法人土木学会)等において、レベル2地震動に対する指針が示されたことなどを受けて、同省は19年にH19河川耐震照査指針等を定めており、19年以降はレベル1地震動及びレベル2地震動に対する耐震性能の照査はこれによることとされている。

H19河川耐震照査指針等により耐震性能照査を実施するに当たっては、 河川堤防については、津波の河川遡上解析(注28)を行うなどして照査外水位を決定し、堤内地地盤高が照査外水位より低い区間等(以下「耐震性能照査範囲」という。)に設置されているものを対象とする。そして、当該河川堤防が設置されている基礎地盤の液状化を考慮するなどして耐震性能照査を行い、耐震対策工事が必要な区間を抽出する。また、水門、揚排水機場等については、全ての施設を対象として、重要度等を勘案した耐震性能を設定した上で当該施設が設置されている基礎地盤の液状化を考慮するなどして耐震性能照査を行い、耐震対策工事が必要な施設を抽出することとなっている。

(注28)
津波の河川遡上解析耐震性能照査において考慮する外水位としての津波の挙動の解析

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

東北、関東両地方整備局(以下「2地方整備局」という。)管内及び山形、茨城、栃木、埼玉、千葉、新潟、長野各県の計7県(以下「河川7県」という。)管内において整備された河川管理施設における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

a 河川堤防等の被災状況

河川堤防、護岸等の河川管理施設別の被災状況についてみると、図表-河川1のとおり、2地方整備局管内及び河川7県管内において被災箇所数は計719か所、河川堤防の被災延長は計180.3㎞などとなっていた。

図表-河川1 河川管理施設別の被災箇所数等

(内訳は別表-河川8参照

 

管内
被災箇所数
河川堤防 護岸 その他
被災
箇所数
被災延長
(㎞)
被災
箇所数
被災延長
(㎞)
被災
箇所数
2地方整備局管内計 359 289 120 62 12 8
河川7県管内計 360 235 60.3 120 10.4 5
合計 719 524 180.3 182 22.4 13
(注)
被災を受けた主な施設で分類しているため、河川堤防の被災の中に水門等の被災が含まれている場合がある。

被災内容については、地震及び液状化により、河川堤防が大規模に沈下したり、堤体の亀裂等が広範囲にわたって発生したり、護岸、水門等が崩落したり、損傷したりするなどしていた。また、河川を遡上し河川堤防を越流した津波により、河川堤防の裏法尻が洗掘されたことなどから河川堤防が流失したり、決壊したりするなどしていた。

そして、特に被災が大きかった北上川、旧北上川、鳴瀬川、名取川及び阿武隈川(以下「5河川」という。)等の東北地方整備局が管理している一級河川における河川堤防についてみると、被災延長は66.0㎞であり、主な被災内容は、流失又は決壊が26.4㎞、このうち津波により堤体の全断面が流失した堤防が2.4㎞となっており、また、沈下が36.5㎞などとなっているなど、これまでの地震による河川堤防の被災と比較しても、大規模かつ広範囲にわたる被災となっていた。

b 耐震対策等の実施状況
(a) 河川堤防

ⅰ H7河川耐震点検マニュアルによる耐震対策

2地方整備局管内及び河川7県管内におけるH7河川耐震点検マニュアルによる河川堤防の耐震点検等の実施状況についてみると、図表-河川2のとおり、耐震点検を実施し耐震対策工事が必要と診断された155.7㎞のうち、工事が実施されていたのは40.8㎞となっていた。

図表-河川2 H7河川耐震点検マニュアルによる河川堤防の耐震点検等の実施状況

(内訳は別表-河川9参照

(単位:km)

管内








点検対象河川数




耐震点検 耐震対策工事
概略点検 詳細検討 済延長


実施状況 実施結果 実施状況 実施結果
未済延
済延長 詳細検
討不要
延長
要詳細
検討延
未済延
済延長 耐震対
策工事
不要延
要耐震
対策工
事延長
2地方整備局管内計 227 2,937.1 18 492.7 - 492.7 92.8 399.9 - 399.9 307.4 92.4 27.2 65.2
河川7県管内計 3,336 19.549.5 56 283.0 - 283.0 165.1 117.8 - 117.8 54.5 63.3 13.6 49.7
合計 3,563 22,486.6 74 775.7 - 775.7 257.9 517.7 - 517.7 362.0 155.7 40.8 114.9
(注)
管理河川延長以外の延長は、左右両岸の延べ延長である。

そして、耐震対策工事が必要と診断された155.7㎞における被災状況についてみると、図表-河川3のとおり、耐震対策工事が実施されていなかった114.9㎞のうち18.3㎞が地震動により被災していた一方、耐震対策工事が実施されていた40.8㎞においては37.4㎞が被災しておらず、また、被災した3.4㎞についても、2地方整備局管内における3.3㎞は津波による被災であり、河川7県管内における被災も軽微な亀裂等であり、地震動による大きな変状は確認されなかった。

図表-河川3 H7河川耐震点検マニュアルによる要耐震対策工事延長における被災状況

(内訳は別表-河川10参照

(単位:km)

管内 要耐震対策工事延長
耐震対策工事済延長 耐震対策工事未済延長
被災延長 未被災延長   被災延長 未被災延長
2地方整備局管内計 92.4 27.2 3.3 23.8 65.2 6.5 58.6
河川7県管内計 63.3 13.6 0 13.5 49.7 11.7 37.9
合計 155.7 40.8 3.4 37.4 114.9 18.3 96.6

耐震対策工事を実施していたことなどから被災しなかった事例を示すと次のとおりである。

<参考事例-河川1> 河川堤防の耐震対策工事の実施等により被災しなかった事例

茨城県は、H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検の結果、耐震対策工事が必要な区間と診断された河川堤防のうち、地震により河川堤防が損傷した場合の影響を勘案して、新利根川左岸の延長220mの区間において、平成8年度に鋼矢板を施工するなど耐震対策工事を実施していた。このことなどから、耐震対策工事が必要と診断されていたが工事が実施されていなかった当該区間の上下流の河川堤防が液状化により沈下するなど被災していた一方で、当該区間は被災しなかった。

また、耐震対策工事を実施していた河川堤防において、液状化等の被災がなかったため、避難路として活用された事例も見受けられた。

<参考事例-河川2> 避難路として河川堤防が活用された事例

東北地方整備局は、宮城県に所在する鳴瀬川右岸の延長350mの区間の河川堤防において、H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検の結果、耐震対策工事が必要な区間と診断し、平成8年度に地盤改良工を施工するなど耐震対策工事を実施していた。このことなどから、当該区間の河川堤防については、液状化等による被災がなく、河川堤防上の道路が通行できる状態を保っていたことから、避難路として活用された。

ⅱ 過去の地震による被災箇所における液状化対策

東北地方整備局管内において、15年の宮城県北部地震の際に液状化により堤体が沈下するなど大規模な被害が生じたことから、再度災害の防止のために液状化対策として地盤改良工を施工した4か所、延長計1.5㎞においては被災しなかった。

<参考事例-河川3> 過去の地震により被災した河川堤防における液状化対策の実施等により被災しなかった事例

東北地方整備局は、宮城県に所在する鳴瀬川左岸の延長700mの区間の河川堤防において、平成15年の宮城県北部地震の際に液状化により堤体が沈下するなど大規模な被害が生じたことから、再度災害の防止のために液状化対策として地盤改良工を施工していた。このことなどから、当該区間の河川堤防は被災しなかった。

ⅲ H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査等の実施状況

2地方整備局管内及び河川7県管内におけるH19河川耐震照査指針等による河川堤防の耐震性能照査等の実施状況についてみると、図表-河川4のとおり、実施済みは一部にとどまっており、また、耐震対策工事が必要と診断された12.2㎞においては工事が実施されていなかった。

図表-河川4 H19河川耐震照査指針等による河川堤防の耐震性能照査等の実施状況

(内訳は別表-河川11)参照

(単位:km)

管内








耐震性能
照査範囲
の把握状











耐震性能照査 耐震対策工事
実施状況 実施結果









耐震対
策工事
不要延
要耐震
対策工
事延長
2地方整備局管内計 227 2,937.10 済み 29 280.5 84.2 196.2 183.9 12.2 - 12.2
河川7県管内計 3,336 19,549.50 一部 11 83.8 4.8 79 79 - - -
1県 151 1,420.60 済み 5 79 - 79 79 - - -
1県 557 2,819.60 一部 6 4.8 4.8 - - - - -
5県 2,628 15,309.10 未実施
合計 3,563 22,486.60 40 364.3 89 275.2 262.9 12.2 - 12.2
(注)
耐震性能照査範囲の把握状況は、管内において、津波の河川遡上解析等を全ての河川で行い照査範囲を把握している場合は「済み」、一部の河川で行い照査範囲を把握している場合は「一部」、実施しておらず照査範囲を把握していない場合は「未」としている。

以上のように、河川堤防について、耐震対策工事を実施していた箇所は被災していないなど耐震対策工事の効果が発現している一方で、耐震性能照査等が進捗していない状況が見受けられたことから、今後、耐震性能照査等を計画的かつ着実に実施していくことが必要である。

(b) 水門等

東北地方整備局が管理している5河川等の一級河川において、東北地方太平洋沖地震による津波が遡上した範囲等に設置されていた水門等23施設における耐震対策、閉鎖等の状況は次のとおりとなっていた。

ⅰ H19河川耐震照査指針等による耐震対策

上記の23施設において、H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検は全て実施済みであり、また、全ての施設で耐震対策工事が不要と診断されていたが、H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査が実施されていたのは、図表-河川5のとおり、23施設のうち6施設となっており、同照査は進捗していなかった。また、耐震対策工事が実施されていたのは、工事が必要と診断された6施設のうち1施設となっていた。

図表-河川5 H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査等の実施状況

津波が遡
上した範
囲等に設
置されて
いた施設
耐震性能照査 耐震対策工事
実施状況 実施結果 済施設数 未済施設数
未済施設数 済施設数 耐震対策
工事不要
施設数
要耐震対
策工事施
設数
23 17 6 - 6 1 5

耐震性能照査又は耐震対策工事が実施されていない施設の中には地震により損傷した施設が見受けられたが、耐震対策工事が実施されていた水門は被災しなかった。

<参考事例-河川4>水門の耐震対策工事の実施等により被災しなかった事例

東北地方整備局は、秋田県の雄物川右岸に新屋水門を設置している。そして、平成21年度に実施した改築工事において、H19河川耐震照査指針等に基づき、施設の機能、規模等から治水上重要な水門であるとして地震後においても水門としての機能を保持できるよう設計しており、被災しなかった。

ⅱ 閉鎖状況

水門等の技術基準である「ダム・堰施設技術基準(案)」(平成6年建設省策定)によると、閉鎖等の機能を確実に発揮させるために、①停電の場合にも閉鎖操作を行う必要がある水門扉には、非常用閉鎖装置として扉体の自重を利用して閉鎖する自重降下機能等を設ける、②重要な水門扉には、常用電源の停電等に対応するため予備発電設備を設ける、③水門扉は、施設の目的や規模、管理体制により、必要に応じて手動又は自動による遠隔操作が可能なものとするなどとされている。

そして、23施設のうち津波遡上時に水門扉が開いていたことなどから閉鎖することが必要とされた11施設のうち、閉鎖できなかった施設は7施設、閉鎖できた施設は4施設となっており、閉鎖できた施設における閉鎖が可能となった要因をみると、予備発電設備を整備し遠隔操作化を図っていたこと、自重降下機能を有していたこととなっていた。

<参考事例-河川5> 遠隔操作により水門を閉鎖できた事例

東北地方整備局は、宮城県の北上川左岸に月浜第一水門を設置しているが、平成17年度に、常用電源の喪失に対応するため予備発電設備を整備し、また、操作員による施設内における操作が困難な場合が想定されたことから遠隔操作化を図っていた。このことなどから、停電により常用電源を喪失したものの、予備発電設備を用いて遠隔操作により閉鎖作業を実施し、津波来襲までに閉鎖作業を完了していた。

<参考事例-河川6> 自重降下機能により水門を閉鎖できた事例

東北地方整備局は、平成11年度に青森県の高瀬川左岸に市柳川水門を設置しているが、同水門の水門扉は非常用閉鎖装置として自重降下機能を有していた。このことなどから、停電により常用電源を喪失したものの、自重降下機能を用いて閉鎖作業を実施し、津波来襲までに閉鎖作業を完了していた。

また、津波が水門扉を越流したが、水門扉が閉鎖状態であったことにより、津波の遡上を軽減した水門等も見受けられた。

<参考事例-河川7> 閉鎖状態の水門扉により津波の遡上を軽減した事例

東北地方整備局は、宮城県の阿武隈川に阿武隈大堰を設置している。そして、河川を遡上した津波が水門扉を越流したが、水門扉が閉鎖状態であったことにより、水門扉の下流の津波高T.P.(東京湾平均海面)5.18mが水門扉の上流においてT.P.4.28mになるなど津波の遡上を軽減した。

以上のように、水門等について、耐震対策工事を実施していたことなどにより被災しなかった水門や、遠隔操作化を図っていたことなどにより閉鎖できた水門があったこと、閉鎖状態の水門扉による津波の遡上の軽減効果が見受けられたことなどから、要求される耐震性能を確保することや、遠隔操作化を図ることなどにより、水門等の閉鎖等の機能を確実に発揮させる取組をより推進していくことが必要である。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

2地方整備局及び河川7県は、河川堤防等における被災が広範囲かつ多数にわたっているため、一般的に6月から10月までとされている出水期までに完全な堤防の復旧が不可能な箇所については、緊急措置として、亀裂等の空洞を充塡したり、土のうや盛土により堤防天端高を確保したりするなどして堤防機能の暫定的な確保を23年の出水期までに実施することとしていた。 そして、そのうち、破堤して堤防機能を著しく喪失しているなど緊急的に工事を実施する必要がある箇所については、災害復旧事業として応急復旧工事を実施していた。

また、出水期までの対策は暫定的な対策となっている場合があることなどから、23年の出水期において、堤防巡視の準備をする目安となる水防団待機水位、避難勧告等の目安となる避難判断水位等を引き下げたり、洪水時に危険が予想され重点的に巡視及び点検を実施する重要水防箇所を見直したり、土のう等の緊急用備蓄資材の充実等を図ったりするなどソフト対策を併せて実施して、安全性を確保していた。

そして、出水期後に本復旧に着手し、24年の出水期までの完了を目標としていた。

なお、特に津波及び広範囲の地盤沈下による被害が甚大であった宮城県沿岸域にある5河川の河口部の河川堤防は、地域の復興計画と整合を図りながら、海岸堤防と一連となって効果を発揮するよう27年度末を目途に本復旧を完了することとしている。

b 復旧の進捗状況

2地方整備局管内及び河川7県管内における河川堤防、護岸等の被災箇所数は、(ア)aのとおり719か所となっているが、24年度末現在の復旧の進捗状況についてみると、図表-河川6のとおり、完了箇所数は658か所(完了率91.5%)となっていた 。

図表-河川6 河川堤防等における復旧の進捗状況

(内訳は別表-河川12参照

(単位:%)

管内 被災箇
所数(a)
平成23年出水期 23年度末 24年出水期 24年度末
完了
箇所数
(b)
完了率
(b/a)
完了
箇所数
(c)
完了率
(c/a)
完了
箇所数
(d)
完了率
(d/a)
完了
箇所数
(e)
完了率
(e/a)
2地方整備局管内計 359 1 0.3 54 15 243 67.7 314 87.5
河川7県管内計 360 - - 207 57.5 264 73.3 344 95.6
合計 719 1 0.1 261 36.3 507 70.5 658 91.5

また、河川堤防における復旧の進捗状況を被災延長でみると、図表-河川7のとおり、24年度末現在の進捗状況は、被災延長180.3㎞に対して完了延長134.8㎞(完了率74.8%)となっていた。

図表-河川7 河川堤防の被災延長における復旧の進捗状況

(内訳は別表-河川13参照

(単位:㎞、%)

管内 被災延
長(a)
平成23年出水期 23年度末 24年出水期 24年度末
完了
延長
(b)
完了率
(b/a)
完了
延長
(c)
完了率
(c/a)
完了
延長
(d)
完了率
(d/a)
完了
延長
(e)
完了率
(e/a)
2地方整備局管内計 120 0.2 0.2 7.4 6.2 63.8 53.2 77.3 64.4
河川7県管内計 60.3 - - 26.9 44.7 51.4 85.2 57.5 95.3
合計 180.3 0.2 0.1 34.4 19.1 115.3 63.9 134.8 74.8

なお、完了していない箇所で、5河川の河口部の河川堤防以外で24年の出水期までに完了する予定であった箇所については25年度中に完了する予定であり、また、5河川の河口部の河川堤防 の被災箇所数12か所、被災延長34.1㎞については27年度完了を目途に整備しているところである。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況

東日本大震災において、河川を遡上した津波が河川堤防を越えて堤内地に浸水し甚大な被害をもたらしたことから津波防災対策が必要であるとして、「河川津波対策について」(平成23年国水河計第20号等国土交通省水管理・国土保全局河川計画課長等連名通知。以下「河川津波対策」という。)が取りまとめられた。河川津波対策によると、津波を洪水及び高潮と並んで計画的に防御対策を検討する対象と位置付け、数十年から百数十年に一度程度発生する津波を堤内地の浸水を防ぐ河川管理施設等の整備を行う上で想定する施設計画上の津波とし、また、河口にある地域海岸の設計津波と同一の津波を基本として設定することとされている。

そして、東北地方整備局は、5河川の河口部の河川堤防を復旧するに当たっては、河川津波対策に基づき、河口部における施設計画上の津波水位の設定や、広域的な地盤沈下等に対応した高潮計画の見直しを行い、洪水、高潮及び津波に対して必要とされる河川堤防の天端高を比較して、海岸堤防の天端高との整合を図り河口部の河川堤防の天端高を決定している(図表-河川8参照)。

図表-河川8 5河川の河口部における新堤防天端高等

河川名 旧堤防天端高
(T.P.m)
新堤防天端高
(T.P.m)
新堤防天端高の延長(km) 決定要因
左岸 右岸
北上川 4.6 8.4 1.4 0.6 2.1 津波
旧北上川 4.1 7.2 1.3 1.2 2.6 高潮
鳴瀬川 6.2 7.2 1 1.2 2.2 高潮
名取川 6 7.2 0.8 1.6 2.5 高潮
阿武隈川 6.2 7.2 1.7 2.8 4.5 高潮

また、河川津波対策において、施設計画上の津波が遡上すると想定される範囲の河川堤防については、津波による堤体への浸食作用に対して必要とされる護岸の設置等の構造上の措置を講ずることとされ、必要に応じて河川堤防の天端、裏法面、裏法尻(図表-河川9参照)等に被覆等の措置を講ずることとされた。

図表-河川9 河川堤防の概念図

河川堤防の概念図

このことなどから、5河川については、東北地方太平洋沖地震による津波が越流した河口部の河川堤防は、津波による堤体への浸食を防止するため護岸等を設置することとしている。

さらに、護岸等の設置区間のうち、今後、新しく設定された堤防天端高でも 東北地方太平洋沖地震による津波と同程度の津波が来襲した場合に越流する可能性のある区間については、「海岸堤防等の粘り強い構造及び耐震対策について」(平成23年国水海第47号等国土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課海岸室長等連名通知)において示されている、津波が天端を越流した場合であっても、施設が倒壊等するまでの時間を少しでも長くするなどの海岸堤防等の粘り強い構造と同様の構造にすることとし、河川堤防の天端、裏法面、裏法尻等に被覆等を行うこととしている(図表-河川10参照)。

図表-河川10 5河川の河口部における護岸等の設置区間延長等

(単位:㎞)

河川名 左岸 右岸
護岸等の設置
区間延長
護岸等の設置
区間延長
護岸等の設置
区間延長
粘り強い構造と
する区間延長
粘り強い構造と
する区間延長
粘り強い構造と
する区間延長
北上川 8.8 2.1 6 1.3 14.9 3.5
旧北上川 2.1 0.6 3.3 0.6 5.4 1.3
鳴瀬川 1.3 0.6 1 0.8 2.3 1.4
名取川 0.5 0.2 1.4 0.9 1.9 1.1
阿武隈川 1.6 0.2 2.9 0.7 4.6 1

イ 海岸事業

海岸関係省庁、地方公共団体等は、海岸法(昭和31年法律第101号)に基づき、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するとともに、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り、もって国土の保全に資することを目的として、堤防、突堤、護岸、胸壁、水門、陸閘等の施設(以下、これらを合わせて「海岸保全施設」という。)の整備を行う海岸事業を実施している。

都道府県知事は、海岸法に基づき、防護すべき海岸に係る一定の区域を海岸保全区域として指定し、都道府県知事等の海岸の管理を行う者(以下「海岸管理者」という。)等は、海岸保全施設を整備している。

そして、海岸管理者は、海岸保全施設の技術上の基準を定める省令(平成16年国土交通省、農林水産省令第1号。以下「海岸省令」という。)、「海岸保全施設の技術上の基準について」(平成16年国河海第69号等国土交通省河川局長等連名通知)等に基づいて海岸保全施設の設計等を行っている。

海岸省令等によれば、海岸保全施設のうち堤防、護岸及び胸壁(以下、これらを合わせて「海岸堤防」という。)の天端高については、①既往の最高潮位又は朔(さく)望平均満潮位(注29)に既往の最大潮位偏差を加えるなどした潮位(以下「設計高潮位」という。)に長期間の観測記録に基づく最大の波浪等の設計波の打上げ高を加えた値、②設計高潮位のときの設計波により越波する海水の量を十分減少させるために必要な値、③設計津波の水位のいずれかの値に、海岸堤防の背後地の状況等を考慮して必要と認められる余裕高を加えた値以上とすることとされている。

そして、海岸保全施設の耐震設計については、施設の機能及び構造、海岸の背後地の状況、地盤高等を考慮して、当該海岸保全施設に要求される耐震性能を満足することを適切に照査することとされている。

また、津波、高潮等の対策については、「海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な方針」(平成12年農林水産省、運輸省、建設省告示第3号)によれば、施設の整備によるハード面の対策だけでなく、適切な避難のための迅速な情報伝達等ソフト面の対策も併せて講ずることとされている。

そして、都道府県等は、想定される地震による災害の軽減を図るために、当該地域における地震動の大きさ、津波による浸水予測区域(以下「津波浸水予測区域」という。)、想定した津波高(以下「想定津波高」という。)等を表示した津波ハザードマップ等の作成、配布等を行っている。

(注29)
朔望平均満潮位新月及び満月の日から前2日後4日以内に現れる各月の最高満潮位を平均した水面高

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

東北地方整備局管内並びに東北3県及び茨城、千葉両県の計5県(以下「海岸5県」という。)管内において整備された海岸堤防における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、海岸堤防の被災状況等については、徴した調書、既存の関係資料、海岸関係省庁において実施している①被災した海岸保全施設の復旧に当たって具体的な粘り強い構造の方向性を見いだすことを目的として行った被災の実態調査の結果(以下「実態調査結果」という。)、②海岸統計の基礎データとして活用するなどのための海岸保全施設等の現況調査の結果(以下「現況調査結果」という。)、③海岸保全施設の復旧について復興施策の事業計画で定めた成果目標の達成状況等を把握するための調査の結果(以下「復旧調査結果」という。)等を基に集計及び分析を行った。

a 海岸堤防の被災状況等
(a) 震災における津波痕跡高、地盤沈下及び海岸堤防の被災の状況

ⅰ 震災における津波痕跡高及び地盤沈下の状況

東日本大震災においては、太平洋沿岸の広範囲に津波が来襲し、地域によっては津波高が10m以上の津波も確認された。

そこで、海岸5県の管内及び海岸5県に係る地方整備局等の管内である海岸5県地域(以下、このように県の管内と直轄の管内のうち当該県内における区域を合わせて示す場合に「地域」という。)において、東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる速報値(2012年12月29日時点)等により海岸堤防付近の津波の痕跡高(図表-海岸1参照。以下「津波痕跡高」という。)が把握できた461地区海岸における津波痕跡高の最大高さについて、会計検査院が抽出したところ、図表-海岸2のとおり、津波痕跡高がT.P.10m以上となっていたのは、東北3県地域の海岸のみであり、292地区海岸のうち173地区海岸となっていた。

図表-海岸1 津波痕跡高の概念図

津波痕跡高の概念図

図表-海岸2 津波痕跡高の状況

(内訳は別表-海岸12参照

地域等 津波痕跡
高が把握
できた地
区海岸数
A
津波痕跡高別の地区海岸数
1m未満 1m以上
5m未満
5m以上
10m未満
10m以上
B
割合
B/A
10m以上
15m未満
15m以上
海岸5県地域計 461 6 135 147 173 37.5 100 73
東北3県地域計 292 1 22 96 173 59.2 100 73
茨城、千葉両県管内計 169 5 113 51 - - - -
(注)
東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる速報値(2012年12月29日時点)等を用いて作成している。

津波痕跡高を震災前の想定津波高と比較すると、図表-海岸3のとおり、これまでの想定を超えて津波痕跡高が震災前の想定津波高より10m以上高くなっているのは43地区海岸となっていた。

図表-海岸3 津波痕跡高と震災前の想定津波高との比較

(内訳は別表-海岸13参照

地域等 津波痕跡
高が把握
できた地
区海岸数
津波痕跡
高が想定
津波高よ
り低く
なってい
た地区海
岸数
津波痕跡
高が想定
津波高よ
り高く
なってい
た地区海
岸数
想定津波
高を設定
していな
い地区海
岸数
津波痕跡高と想定津波高との開差別の
地区海岸数
1m未満 1m以上5m未満 5m以上10m未満 10m以上B
海岸5県地域計 461 108 350 13 156 138 43 3
東北3県地域計 292 23 266 7 90 126 43 3
茨城、千葉両県管内計 169 85 84 6 66 12 - -
(注)
東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる速報値(2012年12月29日時点)、現況調査結果等を用いて作成している。

そして、津波痕跡高を震災前の海岸堤防の天端高と比較すると、図表-海岸4のとおり、津波痕跡高が海岸堤防の天端高より10m以上高くなっているのは64地区海岸となっていた。

図表-海岸4 津波痕跡高と震災前の海岸堤防の天端高との比較

(内訳は別表-海岸14参照

地域等 津波痕跡
高が把握
できた地
区海岸数
津波痕跡
が天端高
より低く
なって
いた地区
海岸数
津波痕跡
高が天端
高より高
くなって
いた地区
海岸数
天端高が
不明な地
区海岸数
津波痕跡高と天端高との開差別の地区海岸数
1m未満 1m以上
5m未満
5m以上
10m未満
10m以上
海岸5県地域計 461 143 308 21 104 119 64 10
東北3県地域計 292 30 259 8 75 112 64 3
茨城、千葉両県管内計 169 113 49 13 29 7 - 7
(注)
東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる速報値(2012年12月29日時点)、現況調査結果等を用いて作成している。

また、東日本大震災においては、地殻変動等により地盤沈下が広範囲にわたり生じており、国土地理院が電子基準点において地殻変動を観測した海岸5県地域の結果は、図表-海岸5のとおりとなっており、最大で1.1m沈下していた。

図表-海岸5 地殻変動の状況

(内訳は別表-海岸15参照

地域等 電子基準
点箇所数
水平変化量の電子基準点箇
所数
沈下変化量別の電子基準点箇所数
1m未満 1m以上
5m未満
5m以上 0.5m未満 0.5m以上
1.0m未満
1.0m以上 最大量
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
海岸5県地域計 137 54 81 2 125 10 2 1.1
東北3県地域計 93 15 76 2 81 10 2 1.1
茨城、千葉両県管内計 44 39 5 44 - - 0.4
(注)
国土地理院が地殻変動を観測した電子基準点における観測データを用いて作成している。

ⅱ 海岸堤防の被災状況

海岸堤防が被災した海岸5県地域の437地区海岸の被災状況についてみると、図表-海岸6のとおり、東北3県地域においては、被災前の海岸堤防の施設延長の8割以上が被災した海岸が372地区海岸となっていた。

図表-海岸6 被災状況

(内訳は別表-海岸16参照

地域等 海岸堤
防が被
災した
地区海
岸数
東日本大
震災前の
海岸堤防
の施設延

A
東日本大
震災に伴
い被災し
た海岸堤
防の施設
延長
B
B/A
8割未満 8割以上
地区海岸数 施設延長 地区海岸数 施設延長
km km km km
海岸5県地域計 437 364.2 29.5 56 21.9 381 273.6
東北3県地域計 401 278.4 275.5 29 12.9 372 262.7
茨城、千葉両県管内計 36 85.7 19.9 27 9.0 9 10.9
(注)
復旧調査結果等を用いて作成している。

また、「海岸における津波対策検討委員会」が23年11月に取りまとめた報告書「平成23年東北地方太平洋沖地震及び津波により被災した海岸堤防等の復旧に関する基本的な考え方」によれば、多くの海岸堤防において、津波が越流して、裏法尻部の洗掘及び裏法尻被覆工、裏法被覆工、天端保護工等の流失をきっかけとして被災が拡大したと推定されている。そして、国土交通省国土技術政策総合研究所(以下「国総研」という。)の25年1月の研究報告「2011年東日本大震災に対する国土技術政策総合研究所の取り組み」によれば、裏法尻被覆工の有無以外にも、表法勾配、裏法勾配及び海岸堤防の天端高と堤内地盤高との差である比高により被災状況に違いがみられたとされている。そこで、表法勾配、裏法勾配及び比高の条件が同一な三面張り構造の海岸堤防(図表-海岸7参照)を対象として、越流水深帯別、裏法尻被覆工の有無別に被災状況を分析してみると、図表-海岸8のとおりとなっており、越流水深が12m未満では、裏法尻を被覆している海岸堤防の方が被覆していない海岸堤防に比べて被災前の海岸堤防の施設延長に対する被災した施設延長の割合が低くなっていた。

図表-海岸7 三面張り構造の海岸堤防の概念図

三面張り構造の海岸堤防の概念図

図表-海岸8 東北3県地域における三面張り構造の海岸堤防の被災状況

東北3県地域における三面張り構造の海岸堤防の被災状況

注(1)
実態調査結果において、越流水深、海岸堤防の施設延長及び被災延長が明らかなものについて、越流水深帯別、裏法尻被覆工の有無別に集計して被災割合を求めグラフ化したものである。
注(2)
越流水深は、国総研が、東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる速報値(2011年8月26日時点)から当該海岸堤防近傍の津波痕跡高を抽出し、地震に伴う地盤沈下後の施設天端高から差し引いて求めたものを使用している。

このほか、表法被覆工を施工していない箇所において被災した海岸堤防も見受けられた。

<事例-海岸1> 表法に被覆工を施工していない海岸堤防が被災した事例

A県は、B地区海岸において、平成11年度に、高潮対策として延長約1,370mの区間(天端高T.P.4.5m)の表法面に被覆ブロックを設置するなどして海岸堤防を整備している。

そして、A県は、整備延長約1,370mの区間のうち4か所の延長計約77mにおいて、海岸堤防の表法面に被覆ブロックを設置していなかった。

その後、想定津波高を上回る推定T.P.7.6mの津波が押し寄せ、海岸堤防を越流したものの、表法面に被覆ブロックを設置していた箇所では被災していなかった。一方、被覆ブロックを設置していなかった箇所では表法肩部分が削り取られるなどして被災することとなった。

(b) 耐震対策等の実施状況

ⅰ 海岸堤防の整備状況と被災状況

茨城、千葉両県管内の225地区海岸及び東北地方整備局等が海岸法に基づき、又は、直轄代行事業により施行している宮城県内の9地区海岸(以下、これら国が施行している海岸を「直轄海岸」という。)の海岸保全区域延長計451.8㎞における被災前の海岸堤防の整備状況については、海岸堤防の整備が必要であるが整備されていない延長が62.6㎞、通常の波浪時に浸水実績がなく、海岸に広い前浜があり十分な波浪減衰効果が期待できることなどから、現況の地形等で背後地が防護できるとされており無堤区間となっている延長が72.7㎞となっていた。

そして、一部整備されていない区間となっている海岸のほか、上記の一部無堤区間となっている海岸においても、津波が侵入し、背後地において被災した事例が見受けられた。

<事例-海岸2> 無堤区間において津波浸水被害が生じた事例

C県は、D地区海岸において、高潮及び波浪を考慮し延長約265mの区間に、天端高T.P.5.0mから7.5mの海岸堤防を整備している。

一方、上記の区間とは別の延長約350mの区間においては、通常の波浪時に浸水実績がなく、海岸には広い前浜があって、その背後の松林と併せて十分な波浪減衰効果が期待できるとして無堤区間となっていた。

その後、想定津波高を上回る推定T.P.6.1mの津波が押し寄せ、海岸堤防の整備済区間の背後地は被災しなかった一方で、無堤区間においては、当該箇所から津波が侵入し、背後地に津波浸水被害が生ずることとなった。

また、過去の浸水被害により天端高を嵩(かさ)上げした区間に隣接する天端高が低かった区間では、海岸堤防の被害が甚大であったが、嵩上げした区間では、海岸堤防の被災が比較的軽微となっていた事例が見受けられた。

<参考事例-海岸1> 天端高を嵩上げした海岸堤防の被災が比較的軽微となっていた事例

福島県は、岩間佐糠(さぬか)地区海岸において、昭和20年代後半から河川堤防を整備していたが、3 0年代に海岸保全区域として指定されたことから、海岸堤防として延長約1,950mを管理している。

そして、このうち海岸堤防約881mの区間においては、30年代に高潮等により被災したことから天端高をT.P.4.4mからT.P.5.7m又は6.2mまで嵩上げしていた。

その後、想定津波高を上回る推定T.P.7.7mの津波が押し寄せ、嵩上げした区間に隣接した天端高が低かった区間では、海岸堤防の被災が著しく、嵩上げした区間における海岸堤防の被災は比較的軽微となっていた。

ⅱ 耐震対策と被災状況

茨城、千葉両県管内における海岸堤防の耐震対策の実施状況と被災状況についてみると、耐震点検の結果、液状化の危険性があるとされていたが、耐震対策工事が実施されておらず、地盤が液状化し海岸堤防が被災した事例が見受けられた。

<事例-海岸3> 耐震対策工事を実施していない海岸堤防が被災した事例

E県は、F地区海岸において、昭和40年代からの埋立事業により整備した海岸堤防延長約16,526mを海岸保全施設として管理している。

そして、E県は、当該海岸堤防について、平成8年度に耐震点検マニュアルに基づき耐震点検を実施し、その結果、液状化の危険性があるとしていたが、他の海岸堤防から順次耐震対策工事を実施していて、当該海岸堤防では耐震対策工事を実施していなかった。

その後、地盤が液状化し、耐震対策工事を実施していなかった施設延長約1,285mにおいて、海岸堤防の沈下や大規模な亀裂が発生するなどして被災していた。

一方、要求される耐震性能が確保されていた地区海岸において、海岸堤防の被災が軽減されたと推定される事例が見受けられた。

<参考事例-海岸2> 要求される耐震性能が確保されていたことにより海岸堤防の被災が軽減されたと推定される事例

茨城県は、有明・高浜地区海岸において、昭和30年代から延長約2,020mの区間に、天端高T.P.5.0mの海岸堤防を整備している。そして、平成18年度に耐震点検を実施し、要求される耐震性能が確保されていることを確認していた。

その後、同海岸では、震度6強を観測したが、海岸堤防の被災はほとんどなく、一方で、要求される耐震性能が確保されていない隣接地区海岸の海岸堤防では、海岸堤防が沈下するとともに、天端保護工及び裏法被覆工が崩壊する被害が生じたことから、要求される耐震性能が確保されていたことによる効果が発現していることが推定できた。

以上のように、海岸堤防の被災状況等について、海岸堤防の整備済区間、天端高を嵩上げした区間、要求される耐震性能が確保されている地区海岸において、海岸堤防や背後地の被災が比較的軽微となっている事例が見受けられた一方で、無堤区間、天端高を嵩上げした区間に隣接した天端高が低かった区間、耐震対策工事を実施していない地区海岸において、海岸堤防や背後地が被災している事例が見受けられた。これらのことから、今後の海岸堤防の整備に当たっては、一連の海岸線において一定の安全水準を確保するなど、津波の特性を十分に考慮するとともに、海岸堤防の耐震対策を計画的かつ着実に実施していくことが必要である。

b 閉鎖施設の閉鎖状況

茨城、千葉両県管内の海岸のうち、津波が発生していた27地区海岸の閉鎖施設82か所の災害発生時における閉鎖状況についてみると、災害発生時に閉鎖した閉鎖施設は24か所、閉鎖していない閉鎖施設は58か所となっており、このうち東日本大震災前から不具合が生じているなどして閉鎖作業が行えない閉鎖施設が18か所となっていた。

また、閉鎖していない閉鎖施設58か所の閉鎖体制についてみると、海岸管理者において閉鎖施設が所在する市町村等と委託管理協定を締結するなどして閉鎖体制を整備している閉鎖施設は5地区海岸の17か所のみで、残りの18地区海岸の41か所の閉鎖施設については、委託管理協定を締結していないなど、閉鎖体制が十分となっていなかった。

<事例-海岸4> 閉鎖施設の閉鎖体制が十分となっていなかった事例

G県は、H地区海岸において、海側と陸側との間の通路用等の開口部に閉鎖施設を設置している。

そして、東日本大震災において、当該閉鎖施設は、引き戸式扉のレール部分に砂が堆積するなどしていて、閉鎖作業が想定どおり行えない状況となっており、開口部から津波が侵入している状況が確認された。

また、当該閉鎖施設については、委託管理協定を締結しておらず、災害発生時における閉鎖操作者が明確にされていないなど、閉鎖体制が十分となっていなかった。

以上のように、閉鎖施設の閉鎖状況について、災害発生時に閉鎖施設が閉鎖していない事例が見受けられ、中には、委託管理協定が締結されていないなど、閉鎖体制が十分となっていない事例が見受けられた。このように、閉鎖施設が津波等の災害発生時に閉鎖されない場合、津波等の高さに対し海岸堤防の天端高等の高さが対応していても、開口部から海水が侵入し、海岸堤防の防護効果が減殺されてしまうことから、閉鎖操作者の安全を最優先とした上で、効率的な閉鎖体制をできるだけ早期に構築することが必要である。

c 津波の浸水状況等
(a) 津波の浸水状況

海岸5県管内の市町村における浸水状況については、国土地理院が23年4月に公表している「津波浸水範囲の土地利用別面積について」によると、図表-海岸9のとおり、東北3県管内の市町村では、市町村面積に対する浸水面積の割合が5.3%となっていた。

図表-海岸9 海岸5県管内の市町村における浸水状況

(内訳は別表-海岸17参照

管内 浸水した
市町村数
浸水した
市町村面
積計
A
浸水面積計
B
浸水
割合
B/A
浸水面積
が10km2以上
の市町村
浸水割合
が10%以
上の市町
村数
km2 km2
海岸5県地域計 59 11,534 537 4.7 16 13
東北3県地域計 39 9,400 497 5.3 16 13
茨城、千葉両県管内計 20 2,134 40 1.9 - -
(注)
国土地理院による「津波浸水範囲の土地利用別面積について」を用いて作成している。

そして、東北3県管内の市町村では、津波痕跡高が想定津波高を大幅に上回っていたとされる一方で、茨城、千葉両県管内の10市町村の津波浸水状況については、想定津波高と大きくかけ離れた津波高ではなかったこと、津波浸水予測区域の設定条件を海岸堤防が機能しないものとしていたところ海岸堤防が十分に機能したことなどから、津波浸水範囲は津波浸水予測区域内にほぼ収まっていた。

(b) 海岸堤防や樹林帯等による津波被害軽減効果

東日本大震災においては、海岸堤防が整備されていない区間や海岸堤防の被災が激しい区間では背後地の津波浸水被害が甚大であった一方で、海岸堤防の天端高が津波痕跡高より高かった区間や、海岸堤防の被災が軽微な区間では背後地の津波浸水被害が比較的軽微となっていて、海岸堤防による津波被害軽減効果が発現していることが推定された。

また、 樹林帯等が海岸堤防の背後にある茨城、千葉両県の5地区海岸における樹林帯等の津波被害軽減効果についてみると、図表-海岸10のとおりとなっており、3地区海岸において、海岸堤防の背後地にある樹林帯等が被災しながらも、津波の侵入を軽減して、津波被害軽減効果が発現していることが推定された。

図表-海岸10 樹林帯等による津波被害軽減効果

県名 樹林帯等が
背後にある
地区海岸
左の海岸
線延長
津波被害軽
減効果の有
樹林帯等
延長
樹林帯等
面積
被災した
樹林帯等
面積
m m ha ha
茨城県 A 2,300 2,263 8.0 0.5 不明
B 3,990 2,795 2.7 0.9 不明
C 5,431 5,395 68.0 1.7
千葉県 D 26,644 23,200 470.0 30.0
E 15,962 13,800 260.0 0.5
(注)
樹林帯等の延長及び面積は保安林として管理されているものを対象に集計している。

<参考事例-海岸3> 樹林帯等により津波の侵入が軽減したと推定される事例

千葉県が管理している海岸のうち被災した海岸堤防の多かった九十九里海岸の延長約59.7㎞の区間においては、海岸堤防のほか、消波機能を持つ離岸堤等が整備されている。

そして、同海岸における津波痕跡高は推定T.P.3.4mから9.1mとなっており、天端高T.P.4.0mから4.5mの海岸堤防を越えて津波が背後地に侵入し、津波浸水被害が生じていた。当該津波は河口部からの遡上と、樹林帯等が途切れている海岸への出入口に当たる道路等を伝っての侵入が著しい一方で、樹林帯等が整備された約37kmの区間では津波の侵入が軽減されていることが推定された。

また、九十九里海岸が所在する旭市では、市域の約380㏊が津波により浸水していたが、浸水状況等から、同市飯岡地区の横根地区海岸において、海岸沿いに延長約395mにわたり盛土を行い整備した樹林帯等や、海岸保全区域内に点在している環境整備のために植栽整備した松林により一定の津波被害軽減効果が発現していることが推定された。

また、上記のほか、盛土構造の道路(参考事例-道路4参照)、公園内の樹林帯(参考事例-公園5参照)等によって、津波の侵入を完全には抑止できないものの、津波被害軽減効果が発現していることが推定された。

以上のように、津波の浸水状況等について、海岸堤防による津波被害軽減効果のほか、盛土構造の道路、公園等にある樹林帯等により津波の浸入を軽減して、津波被害軽減効果が発現していることが推定された事例が見受けられたことから、今後の津波対策に当たっては、海岸堤防の整備を推進するとともに、地域における津波対策として、盛土構造の道路、公園等にある樹林帯等の津波被害軽減効果のある施設等を適切かつ総合的に組み合わせた津波対策を着実に推進していくことが重要である。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 海岸堤防の被災状況等

海岸関係省庁は、東日本大震災に伴い、海岸堤防等の甚大な被害や地盤沈下に伴う長期に及ぶ浸水が広範囲に発生したことから、海岸堤防の復旧に当たり、優先度を定めて段階的に取り組んでいくとした「海岸堤防等に係る災害復旧の基本的な考え方(案)」を23年4月に取りまとめている。これによると、被災した海岸堤防の延長は膨大であることから、居住可能な家屋が残っている集落の区間、地域生活の復旧等のために不可欠な公共施設及びライフラインが海岸の背後地に存する区間、捜索活動やがれき処分、救援物資の受入れの妨げとなる区間等のより優先度の高い区間から次のとおり段階的に復旧対策を実施することとされている。

(a) 応急復旧として、出水期までに、盛土等により高潮位までの閉切を実施するなどの緊急防護を行うとともに、本復旧に先立ち、高潮及び波浪による浸水被害から背後地を防護することを目的とした措置を講ずる。

(b) 本復旧として、今回の津波を評価し、地域の実情に応じた被災地のまちづくり計画と調整を図った上で、防護水準を設定して実施する。なお、本復旧の方針の決定までには時間を要することから、緊急防護に加えて、被災前の堤防と同等の機能回復を行うなどの対策を講ずることも検討する。

b 復旧の進捗状況

海岸5県地域の海岸堤防が被災した地区海岸数及び海岸堤防の施設延長は、(ア)aのとおり、437地区海岸、施設延長295.5㎞となっているが、東日本大震災においては、海岸線の移動やその他の地形地盤の変動が生じた箇所があり、被災した海岸堤防を原形に復旧することが困難又は不適当な箇所が多数見受けられた。

そして、海岸5県地域における24年度末現在の応急復旧の実施状況及び本復旧の進捗状況についてみると、図表-海岸11及び12のとおり、高潮等の浸水被害を未然に防ぐための応急復旧を実施していたのは161 地区海岸となっていた。また、本復旧の進捗状況については、茨城、千葉両県管内ではおおむね完了しているのに対して、東北3県地域では海岸堤防の被害が甚大であったことなどから、海岸堤防の本復旧が必要な地区海岸数に対する本復旧工事着手済みの地区海岸数の割合は26.7%となっていた。そして、294地区海岸は、本復旧工事に着手しておらず、今後の早期着手に向けて関係機関と調整等を行っている状況となっており、また、必要に応じて本復旧に先立ち段階施工として実施した応急復旧の段階となっている地区海岸が見受けられた。

図表-海岸11 海岸堤防の復旧の進捗状況(地区海岸数ベース)

(内訳は別表-海岸18参照

地域等 本復旧が
必要な地
区海岸数B
A
応急復旧
を実施し
た地区海
岸数
海岸堤防
の本復旧
工事着手
済みの地
区海岸数
B
海岸堤防
の本復旧
工事未着
手の地区
海岸数
C
割合
B/A
本復旧工
事未完了
の地区海
岸数
本復旧工
事完了の
地区海岸
割合
C/A
海岸5県地域計 437 161 143 32.7 99 44 294 67.3
東北3県地域計 401 139 107 26.7 96 11 294 73.3
茨城、千葉両県管内計 36 22 36 100.0 3 33 - -
(注)
復旧調査結果等を用いて作成している。

図表-海岸12 海岸堤防の復旧の進捗状況(施設延長ベース)

(内訳は別表-海岸19参照

地域等 東日本大
震災前の
海岸堤防
の施設延
海岸堤防
の本復旧
対象延長
A
海岸堤防
の本復旧
工事着手
済みの施
設延長
B
海岸堤防
の本復旧
工事未着
手の施設
延長
C
割合
B/A
本復旧工
事未完了
の施設延
本復旧工
事完了の
施設延長
割合
C/A
km km km % km km km %
海岸5県地域計 364.2 295.5 82.2 27.8 54.0 28.2 213.3 72.2
東北3県地域計 278.4 275.6 62.3 22.6 52.6 9.6 213.2 77.4
茨城、千葉両県管内計 85.7 19.9 19.8 99.5 1.3 18.5 0.0 0.5
(注)
復旧調査結果等を用いて作成している。
c 震災を踏まえた復旧の取組状況
(a) 海岸堤防の天端高の設定状況等

本復旧に当たっては、「海岸における津波対策検討委員会」の報告書「平成23年東北地方太平洋沖地震及び津波により被災した海岸堤防等の復旧に関する基本的な考え方」を踏まえて海岸関係省庁が海岸管理者に対して通知した「設計津波の水位の設定方法等について」(平成23年国水海第2号等国土交通省水管理・国土保全局砂防部保全課海岸室長等連名通知)及び「海岸堤防等の粘り強い構造及び耐震対策について」に留意して次のとおり実施することとされている。

ⅰ海岸堤防等の設計に用いる設計津波の水位は、比較的頻度の高い(数十年から百数十年に一度程度)一定程度の津波を用いることとしており、原則として、沿岸域の一連のまとまりのある地域海岸ごとに、津波の痕跡高や歴史記録、文献等の調査で判明した過去の津波の実績と、必要に応じて行う想定に基づくデータを用いて、一定頻度で発生する津波の高さを想定し、その高さを基準として設定する。そして、海岸堤防の天端高は、設計津波の水位を前提として、環境保全、周辺景観との調和、経済性、公衆の利用等を総合的に考慮しつつ、海岸管理者が適切に定める。

ⅱ海岸堤防等の構造については、設計津波の水位を超え、津波が海岸堤防等の天端を越流した場合であっても、施設が破壊又は倒壊するまでの時間を少しでも長くする、あるいは、施設が完全に流失した状態である全壊に至る可能性を少しでも減らすといった減災効果を目指した構造上の工夫を施すこととしており、 海岸堤防が防護対象としている規模の津波を生じさせる地震により、津波到達前に機能を損なわないよう耐震対策を実施する。

ⅲ地殻変動等により地盤沈下が生じた地域においては、津波や高潮に対する安全度が低下していることから、海岸堤防等の被災の有無にかかわらず、最低限、従前の高さまでの復旧を速やかに実施する。

そして、海岸5県地域の本復旧の基礎となる海岸堤防の天端高の設定状況についてみると、図表-海岸13のとおり、79地域海岸において天端高をT.P.2.6mから15.5mに設定しており、このうち設計津波の水位により設定しているのは50地域海岸で、残りの29地域海岸は、高潮により設定している状況となっていた。

図表-海岸13 設計津波の水位等を踏まえた海岸堤防の天端高の設定状況

県名 設計津波の水位の
設定(案)の公表
時期
対象 地域海岸
震災前の海岸堤
防の(計画又は現況)天端高
震災を踏まえた
海岸堤防の
(計画)天端高
設計津波の水
位計により海岸
堤防の天端高
を設定してい
る地域海岸数
高潮により海
岸堤防の天端
高を設定している
地域海岸数
T.P.m T.P.m
岩手県 平成23年9月、10月 県全域 24 3.0~15.5 6.1~15.5 24 -
宮城県 23年9月 県全域 22 1.8~7.2 2.6~11.8 19 3
福島県 23年10月 県全域 14 6.2 7.2~8.7 3 11
茨城県 24年8月 県全域 16 2.8~7.5 5.0~8.0 1 15
千葉県 24年5月 一部の海岸 3 4.0~4.5 6.0~6.5 3 -
79 1.8~15.5 2.6~15.5 50 29
(b) 茨城、千葉両県管内の取組状況

茨城、千葉両県管内において、本復旧工事に着手済みの36地区海岸の復旧の取組についてみると、耐震対策等の検討が必要であったが、海岸堤防の被災状況を考慮した上で、より早期に防護機能を回復させる必要があったために、 原形に復旧している海岸堤防が見受けられ、今後、これらは耐震対策等の追加的対策の検討が必要な状況となっていた。

<事例-海岸5> 原形に復旧した海岸堤防において、耐震対策等の検討が必要となっている事例

I県は、管内の被災した海岸堤防の本復旧対象延長約5.3㎞のうち、平成24年度末現在で約4.9㎞において本復旧を完了していた。

そして、本復旧を実施した一部の海岸堤防については、耐震対策等の検討が必要であったが、施設の被災状況を考慮した上で、より早期に防護機能を回復させる必要があったために、原形に復旧しており、今後、これらは耐震対策等の追加的対策の検討が必要な状況となっていた。

また、(ア)a(a)ⅰ図表-海岸5のとおり、地殻変動等により地盤沈下している中で、沈下した高さを基準に復旧していた海岸堤防が見受けられた。

<事例-海岸6> 地盤沈下した高さを基準に海岸堤防を復旧していた事例

J県は、被災したK地区海岸における本復旧対象延長約43mの海岸堤防において、平成24年度末現在で全て原形に復旧していた。

当該海岸堤防は、地殻変動等により広範囲に約30㎝地盤が沈下していたが、K地区海岸内で海岸堤防に施設被害が生じた区間が点在していて、原形に復旧するに当たり、施設被害の生じていない海岸堤防の天端高に合わせて整備したことから、被災前の天端高に達していない状況となっており、今後、これらは津波対策等の追加的対策の検討が必要な状況となっていた。

(c) 直轄海岸における取組状況

直轄海岸である宮城県内の9地区海岸の復旧の取組についてみると、震災後、設計津波の水位の設定や海岸堤防の天端高の設定をするには相当期間を要することから、応急復旧として、出水期までに、海岸の背後地に空港、終末処理場等の重要施設のある区間等を優先して、盛土等により高潮位までの閉切を実施し、高潮や波浪による浸水被害から背後地を防護する措置を講じていた。

そして、本復旧については、24年2月から工事に着手しているものの、①本復旧対象延長が膨大であったり、②設計津波の水位を基にして海岸堤防の天端高を設定し、被災地のまちづくり計画と調整を図った上で実施する必要があったり、③海岸堤防を粘り強い構造とするための工夫やそれに伴う海岸保全区域の変更手続、用地の確保等が必要であったりすることなどから、本復旧の完了予定は27年度末とされていた。

以上のように、復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等について、東北3県地域及び茨城、千葉両県管内において海岸堤防や海岸の背後地の被災状況等により復旧の進捗状況や取組状況が区々となっているが、東日本大震災のような甚大な被害が再び生ずることのないよう、震災の知見を踏まえて、耐震対策、液状化対策、津波対策等を実施するなどして引き続き計画的かつ着実な早期の復旧等に努めることが必要である。

ウ 砂防事業

都道府県は、「土石流危険渓流および土石流危険区域調査の実施について」(平成11年建設省河砂発第20号建設省河川局長通知)等に基づき、土砂災害のおそれのある区域(以下「土砂災害危険箇所」という。)を把握するための調査を行っている。そして、砂防法(明治30年法律第29号)等に基づき、土砂災害危険箇所等において、国土の保全と民生の安定に資することを目的として、砂防えん堤、集水井、擁壁等の砂防設備、地すべり防止施設及び急傾斜地崩壊防止施設(以下、これらを合わせて「土砂災害防止施設」という。)の整備を行う、通常砂防事業、地すべり対策事業、急傾斜地崩壊対策事業等(以下、これらを合わせて「砂防事業」という。)を実施している。

また、住宅等の新規立地により土砂災害危険箇所が増加傾向にあることなどのため、 その全てについて土砂災害防止施設を整備することによって安全性を確保していくこととした場合、膨大な時間と費用が必要になると見込まれることなどから、土砂災害防止施設の整備と併せて土砂災害の危険性のある区域を明らかにし、その中で警戒避難体制の整備等のソフト対策を充実させていく必要があるなどとして、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)が12年に制定された。

そして、都道府県は土砂災害防止法等に基づき、土砂災害から国民の生命及び身体を保護するために、急傾斜地の崩壊、土石流又は地すべりのおそれのある土地に関する地形、地質、降水等の状況及び土砂災害の発生のおそれがある土地の利用の状況等についての調査(以下「基礎調査」という。)を行っている。

都道府県知事は、基礎調査の結果に基づき、土砂災害の被害を防止するために、土砂災害警戒区域及び土砂災害特別警戒区域(以下、それぞれ「警戒区域」及び「特別警戒区域」といい、これらを合わせたものを「警戒区域等」という。)の指定を行うことができるとされている。そして、警戒区域は、基礎調査の結果により、地形が一定の条件に当てはまり、住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域について指定することとなっている。また、特別警戒区域は、警戒区域のうち、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域について指定することとなっている。

そして、市町村長は、土砂災害防止法第7条第3項により、市町村地域防災計画に基づき、土砂災害に関する情報の伝達方法、土砂災害の発生のおそれがある場合の避難場所に関する事項等を住民に周知させるために、これらの事項を記載した印刷物(以下「土砂災害ハザードマップ」という。)を配布するなど必要な措置を講ずることとなっている。

都道府県は、土砂災害防止施設が被災を受けた場合には、負担法に基づき災害報告をすることとなっている。また、土砂災害防止施設の被災の有無にかかわらず、土砂災害が発生した場合には、「土砂災害による被害状況の提出について」(平成13年国総民第13号等国土交通省砂防部砂防計画課長等連名通知)に基づき、土砂災害の発生場所、被害状況等の報告(以下「土砂災害報告」といい、報告した箇所を「土砂災害報告箇所」という。)を行うこととなっている。

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

災害報告又は土砂災害報告を行っている山形、茨城、栃木、群馬、千葉、新潟、長野各県の計7県(以下「砂防7県」という。)管内及び東北3県管内における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県管内における被災状況等については、国土交通本省において、土砂災害報告等により、災害復旧事業の実施箇所数、災害復旧事業以外の事業による対策の実施状況等を確認した。

a土砂災害防止施設の被災状況

土砂災害防止施設が被災したのは、東北3県管内において35か所、茨城、群馬、長野各県管内において5か所となっていた。

b土砂災害防止施設の整備状況等

砂防7県管内の土砂災害報告箇所等98か所における土砂災害防止施設の整備状況についてみると、土砂災害防止施設が整備されていたのは20か所、整備されていなかったのは78か所となっていた。そして、土砂災害防止施設が整備されていた箇所において、土砂災害防止施設が整備されていたことにより人家等への被災を防いだ事例が見受けられた。

また、東北3県管内の土砂災害報告箇所59か所においても、土砂災害防止施設が整備されていたことにより人家等への被災を防いだ事例が見受けられた。

 

 

<参考事例-砂防> 土砂災害防止施設が機能したことにより、人家等への被災を防いだ事例

福島県は、藤ヶ丘2号地区において土砂災害防止施設として落石防護柵及び待受擁壁を昭和58、59両年度に整備していた。そして、同地区において土砂災害防止施設の背後の斜面の土砂が崩落したが、落石防護柵及び待受擁壁により崩落した土砂を捕捉し、人家等への被災を防いだ。

c警戒区域等の指定状況等と被災状況

砂防7県管内の土砂災害報告箇所等98か所についてみると、土砂災害危険箇所に該当していた箇所が70か所、基礎調査実施済箇所が56か所となっていた。そして、基礎調査が実施済みの56か所についてみると、警戒区域指定済箇所が49か所、このうち土砂災害ハザードマップ配布済箇所は36か所となっており、また、特別警戒区域指定済箇所が41か所となっていた。

また、東北3県管内の土砂災害報告箇所59か所についてみると、土砂災害危険箇所に該当していた箇所が35か所、警戒区域指定済箇所が14か所、特別警戒区域指定済箇所が12か所となっていた(内訳は別表-砂防4参照)。

以上のように、土砂災害が発生した箇所において、土砂災害防止施設の効果が発現した箇所が見受けられた一方で、土砂災害防止施設が整備されていない箇所や、基礎調査等が実施されていない箇所も見受けられたことから、今後も、土砂災害防止施設の整備を進捗させるとともに、基礎調査、警戒区域等の指定等を実施することにより土砂災害の危険性のある区域を明らかにし、土砂災害危険箇所等の安全性の確保を図ることが必要である。

 

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

土砂災害防止施設が被災した箇所や、土砂災害が発生した箇所のうち、そのまま放置すれば人家等に被害を及ぼすおそれがあると懸念される箇所においては、仮設防護工の設置等の緊急的な措置が講じられていた。また、震度5強以上を観測した市区町村においては、地盤が脆(ぜい)弱になっている可能性が高いため、降雨による土砂災害の発生の危険性が通常より高いことが考えられることから、土砂災害警戒情報の発表基準を引き下げた暫定基準を設けて運用するなどしていた。

そして、土砂災害等により土砂災害防止施設が被災した箇所においては、災害復旧事業により土砂災害防止施設の復旧が実施されている。

一方、土砂災害は土砂災害防止施設が整備されていない箇所でも多数発生しており、このような箇所において、放置すれば次期降雨等により土砂災害が発生するおそれなどがある場合、再度災害の防止のために新たに土砂災害防止施設を整備する事業が実施されている。

b 復旧の進捗状況

茨城、群馬、長野各県管内において土砂災害防止施設が被災した箇所は(ア)aのとおり5か所となっているが、24年度末までに復旧は全て完了していた。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況
(a) 災害復旧事業以外の事業による対策

aのとおり、土砂災害防止施設が被災した場合は、災害復旧事業により土砂災害防止施設の復旧が実施されるが、土砂災害防止施設が整備されていない箇所で土砂災害が発生した場合においても、放置すれば次期降雨等により土砂災害が発生するおそれなどがある場合、再度災害の防止のために新たに土砂災害防止施設を整備している。そこで 、災害復旧事業以外の事業による対策の実施状況についてみると次のとおりとなっていた。

ⅰ 災害関連緊急事業

宮城、福島、栃木、新潟各県は、土砂災害防止施設の整備を緊急的に施行することにより、再度災害の防止を図り、もって国土の保全と民生の安定に資することを目的として、災害関連緊急砂防事業、災害関連緊急地すべり対策事業及び災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業(以下、これらを合わせて「災害関連緊急事業」という。)を実施しているが、その事業実施箇所は18か所、事業費51億余円となっていた。

ⅱ 災害関連地域防災がけ崩れ対策事業

宮城、福島、茨城各県管内の市町村は、地域防災上重要で復旧を重点的に推進する必要がある箇所において、次期降雨等による再度災害を防止し、もって民生の安定を図ることを目的として、災害関連地域防災がけ崩れ対策事業を実施しているが、その事業実施箇所は23か所、事業費6億余円となっていた。

ⅲ特定緊急事業

宮城、福島両県は、土砂災害により人的被害、家屋被害等が発生した一定の地区において、被害をもたらしたものと同規模の土砂災害が発生した場合でも、安全が確保されるよう災害関連緊急事業と一体的な計画に基づき、緊急的に土砂災害防止施設の整備を実施する特定緊急事業を実施しているが、その事業実施箇所は2か所、事業費2億余円となっていた。

ⅳ通常砂防事業等

栃木、千葉、新潟、長野各県は、ⅰからⅲまでの各事業の事業採択要件に合致しないなどの箇所のうち、特に対策が必要な箇所において、通常砂防事業等で斜面崩壊対策を実施しているが、その事業実施箇所は13か所、事業費28億余円となっていた。

以上のとおり、ⅰからⅳまでの災害復旧事業以外の事業による対策の実施箇所は計56か所、事業費計88億余円となっていた(内訳は別表-砂防5参照)。

(b) 東日本大震災における特例措置

東日本大震災の甚大な被害に鑑みて、原則的に所有者等が対応すべき住宅宅地の擁壁等の復旧について、このまま放置すれば所有者以外の第三者や、道路、公園等の公共施設等に被害が生ずるおそれがある場合に事業の対象とする特例措置が、災害関連緊急急傾斜地崩壊対策事業及び災害関連地域防災がけ崩れ対策事業については設けられているが、これらの特例措置による事業実施箇所は26か所、事業費9億余円となっていた(内訳は別表-砂防6参照)。

エ 道路整備事業

国土交通省、都道府県等は、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づき、道路網の整備を図り、交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的として、橋りょう等の道路構造物、道路盛土、切土法面、斜面等の土工構造物の築造等を行う道路整備事業を実施している。

道路の種類及びその道路管理者は、道路法等に規定されており、政令で指定する区間(以下「指定区間」という。)内の一般国道(以下「直轄国道」という。)については国土交通大臣が、指定区間外の一般国道及び都道府県道(以下、これらを合わせて「都道府県道等」という。)については都道府県又は政令指定都市(以下「政令市」という。)が、市町村道(政令市の市道を含む。以下同じ。)については市町村がそれぞれ道路管理者とされている。

国土交通省は、国土交通省防災業務計画等に基づき、災害発生時の応急復旧活動等に資する緊急輸送道路等の橋りょうの耐震化、道路盛土並びに切土法面及び斜面の防災対策、避難路の整備等を推進している。

そして、緊急輸送道路については、地震発生直後から必要となる緊急輸送を確保するために必要な道路であり、道路施設そのものの耐震性が確保されているとともに、災害発生時に道路網として機能することが重要であり、 都道府県及び市町村は、緊急輸送道路をそれぞれの地域防災計画上の緊急輸送計画に位置付けて、道路整備の方法、優先度等を定め、道路管理者はこれによるなどして緊急輸送道路の耐震化等を行っている。また、避難路については、住民を広域避難地等に迅速かつ安全に避難させるための道路であり、都道府県又は市町村は、あらかじめ避難路を選定 し、選定された路線については、それぞれの道路管理者が、橋りょうの耐震化、道路拡幅等の必要な整備を実施している。

国土交通省、都道府県及び市町村は、橋りょうについては道路橋示方書等、土工構造物については道路土工指針 類等に基づいて、要求される耐震性能等を確保するよう道路施設の設計を行っており、既設の橋りょう及び土工構造物の耐震対策については、 耐震点検 の結果に基づくなどして、耐震対策工事の必要性を把握し、耐震対策工事の重点的な推進を図っている。

(ア) 被災状況及び応急復旧活動における活用状況

2地方整備局管内並びに山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、長野各県の計8県(以下「道路8県」という。)及び東北3県の計11県(以下「道路11県」という。)管内において整備された道路施設における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県管内の被災状況等については、①都道府県及び政令市から国土交通省に対して随時行われる被災に伴う交通規制の状況、復旧の進捗状況等の報告(以下「道路災害定例報告」という。)、②国総研及び独立行政法人土木研究所が実施した都道府県道等及び市町村道における道路施設の被災状況についての調査結果等を基に集計及び分析を行った。

a 緊急輸送道路及び避難路等の被災状況等

東日本大震災においては、最大震度7の強い地震動、津波高10m以上の津波及び広範囲にわたる液状化が発生した。そして、2地方整備局管内の直轄国道並びに道路11県管内の都道府県道等及び市町村道において、橋りょう294橋、道路盛土121か所、切土法面及び斜面78か所等が被災した。これらの被災は、1か所が被災した場合であっても、当該箇所を含む一定区間の通行が不能となるなど緊急輸送等に与える影響は甚大であり、道路災害定例報告によると、直轄国道の65区間並びに都道府県道等及び市町村道の634区間が全面通行止めとなり、道路網が寸断されるなど、車両等の通行に著しい支障が生ずる事態となっていた。

(a) 緊急輸送道路の被災状況

道路11県地域において、緊急輸送道路に選定されている2地方整備局管内の直轄国道32路線、道路11県管内の都道府県道等及び市町村道2,551路線、計2,583路線の主な被災状況についてみると、図表-道路1のとおり、橋りょう215橋、道路盛土54か所、切土法面及び斜面24か所が被災していた。

図表-道路1 緊急輸送道路の被災状況

(内訳は別表-道路8参照)

地域 道路種別 被災箇所
橋りょう 道路盛土 切土法面及び斜面
箇所 箇所
東北3県地域 直轄道路(10路線) 159 17 3
注(2)都道府県道等及び市町村道(794路線) (15)
道路8県地域 直轄道路(22路線) 2 9 -
注(3)都道府県道等及び市町村道(1,757路線) 39 (28) (21)
合計2,583路線(直轄国道32路線、都道府県道等及び市町村道2,551路線) 215 54 24
注(1)
道路盛土並びに切土法面及び斜面については、被災箇所が明確に分類できるもののみ集計している。
注(2)
東北3県地域の都道府県道等及び市町村道については橋りょうのみ集計している。また、橋りょうの集計については、「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震土木施設災害調査速報」(国総研及び独立行政法人土木研究所)の調査対象となっている52橋のうち被災を受けた緊急輸送道路の橋りょう15橋を対象としている。
注(3)
道路8県地域の市町村道の道路盛土並びに切土法面及び斜面については、政令市の市道分のみ集計している。

これらの被災により、上記の緊急輸送道路2,583路線のうち、政令市が管理していない市町村道を除いた路線において、全面通行止めになった区間は、直轄国道の12路線64区間、都道府県道等及び政令市の市道の174路線307区間の計186路線の371区間となっていた。

そして、緊急輸送道路における橋りょう、道路盛土並びに切土法面及び斜面の被災状況は次のとおりとなっていた。

ⅰ 橋りょう

道路11県地域の緊急輸送道路における、被災した橋りょう215橋の主な被災内容及び耐震対策工事の実施状況等についてみると、図表-道路2のとおり、地震動により被災した橋りょう170橋のうち、落橋又は落橋しないまでも橋りょうとしての機能を喪失した橋りょうは2橋、橋脚の座屈や鉄筋の破断又は変形が大きな損傷のあった橋りょうは1橋となっており、いずれも落橋防止構造が設置されていないなど耐震対策工事が実施されていない橋りょうで、耐震性が低いとされる昭和55年より前の道路橋示方書が適用されている橋りょうとなっていた。

図表-道路2 道路11県地域の緊急輸送道路における橋りょうの主な被災内容等

(内訳は別表-道路9参照)

被災状況 被災橋りょう数
地震動又は
津波による
被災
主な被災内容 耐震対策工事実
施橋りょう数
耐震対策工事未
実施橋りょう数
うち昭和55年より
前の道路橋示方
書摘用橋りょう数
全被災橋
りょう数
215橋
地震動によ
り被災した
橋りょう数
170橋
落橋又は機能を喪失する
損傷
2 - 2 2
橋脚の座屈や鉄筋の破断又は変形
が大きな損傷
1 - 1 1
橋脚の鉄筋の一部破断、はらみだ
し、コンクリートの亀裂
、傾斜
28 21 7 3
支承又はその周辺部の損傷 97 78 19 11
橋台背面部の陥没 134 123 11 5
津波により
被災した橋
りょう数
45橋
橋桁の流出 10
橋台背面盛土部の流出 4
注(1)
津波により被災した橋りょうについては、主な被災内容のみ記載している。
注(2)
1橋りょうに複数の「主な被災内容」が該当する場合や「主な被災内容」のいずれも該当しない場合があるため、被災橋りょう数の合計は全被災橋りょう数とは一致しない。
注(3)
東北3県の都道府県道及び市町村道の橋りょうで耐震対策工事の実施の有無が不明な場合は、耐震対策工事未実施として分類している。

<事例-道路1> 耐震対策工事の必要な橋りょうが落橋した事例

A県は内陸部の高速自動車国道から太平洋沿岸部の幹線道路までを横断的に結ぶ一般国道Bを緊急輸送道路に選定しており、同路線は沿線の市役所庁舎、広域避難地等16か所の防災拠点に接続する路線となっている。

C橋(橋長404.6m)は、一般国道Bが湖沼を渡る地点に昭和43年に架設された21径間の橋りょうである。そして、C橋は、55年より前の道路橋示方書が適用され、耐震対策工事が必要な橋りょうであるが、特殊な橋脚形式であり、耐震対策工事が困難であることなどから、A県は、幅員が狭小な前後区間の拡幅改良事業に合わせて架け替えを行うこととし、隣接した位置に、平成14年度から、新しい橋りょうの築造工事に着手していた。しかし、工事に必要な用地が確保できず、工事に遅れが生じている中で、東日本大震災が発生し、C橋の3径間の橋桁が落橋するなどの事態となった。

このため、道路延長20km以上のう回が必要となるなど、一般国道Bを利用した沿道の防災拠点で実施される応急復旧活動に支障が生ずることとなった。

なお、東日本大震災後の24年4月に新橋が供用開始されており、一般国道Bの交通は確保され、C橋については24年度末現在において撤去工事を実施しているところであった。

また、上記の地震動により被災した橋りょう170橋のうち、耐震対策工事が実施済みの橋りょうの主な被災内容についてみると、地震動による被災は、橋りょう本体が全壊するような損傷ではないものの、橋台背面部に陥没が生じていた橋りょうが123橋、支承又はその周辺部に損傷が生じていた橋りょうが78橋と大部分を占めていた。

そして、津波により被災した橋りょう45橋のうち、橋桁が流出したり、橋台背面盛土部が流出したりしていて、橋りょうとしての機能を喪失した橋りょうは14橋となっていた。 このように橋桁等が流出した状況の中で、県道及び町道を直轄国道に編入して整備することにより、交通の確保を図っていた事例が見受けられた。

<参考事例-道路1> う回路に設定した県道等を直轄国道として整備して交通確保を図った事例

東北地方整備局管内の宮城県本吉郡南三陸町歌津伊里前(いさとまえ)地内の歌津大橋(橋長303.6m)は、同地区沿岸部の唯一の幹線道路であり、宮城県の緊急輸送道路となっている直轄国道の一般国道45号が伊里前川及び伊里前湾を渡る地点に架設された、12径間の橋りょうである。

同橋りょうは、津波により8径間の橋桁が流出するなどして、同橋りょうを含む一定区間の通行が不能となったため、東北地方整備局は緊急輸送確保のため当該区間に接続する県道及び町道の約1.2km区間をう回路に設定した。そして、歌津大橋を含めた被災区間を復旧するまでに相当期間を要することが見込まれたことから、同整備局は、当該う回路区間を直轄国道に一時編入することとして約1.2km区間の復旧を行い、また、拡幅等の整備を実施して、交通の確保を図っていた。

ⅱ 道路盛土並びに切土法面及び斜面

国土交通省は、盛土のり面の緊急点検要領(平成21年国道防第8号等国土交通省道路局国道・防災課長等連名通知)を作成し、大規模な盛土崩壊のおそれのある道路盛土について、平成21年度から点検及び点検結果に基づき対策工事を実施している。また、切土法面及び斜面について、国土交通省、都道府県及び市町村は、従来、防災総点検実施要領(平成8年建設省道防発第6号建設省道路局長通知)により点検及び点検結果に基づき対策工事を実施している。

そこで、道路11県地域の緊急輸送道路において被災した道路盛土54か所、切土法面及び斜面24か所のうち、地震動により被災した道路盛土45か所、切土法面及び斜面23か所の対策工事の実施状況についてみると、図表-道路3のとおり、直轄国道の道路盛土については、対策工事が必要とされた箇所で対策工事が完了していない3か所が被災していた。また、都道府県道等及び市町村道は、点検の実施対象とはなっていないが、茨城、栃木、千葉、長野各県において道路盛土が被災した箇所は28か所となっており、中には当該箇所の路面が全幅員にわたって崩壊するような大規模な盛土崩壊が見受けられた。切土法面及び斜面については、対策工事が必要とされた箇所で対策工事が完了していない箇所については、直轄国道1か所、都道府県道等及び政令市の市道3か所が被災していた。なお、被災した箇所の中には、防災総点検実施要領において点検対象に該当するものの点検を行っていない箇所が、都道府県道等及び政令市の市道3か所で見受けられた。

図表-道路3 道路11県地域の緊急輸送道路において被災した道路盛土並びに切土法面及び斜面における対策工事の実施状況

道路種別 道路盛土 切土法面及び斜面
全被災箇
所数
全被災箇
所数
地震動に
よる被災
箇所数
地震動に
よる被災
箇所数
対策工事
が必要と
された箇
所数
対策工事
が必要と
された箇
所数
対策工事
完了箇所
対策工事
未完了箇
所数
対策工事
完了箇所
対策工事
未完了箇
所数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
直轄国道 26 17 3 - 3 3 3 1 - 1
都道府県道等及び政令市の市道 28 28 21 21 4 1 3
54 45 3 - 3 24 23 5 1 4

また、津波により、道路盛土の流出、切土法面の浸食等が10か所で発生していた。

(b) 避難路等の被災状況等

ⅰ避難路等の被災状況

緊急輸送道路に選定されていない路線であっても、災害発生時に住民が避難するために利用する道路があり、道路11県管内における緊急輸送道路に選定されていない都道府県道等及び市町村道の主な被災状況についてみると、橋りょう79橋、道路盛土67か所、切土法面及び斜面54か所が被災していた。

そして、このうち、橋りょうの主な被災内容及び耐震対策工事の実施状況等についてみると、図表-道路4のとおり、落橋又は落橋しないまでも橋りょうとしての機能を喪失した橋りょうが3橋、橋脚の座屈や鉄筋の破断又は変形が大きな損傷のあった橋りょうが7橋となっており、これらは、いずれも耐震対策工事が実施されていない橋りょうで、昭和55年より前の道路橋示方書が適用されている橋りょうとなっていた。

図表-道路4 道路11県管内の緊急輸送道路以外の道路における橋りょうの主な被災内容等

(内訳は別表-道路10参照)

被災状況 被災橋りょう数
地震動又は
津波による
被災
主な被災内容 耐震対策工事実
施橋りょう数
耐震対策工事未
実施橋りょう数
うち昭和55年より
前の道路橋示方
書摘要橋りょう数
全被災橋
りょう数
79橋
地震動によ
り被災した
橋りょう数
68橋
落橋又は機能を喪失する損傷 3 - 3 3
橋脚の座屈や鉄筋の破断又は変形
が大きな損傷
7 - 7 7
橋脚の鉄筋の一部破断、はらみだ
し、コンクリートの亀裂、傾斜
13 3 10 10
支承又はその周辺部の損傷 36 6 30 27
橋台背面部の陥没 16 2 14 12
津波により
被災した橋
りょう数
11橋
橋桁の流出 8
橋台背面盛土部の流出 3
注(1)
津波により被災した橋りょうについては、主な被災内容のみ記載している。
注(2)
1橋りょうに複数の「主な被災内容」が該当する場合や「主な被災内容」のいずれも該当しない場合があるため、被災橋りょう数の合計は全被災橋りょう数とは一致しない。

また、道路8県において、道路が被災した83市町村のうち、避難路の選定を行っている市町村は3市村となっていた。そして、この3市村が避難路に選定している都道府県道等及び市町村道99路線の被災状況についてみると、橋りょう1橋、道路盛土2か所が被災し、これらの被災により、2路線の2区間が全面通行止めとなっていた。

<事例-道路2> 道路盛土が被災して避難路が全面通行止めとなった事例

D県E郡F村の村道Gは、F村の幹線道路であり、F村の地域防災計画において、避難者が一時的な避難先からF村指定の避難地に避難する際に利用する避難路に選定されている。

村道Gは、道路盛土部が地すべりにより崩壊し、道路の波打ち、陥没、亀裂等が発生して、全面通行止めとなり、交通が確保されるまでに約5日間を要し、災害発生時の住民の避難行動に支障が生ずることとなった。

ⅱ 避難路に関する情報提供

前記の3市村が避難路に選定していた99路線のうち、13路線は自らが管理を行っていない都道府県道等となっていた。そして、当該市村において、これらの路線の被災情報は、住民の避難行動が円滑に行われるよう避難者を誘導するのに重要となるが、災害発生時に、市村が当該路線の被災情報を迅速に把握できていなかった事態が見受けられた。

また、東日本大震災においては、津波が発生し、高台等への避難が必要となった。このため、国土交通省は、避難の際に利用する道路の海抜情報が重要であるとして、地点ごとの海抜情報を常時提供できるよう、道路施設等に海抜情報を表示するシート(以下「海抜表示シート」という。)の設置を推進している。そして、平成24年度末現在の設置状況は、直轄国道においては、計画延長4,301㎞に対して3,612㎞(84.0%)、都道府県道等及び市町村道においては、計画延長9,518㎞に対して7,248㎞(76.2%)となっていた。

以上のように、緊急輸送道路、避難路等の被災状況等について、緊急輸送道路については、耐震対策工事を実施していない橋りょうの甚大な被害や、津波により橋桁が流出した被災等により被災箇所を含む一定区間が全面通行止めとなり、応急復旧活動に支障が生じていた事例が見受けられたことなどから、緊急輸送道路の耐震対策工事等を計画的かつ着実に実施するとともに、東日本大震災の知見を踏まえて、広域的な緊急輸送を確実に行える緊急輸送道路網の見直し、整備等を推進していくことが重要である。 また、避難路については、橋りょう等が被災して、全面通行止めとなった事例や、市町村が、避難路に選定した都道府県道等の被災情報を迅速に把握できていなかった事例が見受けられたことなどから、避難路等の耐震対策工事等を計画的かつ着実に実施するとともに、避難路の被災状況等の情報の迅速な提供、海抜表示シートの設置等について、市町村における住民の避難行動が円滑に行われるよう取り組むことが必要である。

b 応急復旧活動における道路の活用状況等

(a) 緊急輸送道路

ⅰ 緊急輸送道路の活用状況

太平洋沿岸部において、直轄国道の一般国道45号、一般国道6号のほか重要な路線が寸断され、沿岸部の南北方向の通行が長期間にわたって不能となった。一方、内陸部の直轄国道の一般国道4号は、東北3県を縦断し、東北3県においていずれも緊急輸送道路に選定されている重要路線であり、優先的に耐震化が行われていたことなどから、被災が比較的軽微で、地震発生後も交通が確保されていた。

そして、東北地方整備局は、一般国道4号を緊急輸送の軸として、被災が比較的軽微で沿岸部の主要な防災拠点に至る東西方向に横断する15路線(以下「優先15路線」という。)の道路啓開(注30)等を優先的に実施し、震災から4日間で優先15路線の交通を確保した。これらの路線は県境を越えた広域的な緊急物資の輸送に主要な役割を果たし、国は、地震発生から5月9日までの59日間に、これらの路線を活用して延べ2,032地点へ食料品約1,900万食、飲料水約460万本、毛布等約46万枚等の緊急物資を輸送した。

(注30)
道路啓開道路上の障害物を除去し、緊急車両等の走行に支障のない程度に道路陥没、亀裂等の舗装破損箇所の応急復旧を行うこと

<参考事例-道路2> 緊急輸送道路が応急復旧活動に活用された事例

岩手県が管理する一般国道283号は、花巻市内で一般国道4号と接続し、遠野市を経由して防災拠点港湾となっている釜石港に至る防災上重要な路線となっている。このため、同路線は、岩手県の緊急輸送道路に選定され、橋りょうの耐震対策工事が優先的に実施されるなど、重点的な整備が行われていた。

そして、同路線には、遠野市が整備した遠野運動公園(敷地面積約29ha)が隣接している。同市は、過去の震災経験等を踏まえて、遠野運動公園を地震発生時に津波被害が想定される三陸地域の市町村の後方支援拠点として使用することとしており、同公園には、備蓄倉庫、臨時ヘリポートとなる多目的グランド等の災害応急対策施設を整備し、毎年自衛隊、関係市町村等と合同訓練を行っていた。

東日本大震災においては、同路線の橋りょうの被災は軽微であったため、優先15路線の一つとして、優先的に道路啓開が行われ、同公園を拠点とした自衛隊、警察、消防等の救助、救急活動や食料、水等の緊急物資の輸送のための緊急輸送道路として地震発生直後から活用されることとなった。

ⅱ 道路構造による減災効果

東日本大震災において、盛土構造により整備された高規格道路は、被災がないか又は比較的軽微であったため、緊急輸送や避難するための道路として活用されただけでなく、高台となっている盛土上の道路敷地が津波からの緊急の避難場所として活用された。また、盛土構造の連続する区間において、津波がせき止められ内陸側への浸水を抑止し、津波浸水被害を軽減した事例が直轄国道において見受けられた。

<参考事例-道路3> 高台の道路敷地が緊急の避難場所として活用された事例

東北地方整備局管内の岩手県下閉伊郡岩泉町小本地内において、岩泉町立小本小学校に隣接する一般国道45号は、盛土構造により整備され、同小学校の敷地からは10m程度高台に位置している。

東北地方整備局は、同小学校が海岸部に近く、背後が急峻な崖に囲まれていて津波来襲時に高台へ避難する適当な経路がないことから、平成21年3月に、同小学校の敷地から一般国道45号の道路敷地に緊急的に避難することが可能となるよう、道路盛土の斜面沿いに避難用階段を整備していた。また、22年9月には、津波被害を想定して、同小学校による当該避難用階段を利用した避難訓練が行われていた。

同小学校は、津波により、校舎の1階、体育館及び運動場が津波浸水被害を受けたが、88名の児童は、津波到達前に、避難用階段を利用して、一般国道45号の道路敷地に避難することができた。

参考事例-道路4> 盛土構造の道路区間が津波浸水被害を軽減した事例

東北地方整備局は、福島県相馬市の市街地を縦断する一般国道6号を海側に回避するバイパス道路として、福島県相馬市内から同県相馬郡新地町までの間に、延長9.9kmの相馬バイパスを整備し、平成20年3月から供用している。そして、同バイパスは、大部分が盛土構造により整備され、最大盛土高さは約10mとなっている。

相馬市の海岸部では、津波が海岸堤防を越えて背後地に侵入したが、相馬バイバスの盛土構造が連続する区間では津波がせき止められ、これより内陸側への侵入が軽減されるなどの津波被害軽減効果が確認された。

(b) 道の駅

国土交通省は、一般国道等において、国が行う直轄事業又は地方公共団体が行う補助事業により、道の駅を整備している。道の駅においては、道路管理者である国又は都道府県等が、駐車場、休憩所、トイレ、道路情報提供装置等の施設を、市町村等が、地域の振興に寄与する物産館、駐車場等の施設等を、それぞれ整備している。

そして、東日本大震災においては、多数の道の駅が防災拠点等として活用されており、東北地方整備局が整備した東北3県地域の道の駅の活用状況についてみると、13か所が防災拠点等として応急復旧活動等に活用されていた。これらの道の駅のうち、市町村等によってあらかじめ地域防災計画上の防災拠点等として指定されていたものは7か所であり、残りの6か所については、指定されていないものの、駐車場の広大なオープンスペースや道路情報提供装置等が整備されていたことから、避難地として活用されるなど、道の駅の防災機能が発揮されることとなった。

<参考事例-道路5> 道の駅が避難地として活用された事例

岩手県宮古市の道の駅「たろう」は、一般国道45号に隣接し、東北地方整備局が駐車場、道路情報提供装置等を整備し、宮古市が物産館等を整備して平成7年から供用している。そして、東北地方整備局は、同市と協議等を行い、20年に、災害発生時に、被災者へ情報、電気、避難地等を供給することを目的として、非常用電源設備、備蓄倉庫、貯水槽等を備えた津波防災・道路情報館を工事費約3億円で整備していた。また、同道の駅は、同市の地域防災計画において避難地に指定されており、東北地方整備局と同市は、災害発生時の施設の運用方法等を定めた協定を締結していた。

同市内の沿岸部は津波被害が甚大であったが、同道の駅は津波被害を受けておらず、速やかに避難者を受け入れ、事前に締結していた協定等に基づき、避難地としての運営は同市が、施設の機器類等の運転管理等は東北地方整備局が行うなど、地震発生直後から約5日間にわたって避難地として活用されることとなった。

また、東日本大震災における被災が広範囲にわたったことから、防災拠点等として活用された道の駅は、その範囲も東北3県地域にとどまらず、栃木県内の道の駅が首都圏から救援に向かう自衛隊等の中継基地として活用されたり、新潟県内の道の駅が救援物資の集積地として活用されたりするなどしていた。

25年次に検査の対象とした33道府県から東北3県を除いた30道府県に所在する道の駅643か所のうち、非常用電源、貯水槽等の防災設備の整備を行い防災機能の強化が図られている道の駅は181か所、地域防災計画上防災拠点等に指定されている道の駅は208か所となっており、また、この208か所のうち、災害発生時の管理者ごとの作業分担、運用方法等について具体的な協定等が締結されているのは29か所となっていた(内訳は別表-道路11参照)。

以上のように、応急復旧活動における道路の活用状況等について、優先的に耐震化が実施されていて被災が軽微であった緊急輸送道路が広域的な緊急輸送に活用されたり、盛土構造の連続する区間の道路が津波浸水被害を軽減したりした事例や、道の駅が防災拠点等として活用された事例が見受けられたことなどから、広域的な緊急輸送を確実に行えるよう緊急輸送道路網を構築するとともに、道路の活用方法等について地域防災計画等と十分に調整を行いつつ道路の整備を推進していくことが重要である。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

道路が被災した場合には、被災直後の緊急段階に緊急措置を行い、その後、応急復旧、本復旧を行うという段階を経て交通を確保することとなる。

被災直後の緊急段階においては、道路管理者は、概略的な被災状況及び重大な損傷等の有無を把握するための緊急調査を行い、二次災害につながる可能性のある損傷等が認められる場合には、通行規制、二次災害の防止対策等の緊急措置を実施する。

応急復旧においては、道路管理者は、道路構造物等について被災状況を調査し、これに基づき復旧を段階的に実施し、応急的に交通を確保する。また、道路管理者は、被災規模が大きく、被災した箇所を含む一定区間の交通の確保に相当期間を要する場合には、仮設道路の設置やう(・)回路の設定、確保等を行っている。

そして、本復旧においては、道路構造物等の被災状況の詳細調査結果に基づき、原形に復旧することが基本となるが、地域防災計画等を踏まえて、復旧する道路に求められる機能、水準等により、道路線形の変更、必要な耐震性能等を確保するための機能の向上等を図る場合がある。

b 復旧の進捗状況

(a) 東北3県地域の進捗状況

東北3県地域の緊急輸送道路に選定されている直轄国道において、(ア)a(a)のとおり、橋りょう159橋、道路盛土17か所、切土法面及び斜面3か所が被災していた。そして、これらの24年度末現在の復旧状況は、図表-道路5のとおりとなっており、橋りょうについては、津波で橋桁又は橋台背面盛土部が流出するなどした7橋を除き、24年度末までに本復旧を完了又は25年度完了見込となっていた。そして、当該7橋が架設されていた区間については、本復旧に当たって、新橋の架設位置及び道路線形の変更も含めた地域の復旧及び整備計画等との調整が必要となっており、仮設橋りょう又は仮設道路を設置するなどの応急復旧段階にとどまっている状況となっていた。

図表-道路5 東北3県地域の緊急輸送道路に選定されている直轄国道の復旧状況

構造物 被災箇所数 本復旧の完了箇所数 本復旧の未完了箇所数
平成23年度末 平成24年度末 本復旧工事
着手箇所
本復旧工事
未着手箇所
25年度
完了見込
26年度以降
完了見込
うち道路応急
復旧段階の
箇所数
橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所
橋りょう 159 59 96 - 63 56 7 7
道路盛土 17 15 17 - - - - -
切土法面及び斜面 3 2 3 - - - - -

仮設橋りょうは、本設橋りょうのような耐震性や耐久性を考慮した構造となっていないが、今後も相当期間にわたって設置され、その間相当量の交通が想定される状況となっていた。

<事例-道路3> 被災橋りょうの復旧が応急復旧段階にとどまっていた事例

H整備局のI橋(橋長182.1m)は、一般国道Jの河川を渡る地点に架設された6径間の橋りょうである。

I橋は、津波により、全径間の橋桁及び橋脚1基が流出するなどして、I橋を含む一定区間の通行が不能となった。そして、H整備局は、I橋架設地点の下流側に隣接して幅員10mの仮設橋りょうを設置する応急復旧を行い、平成23年6月26日に当該区間の交通を確保していた。

しかし、23年6月26日以降の24時間当たりの平均交通量が推定7,500台となっているなど、今後も相当量の交通量が見込まれている中で、本復旧に当たっては、河川堤防の嵩上げ改修計画、地域の集団移転計画等に伴う橋りょう前後の道路線形の変更計画等との調整により、架設位置等の検討が必要となっており、仮設橋りょうのまま交通を確保することが相当期間に及ぶことが見込まれる状況となっていた。

そして、被災により全面通行止めとなった直轄国道5路線54区間並びに都道府県道等及び政令市の市道126路線241区間、計131路線295区間における災害発生後の交通確保の状況についてみると、図表-道路6のとおりとなっており、災害発生後の復旧において重要とされる被災後3日以内に確保されたのは、直轄国道17区間(31.5%)、都道府県道等及び政令市の市道71区間(29.5%)となっていた。また、直轄国道については、24年2月までに全路線の交通が確保されていたが、都道府県道等及び政令市の市道については、24年度末時点で、橋桁が流出した橋りょうの復旧に時間を要していることなどから、10路線の10区間が引き続き全面通行止めとなっていた。

図表-道路6東北3県地域において全面通行止めとなった区間の交通確保状況

(内訳は別表-道路12参照

道路種別 全面通行止め区間 左の区間の交通確保までの期間
区間数 左の該当路線数 3日以内 4日から1ヶ月未満 1ヶ月以上
交通未確保区間
区間数 左の該当路線数
区間 路線 区間 区間 区間 区間 路線
直轄国道計 54 5 17 22 15 - -
都道府県道等及び政令市の市道計 241 126 71 77 93 10 10
合計 295 131 88 99 108 10 10
(b) 道路8県地域の進捗状況

道路8県地域において緊急輸送道路に選定されている直轄国道並びに都道府県道等及び市町村道において、(ア)a(a)のとおり、直轄国道において、橋りょう2橋、道路盛土9か所、都道府県道等及び市町村道において、橋りょう39橋、道路盛土28か所、切土法面及び斜面21か所が被災していた。そして、これらの24年度末現在の復旧状況は、図表-道路7のとおりとなっており、本復旧工事実施中で25年度完了見込となっている橋りょう2橋並びに切土法面及び斜面1か所を除き24年度末までに本復旧を完了していた。

図表-道路7 道路8県地域の緊急輸送道路の復旧状況

(内訳は別表-道路13参照

道路種別 構造物 被災箇所数 本復旧の完了箇所数 本復旧の未完了箇所数
平成23年度末 平成24年度末 本復旧工事着手済箇所数 本復旧工事未着手箇所数
橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所 橋、箇所
直轄国道 橋りょう 2 1 2 - -
道路盛土 9 5 9 - -
切土法面及び斜面 - - - - -
都道府県道等及び市町村道 橋りょう 39 17 37 2 -
道路盛土 28 19 28 - -
切土法面及び斜面 21 10 20 1 -

そして、橋りょうの復旧に当たり橋台背面部の陥没、支承の損傷等が多数見受けられたことから、本復旧完了後、橋台背面部や支承の点検を行い、地域防災計画上重要となる路線等において、必要に応じて改良工事を行うなどしている路線等が見受けられた。

また、被災により全面通行止めとなった直轄国道7路線10区間並びに都道府県道等及び政令市の市道48路線66区間、計55路線76区間における災害発生後の交通確保の状況についてみると、図表-道路8のとおりとなっており、災害発生後の復旧において重要とされる被災後3日以内に確保されたのは、直轄国道8区間(80.0%)、都道府県道等及び政令市の市道31区間(47.0%)となっていた。そして、直轄国道は東日本大震災が発生した23年3月中に、都道府県道等及び政令市の市道は24年11月までに全区間の交通が確保されていた。

図表-道路8 道路8県地域において全面通行止めとなった区間の交通確保状況

(内訳は別表-道路14参照

道路種別 全面通行止め区間 左の区間の交通確保までの期間
区間数 左の該当路線数 3日以内 4日から1ヶ月未満 1ヶ月以上
全線交通確保年月
区間 路線 区間 区間 区間
直轄国道 10 7 8 2 - 平成23年3月
都道府県道等及び政令市の市道計 66 48 31 16 19 24年11月
合計 76 55 39 18 19
c 震災を踏まえた復旧の取組状況

(a) 東北3県地域の取組状況

東日本大震災において、一般国道45号が寸断されて、三陸沿岸部の緊急輸送等に支障が生ずる状況となった。

このため、国土交通省は、既に一部区間の供用を開始している三陸沿岸部の直轄国道4路線及び都道府県道等1路線の高規格道路を復興道路及び復興支援道路として位置付け、整備を早期に行うこととしている。そして、路線の設計に当たっては、東日本大震災を踏まえて、津波発生時においても緊急輸送道路等としての機能が確保されるよう、津波浸水予測区域をう(・)回する路線を設定したり、避難者が高台の道路敷地に避難できる避難用階段を設置したりするなどの防災機能を考慮した道路とすることとして、23年11月に新規に18区間計228.7kmを平成23年度第3次補正予算の補正事業費約930億円で事業化し、早期の事業推進を図っている(図表-道路9参照)。

図表-道路9 復興道路及び復興支援道路の事業実施状況等

道路種別 併用延長 事業中延長 新規事業化延長
km km km
直轄国道 184 131 224
都道府県道等及び政令市の市道計 15 10 4.7
合計 199 141 228.7

また、盛土構造の道路区間が津波浸水被害を軽減した事例(参考事例-道路4)があったことから、災害に強い地域づくりのため、津波浸水の防御を考慮した盛土構造が有効であるとされ、東北3県の復興交付金事業計画等によると、2県7市町は、19路線の延長計74.3kmの道路整備を盛土構造で行い、これを活用した津波対策を推進することとしていた。

(b) 道路8県地域の取組状況

東日本大震災において、茨城、千葉両県の市町村道では、液状化による被災が著しく、道路路面の崩壊等が462路線の513か所で生じていた。

上記513か所の復旧における液状化対策の実施状況についてみると、図表-道路10のとおり、大半は原形に復旧しており、液状化対策を実施していたのは26か所となっていた。

図表-道路10茨城、千葉両県における液状化により被災した箇所の復旧状況

県名 被災箇所 原型に復旧した箇所 液状化対策実施箇所
市町村数 路線数 箇所数 市町村数 路線数 箇所数 市町村数 路線数 箇所数
茨城県 5 37 42 4 23 23 2 14 19
千葉県 15 425 471 15 419 464 2 7 7
合計 20 462 513 19 442 487 4 21 26
(注)
1市町村又は1路線において、原形に復旧した箇所と液状化対策を実施した箇所がある場合があるため、「原形に復旧した箇所」と「液状化対策実施箇所」の市町村数及び路線数の合計が「被災箇所」の市町村数及び路線数とは一致しない場合がある。

液状化は、一般的に、地区全体が湿地等の埋立地となっている箇所等、液状化しやすい地盤に生ずる現象であり、対策工事の多くは、広範囲かつ大規模な工事となる。このことから、19市町の442路線487か所においては、早期の交通の確保を優先するなどのために、原形に復旧する工事を行っており、今後、地盤の改良等の液状化対策の必要性の検討を要する状況となっていた。

<事例-道路4> 原形に復旧していて、対策の検討が必要となっている事例

K県L市は、市内の3,500haが液状化により被災し、道路においては、市道38路線の51か所において大規模な路面崩壊等が生じた。

被災した地区は、河道又は湿地であった箇所を埋め立てた地区であり、地盤が液状化する可能性が高い地域となっているが、L市は、地盤の調査、液状化対策工法の検討、地域の整備計画との調整等に相当期間を要するとして、早期の交通確保を優先し、復旧に当たり、全ての箇所について、原形に復旧する工事を行っていた。

このため、当該地区における道路は、大規模地震の発生時等に、再び液状化により被災するおそれがあることなどから、今後、地区全体の液状化対策と合わせた追加的対策を検討する必要がある状況となっていた。

また、4市の21路線26か所では、当該箇所が旧河道や埋立地であるため液状化の危険性が高いこと、東日本大震災の液状化により地盤が被災前よりも脆弱化していることが明らかとなったことなどから、地盤改良を行うなど液状化対策を行った上で道路路面の復旧を行っていた。

以上のように、復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等について、被災した橋りょうの復旧が仮設橋りょう等による応急復旧段階にとどまっていた事例や、液状化により被災した箇所を原形に復旧していて、今後、地盤の改良等の液状化対策の検討を要する事例が見受けられたことなどから、被災した道路の復旧に当たっては、地域防災計画等と十分に調整を行いつつ、全面通行止め区間の交通確保をできるだけ早期に行うとともに、仮設橋りょうについて注意深く管理することや 東日本大震災での知見を踏まえた道路構造が持つ減災機能の活用及び液状化対策の検討を行うことなどにより、道路の復旧及び整備を計画的かつ着実に実施していくことが重要である。

オ 港湾整備事業

国土交通省、地方公共団体等の港湾管理者は、港湾法(昭和25年法律第218号)等に基づき、環境の保全に配慮しつつ、港湾の秩序ある整備と適正な運営を図るとともに、航路を開発し、及び保全することを目的として、 航路等の水域施設、防波堤等の外郭施設、岸壁等の係留施設等(以下、これらを合 わせて「港湾施設」という。)の整備を行う港湾整備事業等を実施している。

港湾整備事業は、港湾施設の建設、改良等を実施するもので、整備された港湾施設は、国土交通省が直轄事業で整備した港湾施設も含めて港湾管理者が管理することとなっている。

国土交通省は、阪神・淡路大震災による港湾施設の被害状況等を踏まえて、8年に「港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針」(以下「港湾の地震対策基本方針」という。)を策定し、大規模地震が発生した場合に、その直後の緊急物資、避難者等を輸送するための機能を確保するために、大規模地震に対する耐震性を備えた岸壁等の港湾施設(以下「大規模地震対策施設」という。)の整備を最重要課題の一つとして位置付けている。

そして、港湾の地震対策基本方針によると、港湾背後地域が一定規模の人口を有している港湾、地形的要因により緊急物資等の輸送を海上輸送に依存せざるを得ない背後地域を有する港湾、離島航路が就航しており震災時にも離島航路の維持が必要な港湾等(以下、これらを合わせて「防災拠点港湾」という。)に、緊急物資等の輸送を確保するための耐震性を強化した岸壁(以下「耐震強化岸壁」という。)等の大規模地震対策施設を整備することとされている。

津波については、港湾の施設の技術上の基準を定める省令(平成19年国土交通省令第15号)等において、既往の津波記録又は数値解析を基に、津波高さなどを適切に設定すること などとされている。 そして、津波防波堤については、通常の防波堤に要求される港内の静穏度の確保に加えて、津波等に対して修復性を確保する必要があるとされ ており、防波堤による津波の影響の低減効果等を考慮して、天端高等を適切に設定することとされている。

(ア) 被災状況及び応急復旧活動における活用状況

2地方整備局管内の東北3県及び青森、茨城両県の計5県(以下「港湾5県」という。)の海上輸送網の拠点となる港湾その他の国の利害に重大な関係を有する港湾である重要港湾及び国際拠点港湾(以下、これらを合わせて「重要港湾等」という。)における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

a 重要港湾等の被災状況

港湾施設に大きな被害が生じた港湾5県の重要港湾等10港における主な被災状況は、図表-港湾1のとおりとなっており、防波堤等に甚大な被害が生じていた。

図表-港湾1 重要港湾等における主な被災状況

県名 港格 港湾名 主な被災状況
青森県 重要 八戸港 ・八太郎地区北防波堤の先端部のケーソンが転倒・水没、中央部1,100mの間のケーソンが多数転倒 ・八太郎地区1号埠頭D・E岸壁エプロン陥没 ・河原木地区航路・泊地(-14m)の埋没
岩手県 重要 久慈港 ・玉の脇地区北防波堤及び内防波堤全壊 ・半崎地区波除堤の上部コンクリート全壊、本体ブロック上部積上部崩壊
宮古港 ・出崎防波堤がほぼ全域にわたって水没 藤原第一埠頭岸壁(12m)海側先端部に空洞と沈下
釜石港 ・湾口防波堤、北堤がほぼ全壊、南堤は半壊 ・須賀地区岸壁(-7.5m)渡版めくれ、移動 ・作業船乗り上げにより、須賀地区南桟橋が損壊
大船渡港 ・湾口防波堤ほぼ全壊 ・野々田地区岸壁(-4.5m)上部コンクリートの隆起、裏込石の流出
宮城県 国際拠点 仙台塩釜港 ・石巻港区中央1号、2号岸壁(-13m)エプロンに1m程度の沈下 ・仙台港区高砂埠頭2号岸壁(-14m)取り付け部背後の崩落、エプロン部全体が1m程度沈下、舗装版下に空洞 ・塩釜港区貞山埠頭1号桟橋(-8.5m)一部はらみ出し、エプロン部の沈下
福島県 重要 相馬港 ・本港地区沖防波堤が傾斜・ずれの発生、水没 ・2号埠頭地区第2~第3岸壁(-7.5m)部分的倒壊・陥没、多目的クレーン買い中に転落
小名浜港 ・2号埠頭地区岸壁(-4.5m~-7.5m)はらみ出し ・7号埠頭地区岸壁ケーソン移動、荷役機械のレール変形、エプロン背後が全延長にわたり陥没
茨城県 重要 茨城港 ・日立港区第5埠頭地区1号・2号岸壁(-10m)上部工とエプロンの間に段差、広範囲に液状化が発生 ・常陸那珂港北埠頭地区埠頭用地が液状化により沈下 ・大洗港区沖防波堤、西防砂堤破損
鹿島港 ・南公共埠頭地区A岸壁(-10m)エプロンに液状化による陥没、上部工はらみ出し ・北公共埠頭D・E岸壁(-10m)、埠頭用地が沈下、ガントリークレーン変電設備喪失
注(1)
国土交通省港湾局公表の「港湾施設の被災状況」を基に作成している。
注(2)
仙台塩釜港の石巻港区については、被災当時は石巻港であったが、平成24年10月に仙台塩釜港と統合されており、図表では仙台塩釜港として整理している(以下、図表-港湾において同じ。)。
注(3)
ケーソンとは、防波堤等の本体に使用される鉄筋コンクリート製等の中空の構造物で、中には砂等が詰められている。
b 重要港湾等における主要な港湾施設の被災状況

前記の重要港湾等10港において、2地方整備局が整備した 主要な港湾施設である岸壁及び防波堤の被災箇所数はそれぞれ71バース(注31)、27か所となっており、これに岩手県からの要請を受けて東北地方整備局が直轄代行事業 で実施した港湾施設を加えると、 岸壁75バース、防波堤29か所となっていた。

そして、東北地方整備局が整備した港湾施設の被災状況については、同局に設置された「東北港湾における津波・震災対策技術検討委員会」が策定した「防波堤及び岸壁等の復旧の技術検討方針」(以下「東北港湾技術検討方針」という。)により被災の程度に応じて分類されている。

そこで、東北港湾技術検討方針に沿って岸壁及び防波堤の被災状況についてみると、次のとおりとなっていた。

(注31)
バース  岸壁等の係留施設において、一隻の船舶が占める施設の単位
(a) 岸壁

被災した岸壁75バースの主な被災原因は、全て地震動によるものと推定されている。 そして、その被災の程度についてみると、図表-港湾2のとおりとなっており、岸壁背後のエプロンの沈下やひび割れなどの本体工に影響のない比較的軽度の被災程度Ⅰの岸壁が約8割を占めているが、耐震強化岸壁を除く通常の岸壁では、岸壁本体のケーソン等が大きく滑動し、傾斜するなど構造体に破壊が起こったと認められる被災程度Ⅲの岸壁が5バースとなっていた。 一方、耐震強化岸壁は被災程度Ⅱまでにとどまっていた。

図表-港湾2 岸壁の被災状況

県名 事業主体 港湾(港) 被災した岸壁(バース)
通常の岸壁 耐震強化岸壁
被災程度 被災程度
青森県 東北地方整備局 1 - - - - - - - - - - -
岩手県 4 25 25 - - - 25 - - - - -
宮城県 1 14 11 - - - 11 2 1 - - 3
福島県 2 25 12 7 5 - 24 - 1 - - 1
8 64 48 7 5 - 60 2 2 - - 4
茨城県 関東地方整備局 2 11 7 4 - - 11 - - - -
合計 10 75 55 11 5 - 71 2 2 - - 4
注(1)
被災程度Iとは、本体に異常はないが、付属構造物に破壊や変状が認められる被災
注(2)
被災程度IIとは、本体にかなりの変状が起こった被災
注(3)
被災程度IIIとは、形をとどめているが、構造体に破壊が起こったと認められる被災
注(4)
ケーソンとは、防波堤等の本体に使用される鉄筋コンクリート製等の中空の構造物で、中には砂等が詰められている。
注(5)
ケーソンとは、防波堤等の本体に使用される鉄筋コンクリート製等の中空の構造物で、中には砂等が詰められている。

また、耐震強化岸壁と通常の岸壁が連続している箇所において、耐震強化岸壁については、被害が通常の岸壁に比較して部分的であったため、早期に応急復旧後の暫定供用を開始した事例が見受けられた。

<参考事例-港湾1> 被災した耐震強化岸壁が早期に暫定供用開始となっていた事例

茨城港常陸那珂港区中央埠頭において、茨城県が整備した耐震強化岸壁(水深7.5m、延長130m)とこれに連続した関東地方整備局が整備した通常の岸壁(水深9.0m、延長260m)は、それぞれ被災している。

そして、その被災程度から、両岸壁とも本体工を復旧する必要はなかったものの、通常の岸壁においては、岸壁本体工の変位発生に伴い上部工の法線に25cmから45cmの変位が発生し、また、エプロン部(延長260m、幅50m)に液状化が発生し、全体的に沈下したり、コンクリート舗装部とアスファルト舗装部間に段差が発生したりするなどの被害が生じ、エプロン部の全面的な補修等が必要となっていた。

一方、耐震強化岸壁においては、本体工に大きな変状は認められず、エプロン部(延長130m、幅20m)に液状化による沈下等が発生したが、部分的補修等にとどまった。そして、応急復旧を実施して暫定供用を開始した時期は通常の岸壁については地震発生から11日後の平成23年3月22日であったが、耐震強化岸壁は4日後の同年3月15日には既に暫定供用を開始しており、通常の岸壁に比べて早期となっていた。

以上のように、耐震強化岸壁については、被災が軽度であったり、通常の岸壁と連続している箇所において、その被害が通常の岸壁に比較して部分的で、応急復旧後の暫定供用開始が比較的早期となっていたりしていた事例が見受けられ たことから、今後とも他事業との優先順位等を十分に検討した上で、耐震強化岸壁の整備等の耐震対策の実施に努めることが必要である。

(b) 防波堤

被災した防波堤29か所の主な被災原因は、ほとんどが津波によるものと推定されている。そして、その被災の程度についてみると、図表-港湾3のとおりとなっており、防波堤本体のケーソンが大きく沈下、滑動及び傾斜して、ケーソン本体の据直しが必要な被災程度Ⅲの防波堤とケーソン本体の新設が必要な被災程度Ⅳの防波堤とを合わせた約5割の14か所において甚大な被害が生じていた。

図表-港湾3 防波堤の被災状況

県名 事業主体 港湾(港) 被災した防波堤(箇所)
通常の防波堤 津波防波堤
被災程度 被災程度
青森県 東北地方整備局 1 2 - 1 - 1 2 - - - - -
岩手県 4 16 - 3 7 3 13 - 1 - 2 3
宮城県 1 5 - 5 - - 5 - - - - -
福島県 2 4 3 - - 1 4 - - - - -
8 27 3 9 7 5 24 - 1 - 2 3
茨城県 関東地方整備局 2 2 2 - - - 2 - - - - -
合計 10 29 5 9 7 5 26 - 1 - 2 3
注(1)
被災程度Iとは、ケーソン本体に異常はないが、天端の沈下など軽微な変状、消波工・マウンド等に変状や破壊が認められる被災
注(2)
被災程度IIとは、ケーソン本体に異常はないが、沈下・滑動・傾斜等の変状が認められる被災のうち、ケーソンの据直しを必要とせずに復旧が可能な被災
注(3)
被災程度IIIとは、ケーソンが大きく沈下・滑動・傾斜しているものの、ケーソン本体を据直しを行うことにより(ケーソン部材の部分的な補修・補強を含む。)再利用が可能な被災
注(4)
被災程度IVとは、ケーソンが基礎マウンドから滑落してケーソン本体の再利用ができない(本体構造が破壊、ケーソンを浮上することができないなど)被災
注(5)
岩手県には、直轄代行事業により実施された2か所が含まれている。
注(6)
防波堤1か所において、被災程度が複数に分類されているものについては、最も大きい被災程度に分類している。

<事例-港湾> 被害が甚大で、復旧に期間を要する防波堤の事例

A局は、B県のC港D地区において、静穏度確保を目的とした防波堤(天端高5.0m~5.5 m、延長2,730m)を昭和61年度から平成22年度にかけて整備した。

同防波堤においては、ほぼ全延長の約2,675mにわたって甚大な被害が生じた。そして、安定照査の結果から津波高がおおむね8mを超えると滑動することが確認されており、当時C港では、9m以上の津波が観測されたことから、津波波力によりケーソンが滑動し、マウンドから外れて港内側に傾斜あるいは転落して水没したことなどが推定されている。

復旧については、多くのケーソンが滑動、傾斜したり、流出したりするなどしたため、ケーソン本体が再利用できないことなどから、5年の期間を要する状況となっていた。

また、防波堤のうち、港内の静穏度確保に加えて、津波対策も目的としている津波防波堤についても、図表-港湾4のとおり、想定した以上の津波の来襲により甚大な被害が生じている一方、背後地への津波高の低減、津波到達時間の遅延等の一定の効果が確認されている事例も見受けられた。

図表-港湾4 津波防波堤の被災状況等

県名 事業主体 所在港湾 施設名 延長
(m)
想定した津波 防波堤天端
高(m)
(潮位観測
基準面から
の高さ)
被災状況
推計越流
水深
(m)
被災程度
(Ⅰ~Ⅳ)
主な被災
岩手県 東北地方
整備局
久慈港 港湾地区
防波堤
860.0 明治29年三陸
地震津波
北堤4.0
南堤4.2
推計して
いない
上部工が飛散、基礎マウ
ンドが洗掘
釜石港 港湾地区
防波堤
1,960.0 昭和8年三陸
地震津波
6 7 ケーソンが滑落・傾斜、
基礎マウンドが洗掘
大船渡港 港湾地区
防波堤
736.4 チリ地震津波 5 6 ケーソンが滑落・傾斜、
基礎マウンドが洗掘
注(1)
潮位観測基準面とは、海面の高さを観測するための基準面をいう。
注(2)
推計越流水深とは、防波堤の天端面から推計津波水位までの高さをいう。

<参考事例-港湾2> 津波防波堤による津波高の低減等の効果が確認されている事例

東北地方整備局は、岩手県の釜石港湾口地区において、静穏度確保に加えて、津波軽減対策を目的とした津波防波堤(北堤延長990m、南堤延長670m、開口部延長300m)を昭和53年度から平成20年度にかけて整備した。

同防波堤については、ケーソンが滑動し転倒するなどの甚大な被害が生じた(北堤被災延長870m、南堤被災延長370m、開口部被災延長300m)が、被災時の映像によると、防波堤の部分的な損壊はみられるが、少なくとも今回の津波で最も大きかった第1波までは、北堤及び南堤は視認できた。そして、同防波堤については、被災原因を検証するために、数値解析により被災過程を再現しており、この検証結果からは、防波堤により、第1波の津波高は湾奥で13.7mから8.0mと約4割低減させ、また、津波の第1波が市街地を守る防潮堤(高さ4.0m)を越えるまでの時間についても、防波堤がない場合と比較して6分遅らせる効果が確認されている。

c 応急復旧活動における港湾の利用状況等
(a) 港湾における緊急物資の受入れのための航路啓開等の作業の状況

国土交通省の各地方整備局は、港湾関係の建設団体と災害発生時の被災施設の早期復旧等を目的として、応急対策の実施に関して、建設資機材等の保有状況や実施体制を定めて報告させ、建設資機材等が必要と認められるときは、同団体へ口頭又は書面により出動を要請することができる旨等の災害発生時の緊急的な応急対策業務に関する協定(以下「災害協定」という。)をあらかじめ締結している。

東日本大震災においては、津波により多量の漂流物が散乱したり、土砂が航路等に埋没したりするなどして、船舶が入港できない状況が続いたため、緊急物資等の輸送に支障が生じたが、 東北地方整備局は緊急物資輸送船を入港させるために、あらかじめ締結している災害協定に基づき応急対策業務を早急に実施するよう要請し、これに基づいて航路啓開等の作業が実施された。

<参考事例-港湾3> 災害協定をあらかじめ締結し、航路啓開等の作業を早期に開始できた事例

東北地方整備局は、緊急物資を受け入れるために、平成23年3月12日に、あらかじめ災害協定を締結した建設団体に対して航路啓開の協力を要請した。そして、同局は、耐震強化岸壁が整備されている宮城県の仙台塩釜港仙台港区を優先的に航路啓開すべき地区として決定して、津波警報等が解除された13日の翌日の14日に同港区の海底状況を調査し、15日に建設団体から派遣された船団により航路啓開等の作業が開始された。そのため、16日には同港区が利用可能となり、17日には緊急物資の受入れが開始された。

以上のように、港湾関係の建設団体と災害発生時に実施する応急対策業務に関して、あらかじめ災害協定を締結し、震災時において航路啓開等の作業を早期に開始できた事例が見受けられた。

しかし、検査の対象とした33道府県のうち東北3県及び茨城、千葉両県を除いた28道府県において耐震強化岸壁が整備されている防災拠点港湾は16道府県の52港湾となっているが、このうち5道県の港湾において、災害協定を締結していない港湾管理者も見受けられた(内訳は別表-港湾6参照)。これらの港湾については、応急対策の実施が早期に開始できるよう、あらかじめ、港湾関係の建設団体等と航路啓開等の応急対策に必要な実施体制等について災害協定の取決めを締結することなどが必要である。

(b) 港湾における緊急物資等の受入状況

大規模地震が発生した場合に、防災拠点港湾は、緊急物資等の海上輸送を確保するなど災害に対する応急復旧活動に資することになる。

そこで、東日本大震災における緊急物資等の受入状況についてみると、図表-港湾5のとおり、耐震強化岸壁が整備されている防災拠点港湾においては、比較的早い段階から緊急物資等の受入れが可能な状況となっていた。

図表-港湾5 緊急物資等の受入状況

県名 港湾名 緊急物資等に係わる輸送
船の受入れが可能と
なった年月日
緊急物資等に係る
第1船入港年月日
耐震強化岸壁が整
備されている防災
拠点港湾
青森県 八戸港 平成23年3月14日 平成23年3月23日
岩手県 釜石港 23年3月15日 23年3月16日
宮古港 - 23年3月15日 23年3月16日
久慈港 - 23年3月15日 23年3月26日
大船渡港 - 23年3月22日 平成23年3月23日
宮城県 仙台塩釜港 23年3月16日 23年3月17日
福島県 小名浜港 23年3月15日 23年3月18日
相馬港 - 23年3月19日 23年3月25日
茨城県 茨城港 23年3月15日 -
鹿島港 - 23年3月18日 -

また、海上物資輸送を確保するために、浮体式防災基地(以下「洋上フロート」という。)を臨時係留施設として活用している事例も見受けられた。

<参考事例-港湾4> 洋上フロートを臨時係留施設として活用した事例

北海道開発局は、所有する洋上フロートに被災地支援のための緊急物資及び燃料を積込み、平成23年3月22日に室蘭港を出港し、同月24日に岩手県大船渡港、同月29日に福島県相馬港に入港してそれぞれ緊急物資等の荷揚げを行った。その後、相馬港では利用可能な岸壁が少なかったため、同洋上フロートを同港に常駐させることとして、同年10月5日まで臨時係留施設として活用した。

(c) 港湾施設機器による津波観測の状況

国土交通省港湾局は、19年3月から、GPS(全地球測位システム)衛星を用いて、沿岸から20km程度の沖合に浮かべたブイ(以下「GPS波浪計」という。)の上下変動を計測して、波浪や潮位を即時に観測する機器を順次整備している。

GPS波浪計は、沖合に設置されていることから、波浪の観測だけでなく、沿岸へ津波が到達する前にいち早く津波の発生等を観測することが可能である。そのため、同局は、気象庁が津波警報の更新を発表する際の資料として活用できるよう、20年7月からGPS波浪計による観測データを気象庁へ即時に提供している。

東日本大震災では、津波により防波堤等に甚大な被害が生じたが、GPS波浪計については、津波による直接的な被害は生じておらず、沖合において急激な海面上昇を検知した。そして、観測されたデータは即時に気象庁に提供されて、津波警報において予想される津波の高さの引き上げに活用されるなど、GPS波浪計の津波防災上の有効性が改めて確認された。

<参考事例-港湾5> GPS波浪計による観測データが気象庁の津波警報に活用された事例

気象庁は、平成23年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震の際に、3分後の14時49分に津波警報を発表した。しかし、15時10分過ぎに、岩手中部沖、岩手南部沖及び宮城北部沖に設置されたGPS波浪計が沖合における潮位の急激な上昇を検知し、沿岸における津波の高さが予想を超えるおそれがあったことから、気象庁は当該観測データに基づき、15時14分に津波警報の対象となる区域の追加や予想される津波の高さの引き上げを発表した。

一方で、東北地方において、有線の通信網が寸断されたり、停電が発生したりなどしたため、23年3月11日15時15分頃から観測データの伝送が中断され、気象庁へ継続的に観測データを提供することができない状況となった。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

2地方整備局は、港湾施設に大きな被害が生じた重要港湾等10港において、港湾ごとに復興会議を設置している。そして、港湾施設の早期復旧及び復興の在り方を検討したり、地元関係者の要望等を受けたりするなどして、港湾ごとに港湾施設の復旧等の方針(以下「各港湾復旧等方針」という。)を策定している。各港湾復旧等方針においては、港湾施設の利用状況の優先度に応じ復旧工事を進めることなどとして、東北地方整備局は産業及び物流上特に重要な港湾施設のうち復旧期間を要する防波堤等を除く港湾施設について、関東地方整備局は主要な港湾施設について24年度内を目途に本復旧を完了することとしていた。また、港湾施設の復旧状況は、港湾を利用する企業にとって不可欠な情報であるため、2地方整備局は特に重要な港湾施設等について、復旧工程表を作成して公表している。

また、東北地方整備局に設置された検討委員会において、各港湾の復興会議と有機的な連携を図り、各港湾の自主性を重んじつつも、東北地方の港湾において統一的な考え方を示すために「東北港湾の復旧・復興基本方針」が策定されている。そして、この基本方針において、被災した岸壁や防波堤等の復旧時期及び工法については、港湾を利用する企業の操業再開を考慮して、企業活動に極力支障が生じないよう調整し、また、岸壁等については、本復旧までの暫定供用や一時的な代替岸壁の用意等、岸壁利用に配慮した段階的な復旧とすることなどが示されている。

b 復旧の進捗状況等

港湾5県の重要港湾等10港において2地方整備局が整備した主要な港湾施設の被災状況は、(ア)bのとおり直轄代行事業を含め、岸壁75バース、防波堤29か所となっていたが、24年度末現在の復旧の進捗状況等についてみると次のとおりとなっていた。

(a) 岸壁

被災した岸壁の暫定供用の状況についてみると、図表-港湾6のとおり、75バースの被災岸壁のうち61バースについては、応急復旧を実施するなどして暫定供用を開始していた。

また、岸壁の本復旧の進捗状況についてみると、関東地方整備局においては、24年度内に全ての岸壁が本復旧を完了していたが、東北地方整備局においては、被災した64バースのうち26バースについて、建設資材や作業場所が不足していること、物流機能を維持するため暫定供用をしながら本復旧を実施していることなどから整備中となっていた。

そして、整備中となっている26バースのうち、各港湾復旧等方針において特に重要な港湾施設として24年度内に完了することとしていた岸壁は19バースとなっていた。

図表-港湾6 岸壁の本復旧の進捗状況等

県名 事業主体 港湾(港) 被災した岸壁(バース)
暫定供用 本復旧の進捗状況
未着手 整備中 完了
青森県 東北地方整備局 1 - - - - -
岩手県 4 25 25 - 13 12
宮城県 1 14 14 - 2 12
福島県 2 25 18 - 11 14
8 64 57 - 26 38
茨城県 関東地方整備局 2 11 4 - - 11
合計 10 75 61 - 26 49
(b) 防波堤

被災した防波堤の本復旧の進捗状況についてみると、図表-港湾7のとおりとなっており、 防波堤の整備には復旧断面の検討や本復旧に期間を要すること、今回の震災で防波堤の被害が甚大であった箇所が多かったことなどから、被災した29か所のうち本復旧が完了した防波堤は10か所となっていた。

図表-港湾7 防波堤の本復旧の進捗状況

県名 事業主体 港湾(港) 被災した防波堤(箇所)
本復旧の進捗状況
通常の防波堤 津波防波堤
未着手 整備中 完了 未着手 整備中 完了
青森県 東北地方整備局 1 2 - 1 1 2 - - - -
岩手県 4 16 - 9 4 13 - 3 - 3
宮城県 1 5 - 2 3 5 - - - -
福島県 2 4 - 4 - 4 - - - -
8 27 - 16 8 24 - 3 - 3
茨城県 関東地方整備局 2 2 - - 2 2 - - - -
合計 10 29 - 16 10 26 - 3 - 3
(c) 港湾機能回復の状況

物流機能を担う港湾においては、被災直後の緊急物資輸送はもとより、地域の企業活動が復旧するに伴い平常時の地域産業の維持のために、通常の貨物輸送が求められる。

そこで、被災した重要港湾等における一般船舶の入港再開日及び利用可能な岸壁数の推移についてみると、図表-港湾8のとおりとなっており、全ての港湾において、23年3月中には一般船舶が利用可能となっていた。また、24年度末現在で暫定供用を含めた利用可能な岸壁数は震災前の岸壁数の約8割となっていた。

 

(b) 防波堤

被災した防波堤の本復旧の進捗状況についてみると、図表-港湾7のとおりとなっており、 防波堤の整備には復旧断面の検討や本復旧に期間を要すること、今回の震災で防波堤の被害が甚大であった箇所が多かったことなどから、被災した29か所のうち本復旧が完了した防波堤は10か所となっていた。

図表-港湾8 重要港湾等における利用可能な岸壁数の推移

(単位:バース)

県名 港湾名 一般船舶利用可能開始年月日 震災前の岸壁数
利用可能な岸壁数
平成22年度末 23年度末 24年度
青森県 八戸港 平成23年3月19日 44 22 44 44
岩手県 釜石港 23年3月20日 24 7 24 24
宮古港 23年3月17日 26 7 26 26
久慈港 23年3月15日 7 3 7 7
大船渡港 23年3月22日 10 2 10 10
宮城県 仙台塩釜港 23年3月18日 73 23 70 70
福島県 小名浜港 23年3月19日 13 3 4 5
相馬港 23年3月16日 72 4 42 51
茨城県 茨城港 23年3月15日 56 8 22 30
鹿島港 23年3月18日 18 5 11 15
343 84 260 282
(注)
岸壁数は、2地方整備局及び県の港湾管理者が整備した公共岸壁を対象としており、暫定供用中の岸壁も含んでいる。

以上のように、被災した重要港湾等における利用可能な岸壁数は順次増加しているものの、復旧に期間を要する港湾施設も見受けられたことから、今後も引き続き計画的かつ着実な復旧等に努めることが必要である。

(b) 防波堤

被災した防波堤の本復旧の進捗状況についてみると、図表-港湾7のとおりとなっており、 防波堤の整備には復旧断面の検討や本復旧に期間を要すること、今回の震災で防波堤の被害が甚大であった箇所が多かったことなどから、被災した29か所のうち本復旧が完了した防波堤は10か所となっていた。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況
(a) 復旧における防波堤の設計の検討

国土交通省に設置されている交通政策審議会において、東日本大震災の教訓を生かすとともに、切迫する大規模地震にも対応するために、24年6月に「港湾における地震・津波対策のあり方」が取りまとめられた。そして、津波対策に当たっては、津波の規模等に応じて防護の目標を明確化して対策を進める必要があるとして、発生頻度の高い津波に対しては、できるだけ構造物で人命及び財産を守りきる「防災」を目指すこととされた。さらに、発生頻度は極めて低いが影響が甚大な最大規模の津波に対しては、最低限人命を守るという目標の下に被害をできるだけ小さくする「減災」を目指すこととされた。 そして、東日本大震災において、一定の減災効果を発揮した防波堤が確認されたため、設計上の津波高を超える津波に対しても壊滅的な倒壊はしにくい粘り強い構造とするための検討が求められるとされ、特に倒壊した場合に早期復旧が困難となる防波堤については、通常時の港内静穏度の確保や減災の観点からも粘り強い構造を目指す必要があるとされた。

東北地方整備局では、上記の「港湾における地震・津波対策のあり方」を考慮して東北港湾技術検討方針において、被災した場合に早期復旧が困難な防波堤については、粘り強い構造となるよう設計・施工上の検討を行うとして いる。そして、東北港湾技術検討方針に基づき通常の防波堤において粘り強い構造も考慮して設計等を検討し、これにより復旧している事例が見受けられた。

<参考事例-港湾6> 通常の防波堤を粘り強い構造も考慮して復旧している事例

東北地方整備局は、福島県の相馬港本港地区に防波堤を整備しているが、当該防波堤は、震災時にほぼ全延長にわたって甚大な被害を受けたため、復旧には5年を要するとされている。このため、同局は、当該防波堤(天端高5.1~5.5m、延長2,675m)の復旧に当たり、防波堤の上部工形状にパラペット(注)構造を採用することにより越流水の着水位置を防波堤から離し基礎マウンドに越流水が直接作用することを避けるなどの粘り強い構造も考慮して復旧に着手していた。

(注)
パラぺット  波浪による背後への影響を低減することなどを目的として防波堤等の上部に設けられる壁
(b) 負担法以外の補助事業による復旧

東日本大震災においては、港湾施設の被災は、負担法の適用を受ける公共土木施設以外にも、クレーン等の荷役機械や緑地、広場等の港湾として機能するために重要となる各施設においても甚大な被害が生じており、港湾5県の重要港湾等10港において被災したこれらの港湾施設の復旧について、次の補助事業により実施されていた。

ⅰ 港湾荷役機械等災害復旧事業

東日本大震災においては、岸壁等と一体となって機能を発揮するクレーン等の荷役機械及び倉庫等の上屋(以下「港湾荷役機械等」という。)についても甚大な被害が生じた。

このため、国土交通省は、東日本大震災により甚大な被害を受けた港湾荷役機械等の緊急な復旧を図ることを目的として、地方公共団体が整備した港湾荷役機械等について、東日本大震災に係る災害復旧の費用の一部を補助する港湾荷役機械等災害復旧事業を新設しているが、8港湾の89施設において事業費178億余円で実施されていた。

ⅱ 災害関連港湾環境整備施設災害復旧事業

国土交通省は、7年に発生した阪神・淡路大震災により、緑地、広場等の港湾環境整備施設に甚大な被害が生じたため、これらの施設の速やかな復旧を目的として、同年に災害関連港湾環境整備施設災害復旧事業を開始した。

この事業は、負担法に基づく港湾施設の災害復旧事業が行われる場合に、これと関連して、同一の災害により被災を受けた港湾環境整備施設を原形復旧するためのもので、 9港湾の67か所において事業費36億余円で実施されていた。

以上のとおり、負担法の適用を受けない港湾施設についても速やかな復旧を図るために事業が実施されており、その事業費は計214億余円に上っていた(内訳は別表-港湾7参照)。

(c) 港湾施設機器による津波観測体制の整備

国土交通省港湾局は、国総研、独立行政法人港湾空港技術研究所(以下「港空技研」という。)、各地方整備局等との相互協力の下で、日本全国の沿岸域における波浪情報網システムを構築し運営しており、昭和45年以来、港湾事業等における沿岸域の開発等のため、継続的に波浪観測を実施している。 そして、平成19年3月 から、沖合で波浪を観測することができるGPS波浪計が整備され始め、24年12月現在では全国で15基が稼働している。

(ア)c(c)のとおり、沖合に設置されているGPS波浪計は、波浪だけでなく、沿岸へ津波が到達する前にいち早く津波を観測することが可能であり、観測データは即時に気象庁へ提供されている。観測データは、まず沖合のGPS波浪計から沿岸部の高台等に設置されているGPS基地局(以下「陸上局」という。)へ専用無線により伝送される。そして、陸上局から、有線により港湾事務所等の観測局へ伝送され、観測局から、国土交通省港湾局の専用回線により港空技研へと伝送された後に、港空技研から気象庁へ提供されている(図表-港湾9参照)。

図表-港湾9 GPS波浪計による観測データの伝送経路

GPS波浪計による観測データの伝送経路

東日本大震災では東北地方における通信網の寸断や停電により、陸上局から港空技研へのデータ伝送が中断され、気象庁へ継続的に観測データを提供することができなくなった。

これを踏まえて、国土交通省港湾局は、24年度に全国15基のGPS波浪計に対して、陸上局から港空技研までの伝送経路を二重化したり、陸上局に非常用電源設備を整備したりするなど改良を行っており、災害発生時にも途切れることなく観測データを気象庁へ提供できるようになった。

そこで、全国15基のGPS波浪計による観測データを伝送する陸上局の建屋について、その耐震性についてみると、 15施設のうち、既製の機器収容局舎9施設については耐震性が確認されていた。また、残りの6施設については既設の建築物の一部を局舎として利用しており、そのうち昭和48年頃に建設された1施設については耐震性が確認されていない状況が見受けられたが、5施設については、56年6月に改正された建築基準法(昭和25年法律第201号)に定める現行の耐震設計のための基準に基づき整備されており、おおむね耐震性が確認されていた。なお、東日本大震災においては、現行の基準に基づく耐震性が確認されていない1施設も含め、陸上局の建屋が倒壊するなどの被害は生じていないが、国土交通省港湾局は今後耐震性について検討して、必要に応じて対策を講じていくこととしている。

 

カ 下水道事業

地方公共団体等は、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき、都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、併せて公共用水域の水質の保全に資することを目的として、雨水や家庭等から排出される汚水等の下水を排除させる管きょ及びマンホール(以下「管路」という。)の敷設、下水を揚排水するポンプ場の設置、下水を処理するための終末処理場の整備等を行う下水道事業を実施している(以下、下水道事業を実施する者を「下水道事業主体」といい、下水道事業で整備する施設を「下水道施設」という。)。

終末処理場は、微生物反応等を利用するなどして下水を処理するための最初沈殿池、反応タンク、最終沈殿池等の水処理に係る施設等から構成されている。そして、これら終末処理場の施設は、コンクリート造りのく(・)体等を建設する土木及び建築工事と汚泥かき寄せ機、散気装置等の機械設備を設置したり、電力供給設備、制御システム等の電気設備を設置したりする設備工事により整備されている。

そして、下水道事業主体は、「下水道施設の耐震対策指針と解説」(公益社団法人日本下水道協会編。以下「下水道耐震指針」という。)等に準拠して下水道施設の耐震設計等を行っている。

また、国土交通省は、平成16年の新潟県中越地震等の被災を踏まえて、管路の周辺地盤又は埋戻し土に液状化が生ずるおそれがある場合は、道路管理者と調整した上で、①埋戻し土の十分な締固めに関して、密度試験での締固め度が90%程度以上に保たれるように施工管理を確実に行うこと、②埋戻し材料に関して、所要の粒径以上の砕石等、透水性の高い材料を選定することなどを参考とするよう技術的助言を行っている。

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

東北3県及び茨城、栃木、埼玉、千葉、新潟、長野各県の計9県管内において整備された下水道施設における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。 なお、東北3県管内における被災状況については、東北3県及び日本下水道事業団から徴した調書又は既存の関係資料を基に集計及び分析を行った。

a 管路の被災状況等
(a) 管路の被災状況

管路が被災した東北3県及び茨城、栃木、千葉、新潟各県の計7県(以下「下水道7県」という。)管内の117下水道事業主体が整備した管路延長35,622.7㎞の被災状況は、図表-下水1のとおり、被災した管路延長648.0㎞、被災したマンホール18,403か所となっていた。

図表-下水1 下水道7県管内の管路の被災状況

(内訳は別表-下水7参照

管内 下水道事業主体数 整備済管路延長A
被災管路延長B 被災マンホール箇所数
割合B/A
km km 箇所
東北3県管内の計 69 18,561.5 447.4 2.4 14,360
東北3県管内以外の計 48 17,061.2 200.5 1.2 4,043
合計 117 35,622.7 648.0 1.8 18,403

そして、上記の被災した管路のうち、主な被災要因が把握できた管路についてみると、図表-下水2及び3のとおり、東京湾沿岸部の埋立地や利根川沿いの造成地等における周辺地盤の全面液状化による被災が管路延長129.7㎞、マンホール2,477か所、それ以外の地域における管路埋設部の部分液状化による被災が管路延長255.2㎞、マンホール5,913か所においてそれぞれ見受けられた。

図表-下水2 下水道7県管内の管路の被災要因別の被災状況(管路)

(内訳は別表-下水8参照

被災要因
が把握で
きた管路
延長
A
被災要因
液状化
B
津波浸水
C
地震
D
その他
E
全面液状
部分液状
割合B/A 割合C/A 割合
D/A
割合
E/A
km km km km km km km
402.8 384.9 129.7 255.2 95.6 1.9 0.5 15.0 3.7 0.8 0.2

図表-下水3 下水道7県管内の管路の被災要因別の被災状況(マンホール)

(内訳は別表-下水9参照

被災要因
が把握で
きたマン
ホール箇
所数
A
被災要因
液状化
B
津波浸水
C
地震D その他
E
全面液状
部分液状
割合
B/A
割合
C/A
割合
D/A
割合
E/A
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
9,491 8,390 2,477 5,913 88.4 15 0.2 843 8.9 243 2.6

また、被災した管路のうち、被災内容が把握できた管路についてみると、図表-下水4のとおり、管路では、逆勾配等による管路内の滞水や、管路の破損箇所等から流入した土砂の堆積による管路の閉塞が、マンホールでは、浮上又は沈下が多くの箇所で見受けられた。

図表-下水4 下水道7県管内の管路の被災内容

(内訳は別表-下水10参照

管路の被災内容 マンホールの被災内容
滞水 管路閉塞 路面異常 破損 液状化等
による浮
上又は沈
ひび割れ 接合部破
鉄蓋のず
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
6,686 4,662 3,858 2,754 4,465 2,724 1,854 399
(注)
1か所の管路に複数の被災内容がある場合がある。

管路が被災したことにより与えた影響についてみると、図表-下水5のとおり、被災した117下水道事業主体のうち下水道の使用制限、自粛要請、節水要請等が行われたことが把握できたものは37下水道事業主体となっており、その多くは、仮設配管等により下水の排除機能を早急に回復したものの、中には、周辺地盤の全面液状化等による被害が甚大であったことなどから、最大で3か月程度にわたって使用制限等を行った下水道事業主体が見受けられた。

また、道路の陥没等管路の被災が要因となって通行止めなどによる交通障害が274か所で発生していた。

図表-下水5 下水道7県管内の管路の被災による影響

(内訳は別表-下水11参照

管路が被災
した下水道事業主体数
使用制限等
を行った下
水道事業主
体数
交通障害
が発生し
た下水道
事業主体
溢水(いっ
すい)が
発生した
下水道事
業主体数
交通障
害箇所
溢水箇所
箇所 箇所
117 37 38 274 29 320
(b) 管路の液状化対策等の実施状況

茨城、千葉、新潟各県の計3県管内の液状化のおそれのある地盤において開削工法により敷設されている管路について、下水道耐震指針に基づく液状化対策の実施状況と被災状況についてみると、図表-下水6のとおり、液状化対策が実施されていない管路延長1,710.5㎞のうち153.7㎞が被災しており、その割合は9.0%となっていた。一方、液状化対策実施済みの管路延長139.9㎞のうち4.3㎞が被災しており、その割合は3.1%となっていて、液状化対策の実施の有無による被災の割合におよそ3倍の差が認められ、下水道耐震指針に基づいた液状化対策により一定の効果が発現したものと推定される。

図表-下水6 3県管内の管路の液状化対策の実施状況と被災状況

(内訳は別表-下水12参照

液状化地
盤におけ
る整備済
管路延長
液状化に
よる被災
管路延長
液状化対策の実施状況と被災状況
液状化対
策未実施
の管路延
液状化対
策未実施
済みの管
路延長
液状化対
策を実施
したか不
明な管路
延長
被災管路
延長
被災管路
延長
被災管路
延長
割合 割合 割合
A B B/A C D D/C E F F/E
km km km km % km km % km km %
2,428.1 189.7 1,710.5 153.7 9.0 139.9 4.3 3.1 577.6 31.6 5.5

被災した管路の中には、周辺地盤において液状化のおそれがあり、また、要求される耐震性能が確保されているか判断するための耐震点検の結果に応じた耐震対策工事を実施する以前に被災した事例が見受けられた一方で、 地下水位が高く軟弱地盤であったことから、所要の液状化対策を実施したことにより、周辺道路が被災した中、被災が比較的軽微となっていた事例等が見受けられた。

<事例-下水1> 耐震点検等の結果に応じた耐震対策工事を実施する前に管路が被災した事例

A県B市は、昭和50年度から管路延長約295㎞、マンホール6,209か所を整備している。  そして、B市は、平成16年度に行った地震防災基礎調査により、全域で液状化の発生する危険性が高いという予測結果を得ており、また、18年度には、重要な管路について耐震点検を実施し、所要の耐震対策工事が必要であるとの結果を得て、順次、段階的な耐震対策を実施することとしていた。

その後、耐震対策を実施する前に、主に昭和40年代以降に埋め立てた地区において液状化が発生し、上記の耐震点検を実施した管路以外も含む管路延長約23.7㎞、マンホール706か所が被災して、約1か月間にわたり、最大で約12,000世帯に対して下水道の使用制限等を行うこととなった。

<事例-下水2> 液状化判定や対策を実施していない管路が被災した事例

C県D市は、平成元年度から管路延長約209㎞、マンホール6,891か所を整備している。  そして、D市は、21年度に整備した管路延長約280mのうち地下水位が高く液状化のおそれが考えられる区間において、液状化の判定を実施しておらず、また、液状化対策として有効とされている埋戻し土の十分な締固めについて、密度試験により締固め度を確認していなかった。

その後、地下水位の高い区間において液状化が発生し、21年度に整備した管路以外も含む管路延長約12㎞、マンホール168か所が被災したため、約2か月間にわたり、最大で約9,000世帯に対して下水道の使用制限等を行うこととなった。

<参考事例-下水1> 要求される耐震性能を確保した管路の被災が比較的軽微となっていた事例

千葉市は、中央処理区の出洲(でず)地区等において、昭和40年代から管路延長約71㎞を整備しており、その後、劣化の激しい管路延長約21㎞を対象に、要求される耐震性能を確保しつつ、既存の管路を更生工法により改築していた。

そして、液状化が発生した同地区等で被災した管路延長約400mのうち、更生工法を実施していない管路延長約60mにおける破損等が53か所であるのに対して、更生工法により要求される耐震性能を確保した管路延長約340mにおける破損等が4か所となっており、破損等の発生割合が低くなっていた。

<参考事例-下水2> 液状化対策を実施した管路の被災が比較的軽微となっていた事例

宮城県栗原市は、平成3年度から管路延長約326㎞を整備しており、このうち鶯沢(うぐいすざわ)地区では、20年に発生した岩手宮城内陸地震により被災した管路延長約2.0㎞の本復旧において、セメント系固化剤を使用した改良土を用いて液状化対策を実施していた。

そして、同地区では、液状化が発生し、周辺道路が被災した中で、上記により液状化対策を実施した管路延長約2.0㎞においては、約54mを除き被災しておらず、また、被災した約54mにおいても、下水道の排除機能は確保されていた。

以上のように、管路の被災状況等について、要求される耐震性能を確保した管路や液状化対策を実施した管路は、被災が比較的軽微となっているなど、管路の耐震対策及び液状化対策の実施により一定の効果が発現したと推定される事例が見受けられた一方で、耐震対策及び液状化対策を実施していない管路が被災した事例が見受けられ、 管路の被災により下水道としての機能の停止や交通障害等を招いたことから、引き続き、施設の重要度等に応じて、耐震対策及び液状化対策を計画的かつ着実に実施していくとともに、下水道事業主体において、被災時の非常時対応手順を定めた下水道業務継続計画を策定するなどして減災対策と組み合わせた総合的な対策により被害の最小化を図ることが必要である。

b 終末処理場等の被災状況等
(a) 終末処理場等の被災状況

東日本大震災においては、太平洋沿岸の広範囲に津波が来襲し、多くの終末処理場及びポンプ場が浸水するとともに、津波や漂流物の衝撃力により甚大な被害が生じた。

終末処理場及びポンプ場の沈殿池、反応タンク等の水処理等に係る施設(以下、これらの施設を「処理施設」という。)が被災したのは東北3県及び茨城、栃木、埼玉、千葉、長野各県の計8県(以下「下水道8県」という。)管内の33下水道事業主体の終末処理場37か所、ポンプ場28か所、計65か所(東北3県管内は、日本下水道事業団が復旧支援している終末処理場及びポンプ場に限る。)となっていた。そして、当該終末処理場等65か所における整備済みの処理施設504施設のうち、273施設が被災しており、その割合は54.2%となっていた(図表-下水7参照)。 また、工種別の被災状況は、機械設備204設備、電気設備154設備等となっており、電気設備は154設備のうち約7割の113設備が全部損傷の状態となっていた。

図表-下水7 下水道8県管内の処理施設の工種別の被災状況

(内訳は別表-下水13参照

下水道
事業主
体数
被災し
た終末
処理場
及びポ
ンプ場
整備済
みの処
理施設

A
 
被災処
理施設

B
割合
B/A
工種別の損傷状態












































箇所 施設 施設 施設 施設 設備 設備 施設
設備
33 65 504 273 54.2 181 12 169 54 7 47 204 65 139 154 113 41 593 197 396

上記の被災した処理施設の主な被災要因についてみると、図表-下水8のとおり、津波による浸水、波圧及び漂流物による被災が193施設となっており、被災した全処理施設数に対する割合は70.7%となっていた。

図表-下水8 下水道8県管内の処理施設の被災要因別の被災状況

(内訳は別表-下水14参照

管内 被災し
た終末
処理場
及びポ
ンプ場
被災処
理施設

A
被災要因
津波
B
地震
C
液状化
D
その他
E
割合
B/A
津波浸
津波波
津波漂
流物
割合
C/A
割合
D/A
割合
E/A
施設 施設 施設 施設 施設 施設 施設 施設
東北3県管内の計 31 189 186 98.4 144 53 57 4 2.1 39 20.6 1 0.5
東北3県管内以外の計 34 84 7 8.3 2 5 70 83.3 8 9.5 5 6.0
合計 65 273 193 70.7 146 58 57 74 27.1 47 17.2 6 2.2
(注)
施設に複数の被災要因がある場合があるため、被災要因別の施設数を合計しても被災処理施設数とは一致しない。

また、被災した終末処理場37か所のうち24か所では、被災により全部又は一部の運転を停止しており、終末処理場37か所の被災前と被災直後の水処理能力を施設計画上の数値を基に算出し比較してみると、図表-下水9のとおり、処理水量については、被災前の3,470,143㎥/日に対し、被災直後は1,919,920㎥/日まで低下しており、また、処理人口については、被災前の6,150,161人相当に対し、被災直後は3,605,535人相当まで低下していた。

図表-下水9 下水道8県管内の終末処理場の被災前後の水処理能力

(内訳は別表-下水15参照

被災した終末処理場数 処理水量 処理人口
被災直後に
水処理
に係る施
設の全部
又は一部
が使用不
能となっ
た終末処
理場数
被災前A 被災前C
津波浸水した終末処理場数 被災直後B 被災直後D
割合B/A 割合
箇所 箇所 箇所 ㎥/日 ㎥/日
37 24 16 3,470,143 1,919,920 55.3 6,150,161 3,605,535 58.6
(b) 終末処理場等の津波対策の実施状況

被災した終末処理場及びポンプ場計65か所のうち、津波により被災した終末処理場及びポンプ場計32か所の津波対策の実施状況についてみると、いずれも津波対策が講じられていなかった。そして、これらの中には、津波から防護するための海岸堤防が整備されていない区間にある終末処理場や設置場所が津波浸水予測区域内となっていたり、海岸堤防よりも海側に設置されていたりしているポンプ場において、津波による浸水のおそれがあるものの、津波対策が実施されていない事例が見受けられた。

<事例-下水3> 津波対策が実施されていないポンプ場が被災した事例

E県F市は、昭和40年代から汚水ポンプ場を14か所整備して供用開始している。

そして、平成18年度の県の津波浸水予測によると、14か所のうち、2か所のポンプ場の設置場所が津波浸水予測区域内にあるとされていて、津波による浸水のおそれがあるものの、F市は津波から防護するための対策を講じていなかった。

その後、上記の2ポンプ場において津波浸水被害が生じることになり、これにより2ポンプ場は一時使用不能の状況となっていた。

以上のように、終末処理場等の被災状況等について、津波から防護するための海岸堤防が整備されていない区間にある終末処理場や設置場所が津波浸水予測区域内となっているポンプ場等において、津波対策を実施しておらず、終末処理場及びポンプ場の被災により、被災前と同様の水処理等が行えない事例が見受けられたことから、今後は、施設の復旧の在り方等を取りまとめるために設置された下水道地震・津波対策技術検討委員会の24年3月の報告書「東日本大震災における下水道施設被害の総括と耐震・耐津波対策の現状を踏まえた今後の対策のあり方」を踏まえて、施設の重要度等に応じて、減災対策を含めた津波対策を計画的かつ着実に実施していく必要がある。また、津波対策を実施するに当たり、発生頻度の高い津波に対しては、海岸担当部局等と連携を図り、海岸保全施設の整備状況等に応じて、可能なものから順次対策を実施することが重要である。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

東日本大震災において、東京湾沿岸部の埋立地等で周辺地盤の液状化により著しく管路が被災し、また、沿岸部に立地していた終末処理場及びポンプ場が津波により被災したことによって稼働停止したことを受けて、下水道地震・津波対策技術検討委員会は、下水道施設の復旧に当たっての留意事項として、23年4月に「下水道施設の復旧にあたっての技術的緊急提言」を、同年6月に「段階的応急復旧のあり方」を、同年8月に「東日本大震災で被災した下水道施設の本復旧のあり方」(以下、これらを合わせて「下水道復旧方針」という。)を取りまとめている。下水道復旧方針等によれば、地震発生直後から対応する「緊急措置」、公衆衛生の確保や浸水被害軽減に迅速に対応するための「応急復旧」、従前の機能を回復させる「本復旧」のそれぞれの段階に応じた適切な対応と円滑な移行が必要不可欠であるとされている。

それぞれの段階における主な留意事項は、図表-下水10のとおりである。

図表-下水10 下水道施設の各段階における主な留意事項

復旧段階 管路 終末処理場等
緊急措置 都市内から下水を速やかに排除することを最優先とし、やむ終えず、溢水のおそれがある場合には土のう等によって近傍の水路まで誘導する。 揚水機能を確保し、溢水を防止するため仮設ポンプ等を用いて揚水を行い最低限、消毒を実施し放流する。
応急復旧 流下能力が低下している区間等については、管路内部にたまった土砂を排除、あるいは、仮設ポンプと仮設配管等によりバイパスを確保し、終末処理場等まで流下させる。 既存の土木構造物を活用した沈殿及び消毒を最低限行うこととし、本復旧までに時間を要する場合等においては、簡易処理等により段階的に処理レベルを向上させる。
本復旧 耐震設計と施工については、下水道耐震対策及び液状化対策を実施する。広域的な液状化が生じた地域については、宅地や他のインフラの復旧と連携をとり、適切な復旧対策を検討し講ずる。 東北地方太平洋沖地震じより施設で観測された津波の高さを考慮して、重要設備、操作盤、排気開口部等を設置することとし、扉等は水溶性を確保するなどの津波対策を実施する。
b 復旧の進捗状況
(a) 管路

(ア)aのとおり、被災した管路は、下水道7県管内における管路延長648.0㎞となっているが、その本復旧の進捗状況についてみると、図表-下水11のとおり、本復旧が完了している下水道事業主体は81下水道事業主体、管路延長は433.4㎞となっていた。そして、15下水道事業主体においては、津波により地域全体が被災した地域や周辺地盤の全面液状化が発生した地域等が多く、復興計画等の地域の実情に合わせて復旧しているなどのため、管路の本復旧対象延長に対する本復旧工事完了延長の割合が50%未満となっていた。

図表-下水11 下水道7県管内の管路の本復旧の進捗状況

(内訳は別表-下水16参照

管内 下水道
事業主
体数
被災管
路延長
被災マ
ンホー
ル箇所
管路の
本復旧
工事完
了延長
マン
ホール
の本復
旧工事
完了箇
所数
割合 本復旧の進捗割合別の下水道事業主体数
50%
未満
50%
以上
100%
未満
100%
A B B/A C D
km km 箇所 箇所
東北3県管内の計 69 447.4 266.2 59.5 11 16 42 14,360 7,865
東北3県管内以外の計 48 200.5 167.1 83.3 4 5 39 4,043 3,118
合計 117 648.0 433.4 66.9 15 21 81 18,403 10,983

また、管路の応急復旧の実施状況についてみると、管路が被災した117下水道事業主体のうち、仮設ポンプを設置していたのが40下水道事業主体、仮設配管を設置していたのが35下水道事業主体となっていた。これらの中には、河川担当部局と連携を図り、河川内に簡易処理施設を設置して下水処理した後に放流することなどにより使用制限期間を短縮していた事例が見受けられた。

<参考事例-下水3> 河川管理者と連携して下水道の使用を停止することなく回復した事例

千葉県習志野市は、昭和40年代から処理区域約719haを対象に管路延長約478㎞を整備している。

そして、処理区域約500haを受け持つ幹線の管路が被災したため、終末処理場まで流下することができず、約13,400戸に対して下水道の使用制限等を行うこととなった。このため、同市は、応急復旧として、河川敷地内に下水の簡易処理施設を設置し、下水処理した後に河川へ放流できるように河川管理者である千葉県と調整を図っていた。その後、平成23年7月1日に従来の終末処理場へ流下することが可能となり、下水道復旧方針に基づいた段階的対応により、下水道の使用を完全に停止することなく早期に下水道としての機能回復が図られていた。

(b) 終末処理場等

(ア)bのとおり、被災した終末処理場及びポンプ場は、下水道8県管内における終末処理場37か所及びポンプ場28か所となっているが、その本復旧の進捗状況について被災要因別にみると、図表-下水12のとおり、24年度末現在において、津波以外で被災した終末処理場21か所及びポンプ場12か所については、全て本復旧が完了していたが、津波により被災した終末処理場16か所及びポンプ場16か所については、本復旧が完了したのはそれぞれ11か所(完了率68.8%)、9か所(同56.3%)となっていた。

図表-下水12 下水道8県管内の終末処理場及びポンプ場における被災要因別の本復旧の進捗状況

(内訳は別表-下水17参照

管内 被災し
た終末
処理場
及びポ
ンプ場
被災し
た終末
処理場
被災し
たポン
プ場数
主な被災要因 主な被災要因
津波 津波以外 津波 津波以外
終末処
理場数
終末処
理場数
ポンプ
場数
ポンプ
場数
本復旧
が完了
してい
る終末
処理場
本復旧
が完了
してい
る終末
処理場
本復旧
が完了
してい
るポン
プ場数
本復旧
が完了
してい
るポン
プ場数
割合 割合 割合 割合
A B B/A C D D/C E F F/E G H H/G
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
東北3県管内の計 31 17 16 11 68.8 1 1 100.0 14 14 7 50.0 - - -
東北3県管内以外の計 34 20 - - - 20 20 100.0 14 2 2 100.0 12 12 100.0
合計 65 37 16 11 68.8 21 21 100.0 28 16 9 56.3 12 12 100.0

そして、被災直後から全ての終末処理場の本復旧が完了するまでの間の水処理能力の推移についてみると、津波以外により被災した終末処理場については、おおむね1か月程度で被災前の水処理能力まで本復旧が完了していた一方で、津波により被災した終末処理場については、24年度末現在において、処理水量が被災前の580,953㎥/日に対して、166,213㎥/日となっており、本復旧が完了した割合は28.6%となっていた(図表-下水13参照)。

図表-下水13 下水道8県管内の終末処理場の水処理能力の推移

下水道8県管内の終末処理場の水処理能力の推移

また、本復旧の完了までには一定の期間を要することから、本復旧に先立ち段階的対応として、ポンプ場については仮設ポンプを設置し、終末処理場については既存の施設を活用した沈殿処理及び消毒処理による最低限の処理を行うなどの応急復旧を実施していた。これらの中には、津波により終末処理場の被害が甚大であったことから、処理区域内の複数箇所に仮設処理施設を設置するなどして応急復旧を実施し、早期に下水道としての機能の回復を図ることができた事例が見受けられた。

<参考事例-下水4> 下水道の仮設処理施設を設置するなどの応急復旧を実施した事例

宮城県気仙沼市は、1日当たりの水処理能力9,800㎥(計画処理人口約10,000人相当)の気仙沼終末処理場を供用していたが、津波により甚大な被害が生じて稼働を停止した。

その後、時間の経過とともに、処理区域内の生活排水や、水産加工工場等の排水を処理する必要が生じたため、同市は、本復旧前の平成23年10月及び12月に生活排水用の仮設処理施設を3か所(1日当たりの水処理能力計3,050㎥)、24年7月に水産加工工場等からの排水用の仮設処理施設を3か所(同計1,850㎥)設置するなどの応急復旧を実施することで、一定程度の処理機能を確保した暫定的な下水道施設を地域に提供できることとなった。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況
(a) 管路

茨城、栃木、千葉、新潟各県の計4県管内において、被災した管路の本復旧の取組状況について、開削工法により本復旧している管路を対象にみると、下水道耐震指針に基づいて、施設の重要度に応じて要求される耐震性能を確保している工事や開削工法により液状化が発生しないよう埋戻しを行っている工事がある一方で、図表-下水14のとおり、耐震対策の検討において、施設の被災状況等を考慮した上で、より早期に回復させる必要があったために、耐震計算や、管きょとマンホールの接合部に伸縮、振動等を吸収する可とう性の継ぎ手を用いるなどの対策を行わず、原形に復旧している工事が見受けられ、今後、これらの管路については耐震対策の検討が必要な状況となっていた。

また、液状化対策の実施状況についてみると、砕石等による埋戻しについて、透水性の高い砕石等の使用が確認できない工事があるなど、今後、これらの管路については効率的な液状化対策の施工方法について検討が必要な状況となっていた。

図表-下水14 4県管内の管路の本復旧における耐震対策等の取組状況

(内訳は別表-下水18参照

開削工法に
より管路の
本復旧工事
をしている件数
耐震計算を
行わず、原
形に復旧し
ている工事
件数
液状化対策の実施状況
可とう性の
継ぎ手を用
いるなどの
対策を行わ
ず、原形に
復旧してい
る工事件数
埋戻し土の十分
な締固めに
よる対策を
行ったとした
工事件数
透水性の高い
砕石等による
埋戻しを行っ
たとした工事
件数
密度試験を
行っていない
工事件数
透水性の高い
砕石等の使用
が確認できな
い工事件数
410 172 25 113 31 264 95

<事例-下水4> 原形に復旧した管路において、耐震対策の検討が必要となっている事例

G市は、被災管路延長約7.6㎞、被災マンホール171か所の全てについて、平成24年7月に本復旧を完了している。

しかし、G市は、一部の管路の本復旧に当たって、早期復旧を図るために、東日本大震災において一定の効果が発現したと推定されている下水道耐震指針に基づいた耐震計算や、管きょとマンホールの接合部に可とう性の継ぎ手を用いる対策を行わずに管路の敷設替えを実施しており、今後、当該管路については耐震対策の検討が必要な状況となっていた。

<事例-下水5> 透水性の高い砕石等の使用が確認できず、効率的な液状化対策の施工方法につい        て検討が必要となっている事例

H県I市は、地盤の液状化による被災管路延長10.5㎞、被災マンホール183か所の全てについて、平成24年12月までに本復旧を完了している。

I市は、本復旧に当たって、下水道耐震指針に基づいて、管路の埋戻し土として砕石を使用したとしていたが、下水道耐震指針により推奨されている透水性の高い砕石等が使用されているか確認しておらず、今後、当該管路については効率的な液状化対策の施工方法について検討が必要な状況となっていた。

(b) 終末処理場等

東北3県管内及び茨城県管内の津波により被災した終末処理場及びポンプ場計32か所の本復旧の取組状況についてみると、下水道復旧方針を踏まえて、施設で観測された津波の高さを考慮して、津波壁を設けるとともに水密性の扉を設置するなどして津波対策を実施していたのは9か所となっていた。 一方、残りの23か所については、津波対策の実施において、施設の被災状況等を考慮した上で、より早期に回復させる必要があったために、津波対策を実施しておらず、原形に復旧しており、今後、これらの終末処理場等については津波対策の検討が必要な状況となっていた。

<参考事例-下水5> 下水道復旧方針を踏まえて津波対策を実施した終末処理場の事例

仙台市は、1日当たりの水処理能力398,900㎥(1日当たりの処理人口約70万人相当)の南蒲生浄化センターを供用していたが、同浄化センターではG.L(地盤面)4.0mから10.5mまで浸水して電気設備等が水没し、下水道の排除機能は維持できたものの、処理機能が停止した。

同市は、本復旧に当たっては、下水道復旧方針を踏まえ、津波の高さを考慮して、処理施設については施設高を上げ、電気設備等が設置された建物については津波壁を設けるとともに水密性のある扉を設置するなどの浸水対策を実施している。

これにより、同浄化センターは、津波が発生した場合でも、最低限の機能を維持することができ、災害予防対策に資する下水道の基本機能としての公衆衛生の確保等を図ることができることとなった。

以上のように、復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等について、被災の規模や復旧の方策によって進捗状況や取組状況が区々となっているが、下水道復旧方針を踏まえて、下水道施設の耐震対策、液状化対策及び津波対策を必要に応じて実施するなどして引き続き計画的かつ着実な早期の復旧等に努めることが必要である。

キ 公園事業

国及び地方公共団体は、都市公園法(昭和31年法律第79号)等に基づき、都市公園の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することなどを目的として広場や緑地等の整備を行う都市公園事業を実施している(以下、都市公園事業を実施する者を「公園事業主体」、都市公園事業で整備した都市公園等を「公園」という。)。

公園は、都市の骨格の形成、景観の形成、レクリエーション需要の充足、防災に資する効果等多様な役割を有している。このうち防災の役割を担う公園(以下「防災公園」という。)は、都市の防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るために、①災害発生時に復旧のための生活物資の中継基地等となる防災拠点、②周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容する避難地等として地域防災計画等に位置付けられる公園であり、国土交通省は、重点的に整備を推進することとしている。

(ア) 被災状況及び応急復旧活動における活用状況

2地方整備局管内並びに茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟各県の計6県(以下「公園6県」という。)管内及び東北3県管内において整備された公園の被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県管内における被災状況等については、国土交通本省等から提出を受けた既存の関係資料を基に集計及び分析を行った。

a 公園の被災状況
(a) 東北地方整備局管内及び東北3県管内の公園の被災状況

東北地方整備局管内及び東北3県管内における被災状況は、図表-公園1のとおり、被災した公園は52公園事業主体の計197か所、災害査定箇所数は計242か所となっており、宮城県における被害が最も多かった。

図表-公園1 東北地方整備局管内及び東北3県管内における被災状況

地方整備局及び県名 災害査定を受けた公園事業主体数 災害査定を受けた公園数 災害査定を受けた箇所数
箇所 箇所
東北地方整備局 1 1 1
岩手県 8 16 18
宮城県 25 126 150
福島県 18 54 73
52 197 242

被災内容についてみると、沿岸部においては、津波によって、園内にある擁壁や舗装等が広範囲にわたって崩壊、洗掘された公園や、建築物、照明柱、遊具等の施設や植栽等が押し流され甚大な被害を受けた公園が多数確認されている。一方、沿岸部に位置しているものの、丘の上に立地していたため、津波被害が軽微であったことなどから避難地として活用されるなど防災機能を発揮した公園も相当数確認されている。

<参考事例-公園1> 高台に立地している公園が避難地として活用された事例

宮城県石巻市では、同市の牡鹿地区の観測地点において最大8.6mの津波高を観測した。

そして、津波によって、同市の中心市街地を含む平野部の約30%に当たる沿岸域約73㎢が浸水し、学校、病院、総合支所等の公共施設、工場等が壊滅的な被害を受け、人的被害も多数に上った。一方、同市内の標高約37mの高台に位置する日和山(ひよりやま)公園へ続く階段が津波来襲時に緊急の避難路として活用され、また、同公園は避難地として多数の避難者に活用されるなど、公園の防災機能が発揮されることとなった。

(b) 関東地方整備局管内及び公園6県管内の公園の被災状況

ⅰ 要因別の被災状況

関東地方整備局管内及び公園6県管内における被災状況は図表-公園2のとおり、被災した公園は48公園事業主体の計135か所、災害査定箇所数は計193か所となっていた。

図表-公園2 関東地方整備局管内及び公園6県管内における被災状況

地方整備局及び県名 災害査定を受けた公園事業主体数 災害査定を受けた公園数 災害査定を受けた箇所数
箇所 箇所
関東地方整備局 1 1 1
茨城県 19 54 79
栃木県 10 16 19
群馬県 2 2 2
埼玉県 4 5 5
千葉県 11 56 86
新潟県 1 1 1
48 135 193

また、被災した公園135か所のうち、供用面積1ha以上の公園93か所における主な被災要因についてみると、図表-公園3のとおり、津波により被災した公園2か所、地震動により被災した公園50か所、津波及び地震動により被災した公園1か所、地震動及び液状化により被災した公園40か所となっていた。

そして、地震動及び液状化によって被災した14公園事業主体の公園計40か所のうち、防災公園として位置付けられていたのは8公園事業主体の計23か所であり、中には液状化による被災が著しいなどのため避難地等として活用されず、公園の防災機能が発揮できない公園も見受けられた。

図表-公園3 関東地方整備局管内及び公園6県管内における被災要因別の被災状況

(内訳は別表-公園5参照

併用面積1ha以
上の被災した公
津波により被災し
た公園
地震動により被災
した公園
津波及び地震動
により被災した公
地震動及び液状
化により被災した
公園
防災公園
公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
44 93 2 2 32 50 1 1 14 40 8 23

ⅱ 公園施設別の被災状況

供用面積1ha以上の公園における公園施設別の被災状況は、図表-公園4のとおりとなっており、被災した公園93か所のうち園路や駐車場等の路面等が被災した公園は38公園事業主体の計79か所となっていた。また、耐震性貯水槽等の災害応急対策施設が被災した公園は2公園事業主体の計3か所となっていた。

図表-公園4 関東地方整備局管内及び公園6県管内における公園施設別の被災状況

(内訳は別表-公園6参照

園路や駐車場等
の路面等が被災
フェンス等の工作
物が被災
植栽等が被災 平常時に利用さ
れるトイレが被災
災害応急対策施
設が被災
備蓄倉庫
が被災
耐震性貯
水槽が被
非常用照
明設備が
被災
公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園数 公園数 公園数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
38 79 34 56 10 15 10 13 2 3 1 2 1

<事例-公園1> 耐震性貯水槽が液状化により被災した事例

A県B市は、平成5年度からC公園の整備を行い、7年度に供用開始している。

B市は、同年度に、災害発生時に安全な空間を確保する必要があるとして、C公園を一時避難地として地域防災計画に位置付け、公表し、公園入口等に一時避難地を示す標識を設置していた。

そして、B市は、災害発生時において避難者等の飲料水等を確保する必要があるとして、8年度にC公園に飲料用の100t型耐震性貯水槽を設置していた。

しかし、C公園において周辺地域とともに液状化が発生し、公園全体が被害を受けることとなった。そして、園内に設置されている耐震性貯水槽においても、液状化によって貯水槽本体が地上に浮き上がり、給水管も破損するなどして、災害発生時に予定していた給水活動が想定どおり行えない状況となっていた。

b 応急復旧活動における公園の活用状況
(a) 東北地方整備局管内及び東北3県管内の公園の活用状況

東日本大震災において、沿岸部の住民等は周辺のビルや裏山に避難するなどの避難行動をとっており、公園も多数活用され、災害発生時の公園の防災機能が発揮されることとなった。

また、避難地として活用された公園のほか、自衛隊や緊急消防援助隊等の駐屯基地として活用されたり、災害対策車両等の中継基地として活用されたりするなど、復旧活動の防災拠点として活用された公園や、東日本大震災によって発生したがれき等の仮置き場として活用されたり、被災者のための仮設住宅建設用地として活用されたりした公園も多数見受けられた。

<参考事例-公園2> 災害対策車両等の中継基地として公園が活用された事例

東北地方整備局は、宮城県柴田郡川崎町地先において、昭和56年度から国営みちのく杜の湖畔公園の整備を行い、平成元年度に一部供用を開始している。

同公園は、園内の給水管路等が破損したり、園路や広場において段差やひび割れなどが多数発生したりするなどの被害を受けており、23年4月下旬まで臨時閉園の措置を執ることとなった。

一方、同公園は、宮城県が緊急輸送道路に選定している一般国道286号に接しており、東北自動車道及び山形自動車道との接続も良好なことなどから、同局の災害対策本部において被災地の復旧及び復興のための災害対策車両等の中継基地としての利用の検討が行われ、同年3月15日及び4月11日から6月2日までの約2か月間にわたって災害対策車両等の中継基地として同公園の広場、駐車場等が活用されることとなった。

さらに、これらの中には、今回のような沿岸部の大規模な災害を想定して、従前から沿岸部の自治体と自衛隊とが協力して防災訓練を実施していた岩手県遠野市の遠野運動公園のような事例(参考事例-道路2参照)も見受けられた。

(b) 関東地方整備局管内及び公園6県管内の公園の活用状況

ⅰ 公園の段階別活用方法等

関東地方整備局管内及び公園6県管内において、災害発生時に避難地等として活用された供用面積1ha以上の公園は、図表-公園5のとおり、29公園事業主体の計53か所であり、このうち24公園事業主体の計43か所が防災公園として位置付けられていた。

図表-公園5 関東地方整備局管内及び公園6県管内における災害発生時に活用された公園

(内訳は別表-公園7参照

災害発生時に活
用された公園
防災公園 活用方法
避難地や防災拠
点、がれきの仮置
き場等として活用
帰宅困難者の受
入地として活用
仮設トイレの設置
場所や給水所と
して活用
福島県等からの
避難者の受入地
として活用
公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数 公園事業
主体数
公園数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
29 53 24 43 19 25 3 4 10 19 10 14

そして、公園の活用方法は多岐にわたっており、避難地や帰宅困難者の受入地として活用された公園や、仮設トイレの設置場所、住民等の給水所として活用されていたり、福島県等から関東地域に避難してきた避難者の受入地として活用されていたりしている公園が見受けられた。

<参考事例-公園3> 帰宅困難者の受入地として公園が活用された事例

関東地方整備局は、昭和53年度から国営昭和記念公園の整備を行い、58年度に一部供用を開始し、順次整備している。そして、同公園が位置する昭島市は平成9年度に、立川市は11年度に、それぞれ同公園を広域避難地として地域防災計画に位置付けており、同局と昭島、立川両市は、9年度に、災害発生時における受入体制、備蓄品の確保や通信施設の設置に関する役割分担等を定めた確認書を取り交わしていた。

東日本大震災では、住民による広域避難地としての活用はなかったものの、首都圏において、鉄道等の運休により多数の帰宅困難者が発生したことから、同局は立川市等と連携を図り、同公園を帰宅困難者の受入地として提供するなどの対応を行った。

そして、震災当日の夜間から翌朝にかけて、園内にある施設を利用して約600人の帰宅困難者を受け入れるなど、公園の防災機能が発揮されることとなった。

<参考事例-公園4> 仮設トイレの設置場所として公園が活用された事例

千葉県浦安市は、平成23年3月末時点において、供用面積1ha以上の公園を24か所管理していた。

東日本大震災では、浦安市及びその周辺において発生した液状化によって上下水道の施設が甚大な被害を受け、市内は広範囲にわたって、約1か月間断水状態が続くこととなった。

同市は、震災当日の3月11日に災害対策本部を設置して、住民のための飲料水の確保に努めるとともに、市内の小中学校、公園等に仮設トイレの設置を行った。

そして、24か所の公園のうち4か所に、震災翌日から約1か月間にわたり、最大計41基の仮設トイレを設置するなど広場等が活用され、公園の防災機能が発揮されることとなった。

上記のように、公園の中には、災害が発生した直後には、帰宅困難者の受入地として活用されたり、災害発生の翌日から仮設トイレの設置場所として活用されたりする公園が見受けられるなど、災害発生時からの時間の経過に伴って公園の活用方法は異なる状況となっていた。

そして、防災公園の計画及び設計に係る技術的な指針として平成11年に作成された「防災公園計画・設計ガイドライン」(建設省都市局公園緑地課監修)等によると、公園の防災機能は災害発生からの時間の経過に伴って変化するとされ、①災害発生からおおむね3時間程度の災害発生直後段階、②災害発生後おおむね3時間から3日程度の災害発生緊急段階、③災害発生後おおむね3日以降の災害発生応急復旧段階の大きく三つの段階に整理されている。これらの段階別の活用状況を東日本大震災において活用された公園についてみると、図表-公園6のとおり、災害発生直後段階では15か所、災害発生緊急段階では23か所、災害発生応急復旧段階では42か所となっていた。

図表-公園6 関東地方整備局管内及び公園6県管内における段階別の活用状況

(内訳は別表-公園8参照

災害発生直
後段階
(発災からおお
むね3時
間程度)
災害発生緊
急段階
(発災後おお
むね3時間か
ら3日程度)
災害発生応
急復旧段階
(発災後お
おむね3日
以降)
一時又
は広域
避難地
帰宅困
難者の
受入地
仮設トイ
レの設置
場所や
給水所
福島県等
からの避
難者の受
入地
一時又
は広域
避難地
帰宅困
難者の
受入地
仮設トイ
レの設置
場所や
給水所
福島県等
からの避
難者の受
入地
仮設トイ
レの設置
場所や給
水所
福島県等
からの避
難者の受
入地とし
て活用
自衛隊等
の応急復
旧部隊の
集結場所
資機材や
救援物資
等の集積、集配
等物流拠点
がれきの仮
置き場や仮
設住宅等建
設用地
公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数 公園数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
15 13 3 2 - 23 15 4 11 - 42 16 14 - 5 7

ⅱ 災害応急対策施設の利用状況

東日本大震災において、園内に設置された災害応急対策施設が利用された公園は9公園事業主体の計16か所あり、このうち備蓄倉庫が利用された公園は3公園事業主体の計8か所、非常用通信設備又は非常用照明設備が利用された公園は5公園事業主体の計7か所、液状化等により上水道施設が被災して断水状態となったことなどから、避難者や住民に飲料水を供給するために、園内に設置した耐震性貯水槽が利用された公園は3公園事業主体の計3公園となっていた(内訳は別表-公園9参照)。しかし、中には、防災公園の運営方法等について取決めがなされていなかったことなどから、災害応急対策施設の利用が迅速にできなかった公園も見受けられた。

<事例-公園2> 耐震性貯水槽が災害発生直後から利用できなかった事例

D県は、昭和24年度からE公園の整備を行い、27年度に供用開始している。

そして、E公園が所在するF市は、災害発生時に安全な空間を確保する必要があるとして、E公園を広域避難地として地域防災計画に位置付けており、公園入口等に避難地を示す標識を設置していた。

また、F市は、災害発生時において避難者等の飲料水等を確保する必要があるとして、E公園の事業主体であるD県から占用許可を受け、平成10年度にE公園に飲料用の100t型耐震性貯水槽を設置していた。

一方、D県とF市との間で、災害発生時における耐震性貯水槽の利用方法等について取決めがなされておらず、耐震性貯水槽の使用に必要な給水装置が園内に保管されていなかった。このため、F市が給水装置をE公園に搬送するまで、D県は耐震性貯水槽を使用することができず、E公園において、地震発生直後から住民等が避難してきたものの、迅速に耐震性貯水槽が利用できず、給水活動は翌日まで行われない状況となっていた。

c 公園の減災効果

大規模な公園においては、園内に広大な広場、駐車場、広範囲にわたる樹林帯、池やプール等多数の施設が整備されている。また、都市部のみでなく、沿岸部に整備されている公園も多数存在しており、東日本大震災では、公園緑地等において、津波エネルギーの減衰、漂流物の捕捉等の機能が発揮されたことが確認されている。

そして、福島、茨城、千葉各県において、沿岸部に整備され、樹林帯等の施設を有している公園は、12公園事業主体の計19か所となっており、これらの中には、園内に整備されている樹林帯等により津波被害軽減効果が発現していることが推定された事例が見受けられた。

<参考事例-公園5> 公園の樹林帯等により津波被害軽減効果が発現していることが推定された事例

福島県いわき市は、新舞子海岸の背後に、新舞子浜公園を昭和51年度から整備し、現在では供用面積19haの大規模公園として管理している。そして、同公園には、松や雑木等が供用面積の約3割にわたって植栽されている。

東日本大震災では、同公園付近に、推定T.P.7.6mの津波が押し寄せ、同公園も津波による被災を受けたものの、背後地の津波痕跡高が推定T.P.2mであったことや、園内にある松や雑木等の樹林帯に車両等の漂流物が捕捉されていたことなどから、同公園の広大な敷地や樹林帯等により津波被害軽減効果が発現していることが推定された。

以上のように、公園の被災及び活用状況について、津波によって沿岸部に位置している公園が甚大な被害を受けた事例や、液状化による被災が著しいなどのため避難地等として活用されず、公園の防災機能が発揮できない事例が見受けられた一方で、公園が避難地や防災拠点として活用されるなど防災機能を発揮した事例や、沿岸部の公園において、園内に整備されている樹林帯等により津波被害軽減効果が発現していることが推定された事例が見受けられた。これらのことから、防災担当部局等の関係部局等と十分連携を図り、公園の規模、施設内容、周囲の環境等を踏まえて必要に応じて公園を地域防災に活用していくことが重要であり、公園の整備に当たって、地域の状況によって公園の防災機能や津波被害軽減効果を十分検討することも必要である。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

国及び地方公共団体の公園事業主体 が実施する災害復旧事業に係る工事は、国営公園においては国営公園災害復旧事業事務取扱要綱(昭和58年建設事務次官通達)等により、地方公共団体が管理する公園においては負担法等により、それぞれ原形に復旧することが原則であるとされている。ただし、地形、地盤の変動、災害の規模、原施設の形状、寸法等から原形に復旧したのでは再度災害の防止の面から著しく不適当な場合においては、必要最小限において、位置、延長、形状、寸法、材質等を変更して行う工事についても災害復旧事業に係る工事とみなすとされている。 そして、東日本大震災における公園の災害復旧に当たっては、上記の要綱等により原則、原形に復旧する災害復旧事業に係る工事が行われている。

b 復旧の進捗状況
(a) 東北地方整備局管内及び東北3県管内における復旧の進捗状況

東北地方整備局管内及び東北3県管内において被災した公園は、(ア)aのとおり、52公園事業主体の計197か所となっているが、24年度末までに復旧が完了した公園は、このうち約86.3%に当たる50公園事業主体の計170か所となっていた。一方、復旧が完了していない公園は全体の約13.7%に当たる11公園事業主体の計27か所となっていた(図表-公園7参照)。

図表-公園7 東北地方整備局管内及び東北3県管内における復旧状況

地方整備局
及び県名
被災した公園
復旧が完了した公園 復旧が完了していない公園
復旧が完了
した公園の
割合
復旧が完了し
ていない公園
の割合
公園事業
主体数
公園数
A
公園事業
主体数
公園数
B
割合
B/A
公園事業
主体数
公園数
C
割合
C/A
箇所 箇所 箇所
東北地方整備局 1 1 1 1 100.0 - - -
岩手県 8 16 9 14 87.5 1 2 12.5
宮城県 25 126 22 102 81.0 9 24 19.0
福島県 18 54 18 53 98.1 1 1 1.9
52 197 50 170 86.3 11 27 13.7
(b) 関東地方整備局管内及び公園6県管内における復旧の進捗状況

関東地方整備局管内及び公園6県管内において被災した公園は、(ア)aのとおり、48公園事業主体の計135か所となっているが、24年度末までに復旧が完了した公園は、このうち約97.8%に当たる48公園事業主体の計132か所であり、復旧が完了していない公園は2公園事業主体の計3か所であるなど、ほぼ復旧が完了している状況となっていた(図表-公園8参照)。

図表-公園8 関東地方整備局管内及び公園6県管内における復旧状況

地方整備局
及び県名
被災した公園
復旧が完了
した公園の
割合
復旧が完了し
ていない
公園の割合
復旧が完了
した公園の
割合
復旧が完了
していない
公園の割合
公園事業
主体数
公園数
A
公園事業
主体数
公園数
B
割合
B/A
公園事業
主体数
公園数
C
割合
C/A
箇所 箇所 箇所
関東地方整備局 1 1 1 1 100.0 - - -
茨城県 19 54 19 51 94.4 2 3 5.6
栃木県 10 16 10 16 100.0 - - -
群馬県 2 2 2 2 100.0 - - -
埼玉県 4 5 4 5 100.0 - - -
千葉県 11 56 11 56 100.0 - - -
新潟県 1 1 1 1 100.0 - - -
48 135 48 132 97.8 2 3 2.2
c 震災を踏まえた復旧の取組状況

国土交通省は、東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備検討委員会を設置し、24年3月に「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」(以下「公園技術的指針」という。)を取りまとめて公表している。

公園技術的指針によれば、公園緑地整備に関する基本的な考え方として、津波の高さより高い場所に迅速に避難するために、避難地となる公園は、避難階段及び避難タワーの設置、津波避難ビルの指定等と併せた配置計画となるよう留意することが必要とされている。また、避難地の整備に当たっては、津波による被害が少なくなるように、津波の到達する方向に留意して、盛土を築造することなどとされている。そして、東日本大震災を踏まえて、沿岸部一帯に一定の高さを備えた盛土構造の避難地を整備していく構想を策定し、復興に係る公園整備を行う事例も確認されている。

また、2地方整備局管内並びに東北3県管内及び公園6県管内の復旧が完了した公園については基本的に原形に復旧されており、 液状化が発生した公園において、地域の状況を考慮した上で早期の復旧を優先させて液状化対策を行っていないことから、今後、液状化対策の検討が必要となっている事例が見受けられた。

<事例-公園3> 耐震性貯水槽を原形に復旧していて、液状化対策の検討が必要となっている事例

G県H市は、昭和48年度からI公園の整備を行い、63年度に供用開始している。

H市は、同年度に、災害発生時に安全な空間を確保する必要があるとして、I公園を一時避難地として地域防災計画に位置付け、公表し、公園入口等に一時避難地を示す標識を設置していた。また、H市は、災害発生時において避難者等の飲料水等を確保する必要があるとして、平成8年度にI公園に飲料用の100t型耐震性貯水槽を設置していた。

そして、I公園において液状化が発生し、当該耐震性貯水槽も液状化による被災を受け、H市は被災した当該耐震性貯水槽を原形に復旧する災害復旧事業に係る工事を行い、25年3月に完了していた。I公園は液状化しやすい地域にあることから、再度被災して災害応急対策施設として飲料水の供給に支障が生じないように、今後、当該耐震性貯水槽の補強工法の検討を含めた液状化対策の検討が必要な状況となっていた。

以上のように、復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等について、復旧が完了した公園については、基本的に原形に復旧がなされているが、沿岸部に位置している公園については、避難階段、避難タワーの配置等を検討する際に公園技術的指針を参考とするなどして、整備の推進を図り、液状化しやすい地域に位置している防災公園については、耐震性貯水槽等の補強工法の検討を含めた液状化対策の検討を行うことが必要である。

ク 治山事業

林野庁及び地方公共団体は、森林法(昭和26年法律第249号)等に基づき、森林生産力増進等を図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的として、土留工、法面保護工、谷止工等の治山施設を整備したり、沿岸部において飛砂、強風、高潮等の被害を防止する海岸防災林及び海岸防災林を津波等から防護する防潮堤等の施設(以下、治山施設と合わせて「治山施設等」という。)を整備したりする治山事業を実施している。

林野庁は、農林水産省防災業務計画等により、治山事業に係る災害予防対策としては、山地災害の発生を防止するために、山地災害危険地区等における治山施設等の整備の促進を図るとともに、山地災害危険地区の住民への周知を図ることなどとしている。

また、林野庁及び都道府県は、昭和47年に山地災害危険地区の実態を把握するための総点検を実施し、53、54両年度、60、61両年度、平成7、8両年度及び18、19両年度に再点検を実施している。そして、山地災害危険地区として把握した地区は、順次治山施設の整備を行うこととしている。

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

東北、関東両森林管理局 (以下「2森林管理局」という。)並びに東北3県及び茨城、千葉、新潟、長野各県が整備した治山施設等の被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県における被災状況等については、林野庁において、災害査定設計書、震災関連資料等により確認した。

a 治山施設等の被災状況

そして、治山施設等の被災を海岸防災林等の被災及び山地災害による治山施設の被災別に示すと、図表-治山1のとおりとなっており、東北3県及び青森、茨城、千葉各県の計6県(以下「治山6県」という。)地域の沿岸部における海岸防災林等の被災が69か所で被災額計595億余円(被災額全体の89.7%)、東北3県及び秋田、山形、茨城、新潟、長野各県の計8県(以下「治山8県」という。)地域の内陸部及び山間部における山地災害による治山施設の被災が76か所で被災額計68億余円(被災額全体の10.3%)となっていた。

図表-治山1 治山6県地域及び治山8県地域における治山施設等の被災額及び被災箇所数

治山6県地域及び治山8県地域における治山施設等の被災額及び被災箇所数

(a) 海岸防災林の被災状況等

ⅰ 海岸防災林の被災状況

林野庁及び都道府県は、沿岸部において飛砂、風害、潮害の防備等の災害防止機能を有している森林を海岸防災林に指定し、必要に応じて海岸防災林を保護するための防潮堤、防潮護岸等を整備している。

海岸防災林の被災状況についてみると、震源に近い宮城県を始め、青森、岩手、福島、茨城、千葉各県にまで津波の浸水範囲が及び、69か所の海岸防災林が流失、水没、倒伏するなど、甚大な被害が生じている。

そして、治山6県地域の海岸防災林における浸水面積は、図表-治山2のとおり、全体で計3,659haとなっており、このうち海岸防災林の面積に対する浸水面積の割合(以下「被害率」という。)が75%以上を占めている箇所の浸水面積は計1,072haに及び、そのほとんどは東北3県地域に集中している。

図表-治山2 被害率区分別の海岸防災林の浸水面積

被害率区分
県名
75%以上 75%未満25%以上 25%未満
青森県 ha ha ha ha
1.8 55.3 555.8 612.9
0.3% 9.0% 90.7% 100.0%
岩手県 99.6 22.8 41.7 164.1
60.7% 13.9% 25.4% 100.0%
宮城県 750.4 767.0 235.9 1,753.3
42.8% 43.7% 13.5% 100.0%
福島県 217.4 21.3 56.1 294.8
73.7% 7.2% 19.0% 100.0%
茨城県 2.8 6.1 460.8 469.7
0.6% 1.3% 98.1% 100.0%
千葉県 - 18.2 346.2 364.4
- 5.0% 95.0% 100.0%
1072.0% 890.7 1,696.5 3,659.2
29.3% 24.3% 46.4% 100.0%
注(1)
海岸防災林の浸水面積には、海岸防災林に隣接する沿岸部に存在する海岸防災林ではない森林における浸水面積も含んでいる。
注(2)
青森県は上北郡六ケ所村以南、福島県は南相馬市以北及びいわき市の一部、千葉県は長生郡一宮町以北に限定している。

ⅱ 海岸防災林の津波被害軽減効果

津波被害を受けた東北3県地域及び茨城県管内において、海岸防災林は津波により甚大な被害を受けたものの、海岸防災林により津波のエネルギーが減衰したり、船舶、車両等の漂流物が捕捉されたり、海岸防災林が植えられている人工砂丘等の斜面により津波が減衰したりするなど津波被害軽減効果が発現したとされている。

なお、海岸防災林の津波被害軽減効果については、16年の治山技術基準解説防災林造成編(林野庁監修)によると、立木の幹の摩擦抵抗によって、林内に侵入する津波のエネルギーを低下させたり、漂流物の移動を阻止し、移動による二次災害を防止し軽減させたりするなど、津波による破壊力を効果的に軽減させるためにはある程度の林帯幅が必要であるとされている(図表-治山3参照)。

図表-治山3 海岸防災林の概念図

海岸防災林の概念図

<参考事例-治山1> 海岸防災林により津波エネルギーの減衰効果が発現したと推定される事例

東北森林管理局は、宮城県石巻市の渡波(わたのは)地区にある海岸防災林16.0haを管理している。そして、T.P.約5mの津波が押し寄せたため防潮護岸は被災したが、背後の海岸防災林に133年生のクロマツ等が1,975㎥存在していたことにより、津波エネルギーの減衰効果が発現し、背後の住宅地は浸水したが流出はしなかった。

なお、同地区の海岸防災林は、平均胸高直径が30.0㎝、1ha当たりの本数が195本、防災林の林帯幅が160mであるため、防災林に侵入した津波の速度は約60%、そのエネルギーは約20%に減衰したと推定される。

<参考事例-治山2> 人工砂丘が津波の被災を防いだ事例

茨城県は、東茨城郡大洗町の成田地区において、潮害や飛砂等の災害から背後地を保護することを目的として、防潮護岸の整備、人工砂丘や海岸防災林の造成を行っている。そして、T.P.6.9mの津波が押し寄せたため防潮護岸(高さT.P.5.2m)は被災したが、背後にある人工砂丘(高さT.P.約7m)が津波より高かったことなどにより、人家、国道等が被災しなかった。

<参考事例-治山3> 人工盛土が津波の被災を防いだ事例

茨城県は、日立市の十王町地区において、潮害や飛砂等の災害から背後地を保護することを目的として、防潮工の整備、人工盛土や海岸防災林の造成を行っている。そして、T.P.5.6mの津波が押し寄せたため天端高T.P.5.0mの防潮堤を越流したが、背後にある人工盛土(高さT.P.約7m)が津波より高かったことなどにより、人家、工場等が被災しなかった。

一方、海岸防災林の林帯の地盤高が低く地下水位が高い箇所では、樹木の根が地中深く伸びず、根の緊縛力が弱いことから、津波により根返りして流木化し林帯が消失したことによる被害が多数存在していることが確認されている。

<事例-治山1> 防災林の根が地中に伸びず、津波エネルギーを減衰できなかった事例

A局は、B県C市のD地区にある海岸防災林57.4ha(平均胸高直径22㎝、平均樹高13mのクロマツ7,012㎥)を管理している。そして、T.P.9.3mの津波が押し寄せ天端高T.P.6.2mの防潮護岸を越流して海岸防災林に侵入してきたが、海岸防災林の地盤高が低く地下水位が高かったことから樹木の根が地中深く伸びておらず、津波により根返りして流木化し林帯が消失したため、保全対象となる市道、集落、農地等に被害が生じた。

このようなことから、海岸防災林の管理状況についてみると、台風等の被害により、海岸防災林の現況と樹種、林齢、胸高直径、1ha当たりの本数、材積等を記すことになっている森林簿が異なっている地区が見受けられた。これらの地区においては、地震等が発生した際に津波の減災効果が十分発現されないおそれがある状況となっていた。

<事例-治山2> 海岸防災林の現況と森林簿が異なっている事例

E局は、F県G市のH地区にある海岸防災林3.0haを管理している。そして、H地区の海岸防災林は、津波、高潮等を防止することを目的として、森林簿においては、111年生のクロマツが1ha当たり100㎥植栽されていることとなっている。しかし、台風等の被害により、平成25年5月の会計実地検査時に、1ha当たり80.3㎥となっていて、海岸防災林の現況と森林簿が異なっていた。

<事例-治山3> 森林簿に記載されている海岸防災林が存在していない事例

I局は、J県K村のL地区にある海岸防災林4.39haを管理している。そして、L地区の海岸防災林は、潮害を防止することを目的として、森林簿においては、99年生(平均胸高直径8㎝、平均樹高4.0m)の天然生広葉樹林が88㎥生育していることとなっている。しかし、平成12年8月の火山活動により海岸防災林が全滅し、また、火山灰や酸性の火山ガスの影響により植物の定着が困難な状況となっていた。

以上のように、海岸防災林の被災状況等について、海岸防災林や人工砂丘等により、津波被害軽減効果が発現し、津波による被害が軽減された事例が見受けられた一方で、林帯の地盤高が低く地下水位が高い箇所では海岸防災林が流失し、津波被害軽減効果が発現しなかった事例も見受けられた。また、海岸防災林の管理状況をみると、台風等の被害により、現況と森林簿が異なっている事例が見受けられたことから、今後は、津波被害軽減効果が発現されるよう海岸防災林の現況を確認し、管理を適切に行うとともに、津波対策が必要な箇所については、海岸防災林の造成や人工砂丘等の設置を検討していくことが必要である。

(b) 治山施設の整備状況と山地災害による被災状況等

ⅰ 治山施設の整備状況と被災状況等

治山8県地域では、長時間にわたる地震動により山腹崩壊等の山地災害が383か所で発生し、山地災害の発生場所、被害の状況等を示した災害報告がされているが、一部の箇所では人家、神社、工場、道路等の保全対象施設に甚大な被害が生じていた。なお、災害報告の被災箇所383か所の情報を基に76か所において災害復旧の事業決定がされている。

そして、災害報告が行われた383か所において、山地災害危険地区としての把握の有無と治山施設の整備状況との関係についてみると、図表-治山4のとおり、 山地災害危険地区として把握されていなかった233か所で被災が発生しており、被災全体の60.8%を占めていた。また、山地災害危険地区として把握されていた150か所についても、126か所において、治山施設の整備が概成に至っていなかった。

図表-治山3 海岸防災林の概念図

治山施設の整備
山地災害危険地区としての把握の有無
概成 一部概成 未成 未着手
治山8県地域 把握されていた箇所 24 59 13 54 150
把握されていなかった箇所 - - - 233 233
24 59 13 287 383
注(1)
概成とは、計画した一連の工事が完了した場合をいう。
注(2)
一部概成とは、計画した一連の工事のうち一部の箇所に対する工事のみが完了した場合をいう。
注(3)
未成とは、計画した工事の全部又は一部が完了していない場合をいう。

<事例-治山4> 治山施設が整備されていない箇所において、山腹崩壊により集落が一時孤立した事例

M県は、N市O地区を山地災害危険地区として指定し、山腹崩壊等を未然に防止するために、治山施設の整備を実施しているが、計画した工事のうち一部の工事のみ完了していた。

しかし、治山施設の整備が実施されていない箇所において山腹が崩壊し、下流の沢まで土砂等が流出、堆積し河川をせき止め、その結果、左岸側にある林道に土砂等が流出した。このため、林道につながる集落の一部(2戸7人)が土砂等の撤去完了まで一時孤立することとなった。

山腹崩壊等の山地災害による保全対象施設への影響についてみると、図表-治山5のとおり、山地災害危険地区として把握されていなかった箇所において、道路や人家、工場等に被害を与えている箇所が見受けられた。このうち、福島県では、山腹崩壊により人家が4棟全壊し、人的被害等が発生していた。

また、把握されていた箇所のうち人家が被害を受けたものは8か所あり、このうち4か所においては、治山施設の整備が概成していなかった。

図表-治山5 山腹崩壊等による保全対象施設への影響

(内訳は別表-治山7参照

(単位:箇所)

土地災害危険地区としての把握の有無 被災箇所数 保全対象施設
人家 工場 神社 道路 その他
治山8県地域 把握されていた箇所 150 8 1 2 33 13 57
把握されていなかった箇所 233 8 5 2 34 9 58
383 16 6 4 67 22 115
(注)
一つの被災箇所に複数の保全対象施設がある場合がある。

ⅱ 山地災害危険地区の把握

治山事業においては、厳しい財政事情や限られた人員の中で、全国各地に多数存在する国有林及び民有林における治山施設の整備の優先順位付けが重要な課題となっている。

そして、林野庁は、前記のとおり、山地災害危険地区を把握するために再点検を再三行っているが、「山地災害危険地区の再点検について」(平成18年18林整治第520号)により、都道府県に対して、公共施設等から見通し角が11度以上ある山りょうが存在する区域の範囲内に、公共施設等の保全対象が存在するという条件(以下「傾斜条件」という。)を満たす地区等を山地災害危険地区の調査対象地区として選定するなど、山腹崩壊等により公共施設等に影響を及ぼすおそれがある範囲等を明確にしている(図表-治山6参照)。

図表-治山6 保全対象施設の指定範囲の概念図

保全対象施設の指定範囲の概念図

 

しかし、ⅰのとおり、山地災害危険地区として把握されていなかった箇所において、山腹崩壊等により公共施設等に多数の被害が生じており、この中には、山地災害危険地区の調査対象として選定することとなっている傾斜条件を満たす箇所が多数見受けられた。

これは、18、19両年度の山地災害危険地区の再点検の際に、人家、道路、工場等の保全対象施設の変化の情報を十分に把握していなかったことなどによると考えられる。

したがって、今後は、林野庁及び都道府県において、国有林及び民有林が所在する関係市町村と連携し、可能な限り効率的に保全対象施設の情報を収集するとともに、その情報を考慮した上で再点検を実施し山地災害危険地区を選定する必要がある。

<事例-治山5> 調査対象地区内に公共施設等が存在することを十分に把握していなかった事例

P県Q市内にあるR地区は山地災害危険地区として把握されていなかったが、山地災害により水路等の保全対象施設が被災していた。

R地区においては、山りょうの見通し角が41度となっている箇所に人家等があり、山地災害危険地区の調査対象地区として選定する条件である山りょうの見通し角が11度以上ある範囲内に公共施設等がある地区に該当していた。また、地質や地況等の条件からみても、本来、同地区は山地災害危険地区として把握すべきであった。

以上のように、治山施設の整備状況と山地災害による被災状況等について、山地災害危険地区として把握されていない箇所での被害も多数発生し、人家、道路等の保全対象施設に甚大な被害が生じている事例も見受けられたことから、今後は、山地災害危険地区の危険度の判定に必要な地質、地形等の情報を抽出したり、既往災害や保全対象施設を把握し、より多くの地域情報を基に分析したりなどして、山地災害危険地区の判定精度を向上させて効果的な事業計画の策定等を行い、より住民の安全及び安心の向上を図る必要がある。

b 山地災害に関する情報の周知状況等
(a) 山地災害に関する情報の周知状況

治山8県地域における災害報告の被災箇所383か所のうち233か所は、山地災害危険地区として把握されていなかった箇所であったため、市町村の地域防災計画に組み入れられておらず、山地災害危険地区対策のために必要な情報が住民へ周知等されていなかった。

また、山地災害危険地区として把握されていた150地区において、山地災害に関する情報の住民への周知状況等についてみると、図表-治山7のとおり、 11地区については、地域防災計画に山地災害危険地区の情報が記載されていなかった。 また、108地区については、山地災害危険地区の被害想定区域、避難場所等を示したハザードマップを住民に公表していなかった。 さらに、人家、公共施設等と危険地区との位置関係や避難場所を明示した標識が現地に設置されていた地区はなかった。

図表-治山7 住民への周知状況等

(内訳は別表-治山8参照

山地災害危険地区として把握されていた地区数 山地災害危険地区の住民への周知等
地域防災計画への情報記載 ハザードマップの公表 標識の設置
地域 危険地区数 記載 未記載 公表 未公表 設置 未設置
治山8県地域 150 139 11 42 108 - 150

したがって、山地災害の被災地区及び隣接する地区の住民には、山地災害の危険情報について十分に周知されておらず、また、山地災害の発生に備えた警戒避難体制等が十分とはいえない状況となっていた。

なお、林野庁は、各森林管理局及び都道府県に対して、25年5月から6月までの間に実施される山地災害防止キャンペーンを活用し、住民を対象とした講習会、山地災害危険地区の標識の設置等、山地災害危険地区対策の推進に向けた積極的な取組を実施するよう周知した。そして、2森林管理局は、25年度に山地災害危険地区のうち危険度が高い289か所に標識を設置することとしていた。

(b) 森林管理局が実施している治山流域別調査結果の情報提供の実施状況

林野庁及び都道府県は、崩壊地や荒廃渓流等からの土砂の流出による被害想定区域について、山腹崩壊等によって発生した土砂等が土石流となって流出するおそれのある範囲としている 。そして、流域の上流には国有林が、下流には民有林が位置することが多く、被害想定区域を決定するに当たっては、国有林及び民有林が位置する流域全体の状況を把握する必要がある(図表-治山8参照)。

図表-治山8 土砂流出に伴う被害想定区域の概念図

土砂流出に伴う被害想定区域の概念図

 

また、23年12月の林政審議会の答申では、流域全体の荒廃地調査を森林管理局が主導して実施し、その調査結果に基づき、国と都道府県が連携して効果的に治山対策を展開すべきとされている。

そして、各森林管理局は、23、24両年度に山地荒廃の実態を把握するために治山流域別調査を実施し、流域全体の不安定土砂量等を把握している。

そこで、25年次に検査の対象とした5森林管理局が18県24流域において実施した治山流域別調査の調査結果を下流に位置する民有林を管理する県へ情報提供しているかについてみると、3県に対して3流域の情報を提供しているにすぎない状況となっていた。

また、森林管理局は不安定土砂を安定させるために、谷止工等の治山施設の整備を実施しているが、情報が県に提供されていない21流域の中には、地形、地質等の自然条件や予算事情等により、不安定土砂と見込まれる土砂の全てを安定化させることが難しく、将来において下流への土砂流出のおそれがある箇所が見受けられた。

以上のことから、国有林に係る治山施設の整備に当たっては、下流域への土砂流出による災害の防止及び軽減を図るための効果的な対策を講ずるとともに、治山流域別調査の調査結果等を流域の下流に位置する都道府県に情報提供することにより民有林に係る治山事業と連携して、流域全体の効果的な治山事業を実施する必要がある 。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

林野庁は、海岸防災林等の復旧及び再生において、市町村策定の復興計画等を踏まえて、防潮堤等の復旧や海岸防災林の基盤造成のための盛土及び植栽等を実施することとしている。そして、海岸防災林の基盤造成はおおむね27年度までの5年間で完了し、基盤造成が完了した箇所から順次植栽を実施することとしており、全体の復旧はおおむね32年度までの10年間で完了することを目指すこととしている。

b 復旧の進捗状況

治山施設等における被災状況は、(ア)aのとおり、治山6県地域における海岸防災林等の被災箇所数が69か所、治山8県地域における山地災害による治山施設の被災箇所数が76か所となっているが、24年度末現在の復旧の進捗状況についてみると、図表-治山9のとおり、海岸防災林等における完了箇所数は17か所(完了率24.6%)、治山施設における完了箇所数は63か所(完了率82.9% )となっていた。

図表-治山9 治山施設の復旧の進捗状況

(内訳は別表-治山9参照

地域 被災別 被災箇所数(a) 未着手 整備中 完了
箇所数(b) 割合(b/a) 箇所数(c) 割合(c/a) 箇所数(d) 割合(d/a)
治山6県地域 海岸防災林等 69 29 42.0% 23 33.3% 17 24.6%
治山8県地域 地山施設 76 1 1.3% 12 15.8% 63 82.9%

そして、治山6県地域における海岸防災林の復旧の進捗状況についてみると、図表-治山10のとおり、東北3県地域が被災延長計157.4kmに対して復旧完了延長が計0.8km(完了率0.5%)となっており、復旧が進んでいない状況となっていた。

図表-治山10 海岸防災林の復旧の進捗状況

復旧状況
県名
被災延長 復旧着手延長 復旧完了延長 完了率
m m m
青森県 500 500 500 100
岩手県 12,418 2,800 400 3.2%
宮城県 104,435 23,200 400 0.4%
福島県 40,553 15,200 - -
茨城県 4,990 4,700 4,400 88.2%
千葉県 8,900 7,000 5,100 57.3%
171,796 53,400 10,800 6.3%
(うち東北3県計) (157,406) (41,200) (800) (0.5%)
注(1)
被災延長については、国有林、民有林別に把握した被災延長を合計している。
注(2)
青森県の被災延長については、民有林分は計上していない。

このように、治山施設の復旧はほぼ完了しているのに対して、甚大な被害を受けた東北3県地域の海岸防災林の復旧は大幅に遅れている が、その主な原因は、海岸防災林に隣接する海岸堤防の構造等に係る地域からの要望等との調整に時間を要したり、被災した海岸防災林の敷地が災害廃棄物の仮置場や海岸事業等の作業場所として活用されていたりしていることなどによるものである。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況

海岸防災林の被災においては、林帯の地盤高が低く地下水位が高かった箇所では根の緊縛力が弱いことから、根返り して流木化し林帯が消失していることなどが多数確認されていた。また、防潮護岸等は被災したが、その後方にある海岸防災林の人工砂丘等の斜面により津波が減衰するなどといった津波被害軽減効果が発現していた。

このような状況を踏まえて、林野庁は、今後の海岸防災林の再生に向けて技術的知見を収集等するために、23年4月に「東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会」を設置し、海岸防災林の被害状況の把握、防災効果の検証、復旧方法等についての検討を行った結果、「今後における海岸防災林の再生について」の報告書を取りまとめた。これによると、海岸防災林の復旧及び再生に当たり、原形に復旧することが不適当な場合には、林帯の地盤高を地下水位等から2mから3m程度の位置に確保するため盛土工を実施することや、盛土による津波エネルギーの減衰効果を高めるために、海側から陸側に緩やかな上り勾配等を設けることを検討することが望ましいとされている。

そして、林野庁、関係地方公共団体等においては、地域の要望等を踏まえ、上記の報告書に基づいて、被災箇所ごとに海岸防災林の復旧方法を検討することとしている。その結果、海岸防災林の復旧及び再生において、林帯の地盤高を確保するため盛土工を施工している箇所や、海岸防災林やその後方にある保全対象施設が被災したことから新たに海岸防災林の前面に人工砂丘等を施工している箇所が見受けられた。

<参考事例-治山4> 津波被害軽減効果を発現させるために、人工砂丘等を新たに整備した事例

茨城県は、鉾田市の玉田地区にある民有林の海岸防災林約16haを管理している。

そして、T.P.7.4mの津波が押し寄せ海岸防災林は被災した。そのため、同県は、震災を踏まえて、海岸防災林の復旧を行うとともに、海岸防災林造成事業により、海岸防災林の前面に防潮堤(天端高T.P.6.0m)や人工砂丘(高さT.P.約8m)を新たに整備して、再度災害の防止を図ることとしている。

以上のことから、海岸防災林の復旧に当たっては、津波に対する被害軽減効果を十分に発現させるために、林帯の地盤高を確保して防災林の立木の根返りなどの被害を防止するとともに、防潮堤、人工砂丘等を整備するなど林帯の保護等を考慮した復旧に努めることが必要である。

ケ 漁港整備事業

水産庁、地方公共団体等は、漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号)等に基づき、水産業の健全な発展等を図るために、環境との調和に配慮しつつ、漁港漁場整備事業を総合的かつ計画的に推進し、及び漁港の維持管理を適正にすることなどを目的として、防波堤、護岸等の外郭施設、岸壁、物揚場等の係留施設、道路、駐車場、橋等の輸送施設、漁業集落道、広場施設等の漁業集落環境施設等 の整備を行う漁港整備事業等を実施している。そして、防波堤、護岸等の外郭施設は、漁港区域内への津波、高潮等による海水の進入の防止等のための施設であり、岸壁、物揚場等の係留施設は漁船の係留、漁獲物の陸揚げ、資材の積卸し等の作業を円滑かつ安全に行うための施設である。

大規模地震が発生した場合に、被災直後の緊急物資等の海上輸送を行う防災拠点漁港としての漁港整備は、地方公共団体が地域防災計画に位置付けた上で、特定漁港漁場整備事業計画等に基づき進めることとしている。

そして、水産庁は、阪神・淡路大震災等を契機として、8年5月に、防災拠点漁港整備指針を作成し、都道府県に対して通知している。この指針によれば、大規模地震等が発生した場合に、防災拠点漁港については、被災直後の緊急物資、避難者の海上輸送等を行い、各公共施設が復旧する間、物資の輸送等を行い得る漁港を整備することを目的として、耐震強化岸壁、緊急物資等の搬入搬出が可能な道路、緊急物資の保管場所等に利用できる漁港施設用地等の災害対策施設を整備することに配慮するよう地方公共団体に要請し、おおむね今後10か年以内でその整備を完了することを目的とすることとされている。そして、18年に「漁業地域の耐震対策を進めるにあたっての設計等の考え方について」(18水港第587号水産庁漁港漁場整備部整備課長通知)により、漁業地域の防災力の向上に資する漁港施設の耐震対策を推進しており、必要に応じて岸壁の耐震強化や液状化対策等を実施するよう地方公共団体に助言している。

また、水産庁は、農林水産省防災業務計画において、災害時に避難場所として活用し得る広場等の確保と防災拠点としての整備を図ることとしており、その具体的な取組として、地震防災対策の強化を図る必要性が特に高い地域に立地する漁港背後の漁業集落を対象に避難路、避難場所等の整備を図ることとしている。

(ア) 被災状況及び応急復旧活動における活用状況

東北3県及び茨城、千葉両県の計5県(以下「漁港5県」という。)管内で整備された漁港施設における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県における被災状況等については、水産庁において、災害査定設計書、震災関連資料等により確認した。

a 漁港施設等の被災状況
(a) 漁港施設の被災状況

漁港5県における355漁港のうち273漁港が被災したが、このうち24年度末までに査定額が確定している272漁港における被災状況についてみると、図表-漁港1のとおり、東北3県における漁港については、90%以上の高い割合で被災しており、また、これらの漁港における漁港施設の被災額は、それぞれ1389億余円、1515億余円、204億余円、計3110億余円となっていて、全体の被災額3259億余円の95.4%を占めていた。

図表-漁港1 漁港施設の被災状況

(単位:箇所、百万円)

県名 漁港数A 被災漁港数B 割合B/A 漁港施設の被災状況
被災した漁港施設 被災箇所 被災額
割合
岩手県 111 103 92.8% 1,608 1,254 138,978 42.6%
宮城県 142 139 97.9% 1,982 1,304 151,546 46.5%
福島県 9 9 100.0% 263 146 20,494 6.3%
茨城県 24 12 50.0% 154 89 13,065 4.0%
千葉県 69 9 13.0% 32 32 1,840 0.6%
355 272 76.6% 4,039 2,825 325,924 100.0%
注(1)
宮城県の被災箇所には、水産庁が直轄代行事業で実施した2か所が含まれている。
注(2)
福島県の9漁港のうち1漁港は、平成24年度末現在、査定額が一部の施設箇所しか確定していないため、その査定決定額のみを計上している。

そして、漁港施設の種類別の被災状況について被災額の割合でみると、図表-漁港2のとおり、防波堤及び岸壁の損壊、沈下等による被災が全体の58.3%、物揚場、船揚場、護岸、道路等の損壊、沈下等による被災が全体の30.9%を占めていた。また、航路及び泊地に大量のがれき等が堆積するなどの被災が全体の3.9%を占めていた。

図表-漁港2 漁港5県における漁港施設の種類別の被災状況

漁港5県における漁港施設の種類別の被災状況

(注)
各施設ごとの被災額の割合は、漁港5県における被災箇所2,825か所のうち、複数の施設が一つの被災箇所にある656か所を除いた2,169か所を対象に算出した。
(b) 防災拠点漁港等における被災状況

(注) 上記(a)の被災した272漁港について被災額別にみると、図表-漁港3のとおり、1億円以上10億円未満が152漁港(55.9%)と最も多くなっていた。

そして、被災した漁港のうち防災拠点漁港は25漁港となっていたが、被災額は10億円以上50億円未満が14漁港と最も多くなっていた。特に、宮城県の石巻、女川及び気仙沼各漁港の被災額は、それぞれ254億余円、161億余円、119億余円となっており、他の漁港の被災額に比べて多額となっていた。

図表-漁港3 被災額別の漁港の割合

(単位:漁港)

被害額
県名
1億円
未満
1億円以上
10億円未満
10億円以上
50億円未満
50億円以上
100億円未満
100億円以上
200億円未満
200億円以上
300億円未満
合計
岩手 18 46(2) 34(10) 5(4) - - 103(16)
宮城 15 97 21(2) 3(1) 2(2) 1(1) 139(6)
福島 - 3 5(1) 1 - - 9(1)
茨城 7 3 1(1) 1 - - 12(1)
千葉 1 3(2) - - - - 9(1)
合計 46 152(3) 61(14) 10(5) 2(2) 1(1) 272(25)
割合 16.9% 4.0% 4.0% 4.0% 4.0% 4.0% 4.0%
(注)
括弧内の数字は防災拠点漁港数であり内数である。

そして、被災した漁港のうち防災拠点漁港は25漁港となっていたが、被災額は10億円以上50億円未満が14漁港と最も多くなっていた。特に、宮城県の石巻、女川及び気仙沼各漁港の被災額は、それぞれ254億余円、161億余円、119億余円となっており、他の漁港の被災額に比べて多額となっていた。

図表-漁港4 25漁港における防波堤及び岸壁の被災状況等

県名(漁港数) 漁港名(読み) 漁港全体の被災額(百万円) 防波堤 岸壁
防災
拠点
漁港
耐震強化岸壁 通常岸壁
被災の
態様
主な被災状況 耐震強化岸
壁の整備の
有無
耐震強化岸
壁の被災の
有無
被災の態様 主な被災状況
岩手県(5漁港) 大槌(おおつち) 8,371 a,b a 内外水位差・段波等の直接的な津波力により、施設の安定性が損なわれたもの(滑動、転倒) b 越流に伴う渦等の影響で洗掘され、施設の安定性が損なわれたもの c 津波波力・洗掘だけでは不安定までにいたらない施設が引き波時の内外水位差により施設の安定性が損なわれたもの d 直接的な津波力により消波ブロック、上部工のみ被災したもの e 地震により地盤沈下が置き、施設の機能が損なわれたもの f 被災要因が明確に区分されなかったもの 検討中 - a a 津波の押し波の揚圧力等の直接的な力により、施設の安定性が損なわれたもの b 岸壁の前面が洗掘され、裏込め材が吸出し、施設の安定性が損なわれたもの c 引き波の早い流れなどの直接的な力により、施設の安定性が損なわれたもの d 地震により岸壁が返上し、その後津波によって被害が増幅したと考えられるもの e 地震により地盤沈下がおき、施設の機能が損なわれたもの f 地震による施設の変位が生じ、エプロン部分が破損したもの g 被災要因が明確に区分されなかったもの
大船渡(おおふなと) 6,633 f 検討中 - a
田老(たろう) 5,193 f 検討中 - a
山田(やまだ) 2,589 a,b 検討中 - a,b
太田名部(おおたなべ) 196 f g
宮城県(5漁港) 石巻(いしのまき) 25,466 f 検討中 - a
女川(おながわ) 16,107 a,c 検討中 - a
気仙沼(けせんぬま) 11,909 f 検討中 - d
志津川(しづがわ) 4,384 a,b 検討中 - c
閖上(ゆりあげ) 2,812 f c
福島県(5漁港) 松川浦(まつかわうら) - 6,243 a - - a
真野川(まのがわ) - 2,236 a - - e
豊間(とよま) - 1,780 e - - e
釣師浜(つるしはま) - 1,180 a - - e
久之浜(ひさのはま) - 864 e - - e
茨城県(5漁港) 大津(おおつ) - 8,164 a - - d
波崎(はさき) 2,514 d a
那珂湊(なかみなと) - 957 d - - d
平潟(ひらかた) - 690 d - - d
久慈(くじ) - 617 d - - d
千葉県(5漁港) 外川(とがわ) - 986 a - -
銚子(ちょうし) 406 f
飯岡(いいおか) - 283 - -
和田(わだ) - 50 - -
太東(たいとう) - 45 a - -
(注)
耐震強化岸壁の欄の整備の有無の「有」は耐震強化岸壁の整備が完了している漁港であり、被災の有無の「無」は特段の被災がなかったことを示している。

東日本大震災においては、地震・津波により多数の漁港施設が被災した一方で、漁港の防波堤や海岸堤防等による津波浸水高の低減効果によって、漁港背後集落等(注32)の人家等への大きな浸水被害を免れた漁港も見受けられた。

(注32)
漁港背後集落等  漁港背後集落(当該漁港を日常的に利用する漁家が2戸以上、人口5,000人以下の集落)及び漁業集落(漁港及び港湾背後の漁家が4戸以上の集落)のことをいう。

<参考事例-漁港1> 防波堤及び護岸が津波の被災を防いだ事例

千葉県は、旭市の飯岡漁港において、昭和36年から平成5年までの間に、防波堤(延長689m、天端高T.P.2.1mから4.1m)を整備している。

そして、T.P.5.3mの津波が押し寄せたため飯岡漁港の外郭施設である防波堤を越流したが、漁港背後地への高潮等の浸水を防ぐための護岸(延長402.4m、天端高T.P.4.1m)により津波の侵入が軽減されたため、背後の漁業集落の人家等が被災しなかった。

<参考事例-漁港2> 防波堤及び海岸堤防が津波の被災を防いだ事例

岩手県は、下閉伊郡普代村の太田名部漁港において、昭和62年から平成21年までの間に、防波堤(延長486m、天端高T.P.2.6mから6.8m)を整備している。

そして、T.P.18mから20mの津波が押し寄せたため太田名部漁港の外郭施設である防波堤を越流したが、防波堤による津波低減効果と、漁港と漁業集落の間にある海岸堤防(延長155m、天端高T.P.15.5m)との相乗効果により、津波の侵入が軽減されたため、その背後に立地する漁業集落の人家等が被災しなかった。

b 応急復旧活動における防災拠点漁港の活用状況

漁港5県には、緊急物資等の海上輸送の拠点として地域防災計画に位置付けられた防災拠点漁港が28漁港あり、このうち東日本大震災の地震・津波により被災した漁港は前記のとおり、25漁港(岩手県16漁港、宮城県6漁港、福島県1漁港、茨城県1漁港、千葉県1漁港)となっていた。

被災した防災拠点漁港25漁港における耐震強化岸壁等の被災状況及び活用状況についてみると次のとおりである。

(a) 耐震強化岸壁が整備されている漁港の活用状況等

耐震強化岸壁の整備が完了している防災拠点漁港は6漁港12バースとなって いるが、耐震強化岸壁の被災内容をみると、エプロン舗装の破損等が一部で 見受けられたが、岸壁の本体としては特段の被災はなく、所要の耐震性能を 確保することの一定の効果が現れていた。

そして、当該防災拠点漁港6漁港のうち原子力事故による警戒区域内に立地していた福島県請戸(うけど)漁港を除いた5漁港について、被災直後の緊急物資等の海上輸送の状況についてみると次のとおりとなっていた。

ⅰ3漁港(岩手県根白(こんぱく)漁港及び太田名部漁港、宮城県閖上漁港)

地震発生後は、航路及び泊地に大量のがれき等が堆積するなどして、輸送船が耐震強化岸壁に接岸できない状態となっていた。

しかし、当該3漁港はいずれも、耐震強化岸壁が被災しなかったことで、がれき等の陸揚げ、仮置き等の撤去作業を効果的に実施することができ、撤去後には、漁港に船舶が入港できるようになった。そのため、作業船等によってがれき等の運搬等を行うことができ、被災地の早期復旧に資する重要な役割を果たした。

<参考事例-漁港3> 耐震強化岸壁を活用して周辺地域のがれき等の災害廃棄物を処分した事例

宮城県は、名取市の閖上漁港を、平成9年6月に防災拠点漁港として位置付け、14年に耐震強化岸壁(水深5m、延長86m)を整備している。

そして、同漁港は、津波により、岸壁、護岸等の漁港施設が崩壊したり、航路及び泊地に大量のがれき等が堆積するなどしたりして、輸送船が岸壁に接岸できない状態となっていた。

しかし、緊急物資等の輸送を行うための耐震強化岸壁は被災しなかったため、漁港管理者である宮城県は、耐震強化岸壁を活用して、同漁港内の泊地等に堆積したがれき等の災害廃棄物を撤去し、漁港内に船舶が入港できるようにして、23年4月7日から24年2月中旬までの間に、160t吊起重機船(1,479t)により周辺地域で発生したがれき等の災害廃棄物の運搬等を行い、陸揚げされた廃棄物を同漁港内に設けられた震災廃棄物広域処理施設へ搬送し迅速に処分した。

ⅱ 2漁港(茨城県波崎漁港、千葉県銚子漁港)

地震発生後は、耐震強化岸壁へ輸送船の接岸は可能となっていたが、被災地への緊急物資の輸送は陸上輸送で足りていたため、防災拠点漁港として緊急物資等の輸送は行われていなかった。

(b) 耐震強化岸壁が整備されていない漁港の活用状況等

耐震強化岸壁が整備されていない防災拠点漁港19漁港の多くは、広範囲にわたる通常岸壁の転倒やエプロン舗装の破損及び流出、がれき等による航路、泊地の埋塞等によって、防災拠点漁港として輸送船を接岸できる状況になかった。そこで、水産庁は、地震発生直後における救援物資等の海上輸送に当たり、大型の漁業取締船及び調査船を活用して、比較的早い段階から緊急物資の受入れが可能となるなどした防災拠点港湾である八戸港、宮古港、釜石港、仙台塩釜港や石巻漁港に、食品、医薬品、軽油等の救援物資の輸送を行った。

また、宮城県牡鹿半島において道路の寸断やがれきの漂流により孤立状態にあった離島や沿岸の集落に対し、機能を喪失していない漁港の岸壁等を活用し、搭載艇や小型船への物資積替えにより救援物資の輸送を行った。

以上のように、防災拠点漁港は、大規模地震等により被害が発生した際に救援活動等に重要な役割を果たす漁港であるが、東日本大震災において、耐震強化岸壁が整備されている漁港では、がれき等の処理等被災地の復旧に重要な役割を果たした漁港が見受けられた一方で、計画されている耐震強化岸壁が整備されていない漁港では、広範囲にわたる通常岸壁の転倒やエプロン舗装の破損、流出等によって、緊急物資の輸送等の機能が発現できなかった漁港が多数見受けられた。

したがって、緊急物資等の集積及び輸送を目的とした防災拠点漁港として地方公共団体により地域防災計画に位置付けられている漁港においては、防波堤、岸壁等の耐震性能の強化や津波による航路及び泊地へのがれき等の堆積を防止するための対策等により、防災拠点漁港として適切に機能が発現できるよう検討することが必要である。

c 津波避難のための避難路等の活用状況

東日本大震災では、大規模な津波により、東北3県の沿岸部において死者、行方不明等の人的被害が多数発生しており、漁港背後集落等においても、被害を受けた集落の多くは入り組んだ海岸線に点在する地形に形成されている。

そして、被災した漁港5県の273漁港には、漁港背後集落等が481地区あり、これらの地区の立地特性をみると、背後に崖や山が迫る狭あいな地形又は急傾斜地に立地している地区が214地区あり、集落全体の44.5%となっていた。また、214地区において65歳以上の高齢者が占める割合の平均は33.0%と高く、津波に対する避難等が厳しい状況となっていた。

東北地方太平洋沖地震による大規模な津波により、津波浸水予測区域内にある避難場所を始め多数の避難場所において、津波浸水被害を受けており、漁港背後集落等の避難場所においても、浸水したところが多数見受けられたが、避難路が整備されていたことにより、集落の住民が、高台等に避難して津波の浸水から避難できた地区も見受けられた。また、中には避難路や避難広場を活用している事例も見受けられた。

<参考事例-漁港4> 津波避難のために、避難路を避難場所として活用していた事例

岩手県下閉伊郡田野畑村は、平井賀(ひらいが)漁港の漁港背後集落等において、平成13年から15年までの間、避難広場(30m2)、避難路等を整備している。

そして、同漁港背後の集落内の住民は避難路である集落道を利用し、避難広場へ避難したが、避難者が想定よりも多かったため、避難路も30名から40名程度が避難場所として活用した。また、避難広場にはソーラー式照明塔が設置されていたことで、3日間にわたる停電期間の照明を確保できた。

<参考事例-漁港5> 生活物資等の搬送に当たり、避難路を活用していた事例

岩手県上閉伊郡大槌町は、吉里吉里(きりきり)漁港の漁港背後集落等において、平成11年から14年までの間、避難路等の整備を実施している。

そして、国道45号線にがれき等が堆積し、道路が通行止めとなったが、吉里吉里地区(集落人口2,528人)と浪板地区(集落人口409人)とを結ぶ避難路である集落道を活用することにより、避難所へ生活物資等を迅速に搬送することができた。

<参考事例-漁港6> 高台にある避難広場が仮設住宅の建設用地として活用されている事例

宮城県石巻市は、北上漁港の漁港背後集落等において、昭和53年から55年までの間、避難広場(6,625m2、昭和56年供用開始)等を高台に整備している。

そして、津波により、同漁港背後の住民は当該避難広場へ避難した。また、当該避難広場は平成23年3月末までは広域避難所として、その後は仮設住宅の建設用地として活用され、24年5月以降は仮設住宅が供与されている。

また、茨城県及び千葉県においては、被災した21漁港のうち14漁港が津波被害を受け、漁港背後集落等18地区の住民が避難場所へ避難しているが、このうち、2地区の避難場所は津波の浸水を受け、避難活動に支障を来していた。

<事例-漁港1> 津波浸水予測区域内の避難場所が津波により浸水した事例

A県管内のB市のC漁港及びD漁港の漁港背後集落等は、崖や山が迫る狭あいな地形、かつ、急傾斜に立地しており、B市の地域防災計画等によると、住民の避難場所として、津波の浸水予測区域内にあるEセンターが指定されていた。

そして、15時39分にT.P.5.6mを超える津波が市内沿岸部を襲い、上記避難場所の一部は浸水し、避難活動に支障を来した。なお、B市の防災担当部局は、津波の来襲前の14時49分に漁港背後集落等を含む市民の津波被害を防ぐために、広報車6台、消防車等18台により沿岸部を中心に避難広報を開始したが、集落が厳しい立地条件にあることも影響し、安全性が確保されなかった。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

水産庁は、23年末までに、航路及び泊地のがれき撤去に一定のめどをつけるとしていたが、24年度末現在、航路及び泊地のがれき撤去が必要な漁港についてはおおむね撤去を完了した。そして、漁港施設等の復旧及び復興方針については、次のとおりとしている。

(a) 全国的な水産物の生産及び流通拠点となる漁港並びに地域水産業の生産及び流通拠点となる漁港は、25年度末までに漁港施設等の復旧にめどをつける。なお、このうち一部被害の甚大な漁港については、同時期までに一定の係留機能等を確保し、27年度末までに漁港施設等の復旧にめどをつける。

(b) (a)以外の漁港は、27年度末までに漁港施設等の復旧にめどをつける。

b 復旧の進捗状況

漁港5県は、前記(ア)aのとおり272漁港(被災箇所数2,825か所)において被災を受けていたが、24年度末現在の復旧の進捗状況についてみると、図表-漁港5のとおり、復旧が完了している漁港は33漁港(被災箇所数108か所)となっており、被災額では全体の0.9%となっている。そして、このうち被災した漁港の復旧が全て完了している千葉県の9漁港を除いた24漁港についてみると、地元の漁業活動を主とする漁港にとどまっており、水産物の生産及び流通拠点となる漁港の復旧の完了までには至っていなかった。

図表-漁港5 復旧の進捗状況

(単位:百万円)

県名 被災状況 復旧の進捗状況
未着手 整備中 完了
漁港数 被災額 漁港数 漁港割合 被災額 金額割合 漁港数 漁港割合 被災額 金額割合 漁港数 漁港割合 被災額 金額割合
岩手県 103 138,978 7 6.8% 2,520 1.8% 78 75.7% 135,346 97.4% 18 17.5% 1,111 0.8%
宮城県 139 151,546 34 24.5% 9,380 6.2% 104 74.8% 142,157 93.8% 1 0.7% 9 0.0%
福島県 9 20,494 1 11.1% 3,748 18.3% 8 88.9% 16,746 81.7%
茨城県 12 13,065 7 58.3% 12,997 99.5% 5 41.7% 67 0.5%
千葉県 9 1,840 9 100.0% 1,840 100.0%
272 325,924 42 15.4% 15,648 4.8% 197 72.4% 307,246 94.3% 33 12.1% 3,029 0.9%

未着手となっている42漁港のうち、岩手県及び宮城県の41漁港については、水産業集積拠点漁港の復旧を優先的に実施していることなどが未着手の要因となっている。また、福島県の1漁港は、原子力発電所事故に伴う警戒区域の一部解除により25年3月に査定額が確定し、25年度以降に復旧を行うこととしている。

整備中となっている197漁港については、工事着手後、建設資材が不足していたり、建設廃棄物処理施設の受入制限に伴い撤去したアスファルト塊の搬出が遅れるなどしていたりしていた漁港が多数見受けられた。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況

水産庁は、震災により水産関係に甚大な被害が発生したことを踏まえて、学識者で構成される「漁港施設における地震・津波対策検討専門部会」において、震災を踏まえた今後の漁港施設の地震・津波対策について検討し、「平成23年東日本大震災を踏まえた漁港施設の地震・津波対策の基本的な考え方」を取りまとめた。これによると、漁港施設の地震・津波対策に関する設計方針として、防災上重要な漁港等においては、緊急物資の輸送等に資するなど、復旧、復興等を促進する上で重要度の高い防波堤や岸壁を設計する際に、発生頻度の高い津波を設計の対象としたり、漁港の役割や施設の機能に応じた地震動を設計の対象としたりすることなどとされている。

しかし、漁港5県における漁港施設の被災後の復旧状況等についてみると、復旧に当たっては、防波堤及び岸壁における耐震及び耐津波対策を検討するにはかなりの時間を要するため、漁業活動の早期再開を可能とすべく、従前の効用を早期に回復する必要があることから、ほとんどの施設で原形復旧による工事が実施されていた。一方、地域の実情に合わせて施設を改良する必要がある場合は、漁港施設機能強化事業により、防波堤等の復旧に際し、天端高の嵩上げ等を併せて施工し、施設の従前の効用を向上させて整備している箇所も見受けられた。

そして、被災した防災拠点漁港のうち耐震強化岸壁の整備が検討されている19漁港については、24年度末現在、漁業活動の早期再開のために、漁港の復旧を最優先に行う必要があることなどから、被災した通常岸壁において復旧に併せて耐震強化岸壁として必要なレベル2地震動に対応することとはなっていない箇所が見受けられ、今後、これらの岸壁に対する耐震対策の検討が必要な状況となっていた。

<事例-漁港2> 防災拠点漁港の岸壁の復旧に当たり、耐震対策を実施していない事例

F県は、水産業集積拠点漁港として位置付けられた5漁港について、他の漁港より優先的に復旧を実施することとした。また、当該5漁港は、緊急物資の海上輸送等の拠点として地域防災計画に位置付けられた防災拠点漁港でもあり、被災前から耐震強化岸壁の整備が検討されていた漁港となっていた。

そして、復旧に当たり、漁業活動の早期再開のために漁港の復旧を最優先に行う必要があることなどから、岸壁については、現在の設計基準により復旧しているが、耐震強化岸壁として必要なレベル2地震動に対応していない状況となっていた。

以上のように、被災直後の緊急物資等の海上輸送を行う防災拠点漁港として耐震強化岸壁の整備が検討されている漁港については、関係機関と調整した上で、復旧に当たっては耐震対策等も併せて実施するよう、引き続き計画的かつ着実な復旧等に努める必要がある。

コ 農業農村整備事業

農林水産省、地方公共団体等は、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、農業生産の基盤の整備及び開発を図り、農業の生産性の向上、農業総生産の増大等に資することを目的として、水路、ポンプ場、ため池等の農業用施設の整備等を行う土地改良事業(以下「農業農村整備事業」という。)を実施している。そして、農業農村整備事業は、原則、土地改良事業に参加する資格を有する者(以下「受益者」という。)からの申請に基づき事業を実施しており、事業の申請には、受益者の3分の2以上の同意を得なければならないなどとされている。

農業用施設の耐震設計については、「土地改良施設耐震設計の手引き」(平成16年3月発行。以下「農業耐震手引」という。)によれば、施設の重要度に応じて所要の耐震性能を確保しなければならないこととされており、避難行動、救護活動等への影響が極めて大きい施設である場合には、より高い耐震性能が求められている。そして、農業用施設の耐震点検は、重大な二次災害を起こす可能性のある施設等であるかなどに留意して実施することとされている。

農業用施設のうちため池については、16年に発生した台風等により決壊等の甚大な被害が発生して、依然として危険又は災害に脆弱なため池が存在していることが明らかになったことから、農林水産省は、17年4月に、都道府県に対して受益面積が2ha以上のため池を対象として緊急点検を実施するよう依頼している。また、土地改良事業の計画的な実施に資するために作成された土地改良長期計画(平成20年12月閣議決定)によれば、農村地域における農業災害の防止と被害の軽減を図り、併せて住民の生命、財産及び生活環境の安全の確保に資するなどのために、老朽化等に伴い災害リスクが高く緊急に対策を要するため池の整備を実施するとともに、ため池の防災情報伝達体制やハザードマップの整備を推進することとされている。

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

東北、関東両農政局管内並びに秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、新潟、長野各県の計9県(以下「農業9県」という。)及び東北3県の計12県(以下「農業12県」という。)管内において整備された農業用施設における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県管内における被災状況については、東北農政局において、災害査定設計書、震災関連資料等により確認した。

a 農業用施設の被災状況

農業用施設の被災状況についてみると、東北3県において直轄事業及び補助事業で整備された農業用施設に係る被災額は計1085億余円となっており、全体の被災額1185億余円の91.6%を占めていた。

また、農業12県地域において農業用施設の種類別でみると、図表-農業1のとおり、開水路へのがれきや土砂の堆積等やパイプラインの蛇行、浮上、沈下等の水路の被災が全体の44.6%、沿岸部に位置するポンプ場の損壊、水没等の被災が全体の37.2%、ため池の決壊、漏水等の被災が全体の7.0%を占めており、これらの施設の被災が農業用施設全体の88.7%となっていた。

図表-農業1 農業12県地域の農業用施設の種類別の被災額

農業12県地域の農業用施設の種類別の被災額

(a) 水路

ⅰ 開水路

開水路の被災延長等についてみると、図表-農業2のとおりとなっており、東北3県地域では被災延長2,177.7km、農業9県から秋田、群馬両県を除いた7県管内では被災延長137.1km、計2,314.8kmで被災額は計462億余円となっていた。

図表-農業2 開水路の被災延長及び被災額

開水路の被災延長及び被災額

被災内容については、地震動及び液状化により被災した箇所では、地震動により水路の継ぎ目がずれたり、はらみだしが発生したり、液状化によりく体が浮上したりしていたが、大規模な通水機能の損失は発生していなかった。しかし、津波により被災した箇所では、水路が損傷、水没等したり、がれきや土砂が堆積したりしており機能不全となっていた。

ⅱ パイプライン

パイプラインの被災延長等についてみると、図表-農業3のとおりとなっており、東北3県地域では被災延長61.4km、農業9県から群馬県を除いた8県地域では被災延長48.8km、計110.2kmで被災額は計66億余円となっていた。

図表-農業3 パイプラインの被災延長及び被災額

パイプラインの被災延長及び被災額

被災内容については、地震動により管路の継手部の離脱や目地の損傷による漏水等が発生したり、液状化により管路本体や空気弁の浮上、道路の陥没等が発生したりしていた。

(b) ポンプ場

ポンプ場の被災施設数等についてみると、図表-農業4のとおりとなっており、東北3県地域では被災施設数381か所、茨城、栃木、千葉、新潟各県の計4県管内では被災施設数136か所、計517か所で被災額は計440億余円となっていた。

図表-農業4 ポンプ場の被災施設数及び被災額

ポンプ場の被災施設数及び被災額

被災内容については、地震動や津波によりポンプ場が損壊していたり、地盤沈下により排水能力が低下したりしていたほか、津波によりポンプ場の機械及び電気設備が水没し機能不全となっていた。

(c) ため池

ため池の被災施設数等についてみると、図表-農業5のとおりとなっており、東北3県管内では被災施設数531か所、農業9県から山形、埼玉両県を除いた7県管内では被災施設数73か所、計604か所で被災額は計82億余円となっていた。

図表-農業5 ため池の被災施設数及び被災額

ため池の被災施設数及び被災額

被災内容については、地震動により堤体において縦横にクラックが発生したり、斜面が崩壊したりなどしていた。特に、福島県では、藤沼湖等3か所のため池が決壊し、このうち藤沼湖の決壊では人的被害が生じた。

b 耐震対策等の実施状況等
(a) 耐震対策等の実施状況と被災状況

農業耐震手引によれば、農業用施設において耐震整備の必要性を判断するための耐震点検は、施設の重要度に応じて実施を検討することとされている。そこで、東北農政局管内及び農業9県地域において、各農業用施設の被災前の耐震点検及び耐震整備の実施状況についてみると、図表-農業6のとおり、ほとんど実施されておらず、これらの施設については、耐震点検及び耐震整備が実施されないまま被災していた。

図表-農業6 東北農政局管内及び農業9県地域における被災前の農業用施設の耐震点検及び耐震整備の実施状況

(内訳は別表-農業4参照

施設種類 被災延長又は施設数 被災原因 耐震点検 耐震整備
耐震対策 液状化対策
実施 未実施 実施 未実施 不明 実施 未実施 不明
水路 開水路 153.9 地震動 - 146.1 - 61.8 84.2
液状化 - 71.2 - 21.1 20.0
パイプライン 52.2 地震動 - 51.4 - 46.3 5.1
液状化 - 40.1 - 38.1 1.9
206.2 地震動 - 197.6 - 108.2 89.3
液状化 - 111.3 - 59.3 52.0
ポンプ場 138 地震動 - 134 - 79 55
液状化 - 12 - 9 3
ため池 73 地震動 1 72 1 40 32
液状化 - 2 - 2 -
注(1)
本図表は、地震動又は液状化により被災した施設について記載したものであり、津波により被災した施設を除いている。
注(2)
耐震点検及び耐震整備には、施設の重要度に応じて耐震点検及び耐震整備が必要ないものも含まれている。
注(3)
被災原因が重複している施設があるため、耐震点検及び耐震整備において被災原因別の被災延長又は施設数を合計しても施設の被災延長又は施設数にはならない。
注(4)
開水路の耐震点検の未実施には、耐震点検の実施の有無が不明の施設を含んでいる。

また、農業12県から山形、埼玉両県を除いた10県管内において被災したため池604か所のうち緊急点検を東日本大震災以前に実施していたため池422か所の緊急点検における堤体老朽度の点検結果についてみると、図表-農業7のとおりとなっており、ため池の堤体の余裕高が30cm未満のため池が23か所、断面不足が20%以上のため池が8か所、クラックが10cm以上のため池が13か所、法全体にわたる漏水が見られたため池が12か所見受けられた。

図表-農業7 10県管内のため池の緊急点検の点検結果

(単位:箇所、%)

点検項目 区分
余裕高 30cm未満 30cm以上1m未満 1m以上2m未満 2m以上
23 127 194 78
(5.5) (30.1) (46.0) (18.5)
断面不足 20%以上 10%以上20%未満 5%以上10%未満 5%未満
8 19 50 345
(1.9) (4.5) (11.8) (81.8)
クラック 10cm以上 5cm以上10cm未満 5m未満 なし
13 1 11 397
(3.1) (0.2) (2.6) (94.1)
漏水状況 法全体にわたる漏水 パイピングによる顕著な漏水 法全体及びパイピング以外の漏水 なし
12 10 47 353
(2.8) (2.4) (11.1) (83.6)
注(1)
パイピングとは、ため池の堤体内に漏水による水みちが発生する現象のことである。
注(2)
括弧書きは、各点検項目における点検結果が全体に占める割合である。

<事例-農業1> 耐震点検等を実施していないパイプライン等が被災した事例

A局は、B県のC地区において、昭和62年度から平成14年度までの間にパイプライン(延長56.1km)、ポンプ場(3か所)等の新設工事を実施しており、このうちパイプラインについては、延長13.4kmが緊急輸送道路や住宅地に面する県道、町道等に埋設されていた。

パイプラインの設計については、昭和52年に耐震設計を取り入れた設計基準が制定されており、その後、平成16年制定の農業耐震手引等では、レベル2地震動に対する耐震設計や液状化対策に対する検討が導入されているが、C地区のパイプラインの造成年度が農業耐震手引等の制定前だったため、農業耐震手引等に基づく耐震設計等が実施されていなかった。また、造成後の耐震点検も実施されていなかった。

そして、地震動により管路の破損や目地の開きによる漏水や、これに起因する路面の陥没等が延長0.4kmにわたって発生し、このうち延長0.3kmは県道や住宅地に面する町道であった。

<事例-農業2> 耐震点検等を実施していないため池が被災した事例

D県は、E市に所在する農業用ため池として、Fため池(堤高18.5m、堤頂長133m)を昭和12年から24年までにかけて造成しており、堤体下流には集落や市道があった。

ため池の設計については、31年に耐震設計を取り入れた設計基準が制定されたが、Fため池の造成年度が耐震設計を取り入れた設計基準の制定前だったため、設計基準に基づく耐震設計が実施されておらず、造成後の耐震点検も実施されていなかった。

そして、長時間にわたる地震動により、Fため池の堤体が決壊した。

(b) 農業用施設の被災による二次災害

前記のとおり、農業用施設の耐震点検は、農業耐震手引によると、施設の重要度を考慮して実施を検討することとされている。そして、農業用施設について、図表-農業8に示された立地や周辺状況となっている場合には、被災による二次災害により施設周辺の人命、財産、ライフライン等への影響が極めて大きい施設であることから重要な施設として所要の耐震性能の確保が求められるとされている。

図表-農業8 所要の耐震性能の確保が求められる重要な施設

施設種類 施設の立地又は周辺状況
水路 開水路 主要道路、鉄道、住宅地等や地域防災計画によって避難路に指定されている道路に隣接するなどしている施設
パイプライン 主要道路や鉄道、河川、住宅地等の地下に埋設、又はこれに隣接していたり、地域防災計画によって避難路に指定されている道路下に埋設されていたりなどしている施設
ポンプ場 主要道路や鉄道、住宅地等に隣接するなどしている施設
ため池 堤体下流に主要道路や鉄道、住宅地等があったり、地域防災計画によって避難路に指定されている道路に隣接するなどしている施設

そこで、前記のとおり、農業用施設の耐震点検及び耐震整備が進まない中、東北農政局管内及び農業9県地域において被災した農業用施設で耐震点検を実施していない施設の立地や周辺状況についてみると、図表-農業9のとおり、施設の大半は前記の農業耐震手引に示された施設となっており、二次災害によりライフライン等への影響が極めて大きいと考えられ、重要度が高い施設となっていた。特に、ため池については、堤体が決壊等した場合に施設周辺の人命、財産等や避難及び救護活動への影響が大きく、約7割の施設は二次災害による影響が極めて大きいと考えられる重要度が高い施設となっていた。

図表-農業9 東北農政局管内及び農業9県地域における耐震点検を実施していない施設の立地又は周辺状況

(単位:km、箇所、%)

施設種類 耐震点検を実
施していない
施設
A
重要度が高い
と考えられる
施設
B
施設の立地又は周辺状況
主要道路に埋
設又は隣接等
鉄道、河川に
隣接等
住宅地に埋設
又は隣接等
緊急輸送道路
に埋設又は隣
接等
地域防災計画
にひょって避難
路に指定され
ている道路に
埋設等
割合B/A
水路 開水路 293.4 79.6 27.1 68.6 0.2 14.3 2.6 -
パイプライン 52.2 33.7 64.6 32.6 0.2 7.0 0.0 -
ポンプ場 165 103 62 96 6 13 2
ため池 72 47 65 44 7 27 13 1
注(1)
開水路の耐震点検を実施していない施設には、耐震点検の実施の有無が不明の施設を含んでいる。
注(2)
施設の立地又は周辺状況は、重複して計上されている場合があるため、延長又は施設数を合計しても重要度が高いと考えられる施設の数値とは一致しない。

そして、東北農政局管内及び農業9県地域において、耐震点検を実施していない農業用施設の被災による二次災害についてみると、図表-農業10のとおり、現に、液状化によりパイプラインの浮上、沈下等が発生し、ライフラインに影響が生じたり、ポンプ場の損壊等が発生し、施設周辺の財産に影響が生じたりするなど、農業用施設の被災により財産及びライフラインへの影響が見受けられた。

図表-農業10 東北農政局管内及び農業9県地域における農業用施設の被災による二次災害

(単位:箇所)

施設種類 耐震点検を実施していない施設数 二次災害が発生した施設数 二次災害の内容
財産 ライフライン
水路 開水路 633 208 192 17
パイプライン 353 195 181 15
ポンプ場 165 30 29 1
ため池 72 8 6 2
1,223 441 408 35
注(1)
財産とは、施設の被災により農地などの財産に被害があったものである。
注(2)
ライフラインとは、施設の被災により道路等に被害があったものである。
注(3)
1施設で複数の二次災害が発生した場合があるため、二次災害の内容の計と二次災害が発生した施設数とは一致しない場合がある。

以上のように、耐震対策等の実施状況等について、農業用施設の被災前の耐震点検及び耐震整備はほとんど実施されておらず、耐震点検が実施されないまま被災した施設の中には、その立地や周辺状況から二次災害によりライフライン等への影響が極めて大きいと考えられる重要度の高い施設があり、現に、農業用施設の被災により財産及びライフラインに影響した事例が見受けられた。このことから、国及び都道府県において、農業用施設における耐震点検の対象施設について、地域防災計画を作成する地方公共団体と連携を図り、人命、財産等に関わる二次災害が想定される重要な施設の把握を進めた上で、受益者に耐震対策の重要性を啓発し合意形成を図ることなどにより、施設の重要度に応じた耐震点検等を効率的に進め、所要の耐震性能の確保に努める必要がある。

<参考事例-農業1> ため池の耐震点検結果を受益者に説明することで合意形成が円滑に行われた事例

東日本大震災によりため池の決壊による甚大な被害が発生したことを踏まえて、千葉県は震災対策農業水利施設整備事業により平成24年度に4か所のため池について耐震点検を実施し、また、25年度に14か所のため池について耐震点検を実施することとしている。

そして、24年度に耐震点検を実施したため池4か所のうち1か所(桜井堰(ぜき))については、25年度に取水施設の改修工事を実施する予定だったが、東日本大震災を受け、24年度に現地調査、ボーリング調査、堤体の安定計算等を行ったところ、所要の耐震性能が確保されていないことが確認された。そして、同県及びため池管理者である銚子市は、この調査結果を基にため池の状態等を地元受益者に説明することで、ため池の所要の耐震性能の確保の必要性についての理解が得られたことから、事業実施のための合意形成が円滑に行われ、ため池の耐震整備を実施することとなった。

c ため池の防災及び減災対策の取組状況

市町村、土地改良区等のため池の管理者には、定期点検等により施設を適切に保全管理する体制が求められている。

また、農林水産省は、防災業務計画等において、住民へため池のハザードマップを配布することなどにより災害及び防災に関する知識の普及を図ることとしている。

そこで、被災したため池604か所のうち会計実地検査で把握できた91か所における防災及び減災対策の取組状況についてみると、図表-農業11のとおり、ため池の堤体の老朽度等の調査に必要な定期点検を実施していたため池は34か所(全体の37.4%)、市町村等とため池の管理者との間で緊急時に対応可能な防災情報連絡網が整備されていたため池は32か所(全体の35.2%)となっており、また、ハザードマップが作成され、住民に公表されていたため池はなかった。

図表-農業11 被災したため池の防災及び減災対策の取組状況

(単位:箇所、%)

ため池数 定期点検 緊急時に対応可能
な防災情報連絡網
ハザードマップ 地域防災計画への
位置付け
実施 未実施 整備 未整備 作成 未作成
ため池管
理者から
点検結果
の報告を
受理
住民に公
市町村と
ため池管
理者で共
91 34 12 57 32 59 - - - 91 13 78
(100.0) (37.4) (13.2) (62.6) (35.2) (64.8) (-) (-) (-) (100.0) (14.3) (85.7)
注(1)
東北3県については、東北農政局で把握しているため池について記載している。
注(2)
括弧書きは、全体に占める割合である。

以上のように、ため池の防災及び減災対策の取組状況について、ハザードマップの作成及び住民への公表が行われていた事例はなかったことなどから、ため池の防災及び減災対策を計画的に推進するために、市町村等がため池の管理者に対して、ため池の老朽化及び耐震対策に必要な施設機能等の保全管理を適切に行うよう指導等したり、市町村等とため池の管理者との間で震災直後の防災情報伝達を迅速かつ的確に行う体制整備を確立したりすることなどが重要である。

なお、農林水産省は、ため池の防災及び減災対策の一環として、ため池等の一斉点検やハザードマップの作成を補助対象とするなど補助事業の制度を拡充し、取組を支援している。また、「農業用ため池の一斉点検の実施及びデータベースの作成について」、「ため池ハザードマップ作成の手引き」及び「ため池管理マニュアル」を作成し、都道府県に対して25年3月から5月にかけて説明会等により周知し、ため池の防災及び減災対策を計画的に推進するための措置を講じている。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

農林水産省は、農業用施設の復旧において、23年度末までに、基幹的農業用施設については、主要なポンプ場の応急復旧をおおむね完了したところであり、本格的な施設の復旧については、各地域での復興計画の策定を踏まえて順次実施し、おおむね27年度末までに完了を目指すこととしている。

b 復旧の進捗状況

農業12県地域における農業用施設の被災状況は、(ア)aのとおりとなっていたが、このうち24年度末現在の水路、ポンプ場及びため池の復旧の進捗状況についてみると、図表-農業12のとおり、東北3県地域では、開水路の被災延長2,177.7km、パイプラインの被災延長61.4km、ポンプ場の被災施設数381か所及びため池の被災施設数531か所に対して完了延長又は施設数はそれぞれ287.8km、19.7km、170か所、370か所(完了率13.2%、32.1%、44.6%、69.7%)となっていた。また、農業9県地域では、開水路の被災延長137.1km、パイプラインの被災延長48.8km、ポンプ場の被災施設数136か所及びため池の被災施設数73か所に対して完了延長又は施設数はそれぞれ116.8km、48.8km、130か所、71か所(完了率85.2%、100%、95.6%、97.3%)となっていた。

図表-農業12 農業用施設の復旧進捗状況

(内訳は別表-農業5参照

(単位:km、箇所、%)

地域 施設種類 被災延長又は施設数 復旧進捗状況
未着手 整備中 完了
割合 割合 割合
A B B/A C C/A D D/A
東北3県地域 水路 開水路 2,177.7 572.2 26.3 1,317.6 60.5 287.8 13.2
パイプライン 61.4 28.5 46.4 13.1 21.3 19.7 32.1
ポンプ場 381 82 21.5 129 33.9 170 44.6
ため池 531 70 13.2 91 17.1 370 69.7
農業9県地域 水路 開水路 137.1 4.1 3.0 16.0 11.7 116.8 85.2
パイプライン 48.8 - - - - 48.8 100.0
ポンプ場 136 1 0.7 5 3.7 130 95.6
ため池 73 - - 2 2.7 71 97.3
水路 開水路 2,314.8 576.4 24.9 1,333.7 57.6 404.7 17.5
パイプライン 110.2 28.5 25.9 13.1 11.9 68.6 62.3
ポンプ場 517 83 16.1 134 25.9 300 58.0
ため池 604 70 11.6 93 15.4 441 73.0

このように、24年度末現在の復旧の進捗状況についてみると、農業9県地域に比べて、津波により甚大な被害を受けた東北3県地域の復旧は大幅に遅れている状況となっていた。そして、この主な要因は、地権者等が不明であることにより工事施工の同意や用地境界確定のための立会いが進まなかったり、排水路の新設による路線選定等に伴う地元説明に時間を要したり、河川協議や他事業との共同事業化等の調整に時間を要したりしたことなどとなっていた。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況

前記のとおり、液状化によりパイプラインの浮上や道路の陥没が発生したり、津波によりポンプ場の機械及び電気設備が水没し機能不全となったり、地震動によりため池の堤体においてクラックが発生したりするなどの被災が多数見受けられた。

そこで、東北農政局管内及び農業9県地域における被災した農業用施設の復旧の取組状況についてみると、図表-農業13のとおり、早期の復旧を優先するなどのため、ほとんどの施設において耐震整備が実施されておらず、原形に復旧されている状況となっていた。

図表-農業13 東北農政局管内及び農業9県地域における復旧時の耐震整備の実施状況

(内訳は別表-農業6参照

(単位:km、箇所)

施設種類 被災原因 被災延長又は施設数 復旧時の耐震整備
実施 未実施
耐震対策 液状化対策
水路 開水路 地震動 146.1 - - - 146.1
液状化 71.2 - - - 71.2
パイプライン 地震動 51.4 2.9 - 2.9 48.5
液状化 40.1 2.9 - 2.9 37.2
地震動 197.6 2.9 - 2.9 194.7
液状化 111.3 2.9 - 2.9 108.4
ポンプ場 地震動 134 - - - 134
液状化 12 - - - 12
ため池 地震動 73 2 2 - 71
液状化 2 - - - 2

パイプラインについては、図表-農業9のとおり、主要道路や住宅地に面する道路に埋設されている箇所があるため、再度、液状化により管路やマンホールの浮上や道路の陥没等が発生した場合には、住民の避難及び救護活動に影響を及ぼすことになる。しかし、復旧に当たっては、液状化によって被災した場合であっても、原形に復旧することが不適当であるとして液状化対策が実施されている割合は少なく、今後、液状化対策の検討が必要な状況となっていた。

また、液状化により被災したパイプラインの復旧に当たり、管路を敷設替えする場合には、被災箇所を掘削し管路敷設後に埋め戻す際に、埋戻し材料として砕石やセメント系固化剤を使用した改良土を用いるなどすれば、効率的、経済的に液状化対策を実施することが可能であったと考えられる。

<事例-農業3> パイプラインの復旧に当たり、液状化対策を実施していない事例

G県H市のI地区では、地震動及び液状化によりパイプライン(延長16.7km)等が被災し、農業用水の通水が不能となり、地区内農地150haで営農ができなくなっていた。そして、被災したパイプラインは延長1.2kmが市道に、延長15.0kmが市道に隣接した農地下に埋設されており、そのうち、延長4.6kmは住宅地に隣接して埋設されていた。

H市は、パイプラインの復旧に当たり、原形に復旧することを原則として、被災前と同様に砂基礎によりパイプラインを敷設しており、管周辺の基礎及び埋戻し材料として砕石やセメント系固化剤を使用した改良土を用いるなどの液状化対策を実施していなかった。

<参考事例-農業2> パイプラインの復旧に当たり、液状化対策を実施している事例

東北農政局管内の福島県の白河矢吹地区では、地震動及び液状化によりパイプライン(延長2.9km)等が被災し、農業用水の通水が不能となり、地区内農地3,200haのうち2,800haの農地で営農ができなくなっていた。

同局は、パイプラインの復旧に当たり、原形に復旧すると再度、液状化によって被災するおそれがあることから、パイプラインの基礎及び埋戻し材料として砕石を用いるなど液状化対策を実施していた。

ポンプ場については、津波によりポンプ場の機械及び電気設備が水没し機能不全となっていた箇所が見受けられたことから、その復旧に当たっては、電気設備を従来の位置より高い位置に設置するなどして、津波の浸水を防止する対策を実施していた箇所が見受けられた。

<参考事例-農業3> ポンプ場の復旧に当たり、津波の浸水を防止する対策を実施している事例

東北農政局管内の宮城県の定川地区では、津波によりポンプ場5か所等が被災し、ポンプ場4か所において、電気設備及びポンプ設備が浸水して排水機能を喪失した。

同局は、ポンプ場の復旧に当たり、原形に復旧すると再度、津波によって被災するおそれがあることから、電気設備を従来の位置より高い位置に設置するなどして、津波の浸水を防止する対策を実施していた。

以上のように、復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等について、被災した農業用施設の復旧に当たっては、原形に復旧されていた場合がほとんどであり、また、パイプラインの復旧に当たり、主な被災原因である液状化に対する対策が実施されず、今後、液状化対策の検討が必要となっている事例が見受けられたことから、東日本大震災のような甚大な被害を再び発生させないためにも、住民の避難等への影響を考慮して耐震対策及び液状化対策の必要性の検討を行うなどして引き続き計画的かつ着実な早期復旧等に努めることが必要である。

サ 集落排水事業

地方公共団体等は、農村等の生活環境の改善を図り、併せて公共用水域の水質保全に寄与することなどを目的として、農業集落、漁業集落又は林業集落において、汚水処理施設及び管路、公共汚水ます、マンホール等から構成される管路施設並びにこれらの附帯施設から成る集落排水施設等を整備する集落排水事業を実施している。

汚水処理施設、管路等の集落排水施設は、住民の生活に密着した基本的なライフラインであることから、大規模地震により施設が相当な被害を受けてその機能が停止した場合には、使用制限等が行われ、住民の生活に重大な影響を及ぼすことになる。また、道路下の管路被害に起因する通行止めなどの交通障害や汚水の流出による公共用水域の汚染等の二次災害を起こす危険性もある。

汚水処理施設の耐震設計については、農業集落排水設計指針によれば、水槽と建屋が上下一体構造となる場合等に行うこととされ、施設の災害によりライフライン等に重大な影響を及ぼすなど重要度が高い場合には、より高い耐震性能が求められているが、管路の耐震設計については、特別な場合を除き行わないとされている。また、管路の液状化対策については、農業集落排水設計指針においては規定されていないが、16年の新潟県中越地震の被災を踏まえて社団法人地域資源循環技術センター(25年4月1日以降は一般社団法人地域環境資源センター)が作成し地方公共団体等が震災時の対応の参考としている農業集落排水施設震災対策マニュアル(平成19年作成。以下「集落排水震災対策マニュアル」という。)において、埋戻し土の十分な締固めや埋戻し土の固化による対策等の有効な工法が示されている。

(ア) 被災状況及び耐震対策等の実施状況

茨城、栃木、千葉、新潟、長野各県の計5県(以下「集排5県」という。)及び東北3県の計8県(以下「集排8県」という。)管内の計88市町村が整備した集落排水施設における被災状況等についてみると次のとおりとなっていた。

なお、東北3県管内の58市町村における被災状況等については、東北農政局において、災害査定設計書、震災関連資料等により確認した。

a 集落排水施設の被災状況

集落排水施設の被災状況についてみると、東北3県管内の58市町村における集落排水施設の被災箇所数は計235か所、その被災額は計168億余円となっており、全体の被災額204億余円の82.4%を占めていた。また、集排5県管内の30市町村における集落排水施設の被災箇所数は78か所あり、その被災額は36億余円となっていた。

b 汚水処理施設の被災状況等
(a) 汚水処理施設の被災状況

集落排水施設のうち汚水処理施設については、集排8県から新潟県を除いた7県管内における95か所において被災していた。

そして、汚水処理施設の被災内容についてみると、図表-集排1のとおり、津波浸水により機械及び電気設備が処理機能を喪失するなどした被災が全体の33.9%、主に地震動による施設周辺の舗装の沈下等や流入、放流管等の破損、縁石ブロックの破損の被災がそれぞれ全体の25.8%、18.1%、15.8%、計59.7%を占めていた。

図表-集排1 7県管内における汚水処理施設の被災内容

7県管内における汚水処理施設の被災内容

注(1)
本図表は、被災内容の項目の割合を示しているが、1施設で複数の項目がある場合には、該当する全ての項目を計上している。
注(2)
東北3県については、農業集落における集落排水施設のみを集計している。

このように、地震動による被災については、施設周辺の舗装の沈下等や流入管、縁石ブロック等の破損が多く見受けられるものの、施設自体の全損は僅かであった。一方、津波による被災については、施設のドア等の開口部の建具が損壊して室内が浸水し、機械及び電気設備を損傷して処理機能が喪失した事例が多く見受けられた。

<事例-集排1> 津波により汚水処理施設の機械及び電気設備が浸水し、処理機能が喪失した事例

A県B市は、C地区(6集落)において、平成8年度から11年度までに汚水処理施設(計画処理水量316㎥/日、計画処理人口1,170人)及び管路施設(管路延長10.8km、マンホール363か所)の新設工事を実施している。このうち、汚水処理施設については、元年に地震動に対する耐震設計を取り入れた設計基準が制定されており、レベル1地震動に対する耐震設計により整備されていた。

そして、T.P.約6mの津波により、河川堤防に近接した汚水処理施設は水没し、ドア等外部開口部の建具が損壊して室内が浸水したことにより、機械及び電気設備がほぼ壊滅した。

なお、被災後の対応は、C地区の管路の被災はなかったものの、汚水処理施設内の機械及び電気設備が損傷して処理機能を喪失したことから、地区内に100基の仮設トイレを設置するなどして緊急対応を図った。そして、汚水処理施設内において、損壊した機械設備のモーター等の交換、仮設の電気設備を設置するなどして、被災後約1か月半後に仮復旧による供用を開始した。

集排5県から新潟県を除いた4県管内の18市町村において、25か所の汚水処理施設が被災したが、住民のライフラインへの影響についてみると、図表-集排2のとおり、9か所の汚水処理施設で機能が全停止、2か所で一部停止となり、また、4か所で最大193戸、最長111日間の使用制限等が行われていた。

図表-集排2 4県管内における汚水処理施設の被災によるライフラインへの影響

(内訳は別表-集排3参照

被災のあった市町村数 被災施設数 接続戸数 稼働状態 使用制限等
全停止 一時停止 全稼働 実施しなかった施設数 実施した施設数
対象個数(最大) 期間(最長)
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
18 25 5,220 9 2 14 21 4 193 111
(b) 耐震対策の実施状況と被災状況

前記の4県管内における25か所の汚水処理施設の被災状況についてみると、地震動によりコンクリート部材にクラックが発生しているなど軽微な被害が多かったが、中には汚水処理施設の地下に設置されている水槽が損壊するなどしている被害も見受けられた。そして、被災した汚水処理施設25か所のうち現行の農業集落排水設計指針で耐震設計を行うこととされている汚水処理施設は24か所となっていた。これらの施設については、基本的には施設の造成当時の設計基準は満たすとされているものの、現行の農業集落排水設計指針が示す耐震性能は確保されていないおそれがあるが、施設を管理している市町村は、財政状況が厳しいことや他施策に比べて優先度が低いなどとして、当該施設に係る耐震点検を実施しておらず、現行の農業集落排水設計指針で要求される耐震性能が確保されているのか把握していなかった。

このような状況の中、農林水産省は、24年10月に耐震点検を行うことなどにより耐震対策を推進するよう地方公共団体等に事務連絡を発し、市町村は24年度までに汚水処理施設5,077か所について重要度判定を行い、25年度以降に耐震点検を必要とする箇所において実施することとしていた。

c 管路施設の被災状況等
(a) 管路施設の被災状況

集落排水施設のうち管路施設については、集排8県管内において管路(延長263.9km)等が被災していたが、その被災内容についてみると、図表-集排3のとおり、主に液状化により、管のたわみや滞水の被災が全体の31.2%、マンホールの浮上や沈下の被災が全体の23.3%、路面の陥没の被災が全体の25.5%、取付管の浮上や沈下の被災が全体の11.0%を占めており、これらの被災を合わせると管路施設の被災全体の91.0%となっていた。

図表-集排3 集排8県管内における管路施設の被災内容

集排8県管内における管路施設の被災内容

注(1)
本図表は、被災内容の項目の割合を示しているが、1施設で複数の項目がある場合には、該当する全ての項目を計上している。
注(2)
東北3県については、農業集落における集落排水施設のみを集計している。

液状化に伴い管路やマンホールの浮上、道路の陥没等が発生すると、交通障害が発生し住民のライフラインに重大な影響を及ぼすこととなる。そこで、集排5県管内の27市町村において被災した管路延長45.4kmによる住民のライフラインへの影響についてみると、図表-集排4のとおり、8市町村において最大869戸、最長385日間の使用制限等が行われており、また、13市町村において296か所で最長412日の交通障害が発生しており、このうち緊急輸送道路に影響していた交通障害も17か所で見受けられた。

図表-集排4 集排5県管内における管路の被災によるライフラインへの影響

(内訳は別表-集排4参照

被災のあっ
た市町村数
被災延長 接続戸数 使用制限等 交通障害
実施しな
かった市
町村数
実施した
市町村数
発生しな
かった市
町村数
発生した
市町村数
対象戸数
(最大)
期間
(最長)
箇所数 期間
(最長)
緊急輸送
道路
km 箇所 箇所
27 45.4 16,406 19 8 869 385 14 13 296 17 412
(b) 液状化対策の実施状況と被災状況

管路施設の被災は、大規模な地震動を受けて埋戻し材料が液状化したことによる被災が中心となっているが、このように液状化が発生した要因は、地下水が高いことや管路の埋戻し材料として山砂を使用していたことなどが考えられている。

そして、管路については、液状化対策として有効な工法が集落排水震災対策マニュアルにより示されていたが、前記の集排5県管内において被災した管路延長45.4kmのうち液状化により管路が浮上するなどの被害が発生した管路延長43.5kmについては、液状化対策が実施されていなかった。

<事例-集排2> 液状化対策が実施されていない管路が被災した事例

D県E市は、F地区等3地区(計11集落)において、平成7年度から19年度までに管路(延長32.8km)等の新設工事を実施している。

管路については、造成時には基礎材及び埋戻し土に山砂を使用し、液状化対策を実施していなかった。また、管路の液状化対策として有効な工法が19年に集落排水震災対策マニュアルにより示されていたが、当該管路において被災前までに液状化対策は実施されていなかった。

そして、液状化により、管路8.2km(うち緊急輸送道路埋設延長1.0km)等が被災し、それにより路面の陥没が55か所(うち緊急輸送道路8か所)で発生し、48か所(同8か所)で通行止めとなり、その期間は最長20日となっていた。

以上のように、被災状況及び耐震対策等の実施状況について、汚水処理施設において、現行の農業集落排水設計指針で要求される耐震性能が確保されているのか把握されていなかったり、管路施設において、液状化に伴う道路の陥没等により交通障害が発生したりしている事例が見受けられたことから、交通障害によるライフラインへの影響等を考慮した上で、施設の重要度に応じて耐震対策を効率的に進め、必要とされる耐震性能の確保に努める必要がある。

(イ) 復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等

a 復旧方針等

集落排水施設は住民の生活に密着した基本的なライフラインであることから、地方公共団体は、集落排水施設の復旧を速やかに完了させるとしている。

b 復旧の進捗状況
(a) 東北3県管内の進捗状況

東北3県管内における集落排水施設の被災箇所数は、(ア)aのとおり58市町村の235か所となっていたが、24年度末現在の復旧の進捗状況についてみると、39市町村の155か所(完了率66.0%)は復旧が完了していた。

(b) 集排5県管内の進捗状況

集排5県管内における集落排水施設の被災箇所数は、(ア)aのとおり30市町村の78か所となっていたが、24年度末現在の復旧の進捗状況についてみると、29市町村の76か所(完了率97.4%)は復旧が完了していた。

以上のとおり、集排5県管内の市町村においては、24年度末までに集落排水施設の復旧はおおむね完了していたが、東北3県管内の市町村においては、水道災害復旧工事との調整が遅れており着手できない部分があるなどして工事が遅れている状況が見受けられた。

c 震災を踏まえた復旧の取組状況

前記のとおり、汚水処理施設の被災としては、施設周辺の舗装の沈下や流入管の破損等が見受けられたものの、施設自体の全損は僅かであったため、汚水処理施設の復旧に当たっては、ほとんどの施設が原形に復旧されていた。

また、管路施設の被災としては、液状化に伴う被災がほとんどであり、液状化対策として有効な工法が集落排水震災対策マニュアルにより示されていたが、液状化対策が実施されていない箇所において被災していた。

そこで、集排8県から長野県を除いた7県管内の市町村において液状化により被災した管路延長205.7kmの復旧の取組状況についてみると、図表-集排5のとおり、復旧に当たっては、ほとんどの管路は原形に復旧することが不適当であるとして、埋戻し土の固化や砕石による埋戻しによる液状化対策が実施されていたが、一方、一部の管路については、早期の復旧を優先するなどのため液状化対策が実施されることなく原形に復旧され、今後、液状化対策の検討が必要な状況となっていた。

図表-集排5 7県管内における復旧時の液状化対策の実施状況

7県管内における復旧時の液状化対策の実施状況

(注)
東北3県については、農業集落における集落排水施設のみを集計している。

<事例-集排3> 市道に埋設された管路の復旧に当たり、液状化対策を実施していない事例

G県H市のI地区等6地区(15集落)では、液状化により管路(延長3.6km)等が被災していた。そして、路面の陥没が44か所で発生し、5か所で通行止めとなり、その期間は最長10日となっていた。また、被災延長のうち3.5kmは市道に埋設されている区間であった。

H市は、管路の復旧に当たり、原形に復旧することを原則として、被災前と同様に砂基礎により管路を敷設するなど、管周辺の基礎及び埋戻し材料として砕石やセメント系固化剤を使用した改良土を用いるなどの液状化対策を実施していなかった。

<参考事例-集排1> 緊急輸送道路に埋設された管路の復旧に当たり、液状化対策を実施している事例

茨城県水戸市の平須地区等9地区(65集落)では、液状化により管路(延長4.7km)等が被災していた。そして、路面の陥没が89か所で発生し、4か所で通行止めとなり、その期間は最長212日となっていた。また、被災延長のうち35mは緊急輸送道路に埋設されている区間であった。

同市は、管路の復旧に当たり、被災前と同様に砂基礎により管路を敷設すると再度、液状化によって被災するおそれがあることから、管周辺の基礎及び埋戻し材料としてセメント系固化剤を使用した改良土を用いた液状化対策を実施していた。

<参考事例-集排2> 県道に埋設された管路の復旧に当たり、液状化対策を実施している事例

岩手県一関市の原前地区(4集落)では、液状化により管路(延長1.0km)等が被災していた。そして、路面の陥没が5か所で発生するなどしていた。また、被災延長のうち0.4kmは県道に埋設されている区間であった。

同市は、管路の復旧に当たり、被災前と同様に砂基礎により管路を敷設すると再度、液状化によって被災するおそれがあることから、管周辺の基礎及び埋戻し材料として砕石を用いた液状化対策を実施していた。

以上のように、復旧の進捗及び震災を踏まえた取組状況等について、被災した管路の復旧に当たっては、ほとんどの管路において液状化対策が実施されていたが、一部の管路では原形に復旧されていて、今後、液状化対策の検討が必要な事例が見受けられた。このようなことから、東日本大震災のような甚大な被害を再び発生させないためにも、施設の災害によるライフライン等への影響を考慮して、液状化対策の実施の必要性の検討を行うなどして引き続き計画的かつ着実な早期復旧等に努めることが必要である。

(4) 総括

各事業における被災状況及び復旧状況については、特定の範囲に絞った状況について検査を実施した結果であるが、一定の状況が把握できたところであり、これらの状況について、各事業ごとに整理すると次のとおりである。

ア 河川事業

(ア) 河川堤防について、耐震対策工事を実施していた箇所は被災していないなど耐震対策工事の効果が発現している事例が見受けられた一方で、耐震性能照査等が進捗していない状況が見受けられた。

(イ) 水門等について、耐震対策工事を実施していたことなどにより被災しなかった事例や、遠隔操作化を図っていたことなどにより閉鎖できた事例、閉鎖状態の水門扉による津波の遡上の軽減効果が確認された事例が見受けられた。

イ 海岸事業

(ア) 海岸堤防の整備済区間、天端高を嵩上げした区間、要求される耐震性能が確保されている地区海岸において、海岸堤防や背後地の被災が比較的軽微となっている事例が見受けられた一方で、無堤区間、天端高を嵩上げした区間に隣接した天端高が低かった区間、耐震対策工事を実施していない地区海岸において、海岸堤防や背後地が被災している事例が見受けられた。

(イ) 災害発生時に閉鎖施設が閉鎖していない事例が見受けられ、中には委託管理協定が締結されていないなど、閉鎖体制が十分となっていない事例が見受けられた。

(ウ) 海岸堤防による津波被害軽減効果のほか、盛土構造の道路、公園等にある樹林帯等により津波の侵入を軽減して、津波被害軽減効果が発現していることが推定された事例が見受けられた。

(エ) 海岸堤防の復旧の取組について、耐震対策等の検討が必要であったが、海岸堤防の被災状況を考慮した上で、より早期に防護機能を回復させる必要があったために、原形に復旧している海岸堤防や、地殻変動等により地盤沈下した高さを基準に復旧している海岸堤防において、今後、耐震対策等の追加的対策の検討が必要となっている事例が見受けられた。

ウ 砂防事業

土砂災害が発生した箇所において、土砂災害防止施設の効果が発現した事例が見受けられた一方で、土砂災害防止施設が整備されていない事例や、基礎調査等が実施されていない事例が見受けられた。

エ 道路整備事業

(ア) 緊急輸送道路の耐震対策工事を実施していない橋りょうの甚大な被害や、津波により橋桁が流出した被災等により、被災箇所を含む一定区間が全面通行止めとなり、応急復旧活動に支障が生じていた事例が見受けられた。

(イ) 避難路の橋りょう等が被災して、全面通行止めとなった事例や、市町村が避難路に選定した都道府県道等の被災情報を迅速に把握できていなかった事例が見受けられた。

(ウ) 優先的に耐震化が実施されていて被災が軽微であった緊急輸送道路が広域的な緊急輸送に活用されたり、盛土構造の連続する区間の道路が津波浸水被害を軽減したりした事例や、道の駅が防災拠点等として活用された事例が見受けられた。

(エ) 被災した橋りょうの復旧が仮設橋りょう等による応急復旧段階にとどまっていた事例や、液状化により被災した箇所を原形に復旧していて、今後、地盤の改良等の液状化対策の検討を要する事例が見受けられた。

オ 港湾整備事業

(ア) 耐震強化岸壁については、被災が軽度であったり、通常の岸壁と連続している箇所において、その被害が通常の岸壁に比較して部分的で、応急復旧後の暫定供用開始が比較的早期となっていたりしていた事例が見受けられた。

また、津波防波堤について、背後地への津波高の低減、津波到達時間の遅延等の一定の効果が確認されている事例が見受けられた。

(イ) 港湾関係の建設団体と災害発生時に実施する応急対策業務に関して、あらかじめ災害協定を締結し、震災時において航路啓開等の作業を早期に開始できた事例が見受けられた一方で、災害協定を締結していない港湾管理者も見受けられた。

(ウ) GPS波浪計による観測データ を伝送する陸上局の建屋について、その耐震性が確認されていない状況が一部見受けられたが、おおむね耐震性が確認されていた。

カ 下水道事業

(ア) 要求される耐震性能を確保した管路や液状化対策を実施した管路は、被災が比較的軽微となっているなど、管路の耐震対策及び液状化対策の実施により一定の効果が発現したと推定される事例が見受けられた一方で、耐震対策及び液状化対策を実施していない管路が被災した事例が見受けられた。

(イ) 津波から防護するための海岸堤防が整備されていない区間にある終末処理場や設置場所が津波浸水予測区域内となっているポンプ場等において、津波対策を実施しておらず、終末処理場及びポンプ場の被災により、被災前と同様の水処理等が行えない事例が見受けられた。

(ウ) 下水道施設の復旧の取組について、耐震対策の検討や津波対策の実施において、施設の被災状況等を考慮した上で、より早期に回復させる必要があったために、原形に復旧するなどしている管路や終末処理場等において、今後、耐震対策、津波対策等の追加的対策の検討が必要となっている事例が見受けられた。

キ 公園事業

(ア) 公園の被災及び活用状況について、津波によって沿岸部に位置している公園が甚大な被害を受けた事例や、液状化による被災が著しいなどのため避難地等として活用されず、公園の防災機能が発揮できない事例が見受けられた一方で、公園が避難地や防災拠点として活用されるなど防災機能を発揮した事例や、沿岸部の公園において、園内に整備されている樹林帯等により津波被害軽減効果が発現していることが推定された事例が見受けられた。

(イ) 復旧が完了した公園については、基本的に原形に復旧されており、液状化が発生した公園において、今後、液状化対策の検討が必要となっている事例が見受けられた。

ク 治山事業

(ア) 海岸防災林や人工砂丘等により、津波被害軽減効果が発現し、津波による被害が軽減された事例が見受けられた一方で、林帯の地盤高が低く地下水位が高い箇所では海岸防災林が流失し、津波被害軽減効果が発現しなかった事例が見受けられた。また、台風等の被害により、海岸防災林の現況と森林簿が異なっている事例が見受けられた。

(イ) 山地災害危険地区として把握されていない箇所での被災が多数発生し、人家、道路等の保全対象施設に甚大な被害が生じている事例が見受けられた。

(ウ) 流域全体の効率的な治山対策を講ずる観点から、流域の上流に位置する国有林に存在する不安定土砂量等の情報が下流に位置する民有林の管理者に十分提供されていない事例が見受けられた。

(エ) 海岸防災林の復旧及び再生において、林帯の地盤高さを確保するための盛土工を施工している事例や、海岸防災林やその後方にある保全対象施設が被災したことを受けて、新たに海岸防災林の前面に人工砂丘等を施工して、津波被害の軽減効果を高める対策を実施している事例が見受けられた。

ケ 漁港整備事業

(ア) 耐震強化岸壁が整備されている漁港では、がれき等の処理等被災地の復旧に重要な役割を果たした事例が見受けられた一方で、計画されている耐震強化岸壁が整備されていない漁港では、広範囲にわたる通常岸壁の転倒やエプロン舗装の破損、流出等によって、緊急物資の輸送等の機能が発現できなかった事例が見受けられた。

(イ) 背後に崖や山が迫る狭あいな地形又は急傾斜地に立地している漁港背後集落等が、大規模な津波により被害を受けた事例が多数見受けられた。また、津波浸水予測区域内にある避難場所を始め多数の避難場所において、津波浸水被害を受けている事例が見受けられた。

(ウ) 防波堤等の復旧に際し、天端高の嵩上げ等を併せて施工し、施設の従前の効用を向上させて整備している事例が見受けられた一方で、被災した防災拠点漁港のうち、耐震強化岸壁の整備が検討されている漁港については、24年度末現在で、その復旧に併せて耐震強化岸壁として必要なレベル2地震動に対応することとはなっていない箇所が見受けられ、今後、耐震対策の検討が必要な事例が見受けられた。

コ 農業農村整備事業

(ア) 農業用施設の被災前の耐震点検及び耐震整備はほとんど実施されておらず、耐震点検が実施されないまま被災した施設の中には、その立地や周辺状況から二次災害によりライフライン等への影響が極めて大きいと考えられる重要度の高い施設があり、現に、農業用施設の被災により財産及びライフラインに影響した事例が見受けられた。

(イ) ため池において、ハザードマップの作成及び住民への公表が行われていた事例はなかった。

(ウ) パイプラインの復旧に当たり、主な被災原因である液状化に対する対策が実施されず、今後、液状化対策の検討が必要となっている事例が見受けられた。

サ 集落排水事業

(ア) 汚水処理施設において、現行の農業集落排水設計指針で要求される耐震性能が確保されているのか把握されていなかったり、管路施設において、液状化に伴う道路の陥没等により交通障害が発生したりしている事例が見受けられた。

(イ) 管路の復旧に当たっては、ほとんどの管路において液状化対策が実施されていたが、一部の管路では原形に復旧されていて、今後、液状化対策の検討が必要な事例が見受けられた。

各事業における被災状況及び復旧状況は、上記のとおりであり、被災状況については、主として災害予防対策に資する施設に係る事業においては、①耐震対策、液状化対策、津波対策等を実施したことなどにより、効果が発現した事態が見受けられた一方で、②耐震対策等が実施されていない施設等が、地震動、液状化、津波等により施設又はその周辺が被災した事態が見受けられた。そして、主として災害に対する応急復旧活動に資する施設に係る事業においては、③広域的な緊急輸送や、避難地等に活用された事態が見受けられた一方で、④地震動、液状化、津波等により災害発生直後から必要な救助、救急活動等に支障が生じた事態が見受けられた。また、復旧状況については、⑤再度災害の防止を考慮して復旧を実施した事態が見受けられる一方で、⑥原形に復旧していて、今後、追加的対策の検討が必要な状況となっている事態が見受けられた。

そして、被災状況及び復旧状況について、上記の①から⑥までの事態別に、本文中の各事業における事態の主な参考事例及び事例を整理すると図表-総括のとおりとなっている。

図表-総括 事態別分類

事業 機能区分 分類項目
被災状況 復旧状況
耐震対策などの実施状況と被災状況 災害に害する応急復旧活動に資するための施設の活用状況
河川事業 災害予防施設 参1、参2 参4、参5 - - - - -
海岸事業 災害予防施設 参1、参2 事3、事4 - - - 事5、事6
茶房事業 災害予防施設 参1 - - - -
道路整備事業 災害応急復旧施設 参2 事1 参2、参3 参5 事1、事2 - 事4
港湾整備事業 災害応急復旧施設 参1、参2 参3、参4 - 参6
下水道事業 災害予防施設 参1、参2 事1、事2 事3 - - 参5 事4、事5
公園事業 災害応急復旧施設 - - 参1、参2 参3、参4 事1、事2 - 事3
治山事業 災害予防施設 参1、参2 参3 事1、事2 事3、事4 事5 - - 参4 -
漁港整備事業 災害応急復旧施設 参4、参5 参6 事1 参3 - - 事2
農業農村整備事業 災害予防施設 - 事1、事2 - - 参2、参3 事3
集落排水事業 災害予防施設 - 事2 - - 参1、参2 事3
(注)
「参」参考事例を、「事」は事例を示している。