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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書 |
  • 平成25年10月 |
  • 東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について

第1 検査の背景及び実施状況


1 検査の要請の内容

会計検査院は、平成24年8月27日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月28日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

内閣府、文部科学省、経済産業省、原子力損害賠償支援機構、東京電力株式会社等

(二)検査の内容

東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する次の各事項

  • ① 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況
  • ② 原子力損害賠償支援機構による資金援助業務の実施状況等
  • ③ 東京電力株式会社による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状
    況等

2 東京電力株式会社による原子力発電の概要

東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は、電気事業法(昭和39年法律第170号)に規定される一般電気事業者として、その供給区域における需要に応じて電気を供給している。

その供給区域は1都7県(注1)及び静岡県の一部に及び、24年度の電灯(注2)と電力(注3)を合わせた販売電力量は約2690億キロワット時(注4)、特定規模需要を除く24年度末時点の電灯と電力を合わせた契約口数は2888万口に上っている。

東京電力は、供給区域内の需要に応えるために、水力、火力、原子力等の発電所を設置しており、23年3月末における設置箇所数は192か所、認可出力(注5)は計6498万キロワットとなっていた。このうち、原子力発電所の状況は図表0-1のとおりとなっており、福島、新潟両県に3か所設置されていて、その認可出力は3原子力発電所の17基で計1730万キロワット(192発電所の認可出力6498万キロワットに占める割合は26.6%)となっていた。

図表0-1 東京電力の原子力発電所の状況

発電所名 号機 認可出力
(万kW)
炉型 運転開始 (参考)平成25年3月末の状況
福島第一 1号機 46.0 BWR 昭和46年3月 廃止(24年4月19日)
2号機 78.4 BWR 49年7月 廃止(同上)
3号機 78.4 BWR 51年3月 廃止(同上)
4号機 78.4 BWR 53年10月 廃止(同上)
5号機 78.4 BWR 53年4月 停止中(23年1月3日から定期検査中)
6号機 110.0 BWR 54年10月 停止中(22年8月14日から定期検査中)
469.6
福島第二 1号機 110.0 BWR 57年4月 停止中
2号機 110.0 BWR 59年2月 停止中
3号機 110.0 BWR 60年6月 停止中
4号機 110.0 BWR 62年8月 停止中
440.0
柏崎刈羽 1号機 110.0 BWR 60年9月 停止中(23年8月6日から定期検査中)
2号機 110.0 BWR 平成 2年 9月 停止中(19年2月19日から定期検査中)
3号機 110.0 BWR 05年8月 停止中(19年7月16日の新潟県中越沖地震で
被災。19年9月19日から定期検査中)
4号機 110.0 BWR 06年8月 停止中(19年7月16日の新潟県中越沖地震で
被災。20年2月11日から定期検査中)
5号機 110.0 BWR 02年4月 停止中(24年1月25日から定期検査中)
6号機 135.6 ABWR 08年11月 停止中(24年3月26日から定期検査中)
7号機 135.6 ABWR 09年7月 停止中(23年8月23日から定期検査中)
821.2
合計 1730.8
(注)
炉型欄中の「BWR」は、沸騰水型原子炉のことで、原子炉の中で発生した熱で水(冷却材)を沸騰させ高温高圧の蒸気にして、そのまま直接タービン発電機へ送り込み発電する発電用原子炉である。また、「ABWR」は、改良型沸騰水型原子炉のことで、原子炉圧力容器底部に直接再循環ポンプを設置するなどして、BWRの安全性、信頼性、運転性等を向上させたとされている発電用原子炉である。

上記に加えて、東京電力は、他の一般電気事業者等との間で電力の購入及び販売を行う契約を締結しており、その契約の状況は図表0-2のとおりとなっていて、それぞれ最大計184.2万キロワット及び計110.0万キロワットまでの電力を受給できる体制を整えていた。

図表0-2 原子力発電所の発電に係る電力受給の状況


契約相手方の
会社名
発電所名
(号機)
認可出力
(万kW)
うち融通分
(万kW)
炉型 運転開始 (参考)
平成25年3月
末の状況

日本原子力発電 東海第二 110.0 88.0 BWR 昭和53年11月 停止中
東北電力 女川(3号機) 82.5 41.2 BWR 平成14年1月 停止中
東通(1号機) 110.0 55.0 BWR 17年12月 停止中
302.5 184.2

東北電力 福島第二(3号機) 110.0 27.5 BWR 昭和60年6月 停止中
福島第二(4号機) 110.0 27.5 BWR 62年8月 停止中
柏崎刈羽(1号機) 110.0 55.0 BWR 60年9月 停止中
330.0 110.0
注(1)
各会社の名称中、「株式会社」は省略した。
注(2)
電力受給に係る契約においては、発電所が稼働していない場合における当該発電所以外の代替電力の受給は別途協議事項となる。
(注1)
1都7県  東京都、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、山梨各県
(注2)
電灯  主に家庭、店舗、事務所等で利用される低圧で供給される電気
(注3)
電力  主に工場等で利用される低圧、高圧又は特別高圧で供給される電気
(注4)
キロワット時  1キロワットの電力を1時間にわたり発電又は使用した時の電力量
(注5)
認可出力  電気事業法の規定により経済産業大臣が認可するなどした最大の電気出力

3 東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所事故の発生

23年3月11日に発生した宮城県牡鹿半島の東南東沖130kmの海底を震源とする東北地方太平洋沖地震は、我が国における観測史上最大の規模であるマグニチュード9.0を記録し、その最大震度は7、震源域は岩手県沖から茨城県沖までの南北約500km、東西約200kmに及び、東日本の太平洋側を中心に広い範囲で震度5以上が観測された。この地震により、場所によっては津波高10m以上の津波が発生し、福島県で9.3m以上の津波が観測されるなど、太平洋沿岸の広範囲にわたって甚大な被害を受けることとなった。

さらに、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)においては、全ての交流電源が失われ、冷却機能を喪失するという重大な事故(以下「23年原発事故」という。)が発生したことにより、大量の放射性物質が放出される事態に至った。政府は、東北地方太平洋沖地震による災害及びこれに伴う23年原発事故による災害について、閣議において「東日本大震災」と呼ぶことに決定した。

23年原発事故の発生日の23年3月11日に、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)の規定に基づき、内閣総理大臣から原子力緊急事態宣言が発せられて、内閣府に原子力災害対策本部が設置された。原子力緊急事態宣言以降、原子力災害対策本部長である内閣総理大臣は、原災法の規定に基づき、関係市町村長等に対して、必要な指示を行っている。同月12日に、福島第一原発から半径20km圏内の居住者等に避難のための立ち退きをさせるよう指示し、同月15日には、福島第一原発から半径20km以上30km圏内の居住者等に屋内へ退避させるよう指示した。その後、4月21日には、①福島第一原発から半径20km圏内を、原災法第28条第2項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法(昭和36年法律第223号)の規定に基づく「警戒区域」に設定し、当該区域を原則として立入禁止とするよう、当該区域をもつ市町村長等に指示し、各市町村長が翌22日に当該区域を警戒区域として設定した。さらに、同日、②福島第一原発から半径20km以遠の地域であって、23年原発事故の発生から1年の期間内に積算線量(一定期間での被ばく線量の累積。以下同じ。)が20ミリシーベルト(注6)に達するおそれがあるため、1か月程度を目途に別の場所に計画的に避難することが求められる区域を「計画的避難区域」として、③緊急時に避難のための立ち退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが求められる区域を「緊急時避難準備区域」として、それぞれ設定したことを示した上で、当該区域内の居住者等に必要な対応を執らせることなどを、当該区域をもつ市町村長等に指示した(上記3月15日の屋内への退避の指示は4月22日に解除された。また、緊急時避難準備区域の設定は同年9月30日に一括して解除された。)。このほか、警戒区域及び計画的避難区域の外であって、生活形態によっては23年原発事故の発生から1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがある地点について、原子力災害現地対策本部(注7)が、福島県及び関係市村との協議を踏まえて、「特定避難勧奨地点」として住居単位で設定した(23年6月30日から11月25日までに、3市村に所在する計260地点(282世帯(注8))が設定された。)。

原災法の規定に基づく指示に従い避難のために立ち退き又は屋内へ退避するなどした居住者等が当該避難のための立ち退きなどにより受けた損害等への賠償については、同年4月15日に、原子力経済被害担当大臣を本部長とする原子力発電所事故による経済被害対応本部が決定した「原子力災害被害者に対する緊急支援措置について」において、東京電力が、損害賠償額の仮払という位置付けで当面必要な資金(以下「仮払補償金」という。)を可及的速やかに給付することとされた。

その後、原子力災害対策本部の政府・東京電力統合対策室は、同年12月16日に、福島第一原発の原子炉(1号機から4号機まで)について、同年4月17日に東京電力が公表した「福島第一原子力発電所・事故収束に向けた道筋」における「ステップ2」の目標である「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」の達成を確認したことを明らかにした。これを受けて、原子力災害対策本部は、同年12月26日に、当該「ステップ2」の完了により、福島第一原発の安全性が確保され、福島第一原発から大量の放射性物質が放出され、住民の生命又は身体が緊急かつ重大な危険にさらされるおそれはなくなったと判断し、警戒区域については、基本的に解除の手続に入ることが妥当とした。また、避難指示区域(福島第一原発から半径20km圏内及び計画的避難区域を指す。以下同じ。)については、放射線量を基準として、福島県、関係市町村等と協議した上で、①避難指示解除準備区域(避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域)、②居住制限区域(避難指示区域のうち、年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から、引き続き避難の継続を求める地域)及び③帰還困難区域(避難指示区域のうち、5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり、同年12月時点で年間積算線量が50ミリシーベルトを超える地域)の三つの区域に見直すこととした。区域見直しの対象となったのは11市町村(注9)で、25年5月までに、9市町村に設定された警戒区域が全て解除されたほか、図表0-3のとおり、同年8月までに、全11市町村において、国、福島県、市町村等による協議を経て上記三つの区域への見直しが行われた。

(注6)
シーベルト  人体の被ばくによる生物学的影響の大きさを表す単位
(注7)
原子力災害現地対策本部  原災法第17条第9項の規定に基づき、原子力災害対策本部の事務の一部を行うために置かれる組織で、平成23年3月11日の原子力緊急事態宣言発出後に原子力災害対策本部とともに設置された。
(注8)
3市村に所在する計260地点(282世帯)  南相馬市142地点(153世帯)、伊達市117地点(128世帯)及び双葉郡川内村1地点(1世帯)。なお、伊達市及び川内村の計118地点(129世帯)の設定については、平成24年12月14日に解除された。
(注9)
11市町村  田村、南相馬両市、伊達郡川俣町、双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡川内、葛尾両村、相馬郡飯舘村

図表0-3 避難指示区域の見直しの状況

(避難指示区域の概念図)

避難指示区域の見直しの状況

(市町村別状況)

          

避難指示区域の見直しの状況

注(1)
本表は、内閣府原子力被災者生活支援チームが11市町村から聞き取った情報(平成25年8月8日時点の住民登録数)を基に集計した結果をまとめたものである。
注(2)
田村市、川内村、南相馬市、楢葉町及び川俣町の設定区域は当該市町村域の一部である。5市町村の避難指示区域外の人数及び世帯数は、田村市が39,645人、12,196世帯、川内村が2,475人、988世帯、南相馬市が52,425人、19,068世帯、楢葉町が50人、22世帯、川俣町が13,896人、5,038世帯とされている

4 原子力損害の賠償及びこれを支援するための制度の概要

(1) 我が国における原子力損害賠償制度の概要

我が国の原子力損害賠償制度は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)において基本的な事項が定められており、原賠法は原子炉の運転等(注10)により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もって被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的としている。

原賠法では、原子力損害が生じた場合、原因の追究に特に専門的な知識を必要とし、被害者側からの立証が困難であることなどを踏まえて、民法(明治29年法律第89号)における不法行為責任の特例として、原則として原子炉の運転等により原子力損害を与えた原子力事業者(原子炉の設置について許可を受けた者等をいう。以下同じ。)が、無過失責任を負うこととされている。また、原賠法では原子力事業者は無限責任を負うことを原則としているが、第3条のただし書において、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じた」損害については、原子力事業者の賠償責任は免責されている。さらに、第4条において、「損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない」とされており、原子炉の運転等により原子力損害を与えた原子力事業者が集中して損害を賠償する責任を負うことが原則となっている。

上記の無過失責任等を踏まえて、原子力事業者は、原子炉の運転等をする際には、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講ずることが義務付けられている。この損害賠償措置は、原賠法第7条において、「原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託」であって、その措置を講ずることで、1工場、事業所等当たり1200億円(政令で定める原子炉の運転等については、1200億円以内で政令で定める金額。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができるものとして文部科学大臣の承認を受けたもの又はこれらに相当する措置であって文部科学大臣の承認を受けたものに大別される。

上記のうち、原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という。)は、原賠法第8条において、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合に、一定の事由による原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者が埋めることを約し、保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約とされている。一方、原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、原賠法第10条において、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合に、責任保険契約等では対応できない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を国に納付する契約とされている。さらに、補償契約については、原子力損害賠償補償契約に関する法律(昭和36年法律第148号。以下「補償契約法」という。)において、地震又は噴火によって生じた原子力損害、正常運転によって生じた原子力損害等を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失は補償契約に基づき政府により補償されることとされている。一方、これ以外の一般的な事故によって生じた原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失には、民間保険会社等との間の責任保険契約が適用されることとなる。

また、損害賠償措置として、責任保険契約及び補償契約の締結以外に、原子力事業者が講ずることのできる方法の一つである「供託」は、原賠法第12条において、原子力事業者の主たる事務所の最寄りの法務局又は地方法務局に、金銭又は文部科学省令で定める有価証券によりすることとされている。そして、原子力事業者が法務局等に供託した金銭等を取り戻すことができるのは、原賠法第14条において、当該原子力事業者が原子力損害を賠償したとき、供託に代えて他の損害賠償措置を講じたとき、原子炉の運転等をやめたときのいずれかに該当する場合で、文部科学大臣の承認を受けたときとされている。

このほか、原賠法では、第16条において、政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者が損害を賠償する責任を負う金額が賠償措置額を超え、かつ、原賠法の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、損害を賠償するために必要な援助を行うものとすること、また、第17条において、原子力事業者の免責事由となる「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じた」原子力損害である場合等には、被災者の救助及び被害の拡大防止のため必要な措置を講ずるようにするものとすることがそれぞれ定められている。

以上を踏まえて、原賠法における原子力損害賠償制度の枠組みを整理すると、図表0-4のとおりとなっている。

(注10)
原子炉の運転等 原賠法第2条第1項等の規定により、原子炉の運転、核燃料物質の加工、再処理、核燃料物質の使用、使用済燃料の貯蔵、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄のほか、これらに付随してする核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の運搬、貯蔵又は廃棄等とされている。

図表0-4 原賠法における原子力損害賠償制度の枠組み(熱出力が1万キロワットを超える原子炉の運転の場合)

原賠法における原子力損害賠償制度の枠組み(熱出力が1万キロワットを超える原子炉の運転の場合)

(2) 原子力損害賠償支援機構の設立に至る経緯とその概要

ア 設立に至る経緯

23年原発事故以降、事故の収束に向けた作業等が続けられる中、東京電力は、原賠法に基づき、23年原発事故に関する無過失責任及び無限責任を負う原子力事業者として賠償を実施することとなった。そして、東京電力は、23年5月10日に、資金調達が極めて厳しい状況にあり、23年原発事故による被害者への公正かつ迅速な補償に影響を与えるおそれがあるばかりでなく、電気の安定供給に支障が生じるおそれもあるとして、原賠法第16条の規定に基づく国の援助の枠組みを策定するよう政府に支援を求めた。

これを受けて政府は、同月13日の関係閣僚会合において、東京電力が、賠償総額に事前の上限を設けることなく迅速かつ適切な賠償を確実に実施すること、福島第一原発の状態の安定化に全力を尽くすこと、電力の安定供給、設備等の安全性を確保するために必要な経費を確保すること、最大限の経営合理化と経費削減を行うこと、政府が設ける第三者委員会の経営財務の実態の調査に応じること、全ての利害関係者に協力を求め、とりわけ、金融機関から得られる協力の状況について政府に報告を行うことなどが確認できたとし、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として東京電力に対する支援を行うことを決定した。また、具体的な支援の枠組みの中で、東京電力を債務超過にさせない方針が確認された。これを踏まえて、同月24日に、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」(以下「調査委員会」という。)を上記の第三者委員会として開催し、東京電力の厳正な資産評価と徹底した経費の見直しのため経営・財務の調査を行い、その調査結果を政府の東京電力に対する支援に活用することが閣議決定された。

その後、同年6月14日に原子力損害賠償支援機構法案が衆議院に提出され、同年8月3日に「原子力損害賠償支援機構法」(平成23年法律第94号。以下「機構法」という。)が成立し、同月10日に公布されて、同日施行された。そして、機構法に基づき、同年9月12日に原子力損害賠償支援機構(以下「機構」という。)が設立された。

イ 機構の概要

機構は、原賠法第3条の規定によって原子力事業者が賠償の責任を負うべき額が賠償措置額を超える原子力損害が生じた場合において、当該原子力損害の賠償のために必要な資金を交付するなどの業務を行うことにより、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営を図り、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的としている。

そして、機構は、設立に際して、政府及び政府以外の者が出資する額の合計額を資本金とすることとされている(国70億円、国以外の者70億円の計140億円)。機構法では、図表0-5のとおり、理事長及び理事のほか専門的な知識と経験を有する委員から成る運営委員会が設置され、定款の変更、予算及び資金計画の作成又は変更等の重要な事項については運営委員会の議決を経ることとされているほか、事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までであること、予算等は主務大臣の認可を経ること、主務大臣は政令で定めること(原子力損害賠償支援機構法施行令(平成23年政令第257号。以下「機構法施行令」という。)において、機構の業務ごとに内閣総理大臣、文部科学大臣及び経済産業大臣が主務大臣として定められている。)などが定められている。

図表0-5 機構の組織図(平成25年4月1日現在)

機構の組織図

機構の業務は、機構法第35条において、負担金の収納、資金援助、相談その他の業務等とされている。機構に負担金を納付したり、機構が資金援助を行ったりする原子力事業者は、第38条第1項において、大規模な原子力損害を生じさせる可能性のある実用発電用原子炉の設置の許可を受けるなどした者であって、原子炉の運転等をしている者とされている。

上記の機構の各業務の概要は、次のとおりとなっている。

(ア) 負担金の収納

機構は、原子炉の運転等をしている原子力事業者から、機構の事業年度ごとに、機構の業務に要する費用に充てるために、「負担金の収納」を行うこととされている。負担金の額は、対象となる各原子力事業者につき、機構の事業年度ごとに納付を受けるべき負担金の額の総額として機構が運営委員会の議決を経て定める額(以下「一般負担金年度総額」という。)に対して、各原子力事業者が納付すべき額の割合として機構が運営委員会の議決を経て定める割合を乗じて得た額(以下、一般負担金年度総額に当該割合を乗じて得た額を「一般負担金」という。)とされている。

(イ) 資金援助

機構は、原賠法第3条の規定によって原子力事業者が損害を賠償する責任を負うべき額(以下「要賠償額」という。)が賠償措置額を超えると見込まれる場合に、当該原子力事業者からの申込みを受けて「資金援助」を行うこととされている。資金援助の具体的な内容は、損害賠償の履行に充てるための資金の交付(以下「資金交付」という。)、当該原子力事業者が発行する株式の引受け、資金の貸付けなどである。機構は、資金援助に係る資金交付に要する費用に充てるために、国から国債の交付を受ける必要がある場合等は、資金援助の申込みを行った原子力事業者と共同して、当該原子力事業者による損害賠償の実施その他の事業の運営等に関する計画(以下「特別事業計画」という。)を作成して、主務大臣の認定を受けなければならないこととされている。

上記の国債は、債券の発行による発行収入金を伴わず、国が金銭の給付に代えて交付するために予算で定める額の範囲内において発行する交付国債である。そして、国は、機構からの交付国債の償還請求に基づき、当該請求額を速やかに償還することとされており、その名称については、「原子力損害賠償支援機構に交付される国債の発行等に関する省令」(平成23年財務省令第58号)において、「原子力損害賠償支援機構国庫債券」と定められている(以下、本報告書の「交付国債」は、この国債のことをいう。)。

前記の特別事業計画には、①原子力損害の状況、②要賠償額の見通し及び損害賠償の迅速かつ適切な実施のための方策、③事業及び収支に関する中期的な計画、④原子力事業者の経営の合理化のための方策、⑤原子力事業者による関係者に対する協力の要請その他の方策、⑥原子力事業者の資産及び収支の状況に係る評価に関する事項、⑦原子力事業者の経営責任の明確化のための方策、⑧原子力事業者に対する資金援助の内容及び額、⑨交付を希望する国債の額その他資金援助に要する費用の財源に関する事項等を記載しなければならないこととされている。また、特別事業計画の認定を受けた原子力事業者が機構に納付すべき負担金の額は、一般負担金の額に追加的な負担額として運営委員会の議決を経た額(以下、特別事業計画の認定を受けた原子力事業者が追加的に納付すべき負担金を「特別負担金」という。)を加算した額とされている。

機構は、毎事業年度、損益計算において利益を生じたときは損失を埋めた残余の額を積立金として整理しなければならないこととされているが、資金交付のために交付国債の償還を受けている場合は、当該残余の額を当該交付国債の償還を受けた額の合計額まで国庫に納付しなければならないこととされている。

(ウ) 相談その他の業務

機構は、原子力事業者に資金援助を行った場合に、当該原子力事業者に係る原子力損害を受けた者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行ったり、「平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律」(平成23年法律第91号。以下「仮払法」という。仮払法の制定の経緯等については次項(3)において記述する。)に基づき仮払法に規定する主務大臣又は都道府県知事から委託を受けて仮払金の支払に関する事務の一部等を行ったりなどすることとされている。

上記の各業務の概要を図で示すと、図表0-6のとおりとなっている。

図表0-6 機構の業務の概要

機構の業務の概要

また、機構法の附則において、原子力事業者からの資金援助の申込みは機構法の施行前に生じた原子力損害についても適用されることとされており、機構法の施行前に生じた原子力損害に関して資金援助を申し込む原子力事業者は、経営の合理化を徹底して行うことなどとされている。あわせて、政府は、機構法の施行後できるだけ早期に、原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方等について検討を加え、その結果に基づき、原賠法の改正等の抜本的な見直しを始めとする必要な措置を講ずることとされているほか、機構法の施行後早期に、23年原発事故に係る資金援助に要する費用に係る負担の在り方等を含めて、国民負担を最小化する観点から、機構法の施行状況について検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずることとされている。

(3) 仮払法の制定と国による仮払金の支払等

仮払法は、23年原発事故による災害が大規模かつ長期間にわたる未曽有の災害であり、これによる被害を受けた者を早期に救済する必要があること、これらの者に対する原子力損害の賠償の支払に時間を要することなどの特別の事情があることに鑑み、当該被害に係る対策に関し国が果たすべき役割を踏まえて、当該被害に係る応急の対策に関する緊急の措置として、国による仮払金の迅速かつ適正な支払及び原子力被害応急対策基金を設ける地方公共団体に対する補助に関し必要な事項を定めるために、いわゆる議員立法により提案された法律で、23年8月5日に公布されて、9月18日に施行された。

仮払法に基づく仮払金の支払は、「平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律施行令」(平成23年政令第294号。以下「仮払法施行令」という。)により、福島、茨城、栃木、群馬各県において旅館業等の観光に関連する事業を営む中小企業者等が受けた観光客数の減少に伴う収益の減少を対象として、対象者ごとに簡易な方法で算定した原子力損害の概算額に10分の5を下らない割合を乗じて得た額を支払うこととされている。そして、国は、仮払金の支払を行った場合、その額の限度において、その支払を受けた者が有する損害賠償請求権を取得し、速やかに原子力事業者に対して当該損害賠償請求権を行使することとされている。

そして、国又は仮払金の支払に関する事務の一部を行う都道府県知事は、仮払金の支払に関する事務の一部をその事務を行うのにふさわしい者として政令で定める者に委託することができることとされており、具体的には、仮払法施行令等の規定に基づき、仮払金の支払の請求の受付事務を機構及び東京電力に、仮払金支払請求についての原子力事業者への意見の聴取、仮払金の払渡しなどに係る事務を機構に、それぞれ委託することができることとされている。

上記の仮払金の支払の概要を図で示すと、図表0-7のとおりとなっている。

図表0-7 仮払金の支払の概要

仮払金の支払の概要

また、仮払法においては、地方公共団体が原災法又は関係法令の規定に基づいて行う応急の対策に関する事業並びに「特別会計に関する法律」(平成19年法律第23号。以下「特別会計法」という。)第85条第4項及び第6項の措置の対象となり得る地方公共団体の事業(その区域内の経済社会若しくは住民の生活への23年原発事故による影響の防止若しくは緩和又はその影響からの回復を図るために行う応急の対策に関する事業に限る。)に要する経費を支弁するために、当該地方公共団体が地方自治法(昭和22年法律第67号)に基づく基金として原子力被害応急対策基金を設ける場合に、国は、予算の範囲内において、その財源に充てるために必要な資金を補助することができることとされている。

(4) 原子力損害の賠償等に関連する法律の概要と所管府省

23年原発事故の発生後に創設された制度も含めて原子力損害の賠償等に関連する制度に係る、主な法律、各法律の所管府省及び主な規定事項については(1)から(3)までのとおりであるが、これらをまとめると、図表0-8のとおりであり、各所管府省(又はその大臣)は、設置法その他の法律の規定に基づき、認可を行うなどしている。

図表0-8 原子力損害の賠償等に関連する法律の概要

法律名(略称)   所管府省 主な規定事項
本報告書での
記載箇所
原子力災害対策特別措置法
(原災法)
3 内閣府 ・原子力緊急事態宣言の発令
・原子力災害対策本部の設置
・必要と認める地域の居住者等への
立ち退きなどの指示
・警戒区域の設定
原子力損害の賠償に関する法律
(原賠法)
4(1) 文部科学省 ・原子力損害賠償責任の範囲
・損害賠償措置の内容(責任保険契
約、補償契約、供託等)
・原子力損害賠償紛争審査会の設置
原子力損害賠償補償契約に関する
法律(補償契約法)
4(1) 文部科学省 ・補償契約に基づく補償金の支払
原子力損害賠償支援機構法
(機構法)
4(2) 内閣府
文部科学省
経済産業省
・原子力事業者からの負担金収納
・原子力事業者に対する資金援助
(資金交付、株式引受けなど)
・特別事業計画の認定
・被害者からの相談対応等
平成二十三年原子力事故による被
害に係る緊急措置に関する法律
(仮払法)
4(3) 内閣府
文部科学省

・仮払金の支払
・地方公共団体が設置する原子力被
害応急対策基金の財源補助

5 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、前記のとおり、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として行うこととされている。そこで、会計検査院は、「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況」に関する各事項について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、それぞれ次の着眼点により検査を実施した。

そこで、会計検査院は、「東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況」に関する各事項について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、それぞれ次の着眼点により検査を実施した。

① 原子力損害の賠償に関する国の支援等はどのように実施されているか。特に、国の支援等に係る財政負担等はどのような状況になっているか、財政上の措置以外の国の支援等はどのような状況になっているか。

② 東京電力が発行する株式の引受け、東京電力への資金交付等の資金援助、情報提供等の業務はどのように実施されているか。機構が東京電力等から納付を受ける負担金の水準はどのように設定されているか、機構を通じて東京電力に交付された資金の回収の見通しはどのようになっているか。機構の決算はどのような状況になっているか。

③ 原子力損害の賠償に関して、要賠償額の見通しはどのようになっているか、東京電力による賠償は適正かつ迅速に行われているか。東京電力の事業運営に関して、経営の合理化のためのコスト削減、資産売却等の方策や事業改革はどのように実施されているか、財務基盤の強化は図られているか、特別事業計画の作成後の状況の変化に適切に対応しているか。東京電力の決算はどのような状況になっているか。

なお、上記②及び③の事項の一部である23、24両年度の機構及び東京電力の決算の状況については、「第2 検査の結果」中、「4 機構及び東京電力の決算の状況」において記述した。

(2) 検査の対象及び方法

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、後述のとおり、23年原発事故による損害の賠償のために国が機構を通じて東京電力に交付した資金に相当する額が、原子力事業者の一般負担金及び東京電力の特別負担金により国庫に納付されたり、政府保証が付された借入金を原資とする機構から東京電力への出資が解消されたりなどするまで継続することになる。

会計検査院は、会計検査院法第23条第1項第3号及び第5号の規定に基づき、24年8月に東京電力の会計経理を検査することに決定しているが、本報告に係る検査に当たっては、内閣府、文部科学省、経済産業省及び機構による23年原発事故に係る原子力損害の賠償の支援並びに東京電力による特別事業計画の履行のうち、原則として24年度までに実施された支援等を対象とした。

検査の実施に当たっては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき提出された計算証明書類、各機関から徴した関係資料、報告等により、専門家の意見も踏まえつつ、在庁してこれらを分析するなどの書面検査を行うとともに、内閣府、文部科学省、経済産業省、機構及び東京電力並びに23年原発事故に係る原子力損害の賠償に必要な資金の調達に関連する事務を所掌している財務本省、23年原発事故の処理等に関連する事務を所掌している環境本省及び独立行政法人原子力安全基盤機構(以下「JNES」という。)本部において、関係書類を基に説明を受け、また、文部科学省、機構及び東京電力については福島県内に設置された事務所等にも赴き、399人日を要して、会計実地検査を行った。