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(5) 原子力災害からの復興再生

東日本大震災は、被害が甚大で被災地域が広範にわたるなど極めて大規模なものであるとともに、地震、津波及び原子力発電所の事故による複合的な災害である。

国は、復興基本方針において、原子力災害からの復興については、国全体としての強い危機意識を共有し、当面の取組を定めるとともに、長期的視点から、国が継続して、責任を持って再生及び復興に取り組むこととし、①応急対策及び復旧対策、②復興対策、③政府系研究機関の関連部門等の福島県への設置等の推進等、各種施策を実施することとしている。そして、福島第一原発が所在する福島県について、24年7月13日に、福島基本方針が閣議決定され、原子力災害からの福島の復興及び再生を国政の最重要課題と位置付けて、各種の取組を総合的、計画的、かつ、責任を持って継続的に講ずることとされた。

ア 原子力災害関係の事業の実施状況

原子力災害は、福島県を含む原子力災害を被った全ての地域において、住民に放射線による健康上の不安を生じさせたり、農産物等の販売不振や観光客の著しい減少等の風評被害を生じさせたりしている。このため、国及び被災した地方公共団体では、放射性物質によって汚染された廃棄物の処理及び除染、健康管理・調査、研究開発拠点整備、環境放射線モニタリング、食の安全確保等の多様な施策を講じていることから、これらの原子力災害関係の事業の実施状況に着眼して検査を行った。

(ア) 原子力災害関係の事業に係る経費項目別の予算の状況

23年度補正予算及び24年度復興特会予算において措置された原子力災害関係の計173事業に係る経費項目別の予算現額は、表76-1のとおり、23年度9808億余円、24年度5319億余円、計1兆5128億余円となっている。24年度の予算現額が23年度と比較して減少しているのは、応急対策及び復旧対策に係る事業が減少したことや、23年度に造成された多額の基金を活用して事業が行われていることなどによるものである。

表76-1 原子力災害関係の事業に係る経費項目別の事業数及び予算現額

(単位:百万円)

年度 経費項目 所管 事業
予算現額
平成23
年度
(一般
会計)
(1次補正) その他の東日本大震災関係経費 文部科学省、農林水産省、
経済産業省
18 4,937
原子力災害対策費
(2次補正) 原子力損害賠償法等関係経費 9府省等 28 275,404
原子力損害賠償法関係経費 9府省等 25 247,383
原子力損害賠償補償金 文部科学省 1 120,000
健康管理・調査事業費(福島県民健康管理基金) 経済産業省 1 78,182
特別緊急除染事業費(福島県民健康管理基金) 内閣府 1 17,981
環境放射線モニタリング強化事業費 文部科学省、厚生労働省、
農林水産省、国土交通省、環境省
10 19,200
対外発信強化事業費 内閣、外務省、農林水産省、
経済産業省
5 5,281
校庭等の放射線低減事業費 文部科学省、厚生労働省 3 4,960
原子力損害賠償和解仲介業務経費 文部科学省 1 1,030
その他 内閣、内閣府、文部科学省 3 745
原子力損害賠償支援機構法関係経費 2省等 3 28,020
交付国債の償還財源に係る利子負担 経済産業省 1 20,000
原子力損害賠償支援機構に対する出資 経済産業省 1 7,000
東京電力に関する経営・財務調査委員会経費 内閣 1 1,020
東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害関係) 内閣府、文部科学省、
農林水産省
7 344,766
(3次補正) 原子力災害復興関係経費 国会、総務省、法務省、外務省、
財務省、文部科学省、厚生労働省、
農林水産省、経済産業省、
国土交通省、環境省
54 355,780
23年度計 107 980,888
24年度
(復興特会)
原子力災害復興関係経費 国会、内閣府、復興庁、外務省、
財務省、文部科学省、厚生労働省、
農林水産省、経済産業省、環境省
64 512,564
東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害関係) 経済産業省、環境省 2 19,370
24年度計 66 531,934
合計 173 1,512,823
(注)
平成24年度の東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害関係)の予算現額は、同年度の原子力災害復興関係経費で実施されている事業への増額分を除いた額である。

23、24両年度における原子力災害関係の事業に係る経費項目の主な内容及び予算現額についてみると、以下のとおりとなっている。

① 「原子力損害賠償補償金」は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)等による政府補償契約に基づく原子力事業者に対する補償金を支払うために必要な経費であり、23年度に1200億円が計上されている。

なお、政府補償契約に基づく補償金支払については、23年10月に東京電力株式会社から1200億円の請求があり、同年11月に全額が支払われている。

② 「健康管理・調査事業費」は、原子力災害から福島県内の子どもや住民の健康を守るために、同県が設置した福島県民健康管理基金に交付金を交付することにより、全県民を対象とした放射線量の推定調査等を行うために必要な経費を負担するものであり、23年度に781億余円が計上されている。

③ 「環境放射線モニタリング強化事業費」は、福島県内の学校等に設置するリアルタイム放射線監視システムの構築、大気中の放射線量を計測する全国のモニタリングポストの増設、福島第一原発周辺を含む広域環境放射線モニタリング及び農産物、水産物、河川、地下水、飲料水等の各省協働によるモニタリング強化等を行うために必要な経費であり、23年度に192億余円が計上されている。

④ 「交付国債の償還財源に係る利子負担」は、原子力損害賠償支援機構法(平成23年法律第94号)に基づき、原子力事業者が原子力損害賠償を行うための交付国債の償還金の財源に充てるための借入金の利子等の支払に必要な経費であり、23年度に200億円が計上されている。

⑤ 「東日本大震災復旧・復興予備費」は、東日本大震災に係る復旧及び復興に関連する経費の予見し難い予算の不足に充てるための予備費であり、原子力災害関係として23年度に3447億余円が計上されている。なお、24年度復興特会予算においても同経費項目のうち原子力災害関係として193億余円(24年度当初予算で措置されている事業への増額分は除く。)が計上されている。

このうち主な事業は、23年度2次補正で措置された内閣府所管の「東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質の除染事業等に必要な経費」(予算現額2179億余円)である。

⑥ 「原子力災害復興関係経費」は、放射性物質汚染対処特措法等に基づき、東日本大震災に伴う原子力発電所の事故による汚染を除去するために行う放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)により汚染された土壌等の除染の実施等に必要な経費であり、23年度に3557億余円が計上されている。なお、24年度復興特会予算においても同経費項目5125億余円が計上されている。

このうち主な事業は、環境省所管の「放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施」(23年度予算現額1996億余円、24年度同3720億余円)である。

そして、原子力災害関係の事業に係る予算を事業の内容別にみると、図25のとおり、⑤及び⑥の経費項目のうち緊急実施基本方針及び放射性物質汚染対処特措法に基づき実施される事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び除染等の事業(以下、これらを合わせて「除染等の事業」という。)が、23年度補正予算で10事業、予算現額4637億余円、24年度復興特会予算で3事業、予算現額4513億余円となっており、23、24両年度の原子力災害関係の事業に係る予算に占める割合は、それぞれ47.2%、84.8%となり、特に24年度はその大部分を占めている。これは、除染等の事業を除く「健康管理・調査事業」、「研究開発拠点整備」等の事業(以下「健康管理・調査事業等」という。)が、前記のとおり、23年度に多額の基金を造成したこと、24年度は、当該基金を取り崩して事業を実施したことなどによるものである。

図25 平成23、24両年度の原子力災害関係の事業に係る予算の事業の内容別内訳

原子力災害関係の事業に係る予算の事業の内容別内訳

なお、上記以外にも、震災復興特別交付税等を財源として、風評被害対策等の事業が実施されている。

(イ) 原子力災害関係の事業に係る経費項目別の執行状況

原子力災害関係の事業に係る経費項目別の執行状況は、表76-2のとおりであり、23年度補正予算の24年度末時点における累計執行率は79.8%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は38.7%、23年度補正予算の事故繰越率は0.7%、24年度復興特会予算の繰越率は59.0%となっている。24年度復興特会予算の繰越率が59.0%と高くなっているのは、24年度復興特会予算の84.8%を占めている除染等の事業(予算現額4513億余円)において、除去土壌等の仮置場の確保や廃棄物処理施設での処理が遅延したことなどにより、図26のとおり、多額の事業費(2757億余円)が翌年度に繰り越されたことなどによる。

表76-2 平成24年度末時点における原子力災害関係の事業に係る経費項目別の執行状況

(平成23年度補正予算)

(単位:百万円、%)

経費項目 事業
予算現額 累計支出済額 累計執行率 事故繰越額 事故繰越率 累計不用額 累計不用率
(a) (b) (b/a) (c) (c/a) (d) (d/a)
(1次補正) その他の東日本大震災関係経費 18 4,937 3,939 79.8 997 20.1
原子力災害対策費
(2次補正) 原子力損害賠償法等関係経費 28 275,404 259,520 94.2 15,883 5.7
原子力損害賠償法関係経費 25 247,383 240,890 97.3 6,492 2.6
原子力損害賠償補償金 1 120,000 120,000 100.0
健康管理・調査事業費
(福島県民健康管理基金)
1 78,182 78,182 100.0
特別緊急除染事業費
(福島県民健康管理基金)
1 17,981 17,981 100.0
環境放射線モニタリング強化事業費 10 19,200 16,649 86.7 2,551 13.2
対外発信強化事業費 5 5,281 4,268 80.8 1,012 19.1
校庭等の放射線低減事業費 3 4,960 3,001 60.5 1,959 39.4
原子力損害賠償和解仲介業務経費 1 1,030 389 37.8 640 62.1
その他 3 745 417 55.9 328 44.0
原子力損害賠償支援機構法関係経費 3 28,020 18,629 66.4 9,390 33.5
交付国債の償還財源に係る利子負担 1 20,000 11,047 55.2 8,952 44.7
原子力損害賠償支援機構に対する出資 1 7,000 7,000 100.0
東京電力に関する経営・財務調査委員会経費 1 1,020 582 57.0 438 42.9
東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害関係)
7 344,766 341,838 99.1 2,928 0.8
(うち福島県民健康管理基金) (1) (199,999) (199,999) (-) (-)
(うち福島県原子力被害応急対策基金) (1) (40,385) (40,385) (-) (-)
(3次補正) 原子力災害復興関係経費 54 355,780 177,908 50.0 7,182 2.0 170,689 47.9
(うち福島県民健康管理基金) (1) (70,644) (70,644) (-) (-)
(うち福島県原子力災害等復興基金) (6) (61,869) (61,869) (-) (-)
107 980,888 783,207 79.8 7,182 0.7 190,498 19.4

(平成24年度復興特会予算)

(単位:百万円、%)

経費項目 事業
予算現額 支出済額 執行率 繰越額 繰越率 不用額 不用率
(a) (b) (b/a) (c) (c/a) (d) (d/a)
原子力災害復興関係経費 64 512,564 186,506 36.3 313,934 61.2 12,123 2.3
(うち福島県民健康管理基金) (1) (93,819) (93,819) (-) (-)
(うち消費者行政活性化基金) (1) (364) (364) (-) (-)
東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害
関係)
2 19,370 19,370 100.0
(うち福島県民健康管理基金) (1) (5,980) (5,980) (-) (-)
(うち福島県原子力災害等復興基金) (1) (13,390) (13,390) (-) (-)
66 531,934 205,876 38.7 313,934 59.0 12,123 2.2

図26 原子力災害関係の事業に係る繰越額の事業内容別内訳

原子力災害関係の事業に係る繰越額の事業内容別内訳

(ウ) 実施方法別の執行状況

前記原子力災害関係の173事業の実施方法についてみると、国が直接事業を実施する方法、国以外の者が国からの補助金等を受けて事業を実施する方法等により事業を実施している。

そこで、上記事業の実施方法について、①「直轄」(各省庁が直接事業を実施する方法。委託等を含む。)、②「補助等」(国以外の者が行う事業等に助成等を行う補助事業等による方法のうち、基金造成、運営費交付金及び拠出金による方法を除いたもの)、③「基金」(国が基金団体に対して、基金の設置造成等を行って事業を実施するのに必要な費用を補助等する方法)、④「その他」(①から③までの方法以外のもの)の四つに区分して、それぞれの実施方法別にどのような執行状況となっているかを整理した。

区分に当たっては、直轄、補助等、基金のいずれかを含めて複数の実施方法で行っている事業については、原則として「補助等」として集計し、それぞれの実施方法別に該当する予算現額等の金額を区分できる場合には、それぞれの実施方法別に金額を区分して件数を重複して集計しているため、総事業数は計178事業となっている。なお、上記のとおり、「補助等」には、基金造成の費用が含まれている事業があることから、その場合には、補助金額のうち基金に係る額を「基金」の予算現額として集計している。

24年度末時点における原子力災害関係の事業に係る実施方法別の執行状況は、表77のとおり、23年度補正予算では、予算現額9808億余円に対し、24年度末までの累計の支出済額7832億余円、累計執行率は79.8%となっている。

また、24年度復興特会予算では、予算現額5319億余円に対し、支出済額2058億余円、執行率は38.7%となっている。このうち、直轄及び補助等で実施している事業の繰越率はそれぞれ75.7%及び86.3%となっているが、24年度計の繰越率は59.0%となっている。これは、24年度の予算現額5319億余円のうち、基金1135億余円については、国が基金の設置造成等に必要な資金を基金団体に交付した時点で執行率が100%となることなどのためである。また、直轄及び補助等の繰越しの内訳についてみると、直轄の繰越額計2910億余円のうち2654億余円(91.2%)、補助等の繰越額計228億余円のうち102億余円(44.9%)が、いずれも除染等の事業に係る繰越額となっている。

表77 平成24年度末時点における原子力災害関係の事業に係る実施方法別の執行状況

(平成23年度補正予算)

(単位:百万円、%)

実施方法 事業
予算現額
(a)
累計支出済額
(b)
事故繰越額
(c)
累計不用額
(d)
累計執行率
(b/a)
事故繰越率
(c/a)
累計不用率
(d/a)
直轄 59 360,557 190,568 3,831 166,158 52.8 1 46.0
補助等、基金 43 610,675 582,983 3,350 24,340 95.4 0.5 3.9
補助等 32 141,612 113,921 3,350 24,340 80.4 2.3 17.1
基金 11 469,062 469,062 100.0
その他 7 9,655 9,655 100.0
109 980,888 783,207 7,182 190,498 79.8 0.7 19.4

(平成24年度復興特会予算)

(単位:百万円、%)

実施方法 事業
予算現額
(a)
累計支出済額
(b)
事故繰越額
(c)
累計不用額
(d)
累計執行率
(b/a)
事故繰越率
(c/a)
累計不用率
(d/a)
直轄 43 383,978 82,391 291,038 10,548 21.4 75.7 2.7
補助等、基金 20 140,062 115,678 22,895 1,488 82.5 16.3 1.0
補助等 16 26,508 2,123 22,895 1,488 8.0 86.3 5.6
基金 4 113,554 113,554 100.0
その他 6 7,893 7,806 86 98.9 1.0
69 531,934 205,876 313,934 12,123 38.7 59 2.2
(エ) 福島県及び管内市町村に対する補助等

原子力災害は、特に福島県に対して甚大な被害をもたらしたことから、国は、福島基本方針において、福島基本方針に基づく施策全般の着実な実施に必要な予算を十分に確保し、未曽有の災害への対応が求められている福島の地方公共団体の負担をできる限り軽減することとしている。

そこで、(ウ)で区分した補助等及び基金で実施している事業に係る支出済額(23年度補正予算5829億余円、24年度復興特会予算1156億余円)について、補助金等の交付先が福島県及び管内市町村となっているものと、それら以外となっているものとに分類してみると、図27のとおり、23年度補正予算では5829億余円のうち4725億余円(81.0%)が、24年度復興特会予算では1156億余円のうち1135億余円(98.1%)が、それぞれ福島県及び管内市町村に対する補助金等として交付されている。特に、基金で実施している事業については、23年度補正予算では累計の支出済額計4690億余円の全額、24年度復興特会予算では支出済額計1135億余円のうち1134億余円となっていて、ほぼ全てが福島県及び管内市町村に設置造成等された基金に対する交付となっている。

図27 原子力災害関係の事業に係る補助金等の交付先別の支出済額内訳

原子力災害関係の事業に係る補助金等の交付先別の支出済額内訳

イ 除染等の事業の実施状況

(ア) 除染等に関する国の取組

国は、原子力発電所の事故により放射性物質が広範囲に放出されたことを踏まえて、応急対策、復旧対策等の一環として、23年度2次補正において、内閣府所管「福島県特別緊急除染事業」(予算現額179億余円)、文部科学省及び厚生労働省所管「福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業」(同49億余円)等を措置して、学校・公園等の公共施設や通学路等の線量低減事業、1µSv/h以上の空間線量率を観測した学校や保育所等の校庭及び園庭について市町村等が行う表土除去処理事業に対する補助を実施している。

そして、国は、前記のとおり、緊急実施基本方針に基づき、計画的かつ抜本的に除染を推進することとして、警戒区域等の11市町村での除染実証プロジェクトの実施、除染専門家の派遣支援及び除染等を実施する市町村等に対する財政支援を行うとともに、除染に当たっては、放射線量の水準に応じて、国が主体的に除染を実施する地域と、市町村等が国の補助を受けて実施する地域とに区分して実施することとした。

また、放射性物質汚染対処特措法等に基づき、上記の国が主体的に除染を実施する除染特別地域や、市町村等が実施する汚染状況重点調査地域を指定するとともに、国において放射性物質により汚染された廃棄物の処理を行う汚染廃棄物対策地域を指定している。このほか、除去土壌等の収集、運搬、保管及び処分に関する基本的事項や環境の汚染への対処に関する重要事項として、仮置場、中間貯蔵施設及び最終処分場等の施設の確保に当たっての取組等についても定めている。

そして、国は、市町村等の協力を得ながら、汚染廃棄物等の処理のために必要な仮置場や中間貯蔵施設等の整備、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理、土壌等の除染等の措置並びに除去土壌の収集、運搬、保管及び処分(以下、これらを合わせて「除染等の措置等」という。)を適正に推進するために必要な措置を講ずることとして、中間貯蔵施設等の確保やその安全性の確保については、国が責任を持って行うこととしている。

a 国が主体的に実施する地域の除染等の措置等の実施状況

国は、放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島第一原発の半径20㎞圏内の警戒区域又は1年間の積算線量が20mSvに達するおそれがあるとして計画的避難区域に設定された福島県内の計11市町村を除染特別地域に指定(注5)し、国自ら除染等の措置等を実施することとしている。

また、上記11市町村を汚染廃棄物対策地域に指定して、対策地域内廃棄物処理計画を策定し、国自ら汚染廃棄物対策地域の廃棄物の収集、運搬、保管及び処分をすることとしている。

(注5)
除染特別地域に指定されたのは、楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町及び葛尾、飯舘両村の全域並びに田村、南相馬両市、川俣町、川内村で警戒区域又は計画的避難区域であったことのある地域である。

国自らが除染等の措置等を実施している上記11市町村における24年度末の進捗状況についてみると、表78のとおりとなっている。

除染活動の拠点となる公的施設や生活に必要なインフラ施設等については、先行的に除染を実施することとされ、これら先行除染は双葉町を除く全ての市町村で実施されている。

また、環境大臣は、除染特別地域を指定したときは、当該除染特別地域について、除染等の措置等を総合的かつ計画的に講ずるために、当該除染特別地域に係る除染等の措置等の実施に関する計画(以下「特別地域内除染実施計画」という。)を定めなければならないとされており、富岡町及び双葉町を除く9市町村で特別地域内除染実施計画が策定されている。

本格除染の実施状況についてみると、除染等の措置等を実施するに当たり必要とされる汚染土壌等の仮置場の確保では、4市町村が確保済みであるが、その他の市町村では、一部確保済み又は地元調整中等となっており、24年度に全域の除染作業を実施している田村市を始め、仮置場を確保できた市町村では本格除染が進んでいる一方、仮置場の確保が困難となっている市町では、いずれも本格除染に至っていないなど、仮置場の確保が除染を推進する上での重要な事項となっている。

表78 除染特別地域における除染等の措置等の進捗状況

進捗状況 市町村名 先行除染
(拠点の除染)
特別地域内除染
実施計画の策定
本格除染(面的な除染)
仮置場の確保 除染作業
平成24年度 25年度
本格除染
作業中・
見込み
田村市 ○(確保済み) ○(H24で全域実施) 終了予定
楢葉町 ○(確保済み)
川内村 ○(確保済み)
飯舘村 ○(一部確保済み)
川俣町 ○(一部確保済み) 準備作業(除草)
葛尾村 ○(一部確保済み) 準備作業(除草)
計画策定済み
・発注準備
南相馬市 地元調整中
浪江町 地元調整中
大熊町 ○(確保済み) (公示中)
計画未策定 富岡町 地元調整中 地元調整中
双葉町
b 市町村等が実施する地域の除染等の措置等の実施状況

国は、放射性物質汚染対処特措法等に基づき、除染特別地域以外の地域については、表79のとおり、その地域の平均的な空間線量率が0.23µSv/h以上の地域を有する市町村を汚染状況重点調査地域に指定することとしている。そして、指定された市町村の長等は、除染等の措置等を総合的かつ計画的に講ずるため、当該地域に係る除染等の措置等の実施に関する計画(以下「除染実施計画」という。)を策定し、同計画に基づき除染等の実施者を定めて除染等の措置等を実施することとされ、国は、補助金等の財政措置等を講ずることとしている。

表79 平成24年度末における汚染状況重点調査地域として指定された市町村

県名 市町村数 汚染状況重点調査地域として指定された市町村
除染実施計画策定済 当面策定予定なし
岩手県 3 一関市、奥州市、平泉町
宮城県 9 白石市、角田市、栗原市、七ケ宿町、大河原町、丸森町、亘理町、山元町 石巻市
福島県 40 福島市※、郡山市※、須賀川市※、相馬市※、二本松市※、伊達市※、本宮市※、桑折
町※、国見町※、大玉村※、鏡石町※、天栄村、会津坂下町、湯川村※、会津美里町、
西郷村※、泉崎村※、中島村※、矢吹町※、棚倉町※、鮫川村※、玉川村※、平田村
※、浅川町※、古殿町※、小野町※、広野町※、新地町※、田村市※、川俣町※、川内
村※、白河市※、石川町※、三春町※、南相馬市※、いわき市※
三島町、矢祭町、
塙町、柳津町
茨城県 20 日立市、土浦市、龍ケ崎市、常総市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、取手市、牛久
市、つくば市、ひたちなか市、鹿嶋市、守谷市、稲敷市、つくばみらい市、東海村、美
浦村、阿見町、利根町
鉾田市
栃木県 8 佐野市、鹿沼市、日光市、大田原市、矢板市、那須塩原市、塩谷町、那須町
群馬県 10 桐生市、沼田市、渋川市、みどり市、下仁田町、中之条町、高山村、東吾妻町、川場村  安中市
埼玉県 2 三郷市、吉川市
千葉県 9 松戸市、野田市、佐倉市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市、印西市、白井市
101 94 7
(注)
※は、緊急実施基本方針に基づく除染計画を策定した市町村である。

市町村等が実施する除染等の措置等に対する23、24両年度における国の財政措置の実施状況についてみると、汚染状況重点調査地域として指定された全ての市町村に対して、放射線量低減対策特別緊急事業費補助金が交付されており、24年度末時点における執行状況は、23年度の予算現額計1047億余円、24年度末までの累計の支出済額計837億余円、事故繰越額29億余円、24年度の予算現額計1042億余円、支出済額計939億余円、繰越額102億余円等となっている。

また、前記のとおり、汚染廃棄物対策地域の廃棄物については、国自らが処理を行うこととしているが、それ以外の地域の廃棄物については、市町村等が処理を行うこととしている。ただし、事故由来放射性物質により汚染された土壌、落葉及び焼却施設で発生した焼却灰等のうち、環境省令で定める方法により実施する放射性物質による汚染状況の調査の結果、放射能濃度が8,000Bq/kg(注6)を超えたものについては、放射性物質汚染対処特措法に基づき、環境大臣が当該廃棄物を指定廃棄物として指定し、国が責任を持って処理することとされている。

これら指定廃棄物は、国に引き渡され、焼却等の中間処理を行った後、国が設置する最終処分場等に埋め立てることとされている。そして、国に引き渡されるまでの間、焼却施設等の施設管理者は指定廃棄物を保管することとされているが、国が責任を持って行うこととされている最終処分場の確保等に時間を要しており、保管が長期化している状況となっている。

(注6)
Bq(ベクレル)  1秒間に崩壊する原子核の数。放射性物質の量を表す場合に用いられる単位
(イ) 除染等の事業別の執行状況

除染等の事業は、表80-1及び表80-2のとおり、23年度補正予算に係る内閣府及び環境省の10事業、24年度復興特会予算に係る環境省の3事業で、計13事業となっている。この13事業について、所管別・事業別の執行状況をみると、23年度補正予算では、23年度末時点における執行率が59.9%、24年度末時点における累計執行率が67.5%となっている。また、24年度復興特会予算では、24年度末時点における執行率が37.0%となっている。

表80-1 除染等の事業の実施方法及び事業別の執行状況(平成23年度補正予算)

(単位:百万円、%)

所管 事業等 実施
方法
実施
年度
予算現額 支出済額 繰越額(注) 不用額 執行率 繰越率 不用率
内閣府
4事業
① 東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故によ
り放出された放射性物質の除染事業等に必要な経費
平成23 217,908 202,289 13,388 2,229 92.8 6.1 1.0
24 12,811 576
累計 215,101 2,806 98.7 1.2
a 福島県民健康管理基金 基金 23 199,999 199,999 100.0
b 農業系汚染物質処理事業 補助等 23 2,183 970 599 613 44.4 27.4 28.1
24 527 71
累計 1,498 685 68.6 31.3
c 除染実証事業や警戒区域への一時立入りにおけるスク
リーニング・除染拠点の運営等
直轄 23 14,997 1,162 12,789 1,045 7.7 85.2 6.9
24 12,284 505
累計 13,446 1,550 89.6 10.3
d 農林水産省等への支出委任 直轄 23 727 157 570 21.6 78.3
環境省
6事業
② 放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 23 199,662 73,948 125,678 35 37.0 62.9 0.0
24 19,741 6,759 99,177 3.3
累計 93,690 99,212 46.9 49.6
e-1 放射線量低減処理業務庁費等 直轄 23 94,939 1,346 93,557 35 1.4 98.5 0.0
24 8,562 3,781 81,213 3.9
累計 9,908 81,249 10.4 85.5
e-2 放射線量低減対策特別緊急事業費補助金

(うち、福島県民健康管理基金)
補助等 23 104,723
(70,644)
72,602
(70,644)
32,121
(-)
69.3 30.6
24 11,179 2,978 17,963 2.8
累計 83,781
(70,644)
17,963
(-)
80.0 17.1
③ 放射性物質汚染廃棄物処理事業 23 45,148 1,298 41,934 1,914 2.8 92.8 4.2
24 2,484 50 39,399 0.1
累計 3,783 41,314 8.3 91.5
f 放射性物質汚染廃棄物処理事業費 直轄 23 26,882 18 26,862 0 0.0 99.9 0.0
24 2,142 50 24,670 0.1
累計 2,161 24,671 8.0 91.7
g 放射性物質汚染廃棄物処理業務委託費 直轄 23 14,866 199 14,667 1.3 98.6
24 14,667
累計 199 14,667 1.3 98.6
h 放射性物質汚染廃棄物処理業務地方公共団体委託費 直轄 23 3,155 986 404 1,763 31.2 12.8 55.8
24 342 62
累計 1,329 1,826 42.1 57.8
i 放射性物質汚染廃棄物処理事業費補助金 補助等 23 244 94 150 38.5 61.4

中間貯蔵施設検討・整備事業
j

直轄 23 1,050 494 504 51 47 48 4.9
24 181 323
累計 675 374 64.3 35.6
計 10事業 23 463,769 278,031 181,506 4,232 59.9 39.1 0.9
24 35,219 6,810 139,476 1.4
累計 313,251 143,708 67.5 30.9
(注)
繰越額欄の「24年度」の金額は、平成25年度に事故繰越しされた額である。

表80-2 除染等の事業の実施方法及び事業別の執行状況(平成24年度復興特会予算)

(単位:百万円、%)

所管 事業等 実施
方法
実施
年度
予算現額 支出済額 繰越額(注) 不用額 執行率 繰越率 不用率
環境省


3事業
② 放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 平成24 372,090 160,462 209,697 1,930 43.1 56.3 0.5
k-1 放射線量低減処理業務庁費等 直轄 24 267,801 66,507 199,406 1,886 24.8 74.4 0.7
k-2 放射線低減対策特別緊急事業費補助金
(うち、福島県民健康管理基金)
補助等 24 104288
(93.819)
93954
(93.819)
10290
(-)
43
(-)
90.0
9.8
0.0
③ 放射性物質汚染廃棄物処理事業 24 77,224 6,822 64,152 6,248 8.8 83.0 8.0
l-1 放射性物質汚染廃棄物処理事業費 直轄 24 52,826 604 51,563 658 1.1 97.6 1.2
l-2 放射性物質汚染廃棄物処理業務委託費 直轄 24 13,458 4,206 7,830 1,421 31.2 58.1 10.5
l-3 放射性物質汚染廃棄物処理業務地方公共団体委
託費
直轄 24 9,963 1,798 4,759 3,405 18.0 47.7 34.1
l-4 放射性物質汚染廃棄物処理事業費補助金 補助等 24 976 214 762 21.9 78.0

中間貯蔵施設検討・整備事業
m
直轄 24 2,000 6 1,920 73 0.3 96.0 3.6
計 3事業 24 451,315 167,292 275,770 8,252 37.0 61.1 1.8

13事業のうち、内閣府所管の4事業(表80-1中のa、b、c及びd)は緊急実施基本方針に基づき実施される事業であり、環境省所管の9事業(表80-1中のe、f、g、h、i及びj並びに表80-2中のk、l及びm)は放射性物質汚染対処特措法に基づき実施される事業である。

そして、13事業のうち、主な事業の実施方法及び執行状況を分析すると次のとおりとなっている。

① 東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質の除染事業等に必要な経費(23年度予算現額2179億余円、表80-1中のa、b、c及びd)

この事業のうち、直轄で実施している事業は「除染実証事業や警戒区域への一時立入りにおけるスクリーニング・除染拠点の運営等」(23年度予算現額149億余円、表80-1中のc)であり、高線量地域における除染実証事業等を実施するものである。この事業の23年度末時点における執行率は7.7%となっていたが、24年度末時点における累計執行率は89.6%となっていて、大幅に執行率が増加している。

これは、除去土壌等の仮置場の選定における地元調整に多くの時間を要したことや積雪による作業の遅れにより、23年度内に事業を完了することが困難となり、事業の完了が24年度になったことによる。

また、基金で実施している事業は「福島県民健康管理基金」に係る事業(23年度予算現額1999億余円、表80-1中のa)であり、福島県に福島県民健康管理基金を設置造成し、基金事業の終了予定年度である25年度までの間に、福島県内の市町村等が除染計画を策定して実施する地域の除染等の実施に対して、福島県が必要に応じて資金を取り崩すことにより、財政支援を行うものである。

基金事業は、国から福島県に国庫補助金が交付された時点で全額が執行されることとなるため、その執行率は100%となっている。そこで、基金の取崩しの状況についてみると、表81のとおり、23年度末時点における基金事業執行率は4.9%となっていたが、24年度末時点における基金事業執行率は85.4%となっていて、24年度に多額の基金の取崩しが行われている。

これは、除染計画の策定、除染手法の具体的な検討等の事業の実施に向けた体制の整備に時間を要したことなどから、本格的な事業の着手が24年度になったことによる。

表81 除染等の事業のうち内閣府所管の基金の状況

(単位:百万円、%)

基金名 国庫補
助金交
付元
年度 基金造成
基金額
(a)
各年度の
取崩額
累計取崩
額(b)
年度末に保有する
国庫補助金相当額
基金事業
執行率
(b/a)
事業終了
予定年度
福島県民健康管理基金
内閣府 平成
23
199,999 199,999 9,864 9,864 190,134 4.9 25
24 161,080 170,945 29,054 85.4

② 放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施(23年度予算現額1996億余円、表80-1中のe。24年度3720億余円、表80-2中のk)

この事業のうち、直轄で実施している事業は「放射線量低減処理業務庁費等」(23年度予算現額949億余円、表80-1中のe-1。24年度予算現額2678億余円、表80-2中のk-1)である。この事業は、除染特別地域内における生活圏の除染等の措置等を実施するもので、23年度補正予算の24年度末時点における累計執行率は10.4%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は24.8%となっている。これは、除染等の措置等の実施に必要とされる特別地域内除染実施計画の策定、除去土壌等の仮置場の確保及び事業の実施に係る関係者からの同意取得等に時間を要したことから事業の着手の時期が遅れたことなどによる。

また、補助等により実施しているものは「放射線量低減対策特別緊急事業費補助金」(23年度予算現額1047億余円、表80-1中のe-2。24年度予算現額1042億余円、表80-2中のk-2)である。この事業は、汚染状況重点調査地域において、市町村等が実施する除染等の措置等に必要な経費に対する補助を実施するもので、23年度補正予算の24年度末時点における累計執行率は80.0%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は90.0%となっている。

また、基金で実施している事業は「福島県民健康管理基金」に係る事業(23年度予算現額1999億余円、表80-1中のa)であり、福島県に福島県民健康管理基金を設置造成し、基金事業の終了予定年度である25年度までの間に、福島県内の市町村等が除染計画を策定して実施する地域の除染等の実施に対して、福島県が必要に応じて資金を取り崩すことにより、財政支援を行うものである。

基金事業は、国から福島県に国庫補助金が交付された時点で全額が執行されることとなるため、その執行率は100%となっている。そこで、基金の取崩しの状況についてみると、表81のとおり、23年度末時点における基金事業執行率は4.9%となっていたが、24年度末時点における基金事業執行率は85.4%となっていて、24年度に多額の基金の取崩しが行われている。

表82 除染等の事業のうち環境省所管の基金の状況

(単位:百万円、%)

基金名 国庫補
助金交
付元
年度 基金造成
額積増額
基金額
(a)
各年度の
取崩額
累計取崩
額(b)
年度末に保有する
国庫補助金相当額
基金事業
執行率
(b/a)
事業終了
予定年度
福島県民健康管理基金
環境省 平成
23
70,644 70,644 70,644 26
24 93,819 164,463 100,676 100,676 63,786 61.2

③ 放射性物質汚染廃棄物処理事業(23年度予算現額451億余円、表80-1中のf、g、h及びi。24年度予算現額772億余円、表80-2中のl)

この事業のうち、直轄で実施している事業は「放射線量低減処理業務庁費等」(23年度予算現額949億余円、表80-1中のe-1。24年度予算現額2678億余円、表80-2中のk-1)である。この事業は、除染特別地域内における生活圏の除染等の措置等を実施するもので、23年度補正予算の24年度末時点における累計執行率は10.4%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は24.8%となっている。これは、除染等の措置等の実施に必要とされる特別地域内除染実施計画の策定、除去土壌等の仮置場の確保及び事業の実施に係る関係者からの同意取得等に時間を要したことから事業の着手の時期が遅れたことなどによる。

④ 中間貯蔵施設検討・整備事業(23年度予算現額10億余円、表80-1中のj。24年度予算現額20億余円、表80-2中のm)

この事業は、直轄で実施している事業であり、福島県内における除染等の措置等に伴って大量に発生が見込まれる除去土壌等を一定の期間、安全に集中的に管理、保管するための中間貯蔵施設の整備に向けた調査検討を行うもので、23年度補正予算の24年度末時点における累計執行率は64.3%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は0.3%となっている。そして、24年度復興特会予算では繰越率が96.0%となっている。これは、中間貯蔵施設の候補地等の検討に係る基礎的調査等の実施に際して必要となる地元調整に時間を要したことなどによる。

なお、福島県によると、放射性物質汚染対処特措法において国が責任を持って行うとされている最終処分場等の確保の遅延等により、中間貯蔵施設や仮置場での汚染廃棄物保管が長期化することに対する不安が、仮置場の確保や地元調整に時間を要している要因の一つとなっているため、福島県は、国において速やかな解決が図られることを要望している。

 

ウ 健康管理・調査事業等の実施状況

原子力災害関係の事業に係る予算のうち、健康管理・調査事業等に係る予算は、図25のとおり、23年度補正予算で予算現額5171億余円、24年度復興特会予算で予算現額806億余円と多額に上っている。そこで、健康管理・調査事業等はどのような方法で実施されているか、その執行率はどのような状況になっているかなどに着眼して検査した。

(ア) 健康管理・調査事業等に係る予算の執行状況

健康管理・調査事業等に係る予算現額を実施方法別にみると、表83のとおり、23年度補正予算では、直轄2039億余円、補助等1051億余円、基金1984億余円、その他96億余円、24年度復興特会予算では、直轄379億余円、補助等150億余円、基金197億余円、その他78億余円となっている。

各実施方法により実施されている事業について、主なものを示すと、次のとおりである。

① 直轄

「政府補償契約に基づく補償金支払」(23年度予算現額1200億円)、「福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業」(24年度同208億余円)等が実施されている。

② 補助等

「東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により汚染された牛肉・稲わらに係る肉用牛肥育農家支援対策等に必要な経費」(23年度予算現額863億余円)等が実施されている。

③ 基金

「原子力被災者の健康確保・管理関連交付金(仮称)(福島県向け)」(23年度予算現額781億余円)等が実施されている。

④ その他

「原子力損害賠償支援機構出資金」(23年度予算現額70億円)、「福島関連基礎・支援研究等(独立行政法人日本原子力研究開発機構運営費)」(24年度同59億余円)等が実施されている。

健康管理・調査事業等の23年度補正予算の24年度末時点における累計執行率は90.8%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は47.8%となっている。

実施方法別に執行率をみると、23年度補正予算における直轄及び補助等の24年度末時点における累計執行率はそれぞれ79.7%及び94.3%となっているが、24年度復興特会予算における執行率は、直轄が24.4%、補助等が11.7%と低くなっており、繰越率は、直轄が67.3%、補助等が83.6%と高くなっている。これは、24年度復興特会予算の直轄に係る繰越額計255億余円のうち208億余円(81.6%)と、補助等に係る繰越額計126億余円のうち114億余円(90.6%)が、25年2月に成立した24年度1次補正により措置された事業で生じたものであり、24年度当初予算と比べて事業実施期間が短期間となったことなどによる。

一方、基金で実施している事業の執行率は、国から交付先に資金が交付された時点で全額が執行されることとなるため、23年度補正予算及び24年度復興特会予算とも100%となっている。また、23年度補正予算のその他で実施している事業の執行率も100%となっているが、これは、事業の内容が出資金や運営費交付金を交付するものであったことによる。

表83 健康管理・調査事業等に係る実施方法別の執行状況

(平成23年度補正予算)

(単位:百万円、%)

実施方法 事業
予算現額
(a)
累計支出済額
(b)
事故繰越額
(c)
累計不用額
(d)
累計執行率
(b/a)
事故繰越率
(c/a)
累計不用率
(d/a)
直轄 52 203,938 162,689 41,248 79.7 20.2
補助等 29 105,106 99,192 372 5,541 94.3 0.3 5.2
基金 9 198,418 198,418 100
その他 7 9,655 9,655 100
97 517,118 469,956 372 46,790 90.8 0.0 9.0

(平成24年度復興特会予算)

(単位:百万円、%)

実施方法 事業
予算現額
(a)
支出済額
(b)
繰越額
(c)
不用額
(d)
執行率
(b/a)
繰越率
(c/a)
不用率
(d/a)
直轄 40 37,929 9,268 25,559 3,102 24.4 67.3 8.1
補助等 14 15,062 1,774 12,605 682 11.7 83.6 4.5
基金 3 19,735 19,735 100.0
その他 6 7,893 7,806 86 98.9 1.0
63 80,619 38,584 38,164 3,871 47.8 47.3 4.8
(イ) 基金で実施している事業の状況

表83のとおり、基金で実施している事業は、23年度補正予算では9事業、24年度復興特会予算では3事業、計12事業となっており、事業費も多額となっていることから、どのような事業が実施されているかなどに着眼して、次のとおり事業の内容を四つに分類して整理した。

① 「健康管理」

食品中の放射性物質に係る安全対策や放射線の影響に関する住民の継続的な健康管理を実施する事業を行っているもの

② 「施設整備」

放射線の影響に関する研究・医療を行う施設や医療産業の拠点等を整備する事業を行っているもの

③ 「風評被害対策」

放射線量等に関する正確な情報発信や農産物等の地域ブランドイメージの回復、観光の振興等の事業を行っているもの

④ 「その他」

①から③までの内容以外の事業を行っているもの

基金で実施している事業について、上記の分類別の事業数及び予算現額の内訳をみると、図28のとおり、最も予算現額が多額となっているのは「健康管理」の961億余円で、次に多額となっている「施設整備」の805億余円と合わせると全体の80.9%を占めている。また、事業数も、12事業のうち、「施設整備」が6事業、「健康管理」が2事業とこれら2分類に係る事業が半数以上を占めている。

「健康管理」に係る事業は、応急対策として実施されるものを除き、原子力被災者等に対する長期にわたる健康診査や生体試料冷凍保存等の健康管理・調査事業であり、「施設整備」に係る事業は、基本構想、用地取得、本体工事、施設運営等を行うなど、完成までに長期間を要する拠点整備事業等であることから、基金事業として実施される期間が中長期にわたるものが多いことが特徴となっている。

図28 基金で実施している健康管理・調査事業等に係る分類別内訳

基金で実施している健康管理・調査事業等に係る分類別内訳

なお、12事業のうち、24年度に岩手県、宮城県、福島県及び茨城県に交付された内閣府(消費者庁)所管の地方消費者行政活性化事業以外の11事業は全て福島県に対して交付されたものである。

 

表84 基金で実施している健康管理・調査事業等に係る分類別の状況

(平成23年度補正予算)

(単位:百万円、%)

分類 予算
年度
国庫補助金
交付元
事業名 平成24年度末現在
造成又は
積増額(a)
累計取崩額
(b)
24年度末に保有する
国庫補助金等相当額
基金事業
執行率
(b/a)
「健康管理」 23 内閣府 福島県特別緊急除染事業 17,981 7,467 10,514 41.5
経済産業省 原子力被災者の健康確保・
管理関連交付金(仮称)(福
島県向け) (注)
78,182 16,219 61,963 20.7
計 2事業 96,164 23,686 72,477 24.6
「施設整備」 23 文部科学省 放射性薬剤の研究開発・製
造拠点の整備
11,362 2,582 8,780 22.7
放射線核種の生態系におけ
る環境動態調査等
2,245 76 2,169 3.3
福島県環境創造センター 8,042 230 7,812 2.8
経済産業省 医療福祉機器・創薬産業拠
点整備事業
39,493 4,144 35,348 10.4
24 経済産業省 福島県医療機器開発・安全
性評価センター整備事業
13,390 13,390
環境省 福島健康管理拠点の緊急整
5,980 30 5,949 0.5
計 6事業 80,514 7,063 73,450 8.7
「風評被害対策」 23 内閣府 東北地方太平洋沖地震に伴
う原子力発電所の事故によ
る被害に係る応急の対策に
関する事業に必要な経費
40,385 35,079 5,305 86.8
「その他」 23 文部科学省 低線量域における被ばく線
量モニターの開発
625 238 387 38.1
農林水産省 農地土壌等の浄化の研究拠
点施設整備調査事業(福島
基金分)
100 2 97 2.7
24 内閣府
(消費者庁)
地方消費者行政活性化事業 364 138 226 37.8
計 3事業 1,090 379 711 34.7
合計 12事業 218,153 66,209 151,944 30.3
(注)
この事業は国からの交付金と東京電力株式会社からの賠償金250億円を合わせた計1031億余円を基に事業を実施しているが、累計取崩額は全額国からの交付金を取り崩したものとして集計している。

そして、分類別の基金事業執行率をみると、基金事業執行率が最も高率となっている分類は、「風評被害対策」であり、「東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故による被害に係る応急の対策に関する事業に必要な経費」として、地域ブランドイメージの回復へ向けた活動を支援する事業等を実施しており、基金事業執行率は86.8%と全12事業で最も高率となっている。

一方、基金事業執行率が最も低率となっている分類は、「施設整備」の計8.7%となっている。これは、「施設整備」の分類に含まれる事業がいずれも研究拠点の施設整備等を目的とするもので、基金事業の計画に基づき事業を実施しており、主に本体工事が実施される予定である25年度以降に多額の取崩しが行われる見込みであることなどによる。

 

エ まとめ

国は、原子力災害からの復興再生については、国政の最重要課題と位置付けて、被災者等に対する各種支援や放射性物質汚染対処特措法や緊急実施基本方針等に基づく健康管理・調査や除染等を実施するとともに、長期的視点から、生活再建、産業振興、雇用対策等、様々な取組を実施している。また、これらの事業を実施する地方公共団体等に対する財源及び人的支援等を実施するとともに、東京電力株式会社が行う福島第一原発の廃炉に向けた取組に対する監視等を実施している。

そして、特に甚大な被害を受けた福島県については、福島特措法や福島基本方針等に基づき、避難解除等区域の復興及び再生のための特別の措置、原子力災害からの産業の復興及び再生のための特別の措置を実施することとしている。

原子力災害関係の事業に係る経費の23、24両年度の予算現額は、前記のとおり、計1兆5128億余円と多額に上っている。そして、放射性物質汚染廃棄物処理事業、放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施、中間貯蔵施設検討・整備事業については、多額の繰越額や不用額を生じている。

また、予算現額に占める除染等の割合についてみると、23年度は47.2%、24年度は84.8%と大きな割合となっており、特に、福島県に交付された補助金、基金等は、23年度は4725億余円、24年度は1135億余円と多額に上っている。

原子力災害からの復興再生は長期にわたることが予想されており、国は、自ら取り組むとともに、被災した地方公共団体が行う取組を総力を挙げて支援することとしている。一方、福島県を始めとする被災した地方公共団体では、今まで経験したことのない原子力災害に対して膨大な事業及び予算を執行しており、国からの支援、特に、長期的かつ確実な財源の支援や各種制度の支援を望むとともに、人的支援を望んでいる。

したがって、復興庁及び関係省庁等は連携して、原子力災害からの復興再生に取り組むとともに、被災した地方公共団体の意向や要望等を踏まえるなどして、必要な支援に努めることが必要である。