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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第9 厚生労働省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3)後期高齢者医療制度の後期高齢者医療高額医療費負担金の算定に当たり、医療機関等に返戻されたレセプトが再提出された場合に同負担金の対象となる療養に係る費用の額が重複して算出されないようするなどして、算定が適正なものとなるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
部局等
厚生労働本省
国の負担の根拠
高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
交付先
34後期高齢者医療広域連合
負担金の概要
後期高齢者に対する高額な医療給付の発生による後期高齢者医療広域連合の財政負担を緩和するために交付される負担金
上記の後期高齢者医療広域連合に交付した国庫負担金交付額の合計
888億3231万余円(平成22年度~24年度)
過大に交付されていた国庫負担金交付額
13億4368万円(平成22年度~24年度)

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

後期高齢者医療制度の後期高齢者医療高額医療費負担金の算定について

(平成26年10月14日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 制度の概要

(1)後期高齢者医療制度における医療給付の概要

平成20年度から実施されている後期高齢者医療制度は、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき、各都道府県の区域内における全ての市町村が加入して設立された後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)が、当該都道府県の区域内に住所を有する被保険者である後期高齢者(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して医療給付を行うものである。

後期高齢者医療制度の医療給付において、医療機関又は薬局(以下「医療機関等」という。)が後期高齢者に診察、治療等の診療や薬剤の支給等を行った場合には、広域連合及び後期高齢者がこれらの費用を分担して支払うこととなっており、その手続については次のとおりとなっている。

〔1〕 医療機関等は、診療や薬剤の支給等に要した費用を診療報酬又は調剤報酬として算定する。そして、この診療報酬等のうち、患者負担分については、後期高齢者に対して請求し、残りの診療報酬等については、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書に、診療報酬等の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、審査支払機関である各都道府県単位で設立されている国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)を通じて、広域連合に対して請求する。

〔2〕 請求を受けた広域連合は、被保険者資格、請求金額等の点検を行った上で、国保連合会を通じて、医療機関等に対してその支払を行う。

そして、広域連合における支払の財源については、原則として、国が12分の4、都道府県及び市町村がそれぞれ12分の1を負担し、残りの12分の6については、国民健康保険や被用者保険の保険者が納付する後期高齢者支援金及び後期高齢者の保険料で賄うこととなっている。

(2)後期高齢者医療高額医療費負担金の概要

貴省は、広域連合に対して各種の国庫助成を行っており、その一つとして、後期高齢者に対する高額な医療給付の発生による広域連合の財政負担を緩和するために、後期高齢者医療高額医療費負担金(以下「高額医療費負担金」という。)を交付している。

高額医療費負担金の交付額については、後期高齢者医療給付費等国庫負担金交付要綱(平成24年厚生労働省発保0405第3号。以下「交付要綱」という。)等に基づき、次のとおり算定することとなっている。

〔1〕 当該年度における後期高齢者が同一の月にそれぞれ一の病院等について受けた療養に係る費用の額(以下「療養に係る費用」という。)を算出する。

〔2〕 療養に係る費用の発生事由が第三者の行為によって生じた場合に発生する損害賠償金の額等の合計額(以下「収入」という。)を算出する。

〔3〕 〔1〕 の療養に係る費用から〔2〕 の収入を控除した額が80万円を超えるものの当該超える部分の額を算出して、この合計額(以下「国庫負担基本額」という。)に所定の率を乗じて得た額の4分の1に相当する額を高額医療費負担金の交付額とする。

貴省は、上記の収入の控除について、過年度の療養に係る費用に対する収入がある場合にも、広域連合では当該収入を考慮した減額調整(以下「過年度収入額調整」という。)を行う必要があるとしているが、交付要綱等には、過年度収入額調整の具体的な内容及び方法に関する定めはない。

また、貴省は、交付要綱において、高額医療費負担金の事業実績報告書に添付する精算書の様式を定めており、広域連合は、この精算書の「支出額」欄、「収入額」欄及び「国庫負担基本額」欄に所要の金額を記載するなどして、高額医療費負担金の精算額を算定することになっている。

高額医療費負担金の交付手続については、次のとおりとなっている。すなわち、交付を受けようとする広域連合は都道府県に交付申請書を提出し、これを受理した都道府県はその内容を審査した上で、貴省に提出する。貴省は交付申請書に基づき交付決定を行い、広域連合に高額医療費負担金を交付する。そして、交付を受けた広域連合は当該年度の終了後に都道府県に事業実績報告書を提出し、これを受理した都道府県はその内容を審査した上で、貴省に提出し、貴省は事業実績報告書に基づき交付額の確定を行うこととなっている。

(3)広域連合における国庫負担基本額の算出

ア 療養に係る費用のうち80万円を超える部分の額の合計額の算出

貴省は、21年1月に、広域連合に対して、高額医療費負担金の交付申請額の算定に当たっては、後期高齢者医療制度の円滑な施行に資することを目的として開発された後期高齢者医療広域連合電算処理システム(以下「標準システム」という。)のレセプト抽出機能(一定点数を超えるレセプトを抽出してその点数を超える部分の合計額を算出するなどの機能。以下同じ。)を利用して、療養に係る費用のうち80万円を超える部分の額(以下「対象超過額」という。)の合計額を算出(以下「抽出処理」という。)するよう通知している。

標準システムにおいて、レセプトは電算管理番号、レセプトの状態を示す状態区分コード等を付して管理されている。そして、レセプトの提出後に、医療機関等からの取下げ依頼、広域連合の点検に基づく被保険者資格の相違等の事由により医療機関等にレセプトが返戻された場合には、当該レセプトの状態区分コードは、返戻の状態にあることを示す返戻コードに変更される。また、返戻されたレセプトが医療機関等から再提出された場合には、当該レセプトには新たな電算管理番号が付され、当初提出のレセプトとは別個のレセプトとして管理されることになる。

そして、抽出処理に当たっては、返戻コードに変更されたレセプトはその対象から除外されることになっているが、広域連合がレセプトの点検後、国保連合会に対して返戻の申出を行ってから実際に状態区分コードが返戻コードに変更されるまでには、通常、2か月から3か月の事務処理期間を要している。また、当初のレセプト提出時から長期間が経過した後に医療機関等から取下げ依頼が行われる場合には、当初の提出時から相当の期間を経て状態区分コードが返戻コードに変更されることになる。このため、抽出処理を行う時点等によって抽出結果が異なることとなる。

イ 療養に係る費用からの収入の控除

レセプト抽出機能では、療養に係る費用から収入を控除した額が80万円を超えるかどうかについて判定することはできない。このため、広域連合がレセプト抽出機能を利用して国庫負担基本額を算出する場合には、対象超過額が発生しているレセプトに対する収入の有無を把握する必要がある。そして、収入がある場合には、療養に係る費用から収入を控除した額が80万円を超えるかどうかを判定した上で控除すべき額を個別に算出して、その合計額を対象超過額の合計額から控除することが必要となる。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、広域連合における高額医療費負担金の算定は適切に行われているかなどに着眼して、34都道府県に所在する34広域連合(注1)において、22年度から24年度までの間に交付された高額医療費負担金計888億3231万余円を対象として、事業実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行った。

(注1)
34広域連合  北海道、青森県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、富山県、石川県、福井県、山梨県、岐阜県、静岡県、三重県、滋賀県、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、島根県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県各後期高齢者医療広域連合

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)対象超過額を重複して算出している事態

貴省は、広域連合に対して、対象超過額の合計額の算出に当たってはレセプト抽出機能を利用するよう通知しているのに、対象超過額の年度合計額を算出する具体的な方法については示していなかった。

そして、34広域連合は、レセプトの提出を受けた月ごとに抽出処理を行ってその1年度分を当該年度の対象超過額の合計額としていたり、事業実績報告書を提出する際に年1回の抽出処理を行っていたりするなどしていた。

しかし、レセプトの提出を受けた月ごとに抽出処理を行っている場合には、ある月に抽出処理の対象とされたレセプトが医療機関等に返戻された後、当該年度内又は翌年度以降に医療機関等から再提出されると、再提出されたレセプトは当初提出のレセプトとは別個のレセプトとして管理されることから、再提出後に再度、抽出処理の対象となる。また、事業実績報告書を提出する際に年1回の抽出処理を行っている場合であっても、抽出処理を行った後に返戻されたレセプトが翌年度以降に医療機関等から再提出されると、再度、抽出処理の対象となる。

このようなことなどから、34広域連合は、対象超過額を当該年度内又は翌年度以降に重複して算出していた。

(2)療養に係る費用に対する収入があるのに、控除等を適切に行っていない事態

(ア)貴省は、広域連合に対して、対象超過額の合計額の算出に当たってはレセプト抽出機能を利用するよう通知しているのに、精算書の「支出額」欄及び「収入額」欄にどのような金額を記載して「国庫負担基本額」欄に記載すべき金額を算出するのかなど収入の控除の具体的な方法については示していなかった。このため、16広域連合(注2)は、当該年度の療養に係る費用に対する収入があることを把握しており、精算書の「収入額」欄にこれを記載するなどしていたのに、「国庫負担基本額」欄には抽出処理の結果である対象超過額の当該年度合計額を記載していて、収入の控除を適切に行っていなかった。

(イ)貴省は、広域連合に対して、過年度収入額調整の具体的な内容及び方法を示していなかった。このため、22広域連合(注3)は、過年度の療養に係る費用に対する収入があることを把握していたのに、過年度収入額調整を行っていなかった。

(注2)
16広域連合  北海道、青森県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、滋賀県、大阪府、兵庫県、鳥取県、島根県、香川県、福岡県、佐賀県、沖縄県各後期高齢者医療広域連合
(注3)
22広域連合  北海道、青森県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、三重県、滋賀県、大阪府、兵庫県、鳥取県、島根県、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県各後期高齢者医療広域連合

したがって、(1)及び(2)のことなどから、のとおり、34広域連合において、22年度から24年度までの間に、高額医療費負担金計13億4368万余円が過大に交付されていたと認められる。

表 広域連合別の過大交付額等

(単位:千円)
広域連合名 高額医療費負担金交付額 過大交付額 広域連合名 高額医療費負担金交付額 過大交付額
北海道広域連合 7,935,733 162,667 兵庫県広域連合 5,887,804 106,312
青森県広域連合 1,307,530 18,719 和歌山県広域連合 1,223,512 4,410
茨城県広域連合 2,359,798 36,166 鳥取県広域連合 779,094 30,528
栃木県広域連合 1,535,382 11,668 島根県広域連合 1,044,416 19,046
群馬県広域連合 1,782,272 21,372 広島県広域連合 3,161,212 8,567
埼玉県広域連合 5,000,175 32,226 山口県広域連合 1,915,880 8,098
東京都広域連合 3,945,768 70,766 香川県広域連合 1,215,209 22,600
神奈川県広域連合 6,794,656 159,719 愛媛県広域連合 1,762,011 44,134
富山県広域連合 1,235,514 2,125 高知県広域連合 1,287,763 8,147
石川県広域連合 1,371,597 13,543 福岡県広域連合 6,618,538 129,095
福井県広域連合 1,026,322 3,286 佐賀県広域連合 1,030,345 17,308
山梨県広域連合 779,330 7,310 長崎県広域連合 1,874,431 92,678
岐阜県広域連合 2,003,526 3,278 熊本県広域連合 2,055,396 2,509
静岡県広域連合 3,261,899 71,722 大分県広域連合 1,714,710 6,010
三重県広域連合 1,652,489 3,814 宮崎県広域連合 1,201,192 17,994
滋賀県広域連合 1,496,790 40,697 鹿児島県広域連合 2,284,490 4,823
大阪府広域連合 8,795,009 159,137 沖縄県広域連合 1,492,502 3,195
合計 88,832,311 1,343,685
(注)
東京都広域連合については平成24年度分である。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

大阪府後期高齢者医療広域連合は、平成23年度の高額医療費負担金の事業実績報告書の提出に当たり、同年度の対象超過額の合計額を64,729,310,747円と算出した上で、これに基づき同年度の国庫負担基本額を64,729,310,747円と算出し、高額医療費負担金の交付額を2,925,642,897円と算定していた。しかし、同広域連合は、レセプトの提出を受けた月ごとに抽出処理を行っていたため、レセプトが再提出された場合において対象超過額を当該年度内又は翌年度以降に重複して算出していた。また、当該年度及び過年度の療養に係る費用に対する収入があることを把握していたのに、当該年度の療養に係る費用から収入の控除を行っておらず、過年度収入額調整も行っていなかった。

そこで、抽出処理を行った後に返戻され、その後再提出されたレセプトについて、対象超過額が重複して算出されないようにした上で、当該年度及び過年度の療養に係る費用に対する収入を控除して23年度の国庫負担基本額を修正計算すると63,713,979,508円となり、高額医療費負担金の交付額は2,879,751,878円となる。

したがって、同広域連合の同年度における高額医療費負担金は、当初の交付額との開差額45,891,019円が過大に交付されていたと認められる。

(是正及び是正改善を必要とする事態)

以上のように、34広域連合において、レセプトが医療機関等に返戻され、その後再提出された場合に、対象超過額を当該年度内又は翌年度以降に重複して算出していたり、療養に係る費用に対する収入があるのに控除等を適切に行っていなかったりするなどしていて、国庫負担基本額が過大に算出されるなどしているため、高額医療費負担金が過大に交付されている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

  • ア 広域連合における高額医療費負担金の算定についての実態把握が十分でなく、標準システムのレセプト抽出機能を利用する場合において、対象超過額が重複して算出されることについての理解が十分でないこと
  • イ 広域連合に対して、精算書の各欄の記載方法を明確に示すなどして、収入の控除等を適切に行う方法について具体的な指導又は助言を行う必要があること、また、過年度収入額調整については交付要綱等にその具体的な内容及び方法に関する定めを設ける必要があることについての理解が十分でないこと

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

後期高齢者医療制度は、高齢者医療費の増大を背景として創設され、実施されているものであり、我が国の人口の高齢化に伴ってその役割がますます重要になってきていることなどから、その適正で公平な制度運用が強く求められている。

ついては、貴省において、過大な高額医療費負担金の交付を受けていた広域連合において適正な精算が行われるよう是正の処置を要求するとともに、広域連合において高額医療費負担金の算定が適正に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 返戻された後にレセプトが再提出された場合に対象超過額が重複して算出されないよう、事業実績報告書を提出する際に年1回の抽出処理を行うこととした上で、翌年度以降にレセプトが再提出された場合には事後に適切な調整を行うこととするなどの対応策を講ずるとともに、その対応策に基づき、都道府県を通じて、広域連合に対して具体的な指導又は助言を行うこと
  • イ 都道府県を通じて、広域連合に対して精算書の各欄の記載方法を明確に示すなどして、収入の控除等を適切に行う方法について具体的な指導又は助言を行うこと、また、過年度収入額調整については交付要綱等にその具体的な内容及び方法に関する定めを設けること