ページトップ
  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第9 厚生労働省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5)失業等給付金に係る不正受給返納金債権について、財産調査及び自力執行についての具体的な実施方法を示すなどして都道府県労働局等における債権管理が適切に行われるよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)雑収入
部局等
厚生労働本省、21労働局
不正受給返納金債権の債権管理の概要
国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号)等に基づき、失業等給付金の不正受給に係る返納金債権等について、督促状の送付、財産調査、自力執行等を行うなどして管理するもの
督促状の送付、財産調査及び自力執行を適切に行っていなかった債権(1)
2,791件(債務者1,613人、債権額 7億6496万円)
債権管理事務の引継ぎを適切に行っていなかった債権(2)
1,117件(債務者 608人、債権額 4億8279万円)
不納欠損としての整理を適切に行っていなかった債権(3)
338件(債務者 177人、債権額 1億3898万円)
(1)、(2)及び(3)の純計
3,744件(債務者2,133人、債権額11億8289万円)

【是正改善の処置を求めたものの全文】

失業等給付金に係る不正受給返納金債権の債権管理について

(平成26年10月30日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 債権管理の概要

(1)不正受給返納金債権に係る債権管理事務

貴省は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、雇用保険の被保険者に対して、その生活及び雇用の安定を図るなどのために、失業等給付金を支給している。

公共職業安定所(以下「安定所」という。)の調査や本院の会計実地検査により不正受給が判明した場合、安定所は、受給者に対して不正受給に係る給付金の返還等を命じ、安定所及び当該安定所を管轄する都道府県労働局(以下「労働局」といい、安定所と合わせて「労働局等」という。)は、不正受給に係る給付金の返納金債権と、不正受給に係る給付金のほかに給付金の額の2倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずる場合に発生する損害賠償金債権を管理している(以下、これらの返納金債権及び損害賠償金債権を合わせて「不正受給返納金債権」という。)。

都道府県労働局長(以下「労働局長」という。)は歳入徴収官として、また、公共職業安定所長(以下「安定所長」といい、労働局長と合わせて「労働局長等」という。)は特定分任歳入徴収官として、国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号。以下「債権管理法」という。)、歳入徴収官事務規程(昭和27年大蔵省令第141号)、「債権管理事務・徴収関係事務取扱要領」(平成23年職発0926第3号)等に基づいて、次のとおり不正受給返納金債権の債権管理を行うこととなっている。

〔1〕 給付金の返還等を命じた安定所長は、労働局長に債権の発生通知を行い、債権の発生通知を受けた労働局長は、債務者に対して納入告知書を送付する。

〔2〕 安定所は、不正受給返納金債権が完納されない場合、電話、文書の送付、呼出面談、訪問等により納付督励等を行い、これらの事跡を記録して管理する。そして、労働局長等は、債務者が労働局等の管轄外に転居した場合、経済的、効率的に納付督励等を行うために、転居地を管轄する労働局長等に債権管理事務の引継ぎを行う。

〔3〕 債務者が納付督励等に応じず、納入告知書を送付した後、相当期間を経過してもなお納付されない場合、労働局長は、安定所長からの要請により債務者に督促状を送付する。

〔4〕 労働局は、債務者に督促状を送付した後、相当期間を経過してもなお納付されない場合、国税滞納処分の例による財産の差押え(以下「自力執行」という。)を行うため、債務者の財産状況の調査(以下「財産調査」という。)を行う。

〔5〕 労働局は、財産調査の結果、自力執行を行うことができる財産のあることが判明した場合、自力執行を行う。

(2)不正受給返納金債権の消滅時効

不正受給返納金債権の消滅時効は、不正受給のあったときから2年となっており、納入の告知、債務者による一部納付等の債務承認、督促、自力執行等は、時効中断の効力を有するものとなっている。

債権管理法等によれば、歳入徴収官は、その所掌に属する債権が時効によって消滅することとなるおそれがあるときは、時効を中断するための必要な措置を執らなければならないこととされている。また、歳入徴収官は、消滅時効が完成したときは、直ちに不納欠損として整理しなければならないこととされている。

(3)債権の現在額の報告

債権管理法等によれば、歳入徴収官は、債務者の住所及び氏名、債権金額、履行期限等を債権管理簿に記載しなければならないこととされている。そして、債権管理簿に基づいた毎年度末における債権の現在額については、歳入歳出決算とともに、国会に報告されることになっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

不正受給返納金債権及び過誤払に係る返納金債権のうち、消滅時効が完成するなどして平成23年度から25年度までに不納欠損として整理された債権及び25年度末において管理されている債権の額は、全労働局で計58億2259万余円と多額に上っており、その大部分が不正受給返納金債権となっている。

そこで、本院は、合規性等の観点から、不正受給返納金債権の債権管理が債権管理法等に基づいて適正に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

検査に当たっては、北海道労働局等21労働局(注1)において、消滅時効が完成するなどして23年度から25年度までに不納欠損として整理された債権及び25年度末において管理されている債権計12,606件(債務者7,207人、債権額計38億4635万余円)を対象として、上記の21労働局及びその管内の安定所において債権管理簿等により債権管理の状況について確認するとともに、貴省本省において労働局等に対する指導の状況を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
21労働局  北海道、秋田、群馬、埼玉、東京、神奈川、新潟、富山、長野、静岡、愛知、大阪、兵庫、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、高知、福岡、大分各労働局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)から(3)までの事態には重複しているものがある。)。

(1)督促状の送付、財産調査及び自力執行を適切に行っていない事態

2,791件(債務者1,613人、債権額計7億6496万余円)

ア 督促状を送付していないもの

前記のとおり、債務者が納付督励等に応じず、納入告知書を送付した後、相当期間を経過してもなお納付されない場合、労働局長は、安定所長からの要請により債務者に督促状を送付することとなっている。督促は、時効中断の効力を有するものである一方、自力執行を行う前提となるものであり、督促状には、指定期限を過ぎて完納しないときは、直ちに自力執行を行う旨が明記されている。

しかし、北海道労働局等21労働局において、納入告知書を送付した後、相当期間が経過してもなお納付されていないのに、督促状を送付していなかったものが、消滅時効が完成していた債権のうち307件(債務者177人、債権額計8424万余円)、25年度末において管理されている債権のうち814件(債務者483人、債権額計2億1737万余円)見受けられた(自力執行を行うことができないこととなっている生活保護受給者等に対する不正受給返納金債権を除く。以下、イ及びウにおいて同じ。)。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

静岡公共職業安定所は、平成16年度に発生した不正受給返納金債権1,376,933円を管理している。当該債権の債務者は、18年3月の納入告知以降20年7月までは定期的に一定額を分割納付してきたが、20年8月以降納付が滞っていた。これに対し同安定所は、債務者に対して電話、訪問等による納付督励を試みていたものの、留守等のため債務者と連絡が取れない状況となっていた。

しかし、静岡労働局は、同安定所からの要請がなかったため、当該債務者に対して、督促状の送付を行っておらず、その結果、時効が中断されず、財産調査及び自力執行も行わないまま、22年7月に、残額1,052,504円の債権の消滅時効が完成していた。

イ 督促状を送付したものの財産調査を行っていないもの

前記のとおり、労働局は、債務者に督促状を送付した後、相当期間を経過してもなお納付されない場合、自力執行を行うため、財産調査を行うこととなっている。財産調査は、自力執行の実施又は実施の可否の検討に当たり必要不可欠なものであり、通常、金融機関に対して、債務者の預貯金口座の残高等を調査することが主な内容となっている。

しかし、北海道労働局等18労働局(注2)において、財産調査の実施方法についてのノウハウがないなどの理由から、督促状を送付した後、相当期間が経過してもなお納付されていないのに、財産調査を行っていなかったものが、消滅時効が完成していた債権のうち510件(債務者277人、債権額計1億7020万余円)、25年度末において管理されている債権のうち923件(債務者534人、債権額計2億3386万余円)見受けられた。

ウ 督促状の送付及び財産調査を行ったものの自力執行を行っていないもの

前記のとおり、労働局は、財産調査の結果、自力執行を行うことができる財産のあることが判明した場合、自力執行を行うこととなっている。

しかし、北海道労働局等11労働局(注3)において、財産調査を行ったものの自力執行の実施方法についてのノウハウがないなどの理由から自力執行を行っていなかったり、金融機関に対する調査を行っていないなど財産調査の内容が十分でなく、その結果、自力執行を行っていなかったりしていたものが、消滅時効が完成していた債権のうち91件(債務者52人、債権額計2306万余円)、25年度末において管理されている債権のうち146件(債務者90人、債権額計3619万余円)見受けられた。

(注2)
18労働局  北海道、秋田、群馬、埼玉、東京、神奈川、新潟、長野、静岡、愛知、大阪、兵庫、島根、岡山、山口、徳島、高知、福岡各労働局
(注3)
11労働局  北海道、埼玉、東京、神奈川、新潟、富山、静岡、愛知、大阪、兵庫、福岡各労働局

(2)債務者が管轄外に転居した場合の債権管理事務の引継ぎを行っていなかった事態

1,117件(債務者608人、債権額計4億8279万余円)

前記のとおり、労働局長等は、債務者が労働局等の管轄外に転居した場合、転居地を管轄する労働局長等に債権管理事務の引継ぎを行うこととなっている。

しかし、北海道労働局等19労働局(注4)において、債務者が管轄外に転居しているのに、労働局又はその管内の安定所が債権管理事務の引継ぎを行っておらず、遠隔地に転居した債務者に対して訪問等の方法による納付督励が十分に行われていなかったものが、消滅時効が完成していた債権のうち200件(債務者90人、債権額計1億1455万余円)、25年度末において管理されている債権のうち917件(債務者518人、債権額計3億6824万余円)見受けられた。

(注4)
19労働局  北海道、秋田、群馬、埼玉、東京、神奈川、新潟、富山、長野、静岡、愛知、大阪、兵庫、鳥取、岡山、山口、高知、福岡、大分各労働局

(3)消滅時効が完成した場合の不納欠損としての整理を直ちに行っていなかった事態

338件(債務者177人、債権額計1億3898万余円)

前記のとおり、歳入徴収官は、消滅時効が完成したときは、直ちに不納欠損として整理しなければならないこととなっている。

しかし、北海道労働局等10労働局(注5)において、消滅時効が完成してから1年以上不納欠損として整理されていなかった債権が338件(債務者177人、債権額計1億3898万余円)見受けられた。

そして、消滅時効が完成していて、不納欠損として整理しなければならないこれらの債権の債権額が、毎年度末における債権の現在額に含まれる結果となっていた。

(注5)
10労働局  北海道、秋田、群馬、東京、長野、静岡、愛知、兵庫、鳥取、福岡各労働局

(是正改善を必要とする事態)

以上のように、労働局等における不正受給返納金債権の債権管理において、督促状の送付、財産調査及び自力執行を適切に行っていない事態、債務者が管轄外に転居した場合の債権管理事務の引継ぎを行っていない事態及び消滅時効が完成した場合の不納欠損としての整理を直ちに行っていない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 貴省本省において
    • (ア)労働局等に対して、財産調査及び自力執行についての具体的な実施方法を示しておらず、督促状の送付、財産調査及び自力執行を適切に行うことについての指導が十分でないこと
    • (イ)労働局等に対して、債務者が管轄外に転居した場合の債権管理事務の引継ぎ及び消滅時効が完成した場合の不納欠損としての整理を適切に行うことについての指導が十分でないこと
  • イ 労働局等において、督促状の送付、財産調査、自力執行、債務者が管轄外に転居した場合の債権管理事務の引継ぎ及び消滅時効が完成した場合の不納欠損としての整理を適切に行うことに対する認識が欠けていること

3 本院が求める是正改善の処置

失業等給付金の支給は、今後も継続される貴省の重要施策の一つである。そして、不正受給返納金債権が発生した場合には、労働局等において、適切かつ効率的、効果的な債権管理を行うことにより、速やかに回収等を図っていく必要がある。

ついては、貴省において、労働局等における不正受給返納金債権の債権管理が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 貴省本省において
    • (ア)労働局等に対して、財産調査及び自力執行についての具体的な実施方法を示すとともに、督促状の送付、財産調査及び自力執行を適切に行うよう指導すること
    • (イ)労働局等に対して、債務者が管轄外に転居した場合の債権管理事務の引継ぎ及び消滅時効が完成した場合の不納欠損としての整理を適切に行うよう指導すること
  • イ 労働局等において、アに基づき、担当職員に対して、督促状の送付、財産調査及び自力執行、債務者が管轄外に転居した場合の債権管理事務の引継ぎ及び消滅時効が完成した場合の不納欠損としての整理を適切に行うよう周知徹底を図ること