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  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第9 厚生労働省|意見を表示し又は処置を要求した事項

(10)国民健康保険等における海外療養費の支給に当たり、被保険者が市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかの審査を行う必要があることについて都道府県を通じるなどして保険者等に対して周知するとともに、審査の具体的な方法等について技術的助言を行うことなどにより、海外療養費の審査等が適切なものとなるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
部局等
厚生労働本省
国の負担の根拠
国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
海外療養費の概要
海外渡航期間中に海外の病院等で診療等を受けた場合に支給される療養費
検査の対象
市区町294、後期高齢者医療広域連合43、計337保険者等
上記の保険者等において支給決定が行われた海外療養費の支給件数
26,879件(平成22年度~24年度)
上記に係る海外療養費の支給額
13億0446万余円
上記のうち国の負担額
4億2409万円(背景金額)

【改善の処置を要求したものの全文】

国民健康保険等における海外療養費の支給について

(平成26年10月30日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 制度の概要

(1)海外療養費の概要

貴省は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。以下「高齢者医療確保法」という。)等に基づき、市町村(特別区を含む。以下同じ。)、後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)等が行う保険給付に関する事務を所管している。

国民健康保険法及び高齢者医療確保法に基づき行われる保険給付には、保険者である市町村及び広域連合(以下「保険者等」という。)が被保険者に対して行う療養の給付等のほか、これに代えて被保険者に支給する療養費がある。

療養費は、保険者等が療養の給付等を行うことが困難であると認めるとき又は被保険者が保険医療機関等以外の病院等から診療、手当等を受けた場合において、保険者等がやむを得ないと認めるときに支給することができることとなっているものである。そして、海外渡航期間中に現地の病院等で診療等を受けた被保険者について当該療養費(以下「海外療養費」という。)の支給申請があった場合に、保険者等は、保険給付の一環として海外療養費(当該療養について算定した費用の額から被保険者の一部負担金等の相当額を控除した額)を支給することとなっている。

(2)海外療養費に係る国の負担

国民健康保険法における海外療養費の支給は、平成13年から行われているものである。そして、国民健康保険法及び高齢者医療確保法に基づく保険給付(海外療養費の支給を含む。以下同じ。)に係る国の負担については、次のとおりとなっている。

すなわち、市町村が行う国民健康保険の被保険者に対する保険給付については、国が当該給付額の41%(23年度以前は43%)を負担している。また、後期高齢者医療制度の被保険者に対する保険給付については、原則として、国が12分の4を、都道府県及び市町村がそれぞれ12分の1を負担しており、残りの12分の6を各保険者が納付する後期高齢者支援金及び被保険者の保険料で賄っている。さらに、国は、国民健康保険法に基づき、市町村等が保険者として納付する後期高齢者支援金の額の一部を負担している。

(3)海外療養費の支給決定の要件、手続等

国民健康保険法及び高齢者医療確保法によれば、国民健康保険及び後期高齢者医療制度の被保険者は、保険者等である市町村又は広域連合の区域内(以下「市町村等の区域内」という。)に住所を有する者、すなわち、市町村等の区域内に生活の本拠を有する者とされている。そして、保険者等は、被保険者について海外療養費の支給申請があった場合には、当該支給申請者が提出する療養費支給申請書、診療内容明細書、領収明細書等の関係書類(海外の病院等が発行又は記入した関係書類については、当該支給申請者から提出を受けた和訳文を含む。以下同じ。)について審査を行った上で、支給決定を行うことになっている。

また、保険者等が海外療養費の支給額を決定するに当たっては、被保険者が国内の保険医療機関等において同様の疾病等について療養の給付等を受けた場合を標準とすること、支給額について現に療養に要した費用の額を超えることができないことなどとなっている。このため、貴省は、国内の保険医療機関等において療養の給付等を受けた場合との公平を図る見地から、海外療養費の算定に当たっては標準となる額を算定することが必要となるとしている。そして、海外療養費の支給額は、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(昭和33年厚生省告示第177号。以下「算定基準」という。)等に基づき算定した額(以下「標準額」という。)と被保険者が実際に海外の病院等に対して支払った額(以下「実費額」という。)とを比較して低い方の額を選定した上で、当該額から被保険者の一部負担金等の相当額を控除した額とすることになっている。

(4)海外療養費の支給決定等の状況

国民健康保険及び後期高齢者医療制度における海外療養費の支給決定の状況は、表1のとおりとなっていて、支給件数及び支給額は年々増加傾向にあり、20年度分と24年度分を比較すると支給件数で約1.52倍、支給額で約1.49倍となっている。また、近年、国民健康保険における海外療養費の不正請求事案も発生している。

表1 海外療養費の支給決定の状況

年度等
制度
平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度
支給件数 支給額
(千円)
支給件数 支給額
(千円)
支給件数 支給額
(千円)
支給件数 支給額
(千円)
支給件数 支給額
(千円)
支給件数 支給額
(千円)
国民健康保険 15,091 514,317 18,220 657,277 20,187 613,642 21,508 673,644 21,974 675,013 96,980 3,133,893
後期高齢者医療制度 919 47,341 1,464 92,283 2,048 117,162 2,164 135,301 2,369 166,279 8,964 558,366
16,010 561,658 19,684 749,560 22,235 730,804 23,672 808,945 24,343 841,292 105,944 3,692,259

このようなことから、貴省は、25年12月に、海外療養費の支給に当たっては被保険者の海外渡航の事実や当該渡航期間内に診療が行われたことなどを確認するよう、都道府県を通じて保険者等に通知している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、近年、海外療養費の支給件数及び支給額は増加傾向にある。そこで、本院は、合規性等の観点から、海外療養費の支給に当たり審査は適切に行われているか、また、支給額の算定は適切に行われているかなどに着眼して、43都道府県(注)の294市区町及び43広域連合の計337保険者等において会計実地検査を行った。そして、22年度から24年度までの間に支給された海外療養費について、療養費支給申請書等の関係書類により検査した。

(注)
43都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(検査の結果)

検査したところ、294市区町及び43広域連合における22年度から24年度までの間の海外療養費の支給申請等の状況は表2のとおりとなっており、支給申請件数27,188件のうち不支給決定が行われたものが計309件見受けられた。

表2 海外療養費の支給申請等の状況

支給等
年度
支給申請件数 支給件数 支給額(千円) 不支給件数
平成22年度 7,508 7,432 361,774 76
23年度 8,424 8,337 426,278 87
24年度 11,256 11,110 516,409 146
27,188 26,879 1,304,461 309

この309件について不支給決定の理由を確認したところ、主な理由は支給申請の対象としていた費用が健康診査等の保険給付の対象外であることなどとなっていた。また、309件のうち、保険者等における審査の結果、被保険者の海外渡航の期間が約1年4か月であることなどから、市町村等の区域内に生活の本拠を有する者でないことを不支給決定の理由としていたと考えられるものは、1市における14件以外には見受けられなかった。

そして、貴省は、従来、被保険者の海外渡航の期間及び理由、渡航期間中の居住実態等を確認することなどにより、当該被保険者が市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかについて審査を行う必要があることについて、保険者等に通知したことはないとしている。

そこで、294市区町及び43広域連合において22年度から24年度までの間に支給決定が行われた海外療養費の計26,879件に対する保険者等の審査の状況について更に検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)海外療養費の支給に当たり、被保険者の生活の本拠についての審査が行われていた事績を確認することができない事態

上記26,879件の海外療養費13億0446万余円(国庫負担金相当額4億2409万余円)の審査に当たり、保険者等が診療等を受けた被保険者のパスポート(写し)の提出を求めるなどして海外渡航の期間について確認していたものは計2,421件、1億1358万余円のみとなっていた。

そして、これらの2,421件に係る海外渡航の期間等の状況については、表3のとおり、1年以上2年未満であるものが支給件数2,421件の12.9%、2年以上であるものが同じく5.3%、計18.2%となっているなど海外渡航の期間が長期にわたっており、市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかに特に留意して審査を行う必要があると認められる者が相当数見受けられる状況となっていた。

しかし、保険者等において、これらの海外療養費の支給に当たり、海外渡航の期間については把握しているのに、併せて海外渡航の理由、渡航期間中の居住実態等を確認することなどにより当該被保険者が市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかの審査を行っていた事績については確認することができない状況となっていた。

表3 海外渡航の期間等の状況

海外渡航の期間 支給件数 構成比
(%)
支給額
(千円)
構成比
(%)
6か月未満 1,236 51.1 72,876 64.2
6か月以上1年未満 743 30.7 26,631 23.4
1年以上2年未満 313 12.9 11,214 9.9
2年以上 129 5.3 2,864 2.5
2,421 100 113,587 100
(注)
支給額は、表示単位未満を切り捨てているため、各欄の数値を合計しても全体数欄の数値と一致しない。

また、前記26,879件の海外療養費のうち、前記の2,421件を除く24,458件、11億9087万余円(国庫負担金相当額3億8812万余円)については、保険者等において、海外渡航の期間を確認していたかどうかも明らかでなかった。このため、海外渡航の期間及び理由、渡航期間中の居住実態等を確認することなどにより市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかの審査を行っていた事績については確認することができない状況となっていた。

<事例1>

滋賀県草津市の被保険者であるAは、海外渡航期間中の平成21年2月20日から22年5月24日までの間に現地の病院等で診療等を受けたとして、22年7月8日、同市に療養費支給申請書、診療内容明細書、領収明細書等を海外から郵送で提出し、海外療養費の支給を申請していた。また、Aは、22年5月24日から23年7月18日までの間の診療分については23年10月11日に、23年10月17日から24年10月8日までの間の診療分については24年11月22日にそれぞれ同市に支給を申請していた。そして、同市は、Aに対してこれらの海外療養費計35件、687,011円(国庫負担金相当額231,080円)を支給していた。

しかし、上記のとおり、21年2月から24年10月までの間にAが国内に滞在していた期間はほとんどないと思料されるのに、同市は、当該海外療養費の支給に当たり、Aにパスポート(写し)の提出を求めるなどしておらず、Aの海外渡航の期間を確認していたかどうかも明らかでなかった。このため、海外渡航の期間及び理由、渡航期間中の居住実態等を確認することなどによりAが同市内に生活の本拠を有する者であるかどうかの審査を行っていた事績については確認することができない状況となっていた。

(2)海外療養費の支給に当たり、標準額の算定を行うことなく支給額を決定していた事態

前記のとおり、海外療養費の支給額の決定に当たっては、標準額と実費額とを比較して低い方の額を選定することになっており、標準額の算定については算定基準によるなどとなっている。しかし、算定基準は、診療報酬点数等を記載しているもので、標準額の算定方法を記載しているものではないのに、貴省は、標準額の具体的な算定方法を保険者等に示していなかった。

そこで、保険者等における海外療養費の支給決定の状況について検査したところ、標準額の算定を行うことなく実費額に基づき海外療養費の支給額を決定するなどしていたものが、97市区町及び16広域連合において、22年度から24年度までの間に計7,348件、3億9654万余円(国庫負担金相当額1億2706万余円)見受けられ、前記の海外療養費の支給件数26,879件の27.3%、同じく支給額13億0446万余円の30.3%となっていた。

<事例2>

兵庫県後期高齢者医療広域連合の被保険者であるBは、海外渡航中に現地の病院で診療を受けたとして、平成25年1月28日、同広域連合に療養費支給申請書、診療内容明細書、領収明細書等を提出し、海外療養費の支給を申請していた。

しかし、同広域連合は、当該海外療養費の支給に当たり、標準額の算定を行うことなく、Bが現地の病院に対して支払ったとする実費額3,319,186円(外貨を日本円に換算した額)からBの一部負担金相当額995,756円を控除した2,323,430円(国庫負担金相当額290,846円)を海外療養費の支給額として決定していた。

このほか、同広域連合において、上記と同様、標準額の算定を行うことなく実費額に基づき海外療養費の支給額を決定していたものが、22年度から24年度までの間に計264件、35,660,716円(国庫負担金相当額5,184,245円)見受けられた。

(改善を必要とする事態)

このように、海外療養費の支給に当たり、被保険者が市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかについての審査が行われた事績を確認することができない状況となっていたり、標準額の算定を行うことなく実費額に基づき支給額を決定していたりしている事態は、市町村等の区域内に生活の本拠を有しない者に対して海外療養費が支給されるおそれや、被保険者が国内の保険医療機関等において療養の給付等を受けた場合との公平を欠くなどのおそれがあることから適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のようなことなどによると認められる。

  • ア 貴省において、保険者等における海外療養費の支給、審査の実態等について十分把握していないなどのため、保険者等に対して、海外療養費の支給に当たっては、被保険者が市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかの審査を行う必要があることについて周知しておらず、また、審査の具体的な方法等についての技術的助言を行っていないこと
  • イ 貴省において、保険者等に対して、海外療養費の支給額の算定のために必要となる標準額の算定方法を具体的に示していないこと、また、保険者等において、標準額の算定方法についての理解が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

国民健康保険及び後期高齢者医療制度は、我が国の社会保障制度において重要な役割を果たしているもので、適正な制度運用が強く求められていることから、海外療養費の支給についても制度の適正かつ公平な運用を図る必要がある。

ついては、貴省において、海外療養費の支給に当たり適切な審査等が行われるよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 保険者等に対して、都道府県を通じるなどして、海外療養費の支給に当たってはパスポート(写し)の提出を受けるなどして被保険者の海外渡航期間を確認するほか、その理由、渡航期間中の居住実態等についても併せて確認することなどにより、当該被保険者が市町村等の区域内に生活の本拠を有する者であるかどうかの審査を行う必要があることについて周知するとともに、審査の具体的な方法等について技術的助言を行うこと
  • イ 保険者等に対して、都道府県を通じるなどして、海外療養費の支給額の算定のために必要となる標準額の算定方法を具体的に示すとともに、その周知徹底を図ること