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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第10 農林水産省 |
  • 不当事項 |
  • 補助金 |
  • (1)工事の設計が適切でなかったなどのもの

排水路の設計が適切でなかったもの[農林水産本省](260)(261)


(2件 不当と認める国庫補助金 47,525,797円)

  部局等 補助事業者等 間接補助事業者等 補助事業等 年度 事業費 左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費 不当と認める国庫補助金等相当額
            千円 千円 千円 千円
(260) 農林水産本省 長野県
(事業主体)
地域自主戦略交付金 23~25 68,869 37,878 59,089 32,499
(261) 島根県
(事業主体)
23 36,722 22,033 25,044 15,026
(260)(261)の計 105,592 59,911 84,133 47,525

これらの交付金事業は、2県が、排水路として、工場製作されたL型ブロック等を用いてU型の水路を築造するなどしたものである。

2県は、上記排水路の設計を「土地改良事業計画設計基準・設計「水路工」」(農林水産省農村振興局制定。以下「設計基準」という。)等に基づき行っていた。設計基準によれば、水路の安定を図るために、水路背面の地下水位(以下「周辺地下水位」という。)による水路の浮上に対する検討として、水路の自重と土圧により水路背面に作用する摩擦力とを合わせた下向きの鉛直力を、周辺の地下水による上向きの鉛直力である揚圧力で除した値が、当該水路の目的、規模等を考慮して定めた安全率(1.1~1.2)以上となることを確認することとされている。また、設計を行う際に用いる地下水位(以下「設計地下水位」という。)については、周辺地下水位が水路側壁の高さ(以下「壁高」という。)の2分の1より高く、かつ、水路側壁の下部に水抜きを設置する場合は、壁高の2分の1の位置とすることとされている。

しかし、2県は、本件排水路の設計において、上記により、設計地下水位を壁高の2分の1の位置として浮上の検討を行う必要があったのに、十分な検討を行うことなく、設計地下水位を水路側壁の下部に設置した水抜きの位置に設定して計算した結果、自重等による下向きの鉛直力を周辺の地下水による揚圧力で除した値が安全率を上回っていることから、安定計算上安全であるとして、これにより施工していた。

そこで、改めて設計地下水位を壁高の2分の1と設定して、水路の浮上に対する検討を行ったところ、本件排水路は、自重等による下向きの鉛直力を揚圧力で除した値が安全率を大幅に下回っているなどしていて、安定計算上安全とされる範囲に収まっておらず、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る交付金相当額計47,525,797円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、長野県において水路の設計における設計地下水位の設定についての理解が十分でなかったこと、島根県において委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

長野県は、千曲市埴科5期地区において、既設排水路の通水能力不足を解消するなどのために、新たに排水路(延長計86m)を築造していた。この排水路は、工場製作されたL型ブロック(高さ2.3m、幅1.45m)を左右に配置して側壁とし、その間を鉄筋で連結した上でコンクリートを打設して底版(厚さ29㎝、幅3.6m)とするなどしたU型の水路となっていた(参考図参照)。

同県は、本件工事の設計を設計コンサルタントに委託しており、排水路の浮上の検討を行う際に、設計コンサルタントと設計地下水位について協議していたが、同県は、設計基準によらずに、十分な検討を行うことなく、周辺地下水位を過去に実施した1か所のボーリング調査の結果により、壁高の2分の1より低い位置と想定して、設計地下水位を水抜きの位置(底版上面から40㎝上部)に設定していた。

しかし、過去に本件工事実施箇所の周辺で実施したボーリング調査の結果を確認したところ、複数箇所で地下水位が本件水路における壁高の2分の1より高い位置となっていた。したがって、このような場合、安全性を確保するため周辺地下水位を壁高の2分の1より高いものとし、また、水抜きを設置していることから、設計地下水位を壁高の2分の1の位置に設定する必要があった。そこで、改めて設計地下水位を壁高の2分の1(底版上面から115㎝上部)として、浮上の検討を行ったところ、自重等による下向きの鉛直力を揚圧力で除した値が0.78となり、安全率1.2を大幅に下回っていた。

したがって、本件排水路(工事費相当額計59,089,327円、交付金相当額計32,499,129円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(参考図)

U型水路概念図

U型水路概念図 画像