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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第10 農林水産省|本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2)農業・食品産業強化対策整備交付金事業等における費用対効果分析について、総事業費の範囲や算出方法を具体的に示すなどして、適切に実施させるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業・食品産業強化対策費
(項)牛肉等関税財源畜産振興バイオマス利用対策費
部局等
農林水産本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
8道県
間接補助事業者
(事業主体)
19法人等
補助事業
農業・食品産業強化対策整備交付金事業、食料自給率向上・産地再生緊急対策交付金事業、地域バイオマス利活用整備交付金事業、産地再生関連施設緊急整備事業
補助事業の概要
農畜産物の高品質・高付加価値化、低コスト化、食品流通の合理化等、地域における生産から流通・消費までの対策を総合的に推進するもの
費用対効果分析が適切に実施されていなかった事業費相当額
154億6689万余円(平成21年度~25年度)
上記に対する交付金等相当額
65億2804万円(背景金額)

1 農業・食品産業強化対策整備交付金事業等における費用対効果分析の概要

(1)農業・食品産業強化対策整備交付金事業等の概要

農林水産省は、食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)に基づき新たに策定された食料・農業・農村基本計画(平成12年3月閣議決定)により、消費者・実需者ニーズを踏まえた国産農畜産物の安定的供給体制の構築を図るために、産地としての持続性を確保し、収益力を向上するための取組の推進、安全・安心で効率的な市場流通システムの確立等に取り組むこととしている。

そして、農林水産省は、上記の取組として、「強い農業づくり交付金実施要綱」(平成17年16生産第8260号農林水産事務次官依命通知。以下「要綱」という。)等に基づき、農畜産物の高品質・高付加価値化、低コスト化、食品流通の合理化等の対策等を実施する農業公社等の事業主体に補助金等を交付する都道府県に対して、農業・食品産業強化対策整備交付金等(以下、これらの交付金等により事業主体が実施する事業を「交付金等整備事業(注1)」という。)を交付している。

(注1)
交付金等整備事業  農業・食品産業強化対策整備交付金事業、農業・食品産業競争力強化支援事業、産地生産拡大プロジェクト支援事業、広域連携アグリビジネスモデル支援事業、産地収益力向上支援事業、経営体育成交付金事業、農山漁村6次産業化対策事業、産地活性化総合対策事業、戦略作物生産拡大関連施設緊急整備事業、新規就農総合支援事業、食料自給率向上・産地再生緊急対策交付金事業、輸出対応型生産・出荷施設緊急整備事業、競争力強化生産総合対策事業、地域バイオマス利活用整備交付金事業、産地再生関連施設緊急整備事業、東日本大震災農業生産対策交付金事業

要綱等によれば、事業主体は、交付金等整備事業の実施に当たって事業実施計画を策定し、同計画において、当該交付金等整備事業に係る費用対効果分析等を行うこととされている。そして、事業主体は事業実施計画を都道府県等に提出することとされており、提出を受けた都道府県等は採択要件に適合していることなど、その内容について必要な審査、指導等を行うこととされている。

(2)交付金等整備事業における費用対効果分析の概要

要綱等によれば、交付金等整備事業を実施する場合に、事業主体は、「強い農業づくり交付金及び農業・食品産業競争力強化支援事業等における費用対効果分析の実施について」(平成17年16生産第8452号農林水産省総合食料局長、生産局長、経営局長通知。以下「分析指針」という。)に基づき、費用対効果分析を行うこととなっている。そして、当該施設等の整備による全ての効用によって全ての費用を償うことが見込まれること、すなわち、分析指針に定められた次の算定式により算定した投資効率が1を上回っていることなどが事業の採択基準とされている。

投資効率={(年総効果額÷還元率(注2))-廃用損失額(注3)}÷総事業費

(注2)
還元率  将来発生する効果額を現在価値に換算するための社会的割引率及び整備される施設等の耐用年数から算出したもの
(注3)
廃用損失額  事業の実施に伴い、財産処分され、又は事業の目的以外に転用される既存の施設等の残存価格

そして、上記の算定式のうち、総事業費については、費用対効果分析の対象事業のみにより効果の種類ごとの年効果額を合算した年総効果額が算出できる場合には、事業実施計画に示されている事業費を計上し、当該事業以外の事業、施設等の年効果額が含まれる場合には、当該事業実施計画の事業費に、他の事業、他の施設等に係る事業費を加えて、年効果額の発生に係る施設等の総事業費とすることとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

交付金等整備事業は毎年多数に上っており、今後も継続して実施されることが見込まれることから、予算の効果的な執行を図るために、交付金等整備事業の採択に当たり、費用対効果分析を適切に行うことが重要である。

そこで、本院は、有効性等の観点から、事業主体が行う費用対効果分析において、投資効率の算定が分析指針の趣旨に沿って適切に行われているかなどに着眼して、12道県(注4)管内の計57事業主体において、平成21年度から25年度までの間に費用対効果分析が行われた交付金等整備事業88事業(注5)(交付対象事業費計213億1466万余円、交付金等計91億0220万余円)を対象として、事業実施計画書、投資効率の算定に係る資料等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注4)
12道県  北海道(十勝総合、根室両振興局)、茨城、群馬、静岡、兵庫、島根、広島、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注5)
交付金等整備事業88事業  生産局畜産部が所掌する農業・食品産業強化対策整備交付金事業、食料自給率向上・産地再生緊急対策交付金事業、輸出対応型生産・出荷施設緊急整備事業、競争力強化生産総合対策事業、地域バイオマス利活用整備交付金事業、産地再生関連施設緊急整備事業において実施された事業数

(検査の結果)

検査したところ、検査の対象とした57事業主体の88事業のうち8道県(注6)管内の計19事業主体が実施した45事業(注7)(交付対象事業費相当額計154億6689万余円、交付金等相当額計65億2804万余円)において、次のような事態が見受けられた。

(注6)
8道県  北海道(十勝総合、根室両振興局)、静岡、兵庫、広島、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注7)
45事業  農業・食品産業強化対策整備交付金事業、食料自給率向上・産地再生緊急対策交付金事業、地域バイオマス利活用整備交付金事業、産地再生関連施設緊急整備事業において実施された事業数

上記の19事業主体が実施した45事業の事業実施計画における年総効果額には、当該交付金等整備事業の実施による年効果額に加えて、自己資金等により導入した建物、建物附属設備、農業機械・器具等の年効果額も含まれていたにもかかわらず、19事業主体は、これらの事業費を総事業費に含めていなかった。

これらの自己資金等により導入した施設等に係る事業費について、事業実施計画の事業費に対する割合をみると、45事業のうち半数を超える32事業が10%を超えており、中には50%を超えるものも見受けられた。そして、45事業について、総事業費にこれらの施設等の事業費を含めるなどして投資効率を試算したところ、上記の32事業のうち22事業が1を下回る結果となった(注8)

(注8)
年総効果額については、事業主体が事業実施計画において算出した額をそのまま用いており、本件補助事業以外の事業により整備した施設等に係る年効果額については、同計画における年総効果額以外に発現する可能性があっても考慮していない。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

兵庫県内のA事業主体は、Aが所在する地域における受益農家の子牛の生産性向上等を目的として、平成24年度に、家畜飼養管理施設(牛舎)3棟を農業・食品産業強化対策整備交付金事業により事業費8365万余円(交付金3560万余円)で整備するとともに、これとは別の家畜飼養管理施設2棟等を22年度から24年度にかけて自己資金等(9450万余円)により整備していた。そして、この事業に係る費用対効果分析において、年総効果額については当該補助事業及び自己資金等により整備した家畜飼養管理施設5棟で生産して育成した子牛の販売額等から生産・育成等に要する経費を差し引くなどした額とし、総事業費については当該補助事業で整備した3棟のみに係る経費等として、投資効率を1.84と算定していた。しかし、Aは、自己資金で整備した家畜飼養管理施設で生産して育成した子牛の販売額を年総効果額に含めていたのに、これに係る事業費を総事業費に含めていなかった。そこで、Aが算出した年総効果額と当該事業費を含めた総事業費とを用いて投資効率を試算すると、投資効率は0.61となる。

このように、多数の事業主体が、費用対効果分析における投資効率の算定において、年総効果額に当該交付金等整備事業以外の事業で整備した施設等の年効果額を含めていたのに、これらの事業費を総事業費に含めずに投資効率の算定が行われていて、農畜産物の高品質・高付加価値化等を推進するために重要となる交付金等整備事業の採択が適正に行われないおそれがある事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業主体において費用対効果分析の適切な実施に対する理解が十分でなかったこと、道県において分析指針の趣旨に対する理解が十分でなく、費用対効果分析の内容を十分に精査していなかったこと、農林水産省において総事業費の範囲や算出方法を具体的に明示していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、26年10月に、都道府県に通知を発して、交付金等整備事業の費用対効果分析における総事業費の範囲等を明示するとともに、要綱等の内容について周知徹底を図る処置を講じた。