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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 第12 国土交通省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5)京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約の促進に当たり、フィーダー機能強化事業の実施状況を踏まえ、新たに実施する国際戦略港湾競争力強化対策事業について、事業計画の審査等を的確に行うなどして事業が効果的に実施されるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省 (項)総合的物流体系整備推進費
部局等
2地方整備局
フィーダー機能強化事業の概要
国内広域から京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約を促進するために、内航フィーダー輸送等に係る運営業務を委託する事業
検査の対象とした事業
12事業(平成21年度~25年度)
上記の事業に係る委託費
44億7788万余円
目標輸送量の達成率が低調となっているなどした事業
6事業(平成21年度~25年度)
上記の事業に係る委託費
15億4298万円

【意見を表示したものの全文】

国内広域から京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約の促進に係る事業について

(平成26年10月28日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約の促進に係る事業の概要

貴省は、日本の港と海外の港の間を海上輸送するコンテナ貨物のうち、一旦日本以外の東アジア主要港において大型コンテナ船に積み替えるなどして輸出入するコンテナ貨物の輸送経路(以下、東アジア主要港を経由した輸送を「東アジアトランシップ」という。)を、京浜港(東京、川崎、横浜各港)及び阪神港(大阪、神戸両港)を経由した経路に転換することなどを目的として、国内広域から京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約を促進するなどの施策を実施している。

この施策の一環として、近畿地方整備局は、平成21年度から25年度までの間に、西日本諸港から阪神港へ、また、関東地方整備局は、23年度から25年度までの間に、東日本諸港から京浜港へそれぞれコンテナ貨物の集約を促進する事業として、内航フィーダー輸送(注)のための航路を新規開設等する内航船社を対象として、内航フィーダー輸送に係る運営業務を委託する事業(以下「内航フィーダー機能強化事業」という。)を計10事業実施している。

さらに、関東地方整備局は、21年度から25年度までの間に、東日本諸港から京浜港へコンテナ貨物の集約を促進する事業として、新たな鉄道フィーダー輸送サービスを構築する鉄道運送事業者を対象として、鉄道フィーダー輸送に係る運営業務を委託する事業(以下「鉄道フィーダー機能強化事業」という。)を2事業実施している(以下、内航フィーダー機能強化事業と鉄道フィーダー機能強化事業を合わせて「フィーダー機能強化事業」という。)。

フィーダー機能強化事業は、事業開始当初に十分なコンテナ貨物が集貨されないリスクを軽減するために、おおむね3年間を事業実施期間として実施するものであり、関東、近畿両地方整備局(以下「2地方整備局」という。)は、受託を希望する者が提出した企画提案書等を審査するなど企画競争により事業者を選定している。

上記の企画競争実施における委託業務説明書によれば、フィーダー機能強化事業を受託した内航船社や鉄道運送事業者は、事業実施期間終了後も2年間にわたって同等内容の輸送業務を実施(以下、この期間を「自主継続期間」という。)しなければならないとされ、また、各年度の委託費は、〔1〕 内航船社等がフィーダー輸送等に要した事業支出の額から事業収入の額を控除した額、〔2〕 地方整備局が算定した限度額のうち、いずれか低い金額とされている。

(注)
フィーダー輸送  コンテナ貨物の輸送のうち、荷主企業の工場等と大型コンテナ船が寄港する主要港湾のコンテナターミナルとの間の輸送をフィーダー輸送という。フィーダー輸送には内航船による内航フィーダー輸送、鉄道による鉄道フィーダー輸送等がある。

また、事業者は、提出した企画提案書において、事業計画として事業実施期間及び自主継続期間に係る年度別の輸送可能量や目標輸送量を設定しているほか、事業実施期間中に貨物輸送量を増加させていき、自主継続期間において事業収支を黒字化して自立的に事業を運営していくこととしている。

貴省は、22年より実施している国際コンテナ戦略港湾政策において、日本の港を発着するコンテナ貨物のうち東アジアトランシップにより輸送するコンテナ貨物の割合(以下「東アジアトランシップ率」という。)を、20年の約10%から27年までに半減すること、32年までに京浜、阪神両港を東アジア主要港として選択される港湾にすることなどの目標を設定しており、前記のフィーダー機能強化事業計12事業のうち、23年度以降に実施した8事業(内航フィーダー機能強化事業7事業、鉄道フィーダー機能強化事業1事業)は、これらの目標を達成するための施策の一環として実施されているものである。

さらに、貴省は、京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約を促進する事業を引き続き実施していくために、26年度以降、フィーダー機能強化事業に代わって、国土交通大臣が港湾法(昭和25年法律第218号)に基づき指定する京浜、阪神両港の港湾運営会社に対して、集貨事業等に係る経費の一部を補助する国際戦略港湾競争力強化対策事業を実施することとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

貴省は、京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約を促進する事業を継続して実施しており、これまでに実施されてきた事業の成果、課題等を十分に検証することは、今後実施される事業の計画及び実施に当たり重要であると考えられる。

そこで、本院は、有効性等の観点から、国内広域から京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約の促進に係る事業が効果的に実施されているかなどに着眼して、2地方整備局が21年度から25年度までの間に委託費を支払ったフィーダー機能強化事業12事業、委託費計44億7788万余円を対象として、2地方整備局において、各事業の企画提案書、事業報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)事業の実施状況及び事業計画の審査等の状況

ア 輸送量の状況等

フィーダー機能強化事業で実施された12事業の中には、輸送実績が好調となっていて、これまで内航フィーダー輸送では就航実績のなかった大型のコンテナ船が新たに投入されたり、地方港への新規寄港が行われたりするなど、国内のフィーダー輸送網の強化に寄与していると思料される事業も見受けられた。

しかし、事業計画における各年度の目標輸送量に対する輸送実績の割合をみると、のとおり、事業実施期間の最終年度の目標達成率が50%を下回っていて、輸送実績が低調となっている事業が6事業(委託費計15億4298万余円)見受けられた。そして、上記6事業の中には、事業実施期間の最終年度において、事業支出が事業収入を大幅に上回っている事業もある状況となっていた。

このことから、これらの6事業については、国内広域から京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約を促進するという事業の目的に照らして、効果が十分に発現していない状況となっていた。

表 フィーダー機能強化事業における輸送量の状況等

番号 輸送方式 事業主体 フィーダー機能強化事業名 年度 事業
実施期間
注(1)
〔1〕 輸送可能量
(TEU/年)
注(2)
〔2〕 目標輸送量
(TEU/年)
〔3〕 輸送実績
(TEU/年)
〔4〕 目標達成率
(〔3〕 /〔2〕 )
(%)
〔5〕 輸送実績に対する空コンテナの割合
1 内航フィーダー 近畿地方整備局 瀬戸内海における阪神港を利用したバージによる内航フィーダー輸送強化モデル事業実施業務 平成21 12,000 2,750 706 25.6 27.0
22 14,400 5,900 1,901 32.2 27.3
23 14,400 8,800 1,436 16.3 41.7
24 14,400 11,700 1,851 15.8 65.2
25 14,400 13,000 1,304 10.0 55.2
2 瀬戸内海以外の港湾と阪神港との内航フィーダー輸送強化モデル事業実施業務 21 9,984 960 156 16.2 75.0
22 19,968 3,072 731 23.7 27.6
23 19,968 4,944 874 17.6 35.5
24 19,968 7,872 1,162 14.7 60.8
25 19,968 8,064 241 2.9 41.0
3 関東地方整備局 京浜港における海上コンテナ貨物の内航フィーダー輸送モデル事業委託業務(その2) 23 4,900 720 687 95.4 100.0
24 4,900 1,080 120 11.1 100.0
25 注(3) 4,900 2,280 14 0.6 100.0
26 4,900 3,600
27 4,900 3,840
4 近畿地方整備局 瀬戸内海の新規輸送網構築による阪神港への内航フィーダー輸送強化モデル事業実施業務 23 32,400 9,817 8,001 81.5 74.1
24 65,312 29,949 13,325 44.4 70.2
25 65,312 43,423 15,124 34.8 62.7
26 65,312 48,331
27 65,312 48,984
5 瀬戸内海の既存内航フィーダー航路網を活用した九州諸港と阪神港間の内航フィーダー輸送強化モデル事業実施業務 24 14,976 6,560 642 9.7 100.0
25 29,952 14,848 4,998 33.6 83.4
26 59,904 48,000
27 59,904 58,752
6 鉄道フィーダー 関東地方整備局 京浜港における海上コンテナ貨物の鉄道フィーダー輸送モデル事業委託業務(新潟港等日本海側ルート) 23 160 3 1.8
24 1,260 295 23.4
25 1,920 408 21.2
26 3,120
27 3,840
注(1)
〇は事業実施期間、※は自主継続期間を示す。
注(2)
EU  twenty‐foot equivalent unitの略。長さの異なるコンテナの合計取扱量を計算するため、長さ20フィート(6.1m)のコンテナに換算した場合のコンテナ個数の単位。
注(3)
平成25年度については、当初は事業実施期間とされていたが、24年度の輸送実績等を踏まえ、委託契約が締結されていない。

6事業の事業者は、前記のとおり輸送実績が低調となっている理由について、東アジア主要港利用の経路と比べて価格競争力が劣ることなどから事業計画どおりに京浜港又は阪神港を経由した経路に転換が進まなかったためなどとしていた。一方、6事業の事業計画をみると、各事業者は、目標輸送量の設定に当たって、具体的な荷主を特定していなかったり、荷主は想定しているものの輸送の可否等は今後荷主と協議することとしていたりするなど目標輸送量の具体的な根拠が明確に示されていない状況となっていた。

フィーダー機能強化事業は、新規航路等を開設等するための事業であり、事業計画の段階で新規航路等を利用する荷主を具体的に特定することなどには困難な面もあると思料されるが、事業計画において荷主が特定できない場合であっても、2地方整備局においてこれに代わる目標輸送量の設定の具体的な根拠を事業計画に記載させてこれを十分に確認することが重要である。

しかし、前記6事業の事業計画においては、目標輸送量の具体的な設定根拠等が記載されておらず、2地方整備局は、これらの確認を十分行っていなかった。

イ 輸送内容の状況等

前記の6事業について、全輸送実績のうち空コンテナの輸送実績の割合をみると、表のとおり、事業実施期間において80%を超える事業が2事業(表の番号3及び5の事業)見受けられた。そして、これらの2事業について、事業者は、主として地方の港湾において輸出用のコンテナを確保するために、京浜、阪神両港から地方の港湾に空コンテナを輸送するものであるとしていた。一方、上記の2事業においては、荷詰めされたコンテナの京浜、阪神両港を経由する輸送実績が非常に少ないことから、本件事業によって輸送された輸出用の空コンテナの大半は、地方の港湾で荷詰めされた後、京浜、阪神両港を経由せず直接海外に輸送されている可能性が高く、輸送内容と東アジアトランシップ率を半減するという政策目標との整合性が十分確認できないものとなっていた。

したがって、輸送の大部分が空コンテナの輸送となるような事業の場合は、輸送内容と政策目標との整合性に関する根拠を事業計画に具体的に記載させてこれを十分に確認することが重要である。

しかし、前記2事業の事業計画においては、輸送内容と政策目標との整合性に関する根拠が具体的に記載されておらず、2地方整備局は、これらの確認を十分行っていなかった。

(2)事業報告書における事業の実施状況の把握

フィーダー機能強化事業は、事業者への委託事業であり、貴省として、事業の実施状況の詳細を把握して、的確な事業の評価等に資するとともに、今後実施する事業の計画及び実施等に適切に反映していくことが重要である。

しかし、近畿地方整備局が23年度から25年度までの間に実施した2事業(表の番号4及び5の事業)のうち、24年度の事業については、仕様書において事業の実施状況の詳細等を記載した事業報告書の作成を求めておらず、輸送実績が低調となっている理由や事業継続に向けた課題が的確に把握できないものとなっていた。

また、上記の2事業については、25年度の仕様書においても事業報告書の作成を求めていなかったが、近畿地方整備局では、上記の指摘を踏まえてこれを作成させることとして、26年3月に提出を受けていた。

(改善を必要とする事態)

京浜、阪神両港へのコンテナ貨物の集約を促進する事業については、(1)のとおり、事業計画の審査等に当たり、目標輸送量を設定した具体的な根拠や輸送内容と政策目標との整合性に関する十分な根拠を事業計画に記載させておらず、これらを十分に確認していなかったり、(2)のとおり、的確な事業評価等に資するための事業報告書の提出を求めていなかったりしている事態はいずれも適切ではなく、26年度からの国際戦略港湾競争力強化対策事業の実施に当たってこのような事態が生じないよう、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、フィーダー機能強化事業は、新規航路等の開設当初に十分なコンテナ貨物が集貨されないという事業本来のリスクに負うところにもよるが、2地方整備局において次のことなどによると認められる。

  • ア 事業計画の審査等に当たり、目標輸送量等の設定の具体的な根拠を十分に確認することや輸送内容と政策目標との整合性を十分に確認することの重要性についての理解が十分でないこと
  • イ 事業報告書を作成させることにより事業の実施状況の詳細を把握して、事業の評価や今後実施する事業の計画及び実施等に反映することの重要性についての理解が十分でないこと

3 本院が表示する意見

政府は、「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月閣議決定)、経済財政運営と改革の基本方針2014(平成26年6月閣議決定)、総合物流施策大綱(平成25年6月閣議決定)等において、京浜、阪神両港を国際競争力を強化するための重要なインフラと位置付けて、京浜、阪神両港への貨物集約を図るなどとしている。そして、フィーダー機能強化事業の中には、国内のフィーダー輸送網の強化に寄与していると考えられる事業も見受けられ、これらの京浜、阪神両港への貨物集約の促進は、我が国の国際競争力を強化するための重要な取組の一つとされていることから、貴省においては、より効果的に事業を実施していくことが重要である。

ついては、貴省において、フィーダー機能強化事業の実施状況を踏まえ、26年度から実施される国際戦略港湾競争力強化対策事業が効果的に実施されるよう次のとおり意見を表示する。

  • ア 事業の成果指標となる目標数量や輸送内容と政策目標との整合性等の具体的な根拠を事業計画に記載させるなどして事業計画の審査等を的確に行うことを検討すること
  • イ 事業の実施状況等を十分把握できるような事業報告書を作成させることにより、事業の的確な評価や今後実施する事業の計画及び実施に反映することを検討すること