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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果|第2節 団体別の検査結果|第91 日本下水道事業団|本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

下水道事業における終末処理場等の設計に当たり、基礎杭とく体の底版との結合部について地震時における所要の安全度が確保されたものとなるよう改善させたもの


科目
(受託業務勘定) (項)受託工事業務費
部局等
日本下水道事業団本社、東日本、西日本両設計センター
終末処理場等の基礎杭の設計の概要
下水道事業における終末処理場等の土木構造物の基礎杭とく体の底版との結合部について、常時及び地震時における所要の安全度を確保するよう設計するもの
基礎杭について所要の安全度が確保されていない終末処理場等の施設数及び工事費
41施設 156億4609万円(平成24、25両年度にしゅん功したもの)
上記の終末処理場等の結合部及びその上部く体等に係る直接工事費
41億9716万円

1 設計の概要

(1)下水道事業における終末処理場等の設計の概要

日本下水道事業団(以下「事業団」という。)は、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき下水道事業を実施する地方公共団体の委託を受けて、下水道施設の建設及び維持管理等の業務を実施している。

事業団は、下水道事業における終末処理場、ポンプ施設、これらに付属する工作物等(以下「終末処理場等」という。)の建設に当たって、事業団自らが作成した「構造物設計指針」(以下「事業団設計指針」という。)に基づき設計することとなっているほか、「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編)、これを補完する「杭基礎設計便覧」(社団法人日本道路協会編。以下「杭基礎便覧」という。)等を設計上の準拠基準として位置付けて設計することとなっている。

(2)下水道事業における終末処理場等の設計の概要

杭基礎便覧によれば、終末処理場等の土木構造物の基礎杭とく体の底版との結合方法(以下「結合方法」という。)は、く体の底版に基礎杭を一定の長さだけ埋め込み、埋め込んだ基礎杭により外力に抵抗させる方法(以下「杭埋込方法」という。)又はく体の底版に基礎杭を埋め込む長さを最小限(10㎝)にとどめ、主として鉄筋で補強した杭頭部(以下、杭頭部を補強する鉄筋を「杭頭補強鉄筋」という。)により外力に抵抗させる方法(以下「杭頭補強方法」という。)のいずれかによることとされている。

そして、上記の結合方法については、事業団設計指針において、杭埋込方法は杭頭部の埋込部分が長くなることで、く体の底版が厚くなり経済性に劣ることなどから、原則として杭頭補強方法を採用することとなっている。

また、杭基礎便覧及び事業団設計指針においては、基礎杭として外殻鋼管付きコンクリート杭(以下「SC杭」という。)を用いる場合の基礎杭とく体の底版との結合部(以下「結合部」という。)の杭頭補強方法については、参考図のように、〔1〕 杭頭補強鉄筋として杭頭部の外周に杭外周溶接鉄筋を配置する方法、〔2〕 杭頭補強鉄筋として杭頭内部に中詰め補強鉄筋を配置する方法が示されている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、事業団が地方公共団体から委託を受けて実施した終末処理場等の建設工事のうち、基礎杭としてSC杭を用いた工事について、設計上の準拠図書としている杭基礎便覧等に基づく設計が行われているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、事業団の本社及び東日本、西日本両設計センターにおいて、平成24、25両年度にしゅん功した計41施設(工事費計156億4609万余円)を対象として、設計計算書、契約関係書類等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

杭基礎便覧は、19年1月に改訂されており(以下、改訂された杭基礎便覧を「19年改訂の杭基礎便覧」という。)、常時及びレベル1地震動(注1)時に杭頭部を含む底版内部の所定の断面においてコンクリート及び鉄筋に生ずる応力度(注2)が許容応力度(注2)以下であることを確認する安全度の照査(以下「安全度の照査」という。)に当たって、考慮すべき杭頭補強鉄筋は中詰め補強鉄筋だけとされ、杭外周溶接鉄筋については、く体の底版に10㎝しか埋め込まない杭頭部への溶接であるなど著しく施工性が劣ることから、想定した品質が確保されない可能性があるとして考慮しないこととされていた。

事業団は、前記の41施設について、事業団設計指針に基づき、結合部の安全度の照査を行っていたが、設計に用いた事業団設計指針に19年改訂の杭基礎便覧の内容を反映させていなかった。

そして、前記の41施設については、19年改訂の杭基礎便覧により結合部の安全度の照査に当たり考慮しないこととされた杭外周溶接鉄筋のみを杭頭補強鉄筋として配置していたり、杭外周溶接鉄筋だけでは不足する鉄筋量に対して中詰め補強鉄筋を併用したりして杭頭補強鉄筋の設計を行い、施工していた。

このため、上記の41施設(結合部及びその上部く体等に係る直接工事費計41億9716万余円)について、19年改訂の杭基礎便覧に基づき、杭外周溶接鉄筋を考慮せずに改めて結合部の安全度の照査を行うと、41施設全てについてレベル1地震動時における所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

このように、地方公共団体から委託を受けて実施した終末処理場等の建設工事について、19年改訂の杭基礎便覧の内容が反映されていない事業団設計指針に基づき結合部の設計を行っていたため、地震時における所要の安全度が確保されていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(注1)
レベル1地震動  終末処理場等の供用期間中に発生する確率が高い地震動をいう。
(注2)
応力度・許容応力度  「応力度」とは、材に外力がかかったときに材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいう。その数値が設計上許される上限を「許容応力度」という。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、事業団において、19年改訂の杭基礎便覧の内容を事業団設計指針に反映させることについての認識が欠けていたことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、事業団は、26年6月に、事業団設計指針を改訂して19年改訂の杭基礎便覧の内容を反映させるとともに、設計センター等に対して事務連絡を発して、事業団設計指針の改訂及び杭基礎便覧等の準拠基準が改訂された際には、その内容を検討して、適時適切に事業団設計指針に反映していく旨を周知する処置を講じた。

また、事業団は、26年9月に、前記の41施設及びこれらの施設と同様に設計し、施工した施設を引き渡した地方公共団体に対して事務連絡を発して、改訂前の事業団設計指針に基づき設計した施設に対する対策等を周知するなどの処置を講じた。

(参考図)

杭頭補強方法の概念図
杭頭補強方法の概念図 画像