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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 平成26年10月
  • 第2 検査の結果

年金記録問題に関する日本年金機構等の取組に関する会計検査の結果について


3 年金記録問題の再発防止に向けた体制整備の状況

(1) 機構における体制整備の状況等

ア 内部統制システムの構築等

年金記録問題発生の原因、組織の問題点等については、前記のとおり、国の各種委員会で調査、検証等を行っている。機構の設立に当たっては、これらの調査、検証等において指摘された事項に対応する必要があることから、日本年金機構業務方法書(平成22年1月1日方針第3号)第16条第1項において、理事長その他役員(監事を除く。)及び職員の職務執行が機構法その他の法令に適合することを確保するなどのための体制を構築するとともに、継続的にその改善を図ることとされている。このため、機構は、①コンプライアンス確保、②業務運営における適切なリスク管理、③業務の有効性・効率性の確保、④適切な外部委託管理、⑤情報の適切な管理・活用、⑥業務運営及び内部統制の実効的な監視及び改善、⑦ITへの適切な対応といった7つの方針を柱とした「内部統制システムの構築の取組方針」(平成22年1月1日方針第4号。以下「取組方針」という。)等を定め、これに基づき、次のような内部統制システムを構築している。

(ア) コンプライアンス確保

コンプライアンス確保に関して、検証委員会から、多くの職員は年金記録の誤りが相当あることを漠然と認識していたが、これらについて定量的に把握・検証・補正を行う組織的な取組が行われなかったことなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、社会保険庁における上記の指摘を踏まえた取組を引き継ぎ、法令遵守委員会を改組したコンプライアンス委員会や機構内外の法令違反通報窓口を設置したり、法務・コンプライアンス部(26年3月以前はリスクコンプライアンス部。以下同じ。)を設置したりして、調査や再発防止の指示業務に迅速に対応するなどの新たな取組を行っている(図表3-1参照)。

図表3-1 コンプライアンス確保に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • 多くの職員は年金記録の誤りが相当あることを漠然と認識していたが、これを定量的に把握・検証・補正する組織的な取組が行われなかった。
  • 外部弁護士の参画の下での法令違反に対する通報制度の設立
  • お客様の声、事務処理誤りの報告等の伝達ルールを明確化し、法令違反通報以外の方法でもコンプライアンス問題事案を把握
  • 大きな金額を扱う機関として、不正防止・不正摘発を専門的に処理する相応の体制の不備があった。
  • コンプライアンス委員会及び法務・コンプライアンス部の設置
  • 内部職員の不正を防止し、発生時にはこれを厳しく摘発していくための仕組みが必ずしも十分でなかった。
  • 日本年金機構コンプライアンス規程(平成22年1月1日規程第6号)及び日本年金機構役職員行動規範(平成22年1月1日方針第5号)の策定
  • 保険料の領収書があるのに、社会保険庁側に記録がないという問題が生じており、その原因の一つとして、職員等の横領行為があるのではないかとの疑念が生じている。
  • 全役職員を対象とするコンプライアンス研修等を様々な機会を捉えて実施
(イ) 業務運営における適切なリスク管理

リスク管理に関して、検証委員会から、誤りの定量的な把握及び統計分析、チェック体制の検証・評価等を行うことなどが重要であることなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、事務処理誤りの報告やリスクアセスメント調査の実施等によりリスク情報を的確に把握、分析、評価等するなどの取組を行っている(図表3-2参照)。

図表3-2 業務運営における適切なリスク管理に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • 多くの職員は年金記録の誤りが相当あることを漠然と認識していたが、これを定量的に把握・検証・補正する組織的な取組が行われなかった(再掲)。
  • オンライン記録の誤記入等については、①誤りの定量的な把握及び統計分析、②データの入力方法及びチェック体制の検証・評価、③防止対策等の検討・改善を行うことなどが重要
  • 継続的な業務活動のための組織全体としてのサイクル(PDCA(Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善))サイクル)を確立していなかったことが、横領等事案を繰り返し生じさせた一因
  • 大きな金額を扱う機関として、不正防止・不正摘発を専門的に処理する相応の体制の不備があった(再掲)。
  • お客様の声、事務処理誤り報告等の伝達ルールを明確化、継続的なリスクアセスメント調査の実施によりリスク情報を的確に把握
  • 把握したリスクを分析・評価等し、リスク管理委員会の審議結果を踏まえた上で対応策を検討・改善
  • 日本年金機構リスク管理規程(平成22年1月1日規程第7号)に機構のリスク管理に関する基本的事項を定め、毎年度の基本的な方針を規定したリスク管理プログラムを作成し、これに基づき適切なリスク管理の取組を推進
  • リスク管理委員会を設置しリスク管理に関する事項を組織横断的に審議、また、「事務リスク」及び「システムリスク」の担当部署を設置して分析、評価、審議、指示等の業務を実施
(ウ) 業務の有効性・効率性の確保

業務の有効性・効率性の確保に関して、検証委員会から、統一的な業務マニュアルが示されず、各社会保険事務所等において独自の事務処理が行われることがあったこと、記録誤りについての定量的な把握が十分でなかったことなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、社会保険庁が上記の指摘を踏まえて作成した全国統一の業務処理マニュアルを精緻化し、これに基づいて業務処理を行うことを徹底し、また 「事務処理誤り総合再発防止策」を策定するなどし、て、事務処理誤りの再発防止に努めるなどの取組を行っている(図表3-3参照 )。

図表3-3 業務の有効性・効率性の確保に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • 統一的な業務マニュアルが示されず、各地方において独自の事務処理が行われることがあった。
  • 社会保険庁時代に左の検証結果等により作成された全国統一の業務処理マニュアルについて、判断基準、責任・権限の明確化等の精緻化を図った。
  • 日本年金機構業務管理規程(平成22年1月1日規程第8号)を策定し、業務処理マニュアルに基づく業務処理を行うことを徹底した。
  • 多くの職員は年金記録の誤りが相当あることを漠然と認識していたが、これを定量的に把握・検証・補正する組織的な取組が行われなかった(再掲)。
  • 年金記録の照会方法が社会保険事務所ごとに区々となっていた。
  • 二度目の相談で記録問題が判明するなど、当初の相談への対応が不十分だったと考えられる事例が見られた。
  • 年金事務所等からの事務処理誤りの再発防止に関する改善提案を踏まえ、「事務処理誤り総合再発防止策」を策定
  • 被保険者等の意見を機構の業務運営等に反映させるため、理事長の諮問機関である運営評議会を設置
  • サービスの質の向上、業務運営の改善等を図るため、サービス・業務改善委員会及びサービス推進部を設置
  • 継続的な業務活動のための組織全体としてのサイクル(PDCAサイクル)を確立していなかったことが、横領等事案を繰り返し生じさせた一因(再掲)
  • 厚生労働大臣が定める中期目標に沿って中期計画を定め、実績の評価を受けることで、継続的な業務活動のための組織全体としてのサイクルを確立
  • 業務の合理化・効率化を進めるため、業務改善工程表を策定して、これに基づき取組を推進
(エ) 適切な外部委託管理

外部委託管理に関して、検証委員会から、ソフトウェアの著作権が開発業者に帰属し、実質的に同一の開発業者しかプログラム改修が行えず、固定的な関係が継続されてきたことなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、日本年金機構システム調達要領(平成22年1月1日要領第40号)を定め、今後システム開発、管理、運用及び保守に関して機構が外部委託を行う場合は、契約書に「新たに作成される成果物に関する著作権はすべて機構に帰属し、外部委託先は著作者人格権(注19)を行使しない」といった知的財産の帰属に関する事項を明記するなどの取組を行っている(図表3-4参照)。

(注19)
著作者人格権  著作者が、著作物及びその題号について無断で修正したり、変更したりすることを禁止することができるなどの権利

図表3-4 適切な外部委託管理に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • ソフトウェアの著作権が開発業者に帰属し、実質的に同一の開発業者しかプログラム改修が行えず、固定的な関係が継続されてきたこと
  • 日本年金機構システム調達要領を定め、今後システム開発、管理、運用及び保守に関して機構が外部委託を行う場合は、契約書に「新たに作成される成果物に関する著作権はすべて機構に帰属し、外部委託先は著作者人格権を行使しない」といった知的財産の帰属に関する事項を明記
  • 一般競争入札を原則とした上で、業務品質の維持・向上が図られるように総合評価方式を活用
  • 調達委員会を設置して調達案件の事前審査を実施し、また、契約監視委員会を設置して調達後に契約内容の事後的審査を実施
  • 外部委託する業務の横断的な品質管理、分析及び評価を行う外部委託管理担当部署の設置
  • 日本年金機構外部委託規程(平成22年1月1日規程第10号)等を策定し、外部委託業務責任者等を定めて、外部委託を管理・監視
(オ) 情報の適切な管理・活用

情報の適切な管理・活用に関して、検証委員会から、組織内において情報を整理し、それを共有し、引継ぎを行っていくという基本的な作業が行われていなかったことなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、日本年金機構情報伝達規程(平成22年1月1日規程第11号)等を策定し、これらの規程に基づく情報の伝達、保存、管理及び活用を徹底し、また、業務引継実施要領(平成22年1月1日要領第21号)を策定するなどして、必要な情報を適切に継承するなどの取組を行っている(図表3-5参照 )。

図表3-5 情報の適切な管理・活用に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • 組織内において情報を整理し、それを共有し、引継ぎを行っていくという基本的な作業が行われていなかった。
  • 記録管理方式の変更の度に、それ以前の経緯を十分踏まえずに判断しており、過去の年金記録の管理に関する情報が全く引き継がれていないことが誤りを繰り返すことにつながった。
  • 日本年金機構情報伝達規程、日本年金機構文書管理規程(平成22年1月1日規程第12号)及び日本年金機構個人情報保護管理規程(平成22年1月1日規程第13号)を策定し、当該規程に基づく情報の伝達、保存、管理及び活用の徹底
  • 業務引継実施要領の策定、事跡管理システムの導入等により、必要な情報を適切に継承
  • 情報システム内部に記録された情報等の取扱いを定めたセキュリティーポリシーの策定
  • 個人情報の目的外閲覧に対しては、情報へのアクセスの監視の徹底、職場内研修の義務付け
(カ) 業務運営及び内部統制の実質的な監視及び改善

業務運営等の実質的な監視等に関して、検証委員会から、①監査が厳しく行われていないこと、②監査結果について書面で整理し、これを改善につなげる姿勢に欠けることなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、①日本年金機構内部監査規程(平成22年1月1日規程第14号。以下「内部監査規程」という。)等を策定し、理事長と直結した監査部門を設置して、重大な不正事案等については、後述する特別監査、無予告監査等を実施し、②監査結果について、定期的に理事会に報告するとともに、的確に業務改善につなげるよう、指摘事項のフォローアップを実施するなどの取組を行っている(図表3-6参照)。

図表3-6 業務運営及び内部統制の実質的な監視及び改善に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • 平成16年度までは指摘がなく監査が厳しく行われていない。
  • 横領等が発生しているにもかかわらず、特別監査が実施されていないケースがある。
  • 内部監査規程等を策定し理事長と直結した監査部門を設置し、機動的・効果的に本部機能として内部監査を実施
  • 監事の職務を補佐する監事室を設置
  • 重大な不正事案等の特別監査、無予告監査等を実施
  • 監査結果を書面で整理し、これを改善につなげる姿勢に欠けていた。
  • 業務監察について、15年度までは指摘内容や指摘事項の取りまとめや分析が行われておらず、業務上の問題の全体像が把握されていない。
  • 監査結果(指摘事項)について、定期的に理事会に報告するとともに的確に業務改善につなげるよう、指摘事項のフォローアップを実施
  • リスクアセスメント調査等の結果を基に、業務の分野別に監査のチェックリストを策定
  • 今後は年金記録に係るシステムや業務の外部監査の視点も重要である。
  • システムの信頼性等を確保するため、システム監査及びセキュリティー監査を実施
  • 業務について、適切な監査テーマを設定して、会計監査人等と連携して監査を実施
(キ) ITへの適切な対応

ITへの適切な対応に関して、検証委員会から、コンピュータシステムの開発・運用については、長期間にわたり特定の開発業者に依存してきたため、社会保険庁内部の人材育成が十分でないことなどが指摘されていた。

機構は、上記の指摘に対応するなどのため、システム担当理事(CIO)の設置、ITスキルを有する者の採用、システム部門職員を対象とした人材育成研修の実施等に取り組んでいる(図表3-7参照)。

図表3-7 ITへの適切な対応に関する検証委員会の主な検証結果と機構における主な取組

検証委員会の主な検証結果 機構における主な取組
  • コンピュータシステムの開発・運用については、長期間にわたり特定の開発業者に依存してきたため、社会保険庁内部の人材育成が十分でなく、システムの仕様等に係る意思決定を業者に依存している。
  • 社会保険庁自らが、システムの設計・評価・検証・改善を行う姿勢や意識を持つことができず、記録誤りの防止・減少のために必要な業務及びシステムの見直しの遅れにつながった。
  • システム担当理事(CIO)及びシステム部門(PJMO)を設置し、ITガバナンスの確立に向けた体制を整備
  • 機構自らが責任と主体性を持ってシステム開発に取り組むため、システム部門へのITスキルを有する者の採用、システム開発経験者等の配置、社内公募による登用、システム部門職員を対象とした人材育成研修の実施、IT関連資格の取得促進

機構の内部統制システムは、前記のとおり、年金記録問題に対する国の各種委員会の調査、検証等による指摘を踏まえるなどして、取組方針等に基づいて整備されている。しかし、公表資料等によれば、前記の厚生年金特例法の運用等における事務処理誤りのほかにも、前記の時効特例給付業務における事務処理が不統一となっていた問題への対応が遅れたことなど、内部統制システムが有効に機能していないと思料される事態が続いている。このようなことなどから、機構法第36条に基づき厚生労働大臣が毎年度実施している機構の業務実績の評価結果における「内部統制システムの構築に関する事項」の評価は、21年度から25年度まで常にC(年度計画をやや下回っている。)となっている。

イ 事務処理誤りに対する取組の状況等

年金記録問題は、一部の本人側の事情によるケースを除けば、事務処理誤りの問題と考えられる。このため、事務処理誤りを早期に把握してその改善を図るとともに、その拡大と再発を防止することは、年金記録問題の再発防止にとって有益であると考えられる。こうした観点からは、事務処理誤りに係る前記の内部統制システムが有効に機能することが重要である。

そこで、内部統制システムの構築の取組のうち、特に、事務処理誤りに関係する取組の状況について検査したところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 事務処理誤りに対するこれまでの取組

機構は、年金記録問題対策に対応する内部統制システムの構築の取組の一環として、前記の「事務処理誤り総合再発防止策」を22年7月に策定し、24年12月の改訂を経て、事務処理誤りの再発防止に取り組んでいる。具体的には、図表3-8のとおり、業務処理マニュアルの見直しや受付進捗管理システムの導入のほか、未処理届出書の確認・点検、マニュアル改正時における勉強会等を実施するなどしている。

図表3-8 事務処理誤り総合再発防止策の主な内容

年度 内容
平成
22年度
  • 届書の受付控えの交付対象の拡大、未処理届書の確認・点検の実施、マニュアル改正時などにおける勉強会の実施、ファックス送信誤りの防止、記録統合誤り防止の実施、老齢年金繰下げ意思確認書の実施
  • バーコードを活用した届書などの受付、届書の進捗管理を行う受付データ進捗管理システムの構築に向けて、業務要件などを検討し、基本計画書を策定
  • 「国民年金被保険者資格取得届にかかるシステム改善」を含む10件の基本計画書の策定
23年度
  • 国民年金被保険者資格取得届に係るシステム改善
  • 厚生年金保険適用関係届書に係る決定通知書等への社会保険労務士コードの印字
  • 20歳到達日直前での厚生年金保険取得時における入力システムの改善
  • 二以上事業所勤務被保険者に係る事務処理システムの改善
  • 裁定中表示の期間における資格取得届、資格喪失届の入力処理の改善
24年度
  • 旧三公社(日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社)共済・農林共済の誤裁定防止(期間重複チェック)
  • 資格取得届、算定基礎届及び月額変更届の処理結果リストの出力項目の追加
  • 受付進捗管理システムの導入
  • 送付物のダブルチェック及び確認後の確認印の押印
25年度
  • 事務処理誤り・ヒヤリハット事例集の作成
  • 二以上事業所勤務被保険者の事務処理を支援するツールの導入
  • 遡及記録(算定、賞与等)の補正処理の改善
  • 誤送付を防止するための送付用窓開封筒の作成
  • 受付や返戻等のルール及び受付システムの運用を見直し、届出書等の処理遅延・紛失の再発防止策の策定
毎年度
  • 職員や現場によって業務処理が異なることのないよう、全国統一的な業務の標準化を図るため、随時、業務処理マニュアルを改正
  • 業務処理マニュアルの徹底を図ることを目的として、ブロック本部のマニュアルインストラクター全員を対象とした研修を実施

(機構ホームページ等を基に会計検査院が作成)

また、日本年金機構業務管理規程に基づき 「事件・事故・事務処理誤り対応、要領」(平成22年1月1日要領第20号。以下「対応要領」という。)を策定し、機構の業務の実施に際して、事件・事故・事務処理誤りその他機構の適正な業務運営を阻害する事由が発生した場合の対応に関して必要な事項を定めている。

対応要領によれば、事務処理誤りが発生したとき、年金事務所等は、本部の品質管理部品質管理グループに、①原則として2日以内に第1報を、②顧客への対応等、事象への対応が完了した後は速やかに、再発防止を含む詳細な完了報告を行うこととされている。そして、品質管理グループ又は品質管理グループから指示を受けた本部関係部署は、法務・コンプライアンス部と協議の上、必要に応じて、当該事務処理誤りの再発防止に係る全国的指示を行うこととされている。

また、事務処理誤りのうち、被保険者、年金受給者、事業主等に著しい影響を与えるものなどについては、品質管理グループが公表資料を作成するなどして、その件数、影響金額等を公表することとなっている。

(イ) 事務処理誤りの発生状況

機構の資料によれば、22年1月の機構設立から、25年度末現在までの、事務処理誤りの判明件数は、図表3-9のとおり、21年度(22年1月から3月まで)410件、22年度2,834件、23年度3,582件、24年度3,972件、25年度4,208件の計15,006件となっている。

このうち、社会保険庁時代に発生し機構設立後に判明したものを除いた件数、すなわち、機構設立後に発生した事務処理誤りの判明件数は、それぞれ21年度(同)188件、22年度1,850件、23年度2,419件、24年度2,351件、25年度2,447件となっていて、おおむね横ばいであり、機構の取組に応じて事務処理誤りの件数が減少しているという傾向は確認できなかった。

図表3-9 事務処理誤りの判明件数等

(単位:件)
件数分類\判明年度 平成
21年度
22年度 23年度 24年度 25年度 合計
判明件数 410 2,834 3,582 3,972 4,208 15,006
うち社会保険庁時代分 222 984 1,163 1,621 1,761 5,751
うち機構設立後発生分
(判明件数のうち機構設
立後発生分の割合)
188
(45.9%)
1,850
(65.3%)
2,419
(67.5%)
2,351
(59.2%)
2,447
(58.2%)
9,255
(61.7%)
注(1)
平成21年度は22年1月から3月までの期間である。
注(2)
26年3月末現在で判明した件数である。

そして、機構が公表した近年の事務処理誤りの具体例をみると、次のとおり、再発防止の取組が十分に機能していないと思料される事態が判明している。

<機構が公表した事務処理誤りの具体例>

機構は、平成22年度から未処理届書の確認・点検を実施し、24年10月から受付進捗管理システムを導入するなどして届書の未処理・処理遅延防止を図っている。

しかし、25年1月、「日本年金機構へのご意見・ご要望メール」宛てに通報があったことにより兵庫事務センターの事務処理遅延等が判明し、その後、同年5月に行った全年金事務所等の総点検の結果、計1,312件の事務処理遅延、計76件の書類紛失及び計13件の添付書類の確認漏れが明らかとなった。これらの中には、受付進捗管理システム導入以降に発生したもので、同システムに未登録であったものや、登録したにもかかわらず進捗管理が不十分であったものも多数見受けられた。

そこで、機構は、受付した届書を受付進捗管理システムへ登録することを徹底すること、受付日から一定期間経過しても処理されていない届書を毎週1回管理職員が確認することにより再発を防止することとしていた。

しかし、同年10月及び11月の機構本部の内部監査等により、池袋年金事務所及び世田谷年金事務所において、前記の総点検で見受けられた処理遅延等と同様の原因により計291件の事務処理遅延と計4件の書類紛失が再び判明した。

また、対応要領によれば、事務処理誤りは「通知書等の記載誤り・誤送付、届書等の入力漏れ・入力誤り及び通知書・届書等の紛失、説明誤りなど被保険者、年金受給者、事業主等に影響を与える事務処理誤り。また、関係機関に対する情報提供誤り並びにその他これらに準ずる事務処理誤り」などとされている。このうち、未処理・処理遅延については、どの程度の期間、未処理又は処理遅延したときに事務処理誤りとして扱うかなどの目安がないため、結果として被保険者等からの問合せがあったときに初めて未処理・処理遅延として取り扱う場合があった。

このため、未処理や処理遅延となっても被保険者等にあまり影響のない事務、例えば、前記の厚生年金特例法に基づく納付勧奨の手続や国庫負担の手続等については、未処理・処理遅延の事態が生じていても、被保険者等からの問合せがほとんどないため、その多くを事務処理誤りとして取り扱っていなかった。

また、一部の年金事務所においては、対応要領等に基づき、上記の厚生年金特例法の運用における未処理・処理遅延について、品質管理グループに報告していたが、同グループは、報告件数が年間数件と少なかったことから、法務・コンプライアンス部と協議を行わず、結果として再発防止に係る全国的指示を行っていなかった。

(ウ) 事務処理誤り後の対応

機構の資料によれば、21年度から25年度までの間の事務処理誤りの影響金額は、図表3-10のとおり、機構から顧客への未払が約27.0億円、過徴収が約3.7億円、過払いが約13.6億円、未徴収が約9.9億円、誤還付が約0.5億円となっている。

図表3-10 事務処理誤りによる影響額

(単位:千円)
期間\区分 機構から顧客に支給等すべきもの 機構が顧客に返還等を求めるもの その他
未払 過徴収 過払い 未徴収 誤還付
平成21年度 30,077 35,579 56,769 9,329 2,855 115
22年度 365,445 95,142 326,971 164,785 31,759 98,031
23年度 610,615 56,194 254,290 110,228 2,893 113,742
24年度 557,219 56,210 239,626 51,532 7,744 295,943
25年度 1,144,284 132,929 488,220 663,718 7,668 328,252
2,707,640 376,054 1,365,876 999,592 52,919 836,083
注(1)
平成21年度は22年1月から3月までの金額である。
注(2)
1件の事務処理誤りに区分が混在するものは相殺せずにその他に計上した。

特別委員会は、報告書で、顧客が善意・無過失なのに、事務処理誤りという事由で不利益を被ることは回避されなければならないとする一方、顧客が本来受けるべきでない「もらい過ぎ分」などは、機構等の過失とはいえ、現行法の枠内での返還をお願いしないと他の顧客の負担が増えることにつながりかねないので、返還を求めるべきであるとしている。

また、未払については、前記のとおり、年金時効特例法に基づく時効特例給付により、消滅時効が完成した部分についても支給されるなどの特例的な措置が執られているものの、過払いについては、5年の消滅時効が完成した場合には、その返還請求ができないことから、その防止に努めるとともに、判明した場合は速やかに是正することが重要である。

そこで、機構が25年度に公表した事務処理誤りのうち、公表上の影響金額が300万円以上の過払いで、かつ、その発生年月日から判明年月日までの期間が5年を超える23事案について、時効による消滅の状況をみると、要返還額2億1287万余円のうち、1億3115万余円が時効により消滅していた。

そして、前記の理由から、過払いが明らかになった場合には、速やかに再裁定及び返納勧奨等の所定の手続を進め、納入告知を行うなどして時効を中断する必要があり、機構の指示依頼書(業務の実施に際し、機構内の関係部署に指示、依頼等する文書をいう。以下同じ。)によれば、過払いが明らかとなってから納入告知等までの期間は原則206日(年金受給者が勧奨開始時点で死亡している場合等は220日)とされている。しかし、過払いが判明した年度ごとに、25年度末現在で処理が完了していない過払いの件数をみると、21年度の2件、22年度の13件、23年度の19件、24年度の124件、25年度の517件が未完了となっていて、上記の指示依頼書で原則としている処理日数を超えるものも多数見受けられた(図表3-11参照) 。

図表3-11 25年度末における事務処理誤りの処理が未完了となっている過払いの件数

(単位:件)
件数分類\判明年度 平成21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
未完了件数 2 25 76 512 2,705 3,320
うち過払いの件数 2 13 19 124 517 675
注(1)
平成21年度は22年1月から3月までの期間である。
注(2)
26年3月末現在で判明した件数である。

さらに、透明性を確保し、公的年金制度等に対する国民の信頼を確保するなどの目的で公表している事務処理誤りの件数や影響金額等のうち事務処理誤りによる影響金額について、機構は、被保険者等に直接影響のある返納対象額等のみを計上することとしており、過払いしたもののうち時効により消滅した額は影響金額に含めないとしている。しかし、この時効消滅額も、年金給付のための貴重な財源から支払われたものであることから、これも公表することにより、透明性が高まり、国民の信頼の確保につながると思料される。

また、機構は、業務運営における適切なリスク管理のために、「リスク発生の頻度」と「リスク発生による影響度」の2つの評価指標を活用するなどしたリスクアセスメント調査を実施している。このうち、「リスクの発生による影響度」の評価には、前年度に発生した各業務における事務処理誤りの「影響金額」の平均値が活用されていて、時効消滅額が「影響金額」に含まれないことにより、時効消滅額がリスクの評価に考慮されていない状況となっていた。しかし、「リスク発生による影響度」に時効消滅額を反映するなどして、リスクを適切に評価等する必要がある。

このように、機構は、事務処理誤りの再発防止を目的として様々な取組を行っているが、これまでに明確な減少効果は確認できていない。また、厚生年金特例法に基づく納付勧奨の手続等の事務処理の問題を把握できず事態の拡大を防げなかったこと、また、影響金額に時効消滅額を含めていないことにより、リスクの過小評価につながるおそれがあると思料される。

したがって、機構は、今後も引き続き、対応要領等に沿って、事務処理誤りの再発防止を着実に進めた上で、被保険者等からの問合せを伴わない事務処理誤りも適時に把握して、関係部署間における適切な情報の共有に取り組むとともに、時効消滅額を考慮したリスク評価等を行うことについて検討する必要がある。

ウ 監事監査及び内部監査の体制整備等

年金記録問題の再発防止に向けて、内部統制システムが有効に機能しているかを検証する役割も担う内部監査等の機能は極めて重要である。

そこで、内部監査等の取組の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 監事監査の実施状況

機構は、監事監査を、厚生労働大臣が任命した監事2人(うち非常勤1人)と、それを補佐する直属の監事室の職員4人、計6人体制で実施しており、監事室の職員の独立性を保つため、人事異動、人事評価、懲戒処分等に関しては監事の同意を要することとしている。

監査の対象は、財務及び業務の状況となっており、日本年金機構監事監査規程(平成22年2月12日監事決定)により年次の監査計画等に基づき監事監査を実施することとなっている。

監査の方法には、理事会その他の重要な会議への出席や重要な文書の閲覧等の他、本部役職員に対するヒアリング監査と地方拠点へ訪問して行う監査があり、図表3-12のとおり21年度から25年度までの間の監査実績は延べ537人日、訪問監査を行った年金事務所等は80か所となっていた。

監査の結果は、監査報告書として理事長及び厚生労働大臣に提出され、ホームページで一般にも公表されている。また、監査の結果、是正又は改善が必要であると判断したときは、理事長又は厚生労働大臣にその旨の意見を提出するとともに、是正又は改善の状況について必要な確認を行うこととなっているが、これまで、監査報告書において指摘された事項はない。

図表3-12 監事監査の実績

方法 平成
21年度
22年度 23年度 24年度 25年度
役員ヒアリング日数 4日 2日 14日 14日 6日 40日
部長ヒアリング日数
注(2)
13日 29日 73日 73日 62日 250日
全369か所のうち訪問監査を行った年金事務所等 7か所 25か所 22か所 26か所 80か所
総人日数 39人日 68人日 154人日 150人日 126人日 537人日
注(1)
平成21年度は22年1月から3月までの期間である。
注(2)
ブロック本部長も含む。
(イ) 内部監査の実施状況

機構は、内部監査を、図表3-13のとおり、理事長直属の監査部において103人体制(25年4月1日現在)で行っており、監査担当者は独立性と客観性の観点から被監査部署等が行う業務に従事してはならないこととなっている。

図表3-13 内部監査担当者

(単位:人)
監査部内グループ 平成25年度定員 25年度首実人員
本部 監査企画、本部監査 25 25
ブロック 北海道監査 5 5
東北監査 9 7
北関東・信越監査 13 11
南関東監査 17 12
中部監査 13 9
近畿監査 13 11
中国監査 9 7
四国監査 5 5
九州監査 13 11
小計 97 78
122 103
(注)
実人員数が定員より少ないのは、監査部の定員枠を、年金記録問題対策の人員に充てているためである。

監査の対象は、機構の全ての組織が行う業務となっており、①機構の財務の状況に対する監査、②機構の業務の状況に対する監査、③機構が開発、管理及び運用する電子情報処理組織の当該開発、管理及び運用に対する監査等となっている。

内部監査規程によれば、機構の内部監査には、一般監査と特別監査があり、一般監査をあらかじめ定められた「監査計画」に基づいて実施し、機構の業務運営に重大な影響を与える事象が発生した場合等に監査部長の決定で特別監査を実施することとされている。

また、監査の実施に当たっては、原則として、事前に監査実施の日程等を通知することとなっているが、効率的な監査を行うために必要であると認めるときは、これを行わない無予告監査によることができることとなっている。

21年度から25年度までの間の内部監査の実績は、図表3-14のとおりであり、内部監査に要した延べ人日数については、21年度(22年1月から3月まで)390.0人日、22年度4,115.0人日、23年度5,642.5人日、24年度4,379.0人日、25年度4,341.5人日の計18,868.0人日、監査の結果、不備等を指摘された項目数については、21年度(同)459件、22年度5,274件、23年度3,072件、24年度6,088件、25年度4,661件の計19,554件となっていた。このうち、指摘された項目に対する改善状況等について監査するフォローアップ監査は、33か所で300.0人日実施しており、指摘項目は184件となっていた。

なお、年金事務所及び事務センターは、業務管理の状況を定期的に自ら確認することにより、事件、事故、事務処理誤り等を早期に発見し、また、それらを未然に防止する目的で、自主点検を毎月行っている。自主点検は、自主点検実施要領(平成22年4月1日要領第50号)に基づき、年金事務所長及び事務センター長のほか、年金事務所長等から指名された課室長等が自ら所掌する課室等を除いた業務について行い、領収書等の処理、管理状況等、定められた監査項目の前月の状況を毎月15日までに、是正措置、改善対応等と併せて監査部に報告するものである。そして、一般監査において、当該自主点検の結果についてその有効性の確認を行うこととなっている。

図表3-14 年度別内部監査の実績

①一般監査及び特別監査
監査の種類等 平成21年度 22年度 23年度 24年度 25年度




箇所数(箇所) - 77.0 43.0 39.0 53.0 212.0
指摘項目数(件) - 187.0 135.0 128.0 70.0 520.0
人日数(人日) - 388.0 405.0 309.0 540.0 1,642.0

[事前予告]
箇所数(箇所) 26.0 57.0 90.0 230.0 220.0 623.0
指摘項目数(件) 459.0 1,377.0 2,536.0 5,292.0 3,961.0 13,625.0
人日数(人日) 390.0 855.0 1,350.0 3,450.0 3,300.0 9,345.0
[無予告]
箇所数(箇所) - - - - 241.0 241.0
指摘項目数(件) - - - - 618.0 618.0
人日数(人日) - - - - 361.5 361.5




実施事由等 処理遅延、不適切な記録訂正事案の発覚を受け実施 保険料横領事件を受け同様の事象がないか確認 現金紛失事案を受け、建物の施錠及び金庫の管理状況等について無予告監査を実施 兵庫事務センターにおける事務処理遅延を受け実施
箇所数(箇所) - 359.0 311.0 160.0 1.0 831.0
指摘項目数(件) - 3,710.0 401.0 484.0 12.0 4,607.0
人日数(人日) - 2,872.0 3,887.5 320.0 140.0 7,219.5
箇所数(箇所) 26.0 493.0 444.0 429.0 515.0 1,907.0
指摘項目数(件) 459.0 5,274.0 3,072.0 5,904.0 4,661.0 19,370.0
人日数(人日) 390.0 4,115.0 5,642.5 4,079.0 4,341.5 18,568.0
② フォローアップ監査
監査の種類等 平成21年度 22年度 23年度 24年度 25年度

箇所数(箇所) - - - 33.0 - 33.0
指摘項目数(件) - - - 184.0 - 184.0
人日数(人日) - - - 300.0 - 300.0
③ ①及び②の合計
監査の種類等 平成21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
箇所数(箇所) 26.0 493.0 444.0 462.0 515.0 1,940.0
指摘項目数(件) 459.0 5,274.0 3,072.0 6,088.0 4,661.0 19,554.0
人日数(人日) 390.0 4,115.0 5,642.5 4,379.0 4,341.5 18,868.0
注(1)
平成21年度は22年1月から3月までの期間である。
注(2)
本部の箇所数とは、本部内の各部等のことである。
(ウ) 内部監査の結果の活用状況等

内部監査規程等によれば、監査結果の報告書と指摘された事案の改善計画書は、それぞれ理事長に提出、報告され、監査部長は、改善計画に基づく対応状況の事後調査及び完了確認を行い、その結果等を定期的に理事会に報告することとされている。

このため、監査部長は、フォローアップ監査や3か月ごとに被監査部署から是正及び改善の取組状況の報告を行わせることなどにより、改善計画に基づく対応状況の事後及び完了確認を行っており、26年3月現在において是正されずに取組継続事項とされている指摘項目は、差押物件の換価に時間を要している事態等の254件となっている。

また、監査部長は、被監査部署で発見された指摘事項に対する是正又は改善の措置について、被監査部署における取組だけでなく本部関連部署による対応が必要であると判断する場合、当該本部関連部署の長に対して、改善提言を行うこととなっている。

前記の厚生年金特例法の運用における未処理・処理遅延については、機構の内部監査において指摘されているものもあることから、事態の拡大や再発の防止に向けた監査結果の活用状況をみると、指摘された被監査部署では改善計画に基づき是正等が進められていたが、指摘件数が少なかったことなどから、監査部長は、本部関連部署による対応は必要ないものと判断して改善提言を行っていなかった。

さらに、前記のとおり、機構では、監査結果を、理事長及び理事会に報告等するだけでなく、監査対象部署の担当理事及び関係理事に回覧することとしているが、職員に対して監査結果を適切に周知するための取組が十分でなかったことなどにより、事態の拡大を防止することができなかった。

したがって、機構は、内部監査等を適切に実施した上で、本部関連部署への改善提言を活用するなどして、監査結果等を職員に対して適切に周知し、事態の拡大や再発の防止に努める必要がある。

(2) 厚生労働省と機構との連携等

年金記録問題を受け、厚生年金保険等の適用・徴収・記録管理・相談・裁定・給付等の一連の運営業務を行う機関として機構が設立され、厚生労働省と社会保険庁との間で曖昧となっていた行政実務上の法解釈の権限と責任は、厚生労働省に一元化された。

それ以降、厚生労働省と機構の役割分担は明確にされたことになっていたが、前記のとおり、時効特例給付業務の事務処理不統一問題が発生し、その原因の一つとして、監察本部の検証において業務の処理基準である「時効特例法Q&A」が簡略で具体性に乏しいまま改訂・充実が行われなかったことが挙げられ、このような事態を招いたのは法令解釈を担当する厚生労働省と実務を行う機構との役割分担の不明確さ・曖昧さが原因の一つであるなどとされた。

これを受け、年金局は、時効特例給付業務の教訓を踏まえて年金行政を担う組織運営の在り方、すなわち、厚生労働省及び機構の連携方法や体制整備、各組織内のマネジメント等の検討を行い、25年11月に年金事業運営の改善に関する報告を取りまとめた。

この報告では、図表3-15のとおり、年金局の事業部門の業務体制見直しや組織内の連携強化等の対策が示され、厚生労働省と機構との間の業務分担及び連携について、①コンプライアンス等について幹部だけでなく実務担当者との定期的な協議の場を設け、日常的に業務運営状況を把握するなどして機構に対し積極的に関与すること、②相互の業務に対する理解を深め、業務を円滑に進めるため、人事交流を拡大すること、③事務処理フローや業務分担の見直しについて、定例意見交換等で検討することなどの対策が示されている。

そして、これらの改善策を着実に実施することは、年金記録問題の再発を防止する上で重要であると考えられる。現在、年金局は、事業企画課内に年金事業運営推進室を設置(26年4月)するなどして厚生労働省と機構との間の業務分担及び連携等を推進している。

図表3-15 監察本部の検証結果を踏まえた年金事業運営の改善に関する報告の主な内容

1 年金局事業部門の業務体制の見直し
  • 疑義照会への対応ルールの明確化
  • 人員配置も含めた業務運営体制の充実
2 業務の処理基準について
  • 業務処理マニュアル等の見直しに速やかに対応できる体制の構築(業務処理マニュアルは、機構が年金局と協議の上改正)
3 厚生労働省と機構との間の業務分担及び連携
  • 時効特例給付、コンプライアンス等について幹部だけでなく実務担当者との定期的な協議の場を設け、日常的に業務運営状況を把握するなどして機構に対し積極的に関与
  • 相互の業務に対する理解を深め、業務を円滑に進めるため、人事交流を拡大
  • 事務処理フローや業務分担の見直しについて、定例意見交換等で検討
4 組織内における連携強化
  • 業務運営上の観点を含めた制度改正、施行後の法令解釈等について年金局事業部門と制度部門とが協力して速やかに対応
  • 週1回の課内打合せ等による課題等の共有
  • 業務引継ルールに沿った引継ぎの実施
  • 国民の声の活用等

(3) 年金記録問題に関する厚生労働省及び機構と共済組合等の関係機関との連携等

厚生労働省及び機構は、市区町村や共済組合等と連携して、年金記録問題の解決等に取り組んでおり、その主なものを挙げると次のとおりである。

① 名寄せ便に対して「訂正なし」と回答した者及び未回答の者であって、未統合記録が基礎年金番号に結び付く可能性が高い約88万人を対象に行ったフォローアップ調査では、市区町村の協力を得て、機構が接触できなかった者の電話番号等の調査や年金記録の調査を行った。

② 被保険者等の年金記録の照会や、紙台帳等とオンライン記録との突合せ作業で被保険者等の年金記録を確認する際に、共済組合等の加入期間と思われる記録が判明した場合等は、共済組合等の協力を得てその記録の確認を行うなどしていた。

③ 年金相談に関して、市区町村に「ねんきんネット」の端末の導入等を要請し、インターネット環境がない被保険者等に対して「ねんきんネット」を利用した年金記録の提供をしたり、市区町村の生活保護担当部局等の協力を得て、生活に困った高齢者等を対象に、生活相談の窓口における年金記録の発見の支援を行ったりするなどしていた。

近年は、前記のとおり、第3号被保険者の年金記録不整合問題の解消のため、国民年金法第108条に基づき、共済組合等に対して、健康保険等の被扶養配偶者情報の提供を受けるための協議を続けるなどしている。

(4) 今後の年金記録の正確性確保のための対策

ア 本人等による記録確認等

機構は、年金記録問題への対応の集中処理期間の最終年度である25年度末をもって、処理が困難な一部のケースを除き、機構等からの能動的な働きかけによる年金記録問題の処理を終了している。

しかし、未統合記録で「解明作業中又はなお解明を要する記録」である約2083万件の中には、誤った氏名や生年月日となっているなどして、名寄せ作業や紙台帳等との突合せの対象とならなかったものが多数存在しており、また、「解明された記録」として整理された約689万件の「死亡者に関連する記録」の中には、遺族からの年金記録確認の照会等があれば今後の年金受給に結びつく可能性があるものも含まれていることから、本人や遺族からの年金記録の確認の申出を促すことが重要である。

そして、今回の年金記録問題で明らかになったように、長い年月を経た後の年金記録の確認は多大な困難を伴うため、裁定時だけでなく、できるだけ直近の時点で情報提供等を行い、恒常的に本人が自身の年金記録を確認するなどの仕組みを構築することが、年金記録問題の再発を防止し、正確な年金記録の管理を行う上で非常に重要である。

機構は、上記に対応するため、「ねんきん定期便」及び「ねんきんネット」の充実に努めている。

「ねんきん定期便」は、年金記録確認のため、21年4月から全被保険者に対し、年金加入期間、標準報酬月額、保険料納付額等を、誕生日月に毎年送付するものである。機構は、多額の費用がかかることや、「記載された内容が理解できない」などの被保険者の意見を踏まえ、節目年齢(35歳、45歳、59歳)以外は、封書形式を圧着はがき形式に改めて、直近1年分の標準報酬月額、保険料納付状況等の被保険者が確認したい事項のみを分かりやすく表示するなどの改善を行っている。

また、前記の厚生年金保険の標準報酬等の不適正な遡及訂正については、標準報酬の引下げなどの改定が事業主から通知されないと、従業員はその事実を知ることができないことから、「ねんきん定期便」により、年間又は全加入期間の標準報酬月額を従業員である被保険者に直接通知し、従業員に事業主の不適正な届出について注意喚起を行っている。

さらに、27年10月に予定されている「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成24年法律第63号)の施行後は、これまで未加入期間として表示されていた共済組合等の加入期間について、共済組合等から情報提供を受け、「ねんきん定期便」に記載することが予定されている。

「ねんきんネット」については、前記のとおり、利用者の拡大等のため、スマートフォン等のモバイル機器でも閲覧できるように機能を拡充したり、通常、取得に5日程度を要するユーザーIDを即時取得するためのアクセスキーを「気になる年金記録、再確認キャンペーン」のお知らせや「ねんきん定期便」に記載したりしている。

イ 基礎年金番号の重複付番対策

重複付番とは、9年1月の基礎年金番号が導入された当時の付番作業が十分でなかったことなどにより同一の者が複数の基礎年金番号を保有していることであり、将来、年金の裁定請求時の調査が完全でなければ、新たに未統合の年金記録を発生させることになる。

機構は、25年度末の時点で、氏名、生年月日、性別及び住所の4項目が一致する基礎年金番号4,240件並びに氏名、生年月日及び性別の3項目が一致する基礎年金番号443,384件について本人確認を行い、それぞれ2,336件(55.1%)、165,321件(37.3%)の重複付番を解消している。

25年4月以降は、再発を防止するため、基礎年金番号が未記載の資格取得届が提出された場合で、当該届の対象者に関し、3項目(氏名、生年月日及び性別)が一致する基礎年金番号が既にあるときは仮基礎年金番号を用いて別管理としており、今後必要な調査等を行った上で統合することとしている。

ウ 諸届出の電子化

特別委員会の報告書によれば、年金記録問題の発生原因の一つには、事業主等から提出される届出等の紙媒体の情報を電子化する際に、入力誤りなどにより正確な情報が登録されなかったことが挙げられている。

そして、このような事態は、あらかじめ電子化された情報を入手し、入手した情報をそのまま活用していれば防げたものである。

しかし、25年度における厚生年金保険の主要な6種類の届書の申請方法は、図表3-16のとおり、電子媒体申請が47%、電子申請が6%となっており、残りの47%は入力が必要な紙申請のままとなっている。

今後の対策としては、届書等の電子化を促進し、同時に機構の業務プロセスのペーパーレス化を図っていくことが必要となっている。

図表3-16 届書の電子化状況等(平成25年度)

分類 媒体 割合 特徴 問題点
紙申請 47% 届出頻度、件数が少ない場合に有効
  • 記載項目漏れ等の返戻が多い。
  • 再入力時の誤読、誤入力の発生
電子媒体
申請
CD
DVD等
47%
届出件数が多い場合に有効
(電子媒体届書作成プログラムを活用)
  • 対象が厚生年金保険の主要な6種 類の届書、国民年金の主要な6種 類の届書に限定
  • 添付書類は紙媒体
電子申請 (注)
e-gov
6% 届出頻度が多い場合に有効
  • 電子証明書(有料)の取得が必要
  • ICカードリーダーが必要
(注)
申請窓口を総務省が運用する電子政府の総合窓口

エ 基金への情報提供

年金記録回復委員会は、国の年金記録と基金等の年金記録との不一致の約3割から4割は、事業主が、標準報酬の決定等の国から通知された事項を基金等に届け出なかったことなどが原因であるとしている。

このため、機構は、国が保有する基金等加入員の年金記録に関する情報、すなわち、事業主から機構に提出された届書等に基づく年金記録の変更分の情報を定期的に基金に提供する仕組みを構築することとしており、26年度に作業を開始する方向で準備を進めることとしている。

(5) 26年度以降の機構の年金記録問題への対応に係る体制の変更等

ア 機構における体制の変更等

前記のとおり、機構は、年金記録問題への対応の集中処理は25年度をもって終了したことなどを踏まえて、26年10月に、①事務センターに設置した「突合記録審査グループ」を廃止し、その行っていた事務を「記録審査グループ」に引き継ぐとともに、②各年金事務所に設置した「年金記録課」を廃止し、その事務を「お客様相談室」に引き継いでいる。

また、本部においては、引き続き年金記録問題へ適切に対応する必要があるため、「記録問題対策部」を「年金記録企画部」へ名称変更するなどし、年金記録問題に関する各種の対策の検討等について、継続して対応することとしている。

なお、厚生労働省は、同年4月に、社会保障審議会の日本年金機構評価部会を改組し、機構の事後的な評価のみならず、年金記録問題への対応も含め、年金事業全体について審議する年金事業管理部会を設置したほか、年金事業等の適正かつ円滑な運営を推進するための総合的な調整を行う年金事業運営推進室を年金局の事業企画課内に設置している。

イ 年金健全化法による改正後の国民年金法の施行

前記のとおり、第3号被保険者の年金記録不整合問題に対応するなどのため、年金健全化法が制定されて、施行されている。そして、年金健全化法による改正後の国民年金法第108条の共済組合等に対する資料要求権等に関する規定のように、既に施行されているものもあるが、改正後の国民年金法第12条の2のように未施行のものもある。

この国民年金法第12条の2は、26年12月1日から施行されることとなっており、施行後、第3号被保険者であった者は、第2号被保険者の被扶養配偶者でなくなったことについて、機構に届け出ることとなっている。これにより、機構において第3号被保険者に該当しなくなったことを適切に把握することなどが期待されている。

ウ 第三者委員会の報告書等への対応

前記のとおり、23年報告では、新たな年金記録確認体制の構築により、司法手続も考慮に入れた年金記録確認の仕組みについて、政府において早急に検討を進めることなどが要請されている。この要請等を踏まえ、26年6月に、年金記録の訂正手続の創設等の所要の措置を講ずることを内容とする年金事業改善法が成立し、27年3月以降、被保険者等から年金記録の訂正請求を受け、厚生労働大臣から訂正決定に関する権限の委任を受けた地方厚生局長等が自ら所要の調査を行うとともに、地方審議会の審議に基づき、年金記録の訂正の可否を決定することとなっている。

また、年金事業改善法により改正された厚生年金特例法が施行される同年4月以降、第三者委員会が行ってきた厚生年金特例法に規定する個別案件に係る調査審議は、地方審議会が担うこととなっている。

このように、同年3月以降の新たな年金記録に係る確認の申立てについては、年金事業改善法に基づく新たな制度で処理できることとなり、総務省及び厚生労働省は、厚生労働省に円滑に引き継ぐなどするための具体的な方法等について、現在、検討を進めているとしている。