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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成26年3月

生活保護の実施状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

生活保護制度における被保護者数及び保護費はいずれも年々増加してきていることなどから、要保護者への適切かつ効果的、効率的な保護の実施が引き続き求められる状況となっており、また、稼働能力を有する被保護者について、その稼働能力の十分な活用を図るために、厚生労働省及び事業主体において就労支援の取組を一層強化している。

そこで、医療扶助は適切に実施されているか、生活扶助費及び住宅扶助費は適切に支給されているか、就労支援により就労した被保護者の就労後の状況はどのようになっているかなどに着眼して、厚生労働本省及び24都道府県の511事業主体について検査したところ、次のような状況が見受けられた。

ア 医療扶助の状況

(ア) 被保護者である入院患者で精神及び行動の障害に分類される者の割合は、被保護者以外の入院患者における割合と比べて高い割合を占めており、その多数が長期に入院している傾向があり、入院に係る医療扶助を恒常的に受給している状況が見受けられた。

そして、医療扶助継続の要否等を検討する嘱託医1人当たりが検討している要否意見書の枚数は福祉事務所間で開差が見受けられた。

また、医療扶助による入院継続を要しないとされた長期入院患者のうち退院に至っていない者の過半数は、精神及び行動の障害に分類される者であった。そして、退院に至っていない理由を退院後の受入施設が見つからないためなどとしている者が多数見受けられた。また、退院に向けた調整に当たっては、現業員が単独で対応している場合が多数見受けられた。さらに、例外的給付を受けているが、退院促進に係る指導を特段受けていない者も見受けられた。

一方、事業主体が退院促進に係る指導を行う際に、独自支援事業や精神障害者地域移行・地域定着支援事業を併せて行い、退院に至った者も見受けられた。

(イ) 被保護者である入院患者の一部は、特定の医療機関の間で短期間に入退院を繰り返していた。そして、福祉事務所による転院の要否の検討が事後的に行われている状況や、それらの医療機関を転院する都度、同種の診療報酬が算定されている状況も見受けられた。

(ウ) 向精神薬等の処方について、同成分の医薬品の処方を複数の医療機関から受けている被保護者が多数見受けられた。また、これらの者に対する重複処方について、福祉事務所が繰り返し指導等を行っているにもかかわらず改善されていない事態が見受けられた。

(エ) 福祉事務所において、過度な診療日数が改善されていない頻回受診者の一部について台帳が整備されていない事態や、台帳は整備されているものの電話による指導が行われたのみで訪問指導が行われていない事態が見受けられた。

イ 生活扶助及び住宅扶助の状況

(ア) 65歳以上のほとんどの高齢者が公的年金を受給している一方、被保護者の過半数については公的年金の収入認定が行われていない状況となっていた。その主な理由は、保険料納付済期間等が不足して受給権を有していないことによると思料される。一方、受給権を有しているのに裁定請求を行っていない者も見受けられた。その理由については、受給権を有することを知らなかったとするものが大部分であったが、疾患等により裁定請求が困難であるとするものも一部見受けられた。

(イ) 医療機関に入院又は介護施設に入所している被保護者の管理手持金について、取扱指針に基づく加算等の計上の停止がされていない事態が一部見受けられた。中には、福祉事務所による加算等の計上の停止の検討が行われなかったことなどにより、保護費が累積して、管理手持金の額が多額に上っている事態も見受けられた。

(ウ) 死亡した単身世帯の被保護者の遺留金については、その額が多額に上っているものが多数見受けられたが、事業主体がその保有の原因の確認を十分に行っていない状況となっていた。また、一部を葬祭扶助費に充当した残余の遺留金について、相続財産管理人の申立ての手続を行わずに、福祉事務所においてそのまま保管していたり、葬祭扶助の対象とならない費用に充当したりしていた。さらに、葬祭執行者によって行われた葬祭においては、金融機関の口座に預けられているなどのため、遺留金が葬祭扶助費に充当されていなかったり、葬祭執行者による申請の手続が行われないまま葬祭扶助が行われていたり、保護の決定手続を行う立場にある福祉事務所の職員や葬祭業者を葬祭執行者としていたりするものなどが見受けられた。

(エ) 宿泊所等から失踪した被保護者の保護廃止日以降の保護費の過払分に係る処理が区々となっており、返還等の処理が行われていない事態も一部見受けられた。また、被保護者が失踪すると、事業主体は保護費の過払分を被保護者から収納することが困難となる一方、本来は被保護者に返還されるべき宿泊料等が宿泊所等に滞留する結果となり得ると思料される。

(オ) 住宅扶助に係る家賃の額について、被保護世帯が一般住居に係る家賃よりも高額の家賃で契約している疑義がある事態が一部見受けられた。

ウ 就労支援の状況

支援事業等を受けた被保護者についてみたところ、保護継続のままではあるが就労を開始していたり、保護が廃止されていたりしている者が見受けられ、一定の効果が上がっていた。しかし、その後の状況をみると、一旦は就労したもののその後離職していたり、保護が再開されていたりしている者が一部見受けられた。そして、被保護者については、非正規就業者全般よりも短期間で離職に至ったり、傷病による離職の割合が高くなっていたりする状況が見受けられた。

(2) 所見

以上のような状況を踏まえて、厚生労働省においては、保護の実施において、被保護者の支援をより効果的、効率的に行うことができることとなるよう、前記の検査の状況に記載した各種事態の実態把握に努めるとともに、次の点等に留意しつつ、今後とも各種施策の立案、見直しなどに努めていく必要がある。

ア 医療扶助について

(ア) 被保護者である長期入院患者で精神及び行動の障害に分類される者等について、事業主体がその病状の把握や退院後の受入先の確保をより円滑かつ適切に行うことができることとなるよう介護、障害等に関する部門も含めた体制整備を図ることの必要性や、退院促進に係る指導の一層の充実及び他の施策との連携等について検討すること

(イ) 高頻度入院者について、転院の要否の確認等の業務が適切に行われるよう事業主体を引き続き指導するとともに、指導を通じて高頻度入院者の実態の一層の把握に努めて、その対応方針について不断の検討を行っていくこと

(ウ) 向精神薬等の重複処方について、重複処方の改善が見られない被保護者に対する事業主体の指導等が効果的に行われるような方策を検討すること

(エ) 頻回受診者について、事業主体における台帳整備や訪問指導等の充実を図らせるとともに、適正受診の更なる促進に努めること

イ 生活扶助及び住宅扶助について

(ア) 27年10月からは老齢基礎年金について受給権が発生するのに必要とされる保険料納付済期間等が短縮されることも踏まえて、同年金の受給権を有している被保護者に係る同年金の収入認定が適正に行われることとなるよう、事業主体における被保護者の受給権の有無の的確な把握、裁定請求の勧奨等の促進に更に努めること

(イ) 管理手持金について、事業主体において、その額を的確に把握して、取扱指針に基づき必要に応じて加算等の計上を停止するなどの適切な事務処理が促進されることとなるよう努めること

(ウ) 死亡した単身世帯の被保護者の遺留金について、事業主体に対して、その保有の原因を可能な範囲で確認させることとし、取扱指針に基づく加算等の計上の停止に係る判断に資するとともに、必要に応じて返還の処理を行わせるようにすること。また、残余の遺留金の取扱いについて、事業主体がその適切な処理を図ることができることとなるよう関係省庁と連携するなどして検討すること。さらに、葬祭執行者により葬祭を行う場合については、口座に預けられている遺留金の活用を図ることができることとなるよう、また、葬祭扶助が申請の手続を経て行われることが徹底され、葬祭執行者としてより適切な者が選任されることとなるよう関係機関と連携を図るなどして検討すること

(エ) 被保護者の失踪に伴う保護費の過払分に係る対応については、事業主体に対して、返還等の処理を行う必要があることを改めて周知するとともに、被保護者が失踪した場合には、事業主体は保護費の過払分を被保護者から収納することが困難となる一方、契約に基づき本来は宿泊所等から被保護者に返還されるべき宿泊料等が宿泊所等に滞留する結果となり得る状況に対して、効果的な方策を検討するなどすること

(オ) 被保護世帯であるがゆえに合理的な理由もなく高額の家賃が設定されていることはないか実態の把握に努めるとともに、適切な家賃額となっているかどうかを判断できるような仕組みを設けるなど、住宅扶助の適切な在り方について検討すること

ウ 就労支援について

今後とも就労支援に係る施策を実施するに当たっては、事業主体において、支援事業等による効果的な就労支援が更に促進されることとなるよう、また、就労後の職場への定着支援等のフォローアップについて、被保護者における離職の要因等を踏まえつつ、より効果的な実施が図られることとなるよう方策を検討すること

会計検査院としては、我が国における少子高齢化の更なる進行等を背景として、社会保障制度改革や財政健全化への取組が喫緊の課題とされていることを踏まえつつ、今回改正された法に基づき行われることとなる今後の保護の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。