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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1)高齢者医療制度円滑運営臨時特例交付金の交付に当たり、交付額を適切に算定することなどにより、予算の効果的な執行を図るよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
部局等
厚生労働本省
交付の根拠
国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
交付先
45国民健康保険団体連合会
交付金事業の概要
国が各都道府県の国民健康保険団体連合会に対して高齢者医療制度円滑運営臨時特例交付金を交付し、国民健康保険団体連合会ではこれにより国保高齢者医療制度円滑導入基金の積み増しを行うとともに、同基金を取り崩すことにより指定公費負担医療費の支払を行うもの
上記の国民健康保険団体連合会に交付した交付金交付額の合計
2954億0711万余円(平成23、24両年度)
上記のうち過大に交付されていた交付金交付額
124億8911万円

1 交付金の概要等

(1)70歳から74歳までの被保険者等の療養の給付に係る一部負担金等の特例措置

厚生労働省は、健康保険法(大正11年法律第70号)等に基づく医療保険制度を所管している。そして、医療保険制度の下における被保険者等は、医療機関等において療養の給付を受けるなどしたときは、一部負担金として、療養の給付に要する費用の額のうち年齢等の区分ごとに定められた割合に応じた額を当該医療機関等に支払わなければならないことなどとなっている。

この療養の給付に係る一部負担金等のうち70歳から74歳までの被保険者等に係るものの負担割合は、従前は1割となっていたが、平成18年の医療制度改革において見直しが行われ、20年4月1日以降は、原則として2割となっている。

しかし、厚生労働省は、見直しの初年度の20年度に、70歳から74歳までの被保険者等が20年4月1日から21年3月31日までの間に受けた療養の給付に係る一部負担金等のうち、当該医療制度改革により新たな負担増となる1割に相当する額(以下「指定公費負担医療費」という。)については、国が当該被保険者等に代わって医療機関等に支払うことなどとする特例措置(以下「特例措置」という。)を設けている。

そして、厚生労働省は、その後も特例措置を継続して実施しているが、「平成26年度予算編成の基本方針」(平成25年12月閣議決定)等に基づき、26年4月1日以降に新たに70歳となる被保険者等については療養の給付に係る一部負担金等の負担割合を法定の2割とする一方で、26年3月31日までに70歳に達していた被保険者等については引き続き特例措置の対象としている。このため、特例措置は、これらの被保険者等が75歳に達する30年度末まで存続することになっている。

(2)高齢者医療制度円滑運営臨時特例交付金等の概要

医療保険制度のうち、国民健康保険(前掲211ページ「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)における特例措置の実施に当たっては、各都道府県単位で設立されている国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)が、医療機関等において診療を行った月の翌々月に当該診療に係る医療給付費(療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額。以下同じ。)の支払を行うときに、この支払と併せて、当該医療機関等に対して指定公費負担医療費の支払を行うことなどとなっている。

厚生労働省は、19年度末に、各国保連合会において20年度の指定公費負担医療費の支払のために必要となる資金を高齢者医療制度円滑導入臨時特例交付金として各国保連合会に交付し、国保高齢者医療制度円滑導入基金(以下「国保基金」という。)を造成させている。そして、各国保連合会では、これを取り崩すことにより指定公費負担医療費の支払を行っている。その後も同省は、20年度から24年度までの各年度の年度末に、各国保連合会において翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要となる資金を高齢者医療制度円滑運営臨時特例交付金(以下「交付金」という。)として各国保連合会に一括して交付しており、各国保連合会では、その交付を受けて国保基金の積み増しを行った上で、翌年度に指定公費負担医療費の支払を行っている。

厚生労働省が全国の国保連合会に対して19年度から24年度までの間に交付した交付金等の交付額、及び全国の国保連合会において20年度から25年度までの間に指定公費負担医療費の支払のために国保基金を取り崩した額は表1のとおりとなっており、毎年度多額に上っている。

表1 交付金等の交付額等

(単位:千円)
交付年度 交付額 執行年度 取崩額
平成19 104,404,206 20 144,121,460
20 212,781,549 21 160,672,107
21 181,850,203 22 160,883,657
22 179,378,585 23 166,545,928
23 163,300,764 24 168,617,095
24 163,141,409 25 173,854,939
(注)
平成20年度の取崩額には、20年度の交付額を取り崩した額が一部含まれている。

(3)交付金の交付額の算定方法

厚生労働省は、高齢者医療制度円滑運営臨時特例交付金交付要綱(厚生労働事務次官通知)を毎年度定めており、これに基づき交付金の交付額の算定を行っているが、23年度にその算定方法の見直しを行ったとしている。同省は、この見直しについて、交付額の算定に当たり翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要な額を超える算定を行うことのないようにするために、翌年度の指定公費負担医療費の支払に充当できる各国保連合会の国保基金の保有残高については、これを翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要な額から控除することにしたとしている。そして、23、24両年度の交付金の交付額については、の算定方法により算定を行っている。

図 交付金の交付額の算定方法(平成23、24両年度)

交付金の交付額の算定方法(平成23、24両年度)の画像

(注)
「前年度末における国保基金の保有残高」には、前年度末に既に交付済みとなっている当年度分の指定公費負担医療費の支払のための交付金の額が含まれている。

厚生労働省は、交付金の交付額の算定の基礎となるのは図の「翌年度の国保基金の取崩見込額」であり、これは翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要と見込まれる12か月分の額であるとしているが、上記の算定方法の見直しの趣旨に基づき、「当年度末における国保基金の保有見込残高」がある場合には、これを「翌年度の国保基金の取崩見込額」から控除している。

そして、厚生労働省は、「翌年度の国保基金の取崩見込額」及び「当年度末における国保基金の保有見込残高」を算出するなどのために、各国保連合会に対して、交付金の各年度の取崩実績額、年度末における国保基金の保有残高等を報告させており、このうち、年度末における国保基金の保有残高については、同省に提出する国保基金の事業実績報告書(以下「事業実績報告書」という。)の「年度末保管額」欄に記載させることとしている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、交付金の交付額は、前記の算定方法の見直しの趣旨に基づき、翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要な額として適切に算定され、交付されているかなどに着眼して、厚生労働省が23、24両年度に47国保連合会に対して交付した交付金(23年度計1633億0076万余円、24年度計1631億4141万余円、合計3264億4217万余円)を対象として、同省及び25国保連合会(注)において会計実地検査を行うとともに、同省から47国保連合会に対する交付金の交付額の算定に係る関係書類の提出を受け、その内容を精査するなどして検査した。

(注)
25 国保連合会  北海道、山形県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、福井県、長野県、静岡県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、島根県、岡山県、香川県、高知県、福岡県、長崎県、宮崎県、鹿児島県各国保連合会

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

厚生労働省は、23、24両年度の交付金の交付額の算定に当たり、「前年度末における国保基金の保有残高」については、前年度の事業実績報告書に記載されている「年度末保管額」から2月診療分及び3月診療分に係る指定公費負担医療費の支払額を控除して算出していた。これについて、同省は、この「年度末保管額」は3月末現在のものであり、3月末現在では未払となっている2月診療分(4月取崩し)及び3月診療分(5月取崩し)に係る支払額が含まれていることから、これらの支払額を控除する必要があるとしていた。

しかし、厚生労働省は、各国保連合会に対して、事業実績報告書に記載する「年度末保管額」については、過年度の事業実績報告書において3月末現在における国保基金の保有残高を記載して報告していた場合を除き、原則として、4月末現在における国保基金の保有残高を記載して報告するよう通知していた。そこで、各国保連合会が事業実績報告書に記載していた「年度末保管額」について確認したところ、47都道府県のうち、東京都、山梨県両国保連合会は、3月末現在の保有残高を「年度末保管額」として同省に報告していたのに対して、これらの2国保連合会を除く45道府県の国保連合会(以下「45国保連合会」という。)は、2月診療分に係る支払額を取り崩した後の4月末現在の保有残高を「年度末保管額」として同省に報告していた。そして、同省は、このように各国保連合会が報告した「年度末保管額」には3月末現在の保有残高であるものと4月末現在の保有残高であるものとが混在しているのに、これを的確に把握することなく、一律に3月末現在のものとして「前年度末における国保基金の保有残高」を算出していた。その結果、45国保連合会の「前年度末における国保基金の保有残高」は、既に取崩済となっている2月診療分に係る支払額が重複して控除されることになり、当該1か月分が過小となっていて、これにより交付金の交付額は、翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要と見込まれる12か月分の額よりも1か月分が過大に算定されていた。

これらを踏まえて、2月診療分に係る支払額(23年2月診療分131億2286万余円、24年2月診療分124億8911万余円)を控除せずに「前年度末における国保基金の保有残高」を算出するなどして23、24両年度における45国保連合会に対する交付金の交付額を算定したところ、表2及び表3のとおり、当該交付金の交付額(23年度計1489億4797万余円、24年度計1464億5913万余円、合計2954億0711万余円)は、23、24両年度を通じて、24年2月診療分に係る指定公費負担医療費の支払額に相当する124億8911万余円が過大に算定され、交付されていると認められた。

表2 平成23、24両年度を通じて過大に交付されていると認められた額

(単位:千円)
年度 翌年度の国保基金の取崩見込額 当年度末における国保基金の保有見込残高
(B)=(C)−(G)
交付金交付額 差引
(交付金交付額への影響額)

(23、24両年度を通じて過大に算定され、交付されていると認められた額)
前年度末における国保基金の保有残高
(C)=(D)−(E)−(F)
当年度の国保基金の取崩見込額  
年度末保管額 年度末保管額から控除する額  
2月診療分に係る支払額 3月診療分に係る支払額
(A) (D) (E) (F) (G) (A)−(B)
平成23 161,849,153 192,246,533 13,122,865 13,122,865 166,000,801 153,099,624 12,901,176 148,947,976 13,122,865 12,489,111
161,849,153 192,246,533 0 13,122,865 179,123,667 153,099,624 26,024,042 135,825,111
24 159,346,042 191,222,878 12,489,111 13,294,602 165,439,164 152,552,256 12,886,907 146,459,134 △633,754
159,346,042 178,100,012 0 13,294,602 164,805,410 152,552,256 12,253,153 147,092,888
注(1)
各年度の上段は厚生労働省による算定額を、下段は本院の指摘に基づく修正額をそれぞれ記載している。
注(2)
端数処理の関係で算式と一致しない計数となっている欄がある。
注(3)
平成23年度の「2月診療分に係る支払額」(E)及び「3月診療分に係る支払額」(F)が同額となっているのは、厚生労働省において、実際の支払額ではなく、過去の支払実績等に基づいて算出した平均支払額を用いて当該支払額としていたためである。
注(4)
平成24年度における修正後の「年度末保管額」(D)については、23年度の過大交付額の修正に伴い生じる減少額(△13,122,865千円)を反映させている。このため、24年度の交付額は633,754千円過小となっている。

表3 国保連合会別の過大交付額等

(単位:千円)
国保連合会名 交付金交付額 過大交付額 国保連合会名 交付金交付額 過大交付額
北海道国保連合会 14,278,736 650,067 京都府国保連合会 6,680,913 280,884
青森県国保連合会 3,385,047 156,348 大阪府国保連合会 26,422,085 1,108,545
岩手県国保連合会 3,703,941 163,043 兵庫県国保連合会 15,312,803 651,284
宮城県国保連合会 8,493,625 308,509 奈良県国保連合会 3,663,138 156,104
秋田県国保連合会 2,751,737 133,744 和歌山県国保連合会 2,761,999 121,841
山形県国保連合会 2,800,136 127,772 鳥取県国保連合会 1,294,446 57,904
福島県国保連合会 6,448,968 246,584 島根県国保連合会 1,580,648 77,461
茨城県国保連合会 7,270,602 295,222 岡山県国保連合会 5,167,926 220,879
栃木県国保連合会 4,772,200 197,540 広島県国保連合会 7,001,568 302,870
群馬県国保連合会 4,748,927 196,288 山口県国保連合会 4,212,551 186,498
埼玉県国保連合会 18,750,130 761,264 徳島県国保連合会 1,862,832 85,781
千葉県国保連合会 15,781,201 641,918 香川県国保連合会 2,746,023 118,600
神奈川県国保連合会 22,505,773 919,609 愛媛県国保連合会 3,852,979 167,496
新潟県国保連合会 5,740,856 250,681 高知県国保連合会 2,037,374 90,764
富山県国保連合会 2,543,463 108,583 福岡県国保連合会 12,360,490 539,556
石川県国保連合会 2,782,865 116,832 佐賀県国保連合会 2,260,951 100,405
福井県国保連合会 1,730,572 78,463 長崎県国保連合会 3,468,254 153,423
長野県国保連合会 5,338,910 222,683 熊本県国保連合会 4,463,747 200,344
岐阜県国保連合会 5,592,766 237,687 大分県国保連合会 3,285,064 143,905
静岡県国保連合会 9,910,306 412,418 宮崎県国保連合会 2,980,114 134,381
愛知県国保連合会 18,352,100 743,706 鹿児島県国保連合会 4,385,622 198,944
三重県国保連合会 4,724,807 201,233 沖縄県国保連合会 2,260,130 97,257
滋賀県国保連合会 2,937,764 123,768 295,407,110 12,489,111
注(1)
交付金交付額は、平成23、24両年度の合計額である。
注(2)
端数処理の関係で、各欄の計数を集計しても「計」欄とは一致しない。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

厚生労働省は、平成24年度の大阪府国保連合会の交付金の交付額の算定に必要となる23年度末の国保基金の保有残高の算出に当たり、同国保連合会が同省に報告した23年度の年度末保管額は24年3月末現在のものであるとして、当該年度末保管額168億3517万余円から、24年2月診療分(24年4月取崩分)に係る指定公費負担医療費の支払額11億0854万余円及び24年3月診療分(24年5月取崩分)に係る指定公費負担医療費の支払額11億7768万余円を控除していた。しかし、同国保連合会は、同省からの通知に基づき、24年2月診療分に係る指定公費負担医療費の支払額を取り崩した後の24年4月末現在の国保基金の保有残高を同省に報告していた。したがって、同省における23年度末の国保基金の保有残高の算出に当たり、24年2月診療分の支払額を控除する必要はなかった。また、23年度においても同様の事態が見受けられた。その結果、同国保連合会に対する交付金の交付額は、23、24両年度を通じて、11億0854万余円過大に算定され、交付されていた。

このように、45国保連合会に対して、翌年度の指定公費負担医療費の支払に必要と見込まれる12か月分の額を1か月分上回る交付額を算定し、交付していた事態は、前記の交付額の算定方法の見直しの趣旨に沿わないもので、予算の効果的な執行を図る見地からみて適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、厚生労働省において、交付額の算定方法の見直しの趣旨に基づき、各国保連合会における国保基金の保有残高を的確に把握した上で交付額を算定して、予算の効果的な執行を図ることについての認識が欠けていたことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、27年度の特例措置の実施に必要な交付金の交付額の算定に当たっては、交付額の算定方法の見直しの趣旨に基づき、各国保連合会における国保基金の保有残高を的確に把握した上で、同年度の指定公費負担医療費12か月分の支払に必要と見込まれる額を適切に算定するなど、予算の効果的な執行を図る処置を講じた。