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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 工事

橋りょうの耐震補強工事の実施に当たり、設計が適切でなかったため、変位制限構造の所要の安全度が確保されておらず、工事の目的を達していなかったもの[関東地方整備局相武国道事務所](345)


会計名及び科目
一般会計 (組織)国土交通本省(平成25年度以前は社会資本整備事業特別会計(道路整備勘定)) (項)道路交通安全対策事業費
部局等
関東地方整備局相武国道事務所
工事名
H25 16号管内橋梁(りょう)耐震補強補修他工事
工事の概要
既設橋りょう(3か所)等に耐震補強工、橋りょう補修工等を施工するもの
工事費
132,406,800円
請負人
太啓建設株式会社 関東支店
契約
平成25年9月 一般競争契約
しゅん功検査
平成26年7月
支払
平成25年10月、26年8月
不適切な設計となっていた変位制限構造の設置に係る工事費
11,258,000円(平成25、26両年度)

1 工事の概要

この工事は、関東地方整備局相武国道事務所(以下「事務所」という。)が、既設橋りょうの耐震対策等の一環として、平成25、26両年度に、一般国道16号の橋りょう(3か所)等の耐震補強工、橋りょう補修工等を工事費132,406,800円で実施したものである。このうち、相模原市緑区元橋本町地先の橋りょう(昭和61年築造。橋長274.6m、幅員31.0m)は、橋台2基、橋脚12基、プレストレストコンクリート製の中空床版の上部工等からなり、本件工事では、耐震補強工として起点側の橋台及び上部工に、地震発生時において上部工に作用する水平力に対して橋台と上部工との間の相対変位が大きくならないように支承部と補完し合って抵抗するために、橋軸方向及び橋軸直角方向のそれぞれに変位制限構造を設置していた(参考図参照)。このうち、橋軸方向の変位制限構造は、橋台の前面と上部工の下面とに2個1組の鋼製ブラケット(橋台の鋼製ブラケットの高さ1,380mm~1,430mm、幅960mm~1,046mm、上部工の鋼製ブラケットの高さ270mm、幅500mm~650mm)をそれぞれアンカーボルト(長さ650mm~1,100mm、径35mm~51mm)により固定する構造となっており、これを10組設置していた。そして、橋台の鋼製ブラケットは、地震発生時に支承が破損した場合に、上部工を支えることにより路面に生ずる段差を小さくするための段差防止構造も兼ねていた。

事務所は、変位制限構造に係る設計を「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき行うこととしており、これを設計コンサルタントに委託し、設計業務委託の成果品の提出を受けていた。

上記の成果品によれば、橋台の鋼製ブラケットが変位制限構造として機能した場合の水平力により橋台の鋼製ブラケットを固定するアンカーボルトに生ずる引張応力度(注)は285N/mm2から290N/mm2、段差防止構造として機能した場合に上部工の自重によりアンカーボルトに生ずる引張応力度は88.2N/mm2から179.9N/mm2とされていて、事務所は、これらの引張応力度がいずれもアンカーボルトの許容引張応力度(注)300N/mm2を下回ることなどから安全であるとして、これにより施工していた。

2 検査の結果

本院は、合規性等の観点から、工事の設計が示方書等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、事務所において、本件工事を対象に、設計図面、設計計算書等の書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、本件橋りょうにおいて、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。

すなわち、前記のとおり橋台の鋼製ブラケットは橋軸方向の変位制限構造と段差防止構造の機能を兼ね備えていることから、地震発生時に支承が破損した場合には、橋軸方向の変位制限構造に作用する水平力と、段差防止構造に作用する上部工の自重との両方が同時に鋼製ブラケットに作用することになるのに、事務所は、アンカーボルトの引張応力度については、前記のとおりそれぞれが個別に作用した場合に生ずる引張応力度について確認したのみで、同時に作用した場合に生ずる引張応力度については検討していなかった。

そこで、改めて地震発生時に支承が破損して水平力と自重の両方が橋台の鋼製ブラケットに同時に作用した場合について、鋼製ブラケット10個に取り付けられたアンカーボルトに生ずる引張応力度を計算すると、351N/mm2から499N/mm2となり、許容引張応力度300N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

したがって、橋台の鋼製ブラケットは、設計が適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になっていて、変位制限構造は工事の目的を達しておらず、これに係る工事費相当額11,258,000円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、事務所において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。

(注)
引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、材に外から引張力が掛かったとき、そのために材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。

(参考図)

橋軸方向の変位制限構造の概念図

橋軸方向の変位制限構造の概念図の画像

橋軸方向の変位制限構造の側面概念図

橋軸方向の変位制限構造の側面概念図の画像