ページトップ
  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第11 環境省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1)防災拠点施設に設置する蓄電池設備について、耐震設計等に係るガイドライン等を整備して事業主体に周知することなどにより、耐震性を適切に確保するよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)環境本省 (項)東日本大震災復旧・復興環境・経済・社会の統合的向上費
エネルギー対策特別会計(エネルギー需給勘定)
(項)エネルギー需給構造高度化対策費
部局等
環境本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
6県
基金の名称
再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金等
再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金等による事業の概要
地震等の災害時に電力会社からの電力供給が遮断された際に、防災拠点施設において必要な機能を確保するなどのために太陽光発電設備、蓄電池設備等を設置するもの
所要の耐震性が確保されていない蓄電池設備の設置者及び基数
24県市町村等 106基
上記の蓄電池設備に係る工事費相当額
4億0679万余円(平成24年度〜26年度)
上記に対する国庫補助金相当額
4億0292万円

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】

防災拠点施設に設置する蓄電池設備の耐震性について

(平成27年10月19日付け 環境大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。

1 事業の概要

(1)再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金等の概要

貴省は、東日本大震災による被災地域の復旧・復興や、原子力発電施設の事故を契機とした電力需給のひっ迫への対応の必要性等に鑑み、平成23、24、25各年度に、再生可能エネルギー等の地域資源を活用した災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの導入等を支援することなどを目的として、「平成23年度地域環境保全対策費補助金(再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金)及び災害廃棄物処理促進費補助金(災害等廃棄物処理基金)交付要綱」(平成23年11月環境事務次官通知)、「平成24年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再生可能エネルギー等導入推進基金)交付要綱」(平成24年5月環境事務次官通知)等に基づき、各道府県及び政令指定都市に対して、地域環境保全対策費補助金又は二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を交付し、再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金又は再生可能エネルギー等導入推進基金を造成させるとともに、その管理等を行わせている(以下、これらの基金を「基金」といい、基金の造成、管理等を行っている道府県等を「事業主体」という。)。

(2)蓄電池設備等の設置

事業主体は、「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業及び災害等廃棄物処理基金事業実施要領」(平成23年11月環境省総合環境政策局長及び大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知)等に基づき、基金を活用し、災害時の避難所、災害対策本部等の防災拠点となる施設等(以下「防災拠点施設」という。)において、太陽光発電設備、蓄電池設備等を整備する工事を自ら実施するほか、管内の市町村等が実施する上記の工事に対して、基金を取り崩して事業主体からの補助金として交付している。

上記の工事により設置される蓄電池設備は、太陽光発電設備等で発電するなどした電気を蓄えて、地震等の災害が発生し、電力会社からの電力供給が遮断された際に、防災拠点施設において必要な機能を確保するためのものである。

(3)蓄電池設備の耐震性等

貴省が事業主体に対して示した「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業の取扱いについて」(平成23年12月環境省総合環境政策局環境計画課通知)等(以下「取扱通知」という。)によれば、蓄電池設備については、地震等の災害時に、防災拠点施設において必要な機能を確実に確保する必要があることなどから、設置する蓄電池設備は施設等に附属する設備として床等に固定するなどとされている。そして、貴省によれば、防災拠点施設の耐震性とともに、蓄電池設備についても床等に固定することにより耐震性を確保する必要があるなどとしている。

また、蓄電池設備を含めた設備機器の具体的な耐震設計の方法等については、国、地方公共団体等が実施する設備機器の設置工事における技術上の指針として広く使用されている「建築設備耐震設計・施工指針」(国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人建築研究所監修。以下「耐震設計指針」という。)等に定められている。耐震設計指針等によれば、設備機器の設置に当たっては、地震時の移動、転倒等を防止して、耐震性を確保するために、設備機器に作用する水平力や鉛直力に応じて適切なアンカーボルトを選定して固定することなどとされている。そして、アンカーボルトの設計に当たっては、地震時に作用する引抜力(注1)が許容引抜力(注1)を上回らないようにすることとされており、設備機器を設置する施設等の種類や階数、設備機器の重要度等に応じて定められている係数である設計用標準震度を用いるなどして引抜力を算出することなどとされている。

(注1)
引抜力・許容引抜力 「引抜力」とは、機器等に地震力が作用する場合に、ボルトを引き抜こうとする力が作用するが、このときのボルト1本当たりに作用する力をいう。また、当該ボルトに作用することが許容される引抜力の上限を「許容引抜力」という。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

基金により実施する事業は、東日本大震災等を踏まえて、災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの導入等を支援することなどを目的とするものであり、これにより設置される蓄電池設備は、地震等の災害が発生し、電力会社からの電力供給が遮断された際に、防災拠点施設において必要な機能を確保するためのものであることから、その耐震性を確保しておくことは重要である。

そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、防災拠点施設に設置された蓄電池設備について、耐震性の確保が適切に行われているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、貴省本省及び23年度から25年度までの間に基金を造成した10事業主体(注2)において、106県市町村等が、24年度から26年度までの間に防災拠点施設計327施設で実施した太陽光発電設備等の整備工事(工事費計80億7268万余円、国庫補助金相当額計69億8851万余円)により設置した蓄電池設備計398基を対象として、耐震設計の内容等について、設計図書及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
10事業主体  京都府、秋田、山形、茨城、栃木、兵庫、和歌山、徳島、大分、宮崎各県

(検査の結果)

検査したところ、前記のとおり、取扱通知等では、蓄電池設備は施設等に附属する設備としてアンカーボルト等により床等に固定して、その耐震性を確保するなどとなっているものの、その固定方法や耐震設計の方法について準拠すべき具体的な指針や留意点等が明示されていないなどのため、蓄電池設備の耐震性の確保に係る取扱いが各県市町村等において異なっていた。

そして、6事業主体(注3)の24県市町村等(注4)が、24年度から26年度までの間に防災拠点施設計88施設で実施した太陽光発電設備等の整備工事(工事費計13億7152万余円、国庫補助金相当額計13億1126万余円)により設置した蓄電池設備計106基(工事費相当額計4億0679万余円、国庫補助金相当額計4億0292万余円)については、所要の耐震性が確保されておらず、地震等の災害時に、転倒するなどして破損するおそれがある事態が見受けられた。

これらを態様別に示すと、次のとおりである。

ア 耐震設計に関する検討を行っておらず蓄電池設備をアンカーボルト等により固定していない事態

(4事業主体18県市町村等)

4事業主体(注5)の18県市町村等は、24年度から26年度までの間に、防災拠点施設計75施設で実施した太陽光発電設備等の整備工事において、蓄電池設備の設置に当たり、耐震設計に関する検討を行っていなかった。このため、上記の工事により設置した蓄電池設備計92基(工事費相当額計3億0615万余円、国庫補助金相当額計3億0273万余円)は、コンクリート床等にアンカーボルト等で固定されておらず、所要の耐震性が確保されていない状態になっていた。

イ 蓄電池設備をアンカーボルトにより固定しているものの、耐震設計計算上の検討を全く又は十分に行っておらずアンカーボルトの選定が適切でない事態

(4事業主体7県市村)

4事業主体(注6)の7県市村は、24年度から26年度までの間に、防災拠点施設計13施設で実施した太陽光発電設備等の整備工事において、蓄電池設備の設置に当たり、蓄電池設備をアンカーボルトにより固定しているものの、アンカーボルトに係る耐震設計計算上の検討を全く行っていなかったり、耐震設計計算上の検討を十分に行わずに誤った設計用標準震度を用いてアンカーボルトの引抜力を算出したりなどしていた。このため、上記の工事により設置した蓄電池設備計14基(工事費相当額計1億0063万余円、国庫補助金相当額計1億0019万余円)は、アンカーボルトが適切に選定されておらず、所要の耐震性が確保されていない状態になっていた。

<事例>

秋田県は、平成25年度に、防災拠点施設である鹿角地域振興局庁舎において、太陽光発電設備等を整備する工事を、工事費2692万余円で実施している。同県は、本件工事で設置した蓄電池設備(高さ220cm、重量570kg、工事費相当額702万余円、国庫補助金相当額同額)の設置に当たり、耐震設計指針等を参考にするなどして耐震設計計算書を作成しており、設計用標準震度を1.0と設定してアンカーボルトの引抜力を算出するなどしていた。そして、同県は、同計算書に基づき蓄電池設備をアンカーボルト4本(径12mm、埋込長さ60mm)で床に固定すれば、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力が許容引抜力を上回らないことから、耐震設計計算上安全であるとしていた。

しかし、同県は、アンカーボルトの引抜力の算出に当たり、施設の種類や蓄電池設備の重要度等の耐震設計計算上留意すべき点について十分に検討していなかった。そして、上記の庁舎は災害応急対策活動に必要な施設であり、また、蓄電池設備は災害時において災害対策本部としての活動を行うために必要となる重要機器であることなどから、本件蓄電池設備に係る耐震設計計算を行う場合、設計用標準震度を2.0とすべきであった。そこで、改めて耐震設計計算を行ったところ、地震時にアンカーボルトに作用する引抜力は11.10kN/本となり、許容引抜力7.46kN/本を大幅に上回っていて、耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。

(注3)
6事業主体  秋田、山形、茨城、兵庫、大分、宮崎各県
(注4)
24県市町村等  秋田県、大館、男鹿、村山、水戸、高萩、那珂、坂東、稲敷、かすみがうら、桜川、神栖、行方、洲本、竹田各市、山本郡藤里、三種、南秋田郡五城目、井川、東置賜郡高畠各町、南秋田郡大潟、稲敷郡美浦、東臼杵郡椎葉各村、湖東地区行政一部事務組合
(注5)
4事業主体  秋田、山形、茨城、大分各県
(注6)
4事業主体  秋田、茨城、兵庫、宮崎各県

(是正及び是正改善を必要とする事態)

耐震設計に関する検討を行っておらず蓄電池設備をアンカーボルト等により固定していなかったり、蓄電池設備をアンカーボルトにより固定しているものの、耐震設計計算上の検討を全く又は十分に行っておらずアンカーボルトの選定が適切でなかったりしていて、蓄電池設備の所要の耐震性が確保されておらず、地震等の災害時に、転倒するなどして破損するおそれがある事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、蓄電池設備を設置した県市町村等において耐震性の確保等についての理解が十分でないこと、事業主体において市町村等に対する蓄電池設備の耐震性の確保に係る助言が十分でないこと、貴省において蓄電池設備の耐震性を確保するための準拠すべき具体的な指針や耐震設計計算上の留意点等を事業主体に明示していないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置

再生可能エネルギー等の地域資源を活用した災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの導入等を推進するために、防災拠点施設における蓄電池設備等の整備工事は今後も多数実施されることが見込まれている。

ついては、貴省において、県市町村等が基金により実施する事業により防災拠点施設に設置する蓄電池設備について、所要の耐震性を適切に確保し、もって地震等の災害時における防災拠点施設において必要な機能を確実に確保するよう、アのとおり是正の処置を要求し及びイのとおり是正改善の処置を求める。

  • ア 事業主体に対して、24県市町村等における蓄電池設備のうち耐震性が確保されていないものについて必要な耐震措置を講じさせること
  • イ 蓄電池設備の耐震性を確保するための準拠すべき具体的な指針、耐震設計計算上の留意点等を明示したガイドライン等を整備して、事業主体に対して周知徹底することにより、事業主体から管内の市町村等に対して耐震性を確保するための助言等を適切に行わせること