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  • 平成26年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第49 独立行政法人住宅金融支援機構|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

団体信用生命保険等業務について、団体信用生命保険への加入に伴う費用負担の軽減や加入を継続するための費用負担の平準化等の全体加入率を改善するための処置を講ずることにより、不加入者の死亡等を原因として発生する債権の償却から生ずる損失の抑制を図るよう改善させたもの


科目
(証券化支援勘定)買取債権(財形住宅資金貸付勘定)貸付金
(住宅資金貸付等勘定)貸付金(既往債権管理勘定)貸付金
部局等
独立行政法人住宅金融支援機構本店
団体信用生命保険等業務の概要
住宅ローンの貸付けを受けた者から特約料の支払を受け、借受者を被保険者とする団体信用生命保険契約を締結することにより、借受者の死亡時等に受け取った生命保険金等で当該貸付けに係る債務を弁済する業務
不加入者の死亡等を原因とした全額繰上償還請求が平成25年8月末時点で行われていたもののうち、25、26両年度末に償却が行われたものの件数及び償却額の合計
263件 19億2661万円(背景金額)

1 団体信用生命保険等業務の概要等

独立行政法人住宅金融支援機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人住宅金融支援機構法(平成17年法律第82号)に基づき、民間の金融機関(以下「金融機関」という。)が長期固定金利の住宅ローンを国民に提供することを支援するために、金融機関においてフラット35等の商品名で販売されている長期固定金利の住宅ローン(以下、この住宅ローンを「フラット35」という。)の債権を買い取るなどしている。そして、一般に住宅ローンについては、その貸付けを受けた者の死亡時等に、生命保険金等で当該貸付けに係る債務を弁済する団体信用生命保険(以下「団信」という。)があるが、機構は、フラット35の貸付けを受けた者等(以下、融資実行の前後を通じて「借受者」という。)から特約料の支払を受け、借受者を被保険者とする団信(以下、団信のうち、機構が取り扱う団信を「機構団信」といい、機構団信に加入する借受者を「加入者」という。)の契約を生命保険会社と締結して団体扱いの保険料を支払う団体信用生命保険等業務を実施しており、平成25年度当初の機構団信の保有契約件数及びその債権残高は181万余件、20兆4437億余円となっている。

これらの買い取った債権の管理や機構団信への加入の申込みの受付、特約料の徴収等の事務は、買取債権管理回収業務委託契約等に基づき当該フラット35等を販売した金融機関において行うこととなっている。そして、「債権管理業務の手引き(買取債権編)」(平成26年機構作成)によれば、機構から委託を受けた金融機関は、原則として借受者の延滞月数が6か月以上になると全額繰上償還請求を行うこととされており、その後、借受者が全額繰上償還できなければ担保物件の処分を行い、それでも債権の全額を回収できず返済が見込めない場合には、機構は、当該債権を償却することとされており、その償却額は最終的に機構の損失となる。

機構は、機構団信について、遺族の生活費等を賄うことを目的とする一般の生命保険とは異なり、借受者が死亡するなどした場合に、借受者の遺族等が残債務を返済するなどの負担を軽減するためのものであることから、借受者に対して、一般の生命保険への加入の有無にかかわらず加入することを推奨している。しかし、機構は、健康上の理由により機構団信に加入できない者にも住宅を取得する機会を確保できるよう配慮する必要があるため、加入を融資条件とはしていない。

機構団信の債務弁済充当約款によれば、機構団信の特約料は、住宅ローンの月々の返済とは別に債務残高に応じて毎年1年分を一括で支払うこととされており、特約料の支払がなく、継続の勧奨を行っても支払われない場合は、その加入者は脱退扱いとなり、再加入することはできないこととされている。そして、加入者の平均年齢の上昇に伴い生命保険会社に対して支払う機構団信の保険料率が上昇したことを踏まえて、機構は、20年4月に、21年度からの特約料率を従前の0.283%から0.360%へ引き上げることとしたことなどから、表1及び表2のとおり、新規の借受者のうち機構団信に加入する者の割合(以下「新規加入率」という。)が低下したり、特約料率の引上げ前と比べて、借入れから2年目を中心に、加入者のうち機構団信から脱退する者の割合(以下「脱退率」という。)が上昇したりしている。その結果、表3のとおり、全ての借受者のうち機構団信に加入している者の割合(以下「全体加入率」という。)が25年度には73.8%にまで低下している。

表1 新規加入率の推移

(単位:%)
年度 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
新規加入率 89.7 83.8 80.7 76.3 72.7 72.3

表2 借入れから5年目までの脱退率の推移

(単位:%)
年度 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
借入れから2年目の脱退率 1.45 4.53 7.08 4.54 4.20 4.03
借入れから3年目の脱退率 0.94 2.29 2.77 3.85 2.43 1.95
借入れから4年目の脱退率 0.82 1.83 1.72 2.09 2.76 1.72
借入れから5年目の脱退率 0.84 1.51 1.51 1.49 1.84 1.92

表3 全体加入率の推移

(単位:%)
年度 平成20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
全体加入率 82.8 81.5 79.8 78.0 76.1 73.8

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、全体加入率の低下が機構の債権の償却にどのような影響を与えているのか、全体加入率の低下に対する機構の対応は適切かなどに着眼して、機構団信に加入していない借受者(以下「不加入者」という。)の死亡等を原因とした全額繰上償還請求が25年8月末時点で行われていた債権904件のうち、25、26両年度末に償却が行われた263件を抽出し、これを対象として、機構本店及び11支店においてその債権管理書類等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、機構団信の不加入者の実態について、機構本店等に聴取したり、機構を通じて、63金融機関に対してアンケート調査を実施したりするなどして検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)全体加入率の低下による機構の債権の償却への影響

前記のとおり、機構は、加入者に係る債権については、加入者が死亡等した場合、原則として機構団信により債務が弁済されるため当該債権の全額を回収できる。しかし、不加入者に係る債権については、不加入者が死亡等した場合、借受者の遺族等による債務の弁済がなければ当該債権の全額を回収できずに償却することとなる事態も生ずる。

<事例>

借受者Aは、平成8年3月に2300万円の融資を受け、機構団信に加入したが19年3月に特約料の未払により脱退となり、24年2月に死亡した。

そして、融資対象物件であるAの自宅には、AのほかにAの配偶者Bが居住していたが、Bは本件融資金を返済できなかったため、機構は、26年6月に融資対象物件を競売により処分し、残元金1808万余円のうち305万余円を回収し、未回収元金1502万余円については、26年度末に償却した。

なお、Aは自宅を購入するに当たり、前記のほかに、金融機関Cからも融資を受けていたが、当該住宅ローンにおいては、団信への継続的な加入を融資条件としていたため、Cからの融資金については、24年6月に団信により弁済された。

そこで、不加入者に係る債権のうち、死亡等を原因として発生した償却の状況を確認するために、前記の263件の債権の償却額について検査したところ、その合計金額は19億2661万余円であった。

そして、表3のとおり、全体加入率は、20年度には82.8%であったが25年度には73.8%と低下傾向にあり、不加入者の割合が増加していることから、上記のとおり、借受者が死亡等しても機構団信による債務の弁済がなされず、今後、不加入者の死亡等を原因とする債権の償却が増加していく可能性が大きくなると考えられる。現に、不加入者の死亡等を原因として償却された債権の割合について確認したところ、20年度には全体の0.7%であったが、25年度には3.3%まで上昇していた。

(2)機構団信の新規加入率の低下及び脱退率の上昇への対応

新規加入率の低下の要因についてみると、機構団信に加入を申し込んだものの健康上の理由により加入できなかった者に係る債権の件数の割合は、表4のとおり、21年度以降は10%に満たず、22年度以降は5%前後で推移していた。

表4 機構団信に加入しなかった借受者に係る債権の件数の推移

(単位:件、%)
年度 A.新規借受者のうち、不加入者に係る債権の件数  
B.うち健康上の理由により加入できなかった者に係る債権の件数(B/A) C.うち左記以外の理由により加入しなかった者に係る債権の件数(C/A)
平成20年度 4,281件 709件(16.5%) 3,572件(83.4%)
21年度 9,087件 679件(7.4%) 8,408件(92.5%)
22年度 23,523件 1,339件(5.6%) 22,184件(94.3%)
23年度 28,178件 1,404件(4.9%) 26,774件(95.0%)
24年度 25,434件 1,416件(5.5%) 24,018件(94.4%)
25年度 21,968件 1,350件(6.1%) 20,618件(93.8%)

さらに、24年度に機構団信への加入を申し込まなかった新規借受者のうち2,000人を対象として、機構がその理由を調査した結果(有効回答者数410人)によれば、加入しなかった一番の理由として「健康上の理由により加入できないと見込まれる」を挙げた者の割合は12.5%となっている一方、「特約料が高い」など主として経済的な理由を挙げた者の割合は73.2%に上っていた。

また、脱退率の上昇の要因についてみると、機構を通じて金融機関に対して実施したアンケート調査によれば、借受者が機構団信を脱退した理由として「金銭的余裕がないので返済を優先させるため」を挙げた者の割合が63.6%、「特約料が高い」を挙げた者の割合が61.8%に上っていた。そして、その特約料の支払方法について、毎年1年分の特約料を一括で支払うことは借受者にとって負担感があるという意見が多数挙げられていた。

これらのことから、機構団信の新規加入率の低下及び脱退率の上昇の主な要因は、健康上の理由ではなく、「特約料が高い」などの経済的な理由によると認められた。

一方で、機構は、従前から金融機関に対して、借受者への機構団信の内容の事前説明や機構団信に加入できる借受者が不加入の意思表示を行った場合に加入を促す勧奨等を行うように要請し、金融機関もこれらの要請に応じて勧奨等を行うなど、全体加入率を改善するための対応を執っていたものの、その改善が見られない状況となっていた。

(1)及び(2)のとおり、全体加入率の低下に伴い、今後、機構団信による債務の弁済がなされず、債権が償却されることにより生ずる損失の増加が想定される一方、全体加入率の改善のために、機構が借受者の経済的な負担を軽減するような対応を十分に行わなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、機構において、全体加入率の低下の要因が主として経済的な理由によるものであることを踏まえた対応として、加入に要する経済的な負担を軽減するような方策の検討が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、機構は、29年4月を目途に新規の借受者から次のような取扱いを実施することを27年3月に決定し、その実施に向けて、金融機関への周知やシステム改修の手続等を開始する処置を講じた。

ア フラット35の借受者が死亡等した場合、機構団信の加入者については、債権の償却のリスクが発生しない一方で、不加入者については、そのリスクが発生することを踏まえて、不加入者がリスクを負担するよう両者の金利の設定方法を見直すことで、加入者の費用負担を実質的に軽減することとした。

イ 特約料について、フラット35の毎月の融資金利に含めて加入者から徴収することで、加入者の費用負担の平準化を図るとともに、機構団信からの脱退ができない仕組みとすることとした。