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  • 平成26年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第2節 国会からの検査要請事項に関する報告

<参考:報告書はこちら>

第2 東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況について


要請を受諾した年月日
平成24年8月28日
検査の対象
内閣府、文部科学省、経済産業省、環境省、原子力損害賠償支援機構(平成26年8月18日以降は原子力損害賠償・廃炉等支援機構)、東京電力株式会社
検査の内容
東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況についての検査要請事項
報告を行った年月日
平成27年3月23日

1 検査の背景及び実施状況

(1) 検査の要請の内容

会計検査院は、平成24年8月27日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月28日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

  • (一) 検査の対象

    内閣府、文部科学省、経済産業省、原子力損害賠償支援機構、東京電力株式会社等

  • (二) 検査の内容

    東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する次の各事項

    • ① 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況
    • ② 原子力損害賠償支援機構による資金援助業務の実施状況等
    • ③ 東京電力株式会社による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

(2) 25年報告及び25年報告以降の動向

本院は、上記の要請により25年次に実施した会計検査の結果について、25年10月16日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告し(以下、この報告を「25年報告」という。)、その概要を平成24年度決算検査報告に掲記した(平成24年度決算検査報告リンク4章2節第5参照)。

政府は、原子力災害からの福島の復興・再生を一層加速させるために、25年12月20日に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」を閣議決定している(以下、この閣議決定を「25年閣議決定」という。)。この中で、原子力災害から一日も早く福島を再生させることは国の責務であるとして、福島の再生のために必要な全ての課題に対して、国民の理解と協力を得ながら取り組んでいく姿勢が明らかにされた。そして、25年閣議決定において明らかにされた国の方針や、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)を取り巻く事業環境の変化を踏まえて、総合特別事業計画(以下「総特」という。)の内容を大幅に見直した新・総合特別事業計画が策定された。あわせて、原子力損害賠償支援機構法(平成23年法律第94号。26年8月18日以降は原子力損害賠償・廃炉等支援機構法。以下「機構法」という。)が改正され、原子力損害賠償支援機構(26年8月18日以降は原子力損害賠償・廃炉等支援機構。以下「機構」という。)に賠償支援業務に加えて廃炉等支援業務が追加された。

(3) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

ア 検査の観点及び着眼点

本院は、25年報告において、除染に係る費用の見通しとその負担が不透明であることや、柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽原発」という。)が25年9月末現在稼働していないなど、東京電力の業務運営が総特における見込みとは異なるものとなっていることなどのために、総特の大幅な改定が見込まれるなどの状況を踏まえた上で、25年度以降に実施された支援等について引き続き検査を実施して、検査の結果については取りまとめが出来次第報告することとした。

そこで、今回の検査では、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、それぞれ次の着眼点により検査を実施した。

  • ① 原子力損害の賠償に関する国の支援等はどのように実施されているか。特に、国の支援等に係る財政負担等はどのような状況になっているか、財政上の措置以外の国の支援等はどのような状況になっているか。
  • ② 機構が行う東京電力への資金交付等の資金援助等の業務はどのように実施されているか。機構が東京電力等から納付を受ける負担金の水準はどのように設定されているか、機構が引き受けた東京電力が発行した株式の処分を含めて、機構を通じて東京電力に交付された資金の回収の見通しはどのようになっているか。機構の決算はどのような状況になっているか。
  • ③ 原子力損害の賠償に関して、要賠償額の見通しはどのようになっているか、東京電力による賠償は適正かつ迅速に行われているか、除染に係る費用の負担はどうなっているか。東京電力の事業運営に関して、経営の合理化のためのコスト削減、資産売却等の方策や事業改革はどのように実施されているか、財務基盤の強化は図られているか、特別事業計画の作成後の状況の変化に適切に対応しているか。廃炉・汚染水対策における国と東京電力の役割分担はどのようになっているか、対策の適正かつ着実な推進が図られているか。東京電力の決算はどのような状況になっているか。

イ 検査の対象及び方法

本院は、検査に当たっては、内閣府、文部科学省、経済産業省及び機構による23年原発事故(注)に係る原子力損害の賠償の支援並びに東京電力による特別事業計画の履行のうち、原則として26年9月末までに実施された支援等を対象とした。

検査の実施に当たっては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき提出された計算証明書類、各機関から徴した関係資料、報告等により、専門家の意見も踏まえつつ、在庁してこれらの分析等を行うとともに、内閣府、文部科学省、経済産業省、環境省、機構及び東京電力において、関係書類を基に説明を受け、また、東京電力については福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)等にも赴き、303人日を要して、会計実地検査を行った。

(注)
23年原発事故  平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波の際に、福島第一原発において発生した、全ての交流電源が失われ、冷却機能を喪失するという重大な事故

2 検査の結果

(1) 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)の枠組みの下で行うこととされており、国が原子力損害の賠償に関する支援等に係る財政上の負担等をした額は、計4兆9002億余円となっている。このほか、国は、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関して計1892億余円の財政措置を講じている。

ア 国による財政上の措置等の状況

(ア) 原賠法に基づく措置の状況

国は、東京電力に対して、福島第一原発に係る原子力損害賠償補償契約による補償金として1200億円、福島第二原子力発電所に係る同契約による補償金として689億2666万余円を支払っている。

(イ) 国から機構に対する財政上の措置の状況

国は、機構に対して9兆円の国債を交付しており、機構の請求に応じて26年12月末までに計4兆5337億円を償還し、機構を通じて東京電力に対して同額を交付している。また、交付国債の償還のために借り入れるなどした借入金等は計4兆5822億余円となっていて、これに係る支払利息は、今後、償還期限が到来するものも含めて計106億2301万余円となっている。さらに、エネルギー対策特別会計電源開発促進勘定の平成26年度予算において、機構法第68条の規定に基づく機構への資金交付に充てるために350億円が計上されている。

イ 国による財政上の措置以外の支援等の状況

(ア) 原子力損害賠償紛争審査会及びADRセンターによる支援の状況

原子力損害賠償紛争解決センター(以下「ADRセンター」という。)における23年9月から26年9月末までの和解の仲介の申立てに係る取扱実績は、申立件数13,206件、処理件数10,408件となっていて、26年9月末現在で2,798件が未処理となっている。

(イ) 機構法附則の検討条項に係る進捗状況

機構法附則第6条第1項から第3項までの規定に基づく検討及び措置については、25年閣議決定や機構法の改正等、検討結果に基づく措置が講じられている事項もあるが、政府においてなお検討の途上にあり、その結果に基づく原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていない事項もある。

(2) 機構による資金援助業務の実施状況等

ア 機構及び東京電力による特別事業計画の作成等の状況

機構は、機構法の規定に基づき、東京電力と共同して、これまで数次にわたり交付国債による資金交付の前提となる特別事業計画を作成又は変更し、主務大臣である内閣総理大臣及び経済産業大臣の認定を受けている。そして、26年8月に変更の認定を受けた新・総合特別事業計画(以下、変更の認定を受けた新・総合特別事業計画を「第2次新・総特」といい、新・総合特別事業計画と第2次新・総特を総称して「新・総特」という。)においては、要賠償額の見通しが5兆4214億3900万円となったことを受けて、資金交付額は、原子力損害賠償補償契約に基づき支払われた1200億円を控除した5兆3014億3900万円となった。

イ 資金援助業務の実施状況

(ア) 東京電力が発行する株式の引受け等の状況

機構は、東京電力が発行する株式を1兆円で引き受けている。機構が引き受けた東京電力の種類株式を全て普通株式に転換して売却等する場合、機構が全ての売却等までに得ることになる対価の額は平均売却価額に約33.3億株を乗じて得られる額となる。そして、除染費用相当分(約2.5兆円)を株式の売却益で回収するには、平均売却価額が1,050円となることが必要となる。

(イ) 交付国債の償還請求及び賠償資金の交付の状況

機構は、東京電力からの要望に応じて交付国債の償還請求を行い、償還された分について東京電力に対して原子力損害の賠償に充てるための資金として交付しており、26年12月末までの交付額は、計4兆5337億円となっている。

ウ 機構への負担金の納付及び機構からの国庫納付の状況

(ア) 機構への負担金の納付の状況

25年度分の一般負担金年度総額は1630億円であり、各原子力事業者は同額を26年12月末までに納付している。25年度分の特別負担金について、機構は、26年3月20日の運営委員会で271億円と議決し、主務大臣はこれを認可した。その後、機構は、東京電力の25年度決算に係る経常利益の大幅な上振れを受けて、26年4月21日に特別負担金額を500億円に変更する議決を行い、主務大臣はこれを認可した。そして、機構及び資源エネルギー庁は、特別負担金に係る認可の事実のみを公表している。しかし、特別負担金の多寡が国民負担に影響を及ぼすものであることなどに鑑みると、機構は、各年度の額の算定に係る具体的な考え方を、東京電力の財務書表上の計数等、検討に際して考慮した諸要素を適宜用いるなどして、国民に対して十分に説明する必要がある。また、資源エネルギー庁は、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して十分に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督していく必要がある。

(イ) 機構からの国庫納付の状況

機構は、25年度の当期純利益の全額に相当する2097億8904万余円について、26年7月末と27年1月末に分けて国庫に納付している。

(ウ) 交付した資金の回収に係る試算

本院において、国が機構を通じて東京電力に交付した資金が、今後、どのように実質的に回収されるかなどについて、一定の条件を仮定して機械的に試算した。その結果、資金交付額が交付国債の額である9兆円になるとして、特別負担金の額を500億円とするなどした場合に9兆円を回収するのは、21年後の平成47年度から30年後の平成56年度までとなった。この場合、回収を終えるまでに国が負担することとなる支払利息は、約1032億円から約1264億円までとなり、原子力損害賠償支援資金への追加的な資金投入等が必要になる試算結果となった。

エ 機構の決算の状況

機構が主務大臣に提出し承認を受けた23年度の財務諸表は運営委員会で議決された財務諸表を修正したものであり、修正した財務諸表については運営委員会の議決を改めて経ていなかった。しかし、機構は、機構法で定める運営委員会の議決を改めて経る必要があったと認められる。

(3) 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

ア 原子力損害の賠償の状況

23年4月から26年12月までの東京電力の賠償金の支払額は、4兆5656億余円である。23年度から26年度までの4か年度の本賠償金1件当たりの平均支払額をみると、「個人」325万余円、「個人(自主的避難)」27万余円、「法人等」562万余円、「団体」1億9441万余円となっている。

「個人」及び「法人等」に係る賠償金について、請求受付から支払までに2年以上の期間を要した支払が見受けられたほか、「個人」に係る賠償金の支払について、4件、計109万余円の重複が見受けられた。東京電力は、賠償金の支払について機構のモニタリングを受けるとともに、従来、賠償金の適正な支払の確認に取り組んでいるとしているが、引き続き適切な賠償を実施するための取組に努める必要がある。

イ 特別事業計画に基づく東京電力の事業運営の状況

(ア) 経営の合理化のための諸方策の実施状況

a コスト削減の状況

(a) コスト削減の目標額と25年度の実績

東京電力は、24年度から「10年間で3兆3650億円を超えるコスト削減を実現する」としており、機構は、これを支援しつつ、「その進捗をモニタリングする体制」を執ることとしている。25年度のコスト削減額についてみると、目標額7862億円に対して、東京電力が算定して公表している実績額は8188億円となっている。この中には、外的要因によると認められる修繕工事等の繰延べによるコスト削減額等、算定及び公表について今後留意する必要のある事態が見受けられた。

(b) 調達委員会及び生産性倍増委員会によるコスト削減

調達委員会は25年度に20の調達分野を個別に審査し、東京電力はその結果を調達活動に反映したことによるコスト削減額を26年3月末時点で67億円と算定している。そして、東京電力は、同年9月に生産性倍増委員会を設置し、その最終報告で「コスト総点検」のまとめと今後の方向性を示している。

(c) コスト削減を実現させるための競争的発注方法の実施状況

東京電力は、25年度における競争的発注方法による契約の実績が件数で43.1%、金額で31.8%であり、新・総特の目標を達成したとしている。競争的発注方法による契約の比率が最も高い工務部門においては、架空送電工事及び地中送電ケーブル工事を発注しているが、これらの工事については、工事を受注した主要業者が談合を行っていたとして、25年12月に公正取引委員会が排除措置命令を行うなどしており、東京電力は被った損害に係る損害賠償請求を行うなどしている。また、本院は、談合等の抑止及び談合等が発生した場合の損害の早期かつ確実な回復を目的として、契約書に違約金条項を導入する必要がある旨を指摘し、これに対して東京電力が改善の処置を執ったことを平成25年度決算検査報告に「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として掲記した。

b 設備投資計画の見直し

新・総特においては、25年度から34年度までの設備投資額が総特における投資規模6兆5700億円から4兆6800億円に減少した。東京電力は、25年度の投資削減目標額1313億円に対して削減実績額が目標額を241億円上回る1554億円になったとしている。一方、設備投資削減額を原資とする投資の再配分については、柏崎刈羽原発における工事が繰延べとなったことなどにより、当初の計画額を大幅に下回る結果となったとしている。

c 資産売却・グループ会社合理化等

(a) 資産売却

総特においては、資産売却について、25年度までに「不動産、有価証券及び子会社・関連会社7074億円の売却」を目標としており、実績額は8122億円となっていて、東京電力は目標を達成したとしている。これらの中には、売却に当たり、東京電力が売却した子会社に一定期間継続して事務を委託することを約束していて、コスト削減に資するかどうか引き続き注視する必要のある事例が見受けられた。

(b) 子会社のコスト削減等の状況

総特においては、存続と判断した65社のうちの20社について、24年度から33年度までの10年間で計2478億円のコスト削減を行うこととなっている。さらに、新・総特においては、25年度から34年度までの10年間で計3517億円のコスト削減を行うこととなっている。

(c) 固定資産に計上されている核燃料

23年原発事故の後、東京電力の核燃料保有量は増加傾向にあり、柏崎刈羽原発が再稼働するまでは増加していくことになる。

d 希望退職による人員削減、組織フラット化等の人事改革

東京電力は、総特における25年度末までの人員削減の目標(連結で約7,400人、単体で約3,600人)を達成したとしている。

(a) 希望退職による人員削減

東京電力は、26年5月の希望退職者の募集に1,100人を超える応募者があり、これによる26年度の人件費削減額は85億円と見込まれるとしている。

(b) 組織フラット化

新・総特においては、社内カンパニー制及び管理会計の導入を踏まえて、26、27両年度に業務の集中化や見直しを行うことにより、約1,700人分の業務量削減効果を見込む「組織フラット化」を実施するとされている。

e HDカンパニー制導入に向けた社内カンパニーの戦略実施状況

(a) フュエル&パワー・カンパニー

柏崎刈羽原発が稼働していない現状においては、火力発電所が東京電力の発電電力量の95%以上を担っており、その発電原価の9割を占める燃料費を削減することが重要な経営課題となっている。

(b) パワーグリッド・カンパニー

スマートメーターの設置に至るまでの一時的対策として東京電力が実施した新料金プランの設定等に伴うメーターの調達について、需要想定が過大であったため、大量の過剰在庫が発生している事例が見受けられた。

(c) カスタマーサービス・カンパニー

ガス事業の収支は、これまでは赤字となる期が多かったが、直近の25年度においては含み損解消のための料金値上げにより、21年度以来4期ぶりに黒字に転換した。

(イ) 収支見通しの状況

a 収支の状況

新・総特に添付されている収支見通しと東京電力の25年度決算を比較すると、経常利益は決算額が見通しを上回っているものの、原子力損害賠償費の追加的発生等により税引前当期純利益は決算額が見通しを下回っている。

b 柏崎刈羽原発の状況と収支への影響

(a) 新規制基準に適合するための工事の進捗状況等

東京電力は、柏崎刈羽原発の再稼働のために、原子力発電所の規制に係る規則等(新規制基準)に適合するよう各種の安全対策を進めている。新・総特の収支計画は、柏崎刈羽原発の6号機及び7号機が26年7月から再稼働することを前提としていることから、東京電力は他の号機に先行して6号機及び7号機について対策工事を実施しているが、27年1月末現在で、いまだ工事の一部が完了していない。

(b) 再稼働の遅延による収支への影響

25年度の原油価格及び為替レートを前提とした6号機及び7号機がいずれも再稼働しなかった場合の営業費用への影響は、東京電力の想定を前提とすれば1年間で2880億円から4320億円程度になる。

c 財政状態及びキャッシュ・フローの状況と特別負担金

東京電力は、「2014年度東京電力グループアクション・プラン」において、社債市場への復帰を可能とする財務体質とするために、自己資本比率を28年度末に16%程度とするなどの目標を設定している。

新・総特においては、26年度以降の特別負担金を500億円と仮置きして収支見通しが作成されているが、28年度末に自己資本比率が16.0%になるように特別負担金を毎期700億円とすると、現金及び現金同等物の期末残高は最も少なくなる30年度で1755億円となる。

(ウ) 金融機関への協力要請等

a 新・総合特別事業計画の認定後の資金調達の状況

新・総合特別事業計画における要請を受けて、金融機関は、①与信を維持し、②一般担保による与信の総量は23年原発事故発生時における範囲を超えず、減少するよう運用するとともに、③機構及び東京電力と協議した上で、26年4月以降、原則として、返済期限が到来した借入金の借換えの際に短期の委託者向けローンを選択することにより、私募債形式によらない融資を行っている。

b 財務制限条項の状況

26年9月末において、東京電力及び東京電力グループの損益、純資産等に係る財務制限条項が付されているのは、私募債1兆2210億余円、借入金3217億余円、計1兆5428億余円となっているが、同月末までに判定値が2四半期連続して計画値を下回ったことはなく、同条項には抵触していない。

ウ 1~4号機の廃炉に向けた取組等

(ア) 1~4号機の廃炉に向けた取組

a 廃炉に向けた中長期的な取組等

福島第一原発の1号機から4号機まで(以下「1~4号機」という。)の廃炉作業に要する期間は、「東京電力(株)福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)によれば、30年から40年という長期にわたるとされている。

b 廃炉作業の進捗状況

東京電力は、中長期ロードマップ等に基づき廃炉作業を進めており、4号機については、26年12月に全ての燃料の共用プール等への移送作業を完了している。

(イ) 汚染水問題への対策等

a 汚染水問題に関する方針等

汚染水処理は、技術的難易度が高く、汚染水処理設備等を構成する装置等の中には、除染装置、蒸発濃縮装置、地下貯水槽及びフランジボルト締めタイプの中低濃度タンクのように、短期間で運転や使用を停止した装置等もあった。

b 汚染源を「取り除く」ための対策

東京電力は、2号機及び3号機のタービン建屋とトレンチとの接続部を凍結によって止水し、トレンチ内の汚染水を移送して水抜きした上で内部を充填する工法を計画し、実証試験により止水が成立することを確認した上で工事を実施したが、止水するまでには至らなかった。また、多核種除去設備による汚染水の浄化を行っている。

c 汚染源に水を「近づけない」ための対策

東京電力は、26年5月に、地下水バイパスによる地下水のくみ上げに係る取組を開始した。また、凍土方式の陸側遮水壁の構築については、経済産業省が汚染水処理対策事業費補助金により凍土方式遮水壁大規模整備実証事業として実施している。

d 汚染水を「漏らさない」ための対策

東京電力は、1~4号機の既設護岸の前面に海側遮水壁の設置と併せて地下水管理を行うための設備の設置も進めている。また、汚染水等を貯蔵するタンクの増設を進めている。

(ウ) 福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る東京電力の負担等

a 1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用

東京電力が負担する廃炉・汚染水対策費用のうち、毎年度経常的に発生する消耗品費等に計上される費用(以下「安定化維持費用」という。)は、電気料金の原価を算定する基礎となる営業費に算入することが認められており、その支出額は、24、25両年度で計543億余円となっている。廃炉・汚染水対策を進める上で必要となる研究開発費は、23年度から25年度までの計25億余円となっている。また、東京電力は、26年3月時点で、安定化維持費用及び研究開発費を除いた1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用の総額を計9712億余円と見込んでいる。そして、22年度から25年度までに対価を支払うなどした額は、計3455億余円となっている。

b 廃炉に係る会計制度の見直しと福島第一原発の廃炉・汚染水対策に要する費用の財務会計上の取扱い

25年度第3四半期決算における5号機及び6号機の廃炉に係る会計処理について、改正前の電気事業会計規則(昭和40年通商産業省令第57号)によれば、その簿価1485億余円を一括して費用計上することとされていたが、同規則の改正により、東京電力は、簿価1485億余円のうち1288億余円を廃止措置中も引き続き役割を果たす設備として引き続き資産に計上し、発電のみに使用する設備196億余円を特別損失として費用計上している。また、原子力発電施設解体引当金に関する省令(平成元年通商産業省令第30号)の改正により、廃止後の安全貯蔵期間にわたり定額法で原子力発電施設解体引当金を積み立てることとされたことから、25年度第3四半期においては、計4億余円を費用計上している。

(エ) 廃炉・汚染水対策に対する国の支援等

a 廃炉・汚染水対策に対する国の財政措置

国は、23年度以降、1~4号機の廃炉・汚染水対策に関する研究開発等、研究施設の整備及び実証事業に対して、計1892億余円の財政措置を講じている。

b 研究開発等への財政支援

委託事業による研究開発等についての事業数及び委託費は、23年度から26年度までの計18事業53億余円となっている。

補助事業による研究開発等についての事業数及び補助金額は、24年度から26年度までの計13事業48億余円となっている。

廃炉・汚染水対策事業による研究開発等については、「特定非営利活動法人地球と未来の環境基金」が基金設置法人として選定され、経済産業省から廃炉・汚染水対策事業費補助金214億余円の交付を受け、26年3月20日に廃炉・汚染水対策基金を造成した。しかし、当該基金設置法人に原子力分野に関する専門的知識を有する者は在籍しておらず、そのような者を在籍させるなどしておく必要がある。

また、基金補助事業の公募等の業務を実施する事務局法人に株式会社三菱総合研究所が選定され、同基金による廃炉・汚染水対策に資する技術の開発等計42事業が実施されている。このうち研究開発に関する17事業中15事業において、基金補助事業者の公募に対する応募者が技術研究組合国際廃炉研究開発機構の1者のみとなっていた。このように、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にあることを踏まえた上で、事務局法人においては、事業費が適正であるかを十分に確認する必要がある。

c 廃炉作業に関する研究施設の整備等

経済産業省は、25年3月に、遠隔操作機器等を開発・実証するための施設及び放射性物資の分析等を実施するための施設を整備するために、独立行政法人日本原子力研究開発機構に850億円を出資した。

d 汚染水対策に関する実証事業

経済産業省は、凍土方式遮水壁大規模整備実証事業及び高性能多核種除去設備整備実証事業に必要な経費について、汚染水処理対策事業費補助金を交付することとした。

エ 東京電力の決算の状況

(ア) 23、24両年度の決算

23、24両年度中に行われた資金交付に係る資金援助の申込額は、それぞれの年度における損益計算書に、特別利益である原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されるとともに、それぞれの年度末時点で未収となっている額が貸借対照表に未収原子力損害賠償支援機構資金交付金として計上されている。また、機構を引受先として発行した株式1兆円により、貸借対照表の資本金が5000億円、資本剰余金の中の資本準備金が5000億円増加している。

(イ) 25年度決算

収支の状況をみると、営業収益が前年度比11.7%増の6兆4498億余円となったことや、営業費用を4.3%増にとどめることができたことなどから、432億余円の経常利益を計上している。また、特別損益が3561億余円の利益となり、当期純利益は3989億余円となっている。

3 検査の結果に対する所見

東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援は、原賠法の枠組みの下で、国民負担の極小化を図ることを基本として、機構が東京電力に対して出資したり、原子力損害の賠償のための資金を交付したりすることなどにより、多額の財政資金を投じて実施されている。

25年閣議決定においては、原子力災害から一日も早く福島を再生させることは国の責務であるとして、福島の再生のために必要な全ての課題に対して、国民の理解と協力を得ながら取り組んでいく姿勢が明らかにされ、除染・中間貯蔵施設費用等に関する具体的な対応として、国と東京電力の役割分担が明確にされた。そして、25年閣議決定において明らかにされた国の方針や、東京電力を取り巻く事業環境の変化を踏まえて総特の内容を大幅に見直した新・総特が策定され、東京電力は、「責任と競争」の両立を基本に、賠償、廃炉、福島復興等の責務を全うしていくとともに、電力の安定供給を貫徹しつつ、新たなエネルギーサービスの提供と企業価値の向上に取り組むことなどが示された。あわせて、機構法が改正され、機構に賠償支援業務に加えて廃炉等支援業務が追加された。

新・総特における要賠償額の見通しは5兆4214億余円(第2次新・総特)となり、賠償の進捗や対象期間の延長に伴い引き続き賠償見積額の増加が見込まれるほか、25年閣議決定においては、除染費用、中間貯蔵施設費用がそれぞれ約2.5兆円、約1.1兆円と見込まれている。国から機構に対しては、原子力損害の賠償に必要な資金を東京電力に交付するために累計で9兆円の国債が交付されており、26年12月までに原子力損害を受けた者に支払われた賠償金の額は4兆5656億余円となっている。

東京電力は、電気料金改定等による収入の増加やコスト削減の実施による費用の抑制等により、25年度決算で機構から資金援助を受けるようになって以降初めて当期純利益を計上するなど財務状況について一定の改善がなされ、同年度分に係る特別負担金500億円を納付するに至った。一方、原子力発電所の停止に伴う燃料費の増大等の影響により、機構に一般負担金を納付する他の原子力事業者の中には複数年にわたり経常収支が赤字となっているものがあることや、運転期間が40年を超える原子炉の取扱いによっては、25年度分の一般負担金年度総額1630億円と同程度の金額を今後も維持することができるかについて注視する必要がある。

そして、このような状況の中で、25年閣議決定において、機構が保有する東京電力の株式を売却し、それにより生ずる利益の国庫納付により除染費用相当分等の回収を図るとされたことから、東京電力の株式をできる限り早期に、かつ、高い価格で売却することは、国民負担の極小化や、機構法の本来の仕組み、すなわち、原子力事業者から納付される一般負担金により機構に積立てを行い、原子力事故が発生した後の資金援助の財源にするという仕組みが早期に機能することに大きく貢献する。しかし、株式を高い価格で売却できるようにするために、財務状況の更なる改善、内部留保の蓄積、キャッシュ・フローの確保等により企業価値の向上に東京電力が取り組むことは当然としても、その取組は決して容易ではなく、また、実際の売却価格は様々な要素により決まるもので、高い価格での売却は確実なものではない。

したがって、上記のような点を踏まえた上で、今後、文部科学省は次の(1)アの点に、経済産業省は次の(1)イの点にそれぞれ留意して原子力損害の賠償に関する支援等を実施し、機構は次の(2)の点に留意して資金援助業務等を実施し、また、東京電力は次の(3)の点に留意して原子力損害の賠償その他の特別事業計画を履行していく必要がある。

(1) 原子力損害の賠償に関する国の支援等の状況

ア 文部科学省において、

  • (ア) ADRセンターにおける和解の仲介の申立てに係る未処理件数が大幅に減少するには、なお時間を要すると考えられることから、処理の促進のために引き続きADRセンターの体制整備等に努める。
  • (イ) 原賠法の改正等の抜本的な見直しなどの必要な措置を講ずるまでには至っていないことから、原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方について検討を加えるなど機構法附則において求められている事項を早期に達成できるよう努める。

イ 経済産業省において、

  • (ア) 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の認可に当たっては、「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえて、国が機構を通じて交付した資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に十分に配慮する。また、機構が特別負担金の額を主務省令で定める基準に従って定めたことについて国民に対して十分に説明していくよう、内閣府と共に機構を監督する。
  • (イ) 廃炉・汚染水対策において、基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にある場合には、事務局法人に事業費が適正であるかどうかを十分に確認させるようにする。

(2) 機構による資金援助業務の実施状況等

機構において、

ア 東京電力におけるコスト削減等の経営合理化や原子力損害の賠償の実施に関するモニタリングを引き続き的確に実施するなどして、引き続き、東京電力による特別事業計画の確実な履行を支援する。

イ 一般負担金年度総額や東京電力の特別負担金額の検討に当たっては、「国民負担の極小化を図ることを基本とする」という考え方を踏まえて、国が機構を通じて交付した資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に十分に配慮する。また、特別負担金の額が東京電力に対して「経理的基礎を毀損しない範囲でできるだけ高額の負担」を求めたものであることについて、各年度の額の算定に係る具体的な考え方を、東京電力に係る財務諸表上の計数等、検討に際して考慮した諸要素を適宜用いるなどして、国民に対して十分に説明する。

(3) 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

東京電力において、

ア 本賠償未請求者に対する働きかけを継続して、未精算状態を早期に解消する。賠償金の支払の重複が生ずることのないよう、引き続き、審査体制の強化に取り組む。

イ 経営の合理化に向けて、実質的な効果のあるコスト削減により一層取り組むとともに、売却に至っていない資産の売却に引き続き取り組む。子会社の売却に当たっては、一定期間の業務委託を約定した売却が、実質的なコスト削減に資するかどうか確認する。

ウ 廃炉・汚染水対策において、実証試験と実際の工事の結果が異なった原因を明確にし、今後の実証試験での条件設定等に活用する。

東京電力の企業価値の向上は、今後、28年度末に機構によって実施される「責任と競争に関する経営評価」によって検証されることとなっている。また、23年度以降多額の財政措置が講じられて実施されている廃炉・汚染水対策については、機構に廃炉等支援業務が追加されており、機構の指導の下で、適切な事業の実施と確実な成果が求められる。

本院としては、26年度以降に実施された支援等について引き続き検査を実施して、検査の結果については、上記の28年度末に実施される「責任と競争に関する経営評価」による検証や廃炉・汚染水対策の実施状況等を踏まえた上で取りまとめが出来次第報告することとする。