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  • 平成26年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第1 各府省等における情報システムに係るプロジェクト管理の実施状況等について


検査対象
19府省等
検査の対象とした契約の概要
業務アプリケーションの新規開発又は更改を行っていた情報システムに係る、設計・開発、ハードウェア等の賃借又は購入、運用・運用サポート、保守、プロジェクト管理支援の各業務の契約
検査の対象とした情報システムのシステム数、契約件数及び支払金額
102システム
282件 1883億2433万円(平成24年度~26年度)

1 検査の背景

政府は、情報システムに係る調達において、サービス市場における自由で公正な競争を促し、真の競争環境を実現するとともに、調達手続のより一層の透明性・公平性の確保を図るために、「情報システムに係る政府調達の基本指針」(平成19年3月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定。以下「基本指針」という。)を策定して、基本指針に沿って情報システムに係る調達を進めてきた。

基本指針では、情報システムに係る政府調達においては、情報通信技術の進展に伴い、多様な技術や製品によって設計・開発あるいは将来の改修を行うことが可能な柔軟性のある情報システムの構築が可能となってきた一方で、競争環境が適切に確保されていないのではないかといった調達手続上の課題や、調達工程の進捗管理や調達成果物の品質管理が適切に行えていないのではないかなどといった調達管理上の課題等、従来の課題がいまだに解決されていない状況にあるとしていた。

その後、政府は、「世界最先端IT国家創造宣言」(平成25年6月閣議決定)等に基づき、政府情報システムの標準的な整備及び管理について、その手続・手順に関する基本的な方針及び事項、政府内の各組織の役割等を定める体系的なルールとして、従来の基本方針等を統合・整理するなどして、平成26年12月に「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」(各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定。以下「ガイドライン」という。)を決定し、27年4月から施行している。また、ガイドラインの内容を補完するなどのために、27年3月に「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン実務手引書」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室及び総務省行政管理局作成。以下「実務手引書」という。)を作成している。

ガイドラインにおいては、情報システムは単なる行政事務処理上の道具ではなく、行政運営の中核を成す基盤として存在するに至っており、情報システムを業務の見直しも通じて効率的かつ効果的に整備及び管理することが電子政府の構築につながり、「世界最先端IT国家」の実現につながるものであるとして、各府省及び政府全体におけるITガバナンスを強化することが重要であるとしている。

ガイドラインでは、政府情報システムにおけるITガバナンスとは、内閣情報通信政策監及び各府省の情報化統括責任者を中心とする体制において、政府情報システムの整備又は管理のための全ての活動、成果及び関係者を適正に管理し、電子政府の構築と世界最先端IT国家への実現へと導く仕組みを組織に組み込むことであるとしている。そして、ガイドラインにおいては、組織、人材、各種計画、予算関係、管理等について規定した上で、ITガバナンスを確保する上では、これらと相互に密接不可分の関係にあるとして、プロジェクト管理等のITマネジメントについて規定している。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

これまで、各府省等における情報システムの整備等には、多額の国費が投じられている。一方、本院は、各府省等の情報システムについて、過去の検査報告において、基本設計工程の遅延等からシステムが完成して稼動する見通しが立たない状況となっていて所期の目的の達成が困難となっているものや、情報システムの構築に必要な入力情報、処理過程及び出力情報といった基礎的な情報の詳細が受注者に適切に提供されなかったなどのため、作業が中断して契約が履行途中で解除となり所期の目的が達成されなかったものなど、多数の不適切な事態を掲記している。そして、これらの事態がプロジェクト管理や、設計・開発工程において発注者に求められる役割等が適切に行われなかったことに起因して生じていることを明らかにしている。また、情報システムの調達の中でも、各府省等における個別の業務を実施するためのソフトウェア(以下「業務アプリケーション」という。)の新規開発及び更改は、設計・開発工程での遅延、停滞等の支障を生ずるリスクが高く、契約後の工程管理等を特に適切に行うことが求められる(参照)。

こうした状況の中で、従来の基本指針等が統合・整理等されて、ガイドラインが27年4月に施行されるなどしたことから、これまでの各府省等における情報システムに係るプロジェクト管理の状況等を総括した上で、今後、ガイドライン等に沿って、各府省等がITガバナンスの強化のために取り組んでいくことが重要と考えられる。

図 一般的な業務アプリケーションの設計・開発工程等

一般的な業務アプリケーションの設計・開発工程等

そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。

ア 情報システムの調達に係る契約方式、入札等の状況はどのようになっているか。

イ 情報システムの調達のうち、設計・開発工程におけるプロジェクト管理の状況、発注者に求められる役割への対応状況等はどのようになっているか。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、19府省等(注1)の本省、外局等における、24年度から26年度までの間の年間支払金額の合計が1億円以上となっている情報システムのうち、業務アプリケーションの新規開発又は更改を行っている情報システムについて、次の①から⑤までの業務を実施している支払金額1000万円以上の契約(26年度は26年10月末までに契約を締結しているもの)を対象にして、提出を受けた調書等の資料を分析するなどして検査するとともに、15府省等(注2)において関係資料を確認するなどして会計実地検査を行った。

  • ① 業務アプリケーションの設計・開発業務
  • ② 業務アプリケーションを稼働させるためのサーバ等のハードウェア等の賃借又は購入
  • ③ 情報システムの運用業務・運用サポート業務
  • ④ 業務アプリケーション等の保守業務
  • ⑤ プロジェクト管理支援業務
(注1)
19府省等  内閣官房、内閣府本府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、参議院、国立国会図書館、最高裁判所、会計検査院
(注2)
15府省等  内閣官房、内閣府本府、警察庁、総務省、法務省、外務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、最高裁判所、会計検査院

3 検査の状況

(1) 対象契約の契約方式等の状況

ア 対象契約の概況

検査の対象とした情報システムのシステム数、契約件数、契約金額及び支払金額は、表1のとおり、計102の情報システム、282件、3368億4068万余円及び1883億2433万余円となっている。

表1 府省等別の情報システム数、契約件数、契約金額及び支払金額

(単位:件、百万円)
府省等名 情報システム数 契約件数 契約金額 支払金額
平成24年度 25年度 26年度
内閣官房 2 3 13,436 5,212 5,212
内閣府本府 4 8 830 88 477 565
警察庁 5 12 14,519 398 794 2,809 4,003
金融庁 2 7 4,550 1,075 1,140 720 2,935
総務省 12 30 12,737 1,771 2,598 2,689 7,059
法務省 8 21 17,091 187 2,318 5,371 7,877
外務省 2 9 7,917 1,086 1,217 1,764 4,068
財務省 9 41 125,879 28,395 22,758 22,712 73,866
文部科学省 3 7 1,931 490 342 367 1,201
厚生労働省 13 36 51,290 9,381 10,116 9,062 28,561
農林水産省 5 17 3,283 473 653 872 2,000
経済産業省 3 11 4,068 754 1,017 829 2,601
国土交通省 15 33 50,060 9,358 10,306 10,119 29,784
環境省 4 9 1,069 527 165 231 923
防衛省 7 14 23,365 6,324 3,068 5,465 14,858
参議院 2 4 2,676 324 371 334 1,030
国立国会図書館 2 7 606 138 67 252 458
最高裁判所 3 5 969 485 425 911
会計検査院 1 8 555 12 190 201 404
102 282 336,840 60,700 57,702 69,921 188,324
(注)
契約金額欄及び支払金額欄の数値は、単位未満を切り捨てているため、各欄を集計しても計欄の数値と一致しないものがある。

イ 契約方式、入札等の状況

検査の対象とした282契約の契約方式は、表2のとおり、一般競争契約の割合が契約件数で81.2%、契約金額で77.5%となっていて、随意契約の割合に比べて高い割合となっている。競争の利益を十分に享受するためには、より多数の者が応札する状況の下で競争が行われることが重要であると考えられるが、一般競争契約のうち、応札者が1者(以下「1者応札」という。)のものの割合が契約件数で61.9%、契約金額で88.3%を占める状況となっている。

そして、落札率(契約金額の予定価格に対する比率をいう。以下同じ。)については、予定価格の妥当性や契約方式それぞれの特性等から、その高低だけをもって一律に評価できない面はあるものの、契約の競争性や予算執行の経済性及び効率性を評価する際の指標の一つと考えられる。そこで、一般競争契約における平均落札率(注3)の状況をみると、表2のとおり、1者応札の場合は95.0%となっていて、応札者が複数(以下「複数応札」という。)の場合の67.9%に比べて相当高い状況となっている。

(注3)
平均落札率  各契約の落札率の合計を契約件数で除したもの

表2 契約方式及び入札等の状況

(単位:件、百万円、%)
契約方式 契約件数
(構成比)
契約金額
(構成比)
平均落札率 一般競争契約における割合等
  契約件数 契約金額 平均落札率
一般競争契約 229
(81.2)
239,042
(77.5)
84.4 1者応札 61.9 88.3 95.0
複数応札 38.0 11.6 67.9
随意契約 53
(18.7)
69,301
(22.4)
99.1
282
(100.0)
308,344
(100.0)
87.1
(注)
変更契約に伴う契約金額の変更分は含めていないため、表1の契約金額とは一致しない。

(2) 情報システムにおけるプロジェクト管理等の状況

ア 設計・開発工程におけるプロジェクト管理

前記のとおり、ガイドラインにおいては、各府省及び政府全体におけるITガバナンスの強化が重要であるとしており、組織、人材、各種計画、予算関係、管理等について規定した上で、ITガバナンスを確保する上では、これらと密接不可分の関係にあるとして、プロジェクト管理等のITマネジメントについて規定している。

そして、プロジェクト管理は、情報システムを整備するプロジェクトにおいては、その対象範囲を明確にするとともに、課題を整理した上で、リスクを踏まえて遂行するために行うものとされている。

実務手引書によれば、プロジェクトの対象範囲の明確化とは、誰(発注者、受注者等)が何をいつ実行するのか及び成果物を具体的に示すこととされており、WBS(注4)を用いるなどして、作業項目とスケジュールを可能な限り具体的に記載するとともに、最終的には、プロジェクトの関係者間で認識を共有して、プロジェクト開始後のトラブルの発生の回避に努めることとされている。

(注4)
WBS  Work Breakdown Structureの略。プロジェクトにおいて実施すべき全ての作業を、具体的な進捗状況や工数の投入実績値を把握できる単位にまで詳細化して、階層構造で表したもの

また、実務手引書によれば、課題を整理するとは、プロジェクトの前提や制約となる条件等の問題について、その対応方針及び対策を課題として整理して、当該プロジェクトの関係者間で共有することにより、個々の課題の対応責任者、解決までの期限、解決に至る状況等を明確にして着実に課題を解決することとされている。

さらに、実務手引書によれば、プロジェクトの目標の達成を阻害する予期し得ない事態であるリスクについては、顕在化の時期やその正確な内容をあらかじめ特定することはできないが、事前に考えられるリスクを想定して予防策や発生時の対応等を検討しておくほか、リスクが顕在化した場合には関係者間で情報を共有しつつ、対応手順に従った適切な対応を行うことが肝要であるとされている。

また、ガイドラインによれば、プロジェクトの最小単位は、情報システムのライフサイクル期間を基本とするが、作業の管理を適正に行うために、必要に応じて一つのプロジェクトを階層化して、それぞれをサブプロジェクトとして扱うことができるとされており、その分割の単位は、実務手引書によれば、プロジェクトの工程(設計・開発、運用、保守等)等であり、一般的に調達単位の基準になるとされている。

そこで、検査の対象とした前記282件の契約のうち業務アプリケーションの設計・開発を行っている133契約について、設計・開発工程におけるプロジェクト管理の実施状況等をみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) プロジェクト管理の実施状況

a プロジェクト管理の調達仕様書への記載状況

ガイドラインによれば、発注者は、設計・開発を計画的に実施するために、契約締結後、設計・開発業者とともに、設計・開発実施計画書及び設計・開発実施要領(以下、これらを合わせて「設計・開発実施計画書等」という。)を作成することとされている。そして、同計画書には作業体制、スケジュール等について、また、同要領には工程管理(進捗管理を含む。)、リスク管理、課題管理等の設計・開発工程の管理手法等について、それぞれ記載することとされている。したがって、設計・開発実施計画書等の作成等について、調達仕様書に記載して設計・開発業者とともに確実に実施することが重要である。

そこで、調達仕様書における設計・開発実施計画書等の作成についての記載状況をみたところ、設計・開発実施計画書等を作成することを記載していない契約が12件見受けられた。また、進捗管理の実施とその報告を受けることを記載していない契約が16件、リスク管理の実施とその報告を受けることを記載していない契約が68件、課題管理の実施とその報告を受けることを記載していない契約が47件見受けられた(表3参照)。

表3 設計・開発実施計画書等の作成並びに進捗管理、リスク管理及び課題管理の実施とその報告を受けることに関する調達仕様書への記載状況

(単位:件)
府省等名 契約件数  
設計・開発実施計画書等の作成 進捗管理の実施とその報告 リスク管理の実施とその報告 課題管理の実施とその報告
仕様書に記載あり 仕様書に記載なし 仕様書に記載あり 仕様書に記載なし 仕様書に記載あり 仕様書に記載なし 仕様書に記載あり 仕様書に記載なし
内閣官房 2 2 0 2 0 2 0 2 0
内閣府本府 7 7 0 7 0 3 4 7 0
警察庁 7 7 0 7 0 0 7 0 7
金融庁 4 4 0 4 0 3 1 4 0
総務省 13 13 0 13 0 8 5 12 1
法務省 10 10 0 7 3 6 4 6 4
外務省 4 4 0 4 0 2 2 4 0
財務省 14 14 0 14 0 8 6 10 4
文部科学省 3 3 0 3 0 2 1 2 1
厚生労働省 16 16 0 12 4 10 6 11 5
農林水産省 6 3 3 4 2 1 5 2 4
経済産業省 4 4 0 4 0 1 3 4 0
国土交通省 20 13 7 18 2 8 12 12 8
環境省 4 4 0 4 0 2 2 2 2
防衛省 9 9 0 7 2 2 7 0 9
参議院 3 1 2 1 2 1 2 1 2
国立国会図書館 3 3 0 2 1 2 0 3 0
最高裁判所 3 3 0 3 0 1 1 2 0
会計検査院 1 1 0 1 0 1 0 1 0
133 121 12 117 16 63 68 85 47
(注)
調達仕様書の記載内容から記載の有無が判断できないものを除外している。

b 進捗報告の頻度の状況

進捗管理については、調達仕様書において進捗管理の実施を記載していた契約が117件見受けられた。そして、上記117件の契約について、進捗報告の頻度をみると、表4のとおり、週ごとの報告としていた契約が40件と最も多くなっていた一方、隔週ごとの報告としていた契約が23件、月ごとの報告としていた契約が30件、その他の頻度としていた契約が12件、特に明記していない契約が12件見受けられた。

表4 調達仕様書における進捗報告の頻度

(単位:件)
契約金額 契約件数  
週ごと 隔週ごと 月ごと その他 特に明記していない
1億円未満 28 6 7 8 4 3
1億円以上2億円未満 19 6 3 7 2 1
2億円以上3億円未満 9 2 2 2 1 2
3億円以上4億円未満 14 10 1 1 1 1
4億円以上5億円未満 9 4 3 1 1 0
5億円以上 38 12 7 11 3 5
117 40 23 30 12 12

c 工程管理の実施状況

工程管理については、実務手引書によれば、設計・開発実施要領にWBSに基づく管理手法を記載することとされており、当該WBSは、設計・開発段階において必要な作業項目を特定して、作業内容及びスケジュールを詳細に階層化して記載することとされている。しかし、実務手引書によると、プロジェクトの開始時に設計・開発の全ての工程を詳細化することは困難であるため、WBSは、設計・開発の進捗に合わせて、その詳細化を進めることが望ましいとされている。そして、その際の留意点として、作業項目の粒度をそろえて、極力5人日程度まで詳細化することなどとされており、作業の進捗に合わせて適宜のタイミングで作業項目が詳細化されることにより、きめ細やかな進捗管理ができるなどとされている。

そこで、WBSの作業項目の具体的な作業人日数(以下「工数」という。)が確認できた29契約について、その工数の規模を確認したところ、基本設計工程において、WBSの全ての作業項目の工数を1人日以下に詳細化していた契約が見受けられた一方、作業項目の工数が最小でも72人日、最大で1,440人日となっていた契約も見受けられた。また、開発から結合テストまでの製造工程において、WBSの作業項目の工数を最大でも5人日にまで詳細化していた契約が見受けられた一方、作業項目の工数が最小でも58人日、最大で3,421人日となっていた契約も見受けられた。

さらに、実務手引書によれば、進捗管理の手法として、WBSにより詳細化した各作業項目に基づいて、作業状況を客観的な統一尺度で可視化及び一元管理するEVM(注5)を用いることで、プロジェクトの進捗状況や進捗に係る課題及び問題を把握することができることにより、事前に的確な対応を行うことが可能となるとされている。

(注5)
EVM  Earned Value Managementの略。コスト、スケジュール等について、計画と実績の差異を測定して、今後の推移を予測することで、プロジェクト完了時のコストや完了までのスケジュールが推定できる進捗管理の手法であり、コスト超過やスケジュール遅延等を分析することにより、プロジェクトの問題点を把握できる。

そこで、WBSを作成した上でEVMを用いて進捗管理を受注者に実施させているか確認したところ、71契約において実施させており、さらに、このうち28契約においては、設計・開発工程の作業項目ごとの進捗状況等を可視化することで遅延の発生等を把握して、適切な対処を行うことができるガントチャート(注6)による進捗管理をEVMと併せて受注者に実施させていた。

(注6)
ガントチャート  作業計画等を横型棒グラフで示した工程管理図であり、作業項目の開始日から完了日までの期間を横棒グラフで示した上で、実際の進捗状況や作業項目間の依存関係を記載するなどしてプロジェクトの進捗状況を視覚的に表すことができることから、プロジェクト管理や生産管理等で工程管理に用いられる。

d リスク管理の実施状況

リスクを整理するためのリスク管理表を設計・開発業務の成果物等としていた36契約について、リスク管理表の記載事項を確認したところ、事前に考えられるリスクについての評価を記載していない契約が6件、当該リスクに対する予防策や発生時の対応策を記載していない契約が2件見受けられた。

e 課題管理の実施状況

課題を整理するための課題管理表を設計・開発業務の成果物等としていた64契約について、課題管理表の記載事項を確認したところ、課題に対する重要度を記載していない契約が17件、課題に対する対応者を記載していない契約が2件見受けられた。

(イ) 設計・開発工程の遅延状況

設計・開発工程の遅延状況について確認したところ、進捗管理表等において設計・開発の工程別の進捗状況が確認できた98契約のうち、52契約においては調達仕様書等における工程別完了予定日と比較して、実際の工程に遅延が生じていた。そして、工程別の遅延状況は、表5のとおり、基本設計工程までの工程において最も遅延が多く生じており、詳細設計工程までの工程において遅延がピークに達しているものの、その後、総合テスト工程までの工程において遅延は大きく解消されているほか、その後の工程においても緩やかに解消される傾向が見受けられた。

表5 設計・開発における工程別の遅延状況

(単位:件)
府省等名 契約件数 遅延の生じた工程
基本設計までの工程 詳細設計までの工程 総合テストまでの工程 受入テストまでの工程 運用開始時
内閣府本府 2 2 1 0 0 0
警察庁 2 1 2 2 2 0
金融庁 2 2 0 1 0 0
総務省 6 4 5 2 3 0
法務省 1 0 1 0 0 0
外務省 4 1 3 3 2 1
財務省 9 5 8 2 2 0
文部科学省 1 1 1 1 1 1
厚生労働省 3 1 1 0 1 2
農林水産省 2 1 0 0 1 1
経済産業省 2 0 0 1 1 1
国土交通省 10 7 8 3 0 0
防衛省 1 1 1 0 0 0
参議院 3 3 2 3 0 0
国立国会図書館 2 0 0 2 0 0
最高裁判所 2 1 1 0 0 0
52 30 34
(+4)
20
(△14)
13
(△7)
6
(△7)
(注)
括弧書きの値は、前工程で遅延が生じた契約から、現工程で遅延が解消した契約を減じ、現工程で新たに遅延が生じた契約を加えた数を表している。

基本設計工程は、設計工程の中でも、特に受注者による発注者への業務内容等についての聴取等、発注者やその関係者との調整、合意等のための作業が多く必要とされる工程であり、一方、詳細設計工程終了後から総合テストまでの工程は、発注者の関与が比較的少なく受注者の作業が主となる工程であるが、前者の工程で生じた多くの遅延が後者の工程において解消されている傾向となっていた。そして、このような状況は、詳細設計までの工程で生じた遅延がその後の工程を圧迫していて、情報システムの品質の確保に悪影響を及ぼすおそれがあると考えられる。

イ 設計・開発工程において発注者に求められる役割

実務手引書では、情報システムの設計・開発は、技術的な専門性を有する作業であり、政府情報システムに関しては主に設計・開発業者が作業を行うことが一般的であり、発注者が作成した調達仕様書及び要件定義書により調達を行うために、設計・開発業者の責務は、契約に基づきこれらを満たすこととなるとしている。しかし、要件定義書等において求めた要求水準を確実に満たすためには、このような契約関係をよりどころにするだけでなく、設計・開発実施計画書等により作業の進め方や管理方法を定めた上で、特に要件定義の内容が設計に確実に反映されるよう、発注者が設計や受入テストに積極的に関与することが重要となるとしている。

そこで、検査の対象とした前記282件の契約のうち業務アプリケーションの設計・開発を行っている133契約について、設計・開発工程における発注者の関与が適切に行われているかみたところ、次のとおりとなっていた。

(ア) 基本設計工程

業務アプリケーションの設計・開発では、基本設計工程において、発注者が作成した業務要件等を記載した要件定義書の内容を設計・開発業者が理解するとともに、発注者が、設計・開発業者から設計の検討内容の報告を受けるなどして、その内容を確認した上で設計・開発を進める必要がある。そして、そのためには、発注者が設計・開発業者の設計内容や検討状況等を確認するための仕様検討会議等の開催について、調達仕様書に記載して確実に実施させることが重要である。

しかし、32契約では、基本設計工程において、仕様検討会議等を開催することを調達仕様書等に記載していなかった。また、仕様検討会議等を開催することを記載していた83契約についてみると、会議の開催を週2回以上としていた契約が3件、週1回としていた契約が19件、隔週としていた契約が6件、その他の頻度としていた契約が36件、開催頻度を特に明記していない契約が19件となっていた。

(イ) 受入テスト工程

業務アプリケーションの設計・開発では、通常、設計・開発業者が情報システムの結合テスト、総合テスト等を終了した後に、発注者が受入テストを行っている。受入テストは、構築した情報システムが調達仕様書に記載された要件に適合しているかどうかを発注者が検証する最終段階のテストであり、実際に業務で使用するデータや操作方法により実施等する重要な工程である。そして、受入テストには、設計・開発業者の支援、調整等が必要となることから、発注者が行う受入テストに対する受注者の支援等について調達仕様書に記載することにより確実に実施させることが重要である。

しかし、表6のとおり、24契約では、調達仕様書において、受入テストに対する受注者の支援等を記載していなかった。さらに、このうち、10契約については、発注者が設計・開発業者と共に作成した設計・開発実施計画書等においても、受入テストに対する受注者の支援等を記載していなかった。

表6 仕様検討会議等の開催状況、受入テストに対する受注者の支援、テスト計画書及びテスト結果報告書に関する調達仕様書等における記載状況

(単位:件)
府省等名 契約件数  
仕様検討会議等の開催を記載していなかったもの 仕様検討会議等の開催を記載していたもの   受入テストの支援等を記載していなかったもの テスト計画書の作成を記載していなかったもの テスト結果報告書の提出を記載していなかったもの
仕様検討会議等の開催頻度
週2回以上 週1回 隔週 その他 特に明記していない 調達仕様書  
設計・開発実施計画書等
内閣官房 2 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0
内閣府本府 7 0 7 0 3 3 1 0 0 0 0 0
警察庁 7 0 7 0 0 0 0 7 0 0 0 0
金融庁 4 2 2 0 1 0 0 1 2 1 0 1
総務省 13 4 6 0 1 0 5 0 2 1 0 0
法務省 10 3 4 0 0 0 0 4 2 1 1 1
外務省 4 0 4 0 1 0 3 0 0 0 0 0
財務省 14 4 9 2 2 2 1 2 0 0 1 0
文部科学省 3 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
厚生労働省 16 7 7 1 0 1 4 1 2 1 0 0
農林水産省 6 1 3 0 1 0 1 1 1 1 3 3
経済産業省 4 1 3 0 0 0 0 3 1 1 0 0
国土交通省 20 6 14 0 5 0 9 0 3 2 4 0
環境省 4 0 3 0 0 0 3 0 0 0 1 0
防衛省 9 2 7 0 2 0 5 0 5 1 0 0
参議院 3 0 3 0 0 0 3 0 3 0 3 0
国立国会図書館 3 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0
最高裁判所 3 0 2 0 2 0 0 0 1 0 0 0
会計検査院 1 0 1 0 0 0 1 0 1 0 0 0
133 32 83 3 19 6 36 19 24 10 13 5
(注)
調達仕様書の記載内容から記載の有無が判断できないものを除外している。

(ウ) 開発・テスト工程

ガイドラインによれば、発注者は、成果物の品質を確保するために、設計・開発業者に対して、設計・開発で実施する単体テスト、結合テスト及び総合テストについて、作業内容、作業スケジュール、合否判定基準等を記載したテスト計画書の作成を求めるとともに、テスト内容が十分であり、かつテストデータが適切であるかなどを確認することとされている。また、これらの各種テストの実施状況についても設計・開発業者に対して報告を求めることとされている。そして、発注者は、各種テストのテスト計画書及び実施状況について、必要に応じて課題等の指摘又は指導を行うこととされている。したがって、設計・開発業者によるテスト計画書の作成やテスト結果報告書の提出について、調達仕様書に記載して確実に実施させることが重要である。

しかし、13契約では、調達仕様書において設計・開発業者にテスト計画書を作成させることを記載していなかった。また、5契約では、調達仕様書において設計・開発業者にテスト結果報告書を提出させることを記載していなかった。

ウ 運用工程におけるサービスレベル契約(SLA)

同一性の高いサービスを反復かつ継続的に提供する運用等の工程においては、品質等を確保するために、一般的に、サービスレベル契約(注7)(以下「SLA」という。)を導入することが有効であるとされている。

(注7)
サービスレベル契約  一般的にSLA(Service Level Agreement)といわれている。利用者への継続的・安定的なサービスの提供を円滑に行うために、サービスレベル契約書において、発注者と受注者の役割、必要な管理項目とサービスレベル管理指標の保証値等について、発注者と受注者との間で合意した内容を明記する。

ガイドラインによれば、発注者は、運用業者等に対して、作業実績等を報告するよう求めるとともに、作業実績状況、サービスレベルの達成状況等を確認することとされている。そして、実務手引書によれば、発注者は、障害復旧対応等の作業について、SLAの目標値が達成されているかどうかを十分確認して、目標が達成されていない場合は、運用業者に対して、その原因の分析を行わせるとともに、目標値の達成に向けて執り得る対応策についての提案を求めることとされている。したがって、SLAの締結や達成状況等を評価することなどについて、調達仕様書に記載して確実に実施することが重要である。

そこで、情報システムの運用業務・運用サポート業務の調達を行っている88契約について、調達仕様書におけるSLAの記載状況等についてみたところ、表7のとおり、29契約では、調達仕様書にSLAを締結することを記載していなかった。また、調達仕様書にSLAを締結することを記載していた59契約のうち、18契約では、発注者がSLAの達成状況等を評価することを記載していなかった。

表7 調達仕様書におけるSLAの記載状況

(単位:件)
府省等名 契約件数  
SLAを記載していなかったもの SLAを記載していたもの  
発注者が達成状況等を評価することを記載していなかったもの
内閣官房 1 0 1 0
内閣府本府 5 5 0 0
金融庁 3 1 2 0
総務省 11 3 8 1
法務省 6 3 3 0
外務省 3 1 2 0
財務省 17 7 10 5
文部科学省 1 1 0 0
厚生労働省 18 3 15 2
農林水産省 6 2 4 0
経済産業省 2 0 2 2
国土交通省 4 1 3 3
環境省 5 1 4 3
防衛省 1 1 0 0
参議院 2 0 2 2
最高裁判所 2 0 2 0
会計検査院 1 0 1 0
88 29 59 18

また、SLAの締結を調達仕様書に記載していた59契約について、セキュリティ、サポートデスク、障害対策、アプリケーションの稼働等の管理項目ごとのSLAの設定状況をみたところ、障害対策に関するSLAを設定していた契約が49件、アプリケーションの稼働に関するSLAを設定していた契約が39件等となっていた。そして、障害対策に関するSLAを設定していた上記の49件について、設定していたSLAの内容をみると、その多くは情報システムの障害発生時刻から復旧までに要する時間を要求水準として設定するなどしていた。

さらに、SLAで定める要求水準に対する達成状況報告を運用業務・運用サポート業務の成果物等としていた36契約のうち、8契約においては、SLAで定める要求水準に達しなかった項目が見受けられたが、このうち2契約については、SLAの達成状況を発注者が評価することを調達仕様書に記載していなかった。

4 本院の所見

各府省等における情報システムの調達について検査したところ、一般競争契約における1者応札の割合が高くなっていたり、プロジェクト管理等において様々な課題が見受けられたりする状況となっていた。

したがって、各府省等において、今後とも、情報システムの調達契約を行うに当たって実質的な競争性の一層の確保に努めるとともに、新たに施行されたガイドライン等に沿ってITガバナンスを強化していくためには、本院の検査により明らかとなった具体的な課題を十分に認識した上で、次のような点に留意して、効率的かつ効果的な情報システムの整備及び管理に努めることが重要である。

ア 設計・開発工程におけるプロジェクト管理について、リスク管理及び課題管理の実施等を調達仕様書に明記して、これらの手法を積極的に活用するとともに、リスク管理表や課題管理表に必要な項目を記載するなどして適切に運用する。また、工程管理においては、WBSについて、各作業項目の工数の規模を適切に設定するなどして用いた上で、EVMやガントチャートを適宜活用するなどして、進捗の遅延状況を把握して所要の対策を講ずる。

イ 設計・開発工程において発注者に求められる役割について、仕様検討会議等を適切な頻度で開催することや、受入テストに対する受注者の支援並びに単体テスト、結合テスト及び総合テストの計画書や結果報告書の提出について調達仕様書に明記して、これらを確実に実施させる。

ウ 運用工程におけるSLAを適切に設定するなどした上で、達成状況を発注者として評価することなどにより、提供されるサービスの品質等の向上に努める。

本院としては、今後も、各府省等における情報システムに係るプロジェクト管理の実施状況等について、引き続き注視していくこととする。