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  • 平成27年3月

東京電力株式会社に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果について

第2 検査の結果

3 東京電力による原子力損害の賠償その他の特別事業計画の履行状況等

(2) 特別事業計画に基づく東京電力の事業運営の状況

ウ 金融機関への協力要請等
(ア) 23年原発事故から新・総合特別事業計画の認定までの資金調達の状況

東京電力が発行する社債及び株式会社日本政策投資銀行(以下「政投銀」という。)からの借入金には、電気事業法等の規定により、損害賠償債務等の他の債務に優先して弁済される一般担保が付されている。

23年原発事故発生時における東京電力の資金調達額は、政投銀を除く金融機関(以下「民間金融機関」という。)からの借入金1兆6152億余円、政投銀からの借入金3612億余円、公募社債5兆0740億余円等となっていた。

23年原発事故に伴い、東京電力は、増加する燃料費、社債償還、被災した設備の復旧費用等に充てるために、23年3月及び4月に金融機関から計1兆9650億円の融資を受け、同年10月から11月までに、取引のある全ての金融機関に対して総合特別事業計画の認定までの間における借入金残高の維持等の与信維持等を要請し、協力を得た。

そして、東京電力は、24年5月の総合特別事業計画の認定を受け、取引のある全ての金融機関に対して、社債市場への復帰までの間における与信維持、新規融資の実行等を要請し、協力を得た。

従来、民間金融機関の東京電力に対する融資は無担保で実施されていたが、23年原発事故後、東京電力の信用力が低下していることから、東京電力は、上記の融資を受けるに当たり、金融機関との協議の結果、東京電力が信託受託者に金銭を信託することにより信託勘定を設定した上で、図表3-56のとおり、民間金融機関が信託受託者の信託勘定への融資を行い、次に信託受託者が当該融資を基にして東京電力に資金を供給する信託スキームを利用することとした。そして、長期資金については、信託受託者が東京電力の発行する社債を引き受ける(以下、この社債を「私募債」という。)形式を採り、民間金融機関の融資に実質的に一般担保が付されることになった。一方、短期資金については、信託受託者が私募債を引き受けずに委託者向けローンとして東京電力に貸し付ける形式を採るため、一般担保は付されないことになっている。

図表3-56 信託スキームの概念図

図表3-56 信託スキームの概念図 画像

(イ) 新・総合特別事業計画の認定後の資金調達の状況

東京電力は、新・総合特別事業計画において、取引のある全ての金融機関に対して、次の事項等について協力を要請している。

  • ① 引き続き借換えなどにより与信を維持すること
  • ② 一般担保による与信の総量が、23年原発事故発生時における範囲を超えないようにするとともに、毎年度継続的に減少していく運用とすること
  • ③ 債務の履行に特段の支障がないことを前提に今後新規に契約される融資について、できるだけ早期に私募債形式によらないこととするよう、機構と東京電力との間で真摯に協議すること。特に、主要な民間金融機関においては、この目的の達成のために特段の配慮をすること

また、私募債形式に関しては、26年4月16日の「原子力損害賠償支援機構法の一部を改正する法律案」の衆議院経済産業委員会における採決の際の附帯決議において、政府は「平成25年10月の会計検査院報告を踏まえ、私募債を利用する東京電力の資金調達形態に関しては、利害関係者の責任の明確化の観点から、新・総合特別事業計画で示された方針に沿って、可能な限り早期にこの形態によらないこととするよう指導・監督すること」などとなっている。

①について、協力要請を受けた金融機関は、当該要請に応じて与信を維持しており、26年9月末の借入金等の残高は、25年3月末の4兆1858億余円に、総合特別事業計画の協力要請に基づく25年12月の新規融資を加えるなどした4兆4854億余円となっている(図表3-57参照)。

図表3-57 東京電力の借入金等の推移

(単位:億円)

区分 平成23年
3月11日
23年3月末 24年3月末 25年3月末 26年3月末 26年9月末



民間金融機関
(うち主要な民間金融機関)
借入金 1兆6152
(1兆2457)
3兆5145
(3兆1225)
3兆3763
(3兆0354)
2兆8386
(2兆5697)
2兆5598
(2兆4042)
2兆4137
(2兆3172)
信託スキーム 委託者向けローン 95
(-)
84
(-)
933
(825)
私募債 7264
(6128)
1兆1562
(9283)
1兆2210
(9328)
政投銀 借入金 3612 3610 4395 6112 7612 7572
1兆9765 3兆8756 3兆8158 4兆1858 4兆4858 4兆4854
公募社債 5兆0740 4兆9740 4兆4251 3兆6772 3兆0916 2兆8177
その他 535 543 363 289 225 230
合計 7兆1042 8兆9040 8兆2773 7兆8920 7兆6000 7兆3261
注(1)
「民間金融機関」の「借入金」は信託スキーム導入以前の既存の借入金であり、返済期限到来による借換えの際に、金融機関は、信託スキームにおいて短期の委託者向けローン又は長期の私募債を選択している。
注(2)
「その他」は関係会社等からの借入金である。

また、②について、一般担保による与信の総量は、23年原発事故発生時の5兆4353億余円(政投銀からの借入金3612億余円、公募社債5兆0740億余円)に対して、26年9月末が4兆7960億余円(私募債1兆2210億余円、政投銀からの借入金7572億余円、公募社債2兆8177億余円)となっており、図表3-58のとおり、23年原発事故発生時における範囲を超えておらず、新・総合特別事業計画による要請後の26年3月末以降減少してきている。

図表3-58東京電力の一般担保による与信の総量の推移

3-58東京電力の一般担保による与信の総量の推移 画像

さらに、③の協力要請について、特段の配慮をすることとされた主要な民間金融機関は、機構及び東京電力と協議した上で、26年4月以降、原則として、返済期限が到来した借入金の借換えの際に短期の委託者向けローンを選択し、私募債形式によらない融資を行っている。当該融資の残高は、同年9月末で7金融機関計825億円(同年10月末で7金融機関計1351億余円)となっている。

なお、民間金融機関の中には、総合特別事業計画の要請に応じた当初から短期の委託者向けローンを選択するなど、新・総合特別事業計画の要請の前から短期の委託者向けローンを選択しているところがある。

(ウ) 財務制限条項の状況

(イ)の民間金融機関が実質的に引き受けた私募債及び政投銀からの借入金の一部には、東京電力及び東京電力グループの損益、純資産等の項目の実績値が2四半期連続して新・総合特別事業計画における計画値を一定程度以上下回らないようにしなければならないといった財務制限条項が付されており、東京電力が財務制限条項を遵守できなかった場合には、金融機関からの請求により期限の利益を失うこととなっている。ただし、財務制限条項の判定に当たっては、原子力損害の賠償、原子炉の廃止及び電気の安定供給に支障を来すことがないよう、東京電力の自助努力が及ばない費用等の増加分の一部については、損益から控除することとなっている(以下、財務制限条項の判定に使用する一部の損益を控除した後の値を「判定値」という。)。

26年9月末において、財務制限条項が付されているのは、私募債1兆2210億余円、借入金3217億余円、計1兆5428億余円となっている。そして、特別損失の原子力損害賠償費とそれに対応する特別利益の原子力損害賠償支援機構資金交付金の計上時期が異なることなどにより、一時的に、損益又は純資産において、判定値が計画値を下回ったことがあったものの、同月末までに2四半期連続して計画値を下回ったことはなく財務制限条項には抵触していない。

(3) 1~4号機の廃炉に向けた取組等

ア 1~4号機の廃炉に向けた取組
(ア) 廃炉に向けた中長期的な取組等

原子炉等規制法等によれば、発電用の原子炉を設置している者は、発電用原子炉を廃止しようとするときには、「当該発電用原子炉施設の解体、その保有する核燃料物質の譲渡し、核燃料物質による汚染の除去、核燃料物質によって汚染された物の廃棄」等の措置(以下「法定廃止措置」という。)を講じなければならないこととされている。そして、法定廃止措置を講じようとするときは、法定廃止措置に関する計画(以下「廃止措置計画」という。)を定め、使用済燃料を発電用の原子炉の炉心から既に取り出していることを明らかにする資料等を添付して、規制委員会の認可を受けなければならないこととされている。

27年1月末現在で、廃止措置計画の認可を受けて、法定廃止措置の段階にある発電用の原子炉は、日本原子力発電株式会社の東海発電所、独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「JAEA」という。)の原子炉廃止措置研究開発センター(通称「ふげん」)並びに中部電力株式会社浜岡原子力発電所1号機及び2号機に所在する計4炉である。使用済燃料の搬出から法定廃止措置完了までの標準的な工程は、図表3-59のとおりとなっており、その期間は25年から30年程度が見込まれている。

図表3-59 法定廃止措置等の標準工程

図表3-59 法定廃止措置等の標準工程 画像

一方、東京電力は、23年5月の取締役会において、福島第一原発の1号機から4号機まで(以下「1~4号機」という。)の原子炉を廃止することとしたものの、廃止措置計画の認可を申請していない。これは、1~4号機が、原子炉建屋内の水素爆発や火災発生による大規模な損傷、原子炉圧力容器(以下「圧力容器」という。)内の燃料の炉心溶融等により、原子炉からの使用済燃料の取出しが終了していないなど、廃止措置計画を申請できる段階に至っていないためである(図表3-60参照)。

図表3-60 1~4号機の損傷等の状況

区分 1号機 2号機 3号機 4号機
炉内の燃料 炉心溶融 炉心溶融 炉心溶融
原子炉建屋内 水素爆発 水素爆発 水素爆発

1~4号機のうち、1、2、3各号機の原子炉では、炉心溶融により生じた燃料デブリが圧力容器の下部に存在し、その一部は圧力容器の底を抜けて、格納容器内にも存在していると考えられている(図表3-61参照)。

図表3-61 炉心溶融の状況(1号機の原子炉)

図表3-61 炉心溶融の状況(1号機の原子炉) 画像

また、1、3、4各号機の原子炉では、水素爆発により原子炉建屋や建屋内の設備が破損し、原子炉建屋内外に放射性物質の付着したがれきが散乱した。そして、放射性物質の飛散により、原子炉建屋内等には放射線量が高くなっている場所が存在し、人が容易に近づけない状況になっている。

さらに、燃料を冷却するために炉心に注入した冷却水が、放射性物質で汚染され、格納容器から漏えいし、原子炉建屋地下、建屋海側の配管等が通る地下トンネル(以下「トレンチ」という。)等に高濃度汚染水となって滞留している。

このような状況の中で、東京電力は、1~4号機を廃炉にするために、法定廃止措置ばかりでなく、それに先立って燃料デブリの取出し、がれきの撤去、原子炉建屋内の除染、汚染水対策等の作業を進めていく必要がある(以下、燃料デブリの取出しなどの作業を含めた1~4号機の法定廃止措置を完了させるために必要な作業を「廃炉作業」という。)。そして、中長期ロードマップによれば、廃炉作業は、これまでに経験したことのない技術的困難性を伴うものであるとされており、廃炉作業に要する期間は、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」(平成23年4月17日東京電力取りまとめ)の「ステップ2」(放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている状態)を達成したと判断された23年12月を起点として、30年から40年という長期にわたるとされている(図表3-62参照)。

図表3-62 中長期ロードマップにおける廃炉作業のスケジュール

図表3-62 中長期ロードマップにおける廃炉作業のスケジュール 画像

(イ) 1~4号機の廃炉に向けた取組に係る関係機関の役割

中長期ロードマップにおいては、1~4号機の廃炉に向けた取組に関して「中長期の取組の実施に向けた基本原則」が定められており、当該原則の一つに政府と東京電力の役割等が示されている。

23年12月に原子力災害対策本部において決定された中長期ロードマップの初版においては、政府と東京電力の役割等について、図表3-63のとおり、「連携を図った取組を進めていく」こととなっていた。

その後、それまでの進捗状況等を踏まえて25年6月に決定された中長期ロードマップの改訂版において、政府が前面に立って1~4号機の廃炉に向けた取組を進めていくことが初めて明確に示された。

図表3-63 中長期ロードマップの基本原則における政府と東京電力の役割

改訂版(平成25年6月決定) 初版(23年12月決定)
本ロードマップに示す目標達成に向け、東京電力と政府は、各々の役割に基づき、連携を図った取組を進めていく。政府は、前面に立ち、安全かつ着実に廃止措置等に向けた中長期の取組を進めていく。 本ロードマップに示す目標達成に向け、東京電力、資源エネルギー庁、原子力安全・保安院は、各々の役割に基づき、連携を図った取組を進めていく。

a 国等の役割

(a) 原子力災害対策本部、機構等の役割

政府は、汚染水漏えいの事故等を受けて深刻化する汚染水問題を根本的に解決していくために、25年9月に原子力災害対策本部において「東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)を決定し、その中で、汚染水問題についても、「東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行していく」こととした。

そして、政府は、廃炉・汚染水対策に総力を挙げて取り組むために、図表3-64のとおり、原子力災害対策本部の下に内閣官房長官を議長とする廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議を設置し、同会議の下に経済産業大臣をチーム長とする廃炉・汚染水対策チーム及び経済産業副大臣を議長とする廃炉・汚染水対策現地調整会議を設置した。

また、汚染水処理問題を根本的に解決する方策や汚染水漏えい事故への対処を検討するために汚染水処理対策委員会が設置されており、その下には、陸側遮水壁タスクフォース、高性能多核種除去設備タスクフォース及びトリチウム水タスクフォースが設置され、各分野の専門家が参画して、概念設計等の評価、進捗管理等を行っている。

図表3-64 廃炉・汚染水対策に関する国の体制

図表3-64 廃炉・汚染水対策に関する国の体制 画像

さらに、前記のとおり、26年8月に機構の業務に廃炉等支援業務等が追加され、機構は、廃炉等を実施するために必要な技術に関する研究及び開発、助言、指導及び勧告その他の業務を行うことにより、廃炉等の適切かつ着実な実施の確保を図っていくこととなった。

(b) 規制委員会の役割

福島第一原発については、23年原発事故後、平常時における原子炉等規制法の規定を全て遵守することが困難な状況になっており、東京電力は原子炉等規制法の規定による「応急の措置」を講じてきた。

規制委員会は、「応急の措置」に基づく安全規制を行うことや原子炉等規制法の規定を遵守できていない状況が長期間継続することは適当でないと判断し、24年11月に、原子炉等規制法第64条の2第1項の規定に基づき、福島第一原発を保安又は特定核燃料物質の防護につき特別の措置を要する施設(特定原子力施設)に指定した。そして、東京電力に対して、「措置を講ずべき事項」を示すとともに、「特定原子力施設に関する保安又は特定核燃料物質の防護のための措置を実施するための計画」(以下「実施計画」という。)を提出するよう求めた。東京電力は同年12月に実施計画を提出し、規制委員会は、特定原子力施設監視・評価検討会においてその内容を審査し、25年8月にこれを認可した。

実施計画認可後、規制委員会は、福島第一原発に係る施設の保安又は特定核燃料物質の防護のための措置が実施計画に従って行われているかについて、原子炉等規制法第64条の3第7項の規定に基づいて検査を実施している。

b 東京電力の役割

東京電力は、廃炉作業の実施主体として、中長期ロードマップ等に基づき、廃炉作業を安全かつ着実に実施していくこととなっている。

政府は、25年閣議決定において、東京電力について、廃炉・汚染水問題に優先的に取り組む上で適切な意思決定がなされる社内体制を確保するために、廃炉・汚染水対策に係る組織の社内分社化を実施することが望ましいとした。

これらを受けて、東京電力は、26年4月に、図表3-65のとおり、同対策に係る組織を社内分社化した「福島第一廃炉推進カンパニー」を設置した。福島第一廃炉推進カンパニーの設置は、国のガバナンスの下で同対策を国家的プロジェクトとして完遂できるように、福島第一原発における同対策に関する責任体制を明確化し、集中して取り組むことを目的としている。

そして、福島第一廃炉推進カンパニーの責任者であるカンパニープレジデントは、現場で発生する様々な課題に柔軟かつ迅速に対応できるようにCDO(廃炉・汚染水対策の最高責任者。Chief Decommissioning Officer)と位置付けられており、当該カンパニープレジデントの下、運営総括部、プロジェクト計画部及び福島第一原発の三つの組織が置かれている。

図表3-65 福島第一廃炉推進カンパニーの組織図

図表3-65 福島第一廃炉推進カンパニーの組織図 画像

a及びbのとおり、政府、東京電力等は、1~4号機の廃炉に向けて、中長期ロードマップ等(特に、汚染水問題については基本方針等)に基づき、必要な対策を実施しており、これらの関係は、図表3-66のとおりである。

図表3-66 廃炉・汚染水対策に関する政府、東京電力等の関係図

図表3-66 廃炉・汚染水対策に関する政府、東京電力等の関係図 画像

(ウ) 廃炉作業の進捗状況

東京電力は、上記のとおり中長期ロードマップ等に基づき廃炉作業を進めており、その進捗状況は、号機ごとに次のとおりとなっている(図表3-67参照。1~4号機の配置については、後掲の図表3-78参照)。

a 1号機

1号機の原子炉建屋は水素爆発により建屋上部が破損したため、東京電力は、放射性物質の飛散抑制を目的として、23年10月に建屋カバーを設置した。

1号機の使用済燃料プールからの燃料取出しが中長期ロードマップにおいて29年度に開始する予定となっていることから、建屋カバーを解体し、内部のがれきを撤去した上で新たに燃料取出し建屋を設置していく計画となっている。

b 2号機

2号機の原子炉建屋は、水素爆発による損傷はないものの、建屋内の放射線量が非常に高い状況となっている。

東京電力は、ロボット等を使用し、原子炉建屋内の放射線量等の状況を調査している。

c 3号機

3号機の原子炉建屋は、水素爆発により建屋上部が破損し、建屋上部にがれきが散乱した。

そこで、東京電力は、使用済燃料プールからの燃料取出しに向けて建屋上部のがれき撤去作業を進め、25年10月に完了した。そして、同月から燃料取出し用カバー及び燃料取扱設備設置のための線量低減対策を開始した。

なお、3号機では、26年8月に、使用済燃料プール内のがれき撤去作業中に、撤去する予定であった燃料交換機の操作卓等が使用済燃料プール内に落下する事故が発生した。同事故について、東京電力は、当該事故による使用済燃料の損傷はないと評価し、その後、発生した事故の原因を調査し、再発防止対策を検討して、同年10月に公表した。

d 4号機

4号機の原子炉建屋は、水素爆発により建屋上部が破損したが、放射線量は他の号機に比べて低かった。

東京電力は、がれき撤去を完了し、燃料取出し用カバーを設置した上で、25年11月に使用済燃料プールからの燃料取出しを開始した。

4号機の使用済燃料プールには、23年原発事故発生時、使用済燃料1,331体、新燃料204体、計1,535体が保管されていた。東京電力は、26年12月に、全ての燃料の共用プール等への移送作業を完了している。

また、移動先の共用プールには、保管可能容量6,840体に対して使用済燃料6,375体が保管されており、4号機の使用済燃料プールの燃料受入れを行うために、東京電力は、既に共用プールに保管していた使用済燃料を、地上で保管可能な乾式貯蔵キャスク及び輸送貯蔵兼用キャスクに詰め替えて、福島第一原発敷地内に造成した仮保管エリアに移動し、当該キャスクをボックスカルバート状のコンクリート製容器に保管している。

なお、中長期ロードマップは、機構による「戦略プラン(仮称)」の策定等を踏まえて、27年春頃を目途に改訂されることとなっている。

図表3-67 廃炉作業の進捗状況

図表3-67 廃炉作業の進捗状況 画像

イ 汚染水問題への対策等
(ア) 汚染水問題に関する方針等

a 汚染水問題の根本原因

福島第一原発では、23年原発事故により原子炉建屋周辺の井戸(以下「サブドレン」という。)から地下水をくみ上げる装置が故障したため、周辺地下水位が上昇し、大量の地下水が建屋内に流入している。そして、これらの地下水が、建屋地下等に滞留している高濃度汚染水に接触することにより新たな汚染水となって、建屋地下等にたまり続けている。

b 汚染水処理設備の状況等

東京電力は、23年原発事故後、図表3-68のとおり、汚染水を安全な箇所に移送すること、汚染水に含まれるセシウム等の主要な放射性物質を除去し環境中に移行し難い性状とすること、除去した放射性物質を一時的に貯蔵すること及び汚染水の発生量を抑制するために塩分を除去し原子炉への注水に再利用する循環冷却を構築することを目的として、汚染水処理設備、貯留設備及び関連設備(以下、これらを合わせて「汚染水処理設備等」という。)を設置した。

図表3-68 汚染水処理設備等の概要

図表3-68 汚染水処理設備等の概要 画像

実施計画によれば、1~4号機のタービン建屋等の汚染水は、プロセス主建屋や高温焼却炉建屋へ移送された後に、必要に応じて油分分離装置で油分が除去され、処理装置(セシウム吸着装置、第二セシウム吸着装置及び除染装置)及び淡水化装置(逆浸透膜装置及び蒸発濃縮装置)によってセシウム等の核種や塩分が除去される。また、処理済水等を保管するための中低濃度タンクが設置されている。

しかし、汚染水処理は、技術的難易度が高く、汚染水処理設備等を構成する装置等の中には、次のとおり、短期間で運転や使用を停止した装置等もあった。

(a) 除染装置

除染装置は、汚染水に薬品を注入して、汚染水に含まれるセシウム等の核種を沈殿させて除去する装置である。そして、核種を除去することにより、高濃度の放射性汚泥(以下「スラッジ」という。)が発生し、スラッジはスラッジ貯蔵タンクで保管されて管理される。

東京電力は、23年4月から順次AREVA NC、日揮株式会社、三菱重工業株式会社等6者と除染装置の購入、据付工事、スラッジ貯蔵タンクの設置等に係る契約を契約額計321億余円で締結している。

東京電力は、同年6月17日に除染装置とセシウム吸着装置を直列して汚染水処理を開始したが、同年9月15日に除染装置の運転を停止し、その後は運転しないまま待機状態としていた。東京電力は、除染装置の運転を停止した理由について、同年8月に第二セシウム吸着装置が単独で処理を開始したこと及び汚染水の濃度低下によりセシウム吸着装置の単独運転も可能となったことによるとしている。

そして、東京電力は、26年8月に、除染装置の維持に係る作業員の被ばく量が大きいことなどから、除染装置の廃止計画を決定した。

廃止までの除染装置による汚染水の処理量は、運転期間が短期間であることから77,037m3にとどまっており、セシウム吸着装置252,100m3及び第二セシウム吸着装置895,650m3(いずれも27年1月29日現在)に比べて少なくなっていた。また、汚染物質を取り除く能力について、除染処理前の放射能濃度を除染処理後の放射能濃度で除した除染係数をみると、除染装置の除染係数は103 程度(注6)であり、セシウム吸着装置の同103 から105 程度及び第二セシウム吸着装置の同104から106 程度に比べると低くなっていた。さらに、汚染水処理に伴い発生する放射性廃棄物の保管及び管理に要する費用についてみると、除染装置に係る費用は、セシウム吸着装置及び第二セシウム吸着装置に係る費用に比べて非常に多額になっていた。

これらのことから、汚染水処理が喫緊の課題であった中で除染装置を導入する必要性はあったと認められるものの、セシウム吸着装置及び第二セシウム吸着装置と比較すると、その効果は低くなっていた。

注(6)
除染係数が103程度の場合、放射能濃度が1000分の1程度になることを意味する。

(b) 蒸発濃縮装置

蒸発濃縮装置は、汚染水を原子炉への注水に再利用するために、汚染水に含まれる塩分を除去する淡水化装置の一つであり、同じく淡水化装置である逆浸透膜装置により塩分が濃縮された廃水から、蒸気により更に塩分を除去する装置である。

東京電力は、23年3月から11月までの間に、日立GEニュークリア・エナジー株式会社、AREVA NC及び株式会社東芝と蒸発濃縮装置の設置等に係る契約を契約額計184億余円で締結している。東京電力は、図表3-69のとおり、同年8月7日から順次蒸発濃縮装置の運転を開始したが、原子炉への注水量等を考慮したり、汚染水漏れが相次いで発生したりしたことから、短期間で運転を停止し、26年9月末現在で、同装置は運転を停止したままとなっている。

図表3-69 蒸発濃縮装置の運転開始年月日等

系列等 運転開始年月日 運転停止年月日 運転期間 運転停止理由
①(1A~1C) 平成23年8月31日 23年9月4日 5日間 原子炉への注水量等を考慮して運転停止
②(2A、2B) 23年8月7日 23年9月4日 29日間
③(3A~3C) 23年10月31日 23年12月13日 44日間 3A及び3Cの汚染水漏れにより運転停止

このように、蒸発濃縮装置は、運転開始後に最短のもので5日間と短期間で停止しており、その効果は低くなっていた。なお、東京電力は、3A及び3Cの汚染水漏れについて、同装置の設置工事における瑕疵(かし)はないとしている。

(c) 地下貯水槽

東京電力は、24年3月に、前田建設工業株式会社と処理装置を通した中低濃度汚染水を貯蔵するために地下貯水槽7基の設置に係る契約を契約額21億余円で締結している。地下貯水槽の設置は、25年1月にしゅん工し、東京電力は、同年2月に中低濃度汚染水の受入れを開始した。

しかし、同年4月に地下貯水槽3基から汚染水が漏えいしたことから、東京電力は、7基全てについて使用を停止し、雨水を一時貯留する以外は原則として使用を停止したままとしている。

なお、地下貯水槽の一部において、周辺地下水位の上昇に伴う浮力増加により浮き上がりが発生したことから、東京電力は、同社と、同年8月及び10月に、地下貯水槽の上部に砕石を盛土する対策に係る契約を契約額計1億余円で締結して工事を行い、浮き上がりは収束した。

このように、地下貯水槽は設置後間もなく使用を停止しており、上記のとおり、追加工事を必要とする事態も生じているため、東京電力は、汚染水の漏えいの原因を究明した結果、設置工事における瑕疵(かし)が判明した場合には、契約相手方に所要の措置を求めることなどを検討する必要がある。

(d) フランジボルト締めタイプの中低濃度タンク

東京電力は、23年4月に、大成建設株式会社、清水建設株式会社及び株式会社間組から成る共同企業体と中低濃度汚染水及び淡水を貯蔵するためのフランジボルト締めタイプの鋼製円筒型タンクの設置等に係る契約を契約額160億円で締結したが、同年10月に使用を開始した1基(容量1,0003)において、約3003の汚染水が漏えいする事故が25年8月に発生した。

このため、東京電力は、汚染水の漏えいがあったタンクと同じフランジボルト締めタイプのタンクから溶接型タンクへの置換えを促進することとした。また、事故前までは1日2回行っていたタンクのパトロールを1日4回行うこととしている。

このように、フランジボルト締めタイプのタンクは、設置後比較的短期間で溶接型タンクへの置換えを進めることになった。東京電力は、当該タンクからの汚染水の漏えいの原因について、タンク底板のフランジ部のパッキンが、気温変動や水圧等の複合的要因により経時的にずれたものであり、設置工事における瑕疵(かし)はないとしている。

汚染水処理は、今後、長期にわたって行われることが見込まれていることから、東京電力は、上記事態の発生原因を分析して、同種の事態が発生しないように留意するとともに、契約相手方に瑕疵(かし)がある場合には、契約に基づき、必要な措置を講ずることなどを求める必要がある。 なお、東京電力は、前記の各装置等について、後掲ウ(イ)の電気事業会計規則の改正前の規定に基づき災害損失引当金を計上していたことから、各装置を設置した際に、備忘価額1円(資産に計上)を除いた額を災害損失引当金から取り崩している。

c 汚染水問題に関する方針等

東京電力は、23年原発事故後、汚染水問題への対策を継続して実施してきたが、地下貯水槽からの汚染水の漏えい(25年4月)、汚染水の発電所港湾への流出(同年7月)、フランジボルト締めタイプのタンクからの汚染水の漏えい(同年8月)などの汚染水に関する事故が発生した。

そこで、政府は、前記のとおり、25年9月に基本方針を決定し、「今後は、東京電力任せにするのではなく、国が前面に出て、必要な対策を実行していく」とし、汚染水問題の根本的な解決に向けて、①汚染源を「取り除く」、②汚染源に水を「近づけない」、③汚染水を「漏らさない」という三つの方針の下、既に実施しているものも含めて各種対策を講じていくこととした。そして、「技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要があるものについて、財政措置を進めていくこととし、凍土方式の陸側遮水壁の構築及びより高性能な多核種除去設備の実現について、事業費全体を国が措置する」とした(以下、凍土方式の陸側遮水壁を「凍土壁」、多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System)を「ALPS」という。)。

また、政府は、汚染水処理対策委員会による潜在的なリスクの洗い出しを受けて、同年12月に、福島第一原発の廃炉・汚染水問題について、予防的かつ重層的な対策を追加した「東京電力(株)福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水問題に対する追加対策」(以下「追加対策」という。)を取りまとめた。

東京電力は、新・総特において、23年原発事故を起こした当事者として、その責任を深く自覚し、福島復興の加速を最優先に、「賠償・廃炉・除染」に全力を挙げて取り組むとしている。また、基本方針に関して、東京電力は、国から補助を受けて行う凍土壁の構築及びより高性能なALPSの整備実証等を着実に行い、追加対策において取りまとめられた予防的かつ重層的な対策についても着実に実行していくこととしている。

(イ) 汚染源を「取り除く」ための対策

東京電力は、汚染源を「取り除く」ための各種対策工事等に計951億余円(汚染源を「取り除く」ための対策、汚染源に水を「近づけない」ための対策及び汚染水を「漏らさない」ための対策の各金額には重複しているものがある。)を要すると見込んでおり、このうち150億余円分(高性能なALPSの設置)については経済産業省の汚染水処理対策事業費補助金により実施されることとなっている。

汚染源を「取り除く」ための主な対策には、「トレンチ内に滞留する高濃度汚染水の除去」及び「ALPSによる中低濃度汚染水の浄化」がある。なお、当該対策に係る多くの契約については、最終契約金額が未決定となっている。

a トレンチ内に滞留する高濃度汚染水の除去

1~4号機の各タービン建屋から海側に向かって、プラントの運転に必要な冷却水(海水)を供給するトレンチが複数本設置されている。そのトレンチのうち、2号機及び3号機の海水配管トレンチ内に、タービン建屋から流れ出た放射性物質を大量に含む高濃度汚染水が滞留している。

規制委員会等は、海洋流出等のリスクを未然に防止するために、トレンチ内に滞留する高濃度汚染水の除去を早期に行うべきであるとした。また、凍土壁を施工する際にトレンチ付近に凍結管を設置するための掘削作業が行われることなどから、トレンチ内の高濃度汚染水が海洋流出するリスクが高まるため、凍土壁の施工前にトレンチ内の高濃度汚染水を除去することが必要であるとした(凍土壁については、後掲(ウ)bにおいて記述している(リンク参照)。)。

一方、2号機及び3号機のトレンチは、タービン建屋とトレンチとの接続部がタービン建屋内の汚染水の水位よりも低いため、トレンチ内に滞留する汚染水を回収しても、継続的にタービン建屋から汚染水が流入するといった問題がある。

そこで、東京電力は、図表3-70のとおり、タービン建屋とトレンチとの接続部を凍結によって止水し、トレンチ内の汚染水を移送して水抜きした上で内部を充填する工法を計画した。

図表3-70 トレンチ内の汚染水の除去の流れ

図表3-70 トレンチ内の汚染水の除去の流れ 画像

この工法は、本来、地盤中の間隙水を凍結させることにより止水壁を造成する工法であり、直接水を凍結させた実績がなかったり、トレンチ内に敷設された配管等が凍結時の支障となったりすることが課題であったため、東京電力は、止水が成立することをあらかじめ実証試験により確認した上で、工事を実施することとした。

実証試験は、26年3月に、東京電力が子会社である東京パワーテクノロジー株式会社と契約金額1億余円で委託契約を締結し、施工箇所における配管等の支障物を模擬した凍結模型によって行われた。水の流速が高い場合には凍結しにくくなることから、東京電力は、セメント等を充填したパッカー(ナイロン製の袋)内の間隙水を凍結させることにより水の対流を抑制させ、その周囲も凍結させることにより、止水が成立することを確認した。

一方、東京電力は、25年10月に鹿島建設株式会社と請負契約を締結し、同年12月から凍結管の設置に着手しており、上記実証試験の結果を踏まえて、26年4月に2号機の1か所及び同年6月に他の1か所で凍結を開始した。

しかし、実証試験においては温度差により対流する水の流速について想定していたものの、実際には、建屋側の水位変動に伴い、建屋とトレンチ間の配管貫通部で汚染水が流出入し、パッカーのない箇所等に実証試験では想定していなかった水流が発生したため、止水ができない状況となった。そして、同年7月から8月までに、ドライアイスを累計10t以上、氷を累計500t以上投入し、水温を更に下げることにより凍結の促進を試みたものの、ある程度の氷の成長が確認できたが、止水するまでには至らなかった。

トレンチの止水の遅れは、補助金が交付されている凍土壁を始め他の対策にも影響が出るため、東京電力は、同年11月に、当初の工法を変更し、トレンチ内に流動性が高く、水中で分離しない特殊なコンクリートを流し込んで充填しながら、トレンチ内の汚染水を移送する工事を開始した。

廃炉・汚染水対策は、凍土壁等のように実証試験を経て初めて実用化されていくものも多いことから、東京電力においては、実証試験と実際の工事の結果が異なった場合にはその原因を十分に分析し、検討して、今後の実証試験での条件設定等に役立てていく必要がある。

b ALPSによる中低濃度汚染水の浄化

ALPSは、取り除くことが技術的に困難なトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去する設備であり、タンクに貯蔵されている中低濃度汚染水等の浄化に使用されている。

東京電力は、図表3-71のとおり、最初に設置したALPSにおいて25年3月に汚染水処理設備で処理した廃液を用いた試験(以下「ホット試験」という。)を開始し、その後、汚染水浄化を早期に完了させるために、ALPSを増設したり、より高性能なALPSを設置したりした(以下、最初に設置したALPSを「既存ALPS」、増設したALPSを「増設ALPS」、より高性能なALPSを「高性能ALPS」という。)。既存ALPS及び増設ALPSの設置費用は東京電力が負担したが、高性能ALPSは経済産業省の汚染水処理対策事業費補助金により設置された。

ALPSは、核種の吸着を阻害する物質を除去する前処理設備と核種を除去する多核種除去装置から構成されている。各ALPSの前処理方式についてみると、既存ALPS及び増設ALPSは、薬剤により核種の吸着を阻害する物質を凝縮させ、沈殿させて除去する凝縮沈殿方式であるのに対して、高性能ALPSはフィルタ方式となっている。高性能ALPSは、前処理方式を変えることなどにより、汚染水浄化により発生する放射性廃棄物の発生量を既存ALPSより8割以上削減することを目指している。

図表3-71 ALPSのホット試験開始日等の状況

種類 ホット試験開始日 前処理
方式
1系列当たりの最大処理量 系列数 1日当たりの最大処理量
既存ALPS 平成 25年 3月 30日 凝縮沈
殿方式
250m3 3系列 750m3
増設ALPS 26年 9月 17日 凝縮沈
殿方式
250m3以上 3系列 750m3以上
高性能ALPS 26年 10月 18日 フィル
タ方式
500m3以上 1系列 500m3以上

(a) 既存ALPS

東京電力は、24年2月に株式会社東芝と契約を締結し、既存ALPSを福島第一原発に設置した。既存ALPSはA系、B系及びC系の3系列となっており、25年3月30日にA系でホット試験を開始し、既存ALPSによる実質的な汚染水浄化が開始された。その後、同年6月13日にB系で、9月27日にC系で、順次ホット試験が開始された(図表3-72参照)

図表3-72 既存ALPSの概念図

図表3-72 既存ALPSの概念図 画像

既存ALPSの稼働率は、図表3-73のとおり、上昇してきているものの、安定していない状態となっている。

図表3-73 既存ALPSの稼働率の推移

図表3-73 既存ALPSの稼働率の推移 画像

また、既存ALPSでは、62種の核種のうち4種の核種を十分に除去することができないなどのためホット試験が長期にわたっているが、その後、東京電力は、上記の4核種についても十分に除去できるめどが立ったとして、今後できるだけ早期に規制委員会の検査を受けて、本格運転に移行するとしている。

(b) 増設ALPS

東京電力は、25年11月に株式会社東芝と契約を締結し、増設ALPSを福島第一原発に設置することとした。

増設ALPSは、既存ALPSのホット試験における知見等を反映し、次の2点について仕様が変更されている。

  • ① 前処理設備を炭酸塩沈殿処理設備のみに変更
  • ② 吸着塔の数を16塔から18塔に増塔

東京電力は、26年9月に増設ALPSのホット試験を開始しており、今後できるだけ早期に規制委員会の検査を受けて、本格運転に移行するとしている。

(c) 高性能ALPS

高性能ALPSの設置等は、経済産業省の汚染水処理対策事業費補助金により、高性能多核種除去設備整備実証事業として実施されている。

同省は、25年9月に高性能多核種除去設備整備実証事業の補助事業者を公募し、同年10月に14件の応募の中から東京電力、株式会社東芝及び日立GEニュークリア・エナジー株式会社(共同提案)を補助事業者に決定した。なお、東京電力は、同事業の実施に責任を負う幹事会社となっており、同事業は27年3月末までに完了する予定となっている。

補助金の交付決定額150億余円の内訳は、図表3-74のとおりであり、東京電力の事業監理、工事監理及び施設設置に対する補助金の額は20億円となっている。

図表3-74 高性能ALPSの設置に係る補助事業の概要

(単位:百万円)

補助事業者等 実施内容 補助事業
に要する
経費
補助対象
経費
補助金額
東京電力(幹事会社) 事業監理、工事監理、施設設置 2,000 2,000 2,000
株式会社東芝 概念設計、個別試験、基本設計・詳細設計、機器製作 1,626 1,626 1,626
日立GEニュークリア・
エナジー株式会社
概念設計、個別試験、基本設計・詳細設計、機器製作 11,419 11,419 11,419
15,045 15,045 15,045

東京電力は、高性能ALPSについて、26年10月にホット試験を開始し、今後できるだけ早期に規制委員会の検査を受けて、本格運転に移行するとしている。なお、補助事業の期間中及び27年4月以降における高性能ALPSの維持管理費は東京電力が負担することとなっている。

東京電力は、既存ALPS、増設ALPS及び高性能ALPSに加えて、他の可搬型の除去設備等を追加的に設置し、稼働させることで、26年度中における中低濃度汚染水全量の浄化完了を目指していたものの、ALPSの稼働率が想定を下回ったことなどにより、同年度内には完了しない見通しであるとしている。

(ウ) 汚染源に水を「近づけない」ための対策

東京電力は、汚染源に水を「近づけない」ための各種対策工事等に計742億余円を要すると見込んでおり、このうち凍土壁の構築に係る319億余円分については、経済産業省の汚染水処理対策事業費補助金により実施されることとなっている。

汚染源に水を「近づけない」ための主な対策には、原子炉建屋に流入する前に地下水をくみ上げる「地下水バイパスの構築」及び原子炉建屋の周りを囲む「凍土壁の構築」がある。

a 地下水バイパスの構築等

東京電力は、26年5月に、地下水バイパスによる地下水のくみ上げに係る取組を開始した。地下水バイパスは、図表3-75のとおり、地下水が原子炉建屋に流入して汚染源と接触する前に原子炉建屋の山側でくみ上げ、水質検査により運用目標を満たしていることを確認した上で海洋に排水するものである。

東京電力は、1日当たり300m3から350m3の地下水をくみ上げており、原子炉建屋への地下水流入量は、従前(24年1月から26年1月まで)と比較して1日当たり100m3から130m3程度減少した。東京電力は、高温焼却炉建屋の止水工事による効果50m3程度を除いた1日当たり50m3から80m3程度が地下水バイパスの効果であると評価している。

また、東京電力は、サブドレンから地下水をくみ上げ、放射性物質を除去し、関係省庁、漁業関係者等の理解を得た上で港湾内に排出する計画を立てており、26年10月末現在で、当該計画について、漁業関係者等に対して説明を行っている。

図表3-75 地下水バイパス等の概要

図表3-75 地下水バイパス等の概要 画像

b 凍土壁の構築

汚染水処理対策委員会は、25年5月に福島第一原発の汚染水問題の対策をまとめた「地下水の流入抑制のための対策」において、福島第一原発における地下水の流入を抑制するための抜本策の柱として、プラント全体を取り囲む陸側遮水壁を設置すべきであるとし、凍土方式、粘土壁方式及びグラベル連壁方式(砕石による透水性の壁)の施工方法の中から遮水効果、施工性等に優れる凍土方式が適切であると判断した。凍土方式は、鹿島建設株式会社が提案したもので、地盤中に所定の間隔で凍結管を埋設し、これに冷媒を循環させて土中の間隙水を凍結させることにより、凍土による壁を造成するものである(図表3-76参照)。

同委員会は、凍土壁を今回ほど大規模かつ長期(6年程度)にわたって運用した前例は世界になく、多くの技術的課題もあることから、「事業者任せにするのではなく政府としても一歩前に出て、研究開発への支援やその他の制度措置を含めて検討し、その実現を支援すべきである」などとしている。

図表3-76 凍土壁の概念図

図表3-76 凍土壁の概念図 画像

これを受けて、経済産業省は、25年8月に、小規模の凍土壁構築等を通じて凍土方式による遮水技術の成立性の検証を行うために、鹿島建設株式会社に対して、「平成25年度発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備事業(地下水の流入抑制のための凍土方式による遮水技術に関するフィージビリティ・スタディ事業)」の実施を委託費12億余円で委託した。

同事業は、凍土壁の実証試験として位置付けられ、汚染水処理対策委員会の陸側遮水壁タスクフォースの意見を踏まえながら進められており、福島第一原発敷地内で約10m四方の凍土壁が構築され、実際の地盤における凍結性能の確認等が行われている。当初は25年度中に完了予定であったが、期間が延長され、26年7月に土中の間隙水を凍結させる冷凍機の運転を停止し、同年10月末現在で、運転を停止した後の状況を確認するために自然解凍試験を実施中である。

また、凍土壁の実証事業である凍土方式遮水壁大規模整備実証事業は、汚染水処理対策事業費補助金により、上記実証試験の委託事業と並行して進められている。経済産業省が25年9月に凍土方式遮水壁大規模整備実証事業の補助事業者を公募したところ、応募は1件であり、当該応募者である東京電力及び鹿島建設株式会社(共同提案)が補助事業者に決定した。

同補助金の交付決定額319億余円の内訳は、図表3-77のとおりであり、補助事業に要する経費407億余円に対して、補助対象経費が319億余円で、東京電力における補助事業に要する経費88億余円は補助の対象外となっている。なお、東京電力は、同事業の実施に責任を負う幹事会社となっている。

図表3-77 凍土壁の構築に係る補助事業の概要

(単位:百万円)

補助事業者等 実施内容 補助事業
に要する
経費
補助対象
経費
補助金額
東京電力(幹事会社) 事業監理、工事監理 8,878
鹿島建設株式会社 機器調達、設計、施工 31,907 31,907 31,907
40,786 31,907 31,907

凍土壁は、26年6月に着工され、同年10月末現在で、規制委員会から着工が容認された地下に埋設物がない箇所及び山側部分の地下に埋設物がある箇所について、凍結管及び測温管の削孔並びに凍結管の建込みが進められている。そして、海側の地下に埋設物がある箇所について、規制委員会は、前記トレンチの止水状況をみた上で着工の可否を判断するとしている。

凍土壁は、凍結を開始した後、原子炉建屋地下等に滞留している高濃度汚染水の浄化を完了する目標の33年3月末まで維持管理を実施していく予定となっている。

(エ) 汚染水を「漏らさない」ための対策

東京電力は、汚染水を「漏らさない」ための各種対策工事等に計1363億余円を要すると見込んでおり、全額東京電力の負担により実施することとなっている。

そして、汚染水を「漏らさない」ための主な対策には、「海側遮水壁の設置」及び「タンクの増設」がある。なお、当該対策に係る多くの契約については、最終契約金額が未決定となっている。

a 海側遮水壁の設置

東京電力は、鹿島建設株式会社、前田建設工業株式会社及び大成建設株式会社と契約し、福島第一原発の敷地から港湾内に流れ出ている地下水をせき止め、汚染水漏えい時における海洋汚染拡大リスクを低減させるために、図表3-78のとおり、1~4号機の既設護岸の前面に海側遮水壁の設置を進めている。また、これと併せて地下水管理を行うための設備の設置も進めている。

上記の海側遮水壁を設置すると、地下水が既設護岸と海側遮水壁の間に流入することになる。地下水管理は、海側遮水壁と既設護岸との間に地下水ドレンを設置し、地下水ドレン位置での地下水位を平均潮位以下にすることによって、遮水壁の設置後に地下水が海洋へ漏れ出さないようにするために行うものである。

図表3-78 海側遮水壁の概要

図表3-78 海側遮水壁の概要 画像

東京電力は、26年9月末までに、海側遮水壁を構成する鋼管矢板の打設を98%完了しており、既設護岸と海側遮水壁との間の地下水のくみ上げ開始後に海側遮水壁の閉塞を行うこととしている。また、くみ上げた地下水については、関係省庁、漁業関係者等の理解を得た後に、前記のサブドレンからくみ上げた地下水とともに、放射性物質を除去した上で港湾内に排出する計画を立てており、同年10月末現在で、漁業関係者等に対して当該計画の説明を行っている(リンク参照)。

b タンクの増設等

東京電力は、原子炉建屋内の地下等にたまり続けている汚染水をくみ上げ、前記の汚染水処理設備により放射性セシウムを除去するなどした後に、処理水をタンクに貯蔵している。

東京電力は、タンクの増設及びフランジボルト締めタイプのタンクから溶接型タンクへの置換えなどを進め、タンクにおける貯蔵の状況等は、27年1月29日現在で、貯蔵容量767,600m3に対して貯蔵量は599,659m3、貯蔵量を貯蔵容量で除した貯蔵率は約78%となっている(図表3-79参照)。東京電力は、今後もタンクの増設等を進めて、26年度中に総貯蔵容量を約80万m3にする計画としている。

図表3-79タンクにおける貯蔵率の推移

図表3-79タンクにおける貯蔵率の推移 画像

ウ 福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る東京電力の負担等
(ア) 1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用

1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用については、国が財政措置を講じて支援するものを除き、東京電力が負担することになる。このうち、毎年度経常的に発生する費用には、修繕費、委託費、消耗品費、研究開発費等がある。また、東京電力は、原子炉等の冷却や放射性物質の飛散防止等の安全性の確保等に要する費用又は損失について、合理的に見積もることが可能と判断された時点で、貸借対照表の災害損失引当金に計上し、その引当額を災害特別損失として特別損失に計上するなどしている。

a 修繕費、委託費、消耗品費等に計上されている安定化維持費用

東京電力が負担する廃炉・汚染水対策費用のうち、毎年度経常的に発生する修繕費、委託費、消耗品費等に計上される費用(以下「安定化維持費用」という。)は、設備等の保守、消耗品の購入等に要する経費であり、電気料金の原価を算定する基礎となる営業費に算入することが認められている。その内訳は、図表3-80のとおりとなっており、支出額は、24年度293億余円、25年度249億余円、計543億余円となっている。なお、安定化維持費用は、23年12月の「ステップ2」の達成以降、経常的に発生する費用をまとめたものであることなどから、集計は24年度以降となっている。

図表3-80 安定化維持費用の内訳

(単位:百万円)

科目 項目 平成 24年度 25年度
修繕費 第二セシウム吸着装置交換用ベッセル他消耗品 4,304 1,937 6,242
汚染水処理設備等点検保守 2,432 1,357 3,789
原子炉建屋カバー点検 43 0 43
原子炉注水設備修理 33 22 56
その他 2,106 2,556 4,663
8,920 5,875 14,795
委託費 環境改善関係委託 7,719 6,403 14,123
汚染水処理設備等運転保守関係委託 1,132 1,497 2,630
その他 3,601 6,999 10,600
12,453 14,900 27,354
消耗品費等 保護衣、防護具購入等 7,949 4,205 12,154
7,949 4,205 12,154
合計 29,322 24,981 54,304

また、東京電力は、新・総特において、25年度から34年度までの安定化維持費用を計4487億余円と見込んでいる。

b 研究開発費に計上されている費用

廃炉・汚染水対策を進める上で必要となる研究開発費は、23年度1億余円、24年度8億余円、25年度15億余円、計25億余円となっている。

そして、研究開発費の中には、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(以下「IRID」という。)に支払った賦課金11億余円が含まれている。

IRIDは、25年8月1日に、技術研究組合法(昭和36年法律第81号)に基づき、将来の廃炉技術の基盤強化を視野に当面の緊急課題である福島第一原発の廃炉に向けた技術の研究開発を行うために設立された技術研究組合であり、組合員数は、図表3-81のとおり、東京電力を含めて18法人となっている。

図表3-81 IRIDの組合員

区分 法人数 法人名
電力会社等 12 北海道電力株式会社、東北電力株式会社、東京電力、中部電力株式会社、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社、四国電力株式会社、九州電力株式会社、日本原子力発電株式会社、電源開発株式会社、日本原燃株式会社
プラント・メ ーカー等 4 株式会社東芝、日立GEニュークリア・エナジー株式会社、三菱重工業株式会社、株式会社アトックス
独立行政法人 2 JAEA、独立行政法人産業技術総合研究所
18

そして、IRIDは、国が実施する1~4号機等の廃炉・汚染水対策に関する研究開発の委託事業、補助事業及び廃炉・汚染水対策事業において、受託者や補助事業者等になっている(IRIDの受託等の状況については、後掲エ(イ)において記述している(リンク参照)。)。

c 災害特別損失等

東京電力は、26年3月時点で、安定化維持費用及び研究開発費を除いた1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用の総額を計9712億余円と見込んでいる。9712億余円は、貸借対照表の災害損失引当金等に計上し、その引当額を災害特別損失として特別損失に計上するなどした額であり、対価を支払うなどした場合は、災害損失引当金等を取り崩すこととされている。

9712億余円の内訳は、①23年12月の「ステップ2」完了までに要した費用が1823億余円、②中長期ロードマップ対応費用が6031億余円及び③「原子力発電施設解体引当金に関する省令」(平成元年通商産業省令第30号。以下「解体引当金省令」という。)に基づき、核燃料物質による汚染の除去、原子力発電施設の解体、核燃料物質によって汚染された廃棄物の処理等に要する費用(以下「解体費用」という。)として原子力発電施設解体引当金(以下「解体引当金」という。)に積み立てられている1856億余円となっている(図表3-82参照)。

図表3-82 1~4号機の廃炉・汚染水対策に要する費用(安定化維持費用及び研究開発費を除く。)の内訳

(単位:億円)

項目 平成25年度決算までに見込んだ額
①23年 12月の「ステップ 2」完了までに要した費用 1823
  冷却 245
  抑制 1253
  除染・モニタリング 16
  余震対策等 35
  環境改善 70
  共通・その他 201
②中長期ロードマップ対応費用 6031
  プラントの安定状態維持・継続 1332
  発電所全体の放射線量低減・汚染拡大防止 437
  使用済燃料プールからの燃料取出し 1629
  燃料デブリ取出しなどその他の中長期的課題 2632
③解体費用 1856
9712

そして、22年度から25年度までに対価を支払うなどした額は、計3455億余円となっている(図表3-83参照)。

図表3-83 災害損失引当金等のうち対価を支払うなどした額

(単位:億円)

項目 平成
22年度
23年度 24年度 25年度
①23年 12月の「ステップ 2」完了までに要した費用 12 1791 5 2 1812
  冷却 206 32 6 245
  抑制 1291 ▲41 ▲6 1242
  除染・モニタリング 16 0 16
  余震対策等 35 0 35
  環境改善 77 ▲6 ▲0 70
  共通・その他 12 163 22 2 201
②中長期ロードマップ対応費用 204 735 702 1642
  プラントの安定状態維持・継続 75 413 203 693
  発電所全体の放射線量低減・汚染拡大防止 60 6 111 178
  使用済燃料プールからの燃料取出し 68 314 385 768
  燃料デブリ取出しなどその他の中長期的課題 2 2
③解体費用
12 1995 741 705 3455
(注)
対価を支払うなどした額がマイナス(▲)となっている主な理由は、前年度に契約金額が未決定のため概算額にて災害損失引当金を取り崩したものが、翌年度に概算額を下回って契約決定したことなどによる。
(イ) 廃炉に係る会計制度の見直しと福島第一原発の廃炉・汚染水対策に要する費用の財務会計上の取扱い

a 廃炉に係る会計制度の見直しの状況

経済産業省は、廃炉に係る従来の会計制度が、廃炉に必要な財務的な基盤を確保する上で適切なものとなっているかを検証し、必要に応じて見直しを行うために、「廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ」を25年6月に設置した。

同ワーキンググループは、同年9月に、原子力発電において、長期にわたる廃炉作業が着実に行われることが電気の供給を行うための大前提であり、発電と廃炉は一体の事業と見ることができるとの考え方に立って会計処理等を見直すべきであるとの検証等の結果を示した。これを受けて、同省は、電気事業会計規則及び解体引当金省令を改正し、同年10月1日から施行した。

その後、同ワーキンググループは、26年11月から、廃炉に関する計画外の費用が発生する場合に、一括して費用計上するのではなく、その後、一定期間をかけて償却及び費用化を認める会計措置、そのために必要となる手当等について検討している。

(a) 原子力発電所設備の減価償却

電気事業会計規則の改正前は、原子力発電所の運転を終了した場合、原子力発電所設備の残存簿価を一括して費用計上することとなっていた。同規則の改正後は、廃止措置中も引き続き役割を果たす設備(以下「廃止措置資産」という。)と発電のみに使用する設備(以下「発電用資産」という。)に大別し、廃止措置資産については、運転終了後の法定廃止措置期間中も引き続き資産に計上し、毎年度、その減価償却を行うこととされた。

また、23年5月に既に廃止が決定された1~4号機についても、同規則の改正後は、新たに取得した廃炉に必要な設備等を廃止措置資産とすることができることとなった。

そして、電気料金への影響については、廃止措置資産の調達コストや減価償却費は、電気料金の原価を算定する基礎となる事業報酬や営業費に算入することができ、廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループの報告書によれば、運転終了時の残存簿価が特別損失として処理され料金原価に算入されないときと比較して、電気利用者の追加負担の要因になるとされている。

(b) 解体引当金

電力会社は、毎年度、解体費用を、解体引当金省令に基づき、解体引当金に積み立てることとされている。改正前の解体引当金省令によれば、解体引当金の積立ては、発電実績に応じて、生産高比例法により行うこととされていた。しかし、現在のように原子力発電所が長期に稼働を停止している場合、生産高比例法では解体引当金の積立てがほとんど進まないという問題があったため、改正後は、定額法により解体引当金を積み立てることとされた。

また、解体引当金の積立期間について、改正前は、原子力発電所の運転期間である40年とされていたが、改正後は、当該運転期間40年に本格的な解体が開始するまでの安全貯蔵期間10年を加えた期間を原則的な積立期間とすることとされた。

そして、電気料金への影響については、廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループの報告書によれば、運転終了時に解体引当金が十分な額に達しておらず未引当相当額が特別損失として処理され料金原価に算入されなかったときと比較して、電気利用者の追加負担の要因になるとされている。

b 会計制度の見直しによる廃炉・汚染水対策に要する費用の財務会計上の取扱いへの影響

東京電力は、1~4号機において、26年9月までに、新規に取得した汚染水タンクの水位を管理するための水位計等計92億余円を廃止措置資産としている。電気事業会計規則の改正前であれば、備忘価額1円を除いた額を一括して費用計上することなどとなっていたが、同規則の改正により、取得価額を資産に計上するとともに、その後毎年度減価償却費を計上していくこととなった(図表3-84参照)。

図表3-84 1~4号機に係る電気事業会計規則の改正による影響

図表3-84 1~4号機に係る電気事業会計規則の改正による影響 画像

また、東京電力は、25年9月の内閣総理大臣からの要請を受けて、同年12月18日、取締役会において5、6号機の廃炉を決定し、25年度第3四半期決算において、5、6号機の廃炉に係る会計処理を次のとおり行っている。

(a) 5、6号機の残存簿価

5、6号機の25年度第3四半期末の簿価は1485億余円(減価償却前)となっていた。改正前の電気事業会計規則によれば、簿価1485億余円を一括して費用計上することとされていた。しかし、同規則の改正により、廃止措置資産については引き続き資産に計上して、発電用資産については一括して費用計上することとなったことから、東京電力は、簿価1485億余円のうち1288億余円を廃止措置資産として引き続き資産に計上し、発電用資産196億余円を特別損失として費用計上している(図表3-85参照)。

図表3-85 5、6号機に係る電気事業会計規則の改正による影響

図表3-85 5、6号機に係る電気事業会計規則の改正による影響 画像

(b) 解体引当金

5、6号機の25年度第3四半期末における解体引当金の未引当額は、5号機105億余円、6号機161億余円、計267億余円となっていた。改正前の解体引当金省令によれば、未引当額267億余円を一括して費用計上することとされていたが、その改正により、廃止後の安全貯蔵期間にわたり定額法で解体引当金を積み立てることとされたことから、東京電力は25年度第3四半期において、5号機1億余円、6号機2億余円、計4億余円を費用計上している(図表3-86参照)。

図表3-86 5、6号機に係る解体引当金省令の改正による影響

図表3-86 5、6号機に係る解体引当金省令の改正による影響 画像

(c) 5、6号機の廃炉決定に伴う特別損益

25年度第3四半期の5、6号機の廃炉決定に伴う特別損失は、(a)の発電用資産として費用計上した196億余円に、核燃料の損失及び処理費用200億余円等を加算した計398億余円となっていた。一方、東京電力は、既に災害損失引当金として計上されていた5、6号機に係る復旧費用のうち、5、6号機の廃炉決定により発生が見込まれなくなった320億余円を、災害損失引当金戻入額として特別利益に計上している。

エ 廃炉・汚染水対策に対する国の支援等
(ア) 廃炉・汚染水対策に対する国の財政措置

国は、23年原発事故発生後、1~4号機の廃炉・汚染水対策のうち、成果として得られた知見及び技術が将来の原子力施設の廃止措置等にも広く役立つとされる研究開発に係る費用について、財政措置を講じてきている。

そして、上記の財政措置に加えて、25年9月の基本方針において、「技術的難易度が高く、国が前面に立って取り組む必要があるものについて、財政措置を進めていく」こととなったことから、国は、平成25年度一般会計予備費及び平成25年度一般会計補正予算において、凍土壁の構築及び高性能ALPSの設置に係る汚染水処理対策事業費469億余円の財政措置を講じた。また、同年12月の追加対策において、国が前面に立って、「港湾内の海水の浄化技術や土壌中の放射性物質除去技術などの技術的難易度が高いものについては、平成25年度補正予算を活用し、技術の検証等の取組を進めていく」などとなったことから、国は、平成25年度一般会計補正予算において廃炉・汚染水対策事業費214億余円の財政措置を講じた。

これらにより、国は、図表3-87のとおり、23年度以降、1~4号機の廃炉・汚染水対策に関する①研究開発、検証事業等(以下、これらを合わせて「研究開発等」という。)、②研究施設の整備等及び③実証事業に対して、計1892億余円の財政措置を講じている。

図表3-87 廃炉・汚染水対策に対する財政措置

(単位:百万円)

区分 会計名等 事業名等 平成
23年度
24年度 25年度 26年度






一般会計補正予算( 23年度)東日本大震災復興特別会計( 24年度) 電力基盤高度化等対策委託費 発電用原子炉等事故対応関連技術基盤整備委託費 984 1,500 2,484
エネルギー対策特別会計( 25年度) 軽水炉等改良技術確証試験等委託費 発電用原子炉等廃炉・安全技術基盤整備委託費 4,500 4,500


一般会計補正予算( 23年度)東日本大震災復興特別会計( 24年度) 電力基盤高度化等対策事業費補助金 発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金 995 500 1,495
エネルギー対策特別会計( 25年度) 原子力発電関連技術開発費等補助金 発電用原子炉等廃炉・安全技術開発費補助金 4,177 4,177

一般会計補正予算( 25年度、 26年度) 産業技術実用化開発事業費補助金 廃炉・汚染水対策事業 21,494 19,850 41,344
研究施設の整備等 一般会計補正予算( 24年度) 独立行政法人日本原子力研究開発機構出資金 放射性物質研究拠点施設等整備事業 85,000 85,000
一般会計補正予算( 26年度) 産業技術実用化開発事業費補助金 放射性物質研究拠点施設等運営事業 663 663
実証事業 一般会計予備費( 25年度)及び補正予算( 25年度、 26年度) 産業技術実用化開発事業費補助金 汚染水処理対策事業 46,953 2,596 49,550
1,979 87,000 77,124 23,111 189,215
(注)
本図表は、国が財政措置を講じた年度に基づいて整理したものである。これらの財政措置に基づく事業の中には、予算の繰越しや基金の取崩しにより、翌年度以降に実施されるものがある。
(イ) 研究開発等への財政支援

1~4号機の廃炉作業を安全かつ安定的に行うに当たっては、前記のとおり、使用済燃料の取出し、燃料デブリの取出し、放射性廃棄物の処理や処分等の多くの技術課題が存在しており、当該技術課題に対処していくための研究開発等が必要とされている。

研究開発等を進めるに当たっては、国が主導的役割を果たすことが求められており、経済産業省は、「発電用原子炉等事故対応関連技術基盤整備委託費等による委託事業」、「発電用原子炉等事故対応関連技術開発費補助金等による補助事業」及び「廃炉・汚染水対策基金を活用した廃炉・汚染水対策事業」を実施している。

同省は、23年度から25年度までにおいて、委託事業と補助事業により研究開発等を実施していた。研究開発等の成果は、原則として、委託事業では委託者である国に帰属し、補助事業では補助事業者に帰属することとなっている。また、各事業における国の負担割合は、委託事業では全額国が負担するのに対して、補助事業では国の負担は2分の1となっている。そのため、委託事業と補助事業の使い分けに関して、同省は、燃料デブリ性状把握や廃棄物処理・処分等の国がデータや知見を取得すべき事業は委託事業として実施し、遠隔操作機器・装置の開発や実証等の成果が事業実施者の競争力強化等に資する事業は補助事業として実施することとしている。

そして、廃炉・汚染水対策基金が26年3月に造成され、26年度以降は、主として廃炉・汚染水対策事業により研究開発等が進められていくことになっている。廃炉・汚染水対策事業における国の負担割合は、各事業における補助率によって異なり、全額負担のものと2分の1負担のものとがある。

a 委託事業による研究開発等

委託事業における各年度の事業数及び委託費は、図表3-88のとおり、23年度2事業1億余円、24年度2事業6億余円、25年度11事業27億余円、26年度3事業16億余円、計18事業53億余円となっている。

なお、25年度に実施された委託事業の中には、事業期間中にIRIDに引き継がれたものがあるが、当該事業は従前の受託者がIRIDの組合員として実質的に引き続き実施している。

図表3-88 委託事業一覧

(単位:千円)

年度 研究開発等 受託者名 委託費
平成
23年度
事故進展シナリオ把握に資する過酷事故事象解析コード開発(機構論的モデル型) 一般財団法人エネルギー総合工学研究所 110,486
事故進展シナリオ把握に資する過酷事故事象解析コード開発(ユーザーチューニング活用型) 株式会社東芝 2,086
計 2事業 112,573
24年度 過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握 一般財団法人エネルギー総合工学研究所
株式会社東芝
日立GEニュークリア・エナジー株式会社
681,089
燃料デブリ取出し準備の機器・装置開発等に係る技術カタログ拡充のための技術調査 株式会社三菱総合研究所 12,481
計 2事業 693,570
25年度 円筒容器内水位測定のための遠隔基盤技術の開発 株式会社アトックス 136,500
遠隔技術基盤の高度化に向けた遊泳調査ロボットの技術開発 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 319,593
事故廃棄物処理・処分概念構築に係る技術検討調査 JAEA( ※) 775,569
過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握 一般財団法人エネルギー総合工学研究所
株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
JAEA(※)
735,769
燃料デブリ性状把握・処置技術の開発 JAEA(※) 339,140
使用済燃料プールから取り出した燃料集合体他の長期健全性評価 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
401,686
使用済燃料プールから取り出した損傷燃料等の処理方法の検討 JAEA(※) 8,749
汚染水対策の検討のための技術調査 IRID 26,190
燃料デブリ取り出し代替工法の検討のための技術調査 IRID 19,930
放射性物質の分析・研究に係る技術調査 JAEA 26,743
トリチウム水の取扱いに関する調査研究 一般財団法人エネルギー総合工学研究所 7,978
計 11事業 2,797,852
26年度 高所への調査用機器が搬送可能な小型遠隔飛翔体制御技術の開発 国立大学法人千葉大学 215,978
高所狭あい空間調査のための遠隔技術及び環境マップ作成の基盤技術開発 国立大学法人東北大学 205,714
地下水の流入抑制のための凍土方式による遮水技術に関するフィージビリティ・スタディ事業 鹿島建設株式会社 1,278,270
計 3事業 1,699,962
合計 18事業 5,303,959
注(1)
受託者名欄において(※)を付した法人は、平成26年2月27日をもってIRIDに事業を引き継いでいる。
注(2)
「委託費」は、平成23年度から25年度までは支出額であり、26年度は委託事業が終了していないものがあるため、当初契約金額である。

b 補助事業による研究開発等

補助事業における各年度の事業数及び補助金額は、図表3-89のとおり、24年度3事業9億余円、25年度3事業1億余円、26年度7事業36億余円、計13事業48億余円となっている。

補助事業における応募状況についてみたところ、複数の応募があったのは、25年度の「圧力容器内部調査技術の開発」のみとなっており、残りの12事業では応募者数が1者で、当該応募者が補助事業者となっていた。

補助事業者については、24、26両年度における「総合的線量低減計画の策定」の2事業は株式会社アトックス、残りの11事業は株式会社東芝、日立GEニュークリア・エナジー株式会社及び三菱重工業株式会社(共同提案)となっており、特定の者が継続して補助事業者となっていた。

図表3-89 補助事業一覧

(単位:千円)

年度 研究開発等 補助事業者名 補助金額
平成
24年度
遠隔操作機器、装置の開発等 株式会社東芝
日立GEニュークリア・エナジー株式会社
三菱重工業株式会社
818,360
燃料デブリ臨界管理技術の開発 株式会社東芝
日立GEニュークリア・エナジー株式会社
三菱重工業株式会社
65,037
総合的線量低減計画の策定 株式会社アトックス 62,023
計 3事業 945,421
25年度 格納容器内部調査技術の開発 株式会社東芝
日立GEニュークリア・エナジー株式会社
三菱重工業株式会社
120,639
圧力容器内部調査技術の開発 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
34,543
燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
20,978
計 3事業 176,162
26年度 格納容器漏えい箇所特定・補修技術の開発 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
1,632,704
圧力容器/格納容器の健全性評価技術の開発 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
233,008
燃料デブリ臨界管理技術の開発 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
110,586
格納容器内部調査技術の開発 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
610,728
原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発(原子炉建屋1階床面・壁面低所) 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
290,938
原子炉建屋の遠隔除染技術の開発(原子炉建屋1階天井・壁面高所及び原子炉建屋上部階) 株式会社東芝(※)
日立GEニュークリア・エナジー株式会社(※)
三菱重工業株式会社(※)
716,270
総合的線量低減計画の策定 株式会社アトックス 85,000
計 7事業 3,679,237
合計 13事業 4,800,820
注(1)
補助事業者名欄において(※)を付した法人は、平成26年2月27日をもってIRIDに事業を引き継いでいる。なお、26年度の補助事業は、25年度に交付決定され、26年度に繰り越された事業である。
注(2)
「補助金額」は、平成24、25両年度は交付額であり、26年度は額の確定が終了していないものがあるため、交付決定金額である。
注(3)
補助率は全て2分の1である。

c 廃炉・汚染水対策事業による研究開発等

廃炉・汚染水対策事業は、図表3-90のとおり、経済産業省が廃炉・汚染水対策事業費補助金により補助事業者(以下「基金設置法人」という。)に廃炉・汚染水対策基金を造成させ、同基金から廃炉・汚染水対策に資する技術の開発等(以下「基金補助事業」という。)を行う事業者(以下「基金補助事業者」という。)に対して補助金(以下「基金補助金」という。)を交付するものである。そして、基金設置法人は、廃炉・汚染水対策事業実施要領(平成26年2月20140218財資第11号)等に基づき、基金補助事業者に対する基金補助金の交付等の業務を受託事業者(以下「事務局法人」という。)への委託により実施し、事務局法人による事業の実施に関して、基金補助事業の採択に当たって事務局法人から協議を受けたり、事務局法人に必要な報告を求めたり、一定の場合に経済産業大臣の指示を仰いで事務局法人に対して必要な改善を指導したりするなどの指導監督を行うこととなっている。

図表3-90 廃炉・汚染水対策事業の概要

図表3-90 廃炉・汚染水対策事業の概要 画像

経済産業省は、26年1月に廃炉・汚染水対策事業における基金設置法人及び事 務局法人を公募した。なお、基金設置法人については、公募要領において、非営利型法人に該当する一般社団法人、一般財団法人その他の非営利法人に限定している。

(a) 基金設置法人

基金設置法人については1件の応募があり、審査の結果、「特定非営利活動法人地球と未来の環境基金」(EcoFutureFund。以下「EFF」という。)に決定された。EFFは、経済産業省から廃炉・汚染水対策事業費補助金214億余円の交付を受けて、26年3月20日に廃炉・汚染水対策基金を造成した。

会計検査院が、廃炉・汚染水対策基金の造成までの過程について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

基金設置法人の採択については、公募要領において、①基金の管理について、安全性と資金管理の透明性が確保される方法により行うものであるか、②廃炉・汚染水対策事業の指導監督を適切に行えるか、③基金の管理・運用及び廃炉・汚染水対策事業の指導監督を適切に行うために必要かつ適正な事務・管理体制を整えられるかなどの項目を総合的に評価して行うこととなっている。

そして、公募要領の別添として公表された「審査基準及び採点表」において、基金設置法人としての的確性に関する審査基準の一つとして、「組織の本事業に関する専門知識・ノウハウ等(原子力分野に精通しているか。)」が掲げられ、この基準を満たさないものは不合格として、選定対象としない旨が記載されていた。

しかし、EFFは、基金の管理に関する事業の実績はあるものの、原子力分野に関する事業の実績はなかった。さらに、原子力分野に関する専門的知識を有する者は在籍していなかった。

基金設置法人は、前記のとおり、事務局法人による事業の実施に関して指導監督を行うこととなっている。そして、事務局法人に対する委託費や基金補助事業の事業費が適正であるかを確認する上でも、原子力分野に関する専門的知識を有する者を在籍させたり、当該有識者から助言を受けられる体制を整えたりしておく必要がある。

会計検査院としては、廃炉・汚染水対策事業が適切に実施される体制が確保されているかなどについて、引き続き検査していくこととする。

なお、廃炉・汚染水対策基金から支払われる基金設置法人の事務費は、26年2月から廃炉・汚染水対策事業が終了する予定の29年3月までで6932万余円と見込まれている。

(b) 事務局法人

事務局法人については2件の応募があり、審査の結果、株式会社三菱総合研究所に決定された。株式会社三菱総合研究所は、24年度に廃炉作業に関する研究開発の委託事業である「燃料デブリ取出し準備の機器・装置開発等に係る技術カタログ拡充のための技術調査」を実施した実績もあり、原子力分野に関する専門的知識を有する者が在籍しており、基金補助事業に関する公募、審査及び採択、交付決定、確定検査、支払手続等の業務を約30人(うち専任者13人)で実施している。なお、26年2月から27年3月までの基金設置法人の廃炉・汚染水対策基金から事務局法人に支払われる委託費は、委託契約により、8億余円を超えない範囲とされている。

基金補助事業の実施状況をみると、事務局法人である株式会社三菱総合研究所は26年2月から9月までの間に基金補助事業者の公募を9回行っており、また、基金補助事業の内容は①「過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握」等の研究開発、②「海水浄化技術検証事業」等の検証事業、③「トリチウム分離技術検証試験事業」等の検証試験事業及び④「燃料デブリ取出しの代替工法に関する概念検討事業」等の検討事業となっている(図表3-91参照)。

基金補助事業計42事業では、第1次から第9次までの公募を経て、応募者延べ182者の中から42者が採択された。このうち研究開発に関する事業は、第1次、第3次、第4次、第6次、第7次及び第9次公募の計17事業となっており、公募に対する応募者数は、第1次及び第3次の各1事業で2者あった以外は1者のみとなっていた。そして、17事業の基金補助事業者は全てIRID(共同提案の3事業を含む。)となっていた。これは、IRIDが1~4号機の廃炉に向けた研究開発を行うために、東京電力を含めた原子力発電所を保有する電力会社、原子力発電所のプラント・メーカー等が組織した技術研究組合であるため、他に競合相手が少ないことが原因であると考えられる。

したがって、上記のように基金補助事業者の選定において競争原理が働きにくい状況にあることを踏まえた上で、事務局法人においては、事業費が適正であるかを十分に確認する必要がある。

図表3-91 基金補助事業の実施状況

(単位:千円)



採択
基金補助事業の内容





基金補助事業者名 事業終了
予定
補助率 基金補助金
の上限額





平成
26.
3.31
過酷事故解析コードを活用した炉内状況把握 1 1 一般財団法人エネルギー総合工学研究所
IRID(共同提案)
27.3.31 定額 1,000,000
燃料デブリ性状把握・処置技術の開発 1 1 IRID 27.3.31 定額 890,000
使用済燃料プールから取り出した損傷燃料等の処理方法の検討 1 1 IRID 27.3.31 定額 50,000
使用済燃料プールから取り出した燃料集合体他の長期健全性評価 1 1 IRID 27.3.31 定額 600,000
事故廃棄物処理・処分技術の開発 2 1 IRID 27.3.31 定額 900,000





26.
6.17
海水浄化技術検証事業 45 5 三菱重工業株式会社 27.3.31 定額 400,000
IBC Advanced Technologies, Inc. 27.3.31 定額 400,000
株式会社大林組、株式会社バイノス 27.3.31 定額 400,000
株式会社アトックス、 AREVA NC 27.3.31 定額 400,000
日揮株式会社 27.3.31 定額 400,000
土壌中放射性物質捕集技術検証事業 15 2 株式会社アトックス、AREVA NC、SITARemediation 27.3.31 定額 400,000
日揮株式会社 27.3.31 定額 400,000
汚染水貯蔵タンク除染技術検証事業 28 3 株式会社 IHI 27.3.31 定額 400,000
株式会社大林組 27.3.31 定額 400,000
株式会社神戸製鋼所 27.3.31 定額 400,000
無人ボーリング技術検証事業 5 1 株式会社大林組 27.3.31 定額 400,000





26.
6.3
原子炉内燃料デブリ検知技術の開発 2 1 IRID 27.3.31 1/ 2 290,000





26.
6.16
燃料デブリ収納・移送・保管技術の開発 1 1 IRID 27.3.31 1/ 2 80,000







26.
8.19
トリチウム分離技術検証試験事業 29 3 Kurion, Inc. 28.3.31 定額 1,000,000
GE Hitachi Nuclear Energy Canada Inc.注 (1) 28.3.31 定額 1,000,000
Federal State Unitary Enterprise “Radioactive Waste Management Enterprise “RosRAO” 28.3.31 定額 1,000,000

(単位:千円)



採択
基金補助事業の内容





基金補助事業者名 事業終了
予定
補助率 基金補助金
の上限額




6
26.
6.30
燃料デブリ・炉内構造物の取出技術の開発 1 1 IRID 27.3.31 定額 600,000
原子炉圧力容器内部調査技術の開発 1 1 IRID 27.3.31 1/ 2 110,000
圧力容器/格納容器の健全性評価技術の開発 1 1 IRID 28.3.31 1/ 2 700,000




7
26.
6.30
原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の開発 1 1 IRID 28.3.31 1/ 2 2,000,000
原子炉格納容器漏えい箇所の補修・止水技術の実規模試験 1 1 IRID、JAEA(共同提案) 28.3.31 定額 3,700,000




8
26.
9.25
燃料デブリ取出しの代替工法に関する概念検討事業 18 4 株式会社 IHI 27.3.31 定額 50,000
株式会社 AREVA ATOX D&D SOLUTIONS 27.3.31 定額 50,000
CavendishNuclearLimited、株式会社ビージーイー、清水建設株式会社 27.3.31 定額 50,000
公益財団法人原子力バックエンド推進センター、木村化工機株式会社、一般財団法人日本クリーン環境推進機構 27.3.31 定額 50,000
代替工法のための視覚・計測技術の実現可能性検討事業 15 4 株式会社キュー・アイ 27.3.31 定額 50,000
Create TechnologiesLimited、OliverCrispin Robotics Limited 27.3.31 定額 50,000
浜松ホトニクス株式会社 27.3.31 定額 50,000
株式会社フジクラ 27.3.31 定額 50,000
代替工法のための燃料デブリ切削・集塵技術の実現可能性検討事業 8 3 株式会社IHI 27.3.31 定額 50,000
ONET TECHNOLOGIES NUCLEAR DECOMMISSIONING OTND 27.3.31 定額 50,000
大成建設株式会社 27.3.31 定額 50,000




9
26.
9.16
及び
9.17
燃料デブリ臨界管理技術の開発 1 1 IRID 27.3.31 1/ 2 100,000
原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発 1 1 IRID 28.3.31 1/ 2 1,000,000
実デブリ性状分析 1 1 IRID、JAEA(共同提案) 27.3.31 定額 300,000
サプレッションチェンバー等に堆積した放射性物質の非破壊検知技術の開発 1 1 IRID 27.3.31 1/ 2 20,000
原子炉格納容器内部調査技術の開発 1 1 IRID 28.3.31 1/ 2 1,500,000
注(1)
GE Hitachi Nuclear Energy Canada Inc.は、採択後に補助金交付申請を辞退している。
注(2)
本図表は平成27年1月末現在のものである。
(ウ) 廃炉作業に関する研究施設の整備等

福島第一原発の原子炉建屋内等には放射線量が高い場所が存在し、人が容易に近づけない状況にあるため、廃炉作業を進めていくに当たっては、災害ロボット等の遠隔操作機器の活用が必要不可欠であるとされている。

また、福島第一原発の廃炉作業に伴って発生する放射性廃棄物の処理や処分に関しては、放射性廃棄物の性状(放射性核種の種類や物理特性の評価等)の分析や評価、放射性廃棄物保管中の安全性の評価、放射性廃棄物の廃棄体化のための試験(放射性廃棄物を処分できる形態にするための実証試験)、処分の安全性を評価する技術等が必要になるとされている。

そこで、経済産業省は、25年3月に①遠隔操作機器等を開発・実証するための施設及び②放射性物質の分析等を実施するための施設を整備するために、JAEAに850億円を出資した。

(エ) 汚染水対策に関する実証事業

経済産業省は、前記のとおり、①凍土方式遮水壁大規模整備実証事業及び②高性能多核種除去設備整備実証事業に必要な経費について、汚染水処理対策事業費補助金を交付することとした。これらの事業の実施状況は、27年1月末において、図表3-92のとおりであり、補助率は定額で全額国の負担となっており、補助事業者には東京電力が含まれている。

図表3-92 1~4号機の汚染水対策に関する実証事業

(単位:千円)

実証事業 補助事業者 補助金額
凍土方式遮水壁大規模整備実証事業 東京電力
鹿島建設株式会社 31,907,907
31,907,907
高性能多核種除去設備整備実証事業 東京電力 2,000,000
株式会社東芝 1,626,126
日立GEニュークリア・エナジー 株式会社 11,419,653
15,045,780
合計 2事業 46,953,687
注(1)
「補助金額」は、額の確定が終了していないため、交付決定金額である。

会計検査院としては、廃炉・汚染水対策について、多額の補助金等が交付されて実施されていることから、引き続き検査していくこととする。