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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成27年9月

医療費の適正化に向けた取組の実施状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

我が国の国民医療費は、21年度に35兆円を超えて以降、毎年度増加しており、今後の我が国の一層の高齢化の進行等に伴いますます増大することが予想されていて、これに伴い国庫負担もますます増大することが予想されている。

このような状況を踏まえて、厚生労働省は、基本方針及び医療費適正化計画を策定し、医療費適正化のための各種の施策を総合的かつ計画的に推進することにより、医療費の支払に係る国庫負担の増大の抑制を図ることとしている。また、同省は、こうした取組と並行して、従来、レセプトの内容等の審査及び点検を行う審査支払機関及び保険者等に対する指導等を通じ、医療機関等に対する個々の診療報酬等の支払の適正化を図るとともに、医療機関等に対する指導及び監査の実施を通じ、診療報酬等の請求等の総体的な適正化を図ることとしている。

会計検査院は、これらの厚生労働省における医療費の適正化に向けた取組はどのような実施状況となっているか、特に、NDBシステムの運用は構築の所期の目的どおり運用されているか、特に、30年度に予定されている第2期医療費適正化計画の実績に関する評価において、生活習慣病予防対策として実施されている特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、収集・保存されているデータの十分な活用に基づく適切な評価を行うことができる運用状況となっているか、また、審査支払機関及び助成対象保険者等におけるレセプト1次審査及びレセプト2次点検は効率的かつ効果的に行われているか、さらに、医療機関等に対する指導及び監査は指導大綱、監査要綱等に即して適切に実施されているかなどに着眼して検査したところ、次のような状況となっていた。

ア 医療費適正化計画の実施状況等

(ア) 生活習慣病予防対策としての特定健診等の実施状況

第1期医療費適正化計画の期間中の保険者全体における特定健診の実施率は、当該計画の最終年度である24年度の平均で46.2%となっていて、目標の70%以上を相当下回っていた。また、保険者全体における特定保健指導の実施率は、当該計画の最終年度である24年度の平均で16.4%となっていて、目標の45%以上を相当下回っていた。

(イ) 病床転換助成事業の実施状況

病床転換助成事業による転換病床数は、第1期医療費適正化計画期間中の5か年度の合計で3,887床となっていて、病床転換の実施率は、同期間中の転換見込病床数25,500床の15.2%となっていた。また、第2期医療費適正化計画期間中の全都道府県における転換病床数は、25年度では計279床、26年度では計171床にとどまっていて、同事業は全国的にほとんど実施されていない状況となっていた。

(ウ) 第1期医療費適正化計画の実績に関する評価

基本方針では、生活習慣病予防対策が医療費適正化に及ぼす効果が医療費に現れてくるのは第2期医療費適正化計画の期間からとするとされていた。しかし、厚生労働省は、第1期都道府県医療費適正化計画の実績に関する評価に当たり、全都道府県に対して、同省の作成した推計ツールを用いて生活習慣病予防対策として実施されている特定保健指導が医療費適正化に及ぼす効果額を算出するよう通知していた。そして、同省は、第1期全国医療費適正化計画の実績に関する評価において、44都道府県における当該効果額の算出が同省の通知に従い、同省の示した推計ツールに基づいて行われたものであることや、推計ツールの内容等には特段言及することのないまま、メタボ該当者等とそれ以外の者の間には年間平均総医療費の額に約9万円の差があることが判明していることや特定保健指導の費用を踏まえたとした上で、特定健診等の実施による効果として、生活習慣病予防対策の効果を算出している44都道府県の効果額を集計すると約250億円となると公表していた。

しかし、この評価の公表に当たっては、44都道府県における当該効果額の推計は、厚生労働省の通知に基づき、同省の示した推計ツールに基づいて行われたものであること、推計ツールの内容は幾つかの仮定に基づくものであり、特に、特定保健指導の実施の効果額算定のための推計を行うに当たり用いられた9万円については、特定健診を受けたメタボ該当者等の年間平均総医療費に基づいて仮定された額であり、生活習慣病関連疾患に対象疾患を限定して算出されたものではないことなど、当該効果額の推計の前提とされた重要な情報を明示する必要があったと考えられる。

一方、厚生労働省は、入院期間の短縮対策については、平均在院日数の短縮に関する目標等に関する評価を行っており、第1期医療費適正化計画で定めた目標値はおおむね達成されているとしていた。しかし、同省は、平均在院日数の短縮の背景については必ずしも明確ではないとしていた。そして、入院期間の短縮のための療養病床の再編成の施策として実施された病床転換助成事業については、療養病床の機械的削減は行わないこととしたなどとして、同事業が入院期間の短縮又は医療費適正化に及ぼした効果等に関する評価を行っていなかった。

イ NDBシステムの運用状況と生活習慣病予防対策の効果分析について

NDBシステムは、我が国の全保険者等から全ての特定健診等データ及び全てのレセプトデータを収集・保存した上で、これらのデータの十分な突合・分析等を行うことなどを目的として、多額の経費を投じて構築されたものであるのに、多くの保険者の特定健診等データをレセプトデータと突合することができない状況となっていて、システム構築の所期の目的を十分に達成していないと認められた。

そして、このまま推移すれば、30年度に予定されている第2期医療費適正化計画の実績に関する評価において、生活習慣病予防対策として実施された特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、NDBシステムに収集・保存されているデータの十分な突合・分析等により得られる詳細な分析データに基づき適切な評価を行うことは困難であると見込まれる。

ウ レセプトの審査及び点検については、多くの助成対象保険者等において、レセプト2次点検の実施に当たり、レセプト1次審査におけるコンピュータチェックの具体的な審査内容について十分に把握していなかったり、レセプト1次審査における査定の具体的な事由及び再審査で原審どおりとした具体的な理由について十分に把握していなかったりするなどしていて、効率的かつ効果的に行われているとは認められない状況となっていた。

エ 医療機関等に対する指導及び監査のうち指導については、事務所等において、関係者(医療関係団体等)との調整が十分でなかったり、人員不足や他の業務で繁忙で実施体制が十分でなかったりしていたなどとして、「集団的個別指導」及び「個別指導」を指導大綱等に即して適切に実施していないなどの事態が見受けられた。

(2) 所見

厚生労働省において、今後の医療費適正化に向けた各種の取組に当たっては、次のような点に留意する必要がある。

ア 医療費適正化計画については、医療費適正化のための各種の施策を着実に実施するとともに、医療費適正化計画の実績に関する評価を適切に行うこと、特に、全ての保険者等から全ての特定健診等データ及び全てのレセプトデータを収集・保存した上、これらのデータの十分な突合・分析等を行うことを一つの重要な目的として構築されたNDBシステムについては、システムの運用状況を大幅に改善して、30年度に予定されている第2期医療費適正化計画の実績に関する評価に当たっては、生活習慣病予防対策として実施されている特定健診等が医療費適正化に及ぼす効果について、収集・保存されているデータを十分に活用した適切な評価を行うことができるようにするため、データの不突合の原因等を踏まえたシステムの改修等を行うなどの措置を講ずること

イ レセプトの審査及び点検については、レセプトの電子化の進展に伴い、従来、助成対象保険者等がレセプト2次点検で行っていた縦覧点検及び突合点検が審査支払機関によるレセプト1次審査でも行われるようになってきている状況を踏まえて、レセプト1次審査又は再審査における具体的な審査内容、審査結果の理由等を可能な限り明確に助成対象保険者等に伝えることに努めるよう審査支払機関に周知するとともに、当該具体的な審査内容、審査結果の理由等を把握した場合には、レセプト2次点検における点検内容について適宜の見直しを行うなどして、レセプト2次点検を一層効率的かつ効果的に行うよう助成対象保険者等に指導等を行うこと

ウ 医療機関等に対する指導は、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的として実施されるもので、診療報酬等の請求等の適正化を図る上で重要なものであり、また、指導の結果、不正又は著しい不当な事態が疑われる場合には監査を実施することとなるものでもあることなどから、事務所等に対して、医療機関等に対する指導を指導大綱等に即して適切に実施するよう改めて指示するとともに、事務所等における実施体制を一層整備すること

会計検査院は、医療費適正化に向けた取組の実施状況及び今回の検査で明らかとなった問題点等について、引き続き検査していくこととする。