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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成27年9月

土砂災害対策に係る事業の実施状況について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

砂防関係施設について、合規性、効率性、有効性等の観点から、警戒区域等における砂防関係施設の整備状況等はどのようになっているか、土砂災害対策事業が効率的に実施されているか、砂防関係施設の定期点検等は適切に行われているか、既存の土石流対策砂防えん堤について、土石流による被害を軽減させるため、除石が適切に行われるなどしているかなどに着眼して検査を行ったところ、次のような状況となっていた。

ア 砂防関係施設が未整備である特別警戒区域を含む警戒区域の一部等がDIDとなっている警戒区域については、土石流では692区域、急傾斜地の崩壊では6,882区域となっており、また、12年から26年までの間に人的被害が生じた土砂災害発生箇所78か所の中には、過去に土石流が発生したこん跡があるとされているものも見受けられた。

イ 土砂災害対策事業を実施するに当たり、事業採択後に、用地測量や設計業務等を行っているが、砂防関係施設を整備する箇所の用地交渉が未了であるなどの理由で、工事が5年以上未着手となっている事業が砂防事業等の34事業となっていた。また、このうち、特別警戒区域において工事を実施することとしていた事業が15事業となっていた。

ウ 26年度における定期点検の実施状況は、砂防設備では27.7%、地すべり防止施設では29.2%、急傾斜地崩壊防止施設では26.7%となっていた。そして、砂防設備台帳に一部不備があり、砂防設備の位置が確認できないため定期点検又は25年緊急点検が実施されていない事態が見受けられた。

エ 除石管理型砂防えん堤1,157基については、基礎調査が実施済みの615基のうち155基において、非除石管理型砂防えん堤4,114基については、基礎調査が実施済みの1,683基のうち764基において、特別警戒区域が指定されていた。そして、除石管理型砂防えん堤については、警戒区域に多数の人家等が所在しているものもあるが、除石を行う際に必要な管理用道路が整備されておらず、かつ、除石計画において搬出方法が記載されていないものが見受けられた。また、渓流の最下流に整備されている非除石管理型砂防えん堤については、特別警戒区域に多数の人家が所在していたり、警戒区域の一部等がDIDとなっていたりしているものも見受けられた。

(2) 所見

土砂災害対策に係る事業については、明治30年に砂防法が制定されるなどして現在に至るまで実施されてきているが、市街化地域の拡大に伴い、渓流下流部や急傾斜地の直下等、従来人が住んでいなかった地域にも住宅等が立地してきていることなどから、土砂災害が発生した場合には人的被害に結びつく可能性が大きい。

そして、平成26年8月の広島県における土砂災害を契機として、土砂災害防止法の改正が行われ、都道府県は基礎調査をおおむね31年度までの5年間に完了することとされている。

一方、我が国の財政状況は引き続き厳しい状況にあることなどから、警戒区域等において砂防関係施設が整備されていない区域が多数に上っている。

そこで、国土交通省においては、今後、基礎調査が確実に実施されるよう努めるとともに、以下の点について都道府県に助言するなどして、砂防関係施設を効率的に整備し、また、施設が有効に機能するよう維持管理を適切に行い、もって土砂災害が発生した場合に人的被害が軽減等されるよう努める必要がある。

ア 広島県の土砂災害を教訓に、砂防関係施設の整備に当たっては、保全対象に人家が密集している区域があることを十分認識したり、過去に土砂災害が発生した箇所についてできるだけ把握したりした上で、優先順位を検討し、限られた予算の中で効率的に実施すること

イ 土砂災害対策事業を実施するに当たり、砂防関係施設を整備する箇所の地権者等に対して、土砂災害の危険性や事業の重要性等を十分説明し理解を求めることなどにより、事業採択後は速やかに工事に着手し、より効率的に事業を実施すること

ウ 砂防関係施設については、土砂災害を防止又は軽減する機能が長期にわたり維持されるよう26年点検要領等により適切に定期点検を実施すること。また、砂防設備台帳の不備を改善するとともに、一部の砂防設備については、位置を確認して速やかに点検を実施すること

エ 除石管理型砂防えん堤については、必要に応じて除石を行うこととなっていることから、除石が必要となった場合に速やかに除石が行えるよう、管理用道路を含めあらかじめ土砂等の搬出方法を検討しておくこと。また、非除石管理型砂防えん堤も含め、既存の土石流対策砂防えん堤については、警戒区域等の土砂災害のおそれのある地域の安全性向上に効果を発揮しているものの、引き続き全体計画において計画されている砂防えん堤の整備を効率的に進めるなど、土砂災害対策を推進していくこと

会計検査院としては、都道府県がおおむね31年度までの5年間で基礎調査を完了し土砂災害の危険性の高い箇所を把握することとされていることから、基礎調査が適切に実施されて危険性の高い箇所が住民に周知されているか、当該箇所における砂防関係施設の整備や維持管理等が適切に行われているかなどについて引き続き注視していくこととする。