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(2)国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの[17都道府県](72)-(100)


29件 不当と認める国庫補助金 926,441,000円

国民健康保険(「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するために、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付されるもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。

普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない市町村に対して、その不足を公平に補うことを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金等(注1)に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注2)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該市町村の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。

(注1)
後期高齢者支援金等  高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する支援金等
(注2)
介護納付金  介護保険法(平成9年法律第123号)の規定に基づき、各医療保険者が社会保険診療報酬支払基金に納付する納付金

特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付されるもので、結核性疾病及び精神病に係る医療給付費等が多額である場合に交付される交付金(以下「結核・精神病特別交付金」という。)等がある。

財政調整交付金の交付手続については、①交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、②これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上で厚生労働省に提出し、③厚生労働省は、これに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。

本院は、29都道府県の196市区町村において、平成21年度から26年度までの間に交付された財政調整交付金について、会計実地検査を行った。その結果、17都道府県の29市区町において、普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、調整対象収入額を過小に算定したり、特別調整交付金のうち結核・精神病特別交付金等を過大に算定したりするなどしていたため、財政調整交付金の交付額計62,731,986,000円のうち計926,441,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、上記の29市区町において制度の理解が十分でなく事務処理が適切でなかったこと、上記の17都道府県において事業実績報告書等の審査が十分でなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。

ア 普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していた事態

普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分に係る調整対象需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費等の合計額から療養給付費負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。

このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合計額とすることとなっている。

9道府県の12市は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定しており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、交付金計102,114,000円が過大に交付されていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

長崎県壱岐市は、平成24年度から26年度までの間の普通調整交付金の実績報告等に当たり、療養の給付に要する費用の額の一部を二重に計上したため、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算定しており、調整対象需要額を過大に算定していた。

その結果、適正な一般被保険者に係る医療給付費により算定した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、計23,092,000円が過大に交付されていた。

イ 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していた事態

普通調整交付金の調整対象収入額は、医療分、後期分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、それら被保険者の所得を基に算定される応能保険料額との合計額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。

このうち、医療分及び後期分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定することとなっている。そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日現在において一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算定することとなっている。ただし、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額とすることとなっている。

また、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について上記と同様に算定することとなっている。

5府県の5市は、普通調整交付金の実績報告等に当たり、算定基礎所得金額を過小に算定するなどしており、調整対象収入額を過小に算定していた。このため、交付金計261,876,000円が過大に交付されていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

埼玉県上尾市は、平成25、26両年度の普通調整交付金の実績報告等に当たり、同市の電算システムの不具合による誤った出力帳票を基に集計を行ったため、所得限度額超過世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額が過大となり、算定基礎所得金額を過小に算定しており、調整対象収入額を過小に算定していた。

その結果、適正な算定基礎所得金額により算定した調整対象収入額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、計187,443,000円が過大に交付されていた。

ウ 特別調整交付金を過大に算定していた事態

結核・精神病特別交付金は、市町村における一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金相当額等を控除した額のうち結核性疾病及び精神病に係る額(以下「結核・精神病に係る実質保険者負担額」という。)の占める割合(以下「結核・精神病負担額割合」という。)が100分の15を超える場合に交付するものである。このうち、結核・精神病に係る実質保険者負担額は、傷病が結核性疾病又は精神病のみである場合の医療給付費及び結核性疾病又は精神病が主要疾病であると判定された場合の医療給付費を集計するなどして算定することとなっている。

そして、この結核・精神病特別交付金の額は、一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金相当額等を控除した額に、結核・精神病負担額割合から100分の15を控除して得た割合を乗じて得た額の10分の8(24年度以前は10分の9)以内の額とすることとなっている。

4県の8市町は、結核・精神病特別交付金の実績報告等に当たり、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。このため、交付金計464,446,000円が過大に交付されていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

鹿児島県姶良市は、平成22年度から24年度までの間の結核・精神病特別交付金の実績報告等に当たり、結核性疾病又は精神病が主要疾病ではない場合の医療給付費を含めて集計したため、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。

その結果、適正な結核性疾病及び精神病に係る医療給付費に基づいて結核・精神病特別交付金の額を算定すると、結核・精神病負担額割合が100分の15を下回るなどしていて、計274,057,000円が過大に交付されていた。

上記のほか、7都道府県の9市区町は、特別調整交付金の実績報告等に当たり、対象となる一般被保険者数を過大に算定するなどしていた。このため、非自発的失業軽減特別交付金(注3)70,066,000円、非自発的失業財政負担増特別交付金(注4)23,650,000円、財政負担増影響額等特別交付金(注5)4,227,000円、療養担当手当特別交付金(注6)62,000円、計98,005,000円が過大に算定されていた。

(注3)
非自発的失業軽減特別交付金  賦課期日現在における非自発的失業者に係る保険料(税)軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
(注4)
非自発的失業財政負担増特別交付金  賦課期日の翌日以降の非自発的失業者に係る保険料(税)軽減措置による財政負担が多額になっている場合に交付される交付金
(注5)
財政負担増影響額等特別交付金  前年度の財政調整交付金の交付額を過小に申請していたことなどにより国民健康保険の財政負担となる影響額等がある場合に交付される交付金
(注6)
療養担当手当特別交付金  療養担当手当(暖房料加算)に係る額がある場合に交付される交付金

なお、前記の29市区町のうち6市町については事態の態様が重複している。

以上を部局等別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

  部局等 交付先
(保険者)
交付金の種類 年度 交付金交付額 左のうち不当と認める額 摘要
          千円 千円  
(72) 北海道 函館市 普通調整交付金、特別調整交付金(療養担当手当特別交付金) 22~25 9,604,305 14,027 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(73) 帯広市 普通調整交付金 22~25 3,755,680 5,175 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(74) 青森県 青森市 22~25 9,854,744 12,846
(75) 福島県 伊達市 22~25 2,038,944 3,792
(76) 埼玉県 上尾市 25、26 1,695,484 187,443 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(77) 東京都 北区 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 22、24、
25
60,600 3,319 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(78) 石川県 金沢市 普通調整交付金 21~24 8,182,177 21,534 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(79) 七尾市 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 22~25 1,796,197 46,476 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(80) 小松市 特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等) 24 12,184 7,360 非自発的失業による保険税軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたものなど
(81) 羽咋市 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 22~25 598,017 30,776 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(82) かほく市 22~25 795,495 55,940
(83) 山梨県 甲府市 普通調整交付金 24、25 2,236,711 10,148 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(84) 大阪府 岸和田市 23 1,420,770 1,998 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(85) 池田市 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 24 16,757 3,921 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(86) 富田林市 普通調整交付金、特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金) 24、25 1,434,604 56,110 一般被保険者数を過小に算定していたものなど
(87) 箕面市 23~25 900,232 15,855 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたものなど
(88) 大阪狭山市 普通調整交付金 26 270,537 3,670 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(89) 奈良県 橿原市 26 949,624 2,631 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(90) 和歌山県 東牟婁郡那智勝浦町 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金等) 25 200,029 1,986 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたものなど
(91) 東牟婁郡
串本町
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 23~25 668,410 10,739 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(92) 島根県 松江市 普通調整交付金 23~26 3,497,316 5,109 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(93) 岡山県 倉敷市 特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 23~26 33,048 14,469 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの
(94) 瀬戸内市 普通調整交付金 25 251,780 48,270 調整対象収入額を過小に算定していたもの
(95) 愛媛県 新居浜市 22~25 3,309,604 17,866 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(96) 福岡県 朝倉市 普通調整交付金、特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金) 22~24 1,356,255 2,734 調整対象需要額を過大に算定していたものなど
(97) 長崎県 壱岐市 普通調整交付金 24~26 1,362,548 23,092 調整対象需要額を過大に算定していたもの
(98) 大分県 別府市 特別調整交付金(結核・精神病特別交付金) 22~24 3,835,540 40,354 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの
(99) 鹿児島県 伊佐市 23 379,137 4,744
(100) 姶良市 22~24 2,215,257 274,057
(72)―(100)の計 62,731,986 926,441