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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3)生活福祉資金の貸付事業を実施するための保有資金について、判断基準を作成して適切に評価することなどにより、保有資金が適正な規模のものとなるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)地域福祉推進費
部局等
厚生労働本省
補助事業者
25都道府県
補助の根拠
予算補助
補助事業
生活福祉資金の貸付け
補助事業の概要
低所得世帯等の経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図り、安定した生活を送ることができるようにすることを目的として、都道府県社会福祉協議会が低所得世帯等に対して福祉資金、総合支援資金等の資金の貸付けと必要な相談支援を行う事業
保有資金の額が適正な規模を上回っていると認められる都道県数
17都道県
保有資金の額
504億4990万余円
保有資金の額のうち適正な規模を上回っていると認められる額(試算額)
399億3932万余円
上記に係る国庫補助金相当額
272億2787万円

【意見を表示したものの全文】

生活福祉資金貸付事業の実施のために保有されている資金の規模等について

(平成28年10月24日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 生活福祉資金貸付事業の概要

(1) 貸付事業に対する国庫補助金等の概要

貴省は、都道府県の社会福祉協議会(以下「社協」という。)が生活福祉資金貸付事業(以下「貸付事業」という。)を実施するに当たり、都道府県又は政令指定都市(以下「都道府県等」という。)に対してセーフティネット支援対策等事業費補助金を交付している。同補助金は、都道府県等がそれぞれ都道府県の補助金又は政令指定都市の補助金等を各都道府県社協に対して交付する際の財源となるもので、各都道府県社協は、これらを貸付事業の原資としている。

また、貴省は、都道府県が緊急雇用創出事業臨時特例基金(住まい対策拡充等支援事業分。以下「基金」という。)を設置して造成するに当たり、各都道府県に緊急雇用創出事業臨時特例交付金(住まい対策拡充等支援事業分。以下「特例交付金」という。)を交付している。そして、各都道府県は、造成された基金を取り崩して求職中の貧困・困窮者等に対する生活支援等を目的とした特別対策事業(都道府県が行う貸付事業の原資に対する補助金の交付事業を含む。)を実施している(以下、上記の都道府県の補助金及び政令指定都市の補助金等を合わせて「都道府県等補助金」という。)。

セーフティネット支援対策等事業費補助金及び特例交付金(以下、合わせて「国庫補助金等」という。)の交付等の概要については、のとおりとなっている。

図 貸付事業における国庫補助金等の交付等の概要(平成21年度から26年度まで)

図 貸付事業における国庫補助金等の交付等の概要(平成21年度から26年度まで) 画像

(2) 貸付事業の資金の種類等

貸付事業は、生活福祉資金貸付制度要綱(平成21年厚生労働省発社援0728第9号)に基づき、低所得世帯、障害者世帯又は高齢者世帯(以下「低所得世帯等」という。)の経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図り、安定した生活を送ることができるようにすることを目的として、都道府県社協が低所得世帯等に対して資金の貸付けと必要な相談支援を行うものである。

貸付事業については、昭和30年に制度が創設された後、貸付対象の拡大や資金種類の拡充等が行われてきたが、平成21年10月、厳しい雇用経済情勢等に対応するために制度の抜本的な見直しが行われた結果、資金の種類の整理統合、貸付条件の緩和等が行われ、失業者等の世帯に対する資金の貸付け及び継続的な相談支援を一体的に行う総合支援資金が新設されている。26年度末現在の貸付事業の資金の種類等は表1のとおりとなっている。

表1 生活福祉資金の資金種類等(平成26年度末現在)

資金の種類 貸付対象 資金の使途
総合支援資金 貸付けにより自立が見込まれる失業者等の世帯 生活再建までの間に必要な生活費用等
福祉資金 福祉費 低所得世帯、障害者世帯又は高齢者世帯 自立生活に資するなどのために一時的に必要と見込まれる費用
緊急小口資金 緊急かつ一時的に生計の維持が困難となった場合に貸し付ける少額の費用
教育支援資金 低所得世帯に属する者 高等学校、大学又は高等専門学校への就学に必要な経費等
不動産担保型生活資金 一般世帯向け 低所得の高齢者世帯 一定の居住用不動産を担保として貸し付ける生活費
要保護世帯向け 要保護の高齢者世帯

また、上記の資金に対して、厚生労働大臣が特に必要と認めるときは、貸付金の限度額、据置期間、償還期限及び利率について特別の措置(以下、この措置に基づく貸付けを「特例貸付」という。)を講ずることができるとされている。

特例貸付は、主として災害の発生時において、地域や期間を限定して実施されるもので、東日本大震災に際しては、23年3月から24年3月までの間に限り、福祉資金のうち緊急小口資金の貸付けについて、低所得世帯等のほか、被災世帯についても貸付対象として当座の生活費を貸し付ける特別の措置(以下、この措置に基づく貸付けを「緊急小口資金の特例貸付」という。)が講じられている。また、23年5月以降は、福祉資金のうち福祉費について、被災した低所得世帯の生活の復興のために一時的に必要となる経費を生活復興支援資金として貸し付ける特別の措置が講じられている。なお、一部の都道府県に対しては、東日本大震災による被災者を支援するために、緊急小口資金の特例貸付及び生活復興支援資金の原資として国庫補助金が交付されている(以下、原資として当該国庫補助金の交付を受けて行われた緊急小口資金の特例貸付と生活復興支援資金とを合わせて「東日本大震災に係る特例貸付」という。)。

(3) 貸付事業に対する国の指導監督等

貴省は、国庫補助金等の交付に当たり、交付要綱等に基づき、貸付事業を廃止する場合の国庫補助金相当額の返還等を交付条件として付しているが、都道府県社協が貸付事業の原資として保有する資金は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号)第4条第2項に規定する基金には該当しない。このため、貴省は、各年度において都道府県社協に交付された都道府県等補助金の交付額の累計(以下「貸付原資」という。)がどの程度貸付けに充てられているかといった状況等を報告すべきことや貸付事業を廃止する場合以外の国庫補助金相当額の返還については交付条件として付していない。

また、貴省は、各都道府県社協における貸付事業の実施状況等については、都道府県から提出される国庫補助金等の実績報告書や貸付事業の実施状況等調により確認しているが、貸付原資の規模については、それらの報告等に基づく見直しを行っていない。

生活福祉資金(総合支援資金)運営要領(平成21年厚生労働省社援発0728第12号)等によれば、都道府県知事は、都道府県社協等に対し、その業務の実施状況に関し、報告を徴し、又は実施につき調査指導するなど、資金の適正かつ効果的な運営が行われるよう努めることとされている。そして、都道府県社協の会長は、毎会計年度の終了後に貸付事業報告書を作成し、また、各年度の上半期及び下半期ごとに経理状況報告書を作成して都道府県知事に提出し、都道府県知事はその内容を審査し、貸付業務の実施について必要な指導を行うこととされているが、貴省は、審査や指導の具体的内容や方法については示していない。

(4) 21年度以降の国庫補助金等交付額及び貸付事業における貸付実績

貸付原資となる21年度から26年度までにおける47都道府県及び20政令指定都市に対する国庫補助金等の交付額は、セーフティネット支援対策等事業費補助金が計883億4491万余円、特例交付金が計585億7166万余円、合計1469億1657万余円となっている。このうち、セーフティネット支援対策等事業費補助金172億7312万余円は、東日本大震災に係る特例貸付の原資として、23年度に9都県に対して交付されたものである。

一方、47都道府県社協における21年度から26年度までの間の貸付事業における生活福祉資金の貸付実績(貸付決定額)は、表2のとおり、前記の総合支援資金が新設されるなどした制度の改正直後の22年度における455億9789万余円をピークとして、その後は減少しており、26年度における貸付実績額は167億4594万余円(22年度における貸付実績額の36.7%)となっている。

表2 貸付実績の年度推移

(単位:百万円)
資金種類 平成
21年度
22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
福祉資金 福祉費 3,346 3,895 3,133 2,467 2,212 1,966
緊急小口資金 1,325 1,861 10,670 854 695 656
教育支援資金 9,298 9,972 9,399 9,484 9,011 9,514
総合支援資金
(平成21年10月~)
17,866 26,222 10,318 5,111 1,854 1,147
離職者支援資金
(平成13年12月~21年9月)
2,408
不動産担保型生活資金 3,671 3,645 2,962 3,260 3,001 3,462
37,916 45,597 36,484 21,178 16,775 16,745
(22年度との対比) 100.0% 80.0% 46.4% 36.7% 36.7%

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、貸付事業に関する国庫補助金等の交付額は多額に上っている一方で生活福祉資金の貸付実績は減少傾向となっている。

そこで、本院は、有効性等の観点から、都道府県社協において貸付事業のために保有されている資金の状況及び貸付事業の実施状況はどのようになっているか、特に、貸付事業のために保有されている資金の額は貸付事業の実施状況等に照らして適正な規模となっているかなどに着眼して、貴省及び25都道府県(注1)において、実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行った。

(注1)
25都道府県  東京都、北海道、大阪府、岩手、宮城、茨城、群馬、神奈川、新潟、富山、福井、山梨、岐阜、静岡、愛知、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、徳島、香川、福岡、佐賀、長崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 25都道府県社協における貸付事業の実施のために保有されている資金の状況等

25都道府県社協に対して21年度から26年度までの間に交付された都道府県等補助金については表3のとおり、累計で1207億3598万余円(うち国庫補助金相当額1173億5009万円)となっている。

表3 25都道府県社協に対する都道府県等補助金交付額

(単位:百万円)
区分 平成
21年度
22年度 23年度 24年度 25年度 26年度
都道府県等補助金交付額 50,852 24,110 24,406 4,822 2,141 14,401 120,735
  うち基金執行額 23,976 13,906 4,617 1,949 10,028 54,478
うち国庫補助額(セーフティネット支援対策等事業費補助金) 50,819 100 7,874 153 144 3,778 62,872
  下記以外の生活福祉資金の貸付原資(補助率2/3) 42 42
要保護世帯向け不動産担保型生活資金貸付原資(補助率3/4) 99 100 138 153 144 1,721 2,358
激甚災害被災世帯に対する貸付原資(補助率3/4) 7,736 7,736
総合支援資金貸付原資(補助率10/10) 50,720 2,015 52,735
国負担計 50,819 24,076 21,781 4,771 2,093 13,806 117,350

そこで、25都道府県に提出されている25都道府県社協の生活福祉資金会計(注2)の財務諸表等により、25都道府県社協の貸付原資について確認したところ、表4のとおり、26年度末現在で2216億4219万余円となっていて、このうち1072億0642万余円(同年度末現在の貸付原資に対する割合48.4%)については貸付資金として利用されておらず、預貯金又は国債等の有価証券等として保有されていた(以下、貸付資金として貸し出されることなく保有されている資金を「保有資金」という。)。

そして、保有資金の貸付原資に占める割合を25都道府県社協別にみると、26.4%から83.1%までとなっていて、その割合には大きな差が見受けられた。

表4 25都道府県社協における貸付実績額、貸付原資及び保有資金の年度推移

(単位:百万円)
都道府県 平成24年度 25年度 26年度 保有資金の貸付原資に占める割合(26年度)
貸付実績額 貸付原資   貸付実績額 貸付原資   貸付実績額 貸付原資  
うち保有資金 うち保有資金 うち保有資金
北海道 718 12,420 3,183 535 12,408 3,279 450 14,759 5,837 39.5%
岩手県 836 8,210 3,793 831 8,210 3,377 807 8,848 3,567 40.3%
宮城県 138 11,408 6,167 62 11,397 7,381 58 11,564 8,013 69.3%
茨城県 56 3,755 2,226 32 3,755 2,292 45 3,848 2,477 64.4%
群馬県 268 2,745 1,389 221 2,716 1,252 194 2,716 1,144 42.1%
東京都 2,617 31,596 9,932 2,364 31,596 9,096 2,513 32,632 10,003 30.7%
神奈川県 527 13,666 6,810 417 13,786 6,845 344 14,268 7,340 51.4%
新潟県 226 5,526 3,267 141 5,515 3,336 89 5,502 3,438 62.5%
富山県 53 1,473 690 38 1,471 724 36 1,564 853 54.5%
福井県 58 1,527 853 42 1,527 882 34 1,575 969 61.5%
山梨県 22 1,480 1,171 13 1,467 1,186 6 1,463 1,216 83.1%
岐阜県 68 3,156 2,172 69 3,156 2,205 81 3,156 2,214 70.2%
静岡県 304 7,122 3,564 122 7,122 3,713 89 7,185 3,902 54.3%
愛知県 162 8,546 5,214 130 8,640 5,422 101 8,898 5,848 65.7%
大阪府 2,526 35,745 11,929 1,968 37,436 12,971 1,728 43,494 18,637 42.8%
兵庫県 1,043 20,102 10,733 674 20,102 10,594 509 20,101 10,534 52.4%
和歌山県 63 2,147 1,439 69 2,147 1,427 42 2,169 1,514 69.8%
鳥取県 94 1,378 817 87 1,378 774 56 1,378 775 56.2%
岡山県 19 3,226 2,478 18 3,226 2,516 15 3,226 2,555 79.2%
徳島県 55 3,246 1,934 59 3,243 1,986 74 3,943 2,728 69.2%
香川県 51 2,978 1,865 31 2,967 1,916 30 3,000 2,008 66.9%
福岡県 1,314 13,682 4,636 1,134 13,682 4,147 1,077 13,682 3,618 26.4%
佐賀県 7 2,855 2,219 4 2,852 2,278 1 2,843 2,333 82.1%
長崎県 442 5,212 2,031 394 5,211 1,960 351 5,211 1,932 37.1%
鹿児島県 108 4,628 3,683 75 4,625 3,703 79 4,603 3,738 81.2%
11,786 207,839 94,209 9,540 209,647 95,273 8,824 221,642 107,206 48.4%
(注2)
生活福祉資金会計  都道府県等補助金の大部分を占める総合支援資金や緊急小口資金に係る貸付原資を一体として経理している会計単位

(2) 25都道府県社協における貸付事業の実施状況等

25都道府県社協における貸付事業の実施状況についてみたところ、貸付金の支出額(以下「貸付金支出額」という。)は、全体としてはおおむね22年度をピークとして、その後は減少傾向となっており、26年度では88億2407万余円となっていた。

一方、過去の貸付金に対する各年度の返済額(以下「償還金収入額」という。)は、24年度以降ほぼ横ばいとなっており、25都道府県社協のうちの15道県(注3)社協は、25年度以降、償還金収入額が貸付金支出額を上回っている状況となっていた(以下、貸付金支出額と償還金収入額の差額を「貸付収支」という。)。

なお、15道県社協のうち東日本大震災に係る特例貸付を行っている宮城、新潟両県社協については、東日本大震災に係る特例貸付における貸付収支が全体の貸付収支に与える影響が大きいと考えられることから、貸付金支出額及び償還金収入額から東日本大震災に係る特例貸付の影響を除いた貸付収支の状況について確認したところ、両県社協共に償還金収入額が貸付金支出額を上回る状況となっていた。

このように、貸付収支の状況がこのまま推移すれば、15道県社協では、当年度の貸付事業の実施に必要となる貸付資金を当年度の償還金収入額で賄うことができることから、貸付事業の安定的で円滑な実施のために、多額の保有資金を保有し続ける必要性は低いことになる。

(注3)
15道県  北海道、宮城、茨城、新潟、富山、福井、山梨、岐阜、静岡、愛知、岡山、徳島、香川、佐賀、鹿児島各県

(3) 4都県社協における東日本大震災に係る特例貸付の実施状況等

東日本大震災に係る特例貸付を実施していた4都県(注4)社協について、その実施状況をみたところ、表5のとおり、26年度末現在における保有資金の額は73億0541万余円(うち国庫補助金相当額54億7906万余円)となっている。

これは、緊急小口貸付に係る特例貸付が実施されていた23年度をピークとして、その後、新規の貸付実績額が大幅に減少し、26年度の貸付実績は、宮城県社協における生活復興支援資金の356万余円にとどまっている一方で、24年度以降、緊急小口資金の特例貸付の償還金収入額が増大し、その累計が26年度末現在で34億9675万余円に上っていることなどによるものである。

このような状況を踏まえると、今後、4都県社協において、東日本大震災に係る特例貸付の実施のために、多額の保有資金を保有し続ける必要性は低いことになる。

(注4)
4都県 東京都、岩手、宮城、新潟各県

表5 4都県社協における東日本大震災に係る特例貸付の実施状況(平成26年度末現在)

(単位:千円)
都県社協 都県補助額(原資分) 緊急小口資金 生活復興支援資金 保有資金
  うち国費相当 貸付累計 償還累計
(注)
貸付累計 償還累計
(注)
  うち国費相当
A (A×3/4) B C D E F=A―B―D+C+E (F×3/4)
岩手県 1,210,500 907,875 403,050 292,549 53,422 5,978 1,052,555 789,416
宮城県 7,350,000 5,512,500 5,682,222 3,145,907 165,276 26,997 4,675,406 3,506,555
東京都 1,300,719 975,539 49,700 16,568 9,109 1,696 1,260,175 945,131
新潟県 333,950 250,462 57,510 41,731 1,200 307 317,278 237,958
4都県 10,195,169 7,646,376 6,192,482 3,496,755 229,007 34,980 7,305,415 5,479,061
(注)
東京都及び岩手、宮城両県については実施状況等調に基づき作成した。

(4) 貸付事業の運営に必要な保有資金の適正な規模の試算

(2)及び(3)の15道県社協及び4都県社協(宮城、新潟両県社協が重複している。以下、これらを「17都道県(注5)社協」という。)における貸付事業の実施状況、保有資金の状況等を踏まえて、それぞれの17都道県社協における当面の貸付事業の運営に必要と認められる保有資金の額について試算した。

試算に当たっては、東日本大震災に係る特例貸付分を除いた貸付事業の当面の運営に必要な額として、次の①から③までの額の合計額を15道県社協における当面の貸付事業の運営に必要な保有資金の額と仮定した。

  • ① 貸付事業の安定的で円滑な運営に必要な保有資金の額として、直近の26年度における貸付金支出額の実績額
  • ② 急激な社会経済情勢の変化等に対応した緊急的な貸付需要の増大に対応するための原資相当額として、15道県社協における21年度から26年度までの間の各年度の貸付金支出額のうちの最大額
  • ③ 償還免除(注6)額の発生に備える額として、直近の26年度における償還免除額の実績額と、償還免除額の増大に対応するための額として21年度から26年度までの間の各年度の償還免除額の実績額のうちの最大額の合計額

また、4都県社協における東日本大震災に係る特例貸付に関する貸付事業の当面の運営に必要な保有資金の額としては、23年度から32年度までの10年間が復興期間とされていることから、27年度から32年度までの6か年度において、26年度の宮城県社協における東日本大震災に係る特例貸付の貸付額と同額の貸付金支出額が4都県社協の26年度末におけるそれぞれの保有資金の額から連続して支出されると仮定した場合における当該6か年度分の貸付金支出相当額とした。

その結果、15道県社協の貸付事業(東日本大震災に係る特例貸付分を除く。)に必要な保有資金の額は計104億2507万余円、また、4都県社協の東日本大震災に係る特例貸付の事業運営に必要な保有資金の額は計8551万余円となる。

したがって、17都道県社協における26年度末現在の保有資金の計504億4990万余円から上記両試算額の計105億1058万余円を差し引いた399億3932万余円(うち国庫補助金相当額(注7)272億2787万余円)については、当面の貸付事業の安定的で円滑な実施のために引き続き保有し続ける必要性は低いものと認められる。

(注5)
17都道県  東京都、北海道、岩手、宮城、茨城、新潟、富山、福井、山梨、岐阜、静岡、愛知、岡山、徳島、香川、佐賀、鹿児島各県
(注6)
償還免除  死亡その他やむを得ない事由により貸付元利金を償還することができなくなったと認められるときに、貸付元利金の償還未済額の全部又は一部の償還を免除すること
(注7)
国庫補助金相当額の算出に当たって国庫補助率を東日本大震災に係る特例貸付に係る分は4分の3、その他に係る分は3分の2として算出した。

表6 17都道県社協における26年度末の保有資金と貸付事業の当面の運営に必要な保有資金の額(試算額)

(単位:千円)
都道県社協 特例貸付以外分 特例貸付分 差額
保有資金の額 左のうち貸付事業の当面の運営に必要な額 保有資金の額 左のうち貸付事業の当面の運営に必要な額 保有資金の額 左のうち貸付事業の当面の運営に必要な額
A A' B B' C=A+B C'=A'+B' C―C'
1 北海道 5,837,524 2,294,380 5,837,524 2,294,380 3,543,144
2 岩手県 1,052,555 21,378 1,052,555 21,378 1,031,177
3 宮城県 3,338,365 358,166 4,675,406 21,378 8,013,771 379,544 7,634,227
4 茨城県 2,477,716 653,549 2,477,716 653,549 1,824,166
5 東京都 1,260,175 21,378 1,260,175 21,378 1,238,797
6 新潟県 3,121,399 884,174 317,278 21,378 3,438,678 905,552 2,533,125
7 富山県 853,244 302,617 853,244 302,617 550,627
8 福井県 969,222 241,472 969,222 241,472 727,750
9 山梨県 1,216,416 144,979 1,216,416 144,979 1,071,437
10 岐阜県 2,214,547 532,393 2,214,547 532,393 1,682,154
11 静岡県 3,902,878 1,653,033 3,902,878 1,653,033 2,249,844
12 愛知県 5,848,731 1,791,844 5,848,731 1,791,844 4,056,887
13 岡山県 2,555,921 106,386 2,555,921 106,386 2,449,535
14 徳島県 2,728,813 290,832 2,728,813 290,832 2,437,980
15 香川県 2,008,094 679,213 2,008,094 679,213 1,328,880
16 佐賀県 2,333,310 62,527 2,333,310 62,527 2,270,782
17 鹿児島県 3,738,303 429,500 3,738,303 429,500 3,308,803
43,144,491 10,425,071 7,305,415 85,512 50,449,907 10,510,583 39,939,324

このことから、17都道県社協における貸付事業の実施状況や保有資金の状況等を踏まえると、保有資金の額が適正な規模であるとは認められず、都道府県社協における保有資金の規模が貸付事業の実施状況等に照らして適正かどうかについて評価する仕組みが必要であると認められる。

しかし、貴省は、上記の評価を行っておらず、また、都道府県において行った評価についての報告を受けるなどの仕組みはなく、さらに、貴省又は都道府県において適時に適切な評価を行うための判断基準も作成していない。

一方、保有資金の額が適正な規模を上回っていると認められる場合に国庫補助金相当額の一部を返還することについては、現在の国庫補助金の交付要綱等に定めがなく、また、貴省が国庫補助金の交付決定を行うときに交付条件として付すこともしていないため、既に交付した国庫補助金相当額の一部を国庫に返還させることはできない状況となっている。

(改善を必要とする事態)

多くの都道県社協における保有資金の額が貸付事業の運営に必要な額を上回る状況となっているのに、貴省において、保有資金の額が適正な規模となっているかについての評価を行うための判断基準がなく、また、都道府県が、そのような評価を行い又は都道府県からその評価について報告を受ける仕組みがない事態、及び保有資金の額が適正な規模ではないと認められる場合に国庫補助金相当額の一部を国庫に返還させることができない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、都道府県社協における貸付事業の実施の際に保有資金の状況等を十分把握していないこと、その保有資金の額が貸付事業の安定的で円滑な運営に必要な額を上回るものとなっているかどうかについての評価を行う仕組みや判断基準を設ける必要があることについての認識が欠けていることなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

前記のとおり、貸付事業は、低所得世帯等の経済的自立及び生活意欲の助長促進並びに在宅福祉及び社会参加の促進を図るなどのために重要な制度であり、多額の国庫補助金等が交付されてきたもので、今後とも継続して実施されることが見込まれる。

ついては、貴省において、保有資金の額が適正な規模となっているかなどについて適切な評価を行うとともに、保有資金の額が適正な規模を上回っていると認める場合には、国庫補助金相当額の一部について国庫に返還等の措置を講ずることができるよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 保有資金の額について適切な評価を行うための判断基準を作成し、都道府県に周知するとともに、都道府県に対して、各都道府県社協における保有資金の額を十分に把握するための情報を明示するなどした上で、適切な評価を実施させ、貴省に対して評価に係る適時の報告等を行わせるなどの仕組みを整備すること
  • イ 保有資金の額が判断基準に照らして貸付事業の実施状況等からみて適正な規模を上回っていると認められる場合には、国庫補助金相当額の一部について国庫に返還等の措置を講ずることができるように、国庫補助金の交付要綱の改正等を行うとともに、その旨を都道府県に対して周知すること