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  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 農林水産省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5)TMRセンターを整備する事業について、地域の農家、市町村等と連携することの重要性について事業主体に周知したり、計画値等の達成状況の確認、達成されていない場合の原因分析及びこれに基づく改善に向けた指導等を適切に行うよう都道府県等を指導したりすることなどにより、事業効果が十分に発現するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)農業・食品産業強化対策費 等
部局等
農林水産本省、4農政局、沖縄総合事務局
補助等の根拠
予算補助
補助事業者等
事業主体
町1、農業協同組合4、有限会社1、農事組合法人1、計7事業主体
補助事業等
強い農業づくり交付金事業等5事業
補助事業等の概要
農畜産物の高品質・高付加価値化、低コスト化、食品流通の合理化等の地域における生産から流通・消費までの対策を総合的に推進することなどを目的として、完全混合飼料を生産するTMRセンターの整備等を行うもの
目標達成率が50%未満となっていたTMRセンターの数及び事業費
7センター 11億6380万余円(平成11年度~23年度)
上記に対する国庫補助金等交付額
5億2591万円

【改善の処置を要求したものの全文】

強い農業づくり交付金事業等によるTMRセンターの整備に係る事業効果について

(平成28年10月18日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 TMRセンターの整備に係る補助事業等の概要等

(1) TMRセンターの整備に係る補助事業等の概要

貴省は、農畜産物の高品質・高付加価値化、低コスト化、食品流通の合理化等の地域における生産から流通・消費までの対策を総合的に推進することなどを目的として、強い農業づくり交付金事業、畜産担い手育成総合整備事業等の各補助事業等により、完全混合飼料(注1)(Total Mixed Ration。以下「TMR」という。)等の飼料生産の基盤施設であるTMRセンター(以下「センター」という。)の整備を行う地方公共団体、農業協同組合等の事業主体に対して国庫補助金等を交付している。

センターは、TMR等の調製及び供給を行う施設であり、TMRの供給を受ける畜産農家(以下「受益農家」という。)に良質な飼料を供給するとともに、センター、受益農家等が自ら生産する自給飼料のほか、食品の加工工場等で発生する豆腐粕、ジュース粕等の食品残さを原料として作られた家畜の飼料(以下「エコフィード」という。)の活用を通じて、輸入飼料原料に過度に依存した畜産から国内の飼料生産基盤に立脚した畜産への転換を図る上で重要な施設として位置付けられている。そして、センターを整備する事業(以下「センター整備事業」という。)は、強い農業づくり交付金実施要綱(平成17年16生産第8260号農林水産事務次官依命通知)等において飼料自給率向上計画を策定していることなどを採択要件とするなど、飼料自給率の向上を図るための諸施策の一つとして位置付けられている。

(注1)
完全混合飼料  とうもろこしなどの濃厚飼料や牧草等の粗飼料のほか、豆腐粕等の食品残さ、ビタミン剤等の添加物等がバランスよく配合され、牛の発育段階等に応じて必要な全ての栄養素を満たすように設計された牛の飼料

(2) センター整備事業に係る計画値等の設定、目標達成状況についての評価等

各補助事業等の実施要綱等によれば、センターを整備しようとする事業主体は、整備するセンターの利用計画等に係る具体的な数値(以下「計画値」という。)等を設定し、これを記載した事業実施計画を作成して都道府県又は地方農政局等(以下「農政局等」という。)に提出することとされており、都道府県又は農政局等は、提出された事業実施計画について採択要件に適合しているかなどを審査することとされている。事業実施計画においては、一般に、TMRの製造量、センター又は受益農家における飼料自給率等の計画値が設定されている。また、各補助事業等の実施要綱等においては、計画値について、必ずしも目標年度(達成見込み年度等を含む。以下同じ。)を設定することとはなっておらず、その達成状況についての評価等を行うこととはなっていない。

一方、各補助事業等のうち、強い農業づくり交付金等の交付金事業に係る実施要綱等によれば、事業主体は、計画値に加えて、センター又は受益農家における飼料自給率の向上等に資する成果目標及びその目標年度を事業実施計画に記載することとされている。そして、事業主体は、成果目標の達成状況について自ら評価を行い、都道府県は、事業実施計画における成果目標が達成されていない場合には、当該事業主体に対して必要な改善措置を指導し、また、農政局等は、都道府県からの報告を受けて、成果目標の達成度等の評価を行い、必要に応じて都道府県を指導することとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、センター整備事業について、事業実施計画における計画値及び成果目標(以下「計画値等」という。)は達成されているか、計画値等の達成状況の確認、改善に向けた指導等は十分に行われているかなどに着眼して、TMRの製造量、飼料自給率等の計画値等が設定されている事業実施計画(目標年度が平成27年度以降に設定されているものを除く。)に基づき、5年度から24年度までの間に11道県(注2)管内の33事業主体が実施した50センターに係るセンター整備事業計64事業(事業費計177億1297万余円、国庫補助金等交付額計84億6024万余円)を対象として検査した。

検査に当たっては、上記11道県のうち熊本県を除く10道県から計画値等の達成状況等に関する調書を徴してその内容を分析するとともに、貴省本省、上記11道県のうち岩手県を除く10道県及びその管内の25事業主体において、事業実施計画の内容、計画値等の達成状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
11道県  北海道、青森、岩手、長野、静岡、鳥取、長崎、熊本、大分、鹿児島、沖縄各県

(検査の結果)

検査の対象とした50センターについて、計画値等に対する実績値の割合(以下「目標達成率」という。)等を検査したところ、7センター(7事業主体、事業費計11億6380万余円、国庫補助金等交付額計5億2591万円)において次のような事態が見受けられた((1)及び(2)の事態には重複しているものがある。)。

(1) TMRの製造量に係る計画値の達成状況等

上記の50センターについては、いずれも事業実施計画においてTMRの製造量が計画値として設定されている。目標年度(目標年度が設定されていない場合は26年度)におけるTMRの製造量に係る計画値の達成状況をみたところ、21センター(全体の42.0%)は目標を達成していたが、残りの29センター(同58.0%)は目標を達成しておらず、これらが全体の過半を占めていて、このうち目標達成率が50%以上100%未満のものが24センター、50%未満のものが5センター(注3)(5事業主体、事業費計6億5791万余円、国庫補助金等交付額計2億9712万余円)となっていた。

目標を達成していた21センターについて、その要因を道県に確認したところ、地域の農家からTMRの原料となる自給飼料を調達したり、市町村等から技術指導や情報提供を受けたりするなどして、地域の農家、市町村等との連携が円滑に行われたことによるとしているものが13センター(21センターの61.9%)と最も多くなっていた。

一方、目標を達成していなかった29センターについて、その要因を同様に確認したところ、受益農家における牛の増頭が予定どおり進まなかったことなどからTMRの需要が減少したためという外的要因を挙げているものが18センター(29センターの62.1%)と最も多くなっており、地域の農家、市町村等との連携が円滑に行われなかったことを要因として挙げているものは3センター(同10.3%)と少数にとどまっていた。

そこで、目標を達成していなかった上記29センターのうち、目標達成率が50%未満と低調になっていた5センターについて、その具体的な要因を事業主体に更に聴取するなどしたところ、次のとおりとなっていた。

(注3)
5センター  ゆうき青森(事業主体らくのう青森農業協同組合)、ティーエムアール鳥取(同有限会社ティーエムアール鳥取)、八代(同熊本県酪農業協同組合連合会)、徳之島町(同大島郡徳之島町)、伊江(同沖縄県農業協同組合)各TMRセンター

ア TMRの原料となる自給飼料等を全く又は十分に調達できなかったことなどによるもの

5センターのうち4センターは、市町村等からの技術指導を十分に活用するなどしなかったため自給飼料の栽培やTMRの調製・保管に失敗したり、地域の農家等と事前に自給飼料等の提供を受けることについて交渉を行うなどしなかったため自給飼料等を全く又は十分に調達できなかったりしていた。この結果、不足するTMRの原料を地域の農家等以外から自給飼料等よりも割高な金額で購入したためTMRの販売単価が高くなり、需要が減少したことなどから、TMRの製造量を削減したり製造を中止したりしていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

沖縄県農業協同組合は、平成17年度に、強い農業づくり交付金事業により、事業費1897万余円(交付金交付額599万円)で沖縄県国頭郡伊江村に伊江TMRセンターを整備している。同組合は、同センターの事業実施計画において、TMRの製造量を年間2,134tとする計画値(目標年度は設定していない。)及び飼料自給率を16年度の0%から目標年度の19年度に20%まで向上させるとする成果目標を設定していた。

同センターは、TMRの試作段階において自給飼料として牧草の活用を試みたものの、同村や同県から技術指導を受けるなどしなかったため、カビが発生するなどTMRの品質に問題が生じたことなどから自給飼料の活用を断念し、18年7月の本稼働後は輸入飼料のみを原料としてTMRを製造していた。

その後、輸入飼料の価格が高騰し、TMRの販売単価が高くなったことなどから、TMRの製造量の実績は18年度の1,097t(目標達成率51.4%)をピークに減少し、25年4月以降、同センターはTMRの製造を全く行っておらず、26年度におけるTMRの製造量に係る目標達成率は0%となっていた。また、成果目標として設定した飼料自給率の目標達成率も19年度以降0%のままとなっていた。

同県は、20年度に、同組合から成果目標の達成状況に係る評価結果等の報告を受けて、同センターの成果目標が全く達成されていなかったことなどを把握していたものの、同組合に対して改善措置の指導を十分に行っておらず、また、同県から報告を受けた沖縄総合事務局も、同県に対して十分に指導を行っていなかった。

<事例2>

鹿児島県大島郡徳之島町は、平成23年度に、食料自給率向上・産地再生緊急対策交付金事業により、事業費1億7991万余円(交付金交付額7367万余円)で同町に徳之島町TMRセンターを整備している。同町は、同センターの事業実施計画において、TMRの製造量を年間7,428tとする計画値を設定していた(目標年度は設定していない。)。

同センターは、自給飼料としてさとうきびを栽培することとしていたが、栽培技術が未熟であったにもかかわらず、同県から指導を受けるなどしなかったため、十分な量の自給飼料を栽培することができなかった。そして、同県は、26年6月及び27年2月に、同センターに対して近隣地区において生産されたさとうきびをTMRの原料として利用するなどするよう指導を行ったとしているものの、近隣地区のさとうきびの利用等が進まなかったことなどから、原料が不足し、TMRの製造量の実績は26年度で319t(目標達成率4.3%)と低調になっていた。

なお、27年4月の本院の会計実地検査を受けて、同年7月に、同県が同町に対して原料に占めるさとうきびの割合を少なくして牧草の割合を多くするなどするよう指導を行った結果、同センターの27年度におけるTMRの製造量の実績は4,012t(同54.0%)と相当程度の改善がみられた。

イ 受益農家の求める配合割合や栄養分に適合したTMRを製造していなかったことによるもの

アの事態の4センターを除く残りの八代TMRセンター(事業主体熊本県酪農業協同組合連合会)は、受益農家の要望を十分に把握しておらず、受益農家が求めるTMRの原料となる飼料の配合割合や栄養分に適合したTMRを製造していなかったため、TMRの需要が減少したことなどから、TMRの製造量は、年間13,841tとする計画値に対して26年度の実績値が6,069t(目標達成率43.8%)と低調になっていた。

なお、26年12月の本院の会計実地検査に際して、熊本県が事業主体に対してTMRの原料となる飼料の配合割合等の見直しなどについて指導を行った結果、同センターの27年度におけるTMRの製造量の実績値は9,219t(同66.6%)と一定程度の改善がみられた。

(2) 飼料自給率等に係る計画値等の達成状況等

前記50センターのうち13センターについては、事業実施計画において、センター又は受益農家における飼料自給率のほか、飼料自給率の向上に資する自給飼料の増産、エコフィードの利用の拡大等に係る数値が計画値等として設定されている。目標年度(目標年度が設定されていない場合は26年度)における飼料自給率等に係る計画値等の達成状況をみたところ、7センター(13センターの53.8%)は目標を達成していたが、残りの6センター(同46.2%)は目標を達成しておらず、このうち目標達成率が50%以上100%未満のものが3センター、50%未満のものが3センター(注4)(3事業主体、事業費計5億2486万余円、国庫補助金等交付額計2億3477万余円)となっていた。

目標を達成していた7センターについて、その要因を道県に確認したところ、地域の農家からTMRの原料となる自給飼料を調達したり、センターが自ら自給飼料を生産するために地域の農家から農地を借り入れたり、食品加工工場等からエコフィードの提供を受けたりするなどして、TMRの製造に必要な量の自給飼料等を調達できたことなどによるとしていた。

上記のうち、地域の農家から農地を借り入れてセンターが自ら自給飼料を生産していた参考事例を示すと、次のとおりである。

<参考事例>

らくのう青森農業協同組合は、平成17年度に、強い農業づくり交付金事業により、事業費2億6725万余円(交付金交付額1億3362万余円)で青森県上北郡東北町にセンターの施設を整備した上で、貴省の承認を受けて農事組合法人北栄トラクター利用組合に譲渡しており、同法人が北栄TMRセンターの運営を行っている。らくのう青森農業協同組合は、同センターの事業実施計画において、受益農家における飼料自給率を16年度の59.5%から目標年度の19年度に63.9%まで向上させるとする成果目標を設定していた。

同センターは、地域の農家と交渉を行って農地を借り入れ、TMRの原料となるとうもろこし及び牧草を自ら生産して、自給飼料を大量に調達しており、受益農家における飼料自給率は、19年度において65.9%(目標達成率103.1%)となっていた。

一方、目標を達成していなかった6センターのうち、目標達成率が50.0%未満と低調になっていた3センターは、市町村等からの技術指導や情報提供を十分活用するなどしなかったため自給飼料の保管等に失敗したり、食品加工工場等と事前に交渉を行うなどしなかったためエコフィードの提供を受けることができなかったりしていて、自給飼料を十分に調達できなかったことが目標達成率が低調になっている要因となっていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3>

浜名酪農業協同組合は、平成20年度に、強い農業づくり交付金事業により、事業費4億8489万円(交付金交付額2億1878万余円)で静岡県浜松市に浜名酪農業協同組合TMRセンターを整備している。同組合は、同センターの事業実施計画において、自給飼料である青刈りとうもろこしの生産量を年間8,000tとする計画値を設定していた(目標年度は設定していない。)。

同センターは、耕作放棄地を開拓して青刈りとうもろこしを生産することとしていたが、その栽培、保管方法等に関する技術が十分でなかったため、収穫した青刈りとうもろこしの一部が発酵不良によって変質したことなどから、青刈りとうもろこしの26年度における生産量の実績は1,883t(目標達成率23.5%)と低調になっていた。

なお、計画値については達成状況を評価することとなっておらず、同県は、目標達成率が低調になっていたことについての原因分析や改善に向けた指導を行っていなかった。

(注4)
3センター  浜名酪農業協同組合(事業主体浜名酪農業協同組合)、中野固形粗飼料(同農事組合法人中野固形粗飼料)、伊江(同沖縄県農業協同組合)各TMRセンター

(1)及び(2)のとおり、計画値等を達成していたセンターについては、その主な要因として、地域の農家からTMRの原料となる自給飼料を調達したり、市町村等から技術指導や情報提供を受けたりするなどしていたことが挙げられており、計画値等の達成のためには、地域の農家、市町村等との連携を図ることが重要であると考えられるが、TMRの製造量や飼料自給率等に係る目標達成率が低調になっていた7センターについては、このような地域の農家、市町村等との連携が十分に図られていなかった。

(改善を必要とする事態)

センター整備事業により整備されたセンターについて、地域の農家、市町村等との連携が十分に図られておらず、TMRの製造量や飼料自給率等に係る目標達成率が50%未満と低調になっているものがあるなど、事業効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体において地域の農家、市町村等と連携することの重要性についての理解が十分でないことにもよるが、主として次のことによると認められる。

  • ア 県において、地域の農家、市町村等と連携することの重要性について事業主体に周知していないこと及び事業実施計画の審査に当たり地域の農家、市町村等と連携することについての審査が十分でないこと、また、県及び市町村において、センターに十分に技術指導や情報提供を行うなどしてセンターとの円滑な連携を図っていないこと
  • イ 貴省において、計画値等の達成状況の確認、達成されていない場合の原因分析及びこれに基づく改善に向けた指導を十分に行うことについての県及び農政局等に対する指導が十分でないこと

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、畜産農家への良質な飼料の供給を推進するとともに、国内の飼料生産基盤に立脚した畜産への転換を図ることなどを目的として、今後も引き続きセンター整備事業に対する交付金等の交付を実施するとしている。
ついては、貴省において、センター整備事業に係る事業効果が十分に発現するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 都道府県に対して、地域の農家からTMRの原料となる自給飼料を調達したり、市町村等から技術指導や情報提供を受けたりすることなどにより、地域の農家、市町村等と連携することの重要性について事業主体に周知するとともに、事業実施計画の審査に当たってはセンターと地域の農家、市町村等との連携について十分に審査するよう指導すること、また、都道府県及び市町村に対して、センターに十分に技術指導や情報提供を行うなどしてセンターとの円滑な連携を図るよう要請すること
  • イ 都道府県及び農政局等に対して、計画値等の達成状況の確認、達成されていない場合の原因分析及びこれに基づく改善に向けた指導を十分に行うよう指導するとともに、事業主体に対する指導で得られた知見や事業効果が発現しているセンターの取組事例が他のセンターにおいても有効に活用されるよう、事業主体に対して指導を行う際の留意事項や事例集等を取りまとめるなどして周知すること