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  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第10 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(2)農業基盤整備促進事業等の実施に当たり、現場条件等に応じた助成単価の設定を行うなどすることにより、事業が適切に実施されるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)優良農地確保・有効利用対策費 (項)農業生産基盤保全管理等推進費 (項)農業競争力強化基盤整備事業費 (項)北海道開発事業費
部局等
農林水産本省、6農政局
補助の根拠
予算補助
事業主体
県3、市36、町24、村3、土地改良区等212、計278事業主体
補助事業
農業体質強化基盤整備促進事業、農業基盤整備促進事業、農地耕作条件改善事業
補助事業の概要
農業生産基盤に係る課題について、迅速かつきめ細かく対応するために、土地改良区等の事業主体が区画の拡大や暗渠(きょ)排水施設等の整備を実施するもの
請負施工に係る実事業費
420億0612万余円(平成24年度~27年度)
上記に対する国庫補助金額
385億9931万余円
請負施工に係る国の負担割合を2分の1として試算した場合の国庫補助金額との開差額
175億9625万円(平成24年度~27年度)
農業者施工において実事業費が確認できなかった農業者が実施した作業に係る国庫補助金相当額
62億2807万円(背景金額)(平成24年度~27年度)

1 農業基盤整備促進事業等の概要等

(1) 農業基盤整備促進事業等の概要

農林水産省は、国内農業の生産性の向上を図るなどのために、農業生産基盤の整備を推進している。そして、農林水産省は、農地の区画狭小、排水不良等の農業生産基盤に係る課題について、迅速かつきめ細かく対応するために、平成24年2月に農業体質強化基盤整備促進事業を創設し、25年2月にこれを農業基盤整備促進事業に改めて実施しており、27年4月からはこれに加えて農地耕作条件改善事業も実施している。

農林水産省は、交付申請に係る事務負担の軽減を図りつつ、地域の創意工夫を引き出し、農地整備を機動的に進める手法として、定額助成が有効であるとして、農業基盤整備促進事業実施要綱(平成25年24農振第2089号農林水産事務次官依命通知)等(以下「要綱等」という。)に基づき、事業の受益面積等に要綱等であらかじめ定めた単位面積当たりなどの単価(以下「助成単価」という。)を乗じた額を国庫補助金として助成する定額助成を行っている。また、農林水産省は、農業者による施工等も活用しつつ行うことが有効であるなどとしている。このため、都道府県、市町村、土地改良区等の事業主体は、次のような実施形態により、各農地において事業を実施している。

① 事業主体又は事業主体が施工を行わせることとした農業者が、施工の全部を業者に請け負わせて実施するもの(以下「請負施工」という。)

② 事業主体が農業者に施工を行わせることとし農業者が全部の作業を実施したり、事業主体又は事業主体が施工を行わせることとした農業者が、施工の一部を業者に請け負わせ、残りの作業を農業者が実施したりするもの(以下「農業者施工」という。)

(2) 定額助成に係る助成単価の設定等

農林水産省は、「農林水産省土地改良工事積算基準(土木工事)平成23年度」(農林水産省農村振興局整備部設計課監修。以下「積算基準」という。)等により、区画の拡大及び暗渠(きょ)排水施設の整備の事業種類ごとに標準的な作業内容、作業量等を想定して、次のように積算した上で助成単価を設定している。すなわち、農林水産省は、積算基準等に基づき、直接工事費、諸経費等を合計して工事の実施に要する費用(以下「工事費」という。)を積算した上で、農業生産基盤を整備する同種の国庫補助事業における補助率を踏まえ、事業費の2分の1を助成するという考えに基づき、単位面積当たりとして想定した工事費の2分の1に相当する額を基に、次のとおり、助成単価を設定している。

ア 区画拡大

水路の変更を伴わない区画の拡大(以下「区画拡大」という。)について、農林水産省は、①表土のはぎ取り、②畦畔の除去、③基盤土の切り盛り(田面の標高が高い側の基盤土の切取り、田面の標高が低い側への切り取った土の運搬・盛立て)及び基盤の整地、④表土の戻し及び整地等の作業(図1参照)を実施するものと想定し、10a当たりの工事費を239,000円(うち諸経費等101,000円)と積算し、この2分の1に相当する額を基に、10a当たりの助成単価を一律100,000円と設定している。

図1 区画拡大における標準的な作業内容のフロー図

図1 区画拡大における標準的な作業内容のフロー図 画像

イ 暗渠排水

暗渠排水施設の整備(以下「暗渠排水」という。)について、農林水産省は、①表土のはぎ取り、②バックホウによる基盤土の掘削、③吸水管の布設、④表土の戻し及び整地等の作業(図2参照)を実施するものと想定するとともに、吸水管の資材単価を直径50mmから100mmまでの6規格の管径の単価を基に1m当たり490円とするなどして、10a当たりの工事費を313,000円(うち諸経費等133,000円)と積算し、この2分の1に相当する額を基に、10a当たりの助成単価を一律150,000円と設定している。

図2 暗渠排水における標準的な作業内容のフロー図

図2 暗渠排水における標準的な作業内容のフロー図 画像

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性等の観点から、助成単価が適切に設定されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては3県(注1)並びに12道県(注2)管内の63市町村及び212土地改良区等の計278事業主体が実施し、24年度から27年度までの間に完了した区画拡大に係る468事業(事業実施面積計5,700ha、事業費計62億2407万余円、国庫補助金額計56億4311万余円)及び暗渠排水に係る717事業(事業実施面積計31,671ha、事業費計439億0847万余円、国庫補助金額計413億6075万余円)を対象として、農林水産省及び上記の278事業主体において、事業主体が農林水産本省又は6農政局(注3)に提出した実績報告書や契約書等の関係書類、事業主体から徴した調書及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注1)
3県  石川、岐阜、島根各県
(注2)
12道県  北海道、秋田、茨城、埼玉、富山、石川、福井、岐阜、島根、佐賀、長崎、鹿児島各県
(注3)
6農政局  東北、関東、北陸、東海、中国四国、九州各農政局

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 請負施工における実事業費

請負施工の事業費について事業主体において確認したところ、実際に事業に要した経費(以下「実事業費」という。)は、区画拡大に係る381事業(事業実施面積計3,798ha)については計44億1284万余円(国庫補助金額計37億7149万余円)、暗渠排水に係る666事業(事業実施面積計24,031ha)については計375億9328万余円(国庫補助金額計348億2782万余円)、合計420億0612万余円(国庫補助金額合計385億9931万余円)となっていた。そして、10a当たりの実事業費は、区画拡大約116,000円、暗渠排水約156,000円となっており、いずれも農林水産省が助成単価の設定の際に積算した工事費の区画拡大239,000円、暗渠排水313,000円の半分以下となっていた。このため、実事業費に対する国庫補助金額の割合は、区画拡大85%、暗渠排水92%となっており、いずれも農林水産省が助成単価を設定する際に想定していた2分の1を大幅に上回っていた。

そこで、10a当たりの実事業費が助成単価設定の際に積算した工事費を大きく下回っていた原因について、設計図書等の関係書類や前記の事業主体から徴した調書等により、作業内容等を分析したところ、次のことなどによると認められた。

ア 区画拡大における作業内容等

区画拡大について、田面の標高差が小さい平坦地においては、表土のはぎ取り・戻しや基盤土の切り盛りの作業が不要となる場合が多いことから、より経済的に区画拡大を行うことができることになる。そこで、実際の作業内容等をみたところ、作業の実施の有無が確認できた事業の実施面積のうち、50%の面積で表土のはぎ取り・戻しが、56%の面積で基盤土の切り盛りが、それぞれ実施されていなかった。このように、区画拡大は、平坦地において事業の多くが実施されていた。

イ 暗渠排水における作業内容等

前記のとおり、暗渠排水における助成単価の設定に際して、掘削の工法はバックホウによる工法(以下「バックホウ工法」という。)が想定されていた。しかし、積算基準によれば、トレンチャ(注4)による工法(以下「トレンチャ工法」という。)が施工効率が良いなど経済的であるが、砂れき地盤等のためトレンチャ工法が適さないと判断した場合には、バックホウ工法を適用することとされている。そこで、実際の作業内容等をみたところ、掘削方法が確認できた掘削延長のうち66%でトレンチャ工法が採用されていた。また、吸水管の資材単価は、直径50mmや60mmの管が多く採用されていたことから、1m当たり約280円と、想定の490円に比べて安価になっていた。

ア及びイのとおり、多くの事業で想定より経済的に作業が実施されているのに、農林水産省はこの状況を把握していなかった。

そして、前記の区画拡大に係る381事業及び暗渠排水に係る666事業について、実事業費を基に、事業費の2分の1を助成するという農林水産省の考えに基づき国の負担割合を2分の1として、国庫補助金額を試算すると、前記の37億7149万余円及び348億2782万余円は、それぞれ22億0642万余円及び187億9664万余円となり、15億6506万余円、160億3118万余円、計175億9625万余円の開差が生じていた。

(注4)
トレンチャ  走行しながら幅が狭くて深い垂直断面の溝を連続的に掘削する機械

(2) 農業者施工における実事業費

農業者施工の事業費について確認したところ、事業主体は、農業者が実施した作業に係る実事業費を、区画拡大に係る201事業については計16億0442万余円(国庫補助金相当額計15億6731万余円)、暗渠排水に係る155事業については計47億2957万余円(同計46億6076万余円)、合計63億3400万余円(同合計62億2807万余円)としていた。

しかし、実事業費の内訳となる労務費、機械経費、材料費及びその他の経費を事業主体は不明等としていて、確認することができなかったが、助成単価を構成している諸経費等の中には、農業者が施工を行う場合には必要がない交際費、広告宣伝費等の経費が含まれており、請負施工より経済的に実施できていると思料される。

このように、実際の作業内容等が現場条件等により想定と異なっていて、より経済的に作業を実施できる場合があるのに、一律の助成単価で事業が実施されていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、農林水産省において、実際の作業内容等が想定した作業内容等より簡易で経済的に作業を実施できる場合があるのに、現場条件、事業の実施形態等に応じた助成単価を設定していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、28年10月に、要綱等の改正を行うなどして、請負施工については実事業費に定められた補助率を乗じた額を助成する定率助成で行うこととするなどとともに、引き続き定額助成で行うこととした農業者施工については現場条件等に応じた助成単価の設定を行うこととするなどの処置を講じた。