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  • 平成27年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • (1)工事の設計が適切でなかったなどのもの

既設橋りょうの耐震補強工事の設計が適切でなかったもの[4都県](263)-(268)


(6件 不当と認める国庫補助金 113,897,489円)

  部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度 事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(263) 東京都 東京都 防災・安全交付金
(道路)
25、26 107,347 
(73,475)
35,200 41,481 
(41,239)
19,756
(264) 25、26 347,699 
(108,974)
55,000 50,027 
(49,903)
25,186
(265) 25、26 508,025 
(364,929)
148,500 106,074 
(106,074)
43,164
(266) 高知県 高知市 25 28,312 
(28,312)
15,571 28,312 
(28,312)
15,571
(267) 佐賀県 佐賀県 地域自主戦略交付金 24、25 65,485 
(65,485)
32,742 14,834 
(14,834)
7,417
(268) 大分県 大分県 防災・安全交付金
(道路)
25、26 62,377 
(23,222)
15,094 11,577 
(4,310)
2,801
(263)―(268)の計 1,119,247 
(664,399)
302,108 252,305 
(244,672)
113,897

これらの交付金事業は、1都2県1市が、既設の6橋りょうの耐震対策等の一環として、支承を取り替えたり、橋台及び橋脚(以下「橋台等」という。)の橋座部に、橋桁等に作用する橋軸方向及び橋軸直角方向の水平力を分担する構造を設置したり、橋台等と橋桁との間の相対変位が大きくならないように支承部と補完し合って抵抗する変位制限構造を設置したり、橋桁等の移動量が橋桁の端部から橋座部の縁端までの長さを超えないようにする落橋防止構造(以下、水平力を分担する構造、変位制限構造及び落橋防止構造を合わせて「水平力分担構造等」という。)を設置したりなどしたものである。そして、1都2県1市は、水平力分担構造等を設置するために鉄筋コンクリートを打設して橋座部を橋軸方向に拡幅したり、橋座部に新たに台座を設置したりなどして耐震補強工事を実施していた。

1都2県1市は、これらの耐震補強工事の設計を「道路橋示方書・同解説」(社団法人日本道路協会編。以下「示方書」という。)等に基づき行うこととしており、示方書等によれば、水平力分担構造等を設置する橋台等の橋座部は、地震発生時に作用する水平力に対して損傷しないように十分な耐力を有するようにすることなどとされている。また、橋座部が所要の耐力を有していても、地震発生時に作用する水平力等によりアンカーボルト等の前面のコンクリートにひび割れなどの損傷が生じないように、橋座部に埋め込まれた前面側のアンカーボルト等と橋座部の縁端との距離(以下「縁端距離」という。)を所定の計算式により算出した長さ(以下「最小値」という。)以上確保することとされている(参考図参照)。さらに、鉄筋コンクリートについては、外力に対して鉄筋とコンクリートが一体となって働く必要があるため、鉄筋端部のコンクリートとの定着は極めて重要であり、完全に行わなければならないとされており、鉄筋とコンクリートとの付着により定着させる場合には、鉄筋の定着に必要な付着の長さ(以下「定着長」という。)を所定の計算式により算出した長さ以上確保することとされている。

そして、1都2県1市は、本件工事の設計を設計コンサルタントに委託して、その成果品によれば、所要の安全度が確保されるとして、これにより施工していた。

しかし、1都2県1市の6橋りょうにおいて、橋台等の橋座部等が所要の耐力を有していなかったり、縁端距離の最小値以上を確保できていなかったり、台座に配置する鉄筋の定着長が不足していたりなどしている事態が見受けられた。したがって、これらの6橋りょうに設置等した支承、橋座部、水平力分担構造等(工事費相当額計252,305,200円、うち交付対象工事費計244,672,200円)は、設計が適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になっていて、工事の目的を達しておらず、これらに係る交付金相当額計113,897,489円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、1都2県1市において委託した設計業務の成果品に誤りがあったのにこれに対する検査が十分でなかったこと、1都1県において請負人の申請に基づく設計変更に対する検討を十分行っていなかったことなどによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

東京都は、大田区平和島地先において、平成25、26両年度に、都道318号の橋りょう(昭和47年築造。橋長430.0m、幅員22.0m~34.5m、橋台2基及び橋脚13基。14径間)の支承取替工、工場製作工等を実施していた。

このうち、支承取替工は、同橋の橋台1基及び橋脚7基に設置されていたタイプAの支承(注1)計195個(固定支承102個、可動支承93個)がレベル2地震動(注2)による水平力に抵抗することができないことなどから、全てタイプBの支承(注1)に取り替えることとして、タイプAの支承を全て撤去した上で、タイプBの支承を1支承当たり4本のアンカーボルトにより橋台及び橋脚の橋座部に固定していた(参考図参照)。

しかし、都は、支承が設置された橋台等の橋座部の耐力についての検討を行っていなかった。また、本件工事の発注後、請負人が、アンカーボルトの設置予定位置を事前に探査したところ、上記計195個の全てについて、その下部に既存の鉄筋が配置されていることが判明したことから、請負人からアンカーボルトの設置位置を橋座部の縁端側に最大276mm変更することなどについて確認の申請がなされたのに、都は、縁端距離の最小値以上を確保しているかを確認していなかった。

そこで、改めて、支承が設置された橋台等の橋座部の耐力を計算すると、支承4個が設置された橋脚1基の橋座部の耐力は464kNから490kNとなり、地震発生時に橋座部に作用する水平力517kNを下回っていて、設計上安全とされる耐力を有していなかった。また、縁端距離を確認したところ、橋台等の支承計60個の縁端距離は205mmから373mmとなり、最小値331mmから379mmを下回っていて、縁端距離の最小値以上を確保できていなかった。

したがって、上記4個及び計60個の支承のうち、重複分を除く計62個に係る支承取替工(工事費相当額106,074,000円、これに係る交付金相当額43,164,431円)は設計が適切でなかったため、地震発生時において所要の安全度が確保されていない状態になっていた。

(注1)
タイプAの支承・タイプBの支承  「タイプAの支承」とは、橋の供用期間中に発生する確率が高い地震動まで機能を確保できる支承をいい、「タイプBの支承」とは、橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動まで機能を確保できる支承をいう。
(注2)
レベル2地震動  橋の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動をいう。

(参考図)

取替え後の支承の概念図

取替え後の支承の概念図 画像