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  • 平成28年度|
  • 第1章 検査の概要

第1節 検査活動の概況


第1 検査の方針

会計検査院は、平成29年次の検査に当たって、会計検査の基本方針を次のとおり定めた。

平成29年次会計検査の基本方針

(平成28年9月8日策定)

会計検査院は、平成29年次の検査(検査実施期間 28年10月から29年9月まで)に当たって、社会経済の動向等を踏まえつつ、会計検査をより効率的・効果的に行い、会計検査院に課された使命を的確に果たすために、平成29年次会計検査の基本方針を次のとおり定める。

1 会計検査院の使命

会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する憲法上の機関として、次の使命を有している。

会計検査院は、国の収入支出の決算を全て毎年検査するほか、法律に定める会計の検査を行う。

会計検査院は、常時会計検査を行い、会計経理を監督し、その適正を期し、かつ、是正を図るとともに、検査の結果により、国の収入支出の決算を確認する。

会計検査院は、検査報告を作成し、これを内閣に送付する。この検査報告は、国の収入支出の決算とともに国会に提出される。

2 社会経済の動向等と会計検査院をめぐる状況

近年、我が国の社会経済は、本格的な人口減少社会の到来、少子高齢化に伴う社会保障費の増大や、内外経済の構造的な変化、地球環境問題等の難しい課題に直面している。また、東日本大震災(23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。以下同じ。)からの復興が我が国の大きな課題となっており、行政等にはこうした課題への適切な対応が求められている。

一方、我が国の財政をみると、連年の公債発行により公債残高は増加の一途をたどり、28年度末には約838兆円に達すると見込まれており、28年度一般会計予算における公債依存度は約36%、公債償還等に要する国債費の一般会計歳出に占める割合は約24%となっていて、財政の健全化が課題となっている。

このような中で、政府は、32年度までに国・地方を合わせた基礎的財政収支を黒字化するという財政健全化目標の達成に向けて、経済と財政の一体的な再生を目指す28年度以降5年間の「経済・財政再生計画」を定めて、次世代への責任の視点に立って、「デフレ脱却・経済再生」「歳出改革」及び「歳入改革」の3本柱の改革を一体として推進するとしている。

また、国会においては、国会による財政統制を充実し強化する観点から、予算の執行結果を把握して次の予算に反映させることの重要性等が議論されている。

会計検査院は、国会から内閣に対して決算の早期提出が要請されたことも踏まえて、平成15年度決算検査報告から内閣への送付を早期化しており、これにより国会における決算審査の早期化に資するとともに、検査結果の予算への一層の反映が可能となっている。さらに、国会法第105条の規定に基づく会計検査院に対する検査要請に係る検査を着実に実施してその結果を国会に報告しているところであり、また、国会における決算審査の充実に資するために、国会及び内閣に対する随時の報告を毎年行ってきている。

このように財政の健全化が課題となっており、また、予算の執行結果等の厳格な評価・検証、国民への説明責任を果たしていくことなどが重視される中で、上記の検査報告等により、行財政に関して国民への問題提起等を行ってきている会計検査院の役割は一層重要となっており、会計検査機能に対する国民の期待も大きくなっていると考えられる。

3 会計検査の基本方針

会計検査院は、従来、社会経済の動向等を踏まえて国民の期待に応える検査に努めてきたところであるが、以上のような状況の下で今後ともその使命を的確に果たすために、国民の関心の所在に十分留意して、厳正かつ公正な職務の執行に努めるとともに、次に掲げる方針で検査に取り組む。

(1) 重点的な検査

我が国の社会経済の動向や財政の現状を十分踏まえて、主として次に掲げる施策の分野に重点を置いて検査を行う。

  • 社会保障
  • 教育及び科学技術
  • 公共事業
  • 防衛
  • 農林水産業
  • 環境及びエネルギー
  • 経済協力
  • 中小企業
  • 情報通信(IT)

また、複数の府省等により横断的に実施されている施策あるいは複数の府省等に共通又は関連する事項に対して横断的な検査の充実を図るとともに、国民の関心の高い事項等については必要に応じて機動的・弾力的な検査を行うなど適時適切に対応する。

さらに、東日本大震災からの復興に向けた各種の施策については、一定期間に多額の国費が投入されていることなどを踏まえて、各事業等の進捗状況等に応じて適時適切に検査を行う。検査に当たっては、被災地域の状況等に配慮するとともに、各事業等が被災地域における社会経済の再生等に資するものとなっているかなどに留意する。

(2) 多角的な観点からの検査

不正不当な事態に対する検査を行うことはもとより、事務・事業の業績に対する検査を行っていく。そして、必要な場合には、制度そのものの要否も視野に入れて検査を行っていく。

検査を行う際の観点は、次のとおりである。

  • ア 決算の表示が予算執行等の財務の状況を正確に表現しているかという正確性の観点
  • イ 会計経理が予算、法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点
  • ウ 事務・事業の遂行及び予算の執行がより少ない費用で実施できないかという経済性の観点
  • エ 同じ費用でより大きな成果が得られないか、あるいは費用との対比で最大限の成果を得ているかという効率性の観点
  • オ 事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点
  • カ その他会計検査上必要な観点

これらのうち正確性及び合規性の観点からの検査については、なお多くの不適切な事態が見受けられていることを踏まえて、引き続きこれを十分行う。その際には、一部の府省等において不正不当な事態が見受けられたことも踏まえて、特に基本的な会計経理について重点的に検査を行う。また、入札・契約の競争性及び透明性にも十分留意して検査を行う。

経済性、効率性及び有効性の観点からの検査については、近年の厳しい財政状況にも鑑みて、これを重視していく。特に有効性の観点から、事務・事業や予算執行の効果及び国等が保有している資産、補助金等によって造成された基金等の状況について積極的に取り上げるように努めて、その際には、検査対象機関が自ら行う政策評価や効率的・効果的な事務・事業の実施のために政府が行う各種の取組等の状況についても留意して検査を行う。

そして、事務・事業の遂行及び予算の執行に問題がある場合には、原因の究明を徹底して行い、制度そのものの要否も含めて改善の方策について検討する。

このほか、行財政の透明性、説明責任の向上や事業運営の改善に資するなどのために、国の決算等の財政についてその分析や評価を行っていくとともに、特別会計、独立行政法人等については、その財務状況の検査の充実を図る。その際、企業会計の慣行を参考として作成される特別会計財務書類等の公会計に関する情報の活用にも留意する。

(3) 内部統制の状況に対応した取組

検査対象機関における内部統制の状況は、会計経理の適正性の確保等に影響を与えることから、検査に際してはその実効性に十分留意する。また、内部統制が十分機能して会計経理の適正性の確保等が図られるように、必要に応じて内部統制の改善を求めるなど適切な取組を行う。

(4) 検査のフォローアップ

検査において不適切、不合理等とした会計経理の是正やその再発防止が確実に図られるなど、検査の結果が予算の編成・執行や事業運営等に的確に反映され実効あるものとなるように、その後の是正改善等を継続的にフォローアップする。

また、検査報告において指摘した不適切な会計経理に関しては、他の検査対象機関における同種の事態についても是正が図られるように必要な検査を行うなど適切に取り組む。

(5) 国会との連携

検査に当たっては、国会における審議の状況に常に留意する。そして、国会からの検査要請に係る事項の検査に当たっては、国会における審査又は調査に資するものとなるように、要請の趣旨を十分踏まえて必要な調査内容を盛り込むなど的確な検査に努める。また、国会における決算審査の充実に資するために、引き続き国会及び内閣に対する随時の報告を積極的に行うように努める。

(6) 検査能力の向上

社会経済の複雑化とそれに伴う行財政の変化等に対応して、新しい検査手法の開拓を行うなど検査能力の向上を図り、検査を充実させていく。

すなわち、検査手法や検査領域を多様化するための調査研究、専門分野の検査に対応できる人材の育成や民間の実務経験者、専門家等の採用、検査業務のIT化の推進等により、検査対象機関の事務・事業の全般について検査の一層の充実を図る。

4 的確な検査計画の策定

本基本方針に基づき、会計検査をより効率的・効果的に行い、会計検査院に課された使命を果たすために、的確な検査計画を策定して、これにより計画的に検査を行う。

検査計画には、検査対象機関並びに施策及び事務・事業の予算等の規模や内容、内部監査、内部牽(けん)制等の内部統制の状況、過去の検査の状況や結果等を十分勘案して、検査に当たって重点的に取り組むべき事項を検査上の重点項目として設定する。

そして、検査に当たっては、検査の進行状況により、また、国民の関心の所在等にも留意しつつ、検査計画を必要に応じて見直すなど機動的・弾力的に対応して、検査の拡充強化を図る。